2023年10月9日掲載
ワンポイント:日本時間の今夜18:45以降、ノーベル経済学賞の受賞者が発表される。昨2022年は、セントルイス・ワシントン大学・教授のディビッグ(67歳)が受賞した。ところが、ノーベル経済学賞・受賞者と発表された2日後の2022年10月12日(67歳)、中国人女性(元院生)のカレン・シアン(仮名、Karen Xiang)が、ディビッグからセクハラ被害を受けたと社交メディア「WeChat」で告発した。その後、6人以上の人が、10年以上にわたり、セクハラと性的暴行の犠牲になっていたと報道された。セントルイス・ワシントン大学は調査中らしいが黙殺し声明を発表していない。ディビッグはシロなのかクロなのか公式には不明のままである。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig、写真出典)はセントルイス・ワシントン大学/オーリン・ビジネス・スクール(Washington University in St. Louis – Olin Business School)・教授で、2022年に「銀行と金融危機に関する研究(research on banks and financial crises)」で、ノーベル経済学賞を受賞した。専門は経済学で、この分野では著名な学者である。
2022年10月10日(67歳)、ディビッグがノーベル経済学賞の受賞者だと発表された。
その2日後、元院生(中国人女性留学生)のカレン・シアン(仮名、Karen Xiang)が、ディビッグからセクハラ被害を受けたと社交メディア「WeChat」で告発した。
しかし、2022年12月のノーベル賞の授与は混乱なく行なわれた。
ノーベル賞・受賞後、ディビッグの性不正行為は10年に渡って行なわれていることが報道され、性不正被害者は6人以上に増えていた。
性不正行為の内容は、軽薄なメッセージから望まないキスや接触に至るまでの多岐にわたるセクハラと性的暴行だった。
2023年10月8日現在、告発からほぼ1年が経過したが、セントルイス・ワシントン大学は性不正を調査中(調査するかどうか検討中?)だそうだ。大学として公式に何も発表していない。
セントルイス・ワシントン大学もノーベル賞委員会もノーベル賞受賞者の性不正告発にまともに対処できない状況を露呈している。
セントルイス・ワシントン大学/オーリン・ビジネス・スクール(Washington University in St. Louis – Olin Business School)。Photo: Delano R. Franklin。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:イェール大学
- 男女:男性
- 生年月日:1955年5月22日、米国で生まれた
- 現在の年齢:69歳
- 分野:経済学
- 性不正行為:2011?-2022 年(56-67歳)の10年間以上
- 性不正行為時の地位:セントルイス・ワシントン大学・教授
- 発覚年:2023年(68歳)
- 発覚時地位:セントルイス・ワシントン大学・教授。ノーベル経済学賞の受賞者
- ステップ1(発覚):第一次追及者は中国人女性(元院生)のカレン・シアン(仮名、Karen Xiang)で、被害を社交メディア「WeChat」で公表
- ステップ2(メディア):「Student Life」紙など多数のメディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①セントルイス・ワシントン大学が調査中(調査するかどうか検討中?)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中(調査するかどうか検討中?)なので
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし。調査中(調査するかどうか検討中?)なので
- 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:セクハラ、性的暴行
- 被害者数:6人以上の女性院生
- 時期:研究キャリアの後期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Philip H. Dybvig: Curriculum Vitae 、(保存版)
- 生年月日:1955年5月22日、米国で生まれた
- 1976年5月(22歳):米国のインディアナ大学(Indiana University)で学士号取得:数学と物理学の二重専攻
- 1978年12月(23歳):米国のイェール大学(Yale University)で修士号(MA and MPhil)を取得:経済学
- 1979年12月(24歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:経済学
- 1980年1月~1981年6月(24~26歳):プリンストン大学(Princeton University)・経済学部・助教授
- 1981年7月~1984年6月(26~29歳):イェール大学(Yale University)・助教授
- 1984年7月~1986年6月(29~31歳):同大学・準教授
- 1986年7月~1988年12月(31~33歳):同大学・正教授
- 1990年9月~現(35歳~):セントルイス・ワシントン大学/オーリン・ビジネス・スクール(Washington University in St. Louis – Olin Business School)・正教授
- 2010年~2021年(45~56歳):中国四川省成都の西南財経大学(Southwest University of Finance and Economics)・金融研究所・所長(Director of the Institute of Financial Studies)を兼任
- [2017年10月5日:本事件とは異なる事件。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの性不正を「ニューヨーク・タイムズ」新聞が報道。この報道が切っ掛けで「#MeToo」運動が全米に広まる]
- 2022年10月10日(67歳):ノーベル経済学賞・受賞者として発表された
- 2022年10月12日(67歳):性不正行為が告発される
- 2022年12月xx日(67歳):ノーベル経済学賞・受賞式典に参加
- 2023年10月8日(68歳)現在:現職維持。無処分。 → Faculty:Philip H. Dybvig
●3.【動画】
【動画1】
性不正事件の動画ではない。ノーベル賞受賞講演:「Prize lecture: Philip Dybvig, economic sciences prize 2022 – YouTube」(英語)30分15秒。
Nobel Prizeが2023/04/21に公開
●4.【日本語の解説】
★2022年12月20日の著者名不記載(翻訳・編集/川尻)(Record China):中国人元留学生、ノーベル賞受賞者をセクハラで告発―中国メディア
出典 → 保存版
2012年にディビッグ氏が教授を務めるセントルイス・ワシントン大学オーリン・ビジネス・スクールを卒業し、現在は米国内の科学技術企業で働いているという元中国人留学生のカレン・シアンさんが「2011年に最初の新入生イベントで初めてディビッグ氏と会った際、膝の上に乗せられて記念撮影させられた」と主張している。ディビッグ氏は中国語が堪能で中国人女性と会話ができたという。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig)の人生
2022年10月10日(67歳)、フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig、写真出典)はその年のノーベル経済学賞・受賞者と発表された。当然、ディビッグは世界的に著名なトップクラスの経済学者である。
ディブウィッグは若い時から中国文化が好きで、二胡を演奏したり、太極拳気功を学んだりしていた。
2010年~2021年(45~56歳)、中国四川省成都の西南財経大学(Southwest University of Finance and Economics)・金融研究所・所長(Director of the Institute of Financial Studies)も務めた。
セントルイス・ワシントン大学が主務で、夏の間、中国を訪問していたそうだ。もう一年、在職していれば、中国からノーベル経済学賞・受賞者が出たことになったのに。
ディビッグの結婚・離婚、さらに、子供の情報は見つからなかった。それで、性不正事件を起こした時、独身だったのか結婚していたのか不明である。
ただ、ノーベル賞授賞式にはパートナー(partner、実質的な妻?)のリン・ワン(Ling Wang、写真出典、保存版)と一緒に参加している。法的な結婚はしていないようだ。
性不正事件と結婚や家族などの個人生活がどう絡むか不明であるが、関係していると考え、一応、記載している。
★性不正告発
2022年10月10日(67歳)、フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig)がノーベル経済学賞の受賞者だと発表された。
2022年10月12日(67歳)、発表の2日後、セントルイス・ワシントン大学/オーリン・ビジネス・スクール(Washington University in St. Louis – Olin Business School)の中国人女性(元院生)のカレン・シアン(仮名、Karen Xiang)が、ディビッグから性不正被害を受けたと社交メディア「WeChat」で告発した。
ディビッグの弁護士アンドリュー・ミルテンバーグ(Andrew T. Miltenberg)はディビッグの性不正容疑を否定した。
2022年10月21日、テキサスA&M大学の経済学・準教授ジェニファー・ドレアック(Jennifer Doleac、写真出典)は、ディビッグの性不正疑惑についてツイートした。 別のツイートで更なる被害者がいれば連絡して欲しいと書いた。
まず、最初のツイートの英語部分の自動翻訳を示す。
アーミン・フォーク氏とフィリップ・ディブヴィグ氏に対する最近のセクハラ疑惑やそれよりひどい疑惑は、特に経済学の専門家や学界が、そのような行為に対する責任を人々に問う能力が「ゼロ」であることをより広範に実証しているため、極めて憂慮すべきことである。
Recent allegations of sexual harassment and worse against Armin Falk & Philip Dybvig are super troubling, not least because the economics profession & academia more broadly have demonstrated *zero* ability to hold people accountable for such behavior.
— Jennifer Doleac (@jenniferdoleac) October 20, 2022
ドレアック準教授が言及したアーミン・フォーク教授(Armin Falk、写真出典)は、ドイツのボン大学の経済学者で、最近、性不正加害者だと告発されている。
ディビッグに話を戻す。
2022年10月22日、「Yao Lin 林垚」が以下のツイートをした。(保存版)
まず、英語部分の自動翻訳を示す。
フィリップ・ディブヴィグ氏(今年のノーベル経済学賞受賞者の一人)に関するWeChat投稿のコメント欄で、誰かが彼女が彼からセクハラを受けており、彼は中国人の女子学生を食い物にする連続嫌がらせ者であると主張した。上記のコメントのスクリーンショット:
In the comment section under a WeChat post on Philip Dybvig (one of this year’s Nobel Economics laureates), someone alleged that she had been sexually harassed by him, and that he is a serial harasser preying on female Chinese students. Screenshot of said comment: pic.twitter.com/KnIxxcDhEd
— Yao Lin 林垚 (@dikaioslin) October 13, 2022
★大学の対応
ディビッグの性不正について社交メディアと新聞が騒いだが、セントルイス・ワシントン大学はディビッグの性不正疑惑について公式声明を発表していない。
2022年11月、「Student Life」紙がセントルイス・ワシントン大学にコメントを求めた。
マーケティング・コミュニケーション担当副学長のジュリー・フローリー(Julie Flory、写真出典)は「特定の事件や個人についてコメントしたり、情報を共有したりするつもりはありません」と回答してきた。
ただ、「私たちは性不正行為を非常に深刻に受け止めており、大学に告発されたすべての申し立てを調査するつもりです」と付け加えた。
ディビッグ本人は2022年7月1日から2023年6月30日まで、1年間の教職員休暇を取得した。
★ノーベル賞委員会の対応
フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig)が性不正で告発されたのは、ノーベル経済学賞の受賞者を発表した2022年10月10日(67歳)の2日後だった。
となると、ノーベル経済学賞委員会は動転したと思う。
ノーベル経済学賞委員会のトーレ・エリングセン委員長は、「ディビッグが何らかの不正をしたとセントルイス・ワシントン大学が結論していない限り、ノーベル経済学賞委員会としては、彼の偉大な科学的業績を純粋に称賛する義務があると思います」と述べた。
2022年12月10日、ノーベル賞の授与は混乱なく行なわれた。
★ノーベル賞・受賞後
ノーベル賞・受賞後、ディビッグの性不正行為は10年に渡って行なわれていて、性不正被害者は当初2人だったが、6人以上に増えていた。
性不正行為の内容は、軽薄なメッセージから望まないキスや接触に至る多岐にわたるセクハラと性的暴行だったと報道された。 → 2022年12月16日記事(有料なので、白楽は冒頭部分しか読んでいない):Nobel Prize-Winning Economics Professor Philip Dybvig Faces Harassment Inquiry – Bloomberg
2023年2月8日の「Student Life」記事では、セントルイス・ワシントン大学は性不正を調査中(調査するかどうか検討中?)だそうだ。
学部4年生のピーター・ジャキエラ(Peter Jakiela、写真出典)は、「大学が慎重なのは問題ないが、何も発表しないのは問題だ」と、この事件の調査について社会に公表すべきだと述べている。
学部2年生のオーウェン・ライス(Owen Rice)は、「大学が調査を秘密にしておく理由があるのなら…あるいは一般に公開したくない情報があるのなら、公表しないのは仕方ないと思います。しかし、これは大きなニュースなので、何らかの声明を発表すべきです」と述べた。
2023年10月8日現在、ディビッグは1年間の教職員休暇が終わって3か月経過した。通常勤務に戻っているはずだが、セントルイス・ワシントン大学はその後、正不正に関しては何も発表していない。
●【セクハラの具体例】
セクハラの具体例は、以下の記事が主な出典である。
→ 2022年11月17日のジュリア・ロビンス(Julia Robbins)記者の「Student Life」記事:Philip Dybvig, Professor and Nobel Prize winner, accused of inappropriate conduct – Student Life
★カレン・シアン(仮名、Karen Xiang、中国人留学生、女性)
カレン・シアンは中国で生まれ育ち、中国で学士号を取得し、2011年にセントルイス・ワシントン大学/オーリン・ビジネス・スクール(Washington University in St. Louis – Olin Business School)で修士号を取得するために渡米した。
カレン・シアンは、大学院プログラムが始まったばかりの頃だった。オーリン・ビジネス・スクールが新入生歓迎パーティーを開催したバーで初めてディビッグに会った。
バーでディビッグが中国語で話してくれたので、カレン・シアンは驚き、そして、とても嬉しかった。
バーの誰かが「一緒に写真を撮ろう」と言った時、ディビッグがカレン・シアンを掴んで、膝の上に座るように指示した。それで、ディビッグの膝の上に座った写真を撮ってもらった。
「その瞬間、私は少し奇妙に思ったが、彼は単にフレンドリーに振舞っただけだと思ったので、あまり気にしませんでした」とカレン・シアンは述べている。「アメリカ人ってそういうものなのかもしれない、と思ったのです」と付け加えている。
カレン・シアンは、その写真を保存しておくのが不快になったので、その後、写真を削除した。
その後、しばらくして、ディビッグから、出張から帰ってきたけど、彼女への贈り物を持ってきたので、オフィスに来てほしいというメールを、カレン・シアンは受け取った。
彼女がディビッグのオフィスに行くと、彼はドアを閉めて彼女にソファに座るように促した。すると、ディビッグはカレン・シアンの隣に座って、お土産のチョコレートの箱を彼女に差し出した。
「私はまだ彼がフレンドリーだと感じていたので、嬉しくて受け入れました。しかし、その後、彼は私の手に触れ、『あなたは本当にきれいだ、私はあなたのことが本当に好きです』と言い始めました」。
一緒にソファに座っている間、ディビッグに手を握られた。
「本当に帰りたかったけど、どうすればいいのかわからず、少なくとも彼と一定の距離を保つことができるように、授業で習ったばかりの経済公式について説明し始めるように頼みました」と、カレン・シアン。
ディビッグは立ち上がってホワイトボードに数式を書き、それから戻ってきてカレン・シアンの隣のソファに座った。その時、オーリン・ビジネス・スクールの別の教授Aが部屋に入ってきた。
教授Aは、ディビッグのオフィスでドアを閉めた状態でディビッグの隣に座っているカレン・シアンを見て、教授Aの顔はぎこちなく、少しショックを受けたようだった。
教授Aは去っていき、カレン・シアンもすぐにオフィスを去った。
その日遅く、カレン・シアンはクラスメート3人に偶然会って、ディビッグから性不正の被害を受けたことを話した。
なお、「Student Life」紙が要請したが、カレン・シアンは、その3人のクラスメートの名前や連絡先を教えてくれなかった。
カレン・シアンは、オフィスでディビッグに会った後、ディビッグから会いたいというメールを何度も受け取ったが、とても不快に感じた。
その頃には、ディビッグからのメールは単なるフレンドリーな関係を維持するメールではない、とカレン・シアンは理解していた。
これらの電子メールは不快だったので、カレン・シアンは、メールをすべて削除した。
カレン・シアンは2012年に卒業した。
数年後、ディビッグから「笑顔が恋しい、今でも本当に好きで、できれば会いたい」というメールを、カレン・シアンは受け取った。しかし、とても不快だったので、彼のメッセージを削除した。
カレン・シアンは大学からの報復を心配し、ディビッグの性不正行為を在学時代には、大学に告発しなかった。
中国人留学生はトラブルを起こさないように努めている。トラブルを起こしたら退学になる可能性があるからだ。そうなると、中国に帰国しなければならない。それでは留学が台無しになってしまう。
★匿名Y(中国人留学生、女性)
匿名Yは、別の大学のロースクールの院生(中国人女性・留学生)である。
匿名Yは、ディビッグとのやりとりが不快になったと名乗り出た。
2019年に友人のオーリンの卒業式でディビッグと一緒に写真を撮った。
彼女が 「Student Life」紙 に送ってきた写真では、ディビッグの左手が匿名Yの腰に巻き付けられていたが、男性との同様の写真では彼の左手はそうしていない。
「とても乱暴な態度で腰に手が巻き付けられ、彼が私の腰を彼に近づけたので、とても不快で痛かったです」と匿名Yは述べている。
匿名Yは、今後彼と関わる必要があるかもしれない状況を避けたと述べた。
その日遅く、彼女は父親に、アメリカ人男性が女の子と写真を撮るとき、どのように自分を取り繕うのかを尋ねた。その会話では、彼女は父親に写真を見せなかったし、何が不快に感じたかを詳しく話さなかった。
匿名Yは、ディビッグがノーベル賞を受賞した後、父親にその写真を見せたところ、「これは明らかに普通のやり方ではない」と言われた。それで、彼女は「自分の話を公開することに決めた」。
「これまでは、私が考えすぎていたかどうかはわかりませんでしたが、今では彼が本当に失礼だったと感じています」と彼女は述べた。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》黙殺
当初、被害女性(院生)は2人で、被害があった時、大学に告発していなかった。
ディビッグがノーベル賞受賞者として発表された2日後に、社交メディアで告発した。
しかも、被害女性のカレン・シアンは、証拠となる写真もメールも全部削除していた。
匿名Yの写真も微妙である。
つまり、「明確な」証拠は残っていない。
となると、女性の発言を信じるか(信じられるか)・信じないか(信じられないか)の問題になると、白楽は思った。
ただ、その後、ディビッグの性不正行為は10年に渡って行なわれていて、性不正被害者が6人以上に増えた。性不正行為の内容は、軽薄なメッセージから望まないキスや接触に至る多岐にわたるセクハラと性的暴行だったと報道された。
こうなると、ディビッグの性不正行為はほぼ確実で、ディビッグはアウトだと思う。
ところが、ディビッグもセントルイス・ワシントン大学も性不正事件を黙殺している。
どうしてこんな不誠実な対応をするのかわからないが、①事件を甘く見ている、②中国人をバカにしている、③どうしていいのかわからない、のどれかで、多分、③、だろう。
セントルイス・ワシントン大学はノーベル賞受賞者の事件なので、対処に慎重なのだろうが、もっと透明性を高めるべきだ。
告発した2人の女性は、告発が危険だから仮名・匿名で行なっているが、ディビッグは2人の女性が誰だかハッキリわかっているに違いない。だから、かなりのダメージを覚悟して告発している。そして、告発したことにより個人的メリットはほぼゼロである。
セントルイス・ワシントン大学はチャント調査すべきである。
《2》中国
ディブウィッグは、セントルイス・ワシントン大学が主務で、2010年~2021年(45~56歳)の夏の間、、中国四川省成都の西南財経大学(Southwest University of Finance and Economics)・金融研究所・所長(Director of the Institute of Financial Studies)も務めた。
もう一年、西南財経大学に在職していれば、中国からノーベル経済学賞・受賞者が出たことになったか?
イヤイヤ、それはない。
ノーベル賞委員会は、政治的に振舞うことで組織の力を強めてきた。2022年10月当時、欧米先進国の主流は中国排除である。ディビッグが中国の西南財経大学に在職していたら、ディビッグに授与しなかっただろう。
なお、逆に、万が一、中国の西南財経大学に在職している間にディビッグが受賞したら、中国政府は、中国人元院生の性不正告発を、即、削除しただろう。つまり、揉み科しただろう。
《3》賞の権威・威信
ノーベル賞を含め、各賞の授賞団体は、性不正者に賞を授与しない。授与した賞は取り消すなどの規則を導入すべきである。
「科学的業績を純粋に称賛する」のが賞の目的でも、人間的に軽蔑されるような人、社会の尊敬が得られない人、ことによると、犯罪者かもしれない人、に賞を授与したくないだろう。
そうしないと、賞の権威・威信は地に落ちる。賞の意図が生かされない。
《4》メディアは姿勢を変えるべき
今回の、白楽ブログの「2023年版のノーベル賞受賞者・候補者の研究上の問題行為(含・疑惑)」シリーズを終える。
繰り返しになるが、以下のことを指摘しておく。
1つ目。日本社会がノーベル賞受賞者を人格高潔で万能な超人扱いするのは、極めて異常である。
科学的業績と人格は別次元の話である。
これは、メディアが「ノーベル賞受賞者を人格高潔で万能な超人」という姿勢で報道するという大きな間違いを長年続けているためである。全くメディアの責任である。
メディアが伝えるべきはノーベル賞受賞者の受賞内容をかみ砕いて紹介することだが、各社の記者にはその能力がないので、できない。それなら、専門家に依頼して、記事を掲載することだ。
2つ目。日本のメディアは、ノーベル賞受賞者は研究成果だけでなく研究倫理も優れているようなイメージを国民に与えている。
科学的業績と規範的言動は基本的には全く別である。
ノーベル賞は研究者の倫理や人間性を評価しているわけではない。
もちろん、ノーベル賞受賞者には規範に優れた人もいるが、研究界全体の平均値と比較すれば平均値以下だろう。
賞受賞者の倫理面での問題点がでてきたら、それなりに報道すべきである。
3つ目。毎年、今年の「ノーベル賞を受賞する可能性が高い日本の研究者は誰か?」の予測を記事にしているが、これは欺瞞である。
国民にあたかも、今年「も」、日本人の誰かが受賞しそうなイメージを与えている。
予測を記事にしてもいいが、その際、「今年は日本人がノーベル賞を受賞する可能性があるのか・ないのか」を先に書くべきだ。
これまでの数年、及び、これからの数年の実際の答えは、「可能性はほどんどなかった(ない)」のだから、結局、主要メディアが国民をダマしてきた(いる)。この姿勢は改めるべきだ。
4つ目。ノーベル賞は、20世紀の発想・企画だった。だから、10報も撤回論文がある受賞者の受賞を取消せない。性不正した受賞者の受賞を取消せない。現代では、こんな陳腐な賞に信頼・権威を抱けない。
2023年現在は、もっと別の視点・運営で人類の夢と希望を設定しないと国民の共感は得にくい。
主要メディアは、そういう視点を取り入れて、ノーベル賞を国民に伝えるべきである。
《5》2023年版まとめ:ノーベル賞受賞者・候補者の不正(含・疑惑や関連):他記事でも同じ内容
「●白楽の卓見・浅見3【ノーベル賞受賞者の不祥事は多いと思うべし】」に一部をまとめたが、2023年版リストでデータを加えた。
白楽ブログで解説したノーベル賞受賞者(最後の方に候補者)の不正(含・疑惑や関連)を受賞年順にリストした。2023年版リスト。
- 1964年、盗博:宗教学:キング牧師(Martin Luther King Jr.)(米)
- 1976年、「性的暴行」:カールトン・ガジュセック(Carleton Gajdusek)(米)
- 1992年、「性不正」:文学:デレック・ウォルコット(Derek Walcott)(米)
- 1998年、ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)(米)
- 2004年、リンダ・バック(Linda Buck)(米)
- 2007年、マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)(英)
- 2009年、「間違い」:ジャック・ショスタク(Jack W. Szostak)(米)
- 2011年、ブルース・ボイトラー(Bruce Beutler)(米)
- 2012年、化学:ロバート・レフコウィッツ(Robert Lefkowitz)(米)
- 2016年、化学:フレイザー・ストッダート(Fraser Stoddart)(米)
- 2017年、マイケル・ロスバッシュ(Michael Rosbash)(米)
- 2018年、化学:フランシス・アーノルド(Frances Arnold)(米)
- 2019年、グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)(米)
- 2022年、「アカハラ?」:スバンテ・ペーボ(Svante Pääbo)(ドイツ、日本)
- 2022年、「性不正」:経済学:フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig)(米)
他にも問題者(含・研究公正以外)はいる。古いので白楽ブログでは取り上げない(多分)。
- 1912年、アレクシス・カレル – Wikipedia
- 1923年、物理学:ロバート・ミリカン – Wikipedia
- 1956年、物理学:ウィリアム・ショックレー – Wikipedia
- 1962年、ジェームズ・ワトソン – Wikipedia
以下は問題ないと思う。
- 2001年、ポール・ナース – Wikipedia:Paul Nurse
2018年7月26日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Nobel Prize winners correct the literature, too – Retraction Watch - 2002年、ダニエル・カーネマン – Wikipedia:Daniel Kahnemann
2017年2月20日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“I placed too much faith in underpowered studies:” Nobel Prize winner admits mistakes – Retraction Watch
ノーベル賞候補者の不正(含・疑惑や関連)を発覚年順にリストした。
- 1974年、ロバート・グッド(Robert A. Good)(米)
- 1981年、エフレイム・ラッカー(Efraim Racker)(米)
- 1988年、「錯誤」:ジャック・ベンヴィニスト(Jacques Benveniste)(仏)
- 1993年、無罪:バーナード・フィッシャー(Bernard Fisher)(米)
- 2004年、「児童性的虐待」:フレンチ・アンダーソン(French Anderson)(米)
- 2014年、デイビット・バウルクーム(David Baulcombe)(英)
- 2015年、エイドリアン・バード(Adrian Bird – Wikipedia)(英)
- 2016年、「間違い」:チュンユー・ハン、韩春雨(Chunyu Han)(中国)
- 2020年、物理学:ランガ・ディアス(Ranga Dias)(米)
- 2021年、「レイプ」:デイヴィッド・サバティーニ(David Sabatini)(米)
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Philip H. Dybvig – Wikipedia。 ウィキペディア日本語版はしばしば不正行為を記載しない。かなり前、記載したら、削除された。
② フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig)のサイト:Philip H. Dybvig Teaching Page:https://dybfin.wustl.edu/misc/about.html
③ 2022年10月30日のナンシー・リンディスファーンとジョナサン・ニール(Nancy Lindisfarne and Jonathan Neale)記者の「Anne Bonny Pirate」記事:Me Too: The Economists Organize | Anne Bonny Pirate
④ 2022年11月17日のロザリンド・アーリー(Rosalind Early)記者の「St. Louis Riverfront Times」記事:Wash U Nobel Laureate Phillip Dybvig Accused of Misconduct | St. Louis Metro News | St. Louis | St. Louis Riverfront Times
⑤ 2022年11月17日のジュリア・ロビンス(Julia Robbins)記者の「Student Life」記事:Philip Dybvig, Professor and Nobel Prize winner, accused of inappropriate conduct – Student Life
⑥ 2022年12月16日のテキサスA&M大学の経済学教授・ジェニファー・ドレアック(Jennifer Doleac)の「ツイッター」記事:Jennifer DoleacさんはTwitterを使っています: 「@fxy2014 @business A few more screenshots… You should be able to access the full article by entering your email address/creating an account. Let’s make sure Bloomberg gets web traffic for this!!! https://t.co/EZmvQ8RF7N」 / X
⑦ 2022年12月18日の「金磊 Alex 发自 凹非寺」記者の「sohu」記事:诺奖得主被曝性骚扰多名中国女生,彭博社:至少持续了10年_Dybvig_Xiang_调查
⑧ 2022年12月19日の著者名不記載の「nbcnews」記事:Nobel laureate economist faces sexual harassment investigation
⑨ 2022年12月20日の著者名不記載(翻訳・編集/川尻)の「Record China」記事:中国人元留学生、ノーベル賞受賞者をセクハラで告発―中国メディア
⑩ 2023年2月8日のニーナ・ジラルド(Nina Giraldo)記者の「Student Life」記事:News outlets report Dybvig facing Title IX inquiry into sexual misconduct allegations – Student Life
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