企業:学術業(academic business):フロンティアーズ社(Frontiers)(スイス)

2019年1月15日掲載

ワンポイント:フロンティアーズ社(Frontiers)の学術誌は、捕食か真正か微妙な捕食ボーダーライン学術誌である。2007年、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の神経科学者であるカミラ・マークラム(Kamila Markram)と夫のヘンリー・マークラム(Henry Markram)が、スイス・ローザンヌにフロンティアーズ社(Frontiers)を創業した。2015年10月、ジェフリー・ビールはフロンティアーズ社を捕食学術社リストに入れたが、2016年7月、再評価し、捕食ボーダーラインと訂正した。2019年1月14日現在、64学術誌、544分野、36万人の著者、10万出版論文、4億5千万回の閲覧・ダウウンロード、8万6千人の編集委員、90日の査読である。国民の損害額(推定)は100億(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

2007年、カミラ・マークラム(Kamila Markram)と夫のヘンリー・マークラム(Henry Markram)が、スイス・ローザンヌにフロンティアーズ社(Frontiers)を創業した。2人ともスイス連邦工科大学ローザンヌ校の神経科学者である。

フロンティアーズ社は理工医学(STM)の学術出版を行なう世界規模の学術出版社である。会議(学術集会)の企画・開催はしていない。

2019年1月14日現在、64学術誌、544分野、36万人の著者、10万出版論文、4億5千万回の閲覧・ダウウンロード、8万6千人の編集委員、90日の査読である。

カレントアウェアネス・ポータルによると、以下の特徴がある。

Markram氏の言によると、Frontiers社のユニークな点は規模というよりそのコミュニティ主導というコンセプトにあるようです。例えば、Frontiersのサイトには8万人の科学者のプロフィールが登録され、論文のダウンロード数や引用数などが分かるようになっており、また、彼らの書いたニュースやブログ記事へのリンクもされています。査読についても、初回の査読が済んだ後に著者とレビュワーがオンラインフォーラム上で議論を行い、最終的に出版される論文にはレビュワーの名前が掲載されるというシステムになっています。(出典:2013年3月1日記事:Nature Publishing Group、ユニークな査読システムを持つ世界第5位のオープンアクセス出版社Frontiersを買収 | カレントアウェアネス・ポータル

2015年10月、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)はフロンティアーズ社の学術誌を捕食学術誌のリストであるビールのリストに加えた。電子メール・スパムで論文投稿を勧誘したと非難した。

それにもかかわらず、出版規範委員会(COPE)とオープンアクセス学術出版社協会(Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA))の両方とも、フロンティアーズ社を会員から外さなかった。

2016年7月、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)はフロンティアーズ社の学術誌を再評価し、捕食ボーダーライン学術誌と訂正した。

フロンティアーズ社(Frontiers)のスイス・ローザンヌの本社(上から見た)。写真は、白楽がグ―グルマップで作成

  • 国:スイスに本社がある世界企業
  • 集団名:フロンティアーズ社
  • 集団名(英語):Frontiers
  • 本社住所(英語):Avenue du Tribunal Fédéral 34 CH – 1005 Lausanne Switzerland
  • ウェブサイト(英語):https://www.frontiersin.org/
  • 集団の概要:カミラ・マークラム(Kamila Markram)と夫のヘンリー・マークラム(Henry Markram)が2007年に設立した学術出版社。2016年4月の記事では、従業員は200人。
  • 事件の主役たち:社長のカミラ・マークラム(Kamila Markram)
  • 分野:捕食学術
  • 捕食認定年:2015年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は特定しにくい。有力な人物として、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が捕食学術と指摘した。後に、捕食ボーダーラインと訂正した
  • ステップ2(メディア):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①
  • 不正(?):捕食ボーダーライン
  • 不正(?)数:?誌の学術誌、約?万報の論文
  • 被害(者)(?):36万人の著者、10万出版論文、4億5千万回の閲覧・ダウウンロード、8万6千人の編集委員
  • 国民の損害額(?):総額(推定)は100億(大雑把)
https://twitter.com/EC_AVService/status/839105988569477121

●2.【日本語の解説】

★2013年3月1日:カレントアウェアネス・ポータル:Nature Publishing Group、ユニークな査読システムを持つ世界第5位のオープンアクセス出版社Frontiersを買収

出典 → ココ、(保存版

2013年2月27日、Nature Publishing Group(NPG)が、スイスのオープンアクセス出版社Frontiersの買収を発表しました。

Frontiersは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の神経科学者Kamila Markram氏によって2007年に創立されました。2011年に黒字化を果たしています。2012年には14誌のオープンアクセスジャーナルで5,000本の論文を出版し、世界第5位の規模のオープンアクセス出版社となっています。(なお、NPGが同年に出版したオープンアクセス論文は2,000本ということです。)

Markram氏の言によると、Frontiers社のユニークな点は規模というよりそのコミュニティ主導というコンセプトにあるようです。例えば、Frontiersのサイトには8万人の科学者のプロフィールが登録され、論文のダウンロード数や引用数などが分かるようになっており、また、彼らの書いたニュースやブログ記事へのリンクもされています。査読についても、初回の査読が済んだ後に著者とレビュワーがオンラインフォーラム上で議論を行い、最終的に出版される論文にはレビュワーの名前が掲載されるというシステムになっています。

★2015年4月29日: 加藤司 (かとう つかさ、心理学)博士(東洋大学・社会学部・社会心理学科・教授):Frontiers in Psychology

出典 → ココ、(保存版

Frontiers in Psychology誌は、ここ最近調子がいい。

Frontiers in Psychology誌はオープンアクセス誌(Frontiers社の雑誌のひとつ。Frontiersは、論文が掲載後に査読者の名前が公表されるということで有名)。毎月、毎月、コンスタントに100篇を軽く超える論文を輩出している。毎月、これほど多くの心理学系の論文を輩出している雑誌は、PLoS ONE誌以外にはないのではないだろうか。オープンアクセス誌にとって、最も重要なことはインパクトファクター(IF)ではなく、論文が一定数以上、コンスタントに刊行され続けていること(IFも比較的良好。2013年IF=2.843。6月頃には新しいIFが発表されるので注目している)。投稿論文がなくなれば、オープンアクセス誌は廃刊になるからね。

Frontiersの場合、その特有の査読システムのため、査読が甘いということはあるにしても、コンスタントに、多くの論文が発刊されているという事実は、投稿者にとってはとても魅力的(オープンアクセス誌の場合)。

ぼくは、この雑誌は「こける」と思っていたけれど。これだけ、論文が発表されていると、心理学の総合雑誌として、大成功。2013年にNature Publishing Groupによって買収されたのが(これは驚き)、なにより、論文数増加に結び付いたのだろう。

同じ人の2016年10月28日記事:Frontiers in Psychology誌へ査読者から苦情メール:酷過ぎる査読実態

出典 → ココ、(保存版

ハゲタカ出版リストで有名なBeall氏のブログ。

 Beall氏から、下記の自動メールが配信され、Frontiers in Psychology誌を出版しているFrontiersがBeall’s Listに加えられていることを知り、衝撃を受けた。まあ、誰でも彼でも、編集委員に誘うような雑誌じゃな・・・・・。前々から、ぼくは、この雑誌は怪しいと思っていたが、やはりこうなったか・・・・・・もちろん、いい論文も掲載されているけどね。
https://scholarlyoa.com/publishers/ Beall’s Listを参照

 配信されたBeall氏のブログ記事では、Frontiers in Psychology誌に送った研究者(査読者)のメールが添付されている。面白いのでコピーする。

 簡単に要約すると、この雑誌の査読は手抜きで、質の悪い論文であっても修正要求がなされず採択・掲載されている。あまりにも酷過ぎるので、Frontiers in Psychology誌の査読者一覧から、自分自身の名前を外してほしい。この雑誌は、Beall氏が指摘している通りのハゲタカ雑誌だ。

★2017年12月4日:エディテージ社の記事:フロンティアとエディテージが提携を発表

出典 → ココ 保存済 (保存版)

2017年12月4日; スイス、ローザンヌ― 代表的なオープンアクセス出版社のFrontiers(以下、フロンティア)がエディテージと提携し、研究コミュニティ向けの論文投稿支援サービスを提供する運びとなりました。60誌を超えるフロンティアのジャーナルに論文投稿を行う著者は、エディテージの経験豊かな出版エキスパートによる英文校正・翻訳・査読サービスを特別価格で利用することができます。

今回の提携で目指すのは、論文の正確な細部や結論の微妙なニュアンスを明瞭な科学英語で伝えられるよう著者をサポートし、論文のレビュープロセスを早め、さらには出版論文のインパクトが世界中の諸分野の読者の間で高まるようにすることです。

フロンティアについて

受賞歴のあるオープンサイエンス・プラットフォームで、主要オープンアクセス学術出版社。質の高い査読済み論文を世界中の誰もが迅速かつ自由に読めるようにし、科学と技術のイノベーション、社会の進歩、経済の成長を加速させることを使命としている。オープンアクセスのパイオニアとして、論文出版全体のオンライン化を初めて実施。

また、便利なオープンサイエンスツールを多数開発して研究者を補佐し、科学の評価および公開方法のほか、科学を研究者・イノベーター・一般社会に広める方法を根本的に改善した。その取り組みの一例として、バーチャル編集部、人工知能(AI)を駆使した共同査読プラットフォーム、論文と著者の一連のインパクト指標、完全統合型研究者プロフィールがある。2014年、学術出版社協会(ALPSP)の Gold Award for Innovation in Publishing(出版イノベーション大賞)を受賞

●3.【フロンティアーズ社】

【歴史と状況】

★カミラ・マークラム(Kamila Markram)とヘンリー・マークラム(Henry Markram)

2007年、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の神経科学者・カミラ・マークラム(Kamila Markram、写真出典)と、夫で同大学・教授のヘンリー・マークラム(Henry Markram)がフロンティアーズ社(Frontiers)を創立した。

カミラ・マークラムは2003年にドイツのベルリン工科大学(Technische Universität Berlin)で心理学の研究博士号(PhD)を取得している。

【動画】
自己紹介とフロンティアーズ社紹介の動画「カミラ・マークラム(Kamila Markram)、フロンティアーズ社、スイスのヴーヴ・クリコ・ビジネスウーマン賞2017年の最終候補者(Kamila Markram – Frontiers – Finalist of Veuve Clicquot Business Woman Award 2017 Switzerland) – YouTube」(英語)1分46秒。
Sébastien Bergeratが2017/12/03 に公開

講演動画「オープンサイエンスが地球を救う(Open Science can save the planet ) – YouTube」(英語)13分00秒。
TEDx Talksが2017/04/17 に公開

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ヘンリー・マークラム(Henry Markram)は、日本語の略歴がウェブ上に掲載さているので、以下、引用した。

1962年、南アフリカ共和国生まれ。父はイギリス人、母はドイツとフランスの国籍を持つ。

医学と生物学を専攻していた大学在学中から、脳や脳の病気、また脳内の情報伝達に関して興味を持っていた。

研究者として、イスラエル、アメリカ、ドイツと拠点を移し、2002年からスイスに滞在。

かの有名なマサチューセッツ工科大学と契約を結ぼうとしていた直前、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)の学長であり神経学を専門とするパトリック・アビッシャー教授に説得され、同大学に招聘(しょうへい)された。(出典:2011-10-08記事:自然を理解するための人工脳 – SWI swissinfo.ch

【動画】
講演動画「ヘンリー・マークラムがスーパーコンピュータの中に脳を構築(Henry Markram: A brain in a supercomputer) – YouTube」(英語)16分48秒。
TEDが2009/10/15 に公開
→ 日本語訳(文章)ある:https://www.ted.com/talks/henry_markram_supercomputing_the_brain_s_secrets/transcript

★歴史

2007年、カミラ・マークラム(Kamila Markram)とヘンリー・マークラム(Henry Markram)がフロンティアーズ社(Frontiers)を創立し、最初の学術誌「Frontiers in Neuroscience」を出版した。

なお、最初の学術誌「Frontiers in Neuroscience」にあるように、フロンティアーズ社の学術誌はすべて冒頭に「Frontiers in」と付いている。その後に研究分野の名称が付く。わかりやすい。

2010年、創立3年後、フロンティアーズ社は、医学と理工学分野で12誌の学術誌を出版するまで成長した。

2012年2月、フロンティアーズ社の学術誌に掲載されているオープンアクセスの論文を広め、関連する会議、ブログ、ニュース、ビデオ講義、および求人案内の提供を目的としたFrontiers Research Network を開始した。

2013年2月、Nature Publishing Group(NPG)が、フロンティアーズ社を買収した。Nature Publishing Group(NPG)はホルツブリンク出版グループ(Holtzbrinck Publishing Group)の子会社である。

2014年9月上旬、フロンティアーズ社は、学術出版社協会(ALPSP:Association of Learned and Professional Society Publishers)の 出版イノベーション大賞(Gold Award for Innovation in Publishing)を受賞した。

2015年、フロンティアーズ社の16学術誌がインパクト・ファクターを所持していた。

2016年2月、54学術誌を出版した。

2017年、創立10周年である。59学術誌を出版し、内、24学術誌がインパクト・ファクターを所持していた。

以下の図に示すように、フロンティアーズ社からの出版論文数は年々急増し、2018年に2万8057論文を出版するまでになった。

2019年1月14日現在、64学術誌、544分野、36万人の著者、10万論文を出版、4億5千万回の閲覧・ダウウンロード、8万6千人の編集委員、査読は90日である(Frontiers | Peer Reviewed Articles – Open Access Journals)。

https://www.frontiersin.org/

学術誌は、Web of Science (SCIE), Scopus, PubMedに索引付けされている。

2018年の論文採択率は62%だった。

世界中に8万6千人の編集委員がいる、その所属大学・機関の上位20位以内に日本の大学・研究機関は入っていない。

出典:https://www.frontiersin.org/

★フロンティアーズ社の学術誌

フロンティアーズ社の学術誌は64誌ある。ここにズラズラと羅列しないが、以下のサイトにリストがある。

フロンティアーズ社の論文掲載料は学術誌と論文の種類によって異なる(A,B,C,Dの説明はサイトをご覧ください)。以下、3誌を例に挙げる。通常の論文(Aタイプ)を出版すると、1論文につき、950-2,950 USドル(約10-30万円)の論文掲載料がかかる。

出典:https://www.frontiersin.org/about/publishing-fees

フロンティアーズ社の説明を続けると、宣伝している気分になるので、この辺でやめる。

本記事の趣旨は捕食学術誌の視点でフロンティアーズ社の実態を知ることである。

【問題と事件】

★「サイエンス誌の2013年論文」

2013年11月、科学ライターのジョン・ボハノン(John Bohannon)が仕掛けた捕食学術誌判定の罠「Who’s Afraid of Peer Review?」(「サイエンス誌の2013年論文」)を、フロンティアーズ社の学術誌「Frontiers in Pharmacology of Anti-Cancer Drugs」はうまくかわした。
→ 7-1.ねつ造医学論文を出版する捕食出版社:クロエ・コスタ(Chloe Costa)、2015年5月15日掲載

★ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)

2015年1月、フロンティアーズ社は出版規範委員会「COPE」の会員になった。

2015年10月18日、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)はフロンティアーズ社の学術誌を捕食学術誌のリストであるビールのリストに加えた。
→ 7-20.ビールのライフワーク:捕食出版社との闘い

ツイッター画面の出典

何人かの研究者は、ジェフリー・ビールがフロンティアーズ社の学術誌を捕食学術誌リストに加えたことに反発した。
→ 2015年10月23日のモリー・ブラウドオフ=インデリカート(Mollie Bloudoff-Indelicato)記者の「Nature」記事:Backlash after Frontiers journals added to list of questionable publishers : Nature News & Comment

なお、記事の途中だがを上記の「Nature」記事を読むときに注意して欲しい。ドイツのホルツブリンク出版グループ(Holtzbrinck Group)は、フロンティアーズ社の親会社であり、「Nature」誌を発行する「Springer Nature」の親会社でもある。つまり、「Nature」はフロンティアーズ社の仲間である。記事に利益相反の可能性がある。

閑話休題。

反発した1人は、オランダのアイントホーフェン工科大学(Eindhoven University of Technology)・助教授で実験心理学を専門とするダニエル・ラーケンズ(DaniëlLakens、写真出典)である。彼は、フロンティアーズ社の学術誌「Frontiers in Cognition」の副編集長だった。

ラーケンズ・助教授は、次のようにツイートした。「ビールのリストに加えたことは、ビールのリストの大きな欠点だ。ビールはしっかりしたデータではなく、直感で判断している」と。

ツイッター画面の出典

研究者からの反発について、「Nature」記者がビールにコメントを求めると、ビールは「自分の決断は正しいと思っている」、「フロンティアーズ社の悪い慣行について科学界から何十通もの電子メールを受信している」と答えた。

ビールのリストに加えられたが、しかし、出版規範委員会(COPE)とオープンアクセス学術出版社協会(Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA))の両方とも、フロンティアーズ社を会員から外さなかった。
→ 2015年10月30日の出版規範委員会の記事:COPE statement on Frontiers | Committee on Publication Ethics: COPE
→ 2015年12月24日のオープンアクセス学術出版社協会の記事:Frontiers Membership of OASPA – OASPA

2015年12月14日、フロンティアーズ社・編集担当重役のフレデリック・フェンター(Frederick Fenter、写真出典)はジェフリー・ビールの所属するコロラド大学デンバー校を訪問し、コロラド大学デンバー校に対して、フロンティアーズ社をリストから削除するよう要請した。といっても、ビールのリストは、彼が個人的に運営しているウェブ上のリストであって、大学の管理するリストではない。それに、学問の自由、表現の自由は尊重されるべきだ。
→ 2016年9月14日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の記事:Beall-listed Frontiers empire strikes back – For Better Science

2016年7月、ジェフリー・ビールは少し修正した。研究者にフロンティアーズ社の学術誌に論文を投稿しないよう推奨しつつも、「フロンティアーズ社の学術誌に掲載されたギリギリに論文がまともな論文に汚名を着せている」、とフロンティアーズ社の学術誌を再評価し、捕食ボーダーライン学術誌とした。

なお、2019年1月14日現在、ビールのリスト(2016年12月31日更新)で「Frontiers」を検索すると、フロンティアーズ社がヒットした。以下の注釈付きの文章が出てくる。要するに、2019年1月14日現在、フロンティアーズ社は捕食学術社とされている。

•Frontiers (note: details of how this publisher was added to the list:  here; received claims from multiple academics about misconduct during the publication process of a substantial amount of Frontiers journals; some of them have not been removed from editorial boards of Frontiers journals despite their requests)
Frontiers in Bioscience(FBS)

★ワクチン・自閉症論文

2016年11月21日、ワクチンを自閉症と結び付ける論文「Vaccination and Health Outcomes: A Survey of 6- to 12-year-old Vaccinated and Unvaccinated Children based on Mothers’ Reports」がフロンティアーズ社の学術誌「Frontiers in Public Health」に掲載された。

ワクチンを自閉症と結び付ける論文は1998年のアンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)の論文以来、医学界では大ヒンシュクなのだが、同じような論文を発表したがる異常な人が時々現れる。
→ アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)(英)改訂 | 研究倫理(ネカト、研究規範)

2016年11月28日、論文が「Frontiers in Public Health」に掲載7日後、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がツイッターで非難した。続いて、非難する人が大勢現れた。

フロンティアーズ社はあわてて、「この論文は暫定的に受理したが、出版していません。問題提起されたので、再査読中である」とコメントした。

2016年11月28日、結局、掲載7日後、論文を撤回し、その後、削除してしまった。従って、2019年1月14日現在、この論文にアクセスできない。
→ 2016年11月28日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Study linking vaccines to autism pulled following heavy criticism – Retraction Watch

★採択率90%

フロンティアーズ社のサイトから、フロンティアーズ社の全学術誌の平均論文採択率は2018年で62%だと先に記述した。

2017年12月、ところが、「撤回監視(Retraction Watch)」のアダム・マーカス(Adam Marcus)とアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)は雑誌「Nautilus」に、フロンティアーズ社の論文採択率は約90%であると述べている。
→ 2017年12月7日の「Nautilus」記事:Predatory Journals Are Also Shameless

話がズレるが、この「論文採択率は約90%」の元データはレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の2016年4月の記事だとレオニッド・シュナイダーが主張している。そして、「撤回監視(Retraction Watch)」はレオニッド・シュナイダーの記事を決して引用しないと、述べている。

白楽は、長い間、「撤回監視(Retraction Watch)」がレオニッド・シュナイダーの記事を引用しないことに疑問を感じている。ネカト追及のプロである「撤回監視(Retraction Watch)」は、どうなっているのだ。盗用(まがいのこと)をするんじゃない。「撤回監視(Retraction Watch)」の貢献はとても大きいが、問題と感じることが時々ある。

確かに、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の2016年4月21日の記事に次の記述があった。
→ レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の2016年4月21日の記事:Fear and Loathing at Frontiers – For Better Science

(フロンティアーズ社の)インターンは、フロンティアーズ社の論文棄却率についても嘘をつくように指示された。論文棄却率は公式に主張されている20%ではなく、10%です(インターンの言葉)

論文棄却率10%=論文採択率90%、である。

●4.【白楽の感想】

《1》グレーの学術誌

https://www.euroscientist.com/kamila-markram-interview-changing-the-way-academics-work/

今まで、いくつかの捕食出版社を解説してきたが、フロンティアーズ社(Frontiers)の学術誌は捕食誌なのか真正誌なのか、判断が難しい。

ヒンダウィ出版社(Hindawi Publishing Corporation)も捕食か真正か微妙な捕食ボーダーライン学術誌とされている。

このような捕食ボーダーライン学術誌はかなりあると思われる。

状況(財政。投稿数、評判など)に応じて、捕食誌が真正誌に、またその逆に真正誌が捕食誌に変るだろう。

《2》捕食学術に関する白楽の記事リスト

捕食学術に関する白楽の記事リストのページ「捕食学術の記事リスト(1)」を作った。ご利用ください。

《3》フロンティア?

世界的に学術誌のあり方・将来が揺れている。フロンティアーズ社(Frontiers)は学術出版の開拓者(フロンティア)なのだろうか?

現代は、従来の伝統的な学術誌が廃れ、新しい完全オープンアクセス型の学術誌へと移行する過渡期だが、研究者のコミュニケーションの形態(論文発表、学会発表、訪問面談。また、伝統的な出版社、新興出版社、論文庫・リポジトリ)がどうあるべきか、誰がいくら払うのか? 確かな方向が見えてこない。

2019年4月に日本学術会議が「危機に瀕する学術情報の現状とその将来 Part 2」という学術フォーラムを開催する。興味のある方はご参加を。なお、白楽は何も関与していません。
サイト → http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/273-s-0419.pdf

273-s-0419

 

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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Frontiers Media – Wikipedia
② レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「フロンティアーズ社」の記事群:Frontiers – For Better Science
③ 「撤回監視(Retraction Watch)」の「フロンティアーズ社」の記事群:Search Results for “Frontiers” – Retraction Watch

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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加藤司
加藤司
2020年3月6日 1:19 AM

同じ人の2016年10月28日記事:Frontiers in Psychology誌へ査読者から苦情メール:酷過ぎる査読実態
出典 → ココ、(保存版)
この雑誌の査読は手抜きで、質の悪い論文であっても修正要求がなされず採択・掲載されている。あまりにも酷過ぎるので、Frontiers in Psychology誌の査読者一覧から、自分自身の名前を外してほしい。この雑誌は、Beall氏が指摘している通りのハゲタカ雑誌だ。

以上の文章に関して、私が査読者から外してほしいと言っているように読み取れるので、

少なくとも、この文章の前の私の文章を省略しないでほしい。以下に、この文章の前に記載した文章をそのまま張り付ける。

 ハゲタカ出版リストで有名なBeall氏のブログ。
 Beall氏から、下記の自動メールが配信され、Frontiers in Psychology誌を出版しているFrontiersがBeall’s Listに加えられていることを知り、衝撃を受けた。まあ、誰でも彼でも、編集委員に誘うような雑誌じゃな・・・・・。前々から、ぼくは、この雑誌は怪しいと思っていたが、やはりこうなったか・・・・・・もちろん、いい論文も掲載されているけどね。
https://scholarlyoa.com/publishers/ Beall's Listを参照

 配信されたBeall氏のブログ記事では、Frontiers in Psychology誌に送った研究者(査読者)のメールが添付されている。面白いのでコピーする。
 簡単に要約すると、この雑誌の査読は手抜きで、質の悪い論文であっても修正要求がなされず採択・掲載されている。あまりにも酷過ぎるので、Frontiers in Psychology誌の査読者一覧から、自分自身の名前を外してほしい。この雑誌は、Beall氏が指摘している通りのハゲタカ雑誌だ。