ディパク・ダス(Dipak Das)(米)

2015年2月20日掲載、2024年6月25日更新【長文注意

ワンポイント:ダス はインド出身で、コネチカット大学・健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授、心血管研究センター・所長になった。2008年(62歳)、匿名の公益通報によりねつ造・改ざんが発覚した。2012年1月11日(66歳)、コネチカット大学・調査委員会は、145か所にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。「赤ワイン健康説」、11億6千万円の研究費受給、のネカト事件だったので、多くのメディアが報道し、大事件になった。2013年9月19日(67歳)、ダスは、ねつ造・改ざんを認めていないまま死亡した。2016年4月7日(没3年後)時点で、ダスの撤回論文数は20報で、「撤回論文数」世界ランキングの17位(番号17)だった。この事件は「大学のネカト調査不正」事件の印象がある。国民の損害額(推定)は12億円(大雑把)。

ーーーーーーー 目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント 
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●1.【概略】

150213 dipak-das1ディパク・ダス(Dipak Das、Dipak K. Das、Dipak Kumar Das、写真出典)は、インドに生まれ、インドのジャダフプール大学(Jadavpur University)の学部を卒業後、米国に渡り、米国で研究博士号(PhD)を取得した。その後、米国のコネチカット大学・健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授、心血管研究センター・所長になった。医師ではない。

専門は栄養学、生化学、生理学で、発表論文は500報以上ある。NIHから11億6千万円の研究費を受給した。

1991年にフランスの科学者・セルジュ・ルノー(Serge Renaud)が唱えた「赤ワイン健康説」、つまり、フランス人に心疾患が少ないのは赤ワインを飲むからだとする説が、その後、世界中で信じられていた。

現在、この「赤ワイン健康説」は非科学的とされているが(2014年5月13日:国際ニュース:AFPBB News)、ダスは、赤ワインに多く含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)の論文を117報も発表し、レスベラトロールに心臓保護作用があるとした説を唱えたことで有名である。

2008年(62歳)、匿名者は、ダスの論文にねつ造・改ざんがあると公益通報した。

2012年1月11日(66歳)、通報から4年後、コネチカット大学・調査委員会は、調査の結果、ダスの論文の 145か所にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。

2012年5月(66歳)、ダスはコネチカット大学を退職(解雇?)した。

2013年9月19日(67歳)、ダスは、退職(解雇?)の翌年、ねつ造・改ざんを認めないまま死亡した。お悔み告知には死因の記載はなかった。 → ① お悔み告知:Dipak DAS Obituary (2013) 、②Dipak Das dies at 67 – Retraction Watch

ダス自身がコネチカット大学の調査報告書に反論している文書や動画がある。これらから判断して、ダスが犯したとする研究ネカトの一部(あるいは全部)は冤罪かもしれない。

ダス事件は、優秀なインド人研究者を排斥する人種差別だとの見方もある。

なお、ダスは NIHから11億6千万円の研究費を受給していた。しかし、研究公正局がネカト調査を終える前にダスが死亡したため、研究公正局はダスをクロと認定していない。

2016年4月7日(没3年後)時点で、ダスの撤回論文数は20報になっていて、「撤回論文数」世界ランキングの17位(番号17)となった。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理 

2024年6月24日(没11年後)現在、30位でも29報の撤回論文が必要なので、ダスはランキング外になっている。

コネチカット大学・健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))。写真出典:https://today.uconn.edu/2009/11/health-center-faculty-vote-to-unionize-in-tight-election/

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のニューヨーク大学。インドのコルカタ大学という記述もある
  • 男女:男性
  • 生年月日:1946年x月xx日。仮に、1946年1月1日生まれとする
  • 没年:2013年9月19日、死亡。享年67歳
  • 現在の没後年:11年
  • 分野:栄養学
  • 不正行為:2002~2014年(56 歳~ 没1年後)の13年間
  • 不正行為時の地位:コネチカット大学・教授
  • 発覚年:2008年(62歳)
  • 発覚時地位:コネチカット大学・教授、心血管研究センター・所長
  • ステップ1(発覚):匿名者がコネチカット大学に通報
  • ステップ2(メディア):「New York Times」、「Hartford Courant」、「ResveratrolNews」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①コネチカット大学・健康センター・調査委員会。2008年12月~2012年1月11日。3年間
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あったが、その後、削除
  • 大学の透明性:調査した報告書を公表したが、その後、隠蔽(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2002~2014年の24論文が撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:実質的には、研究職をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:米国のコネチカット大学・教授を解雇(退職?)
  • 対処問題:「大学のネカト調査不正」(推定)
  • 特徴:ネカト者とされた研究者がウェブサイトで無実を主張。67歳で死亡と少し早死
  • 日本人の弟子・友人:2002年の撤回論文は、日本人のReiji Hattori と Hajime Otaniと共著である。この2人は、関西医科大学・胸部心臓血管外科の服部玲治(HATTORI Reiji、現在は東住吉森本リハビリテーション病院・院長)と大谷肇(OTANI Hajime、香里ヶ丘大谷ハートクリニック・院長)である。他にも白戸 圭介(Keisuke Shiroto)が共著の2007年の撤回論文がある。日本人の関係者が比較的多いと思われる。

【国民の損害額】 国民の損害額:総額(推定)は12億円(大雑把)。11億6千万円の研究費を無駄にした。

●2.【経歴と経過】

経歴は主に、(1):Dipak DAS Obituary – West Hartford, CT | Hartford Courant、(2): ウィキペディア英語版:Dipak K. Das – Wikipedia, the free encyclopedia

  • 生年月日:1946年x月xx日、インドのコルカタ(Kolkata)で生まれる。仮に、1946年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):インドのコルカタ(Kolkata)にあるジャダフプール大学(Jadavpur University)を卒業
  • 1971年(25歳):渡米
  • 19xx年(xx歳):ニューヨーク大学(New York University)で研究博士号(PhD)取得
  • 1982年(36歳)、または1984年(38歳)?:コネチカット大学・健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教員
  • 1993年(47歳):同大学でテニュア取得(準教授?)、(その後?)教授
  • 2002年(56歳):同大学・心血管研究センター・所長
  • 2008年(62歳):研究ネカトと公益通報される
  • 2012年1月11日(66歳):コネチカット大学・調査委員会は、145か所にデータねつ造・改ざんがあったと発表
  • 2012年5月(66歳):コネチカット大学を解雇(退職?)
  • 2013年9月19日(67歳):死亡

●3.【動画】

【動画1】
ダス自身が自分は無実だと主張している動画:「Dr Dipak Das replies to allegations of scientific fraud – YouTube」、(英語)18分16秒
dipakdasdefenseが2012/06/17 に公開。以下のサイトまたは図をクリックhttps://www.youtube.com/watch?v=3zNJNB5qn54

【動画2】
このディパク・ダスは別人と思われる。
動画:「Discussion With Dr. Dipak Das, Cardiologist About Heart Attacks In Women – YouTube」、(オリヤー語)15分39秒
Kanak News(チャンネル登録者数 751万人)が2023/03/06 に公開

●4.【日本語の解説】

★2012年1月13日:著者名不記載(AFPBB News):「「赤ワインは健康にいい」論文、データ捏造で米教授に懲戒解雇」

出典 → ココ、(保存版) 

【1月13日 AFP】米コネティカット大学(University of Connecticut)は12日、同大所属の教授について、科学専門誌11誌に発表した赤ワインの健康効果を主張する論文に100を超えるデータの改ざん・捏造があったことが明らかになったとして、懲戒解雇したと発表した。

同大が「145か所のデータの改ざん・捏造が明らかになった」と糾弾したのは、同大医療センター外科部門に所属していたディパク・ダス(Dipak Das)教授で、同センター循環器病研究所のトップでもあった。

続きは、原典をお読みください。

★2012年2月22日:著者名不記載(j-castニュース):「赤ワイン研究者が論文ねつ造 「健康にいい」説に水を差す」

出典 → ココ、(保存版) 

赤ワインに含まれる成分と健康の関連性について研究が進むなか、米大学の有力研究者が、論文の掲載したデータをねつ造していたと伝えられた。

大学側は調査を通じて、145か所のねつ造があったと判断。これによりワインの効能そのものに疑問の目を向ける人も出始めている。

(中略)

今回、データねつ造が取りざたされた米コネチカット大学心臓血管研究所の所長、ディパク・ダス教授は、このレスベラトロールの効能について多くの論文を著していた。大学側は2012年1月11日、内部調査の結果を公表。それによると、ダス教授の論文を掲載した科学誌は11に上るが、3年間の調査の結果、論文中のデータのねつ造や改ざんが認められたというのだ。

続きは、原典をお読みください。

★2012年2月22日:ti-bi-r7のブログ:「赤ワイン研究者が論文ねつ造 「健康にいい」説に水を差す」

「この記事は社会(J-CASTニュース)から引用させて頂きました」とあるので、上記が原典

出典 → ココ、(保存版) 

赤ワインに含まれる成分と健康の関連性について研究が進むなか、米大学の有力研究者が、論文の掲載したデータをねつ造していたと伝えられた。

続きは、原典をお読みください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

150213 dipak-das1ディパク・ダス(Dipak Das、Dipak K. Das、Dipak Kumar Das、写真出典)は、インドに生まれ、インドのジャダフプール大学(Jadavpur University)の学部を卒業後、1971年、25歳の時、渡米した。

年月日は不明だが、ニューヨーク大学(New York University)で研究博士号(PhD)を取得した。

1982年(36歳)、1984年(38歳)という記述もあるが、この年、コネチカット大学・健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))の教員に採用され、その後、準教授、教授に昇進し、米国のコネチカット大学・健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授、心血管研究センター・所長になった。

ダスは、また、次の3つの学術誌の編集を担当していた。「Antioxidant and Redox Signaling」誌編集長、「American Journal of Physiology: Heart and Circulatory Physiology」誌共同編集者、「Molecular and Cellular Biochemistry」編集顧問。

★研究内容

1991年にフランスの科学者・セルジュ・レナウド(Serge Renaud)が唱えた「赤ワイン健康説」、つまり、フランス人に心疾患が少ないのは赤ワインを飲むからだとする説が、その後、世界中で信じられていた。

現在、この「赤ワイン健康説」は非科学的とされているが(国際ニュース:AFPBB News)、ダスは、赤ワインに多く含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)の論文を117報も発表し、レスベラトロールに心臓保護作用があるとした説を唱えたことで有名である。

「たおやかな生活を希望して」から、以下、一部修正して引用した(2012年10月11日、赤ワインのレスベラトロール(resveratrol)って効くの?保存版)。

赤ワインを飲むフランス人は心疾患が少ないとの定説からレスベラトロール(resveratrol)の心疾患抑制効果が調べられた。レスベラトロールの心疾患抑制効果の多くはディパク・ダス(Dipak K. Das)の研究で証明されて来たが、彼が多くの論文を捏造していたこともあって、データの信憑性が疑われていた。

ダスはコネティカット大学・ヘルスセンターの心血管研究センターの教授でレスベラトロールの効果の研究では著名であった。500報に及ぶ論文を書いているがそのうちの117報がレスベラトロールについてであったが、非常に多くの彼の書いた論文で捏造や不正が発見され、現在大学を解雇される手続きが進んでいるという。赤ワイン研究データ捏造者として有名になっている。

彼は多くの捏造データを作成し発表したが、心筋梗塞のモデル実験で、レスベラトロールは赤ワインと同じ心筋梗塞抑制効果がある事が確認されている。レスベラトロールは動物実験で糖尿病抑制効果、抗炎症効果や神経変性抑制効果なども報告されている。

★獲得研究費

ディパク・ダス(Dipak Das、Dipak K. Das、Dipak Kumar Das)は、NIHから1986~2009年の24年間に計47件、計11,642,684ドル(約11億6千万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Dipak K. Das

研究費の獲得状況から判断すると、ダスは非常に優秀な研究者といえる。

以下、47件のうちの最新の5件を示す(出典は上記)

★発覚とコネチカット大学・調査委員会

2008年(62歳)、研究室にウェスタンブロットの実験をできる人がいないのに論文ではウェスタンブロットのデータ示されている、とのことからデータねつ造疑惑が指摘され、コネチカット大学はネカト調査を始めた。

150213 BruceKoeppenMD_ElsevierAuthor-e1351795413269-118x150[1]2008年12月(62歳)、コネチカット大学は、ブルース・ケッペン医学部長(Bruce Koeppen、写真出典)を調査委員長とし、調査を開始した。

2012年1月11日(66歳)、コネチカット大学・調査委員会は、3年間の調査の結果、6万ページの報告書作成し(60ページの間違いではありません)、データねつ造・改ざんがあったと発表した。

と同時に、コネチカット大学は、ダスの研究費として採択されていた89万ドル(約8,900万円)の外部研究費を辞退した。

調査は、2002~2009年のコネチカット大学・心血管研究センター・所長在職時の101論文をまず予備的に調査し、疑念があった26論文を詳細に調査した。その結果、145か所にデータねつ造・改ざんがあったとした。

26論文の内、9論文は、赤ワインに含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)の論文だった。他は、加工処理したガーリックよりも生のガーリックの方が心臓には良いとか、ブロッコリーが心臓に良いとする論文だった。

改ざんは、主にウェスタンブロット像の写真をソフトで加工(改ざん)した行為だった。2005年に改ざんが始まったが、その時点では、ダス研究室にウェスタンブロット実験ができる人はいなかった。それなのに、データが発表されていた。この手のデータ改ざんは、26論文に23か所見つかった。

[白楽の感想:ウェスタンブロット実験法は1980年頃に確立された方法である。1982年、米国NIHの研究留学から帰国した時、白楽が、日本に最初に持ち込んだ実験法だ(と思う)。当時、理化学機器として既存の製品は米国でも販売されておらず、米国の街の電気屋でパーツを買って、妻に電源を作ってもらった。それを米国でも使い、日本帰国時にもって帰った。
それで、日本の白楽の研究室では卒論生(学部4年生)でも普通に実施した簡単・安価な実験操作だった。それから20数年後の2005年、ウェスタンブロット実験ができる人が、ダスの研究室にいないというのは、米国の研究室とし、とてもヘンだ。最盛期のダス研究室は36人も室員がいた。技術を持つポスドクを1人雇えばいいだけなのに、ヘンだ]

150213 austin[1]コネチカット大学・副学長のフィリップ・オースチン(Philip Austin、写真出典)は、次のように述べている。

私達は、大学の倫理規定に違反する事件が生じたことに深く失望していますが、調査が計画通りに進んだことを嬉しく思います。当大学の大半の人は大学の諸規定に従って研究していることに、私達は、感謝しています。今回の調査報告書は、徹底的な調査の結果であり、当然のことながら、完了するまでにかなりの年月を要しました。

ダス教授の年棒は184,396ドル(約1,844万円)だった。コネチカット大学・スポークスマンのクリス・ドフランシスコ(Chris DeFrancesco)は、 「大学の細則により、ダス教授は、退職まで大学に雇用され、184,396ドル(約1,844万円)の年棒が支払われ続ける」と述べた。

しかし、3年前の2008年に調査が開始されてからというもの、ダス教授の置かれた教育・研究環境は悲惨だった。授業をもつことが認められなくなった。2011年1月からは外部研究費も得られていない。2002年から2009年の間、多い時には36人もいた彼の研究室に、2012年の今はダス教授以外、誰もいない。

調査途中の一時期、データ改ざんに他の6人の研究者も疑われていたが、研究公正局とコネチカット州・司法長官のアドバイスで、調査はダス教授を中心に行なわれた。後に、調査委員会は他の6人の研究者も調査したが、不正行為は見つからなかった。

調査報告書によると、ダス教授は、データねつ造・改ざんに全く関知していないと主張していた。ところが、他の心臓血管研究センターのスタッフは、ダス教授の主張は信用できないと証言していた。

論文の複数の著者の中で、ダス教授が最も地位が高いために彼にねつ造・改ざんの責任があるとされた。また、ダス教授自身が直接、図の改ざんにかかわったことを暗示する証拠もみつかった。

2012年5月(66歳)、コネチカット大学はダス教授を解雇(退職?)した。

★コネティカット州裁判所

2013年1月7日(67歳)、ダスは、コネチカット州裁判所にコネチカット大学を3,500万ドル(約35億円)の損害賠償で訴えた。さらに、復職を求める訴訟も準備中である。

訴訟は、コネチカット大学が調査報告書を公表した時、コネチカット大学が悪意に満ちた中傷的な声明をたくさん出したこと、ダスがデータを改ざんしたと決めつけて、科学ジャーナルとメディアに、ダスが研究上の不正行為をしたと通知したことに対するものでもある。

また、大学が公正なヒアリングの機会をダスに与えなかったことも問題にした。

訴訟にたいして、コネチカット大学は前言を繰り返すのみで、新たな事実がでてくるようなコメントをしていない。

ダスは、一貫して、ウェスタンブロット像の加工をしていないと述べた。

★その後

2013年9月19日(67歳)、ダスは、損害賠償の訴訟を起こした9か月後、ねつ造・改ざんを認めていないまま死亡した。お悔み告知には死因の記載はなかった。 → ① お悔み告知:Dipak DAS Obituary (2013) 、②Dipak Das dies at 67 – Retraction Watch

なお、ダスは NIHから11億6千万円の研究費を受給していた。しかし、研究公正局がネカト調査を終える前にダスが死亡したため、研究公正局はダスをクロと認定していない。

2016年4月7日(没3年後)時点で、ダスの撤回論文数は20報になっていて、「撤回論文数」世界ランキングの17位(番号17)となった。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理 

2024年6月24日(没11年後)現在、30位でも29報の撤回論文が必要なので、ダスはランキング外になっている。

150213 hc-dipak-das-package-20130125-001ディパク・ダス(Dipak Das)、写真出典

★ 「タイム」誌の「科学ネカトの6大事件」

ダス事件は2012年1月12日付け「タイム」誌の「科学ネカトの6大事件」の1つに取り上げられている(Great Science Frauds| Full List | TIME.com)。

「タイム」誌の「科学ネカトの6大事件」は、以下の通りである。

ディパク・ダス(Dipak K. Das)(米)
アンドリュー・ウェイクフィールド(Andrew Wakefield)(英)
③ウソク・ファン(Woo Suk Hwang)(韓国)
ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)(カナダ)
⑤デビッド・ボルティモア(David Baltimore)(米)
⑥チャールズ・ドーソン(Charles Dawson)(英)

【ねつ造・改ざん・盗用の具体例】

★「2014年1月のOxid Med Cell Longev. 」論文

ダスの没4か月後に出版された論文である。図7と図2に問題があって、2022年8月13日に撤回された。 → 撤回公告

第一著者「Somak Das」の姓がダスで、本事件のダスと同じなので、息子なのだろうか?

2022年8月、エリザベス・ビックが以下の図 7 の矢印箇所は、3レーンのところ、4レーンのバンドがあると指摘した。出典:https://pubpeer.com/publications/44A81A79CBAD5D4CF51419BE68E26F

以下の図2 の緑(2段目)と赤(3段目)の図がズレていた。
 

★「2009年6月のMini Rev Med Chem 」論文

2021年7月に撤回された。 → 撤回公告

2021年9月、いくつかの別人の論文の文章を盗用していると、エリザベス・ビックが指摘した。
 
例えば「Fahey JW et al. PNAS (2002)」論文(以下)を盗用した。
左が被盗用論文、右がダスの盗用論文。出典:https://pubpeer.com/publications/295574FD73DDEB24AC9785A5CFF10F
 

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド(PubMed)

2024年6月24日現在、パブメド(PubMed)で、ディパク・ダス(Dipak Das、Dipak K. Das)の論文を「Dipak K. Das[Author]」で検索すると、2002~2024年の179論文がヒットした。

「Das DK」で検索すると、1970~2024年の844論文がヒットした。

ダスは2013年9月19日(67歳)に死亡しているので、そのころ以降の論文は本記事のダスとは別人の論文である。

「Retracted Publication」の検索語でパブメドの撤回論文を探ると、2002~2014年の10年間の24論文が撤回されていた。

最新(2014年)の撤回論文。

最古(2002年)の撤回論文。

なお、この最古(2002年)の撤回論文は、日本人のReiji Hattori と Hajime Otaniと共著である。この2人は、関西医科大学・胸部心臓血管外科の服部玲治(HATTORI Reiji、現在は東住吉森本リハビリテーション病院・院長)と大谷肇(OTANI Hajime、香里ヶ丘大谷ハートクリニック・院長)である。

服部玲治は撤回論文数が1報だが、大谷肇は3報ある。全部、ダスと共著である。

★撤回監視データベース

2024年6月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでディパク・ダス(Dipak Das、Dipak K. Das)を「Dipak K. Das」で検索すると、1論文が訂正、23論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年6月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ディパク・ダス(Dipak Das、Dipak K. Das)の論文のコメントを「”Dipak K. Das”」で検索すると、7論文にコメントがあった。 

●7.【白楽の感想】

《1》不可解な事件

ダス事件は当時、大事件だった。

「赤ワイン健康説」というわかりやすい研究だったことと、当時はネカトへの関心が高かったこともあり、「撤回監視(Retraction Watch)」の2012年1月11日記事には、95件のコメントがあった。

不可解な点が多いのもダス事件の特徴である。

ダス本人は、一貫して、ウェスタンブロット像の加工をしていないと述べている。

大学教授になって20年も経ち、発表論文が500報以上もあり、NIHからの研究費もたくさん受領できていて、自分が唱えた「レスベラトロールの心臓保護作用説」も有名で、3つの研究雑誌の編集担当をしている56歳の教授が、いまさら、データ改ざんをするだろうか?

一方、赤ワインに含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)は、米国だけでも年間3,000万ドル(約30億円)の市場規模である(2014年5月13日記事:国際ニュース:AFPBB News)。

企業の支援もあった。 → ① 2010年2月25日記事:レスベラトロールは心臓保護剤としてアスピリンに取って代わる可能性がある。 → Resveratrol May Replace Aspirin As Heart Protector、②動画(リンク切れ)、音声は聞ける

食品企業・製薬企業などのカネに絡む陰謀や学内政治がうごめいていて、インド出身のダスを追い落とし、彼の失脚で金銭的に得した悪い米国人がかなりいたに違いない。

強欲が渦まく状況だったことは容易に想像がつく。

ダス事件は不可解だと指摘するサイトもある(DR. DIPAK K. DAS (1947-2013) | The Dreamheron Chronicles)。

さらに、不都合な真実が隠ぺいされている印象もある。

コネチカット大学・調査委員会は、6万ページの報告書作成し(60ページの間違いではありません)、報告書の要約(49ページ、リンク切れ)を一時期インターネット上に公開していたが、大学が削除した。コネチカット大学にとって都合が悪いので削除したのだろう。

白楽記事を最初に掲載した2015年2月13日当時、ウェブで報告書と要約を探したが、既に、見つからなかった。今回の更新で、再度探したが、2024年6月24日現在も見つからない。

報告書へのダスの反論はインターネットでは見ることができたが、それも削除された。ある人が保存したのをココ(Dr Dipak Das response。元の出典を失念した)で見ることができる。以下は9ページある保存文書の冒頭部分。

ダスは、研究クログレイの1種である「贈与著者(gift authorship)」などの不正は認めている。しかし、一貫して、ねつ造・改ざんはしていないと主張している。

《2》人種差別?:インド(+近辺国)

人種差別的偏見からダスの失脚をはかったという説もある。

インド(+近辺国)出身の欧米の研究者のネカト事件は多い。中国出身者、中東出身者のネカト事件も多い。それらの国の出身者のネカト犯率が高いのか、普通なのか、データはない(と思う)が、人種差別のにおいもする。

特別多いのかどうか不明だが、2015年2月20日時点でのインド(+近辺国)出身の欧米研究者のネカト事件を以下にリストしておく。

《3》関連日本人 

2002年のディパク・ダス(Dipak K. Das)以下の撤回論文に2人の日本人が共著者になっている。Reiji Hattori と Hajime Otaniである。この2人は、関西医科大学・胸部心臓血管外科の服部玲治(HATTORI Reiji、現在は東住吉森本リハビリテーション病院・院長)と大谷肇(OTANI Hajime、香里ヶ丘大谷ハートクリニック・院長)である。

そして、ナント、服部玲治は、「2008年に朝日新聞と読売新聞で取り上げられた心臓外科の手術ミス(服部玲治先生執刀)」とあり、真偽のほどは計りかねるが、寺田次郎のブログで「関西医大の隠蔽捏造」の1人だとされている(関西医大の隠蔽捏造 警察と検察 今村洋二 澤田敏 服部玲治 高林あゆみ 済生会野江病院 徳洲会)。

この話の真偽は不明だが、米国でネカトに絡んだ研究者が、日本でもネカトに絡んでいるらしい。ネカトが重なるのは、偶然なのか必然なのか?

150213 falsified_research_AP061101054189ディパク・ダス(Dipak Das)、2006年の写真出典

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の協力もあり、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Dipak K. Das – Wikipedia, the free encyclopedia
② 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “Dipak Das” – Retraction Watch
③◎2012年1月12日のウィリアム・ウィアー(William Weir)とキャサリーン・ミーガン(Kathleen Megan)の「Hartford Courant」記事:Fabricated Research: Investigation Finds UConn Professor Dipak K. Das Fabricated Research – Hartford Courant
④ 2013年1月25日のウィリアム・ウィアー(William Weir)の「Hartford Courant」記事:Discredited Scientist Plans To Sue UConn For Libel – Hartford Courant
⑤ 2013年9月25日のビル・サルディ(Bill Sardi)の「ResveratrolNews」記事:Epitaph: Dipak K. Das, PhD, Renowned Red Wine Pill Researcher | ResveratrolNews.com
⑥ 2017年11月10日のジェフ博士(Dr Geoff / November 10, 2017)のブログ記事:Dipak Kumar Das (1946-2013) who faked data about resveratrol – the magic red wine ingredient that cures everything? | Dr Geoff
⑦ 2024年1月26日更新の「Alchetron」記事:Dipak K Das – Alchetron, The Free Social Encyclopedia
⑧ 2012年1月12日のライアン・ジャスロー(Ryan Jaslow)の「CBS News」記事:Red wine researcher Dr. Dipak K. Das published fake data: UConn – CBS News
⑨ 2012年1月11日のニコラス・ウェイド(Nicholas Wade)の「New York Times」記事:Fraud Charges for Dipak K. Das, a University of Connecticut Researcher – The New York Times

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