ディパク・ダス(Dipak K. Das)(米)

【概略】
150213 dipak-das1ディパク・ダス(Dipak Kumar Das、写真出典)は、インドに生まれ、インドのジャダフプール大学(Jadavpur University)を卒業後、米国に渡り、米国で研究博士号(PhD)を取得した。その後、米・コネティカット大学(University of Connecticut)・ヘルスセンター・教授、心血管研究センター・所長になった。医師ではない。

専門は栄養学、生化学、生理学で、発表論文は500報以上ある。

1991年にフランスの科学者・セルジュ・レナウド(Serge Renaud)が唱えた「赤ワイン健康説」、つまり、フランス人に心疾患が少ないのは赤ワインを飲むからだとする説が一般に信じられていた。

現在、この「赤ワイン健康説」は非科学的とされているが(国際ニュース:AFPBB News)、ダスは、赤ワインに多く含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)の論文を117報も発表していて、レスベラトロールに心臓保護作用があるとした説で有名である。

「たおやかな生活を希望して」から、以下、一部修正して引用した(2012年10月11日、赤ワインのレスベラトロール(resveratrol)って効くの?)。

赤ワインを飲むフランス人は心疾患が少ないとの定説からレスベラトロール(resveratrol)の心疾患抑制効果が調べられた。レスベラトロールの心疾患抑制効果の多くはディパク・ダス(Dipak K. Das)の研究で証明されて来たが、彼が多くの論文を捏造していたこともあって、データの信憑性が疑われていた。

ダスはコネティカット大学・ヘルスセンターの心血管研究センターの教授でレスベラトロールの効果の研究では著名であった。500報に及ぶ論文を書いているがそのうちの117報がレスベラトロールについてであったが、非常に多くの彼の書いた論文で捏造や不正が発見され、現在大学を解雇される手続きが進んでいるという。赤ワイン研究データ捏造者として有名になっている。

彼は多くの捏造データを作成し発表したが、心筋梗塞のモデル実験で、レスベラトロールは赤ワインと同じ心筋梗塞抑制効果がある事が確認されている。レスベラトロールは動物実験で糖尿病抑制効果、抗炎症効果や神経変性抑制効果なども報告されている。

ダスは、次の3つの研究雑誌の編集を担当していた。「Antioxidant and Redox Signaling」誌編集長、「American Journal of Physiology: Heart and Circulatory Physiology」誌共同編集者、「Molecular and Cellular Biochemistry」編集顧問。

2008年(62歳)、匿名の公益通報によりねつ造・改ざんが発覚した。

ダスは、ねつ造・改ざんを認めていないまま、2013年9月19日に67歳で死亡した。
 → Dipak Das dies at 67 – Retraction Watch

ダス自身がコネティカット大学の調査報告書に反論している文書や動画もある。

これらから判断して、ダスが犯したとする研究ネカトの一部は冤罪かもしれない。優秀なインド人研究者を排斥する人種差別だとの見方もある。

なお、ダス事件は2012年1月12日付け「タイム」誌の「科学ネカトの6大事件」の1つに取り上げられている(Great Science Frauds| Full List | TIME.com)。

「タイム」誌の「科学ネカトの6大事件」は、以下の通りである。
ディパク・ダス(Dipak K. Das)(米)
アンドリュー・ウェイクフィールド(Andrew Wakefield)(英)
③ウソク・ファン(Woo Suk Hwang)(韓国)
ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)(カナダ)
⑤デビッド・ボルティモア(David Baltimore)(米)
⑥チャールズ・ドーソン(Charles Dawson)(英)

★動画「Dr Dipak Das replies to allegations of scientific fraud」、(英語)18分16秒、dipakdasdefenseが2012/06/17 に公開。ダス自身が自分は無実だと主張している
ココをクリック → https://www.youtube.com/watch?v=3zNJNB5qn54

https://www.youtube.com/watch?v=3zNJNB5qn54

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:コルカタ大学(University of Calcutta)という記述と、ニューヨーク大学(New York University)という記述がある
  • 男女:男性
  • 生年月日:1946年月日。仮に、1946年1月1日生まれとする
  • 没年:2013年9月19日、死亡。享年67歳
  • 分野:栄養学
  • 最初の不正論文発表:2002年(56歳)
  • 発覚年:2008年(62歳)
  • 発覚時地位:米・コネティカット大学・ヘルスセンター・教授、心血管研究センター・所長
  • 発覚:公益通報
  • 調査:コネティカット大学・調査委員会。2008年12月~2012年1月11日。3年間
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:20報。2002~2012年の20論文が撤回されている
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 結末:解雇(退職?)

【経歴と経過】
経歴(Dipak DAS Obituary – West Hartford, CT | Hartford Courant

  • 1946年月日:インドのコルカタ(Kolkata)で生まれる。仮に、1946年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):インドのコルカタ(Kolkata)にあるジャダフプール大学(Jadavpur University)を卒業
  • 1971年(25歳):米国に来た
  • 19xx年(xx歳):ニューヨーク大学(New York University)で研究博士号(PhD)取得
  • 1982年(36歳)、1984年?:コネティカット大学(University of Connecticut)・教授
  • 2002年(56歳):コネティカット大学・心血管研究センター・所長
  • 2008年(62歳):研究ネカトと公益通報される
  • 2012年1月11日(66歳):コネティカット大学・調査委員会は、145か所にデータねつ造・改ざんがあったと発表
  • 2012年5月(66歳):コネティカット大学を解雇(退職?)
  • 2013年9月19日(67歳):死亡

150213 falsified_research_AP0611010541892006年の写真出典

【不正発覚・調査の経緯】

★コネティカット大学・調査委員会

2008年(62歳)、コネティカット大学に研究ネカトとの公益通報がされた。

150213 BruceKoeppenMD_ElsevierAuthor-e1351795413269-118x150[1]2008年12月(62歳)、コネティカット大学は、ブルース・ケッペン医学部長(Bruce Koeppen、写真出典)を調査委員長とし、調査を開始した。

2012年1月11日(66歳)、コネティカット大学・調査委員会は、3年間の調査の結果、6万ページの報告書作成し、データねつ造・改ざんがあったと発表した。ダスの研究費として採択されていた89万ドル(約8,900万円)の外部研究費を辞退した。

調査は、2002~2009年のコネティカット大学・心血管研究センター・所長在職時の101論文をまず予備的に調査し、疑念の残った26論文を詳細に調査した。その結果、145か所にデータねつ造・改ざんがあったとした。

26論文の内、9論文は、赤ワインに含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)の論文だった。他は、加工処理したガーリックよりも生のガーリックの方が心臓には良いとか、ブロッコリーが心臓に良いとする論文だった。

改ざんは、主にウェスタンブロット像の写真ソフトによる加工(改ざん)だった。2005年に改ざんが始まったが、その時点では、ダス研究室にウェスタンブロット実験ができる人はいなかった。それなのに、データが発表されていた。この手のデータ改ざんは、26論文に23か所見つかった。

白楽の感想:ウェスタンブロット実験法は1980年頃に確立された方法である。1980年代半ば以降、白楽の研究室では卒論(学部4年生)でも普通にできる簡単・安価な操作だった。それから25年後の2005年、ウェスタンブロット実験ができる人がいないというのは、米国の研究室とし、とてもヘンだ。ポスドクを1人雇えばいいだけだ。

150213 austin[1]コネティカット大学・副学長のフィリップ・オースチン(Philip Austin、写真出典)は、「私達は、大学の倫理規定に違反する事件が生じたことに深く失望していますが、調査が計画通りに進んだことを嬉しく思います。私達は、当大学の大半の人は大学の諸規定に従って研究していることに感謝しています。今回の調査報告書は、徹底的な調査の結果であり、当然のことながら、完成するまでにかなりの年月を要しました」、と述べている。

ダス教授の年棒は184,396ドル(約1,844万円)である。コネティカット大学・スポークスマンのクリス・ドフランシスコ(Chris DeFrancesco)は、 「大学の細則により、ダス教授は、退去まで大学に雇用され、184,396ドル(約1,844万円)の年棒が支払われ続ける」と述べた。

しかし、3年前の2008年に調査が開始されてからというもの、ダス教授の置かれた教育・研究環境は悲惨だった。授業をもつことが認められなくなった。2011年1月からは外部研究費も得られていない。2002年から2009年の間、多い時には33人もいた彼の研究室に、2012年の今はダス教授以外、誰もいない。

調査途中の一時期、データ改ざんに他の6人の研究者も疑われていたが、研究公正局とコネチカット司法長官のアドバイスで、調査はダス教授を中心に行なわれた。後に、調査委員会は他の6人の研究者も調査したが、不正行為は見つからなかった。

調査報告書によると、ダス教授は、データねつ造・改ざんに全く関知していないと述べている。ところが、他の心臓血管研究センターのスタッフは、ダス教授の主張は信用できないと証言していた。

論文の複数の著者の中で、ダス教授が最も地位が高いために彼にねつ造・改ざんの責任があるとされた。また、ダス教授自身が直接、図の改ざんにかかわったことを暗示する証拠もみつかった。

2012年5月(66歳):コネティカット大学はダス教授を解雇(退職?)した。

★コネティカット州裁判所

2013年1月7日(67歳)、ダスは、コネチカット州裁判所にコネティカット大学を3500万ドル(約35億円)の損害賠償で訴えた。さらに、復職を求める訴訟も準備中である。

訴訟は、コネティカット大学が調査報告書を公表した時、コネティカット大学が悪意に満ちた中傷的な声明をたくさん出したこと、ダスがデータを改ざんしたと決めつけて、科学ジャーナルとメディアに、ダスが研究上の不正行為をしたと通知したことに対するものでもある。

また、大学が公正なヒアリングの機会をダスに与えなかったことも問題にしている。

訴訟にたいして、コネティカット大学は前言を繰り返すのみで、新たな事実がでてくるようなコメントをしていない。

ダス(写真出典)は、一貫して、ウェスタンブロット像の加工をしていないと述べている。150213 hc-dipak-das-package-20130125-001

【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ディパク・ダス(Dipak Kumar Das)の論文を「Das DK[Author]」で検索すると、1970年~2014年の45年間の678論文がヒットした。とても多作である。

2015年1月14日現在、2002~2012年の20論文が撤回されている。

最新(2012年)の1論文。

最古(2002年)の1論文。

最古(2002年)の1論文は、日本人のReiji Hattori と Hajime Otaniと共著である。この2人は、関西医科大学・胸部心臓血管外科の服部玲治(HATTORI Reiji)と大谷肇(OTANI Hajime)である。

【事件の深堀】

★不可解な事件

ダス事件は不可解な点が多い。

本人は、一貫して、ウェスタンブロット像の加工をしていないと述べている。

大学教授になって20年も経ち、発表論文が500報以上もあり、自分の「レスベラトロールの心臓保護作用説」も有名で、3つの研究雑誌の編集担当をしている56歳の教授が、いまさら、データ改ざんをするだろうか?

一方、赤ワインに含まれる抗酸化物質・レスベラトロール(resveratrol)は、米国だけでも年間3000万ドル(約30億円)の市場規模である(国際ニュース:AFPBB News)。食品企業・製薬企業などのカネに絡む陰謀や学内政治がうごめいているだろう。ダスの敵は多いだろう。彼の失脚で金銭的に得した人がいるに違いない。

そういう状況にあることは容易に想像がつく。

おまけに、不可解と指摘するサイトもある(DR. DIPAK K. DAS (1947-2013) | The Dreamheron Chronicles)。

さらに、不都合な真実が隠ぺいされている印象もある。

コネティカット大学・調査委員会は、6万ページの報告書作成し、報告書の要約を一時期インターネット上に公開していたが、大学が削除した。2015年2月13日現在は見つからない。コネティカット大学にとって具合が悪いので削除したのではないかと勘繰りたくなる。

報告書へのダスの反論もインターネットでは見ることができたが、それも削除された。ある人がコピーしたのをココ(Dr Dipak Das response)で見ることができる。

ダスは、研究クログレイの1種である「贈与著者(gift authorship)」などの不正は認めている。しかし、一貫して、ねつ造・改ざんはしていないと主張している。

★人種差別?:インド(+近辺国)

人種差別的偏見からダスの失脚をはかったという説もある。

インド(+近辺国)出身の欧米の研究者が「研究上の不正行為」で悪者とされた事件がソコソコある。人種差別かどうか不明だし、特別多いのかどうかも不明だが、リストしておく。

【白楽の感想】

《1》 研究ネカトは伝染性?

ルク・ファン・パライス(Luk van Parijs)事件で、「研究ネカトは伝染性?」と書いたが、ディパク・ダス(Dipak K. Das)事件でも、2002年の以下の撤回論文の共著者がその後の事件にも関与しているようだ。

第1著者は日本人のReiji Hattoriで第2著者も日本人のHajime Otaniである。調べると、この2人は、関西医科大学・胸部心臓血管外科の服部玲治(HATTORI Reiji)と大谷肇(OTANI Hajime)であると先に書いた。

そして、ナント、服部玲治は、「2008年に朝日新聞と読売新聞で取り上げられた心臓外科の手術ミス(服部玲治先生執刀)」とあり、真偽のほどは計りかねるが、寺田次郎のブログで「関西医大の隠蔽捏造」の1人に指名されている(関西医大の隠蔽捏造 警察と検察 今村洋二 澤田敏 服部玲治 高林あゆみ 済生会野江病院 徳洲会)。

研究ネカトは伝染する?

【主要情報源】
① 2012年12月23日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:ORI: Ohio State researcher manipulated two dozen figures in NIH grants, papers – Retraction Watch at Retraction Watch
Dipak K. Das – Wikipedia, the free encyclopedia
③ ◎2012年1月12日のウィリアム・ウィアー(William Weir)とキャサリーン・ミーガン(Kathleen Megan)の「Hartford Courant」記事:Fabricated Research: Investigation Finds UConn Professor Dipak K. Das Fabricated Research – Hartford Courant
④ 2013年1月25日のウィリアム・ウィアー(William Weir)の「Hartford Courant」記事:Discredited Scientist Plans To Sue UConn For Libel – Hartford Courant
⑤ 2013年9月25日ののビル・サルディ(Bill Sardi)の「ResveratrolNews」記事:Epitaph: Dipak K. Das, PhD, Renowned Red Wine Pill Researcher | ResveratrolNews.com