ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)(カナダ)

2015年3月4日掲載、2024年10月25日更新

ワンポイント:1993年4月x日(61歳)、米国の研究公正局は、カナダのサン=リュク病院・がん研究部長のポアソンが、1977~1990 年の乳がん治療の臨床試験で、115 件のデータねつ造・改ざんしていたと発表した。1993 年3月30日(61歳)から8年間の締め出し処分を科した。乳がん患者は多く、大規模な臨床試験での著名な医師のスキャンダルだったので、米国とカナダでは大騒動になった。ポアソンは事件後、降格処分を受けた。撤回論文は0報。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

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ロジャー・ポアソン(Roger Poisson、写真出典)は、フランスで生まれ育ち、20歳の時、医師になるために、カナダに移住した。1977年(45歳)、モントリオール大学・教授(外科)、モントリオールのサン=リュク病院(St. Luc Hospital in Montreal)・がん研究部長になった。

サン=リュク病院はモントリオール大学・医学生の教育研究病院である。

ポアソンは、著名な乳がん外科の医師になったが、1990年(58歳)、ポアソンの臨床試験にねつ造・改ざんがあるのではないかと疑念がもたれた。

ポアソンは、米国のNIH・国立がん研究所から100万ドル(約1億円)の研究助成金を受領していたので、米国・研究公正局の調査が入った。

1993年4月x日(61歳)、米国の研究公正局(ORIロゴ出典)は、ポアソンが、1977~1990 年の臨床試験で、臨床検査および処置の日付に関するデータを115 件、ねつ造・改ざんしていたと発表した。

1993 年3月30日(61歳)から8年間の締め出し処分を科した。8年間の締め出し処分は重い処分である。

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乳がん患者は多く、しかも、著名な医師のスキャンダルだったので、米国とカナダでは大騒動になった。

ポアソン事件に関連して、乳がん臨床試験の統括代表者だった米国のピッツバーグ大学・教授のバーナード・フィッシャー(Bernard Fisher、写真出典)も研究ネカトの疑念がもたれた。 → 無罪:バーナード・フィッシャー(Bernard Fisher)(米) | 白楽の研究者倫理

なお、2012年1月12日付け「タイム」誌は、ポアソン事件を「科学ネカトの6大事件」の1つとしている(Great Science Frauds| Full List | TIME.com)。

「タイム」誌の「科学ネカトの6大事件」は、以下の通りである。

ディパク・ダス(Dipak K. Das)(米)
アンドリュー・ウェイクフィールド(Andrew Wakefield)(英)
③ウソク・ファン(Woo Suk Hwang)(韓国)
ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)(カナダ)
⑤デビッド・ボルティモア(David Baltimore)(米)
⑥チャールズ・ドーソン(Charles Dawson)(英)

モンモントリオールのサン=リュク病院(St. Luc Hospital in Montreal)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:フランス・カナダ
  • 医師免許(MD)取得:カナダのオタワ大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1931年8月20日
  • 没年月日:2013年4月28日
  • 現在は没後:11 年
  • 分野:乳がん外科
  • 不正論文発表:1977~1990 年(45~58歳)の13年間
  • ネカト行為時の地位:モントリオール大学・教授(外科)、サン=リュク病院・がん研究部長
  • 発覚年:1990年(58歳)
  • 発覚時地位:モントリオール大学・教授(外科)、サン=リュク病院・がん研究部長
  • ステップ1(発覚):「米国外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト(The National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project:NSABP)」のデータ管理担当者の公益通報
  • ステップ2(メディア):「Chicago Tribune」、「ニューヨーク・タイムズ」、「N Engl J Med 1994; 330:1458-1462」など多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①米国・研究公正局。期間:1990年x月~1993年4月
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文0報。臨床試験の115 件のデータ
  • 不正時期:研究キャリアの中期・後期
  • 職:サン=リュク病院・がん研究部長・降格(▽)
  • 処分: NIHから 8年間の締め出し処分
  • 対処問題:なし
  • 特徴:研究公正局がカナダの研究者を摘発した
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

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ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)。写真出典

●2.【経歴と経過】

主な出典:Roger POISSON, | Obituary | National Post

  • 1931年8月20日:フランスのオーベルヴィリエ(Aubervilliers)で生まれた
  • 1952年(20歳):医師になるためカナダに移住
  • xxxx年(xx歳):カナダのオタワ大学(University of Ottawa)を卒業。医師免許取得
  • xxxx年(xx歳):カナダのマギル大学(McGill University)で外科を修行
  • 1977年(45歳):カナダのモントリオール大学(University of Montreal)・教授(外科)、モントリオールのサン=リュク病院(St. Luc Hospital in Montreal)・がん研究部長
  • 1990年(58歳):不正研究が発覚する
  • 1993年4月(61歳):米国・研究公正局はポアソンの臨床試験にねつ造・改ざんがあったと公表した(1993年6月25日:NIH GUIDE, Volume 22, Number 23, June 25, 1993:NOT-93-177: FINAL FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT
  • 1993年(61歳)?:サン=リュク病院(St. Luc Hospital in Montreal)・がん研究部長から降格
  • 2013年4月28日(81歳):カナダのポイントクレア(モントリオール)で没

【乳がんの治療法】 内容は2015年3月4日版のママ(リンクだけチェック)

乳がんは、欧米先進国では、女性のがんの約25%を占めるほど多く、「3大がん」の1つである。2012年に世界で168万人が罹患し、52万人が亡くなっている。

5年生存率は80~90%と高い。適切に診断・治療をすれば完治の可能性は高い。

但し、乳がんの治療は原則的に以下の外科的切除である。外科的切除を基本にし、抗がん剤や抗エストロゲン剤など化学療法と放射線療法が併用される。

★外科的切除

乳がんの外科的切除は以下の2通りある。

  1. 乳房温存療法(lumpectomy 乳房の部分切除、脇の下のリンパ節を摘出)
  2. 乳房切除療法(mastectomy 乳房を大きく切除、あるいは完全切除)

切除部分を単純に比較すると、以下のピンクの部分を切除する手術である。左は大きく切除する乳房切除術(mastectomy)、右は部分だけを切除する乳房温存術(lumpectomy)である。図出典(リンク切れ)


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もう少し細かく見ると乳房切除術に3段階ある。

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下図の左上は乳房温存術(lumpectomy)、右上は部分的乳房切除術(partial mastectomy)、左下は全乳房切除術(total mastectomy)、右下は胸筋温存乳房切除術(modified radical mastectomy:MRM)である。

日本では、大きく切除する乳房切除が乳がん手術の主流だったが、2003年、乳房温存が主流になった。2015年現在、乳がん手術全体の1/3が乳房切除術で、2/3が乳房温存術である。

例えば、東京女子医科大学・東医療センター外科では2005年頃から乳房温存療法に取り組み、2015年現在では全乳がんの78%に乳房温存療法が行われている(乳がんの治療法)。

以下、歴史的な経過を、渡辺医院院長・渡辺亨の講演から修正引用する(【あけぼの会】講演会報告)。

1852年に生まれたウイリアム・ハルステッドという米国の外科医は、乳房切除術など多くの手術方法を確立した。

乳がんの術式のうち、この先生の名前をとったハルステッド手術と呼ばれる乳房切除術は、かつてはスタンダードな手術法でした。それは乳房と大胸筋、小胸筋、脇の下の軟部組織をまとめて全部一塊にして切除する方法で、20世紀前半の標準的な術式と考えられていました。

ハルステッドがこのような手術を考えた理由は、乳がんはまず局所皮膚からリンパ節に転移し、次に遠隔臓器に転移していく。つまり原発巣(最初に出来た部分)、局所(脇の下のリンパ節)、領域(そのもう少し上)、そしてさらに遠隔というように、ホップ・ステップ・ジャンプと、丁度水面に水の輪が広がって行くようにだんだん広がっていくと考えられていました。

だんだん広がっていくから、がんが小さい範囲のように見えても、なるべく広い範囲を取っておく必要があるということで、昔は筋肉も合わせてまとめて取るようなことをしていました。

ところが広い範囲の切除をしても、しなくてもあまり変わらないということが1970年代以降に分かってきました。

バーナード・フィッシャーという米国の外科医が、NSABPという臨床試験グループで、臨床試験を行ないながら数々のデータを出してきました。たとえば先程のハルステッド手術(乳房切除術)をやっても乳房温存術をやっても、ランダム化比較試験をしたら成績が変わらなかった。だから広い範囲を取る必要は無いということが分かってきました。

さらに、乳房切除療法と乳房温存療法を比較したところ、生命予後、つまり、5年・10年経った生存率、が変わらないということが分かってきたので、広く取っても意味が無いということになり、乳がんというのは、今まで考えられていたハルステッド理論ではなく、別の理論で考えないと駄目だろうということになってきました。

さらに、このバーナード・フィッシャーらのグループは、手術だけ行なった場合と、手術の後に抗がん剤治療をやった場合、抗がん剤をやったほうが再発率が低いし、生存期間も長く生存率も高い、つまり治癒率が高くなるということが分かってきました。

★臨床試験:「米国外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト(The National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project:NSABP)

「米国外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト(The National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project:NSABP)」は、米国・NIH・国立がん研究所からの研究助成を受け、国を越えて、大規模に乳がん・結腸直腸がんの臨床試験を行ない、どのような治療法が優れているかのコンセンサスを、がん治療医師の間で構築している組織である。

発足は、1958年で、既に、50年以上の歴史がある。治験(臨床試験)に参加した女性患者は11万人に及び、米国、カナダ、その後、プエルトリコ、オーストラリア、アイルランドの1,000に及ぶ大学病院、がんセンター、大規模病院が参加している。

治験結果を治療方針に反映させ、目覚ましい効果をあげてきた。例えば、乳がんの化学療法の薬・タモキシフェン(tamoxifen)とラロキシフェン(raloxifene)の効果の科学的証明である(がんナビ)。

1967年、ピッツバーグ大学・教授のバーナード・フィッシャー(Bernard Fisher)が会長に就任し、ペンシルヴァニア州のピッツバーグに本拠を移転した。

「米国外科補助乳がん結腸直腸がんプロジェクト(The National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project:NSABP)」は名称が長いので、以下、「乳がん治療組合(NSABP)」と呼ぶ。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発端

1977年、カナダのモントリオールのサン=リュク病院は、米国の乳がん臨床試験である「乳がん治療組合(NSABP)」に参加した。

サン=リュク病院の乳がん外科医のロジャー・ポアソン(Roger Poisson、写真出典)は、サン=リュク病院のまとめ役であり、カナダ側全体の研究代表者だった。

1990年(58歳)、「乳がん治療組合(NSABP)」会長でピッツバーグ大学・教授のバーナード・フィッシャー(Bernard Fisher)研究室のデータ管理担当者が、サン=リュク病院の臨床試験報告書に異常を見つけた。

異常の例として、治療の日付が改ざんされていた。

ある治療記録には、臨床試験の資格が得られた日付が書いてあり、同じ患者なのに、別の治療記録では、乳がんと診断されてから長い期間が経った別の日付が記載されていた。

長い期間が経つと、臨床試験の資格は得られない。

というのは、「乳がん治療組合(NSABP)」の22か条の治療規則の1つに、臨床試験患者に登録できるのは、患者が乳がんと診断されてから28日以内という規則があるからだ(後に、28日の日数は56日に変更された)。

モントリオールのサン=リュク病院から治療記録を取り寄せると、他の6人の患者にも同様の異常が見つかった。

「乳がん治療組合(NSABP)」は、サン=リュク病院の臨床試験を中断させ、サン=リュク病院の不審な状況をNIH・国立がん研究所に報告した。

NIH・国立がん研究所は研究公正局にこの状況を伝えた。

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★研究公正局

研究公正局が調査に入った。

モントリオールのサン=リュク病院は、ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)を研究代表者に、1977年から「乳がん治療組合(NSABP)」に参加しており、1990年までの14年間に、1,504人の臨床試験患者を登録していた。

研究公正局の調査官と外部の2人の専門家は、サン=リュク病院と1,504人の患者の治療記録を精査した。

さらに、研究代表者、「乳がん治療組合(NSABP)」に関係した医師、データ管理者、研究看護師に治療記録について質問した。

そして、犯人をポアソンと特定した。

別の記事では、「乳がん治療組合(NSABP)」の係員が、モントリオールのサン=リュク病院のポアソンに臨床試験報告書の異常を問い合わせると、驚いたことに、ポアソンが「臨床試験の資格がない患者を臨床試験にお願いしていたので、何年もの間、データを改ざんしていました」と答えた、という記載もある。

研究公正局の調査結果によると、1977年から1990年までの14年間の14回の「乳がん治療組合(NSABP)」プロジェクトで、111回のデータ改ざん、または、登録した99人の臨床試験患者に関係するデータにねつ造があった。

具体例として、過去にがんに罹患した女性患者をがん罹患歴なしと記載したケース、乳がんの進行段階を意図的に格下げしたケース、治療日を改ざんしたケース、適切なインフォームド・コンセントしていないケースがあった。

なぜ治療日を改ざんしたかというと、先に述べたように、「乳がん治療組合(NSABP)」の治療規則の1つに、臨床試験患者に登録できるのは、患者が乳がんと診断されてから28日以内であるという規則があった。ポアソンはこの条件に適合するように、適合しない54人の患者の診断日付を改ざんしていたのである。

サン=リュク病院のデータ管理担当者は、これらのねつ造・改ざんは、ポアソンの指示により行なわれたとのべた。

そして、結局、ポアソン自身もねつ造・改ざんを認めた。

「乳がん治療組合(NSABP)」は、「乳がん治療組合(NSABP)」として推奨した乳がん治療指針が、ポアソンのデータねつ造・改ざんが発覚したことでどれほど改訂が必要か、検討し結果を発表することになった。

1993年4月(61歳)、研究公正局は官報やニュースレターで、上記の調査結果を公表した。

ネカトは1990年に発見され、ポアソンは1991年に少なくともある程度の過失を認めていた。しかし、ほとんどの患者と医師は、官報や研究公正局のニュースレターなど読むわけではない。

多くの人は、1994年3月22日にシカゴ・トリビューン紙(Chicago Tribune)がポアソンの不正事件を報じるまで事件を知らなかった(以下)。それで、大多数の人は、研究不正が隠蔽されていたという疑念を抱いた。

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★ポアソンの評価

研究公正局の調査員の1人はポアソンを次のように評価した。

ポアソンのデータ改ざんは、研究結果を特定の方向に捻じ曲げるつもりはなく、単に、できる限り多くの患者を登録しようとした改ざんである。つまり、ポアソンのデータ改ざんの動機は承認欲求による「ミエ、虚栄」である。

ポアソンは、自分が優秀で、NIH・国立がん研究所から100万ドル(約1億円)も研究助成されている。そして、参加している「乳がん治療組合(NSABP)」プロジェクトに自分が大きく貢献している、と組合会長のフィッシャーに思われたかったのだ。

自分が優秀であると認めてもらい、フィッシャーの論文の共著者になりたかったのだ。

マスメディアからいろいろ叩かれ、ポアソンは、憤慨して、次のコメントをした。

これは米国とカナダの医学界の政治抗争である。米国の乳がん治療では、乳房切除療法(mastectomy)よりも、外観を損なわない乳房温存療法(lumpectomy)を推奨している。ところが、カナダは乳房温存療法(lumpectomy)の手術をあまり導入してこなかった。だから、米国医学界はカナダの乳がん治療をイマイマしく思っていた。その標的が私で、私が代表して、米国医学界を敵に回した格好になったのだ。米国医学界は私をスケープゴートとしたのだ。つまり「カナダの医師にショックを与えろ」ということでしょう。(出典不明。ゴメン)

米国・国立がん研究所はポアソンに100万ドル(約1億円)の研究助成している機関だが、国立がん研究所の癌治療・副ディレクターのドワイト・カウフマン(Dwight Kaufman)は、ポアソンのコメントを「茶番だ」と酷評した。

さらに、「ポアソンは、科学的方法が何たるかをわかっていないか、科学研究というものへの敬意がない。データを改ざんすることで世界中の女性の健康をそこなうことを、ポアソンは、全く、わかっていない」と指摘した。

ポアソンは、「研究報告に小さなデータの不一致があったことで、自分の乳がん治療への貢献度を判断しないで欲しい。私は、患者の幸福にとても大きく貢献してきているのです」と抗弁している。

この事件のケジメとして、ポアソンは、米国政府の医学研究助成金を受領できなくなった。さらに、カナダのサン=リュク病院のがん研究部長を降格させられた。しかし、カナダ当局はそれ以上、ポアソンにペナルティを科していない。

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★米国が5,000万円の賠償金要求

1995年5月30日、米国・司法省は、ポアソンの研究不正による損害賠償として、カナダのサン=リュク病院に518,175ドル(約5,182万円。カナダドルで約725,445ドル)を求める訴訟をカナダで提訴した。 → ① #298 U.S. Sues Canadian Hospital for $500,000。② U.S. Sues Hospital on Breast Cancer Study – The New York Times。③ US Sues St. Luc Hospital For Grant Funds, Expenses Of Data Reanalysis, Investigation

サン=リュク病院の1,511人の患者の治療記録の調査費用、改ざんされたデータの修正費用などに対してである。

2024年10月24日現在、29年前の訴訟なので、決着はついていると思うが、白楽は判決を把握できていない。多分、サン=リュク病院は約5,182万円を支払ったと思う。

【ねつ造・改ざんの具体例】

1977年から1990年までの14年間の14回の「乳がん治療組合(NSABP)」プロジェクトで、111回のデータ改ざん、または、登録した99人の臨床試験患者に関係するデータにねつ造があった。

具体例として、過去にがんに罹患した女性患者をがん罹患歴なしと記載したケース、乳がんの進行段階を意図的に格下げしたケース、治療日を改ざんしたケース、適切なインフォームド・コンセントしていないケースがあった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2024年10月24日現在、パブメド(PubMed)で、ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)の論文を「Poisson R[Author]」で検索すると、1947年~2022年の76年間の66論文がヒットした。

この記事のポアソン以外の人の論文が入っていると思われる。

2024年10月24日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2024年10月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでロジャー・ポアソン(Roger Poisson)を「Kristin Roovers」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年10月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ロジャー・ポアソン(Roger Poisson)の論文のコメントを「Roger Poisson」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

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《1》31年前と現在

ポアソン事件は1993年に研究公正局がクロと発表した大事件だった。

9年前(2015年3月4日)に最初の白楽記事を公開し、今回の記事更新は2024年で、事件から31年が経過している。

1993年当時の研究公正局の報告書は、現在と比べると、随分と簡単で、研究不正の具体的内容を示していない。

白楽は約26年も研究者倫理を研究しているが、研究公正局の1993年の報告書を改めて読んで、自分が研究を始めたころの状況を思い出し、懐かしいというか、なんというか、複雑な感情がわいた。

しかし、26年経っても、世界の研究不正事件は減らない。明確なデータはないが、日本も世界も、研究不正事件はむしろ増えている(と思う)。

どうしてなんだろう?

答えは単純で、対策が不十分だからである。

《2》防止方法:医者の特別扱い禁止

ポアソン事件で見るように、著名な医師が不正を犯しがちである。

著名な医師は、自分が、別格だと思ってしまう。

米国の医学コンサルタントのマーク・ホッホハウザー(Mark Hochhauser、写真出典)は治験審査委員会(IRB)の委員を務めた経験をもとに,臨床医学研究者が不正を犯す根っこに医師の特権階級観があると、以下のように指摘している。

外科教授となると、医局の数十人の医師が恭順し、専門分野に関しては世界の権威で、全知全能のようにふるまえる。

手術室では患者の生命を掌握する神のような存在である。英語では“God complex”と呼ばれる(“神格化”)。

臨床医として有名で高い地位になればなるほど、規則・規範を軽視・無視し、自分に都合のよいように解釈する性向が強くなる。

つまり、臨床医学研究者の「自己中心」、「全知」、「全能」、「処罰されない」という4つの間違った特権階級観が形成されると指摘している。 → Mark Hochhauser:『Scientific Misconduct: When Smart Researchers Do Stupid Things』(2024年、リンク切れ)

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医師の特権階級観に依存する研究不正を防ぐには、規則を明確にすることが第一である。

そして、「《2》医者の特別扱い禁止」と同視点だが、著名な医師・科学者でも特別扱いせずに、規則を遵守させる。

規則違反する著名な医師・科学者には、マスメディアまたは官憲が乗り出す。

以上は建前だが、実際は、医師数を増やすことだ。

韓国で医師数を増やすことに医師会が反対しているが、人口1000人当たりの医師は2.6人で日本と同じである。OECD加盟国平均(3.7人)と比較すると医師数はかなり少ない。

つまり、日本は韓国と同様に医師が不足している。

ところが、国民の健康は二の次で、医師の特権を守るため、医師を増やさない・増やせない。

医師を増やせば適切な競争が起こり、医師の特権階級意識はへる。単純である。

歯科大学・歯学部は入学定員が異常に多く、歯学部に容易に入学できるが、入学しても、歯科医の資格を得られない(2024年 歯科医師国家試験の合格率は66.1%! )。歯科医の資格を得ても、歯科医が過剰で、勤務歯科医も開業歯科医も大変である。

国民のために、歯学部・歯科大学の一部を医学部に改組したらどうだろう。

《4》掛札 堅(かけふだ つよし)先生

1995年6月、白楽は米国・NIHの国立がん研究所に5か月滞在した。研究所に到着後、大先輩のNIH・がん研究者の掛札 堅先生(かけふだ つよし、『アメリカNIHの生命科学戦略』の著者)の研究室に表敬訪問した。

その時、掛札先生は、「アメリカは、今、カナダの乳がん研究者の事件で大騒ぎだよ」とおっしゃった。

日本では、その事件は全く報道されていなかったので、白楽はなんの話しか分からず「ポカン」としてしまった。20年も経った今(2015年3月4日の白楽記事)、その時のことを突然思い出した。それが、このポアソン事件だった。

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故・掛札 堅(かけふだ つよし)。(写真。1997年7月白楽撮影、NIHの掛札先生の研究室)。1929年生まれ、1951年東大医学部卒、1960年渡米、City of Hope医学センターを経て、NIHの国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)で研究し、2006年、アメリカで没。

掛札先生、いろいろお世話になりました。感謝しています。

ーーーーーー
日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

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①  研究公正局の報告:(1)2007年9月xx日:ORI Newsletter Volume 15, No. 4 September 2007。(4)1993年6月25日:NIH GUIDE, Volume 22, Number 23, June 25, 1993:NOT-93-177: FINAL FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT.
② ◎最初の記事。1994年3月13日のジョン・クルードソン(John Crewdson)の「Chicago Tribune」記事:Breast cancer researcher gave false data for decade – Baltimore Sun(リンク切れ)
③ 1994年4月1日、クライド・ファーンズワース(Clyde H. Farnsworth,)の「ニューヨーク・タイムズ」の記事:Doctor Says He Falsified Cancer Data to Help Patients – NYTimes.com
④ (閲覧有料)1994年5月19日、バーナード・フィッシャー(Bernard Fisher, M.D.)とキャロル・レドモンド(Carol K. Redmond, Sc.D.,)の「N Engl J Med 1994; 330:1458-1462」の記事:Fraud in Breast-Cancer Trials — NEJM
⑤ 1994年9月15日、F Lowry 「Dr. Roger Poisson: “I have learned my lesson the hard way”」、CMAJ. 1994 Sep 15; 151(6): 835–837. PMCID: PMC1337145:Dr. Roger Poisson: “I have learned my lesson the hard way”.
⑥ 2010年の著書(一部無料閲覧可)。リサ・ケレネン(Lisa Keränen)の『Scientific Characters』。248 pp.、978-0-8173-1704-1、$44.95。2章が「ロジャー・ポアソン」で、3章が「バーナード・フィッシャー」。
⑦ ウィキペディア英語版:Bernard Fisher (scientist) – Wikipedia, the free encyclopediaの「Poisson case」の部分
⑧ 新聞記事の切り抜き:テッド・コルトン(Ted Colton)のパワーポイント「Fraud in Medical Research: Emphasis on Statistical Aspects」。サイト:www.pitt.edu/~super7/30011-31001/30521.ppt
⑨ 1994年9月15日、Charles Weijer:The breast cancer research scandal: addressing the issues
⑩ 1994年3月28日、クリスティン・ゴーマン記者(Christine Gorman)の「TIME」記事:Breast Cancer: a Diagnosis of Deceit | TIME

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します

 

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