7-32.捕食学術誌に注意!

2019年3月13日掲載。

白楽の意図:捕食学術誌に関する基本的な知識と標準的な考え方が書いてある論文だと思いつつハニー・シャルマ(Hunny Sharma)の2018年10月(?)の論文を読んだ。紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

捕食学術誌に研究論文を掲載することで学術界に大きな混乱を招いている。真正学術誌は、数十年にわたり研究者を惹きつけてきた。一方、捕食学術誌は、学問的に価値のない研究成果を出版している。研究者は、捕食出版とはどういうものかを認識しておく必要がある。 この論文で、捕食出版社の手法と戦略、そして、捕食論文の短所について解説する。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Predatory journals: The rise of worthless biomedical science
    日本語訳:捕食学術誌:価値のない生物医学の台頭
  • 著者:H Sharma and S Verma
  • 掲載誌・巻・ページ:J Postgrad Med. 2018 Oct-Dec; 64(4): 226–231
  • 発行年月日:2018年10月(?)
  • DOI: 10.4103/jpgm.JPGM_347_18
  • ウェブ:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6198688/
  • PDF:

★著者

  • 第1著者:ハニー・シャルマ(Hunny Sharma)
  • 写真: https://www.researchgate.net/profile/Hunny_Sharma
  • 履歴:https://www.facebook.com/Dr.HunnySharma
  • 国:インド
  • 生年月日:現在の年齢:41 歳?
  • 学歴:インドのラジーヴ・ガンディー健康科学大学(Rajiv Gandhi University of Health Sciences)、2007年卒業、歯科医師免許・取得
  • 分野: 歯の公衆健康
  • 論文出版時の地位・所属:研究員(?)・トリヴェニ歯科学研究所 :Triveni Institute of Dental Sciences, Hospital and Research Centre, Bilaspur, Chhattisgarh, India。なお、現在この部署の職員リストにハニー・シャルマ(Hunny Sharma)の名前がない:Triveni Institute Of Dental Sciences, Hospital & Research Centre

トリヴェニ歯科学研究所(Triveni Institute of Dental Sciences, Hospital and Research Centre)。写真:http://www.trivenidental.com/#

●3.【論文内容】

【1.序論】

学術誌に研究成果を発表することは、若い研究者にとって最も刺激的な目標の1つだ。

インターネットは、世界中のコミュニケーションとデジタルコンテンツ転送における最大の発明と進歩の1つである。しかし、硬貨が2つの面を持っているように、インターネットの発明とデジタル化はもう一つの歓迎されない面、捕食学術誌の登場をもたらした。

世界の研究コミュニティへ研究情報をタイムリーに普及することは、学問の進歩と世界からの評価を得るのに役立つ。

研究情報を得るために高いコストで学術誌を購読する必要があったことは、オープンアクセス(OA)運動が出現する大きな理由だった。 インターネット時代の到来は、あらゆる情報が誰にでも、いつでも、そしてどんなフォーマットでも利用可能になる方法を提供した。

オープンアクセスの主な利点は、世界の研究成果への簡単なアクセス、公開された研究成果の可視性と読者の増加、研究成果の影響力が高くなること、研成成果の世界的な共有の増加である。

オープンアクセスは、研究のスピード、効率、有効性を向上させた。

しかし、捕食学術誌は、学術出版の公正をおびやかしている。

捕食出版社は一般的に、1つの出版社が1つの学術誌を出版する独立系、スタンドアローンのビジネスモデルと、1つの出版社が多数の学術誌を出版するビジネスモデルがある。どちらの捕食出版社も、査読なし、またはほとんどなしで、オープンアクセスモデルを悪用し、論文を出版する。

簡単に言えば、これらの捕食誌は、90年代初頭に始まったオープンアクセス運動の副産物である。捕食誌は、評判の高い一流学術誌と類似のウェブページを作成し、若くて経験の浅い研究者を引き寄せ、高額な論文投稿料を課して、金銭的な利益を得る。

学術の発展は、若い研究者がインターネットから取得する情報に依存しており、この情報の大部分はオープンアクセス学術誌に掲載された論文から来ている。 しかし、捕食学術誌の台頭により、私たちは、学術誌を盲目的に信頼することができない世界に住んでいる。

インターネット時代以前は、関連情報の検索は困難だったが、インターネット時代になって、関連情報の検索は容易になった。学問の世界では、しかし、捕食学術誌の出現により、大量の汚染された、偽の、盗用された、または改ざんされた情報にヒットするという別の問題が生まれた。

捕食学術誌と真正学術誌を見分けることは、必ずしも簡単な作業ではない。 さらに、新しい捕食学術誌が短命でオンライン上に登場してくるので、そのような捕食学術誌を追跡することは不可能である。

従って、捕食学術誌を回避する唯一の方法は、それらを正当な索引学術誌と区別する知識と方法の習得になる。この総説は、捕食誌の運営方法、運営の動機、捕食誌に掲載することの不利な点、捕食誌を真正学術誌と区別する知識と方法を示す。

【2.捕食誌とは何ですか?】

ウェブスター辞典によると、「捕食」という言葉は、個人的な利益のために他人を傷つけたり悪用したりする意図の行為を指す。 同様に、学術誌の世界では、標準的な出版基準を満たさずに、オープンアクセス論文の論文掲載料(article-processing charges:APC)という名目で研究者から金銭的な利益を得ることを意図した学術誌を指す。

【3.捕食誌を認識するには?】

今日、研究者の世界では激しい競争があり、昇進や任期延長は論文出版が基準になっている。それで、捕食学術誌での論文出版が増加している。

Wahyudi(2017)は、捕食学術誌からの25件の原稿勧誘の招待状に基づいて、経験の乏しい研究者が捕食学術誌と真正な学術誌を区別する一般的な方法を示した。以下は、捕食学術誌が送信してくるEメールの特性である。

  1.  典型的な捕食誌は、グローバル(Global)、インターナショナル(International)、ユニバーサル(Universal)、アジア(Asian)、アメリカ(American)、ヨーロッパ(European)のような魅力的な言葉を学術誌のタイトル名に使用している[ 8、9、10 ]。
  2. 一般的には多種多様な研究分野を網羅し、すべての分野から研究者を引き付けるため、学際的な分野にも対応している[ 9 ]。
  3. 本当は出版規範委員会(COPE)のメンバーではないにもかかわらず、ホームページに出版規範委員会(COPE)のロゴを不正に掲載している[ 11 ]。
  4. Clarivate Analyticsによって発行された真正なインパクトファクター(JIF)、またはUniversal Impact Factor(SIF)の代わりに、Scientific Journal Impact Factor(SJIF)、Global Impact Factor(GIF)、Journal Impact Factor(JIF)などの誤ったインパクトファクターを表示する。[ 12 ]
  5. 査読は通常は1か月かかるが、余分な費用を支払うことで1日から1週間などの速い査読を保証することで研究者を引き付ける [ 13 ]
  6. 索引付けされていなくても、PubMed、Medline、オープンアクセス誌要覧(DOAJ)、Web of Scienceのような評判の高い論文データベースに採択されたかのように、ロゴを模倣して自分のウェブサイトに配置する。[ 14 ]。
  7. 一般的に、gmail.comやyahoo.comなどの無料電子メールアドレスを使用して、大量のスパム電子メールを送信する[10、13]。
  8. 会議での講演者、学術誌の編集者、査読者への就任招待をする。また、その招待と一緒に原稿の頻繁な招待[ 13 ]
  9. 学術誌の「特別号」への原稿の頻繁な招待[ 13、14 ]
  10. 編集委員の任命および所属に関する情報が不足している学術誌を国際的に見せるため、さまざまな国からの多数の編集委員を招待[ 10、13 ]
  11. 一流の索引付き学術誌の高度に洗練されたウェブサイトを模倣したウェブサイトを作る [ 9 ]。

【4.捕食誌の運営】

捕食学術誌のほとんどは、1人の人間が1台のパソコンで運営している。 これらの学術誌は、論文掲載料を請求し、査読をせずに原稿の出版を保証する。従って研究の信頼を危うくする。また、大量のスパムとなる原稿勧誘の招待状を多数の研究者に送る。

捕食誌は、それ自体が真正であることを証明し、研究者の注目を集めるためにいくつかの方法と戦術を使用している。

戦術の1つは、「捕食会議」である。さまざまな捕食出版社が開催する捕食会議は一見すると学術的にまともに見えるが、参加者から高額の参加費を徴収することが真の狙いである。また、捕食会議で発表すると、会議録が国際的な索引学術誌に掲載されることを約束することで研究者のプライドをくすぐり、参加者に真正な印象を与える。

未熟な若手研究者に捕食誌へ論文掲載するように誘致するこの方法は、膨大な資金の損失と貴重な時間の喪失をもたらすだけでなく、重要な論文が研究界から失われるという状況を引き起こす。

【5.捕食誌掲載のデメリット】

捕食学術誌の査読はないか弱いので、盗用やねつ造・改ざんなど反倫理的な発表がされる。その発表がより大きな学術コミュニティに入ってくると、誤った知識を持つ研究者が増加し、研究の質が損なわれる。

捕食誌は、査読付き学術誌に一般的に掲載されないネカト論文を掲載し、研究界に深刻な脅威を与える。

弱い査読システム、論文アーカイブシステムの欠如、研究界への論文普及の欠如といった捕食誌のいくつかの欠点は、研究データ、資金、研究者の努力を損失することになるだろう。[ 17 ]

【6.まともな研究が捕食誌に掲載されるとどうなるか?】

捕食学術誌に掲載されたまともな論文はインターネット検索で公に利用可能だが、評判の高い図書館システムでは索引付けされることはないため、より大きな学術コミュニティからはアクセスされない。それで、研究界にとっての価値が低い。

これは若手研究者のやる気を喪失させるだけでなく、彼らの権利であったであろう十分な信用も無くす。 さらに、捕食学術誌は、ウェブページのドメインが一時的で、論文アーカイブシステムが欠如しているので、捕食出版社が廃業すれば、論文はウェブから消失し、正当で価値のある論文が失われる。この事で、多くの貴重な研究成果が失われる。

一方、捕食学術誌の査読プロセスもまた非倫理的行為の余地を与えている。 Resnik らの研究は、捕食誌の査読者が原著者の考えを盗んで故意に彼らの出版を遅らせるという非倫理的な事例を報告している。

NIH・国立環境衛生研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)の研究者、研究スタッフ、ポスドク、テクニシャンへのアンケートで、回答者の6.8%が捕食誌の査読者が原稿の守秘義務を侵害していると報告した。査読者は、個人的な利益を得るために投稿者の許可なしに彼らのアイデアやデータを使用した。回答者の約9.2%は、査読者は査読プロセスを非倫理的に遅らせ、アイデアを盗用し、同じトピックについて査読者の研究成果として発表した。[19,20,21]。

【7.捕食論文を引用するとどうなる?】

捕食誌に掲載された論文を自分の論文で引用するとどうなりますか?

捕食誌はPubMed、Medline、Web of Science、Scopusなどの主要な書誌データベースに索引付けされていない。 また、利益相反の批判、盗用のチェックをされないように暗号化して掲載するので、捕食誌に掲載された論文へのアクセスが制限されている。 従って、多くの場合、これらの論文は追跡できない。

追跡できない論文、つまり、実在していた証明ができない論文、を引用したことで信用を失う。

【8.世界の編集者協会の「捕食誌」に関する声明】

世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors (WAME))の「捕食誌」に関する声明に、正当な学術誌と捕食誌を区別する方法を垣間見ることができる。

捕食学術誌は投稿されたすべての原稿について査読を行い、正当な学術誌と同じだと主張しているが、世界医学雑誌編集者協会(WAME)の声明によると、これとは正反対で、外部査読なしに投稿された原稿のほとんどすべてを掲載している。

捕食学術誌は、世界医学雑誌編集者協会(WAME)、出版規範委員会(COPE)、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE:International Committee of Medical Journal Editors)、研究評議会編集者評議会(CSE)などの評判の良い団体が推奨している出版方針に従わない。

捕食学術誌は、論文の長期アーカイブをせず、利益相反の管理がなく、出版プロセスと手数料の透明性が示されていない。

上記のような点が捕食誌かどうかを判断する手がかりと示しながら、世界医学雑誌編集者協会(WAME)は依然として学術誌が捕食誌どうかを判断する唯一の方法としてビールのリストを使用することに警告を発している。 ビールのリストではなくオープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals:DOAJ)と「Think. Check. Submit」 を推奨している。 [ 23、24、25 ]

【9.捕食誌が研究界を破壊】

2013年、ジョン・ボハノン(John Bohannon)の「2003年のサイエンス」論文である(Who’s Afraid of Peer Review?)。

ボハノンは、カネさえ払えばねつ造論文や不正論文を出版してくれるオンライン・ジャーナルがどのくらいあるか、実際に調べてみた。

エリトリアの架空の研究所に所属するアフリカの研究者として、癌治療薬の利点を述べた論文原稿を世界中の304のオンライン・ジャーナルに投稿してみたのである。内容は、化学の知識がありデータを読み取れる標準的な高校生なら、誰でも容易に研究の欠陥がわかるいい加減な論文だった。

しかし驚くべきことに、304件の投稿先のうち、157件が出版のためにさらなる検討をするか、またはすぐに「出版します(出版受理)」と返事してきたのだ。

これは捕食誌が学問的に価値のない論文を出版し、価値のない論文でウェブをあふれさせ、研究界を破壊する程度が大きいことを示している。[26]

【10.研究者はなぜ捕食誌に掲載するのか?】

研究者はなぜ捕食誌に掲載するのか?

多くの若い研究者と確立した研究者は、履歴書の業績リストを良く見せることで、雇用、研究資金、助成金の獲得、昇進を目的に、捕食学術誌に論文を掲載する。 このように、学術誌が捕食誌だと知っている研究者も、論文出版のプレッシャーで、捕食誌に出版している。[27,28]

一方、捕食学術誌は、それ自体がまともな学術誌であることを証明するためにさまざまな方法を使用している。その戦略の1つは、偽の索引付けをし、偽の数値を記載する方法である。

インドの大手新聞「The Hindu」が発表したレポートによると、インドの大学助成委員会(University Grants Commission:UGC)が承認した学術誌のリストを系統的に調べたところ、ホワイトリストに掲載されている学術誌の88%が捕食誌だった。真正学術誌とされているホワイトリストに既にこれほど捕食誌が浸透しているのは驚くほどである。[ 29 ]

インドの大学助成委員会(UGC)は、真正学術誌の基準としてISSN番号を使用していた。「国際標準シリアル番号」(ISSN)番号は、新聞、学術誌、およびあらゆる種類の定期刊行物(印刷物および電子媒体)を識別するために使用しているが、この番号は、主にバーコードおよびライブラリの分類、注文、および配布を目的とした識別のための番号である。 ISSN番号は、管理目的および物流目的で必要な番号である。 学術誌、定期刊行物、モノグラフのいかなる「質」を反映していない。インドの大学助成委員会(UGC)の真正学術誌の基準は大きな間違だ。[ 30 ]

【11.阻止するために何ができるか?】

これらの捕食誌が学術研究を破壊するのを阻止するために何ができるか?

コミュニケーション、知識の共有、そして研究の進歩にインターネットは革新的な進歩をもたらした。しかし、その反面、ハッキングやサイバー犯罪という暗い影が現れた。

自由にアクセス可能な研究論文を全員に提供するという高貴な夢で発明された学術論文へのオープンアクセス運動は、非倫理的に利益を追求する捕食学術誌の出現という暗い影が現れた。

コロラド大学図書館学の準教授、ジェフリー・ビール(Jeffre Beall)は、この捕食出版の悪に対処するために、ビールのリスト(2011–2017年)を作成した。

ビールのリストは、捕食誌(含・思われる)のリストで、毎年更新されていた。

2017年1月17日、しかし、残念ながら、出版社、学術誌編集者、大学からの多大な圧力に屈して、ビールはリストを削除した。 [27,31]

ビールは、学術出版社を監督する規制機関を支持しなかった。その代わり、捕食誌に対する最善の防御策は、研究者に知識と手法を教えることで、これら捕食学術誌を識別する能力をすべての研究者に植え付けようとした。このため、ビールは、次章に示すような捕食学術誌の識別基準を示した。[ 32 ]

【12.資料】

以下に4つの表がある(タイトルだけ示す)

表1捕食誌における編集者およびスタッフの問題
表2捕食学術誌における経営管理または出版方針の問題[ 32 ]
表3捕食誌における整合性の問題[ 32 ]
表4捕食誌におけるその他の雑多な問題[ 32 ]

さらに、捕食誌を回避する以下の方法を示している。

  1. Think. Check. Submit」 を推奨
  2. オープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals:DOAJ)

●4.【関連情報】

①【捕食学術リスト】
捕食学術誌への悪ふざけリスト(1)
捕食学術の記事リスト(1)

●5.【白楽の感想】

《1》優れた総説

捕食学術誌に関する基本的な知識と標準的な考え方をまとめた優れた総説だ、と感じた。

でも、この総説では、捕食誌問題は解決しない、と感じた。

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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怠惰なクマ
怠惰なクマ
2020年8月11日 8:44 AM

先生の記事で勉強しております。実質的に査読がされていないいわゆるハゲタカジャーナルに投稿。それを英文査読付論文業績として所属機関のサイトやresarchmapに掲載することは不正にはならないのでしょうか。本人はもちろん査読がおこなわれていないことをしっているはずです。これは元同僚のサイトを見たときに判明しました。昇級のため英文査読付論文が必要だったかもしれません。