ワンポイント:博士論文の盗用が発覚し、博士号取り消し
●【概略】
マークス・チャベディ(Marks Chabedi、写真未発見。代用写真出典)は、南アフリカ共和国・ヨハネスブルグのウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)・教授で、専門は政治学だった。
2000年(xx歳)、チャベディは、米国のニュースクール大学(The New School)大学院生の時、米国・フロリダ大学(University of Florida)のキンバリー・レイングラン(Kimberly Lanegran)の博士論文をほぼ一字一句盗用した博士論文を提出し、博士号を取得した。
2004年(xx歳)、盗用が発覚し、ニュースクール大学から博士号が取り消され、ウィットウォーターズラント大学から解雇された。
ウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)
- 国:南アフリカ共和国
- 成長国:
- 研究博士号(PhD)取得:米国のニュースクール大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明
- 現在の年齢:
- 分野:政治学
- 最初の不正論文発表:2000年(xx歳)
- 発覚年:2004年(xx歳)
- 発覚時地位:南アフリカ共和国のウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)・教授
- 発覚:被盗用者からの公益通報
- 調査:①米国のニュースクール大学
- 不正:盗用
- 不正論文数:1報
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:博士号取り消し。辞職
米国のニュースクール大学(The New School)
●【経歴と経過】
- 生年月日:不明
- 2000年(xx歳):米国のニュースクール大学(The New School)に博士論文を提出し、博士号が授与された
- 20xx年(xx歳):南アフリカ共和国・ヨハネスブルグのウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)・教授に就任
- 2004年(xx歳):博士論文の盗用が発覚
- 2004年(xx歳):博士号が取り消された。ウィットウォーターズラント大学を解雇された。
●【不正発覚・調査の経緯】
1997年、米国・フロリダ大学(University of Florida)の大学院生であるキンバリー・レイングラン(Kimberly Lanegran、写真出典)は博士論文を提出し、博士号を取得した。
1997年、レイングランは、米国のニュースクール大学の大学院生だというマークス・チャベディ(Marks Chabedi)から電話を受けた。「あなた(レイングラン)の論文を読み、あなたの研究に興味を持ちました。自分(チャベディ)の研究テーマはアフリカの政治運動・社会運動で、あなたと同じです。あなたの研究で別の出版物があれば送ってほしい」と。
レイングランは、博士号を取得したばかりで、まだ博士論文を出版していなかった。それで、博士論文の電子ファイルをディスクにコピーし、ディスクをチャベディに送った。
2000年、マークス・チャベディ(Marks Chabedi)は、ニュースクール大学に博士論文を提出し、博士号を取得した。論文名は「Making democracy work : civic associations and the South African transition, 1979-1995」だった(MSU Libraries /All Locations)。
2003年夏、レイングランは、チャベディの博士論文に自分の研究がどう引用されているのかという興味で、大学間相互貸出しシステムを利用して、チャベディの博士論文のコピーを入手した。
チャベディの博士論文に自分の論文が引用されていた。よしよし。
次いで、論文をすこし読んだ。すると、チャベディは自分と同じ研究上の問題を共有し、同じ方法で解決していた。よしよし。
さらに論文を読み進めると、驚いたことに、チャベディの博士論文は、ナント、自分の博士論文と全く同じだった。
不自然でないように地名や人名を変えてあるが、文章も内容も一字一句ほぼ同じだった。
驚愕した。
「盗用」されたのだ。
レイングランは、すぐに、ニュースクール大学に連絡した。
ニュースクール大学は、直ちに調査を開始した。
レイングランの博士論文の日付けは、チャベディの博士論文より古い。
しかし、レイングランは、自分の博士論文がオリジナルで、チャベディの博士論文が盗用だとどう証明できるのか?
ニュースクール大学から、論文に記載したインタビューのテープや、オリジナル資料を要求されたので送付した。
2004年(xx歳)、結局、ニュースクール大学は、チャベディの盗用を認め、チャベディの博士号を取り消した。
米国・ニュースクール大学
●【防ぐ方法】
《1》 盗用検出ソフト
何度も書くが、盗用は証拠が明白に残る。原典と照らし合わせれば発覚は容易である。さらに、最近は盗用検出ソフトが普及してきたので、機械的に盗用を検出できる。だから、盗用はバレる。盗用は損だ。
盗用する側は、盗用がバレないと甘く見ている。盗用はバレることを、研究者に徹底的に伝えることで、研究者の盗用防止に効果があるだろう。
また、被盗用者にならないためには、盗用がいつ発生するかわからないので、研究者は常日頃、研究記録をつけ、重要なオリジナル資料は廃棄しないで保管しておくスキルを身につけなくてはならない。そうしないと、自分がオリジナルであるという証明が難しくなるかもしれない。
盗用側は、現実的には、「間違い」で盗用することはあり得ない。他人の文章を10行~20行ほど独立で流用した場合、引用符と引用を忘れたと言い訳するのが関の山だ。
盗用文章やデータを、自分の文章に組み込んだ場合や大規模なコピー・ペーストなら、盗用が明白である。言い訳は成り立たない。
だから、大学院生や研究者に、盗用は証拠が残る・バレる・処分が重い、損だとシッカリ伝えることが盗用を防ぐのに有効だろう。
それを承知かどうかわからないが、盗用する人は後を絶たない。だから、常時、研究文書に研究ネカトがないか監視することも必要だ。日本にはそういう組織はないが、海外にはある。
●【白楽の感想】
《1》 不明点が多い
マークス・チャベディ(Marks Chabedi)の写真や経歴の情報が見つからない。いつ大学教授の職を得たのかわからない。事件の詳細もわからない。どうして盗用したのかもわからない。この事件からは、盗用を防ぐ方法も見いだせない。
●【主要情報源】
① 2004年7月2日、キンバリー・レイングラン(Kim Lanegran)の「The Chronicle of Higher Education」記事”Fending Off a Plagiarist”:The Chronicle: 7/2/2004: Fending Off a Plagiarist(保存版)