リチャード・イーステル(Richard Eastell)(英)


【概略】
141220 eastell_lg[1]リチャード・イーステル(Richard Eastell、1953年2月12日~)は英国人の医師で骨代謝・骨粗しょう症が専門である。王立内科医協会特別会員(FRCP:Fellow of Royal College of Physicians)、シェフィールド大学・教授、英国・国立骨生物医学研究所・所長(National Institute for Health Research’s Bone Biomedical Research Unit)で、骨代謝では世界的に著名で英国の重鎮である。写真出典

以下の会長も務めた:英国・骨研究学会(Bone Research Society)、英国・ナショナル骨粗しょう症協会(National Osteoporosis Society)、欧州石灰化組織学会(European Calcified Tissue Societ)。

2003年(50歳)、ねつ造論文を出版した。

共同研究者にはすぐにバレたが、メディアで糾弾されたのは2005年(52歳)だった。

  • 国:英国
  • 成長国:英国
  • 男女:男性
  • 生年月日:1953年2月12日
  • 現在の年齢:64歳
  • 分野:骨代謝
  • 最初の不正論文発表:2003年(50歳)
  • 発覚年:2005年(52歳)
  • 発覚時地位:シェフィールド大学・教授、英国・国立骨生物医学研究所・所長
  • 発覚:内部公益通報
  • 調査:英国の医事委員会。調査期間不明
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:英国・国立骨生物医学研究所・所長を辞職

★主要情報源:
① ◎オーブリー・ブラムゾーン(Aubrey Blumsohn)のアクトネル事件のサイト:Scientific Misconduct Blog
② ◎2005年12月22日のジェニファー・ウオッシュバーン(Jennifer Washburn)の「Slate」記事:Did a British university sell out to P&G?
③ ウィキペディア Richard Eastell – Wikipedia, the free encyclopedia
④参考:英国の医師の呼称:森臨太郎の考え方: 英国の学会
⑤ 2006年4月7日のフィル・ベイティ(Phil Baty)の「Times Higher Education」記事:Payout in P&G drug data row | General | Times Higher Education
⑥ 2010年2月18日のゼー・コービン(Zoë Corbyn)の「Times Higher Education」記事:Contractual ties trip up radiologist | General | Times Higher Education

141220 professor-richard-eastell[1]写真出典

【経歴】

  • 1953年2月12日:英国・ウェスト・ヨークシャー(West Yorkshire) のシプリー(Shipley)に生まれる
  • 1977年(24歳):英国・エジンバラ大学(University of Edinburgh)を卒業。学士(医学)(MB ChB)
  • 1984年(31歳):英国・エジンバラ大学(University of Edinburgh)で医師免許(MD)
  • 198x年(3x歳):米国・メイヨクリニック(Mayo Clinic)に研究留学
  • 1989年(36歳):英国・シェフィールド大学のヒト代謝・臨床生化学研究室の上級研究員(Senior Research Fellow)
  • 1995年(42歳):英国・シェフィールド大学の骨代謝学・教授
  • 2009年(56歳):英国の国立健康研究所(National Institute for Health Research、NIHR)の上級研究員
  • 2014年(61歳):米国骨代謝学会のフレデリック・バーター賞受賞(Frederick C Bartter Award)

★受賞歴(出典:主要情報源③)

• Young Investigator Award, American Society for Bone and Mineral Research, 1988
• Randall G. Sprague Award for outstanding achievement as a subspecialty trainee in Endocrinology, Mayo Clinic, 1989
• Hospital Doctor of the Year (Osteoporosis Category), 1997
• Corrigan Lecturer, Royal College of Physicians of Ireland, 1998
• Kroc Visiting Professor in Endocrinology, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA, 1999
• Member of MRC’s Physiological Medicine and Infections Board, 2002 to 2006
• Visiting Professor in Endocrinology, University of Pittsburgh, PA, USA, 2002
• Queen’s Anniversary Award team from the University of Sheffield, 2003
• Kohn Award, National Osteoporosis Society, 2004
• Society for Endocrinology Medal, 2004
• PathWest Visiting Lecturer, Perth, Australia, 2005
• Who’s Who, 2007
• NIHR Senior Investigator Award 2009

141220 guest-osteo-NGH[1]2002年のリチャード・イーステル(Richard Eastell)(左):出典

【不正と発覚】

★背景:臨床試験データの公正性

製薬企業が開発した医薬品は、臨床試験(治験)の結果によって、売上が大きく影響を受ける。臨床試験の実施母体は、主に研究大学の附属病院の医師(生物医学研究者)である。もちろん、臨床試験は公正に行なわれるべきだが、有利な展開を誘導するために、製薬企業は策略を練り、なにかと金を絡ませる。

製薬企業は、臨床試験(治験)の費用の約8割を負担しているので、製薬企業と研究大学、製薬企業と医師の間に堕落した関係や悪徳がはびこりやすい。

もちろん、1つの医薬品に関して、複数の製薬企業が競合する。生物医学系に強い複数の研究大学(の学長や研究担当副学長)も競合する。同じ分野の医師(生物医学研究者)も競合する。

そこに巨額のカネが絡むので、あらゆる不正が生じやすい。

論文の公正性を保つには、1978年、カナダのバンクーバーで医学ジャーナルの編集者が出版問題について話し合ったのをきっかけに、世界的な組織として医学雑誌編集者国際委員会(ICMJEI:nternational Committee of Medical Journal Editors)が設立された。

その医学雑誌編集者国際委員会(ICMJEI)が、医学ジャーナルのあるべきスタイの統一基準を制定してきた。(参考:ICMJE統一投稿規定(2010年改訂版))。

日本にも日本版の日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)がある。

2001年、医学雑誌編集者国際委員会(ICMJEI)は、製薬企業の干渉により、学術研究(研究デザイン、データ分析、出版)の客観性と信頼性が損なわれないための新しいガイドラインを設けた。つまり、「当該医学ジャーナルに論文を投稿する著者は、論文発表する関係医薬品の臨床試験データのすべてにアクセスできる権利を持ち、データの正確性について全責任を負える必要がある」とした。

★プロクター・アンド・ギャンブル社と研究契約

141220 無題2002年夏、英国・シェフィールド大学・研究学部長のリチャード・イーステル教授(Richard Eastell)と上級講師で骨代謝専門家のオーブリー・ブラムゾーン(Aubrey Blumsohn、写真出典) は、米国・オハイオ州の製薬企業・プロクター・アンド・ギャンブル社と250,000ドル(約2500万円)の研究契約をした。

ブラムゾーンは、南アフリカで生まれ育ち、医師になってから英国に来た研究者である。2014年12月の調査では、イーステルと共著の論文が1992年から2011年まで31論文ある。

2002年夏にプロクター・アンド・ギャンブル社と契約した研究内容は、イーステルとブラムゾーンが、プロクター・アンド・ギャンブル社の骨粗しょう症薬・アクトネル(Actonel)(日本では味の素製薬などが市販)の有効性を評価することだった。

アクトネル(Actonel)は既に市販されていたので、ゴールは、米国・食品医薬品局による医薬品の承認ではなかった。アクトネルの効能がより一層高く評価され、売り上げが大きくなることだった。ライバル会社のメルク社は骨粗しょう症薬・フォサマック(Fosamax)を販売していた。

イーステルとブラムゾーンは、既に、プロクター・アンド・ギャンブル社の臨床試験の血液と尿のサンプルを2回分析評価していて、2002年夏の研究契約が3回目である。これが最終評価だった 。

懸念もあった。以前、プロクター・アンド・ギャンブル社は、イーステルに独立にデータ分析をさせなかった過去があった。

その時、イーステルは、「自分自身の研究についてなのに、国際骨粗しょう症財団での講演で、研究者仲間の質問に答えることができなかった」とプロクター・アンド・ギャンブル社に不満の電子メールを送っている。「もし、分析を独立に行なったと言うことができれば、私は、それが将来くるかもしれない批判を避けれると思う」ともアドバイスしていた。

今回、イーステルは、上級講師のブラムゾーンが独立に分析を行なえるようにプロクター・アンド・ギャンブル社に提案した。そうすれば、ブラムゾーンと連名で論文も出版できる。

研究契約に従って、ブラムゾーンと彼の研究室員は、数千人の骨粗しょう症患者(女性)の血液と尿サンプルを熱心に分析した。この段階では、どの患者がアクトネル(Actonel)を摂取し、どの患者がプラセボ(気休め薬)を摂取したは知らされていなかった。これは、「盲検」(もうけん)と呼ばれ、データの客観性を保証する確立された方法である。

★生データへのアクセス不可

2002年12月、オーブリー・ブラムゾーンは、全サンプルを調査し終わった。プロクター・アンド・ギャンブル社に、自分で結果を独立に解析できるように、生データにアクセスするパスワードを教えてくれるように依頼した。

しかし、プロクター・アンド・ギャンブル社はパスワードを教えてくれなかった。ブラムゾーンは、何度も依頼した。電子メールだけでなく、手紙も送付した。結局、1年半もの間、依頼したのである。

一例として、イーステルがプロクター・アンド・ギャンブル社に電子メールしたコピーを示す(出典)。2002年6月12日付け電子メールで、イーステルが、データへの独立したアクセスを依頼している。141220 020612

2日後、2002年6月14日付けの以下の返信で、プロクター・アンド・ギャンブル社の統計専門家・イアン・バートン(Ian Barton)は、「他の人にデータ分析してもらうつもりがない」と、データへのアクセスを拒否した141220 020614返事

2003年4月、プロクター・アンド・ギャンブル社のイアン・バートンは、プロクター・アンド・ギャンブル社のゴーストライターであるメアリーロイヤー〈Mary Royer〉が、2003年秋の米国・ミネアポリスの学会(ASBMR)でブラムゾーンが発表するためのアクトネルの原稿を書くと、イーステルとブラムゾーンに知らせた。その時、イーステルとブラムゾーンの両方とも著者にすることを想定していた。バートンは、ゴーストライターが、「私達のキーメッセージに精通している」ことを強調していた。141220 030424

ブラムゾーンはこのメールを読んで、「私達のキーメッセージ」とは何かを推察し、「私達のキーメッセージ」を著名な学会で発表することがプロクター・アンド・ギャンブル社の目的だったと理解した。

プロクター・アンド・ギャンブル社のライバル会社のメルク社も、骨粗しょう症薬フォサマック(Fosamax)を市販していたのである。そして、フォサマックの年間売上高は30億ドル(約3,000億円)で、アクトネルは約10億ドル(約1,000億円)だった。

アクトネルとフォサマックを比較した論文で、多くの医師は、骨格破損を減らし骨密度を増大させるには、フォサマックがアクトネルより効果的だと考えていた。

2003年夏、ブラムゾーンはプロクター・アンド・ギャンブル社が彼のデータを分析する「統計方針」を受け取った。そこには、研究の目的が、「骨粗しょう症薬の販売傾向のシフト」を引き起こすことだと述べてあった。つまり、フォサマックからアクトネルにシフトするには何をどうするかがプロクター・アンド・ギャンブル社の企業戦略だったのだ。

★イーステルのねつ造論文

2003年6月(50歳)、リチャード・イーステル(Richard Eastell)は以下の論文を発表した。共著者にオーブリー・ブラムゾーン(Aubrey Blumsohn)は入っていない。2番目の著者「Barton I」はプロクター・アンド・ギャンブル社の研究員である。

論文は、アクトネルの有効性について主張しているが、イーステルおよび彼の共同研究者は、論文で、その「すべての共著者はデータと分析に完全にアクセスできた」と述べていた。

ブラムゾーンは、それが「ウソ」だと確信した。

ブラムゾーンは、それまで、「生データにアクセスしないで論文を発表したら、不正研究だと告発されますよ」と、イーステルに警告していたのに、イーステルは論文発表を強行した。

アクセスできたとする書面にサインしないと、論文は受理(従って出版も)されない。一緒に研究していた自分はアクセスできなかったから、自分はサインしないと、イーステルに伝えていたから、共著者に入っていなかった。

つまり、論文は、医学雑誌編集者国際委員会が2001年にガイドラインとして定めた「当該医学ジャーナルに論文を投稿する著者は、論文発表する関係医薬品の臨床試験データのすべてにアクセスできる権利を持ち、データの正確性について全責任を負える必要がある」に違反していた。

数日後、プロクター・アンド・ギャンブル社のバートンは、ブラムゾーンにデータの分析を独立してさせなかったけれども、プロクター・アンド・ギャンブル社のオフィスに来ればデータをみられるようにしますと電子メールしてきた。

2003年7月下旬、ブラムゾーンは、英国・サリー市にあるプロクター・アンド・ギャンブル社の本部を訪問した。

そこで、ブラムゾーンはデータを見せてもらった。しかし、見せてもらったデータは異常だった。例えば、アクトネルが骨破損に影響するグラフがあったが、このグラフは、その元となる患者のデータの40パーセントを除いていた。そのデータを含めれば、バートンの言う「私達のキーメッセージ」に反した結果を示すことになったのだろう。

バートンは、もし、除いた40パーセントのデータを除かずに分析すると、アクトネルの効能評価はメルク社に有利になり、メルク社がそのデータを利用すると、懸念したのである。

ブラムゾーンは、プロクター・アンド・ギャンブル社に何度も抗議した。一例として、2005年5月25日の手紙を示す(手紙出典)。141220 2005手紙

この時点では、もう話がこじれているので、差出人はブラムゾーンが依頼した弁護士である。米国・オハイオ州のプロクター・アンド・ギャンブル社のラリー・ゲームス(Larry Games)副社長にあてている。

手紙の内容をかいつまむと以下のようだ。

「2002年7月にプロクター・アンド・ギャンブル社とシェフィールド大学が研究契約した。契約書に、貴殿のサインがあるので貴殿に連絡する。

プロクター・アンド・ギャンブル社は依頼人・ブラムゾーン氏に生データへのアクセスを拒否しておきながら、(生データにアクセスしたという)論文を出版した。これは、科学研究への侮辱であり、医薬臨床共同研究への侮辱でもある。依頼人・ブラムゾーン氏は、データ分析の一部あるいは論文発表はねつ造であると思っている。

関連するすべての生データを、依頼人であるブラムゾーンに書面をもって、開示するよう要求する。

マッケイ法律事務所」

2005年12月初旬、シェフィールド大学は、巨大な製薬企業からの巨額な研究費と1人の研究者を天秤にかけ、製薬企業を選んでしまった。つまり、252,000ドル(約2,520万円)を提供するから、ブラムゾーンに大学を出るようにと交渉したのである。

この提案は、どう見ても、イーステルが提案源に違いない。シェフィールド大学が天秤をかけたのは、「巨額なカネと1人の研究者」ではなかった。「巨額なカネと神聖な研究公正性」だった。イーステルとシェフィールド大学は、カネに目がくらんで、「カネで、研究公正性を売ってしまった」のだ。

ブラムゾーンは、この申し出を断った。そして、メディアに訴えた。

2005年12月22日、イーステルのねつ造とアクトネル事件を、ジャーナリストのジェニファー・ウオッシュバーン(Jennifer Washburn)がメディアで糾弾した:Did a British university sell out to P&G?

2006年3月31日、ブラムゾーンはシェフィールド大学を去った。学内のゴタゴタをメディアに訴えたことが大学の規則に抵触したというのが公式な理由である。

2009年11月、英国の医事委員会(General Medical Council)は、「意図的なミスリード、あるいは不正」には相当しないが、実質的に「間違い」や「ミスリード」になるのでイーステルは不注意だった。結論として、イーステルに不正研究はなかったとした。

★別件の事件勃発

141220 Guirong Jiang2010年2月18日、13年間シェフィールド大学で研究していた放射線学者・医師のグイロン・チアン(Guirong Jiang、MD PhD、写真出典)は、シェフィールド大学でヒアリングを受ける事態に直面していた。

彼女は、2010年6月に英国・グラスゴーで開催される学会(ECTS)で発表する予定だった。ところが、彼女の上司・リチャード・イーステルは彼女のデータが自分のそれまでの研究結果と矛盾していたので、彼女のデータ発表を握りつぶしたかった。彼女の学会発表を許可しなかった。

上司の許可なしに学外で研究発表を申し込んだ彼女の行動は、2007年にシェフィールド大学と製薬企業サノフィ・アベンティス(Sanofi-Aventis)がアクトネルの研究について結んだ研究契約に違反していた。

チアンの主張は、発表しようとしている研究内容は、イーステルが主導している骨代謝ユニットの以前の研究結果と矛盾するので、研究公正性の観点から、学者の良心として、発表すべきだということだ。

それに、彼女は、去年(2009年)の12月、この3月(2010年)からの現職の更新が打ち切られると知らせられていた。それで、学術的な注意を喚起するには、許可なしでも今度の学会で発表しないと、発表の機会が永遠に失われてしまう。それで、契約に違反してでも、学者の良心として、あえて、発表しようとしたのだ。

このケースでも、イーステルは、自分に都合の悪い研究データを握りつぶし、都合の悪い主張をする研究者は、難癖をつけて解雇するように思える。

【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、リチャード・イーステル(Richard Eastell)を「Eastell R[Author]」として検索すると、1975年~2014年の40年間の407論文がヒットした。

2014年12月18日現在、撤回論文はない。

【事件の深堀】

★アクトネル事件

本記事では、リチャード・イーステル(Richard Eastell)のねつ造事件に焦点を合わせている。アクトネル事件は必要部分だけ記載し、事件全体の顛末を十分には記載していない。興味がある人は、オーブリー・ブラムゾーンの以下のサイトに情報があるのでご覧ください。

Scientific Misconduct Blog
http://scientific-misconduct.blogspot.jp/

141220 blumsohn.0[1]
オーブリー・ブラムゾーン(左)。写真出典

★情報のバイアス

プロクター・アンド・ギャンブル社は、ウィキペディアによると以下のようだ。(プロクター・アンド・ギャンブル – Wikipedia

アメリカ合衆国に本拠を置く世界最大の一般消費財メーカーである。世界180カ国以上で事業展開している。世界でも収益性の非常に優れた企業として知られている。

研究ネカトや研究クログレイの研究をしていると、生物医学の論文内容に助成金バイアスがかかるのは常識と考えた方が妥当だろう。となると、今回の白楽の記事の情報源にも、プロクター・アンド・ギャンブル社に都合のよい情報が満載で、都合の悪い情報は削除・改ざんされているだろう。

だから、一歩、深読みすると、オーブリー・ブラムゾーン(Aubrey Blumsohn)は悪く描かれ、リチャード・イーステル教授(Richard Eastell)や製薬企業はよく描かれている、とバイアスをかけて理解した方が妥当だろう。これらのバイアスは通常、量的に多く、質的にはさりげなく仕込まれる。

さらに一歩深読みすると、プロクター・アンド・ギャンブル社の競合他社は、プロクター・アンド・ギャンブル社を追い落とすためにアクトネル事件を利用すると考えるのも妥当だ。この場合、プロクター・アンド・ギャンブル社とは逆のバイアスをかけてくる。同じように、量的に多く、質的にはさりげなく。

だから、何が信じられるかは、微妙である。

今回の記事は、主要情報源②のように、電子メールや手紙を証拠として挙げている文書を主に参考とした。

【白楽の感想】

《1》臨床試験

臨床試験(治験)の経費の約8割を製薬企業が負担している現実がある。この仕組みを変えないと、研究公正性を保てない。当たり前の論理なのに、どうして、改善されないのだろう? 誰かに得だからだ。

得するのは、製薬企業、研究大学、医師である。損するのは、一般大衆である。

人間はカネで曲がる。研究は助成金で捻じ曲げられる。助成金バイアスをなんとかすべきだ。

《2》悪い奴ほど出世する

2010年も、2003年の騒動でも、イーステルは、企業寄りのデータばかりを発表し、企業に都合の悪いデータは握りつぶす、自分に都合の悪い研究員も解雇する人物に思える。

だから、出世したのだろう。そういう文化・仕組みを変えないと、「研究上の不正行為」は減らないだろう。

141220 13l[1]2009年のリチャード・イーステル(Richard Eastell)(左):第36回欧州石灰化組織学会(ECTS:European Calcified Tissue Societ)、ウィーン、2009年。写真出典