2021年7月18日掲載、2023年10月2日更新
ワンポイント:日本時間の本日18:30、ノーベル生理学・医学賞の受賞者が発表される。2019年は、ジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)のセメンザ教授(63歳)が受賞した。受賞の翌年の2020年10月、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、セメンザ論文のデータねつ造を指摘した。セメンザ研究室に責任がある2009~2018年の8論文が2022・2023年に撤回された。「パブピア(PubPeer)」では2001~2021年(45~65歳)の21年間の56論文にコメントがある。この中にはノーベル受賞前の論文も多数ある。ネカト犯は複数の室員で、セメンザではないだろうが、ジョンズ・ホプキンズ大学が調査中で、結果を発表していない。当時室員だった日本人の広田喜一(ひろた きいち、現在、関西医科大学・准教授)が共著者の1人である。国民の損害額(推定)は20億円(大雑把)。この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:ノーベル受賞者の8論文が撤回され、「パブピア(PubPeer)」で56論文にコメントがあるのは異常である。
【追記】
・2023年10月2日:撤回論文は10報となった:Nobel Prize winner Gregg Semenza tallies tenth retraction – Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza、Gregg L Semenza、Gregg Leonard Semenza、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)・教授で医師免許所持者。専門は生化学である。
セメンザは、2019年(63歳)、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞理由は「細胞による酸素量の感知とその適応機序の解明(discoveries of how cells sense and adapt to oxygen availability)」である。
ノーベル賞受賞者なので、書籍、論文、研究に関する情報、写真、動画はたくさんある。本記事ではネカト問題に焦点を絞って記述する。
2020年10月x日(64歳)、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、「パブピア(PubPeer)」でセメンザの「2012年4月のOncogene」論文を含め。セメンザの複数の論文にねつ造・改ざん画像があると指摘した。
2023年10月1日(67歳)現在、セメンザ研究室に責任がある2009~2018年の8論文が2022・2023年に撤回された。 撤回理由は、データ・画像の重複使用で、早い話、データねつ造である。
2023年10月1日(67歳)現在、「パブピア(PubPeer)」では2001~2021年(45~65歳)の21年間の56論文が問題だと指摘されている。
2年前の2021年7月18日の記事で、「ジョンズ・ホプキンズ大学はセメンザのネカト疑惑について承知している。しかし、ネカト調査は秘密だと述べていて、調査していると思うが、調査しているのかどうか不明である」、と書いた。それから2年3か月後の2023年10月1日(67歳)現在、追加情報・変更はない。
2年前の2021年7月18日の記事で、「研究公正局は何も発表していない。米国の主要メディアも沈黙している。従って、当然ながら、セメンザ及び室員は無処分である」、と書いた。それから2年3か月後の2023年10月2日(67歳)現在、こちらも、追加情報・変更はない。
ジョンズ・ホプキンズ大学・医学(Johns Hopkins Medicine)。動画出典:https://www.youtube.com/watch?v=KnNaPzR-AEE
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:ペンシルベニア大学
- 研究博士号(PhD)取得:ペンシルベニア大学
- 男女:男性
- 生年月日:1956年7月1日
- 現在の年齢:68 歳
- 分野:生化学
- 不正論文発表:2001~2021年(45~65歳)の21年間
- 発覚年:2020年(64歳)
- 発覚時地位:ペンシルベニア大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)で、「パブピア(PubPeer)」に公表
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ペンシルベニア大学・調査委員会が調査している(推定)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中(?)
- 大学の透明性:調査中(ー)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:セメンザ研究室に責任がない 2007 年の1論文が2011年に撤回。セメンザ研究室に責任がある2009~2018年の8論文が2022・2023年に撤回。「パブピア(PubPeer)」では2001~2021年(45~65歳)の56論文に疑惑
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:多数いる。例えば、広田喜一 (ひろた きいち、Kiichi Hirota)(現在は関西医科大学・准教授)。1999年8月16日~2002年2月15日の2年半、ジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ研究室・客員教授)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は20億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1956年7月1日:米国のニューヨーク市で生まれる
- 1978年(22歳):ハーバード大学(Harvard University)で学士号取得
- 1984年(28歳):ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)で医師免許取得
- 1984年(28歳):ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)で研究博士号(PhD)を取得
- 1990年(34歳):ジョンズ・ホプキンズ大学・教員、その後、教授
- 2010年(44歳):ガードナー国際賞受賞
- 2019年(63歳):ノーベル生理学・医学賞受賞
- 2020年10月(64歳):論文のネカト疑惑が指摘された
- 2023年10月1日(67歳)現在:ジョンズ・ホプキンズ大学・教授職を維持
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
ノーベル賞受賞を祝う動画:「Johns Hopkins Medicine 2019 Nobel Prize Celebrations | Gregg Semenza – YouTube」(英語)3分41秒。
Johns Hopkins Medicineが2019/10/10に公開
【動画2】
ノーベル賞受賞に伴うインタビュー動画:「Gregg Semenza, Nobel Prize in Physiology or Medicine 2019: Official interview – YouTube」(英語)16分54秒。
Nobel Prizeが2020/07/07に公開
●4.【日本語の解説】
★2020年10月14日:世界変動展望:「ノーベル賞受賞者、Gregg Semenzaらの捏造疑義」
2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞したGregg Semenza(ジョンズ・ホプキンズ大学、USA、1956年7月1日生まれ)らの捏造、改ざんがPubPeerなどで指摘された。記事。
日本の研究者が筆頭著者の論文にも疑義が指摘されているようだ。疑義1、2。これはスキャンダルになりそうな事件のように思いますが、ジョンズ・ホプキンズ大学はどう扱うのでしょうか。日本の研究機関にも影響が出るのでしょうか。
もう少し様子を見てみないとわからないところもありますが、この事件は常態的で研究グループの組織的体質なのか、何か問題があったのでしょう。
続きは原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経緯
2019年(63歳)、グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza、写真出典)はノーベル生理学・医学賞を受賞した。
ノーベル賞受賞者なので、ウェブ上にイロイロな情報があるが、本記事ではネカトに絞って記述する。
2020年10月x日(64歳)、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、「パブピア(PubPeer)」でセメンザの「2012年4月のOncogene」論文を含め、セメンザの複数の論文にねつ造・改ざん画像があると指摘した。
この「2012年4月のOncogene」論文は2023年5月23日に撤回された。
- HIF-1-dependent expression of angiopoietin-like 4 and L1CAM mediates vascular metastasis of hypoxic breast cancer cells to the lungs.
Zhang H, Wong CC, Wei H, Gilkes DM, Korangath P, Chaturvedi P, Schito L, Chen J, Krishnamachary B, Winnard PT Jr, Raman V, Zhen L, Mitzner WA, Sukumar S, Semenza GL.
Oncogene. 2012 Apr 5;31(14):1757-70. doi: 10.1038/onc.2011.365. Epub 2011 Aug 22.
指摘された画像を以下に羅列する。
★森直樹、デニス・ワーツ(Denis Wirtz)
2023年10月1日(67歳)現在、「パブピア(PubPeer)」では2001~2021年(45~65歳)の21年間の56論文が問題だと指摘されている。
撤回論文は9論文ある。
2011年3月に撤回された「2007年9月のBiochem J」論文は、第一著者が日本人のマリコ・トミタ(Mariko Tomita)で、多数論文撤回者の「ナオキ・モリ(Naoki Mori)、森直樹(琉球大学)」の論文だった。セメンザが共著者になっているが、この論文のネカト責任者は森直樹と考えてよいだろう。
それ以外の8撤回論文はセメンザ研究室に責任があると思われる。この8論文はノーベル賞受賞前の2009~2018年に出版していた。撤回は、ノーベル賞受賞後の 2022・2023年である。
ジョンズ・ホプキンズ大学でネカト調査に強い権限を持つと思われる研究担当副プロボスト(Vice Provost for Research)のデニス・ワーツ(Denis Wirtz、写真出典)は、困ったことに、セメンザと共著の論文が10報もある。 → Semenza GL AND Wirtz – Search Results – PubMed
その内の2報は撤回論文である。他に3報が「パブピア(PubPeer)」で問題視されている。
撤回論文の例を1つ挙げると、以下の「2013年4月のJ Biol Chem」論文である。2023年8月14日に撤回された。
- Hypoxia-inducible factor 1 (HIF-1) promotes extracellular matrix remodeling under hypoxic conditions by inducing P4HA1, P4HA2, and PLOD2 expression in fibroblasts.
Gilkes DM, Bajpai S, Chaturvedi P, Wirtz D, Semenza GL.
J Biol Chem. 2013 Apr 12;288(15):10819-29. doi: 10.1074/jbc.M112.442939. Epub 2013 Feb 19.
この論文の図3Bにバンド画像の重複使用があったのだ。パブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/B6A4CD2ABC3030487D96BBF5CFF01F?
ココでは省略するが、この論文には他の図にも問題点が指摘されている。
研究担当副プロボスト(Vice Provost for Research)がセメンザと 10報も共著論文があり、2報が撤回され、他の3報が問題視されている。
この状況で、ジョンズ・ホプキンズ大学はセメンザのネカト調査をまともに行なえるのだろうか?
★ダニエレ・ギルケス(Daniele M Gilkes)
ダニエレ・ギルケス(Daniele M Gilkes、写真出典)はセメンザの右腕で、4共著論文が撤回され、56疑惑論文の内の10論文が共著である。
共著者としては最多である。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学・助教授になっている。
上記した「2012年4月のOncogene」論文では第4著者、そして、「2013年4月のJ Biol Chem」論文では第1著者である。
この人に問題があるのだろうか?
★広田喜一(ひろた きいち、Kiichi Hirota)
突然日本人がでてきたが、広田喜一はセメンザの研究室にいた。そして、疑惑論文の著者でもある。
広田喜一は、京都大学医学部附属病院(麻酔科助手)を休職し、1999年8月16日~2002年2月15日の2年半、ジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ研究室・客員教授として滞在した。 → who i am | research for the best cure™::blog
その間、セメンザ と共著の論文を2001年に3報、2002年に2報、そして日本帰国後も共著の論文を出版した。2001~ 2009年に計17報の共著論文を出版した。ただ、撤回論文はない。 → Semenza GL AND Hirota – Search Results – PubMed
広田喜一は「パブピア(PubPeer)」で問題だと指摘された56論文の内、7論文で共著者になっている。その内、以下の「2001年6月のJ Biol Chem」論文では、著者は広田喜一とセメンザの2人だけである。だから、セメンザがネカト者でなければ、残る人は広田喜一しかいない。
- Rac1 activity is required for the activation of hypoxia-inducible factor 1.
Hirota K, Semenza GL.
J Biol Chem. 2001 Jun 15;276(24):21166-72. doi: 10.1074/jbc.M100677200. Epub 2001 Mar 30.
指摘された問題の図は以下である。水平に反転したバンド画像もあるので、意図的な画像操作(ねつ造)だろう。パブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/37512B7945D550768D276402FEB516
広田喜一は2016~2022年度に関西医科大学・教授だったのが、2022年度に准教授に降格された(KAKEN | 広田 喜一)。降格理由はネカトどうか不明だが、降格はとても珍しい。
2019年のノーベル賞受賞者の発表は10月7日だったが、その12日前の9月26日、セメンザは広田喜一に呼ばれて、関西医科大学で講演をしている(以下の写真は関西医科大学のサイト:出典、保存版①、②、③)
そして、2020年10月7日、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がブログでセメンザ論文のネカト疑惑を指摘し、広田喜一にも言及した。
このタイミングで、広田喜一はウェブ上の記録をバタバタと削除した(白楽の印象)。
2年前の2021年7月17日の記事では、広田喜一のツイッター(K.Hさん (@bodyhacker) / Twitter)は公開されていたが、2023年10月1日現在、非公開になっていた。
バタバタと削除したり、非公開にしたり、広田喜一はネカト者なのだろか? それに、降格の理由は何なのだろう?
★ジョンズ・ホプキンズ大学のネカト調査
「パブピア(PubPeer)」で指摘された問題の56論文は、仮に不正なデータねつ造・改ざんだったとしても、セメンザが全部ネカト行為をした結果だとは思えない。複数の室員がネカト犯だろう。
しかし、どのような状況で誰が不適切な画像の加工をしたのか、報道されていないので、状況は全くわからない。
ジョンズ・ホプキンズ大学の研究公正官(Research Integrity Officer)で副プロボスト(Vice Provost)のジョナサン・リンクス(Jonathan Links、写真出典)は、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)に、「セメンザのネカト疑惑については承知しております。しかしジョンズ・ホプキンズ大学の規則では、ネカト調査は機密扱いです。それで、規則に従ってことを進めています」、と答えている。
2023年10月1日(67歳)現在、ネカト疑惑が指摘されてからほぼ3年が経過した。ジョンズ・ホプキンズ大学はネカト調査をしていると思われるが何も発表していない。
研究公正局も何も発表していない。米国の主要メディアも沈黙している。
従って、当然ながら、セメンザ及び室員は無処分である。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したので省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。
★パブメド(PubMed)
2023年10月1日現在、パブメド(PubMed)で、グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza、Gregg L Semenza、Gregg Leonard Semenza)の論文を「Gregg Semenza[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2001~2023年の23年間の333論文がヒットした。
「Semenza GL」で検索すると、1984~2021年の38年間の443論文がヒットした。
2023年10月1日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、7論文が撤回されていた。
2011年3月に撤回された「2007年9月のBiochem J」論文は、第一著者が日本人のマリコ・トミタ(Mariko Tomita)で、多数論文撤回者の「ナオキ・モリ(Naoki Mori)、森直樹(琉球大学)」の論文だった。セメンザが共著者になっているが、この論文のネカト責任者は森直樹と考えてよいだろう。
それ以外の6撤回論文はセメンザ研究室に責任がある。2009~2018年の8論文が2022・2023年に撤回された。
★撤回監視データベース
2023年10月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでグレッグ・セメンザ(Gregg Semenza、Gregg L Semenza、Gregg Leonard Semenza)を「Gregg L Semenza」で検索すると、9論文が撤回されていた。
上記したように、「2007年9月のBiochem J」論文は、多数論文撤回者の「ナオキ・モリ(Naoki Mori)、森直樹(琉球大学)」の論文だった。セメンザが共著者になっているが、この論文のネカト責任者は森直樹と考えてよいだろう。
★パブピア(PubPeer)
2023年10月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza、Gregg L Semenza、Gregg Leonard Semenza)の論文のコメントを「Gregg Semenza」で検索すると、2001~2021年(45~65歳)の21年間の56論文にコメントがあった。
56論文とは、驚くほど多い。
2019年にノーベル賞を受賞したが、受賞後の2020~2021年に出版した4論文にもコメントがある。
●7.【白楽の感想】
《1》56論文が疑惑
2023年10月1日(67歳)現在、「パブピア(PubPeer)」では2001~2021年(45~65歳)の21年間の56論文が問題だと指摘されている。
どうして、ノーベル賞を受賞する前に、論文データのねつ造が指摘されなかったのか?
イヤイヤ、ノーベル賞受賞前に、「パブピア(PubPeer)」で疑惑論文が指摘されていた。
受賞後の指摘数の方がずっと多いが、ノーベル賞委員会は授賞者を選考する時にネカト指摘を考慮していないようだ。これはマズイ。ネカト指摘を考慮すべきだ。
ただ、グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza、写真出典)1人で21年間もデータねつ造・改ざんをしてきたとは思えない。
しかし、常に登場する特定の論文共著者はいないので、セメンザ以外の特定の1人がネカトしてきたとも思えない。
デニス・ワーツ(Denis Wirtz)、ダニエレ・ギルケス(Daniele M Gilkes)、その他、の複数の共著者がデータねつ造・改ざんをしてきたのだろう。
世界変動展望が「この事件は常態的で研究グループの組織的体質なのか、何か問題があったのでしょう。」(ココ)と指摘するように、セメンザ研究室の文化と習慣で、セメンザ研究室では画像操作が常態化していたのだろう。
《2》日本の主要メディアはなぜ報道しない?
グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)研究室に責任がある2009~2018年の8論文が2022・2023年に撤回された。 撤回理由は、データ・画像の重複使用で、早い話、データねつ造である。
「パブピア(PubPeer)」では2001~2021年(45~65歳)の21年間の56論文が問題だと指摘されている。
セメンザは4年前の2019年にノーベル賞を受賞した。
そのノーベル賞受賞者がデータねつ造事件を起こしているのだから、報道すればインパクトがあり、日本国民は驚くだろう。つまり、ニュースバリューがある。
それなのに、日本の主要メディアはこの醜態を一切報道しない。
どうしてなんだろう?
日本国民にインパクトのあるノーベル賞受賞者の実態を伝えない。
どうしてなんだろう?
記者が知らないとは思えない。ノーベル賞受賞者を神格化しているのか?
《3》広田喜一 と麻酔科
関西医科大学・准教授の広田喜一 は、約20年前の1999年8月16日~2002年2月15日の2年半、ジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ研究室・客員教授として滞在した。
「パブピア(PubPeer)」で疑惑視されている56論文の内の7論文は、広田喜一との共著論文である。
広田喜一がネカトに関与したのかどうか不明だが、広田喜一の専門は麻酔科である。
2021年に大事件となり、「撤回論文数」世界ランキング第3位に入った上嶋浩順(ヒロノブ・ウエシマ、昭和大学)も麻酔科である。
「撤回論文数」世界ランキングの上位には麻酔科医が多い。麻酔科とネカトは関係があるのだろうか?
フリーランス麻酔科医の筒井冨美(つつい・ふみ)は「麻酔科の研究倫理レベルが著しく低い。ネカトしても処分されない」と解説している。 → 2021年6月12日記事:東邦・女子医・昭和大:麻酔科で研究不正が多発する訳 | アゴラ 言論プラットフォーム、(保存版)
白楽は、「研究倫理レベルが著しく低い。ネカトしても処分されない」のは日本全体の状況だが、麻酔科はその中でも特にヒドイのかもしれない。麻酔で倫理観がマヒしているのだろうか?
つまり、日本全体が悪い中でも、麻酔科は特に悪いということなのか?
《4》ノーベル賞の返還・取消
ジョンズ・ホプキンズ大学がネカト調査をしてると思うが、3年も経つのに、何も発表しない。
ノーベル賞受賞者をクロと認定すると、金銭的な損得では、ジョンズ・ホプキンズ大学は大きな損をする。
しかし、学術の公正は金銭的な損得の上にある。
ジョンズ・ホプキンズ大学がグレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)をクロと結論したら、ノーベル賞委員会はどのような対応をするのだろうか?
ノーベル賞はどうなるのだろう?
ネカトでクロ判定された場合、名誉教授を剥奪した米国の大学はあった。賞や資格を取り消した組織もあった。しかし、研究者が自発的に名誉教授を返納したり(返納できるかどうか知らないが・・・)、賞や資格を返還したケースを、白楽は知らない(少しあった気もするが思い出せない)。
アムネスティ・インターナショナルは、アウンサンスーチーに授与した「良心の大使賞」を取り消したが、ノーベル賞委員会はアウンサンスーチーに授与したノーベル賞を取り消していない。 → 2017年9月9日記事:ノーベル賞委員会「スーチー氏のノーベル賞取り消しは不可能」、保存版
たくさんのノーベル賞受賞者が受賞後、ネカトだけでなく、犯罪、人種差別発言など、いろいろなトラブルを起こしている。それでも、ノーベル賞は取り消されなかった。
セメンザがネカトでクロでも、ノーベル賞委員会はセメンザのノーベル賞を取り消さないだろう。
つまり、大門未知子の「私、失敗しないので」と同じで、ノーベル賞委員会は「私たち、間違えませんので」という態度である。
でも、そういうノーベル賞委員会って、問題だと思う。
グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)。MLA style: Gregg L. Semenza – Photo gallery. NobelPrize.org. Nobel Prize Outreach AB 2023. Sat. 26 Aug 2023. <https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2019/semenza/photo-gallery/>
《5》2023年版まとめ:ノーベル賞受賞者・候補者の不正(含・疑惑や関連):他記事でも同じ内容
「●白楽の卓見・浅見3【ノーベル賞受賞者の不祥事は多いと思うべし】」に一部をまとめたが、2023年版リストでデータを加えた。
白楽ブログで解説したノーベル賞受賞者(最後の方に候補者)の不正(含・疑惑や関連)を受賞年順にリストした。2023年版リスト。
- 1964年、盗博:宗教学:キング牧師(Martin Luther King Jr.)(米)
- 1976年、「性的暴行」:カールトン・ガジュセック(Carleton Gajdusek)(米)
- 1992年、「性不正」:文学:デレック・ウォルコット(Derek Walcott)(米)
- 1998年、ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)(米)
- 2004年、リンダ・バック(Linda Buck)(米)
- 2007年、マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)(英)
- 2009年、「間違い」:ジャック・ショスタク(Jack W. Szostak)(米)
- 2011年、ブルース・ボイトラー(Bruce Beutler)(米)
- 2012年、化学:ロバート・レフコウィッツ(Robert Lefkowitz)(米)
- 2016年、化学:フレイザー・ストッダート(Fraser Stoddart)(米)
- 2017年、マイケル・ロスバッシュ(Michael Rosbash)(米)
- 2018年、化学:フランシス・アーノルド(Frances Arnold)(米)
- 2019年、グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)(米)
- 2022年、「アカハラ?」:スバンテ・ペーボ(Svante Pääbo)(ドイツ、日本)
- 2022年、「性不正」:経済学:フィリップ・ディビッグ(Philip Dybvig)(米)
他にも問題者(含・研究公正以外)はいる。古いので白楽ブログでは取り上げない(多分)。
- 1912年、アレクシス・カレル – Wikipedia
- 1923年、物理学:ロバート・ミリカン – Wikipedia
- 1956年、物理学:ウィリアム・ショックレー – Wikipedia
- 1962年、ジェームズ・ワトソン – Wikipedia
以下は問題ないと思う。
- 2001年、ポール・ナース – Wikipedia:Paul Nurse
2018年7月26日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Nobel Prize winners correct the literature, too – Retraction Watch - 2002年、ダニエル・カーネマン – Wikipedia:Daniel Kahnemann
2017年2月20日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“I placed too much faith in underpowered studies:” Nobel Prize winner admits mistakes – Retraction Watch
ノーベル賞候補者の不正(含・疑惑や関連)を発覚年順にリストした。
- 1974年、ロバート・グッド(Robert A. Good)(米)
- 1981年、エフレイム・ラッカー(Efraim Racker)(米)
- 1988年、「錯誤」:ジャック・ベンヴィニスト(Jacques Benveniste)(仏)
- 1993年、無罪:バーナード・フィッシャー(Bernard Fisher)(米)
- 2004年、「児童性的虐待」:フレンチ・アンダーソン(French Anderson)(米)
- 2014年、デイビット・バウルクーム(David Baulcombe)(英)
- 2015年、エイドリアン・バード(Adrian Bird – Wikipedia)(英)
- 2016年、「間違い」:チュンユー・ハン、韩春雨(Chunyu Han)(中国)
- 2020年、物理学:ランガ・ディアス(Ranga Dias)(米)
- 2021年、「レイプ」:デイヴィッド・サバティーニ(David Sabatini)(米)
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア日本語版: グレッグ・セメンザ – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:Gregg L. Semenza – Wikipedia
③ 2020年10月7日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Gregg Semenza: real Nobel Prize and unreal research data – For Better Science
④ 2020年10月19日の著者不記載の記事:2019 Nobel Prize winner Semenza overturned: the paper is suspected of fraud, netizens: P picture is a scientific research weapon? | domeet webmaster
⑤ 202x年x月xx日:The Nobel Prize winner is suspected of academic misconduct! More than 30 papers were allegedly suspected of falsifying, copying and pasting P pictures. Collaborators included Chinese scholars… – Programmer Sought
⑥ 2022年9月3日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Nobel Prize winner Gregg Semenza retracts four papers – Retraction Watch
⑦ 2022年10月21日のキャサリン・アーヴィング(Katherine Irving)記者の「Scientist」記事:Nobel Prize Winner Faces Investigation into Paper Integrity | The Scientist Magazine®
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●コメント
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上記の捏造された図やその他の捏造された図についてですが、こんな簡単なコピーペーストの切り貼り図や反転図が、なぜ査読の時点で指摘されなかったのでしょうか?それが、問題だ、と思います。