平成の5大ネカト事件:第1位(東大分生研・加藤事件) 執筆者:世界変動展望 著者

2019年8月7日掲載、執筆者:世界変動展望 著者

ワンポイント:平成時代の5大ネカト(ねつ造・改ざん・盗用)事件を解説する。特に重大な事件を選び、今後のネカト改善につながるように記述した。本稿がネカト改善に役立てば幸いである。本記事は、第1位に選んだ東大分生研・加藤事件を取り上げた。

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目次(赤字をクリックすると内部リンク先に飛びます)
1.はじめに
2.東大分生研・加藤事件(第1位)
 ★選んだ理由
 ★事件内容
 ★研究不正の原因
 ★メガコレクションによる撤回回避や不正隠蔽とその片棒を担ぐ学術誌の問題
 ★研究倫理教育だけでは不十分
 ★改善策について
 ★参考文献
コメント
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●1.【はじめに】

昨今、研究不正事件が続発し、社会問題化している。このことは2000年以降の大学の法人化、競争・成果主義による競争の激化、テニュア職への就職や昇進、予算獲得の難しさのために研究不正が増加したという指摘がある[1]。

近年の研究不正事件の増加 [1]

平成時代(1989年1月8日-2019年4月30日)は確かにこのような原因で研究不正事件が多発したように思う。若手研究者にとってはポストや昇進のため、教授などのシニア研究者にとっては大きな名声や予算獲得などのために研究不正の誘惑に負け不正を行ってしまった研究者やグループは少なくないかもしれない。

このような成果主義や競争の激化に起因した研究不正の増加は平成時代の特徴であって、研究不正の改善を考える上で外す事のできない視点である。

一方で、昨今の研究不正事件では調査の不公正さ、部下・学生への不正強要、不正強要された者や告発者の相談・救済制度の不十分さ、規則の無視といった様々な研究公正上での問題を明らかにした。

しかし、これらに対する改善策は全くと言っていいほどなされておらず、現在も以前と変わらない不都合が続いている。研究不正を防ぎ、学術の公正さを実現するためには競争の激化といった研究不正の起きる社会的要因を改善するだけでは不十分であり、学術界が自ら積極的に自浄作用を発揮し改善をしていく不断の努力が必要である。

本稿では平成時代で、特に重大で今後の改善のために紹介すべきと思う5つの事件を紹介する。本稿を通じて今後の研究不正事件の改善に役立てば幸いである。

●2.【東大分生研・加藤事件(第1位)】

平成の5大ネカト(ねつ造・改ざん・盗用)事件の第1位に、平成23年(2011年)に糾弾され始めた東京大学・分子細胞生物学研究所(現・定量生命科学研究所、2018年4月1日に改組・改称)の加藤茂明氏の事件を選んだ。本記事では分子細胞生物学研究所を分生研と略す。

★選んだ理由

東大分生研・加藤事件を第1位に選んだ理由は、この事件は、競争・成果主義によるトップダウン型・組織的研究不正事件の典型であり、質・量ともに重大な研究不正事件だからである。

現在の学術界ではこの事件と同様の問題を抱えた研究者・研究室が少なからず存在するだろう。この事件の原因・経緯を伝えることは、ネカト問題の理解、そして、研究公正の改善に役立つ価値があると思う。

また、この事件ではメガコレクションによる不正行為の隠蔽とその片棒を担ぐ学術誌の問題や研究倫理教育だけでは研究不正を防ぐのに不十分である例が示された事も見逃すことできない。

これらの点で、この事件は現在の学術界で抱える重大な問題をいくつも示し、必ず改善しなければならい研究公正の問題を伝える上で重要である。

★事件内容

【発端】

この事件は加藤茂明氏(1959年生まれ)が、東京大学・分子細胞生物学研究所(分生研)に、1996年、助教授として着任し、2年後の1998年に30代で教授昇進してから、それほど経たずに発生した(最初の撤回論文は1999年5月出版)。

一説によると「加藤元教授の論文に不審な点があることは、それこそ研究開始当初から東京大学の心ある研究者の間では周知の事実になっていたが、意を決して告発を行った研究者が逆に査問を受けて東京大学を追われるという事態に陥り、文字通り問題に蓋をされて、体制是正の仕組みは働かなかった。[2]」というが、筆者はこれが真実かわからない。

この事件が発覚したきっかけは2011年10月26日に加藤研が出したネイチャー論文にメガコレクションが発表され、それを不審に思ったネカトハンターが原因を突き止めたため[3]。

当時m3.comが運営するDoctor’sブログの人気サイト「論文撤回ウォッチ」(2012年1月上旬閉鎖)の運営者は論文の撤回や訂正の原因を原著論文に踏み込んで調べ、主にコピペ流用を暴いて人気を獲得していた。

そういう調査をやっていた運営者にとって著名研究室が発表したネイチャー誌のメガコレクションは格好の餌食だったに違いない。

訂正公告では過失と公表されたが、すぐにコピペ流用や加工を隠蔽するための悪質なメガコレクションと見抜かれてしまい、コピペ流用の実体がわかるような解説図をつけて論文撤回ウォッチで紹介された[3]。

当時の論文撤回ウォッチは大変な人気ブログだったため、ウォッチャーの間では瞬く間に情報が拡散した。当時は2ch生物板の捏造暴き、特にコピペ捏造の追究はよく行われていて、ユーザーたちによるクラウド査読も加速して、わずかな期間に加藤研の大量のコピペ捏造や加工が白日の下に晒された。

クラウド査読の結果、コピペ流用や加工が大量にあり、明らかに故意の研究不正であること、著名な研究者である加藤茂明氏とその研究室による組織的な研究不正であること、巨額の研究費が不正に使われていること、北川浩史氏(元群馬大学教授)や柳澤純氏(元筑波大学教授)、村山明子氏(元筑波大学講師)など外部の研究者にも不正の疑いがあることなどが判明した。

また、加藤茂明氏が参加した日本分子生物学会の研究倫理委員会の若手教育のパネルディスカッションで「corresponding authorは捏造事件があったら切腹(する位の覚悟)で臨むべき。[5]」という発言があったため、加藤氏はよく切腹の件と併せて研究倫理を説きながら悪質な不正行為を組織ぐるみでやっていたと批判された。

クラウド査読の結果はネカトハンターの11jigen氏がまとめブログを作製し、Youtubeに解説動画をアップロードし、東大への通報も行った[6][7]。

サイエンスインサイダーもこれを報道し、加藤研の研究不正は世界的に注目されることになった[8]。

【顛末】

この事件の事実上の決着は早かったかもしれない。

2012年3月30日にセル誌の論文が画像等の不適切な処理などを理由に撤回され、加藤茂明氏は辞任した[9]。これを事実上の不正自白と世間で認識され、辞任について2012年4月5日頃の朝日新聞等で報道された[10]。

しかし、東大の公式の調査は長かった。

「文科省ガイドラインでは本調査期間は概ね150日程度と定められているが、その期間を相当過ぎ、分子生物学会が2012年11月8日、12月27日の2度にわたって調査結果の公表を求めたが無視された[11][12]。告発されたのは2012年1月10日、予備調査結果報告は2013年7月5日、中間報告が2013年12月25、26日、第一次報告が2014年8月1日、最終報告が2014年12月26日。最終報告まで告発から約3年もかかった。余りに長かったため、改善のため確か規定ができたか改訂されたと思う。 [13]」

最終的に33編の論文に捏造、改ざん、立証妨害などが認定され、11人が関与したとされた[14]。うち3人の博士号が取り消された[15]。研究不正を行った主たる者として加藤茂明氏、柳澤純氏、北川造史氏、武山健一氏が認定された[14]。加藤氏を首謀者とし、当時片腕だった他の3人が院生などに研究不正の大きな影響を与えていた[14]。

加藤研は最終的な調査結果が出る前に事実上閉鎖され、東京大学は加藤氏、柳澤氏、北川氏、武山氏を懲戒解雇相当、高田伊知郎氏を諭旨解雇相当とした[16]。徳島大学は北川氏の博士号を取り消した[17]。

北川造史氏は群馬大学の採用時に応募した際の業績論文に捏造等があったため経歴詐称にあたると判断され群馬大学から諭旨解雇相当と判断された[18]。

よく所属前の研究機関の不正行為については懲戒処分の対象にできないとして処分を回避する研究機関があるが、群馬大学は北川氏の不正を経歴詐称として諭旨解雇相当としたので評価できる。

例えば、北海道大学は盗用で博士号を取り消された周倩 准教授に対して未だに何の懲戒処分も行っていないが、群馬大学の対応を見習ってほしい[19][20]。

柳澤純氏は村山明子氏とともに別件でも筑波大学の調査を受け捏造等の認定をされた[21]。その結果、柳澤純氏と村山明子氏はどちらも辞任し、それぞれ停職6月相当、諭旨解雇相当とされた[22]。

筑波大学の調査結果では柳澤氏と村山氏の他にも筆頭著者の元院生などの研究不正責任が公式認定された[21]。元院生の一人は事件発覚時に国立環境研究所のポスドクだったが、雇い止めになった。研究不正責任が公式認定されたにも関わらず、国立環境研究所は元ポスドクを懲戒処分することはなかった。この点も群馬大学が所属前の不正で北川氏を諭旨解雇相当とした事と釣り合わない。

この事件で研究不正に関わった者が少なからず大きな損害を受けた。

研究不正を認定されなかった者の中には当時東大講師だったにもかからず国立研究所の平研究員に降格してまで異動した者もいるし、不正行為を認定されたある女性研究者は海外の研究機関でポストを失う事なく、不正認定後も異動できた者もいる。

柳澤純氏は所属を全く確認できないので、何をしているのか不明で、少なくとも研究界には復帰できていない。北川浩史氏と村山明子氏はともに医師免許をいかして医師の仕事を続けているが、アカデミックポストには復帰できていない[23][24]。

加藤茂明氏は辞職後、父の出身地である福島県南相馬市でボランティア活動を開始し、いわき明星大学特任教授などに就任した[25]。現在も論文を発表し続けている[26]。

★研究不正の原因

著名な学術雑誌への掲載を過度に重視した事やそれによる研究体制の行き過ぎが原因の一つと認定された。

東大の調査報告書によると

「研究室の教員・学生に対して、その技術レベルを超える実験結果を過度に要求し、強圧的な態度で不適切な指示・指導を日常的に行ったため、一部の教員・学生をして加藤氏が捏造・改ざんを容認している、もしくは教唆していると認識するに至らしめたことが問題の主たる要因・背景となっており、加藤氏がこのような環境を作り上げたことが、加藤氏の主宰する研究室における不正行為を大きく促進していたものである。[27]」

「これほど多くの不正行為等が発生した要因・背景としては、旧加藤研究室において、加藤氏の主導の下、国際的に著名な学術雑誌への論文掲載を過度に重視し、そのためのストーリーに合った実験結果を求める姿勢に甚だしい行き過ぎが生じたことが挙げられる。そうした加藤氏の研究室運営を同研究室において中心的な役割を担っていた柳澤氏、北川氏及び武山氏が助長することにより、特定の研究グループにおいて、杜撰なデータ確認、実験データの取扱い等に関する不適切な指導、画像の「仮置き」をはじめとする特異な作業慣行、実施困難なスケジュールの設定、学生等への強圧的な指示・指導が長期にわたって常態化していた。このような特異な研究慣行が、不正行為の発生要因を形成したものであると判断する。[14]」

平成時代の研究者は論文数やインパクトファクターの高い学術誌に論文を掲載させる事が重視され、採用、昇進、予算獲得などで有利になるために著名な学術誌への掲載を過度に重視して不正行為を行ってしまうことがある。

加藤研の研究不正はまさにこのような原因から組織ぐるみで常態的に研究不正を行っていた典型であって、現在の学術界が抱える大変根の深い問題を表している。

同じ分生研で起きた渡邊嘉典研究室の捏造事件でも予算獲得のために著名学術誌への掲載などが重視されていた経緯が[1]で紹介された。

おそらく少なくない研究者や研究室が加藤研と同様の誘惑やプレッシャーに晒されているだろう。予算を獲得する事が教授の重要な使命、そのために著名な学術誌への掲載といった大きな業績が求められ、そのために部下や院生に不正を強要するといった悪いトップダウン型の研究不正が起きてしまう。こうした問題を解決するには研究室の体制について、いろいろと改善していく必要があるだろう。

同じトップダウン型の研究不正である琉球大学の事件では教授が研究不正を部下に指示し、反論した部下が研究室で浮いた存在になり、研究不正に手を染めて捏造の認定と停職処分を受けてしまったという例があった[28]。この研究者は離職こそ避けられたものの研究者としての信用を失ってしまったようで、現在でも論文の発表を確認できない。

もし部下や院生が教授の研究不正を相談できハラスメントを避けられ、救済される仕組みが研究機関に整っていたなら加藤研や琉球大学の事件は起きなかったかもしれない。ただでさえ上の有利になるように仕事をさせようとし、不都合な事は隠蔽しようとする傾向がある中で、研究についてほとんど経験のない大学院生が著名教授からの不正指示に逆らうのは難しい。

著名な研究実績を数多くあげ、巨額の研究費を獲得しているビックラボでキャリアを形成できる事は多くの院生にとって有利だと考えるだろう。しかし、入ってみると研究不正を常態的に行っていて、上に逆らう事ができず又は知らないまま研究不正をさせられ、最初の地点から大きな不利益を被ってしまったというのは学生にとっては非常に大きな痛手であり、許し難いと思うかもしれない。ある意味では院生は被害者といえる。

渡邊嘉典研究室でも渡邊嘉典氏の捏造指示に逆らう事ができずに捏造をしてしまった院生が紹介された[1]。トップダウン型の研究不正ではPIの資質や教育の問題も重要だが、部下や学生の相談・救済制度も非常に重要である。

また、調査報告書では仮置きによる特異な作業慣行があった事が言及されたが、不正をごまかすための説明だった事を否定できない。大量のコピペ流用と加工があった時に、過失と説明するのは苦しいので、仮に作製した資料を修正することなく誤って投稿した等と弁明することは他の研究不正の調査でもあった。

岡嶋研二(元名古屋市立大学教授)、原田直明(元名古屋市立大学准教授)は多くの画像流用、加工のあった論文を発表した事に対して、学会発表の練習用資料に仮に作製したものを誤って投稿したなどと弁明した[41][42]。名古屋市立大学はかかる弁明を信用できないとして一蹴した[42][43]。岡嶋研二氏、原田直明氏はそれぞれ停職6月、懲戒解雇相当となった[44]。

加藤研の調査でも調査関係者の一人は仮置きのものを本来のものと替え忘れたという事が信じられないし、実験ノートを調べても実験をやった形跡がなく、完全なフィクションだと断じていた[45]。

★メガコレクションによる撤回回避や不正隠蔽とその片棒を担ぐ学術誌の問題

加藤研の研究不正が発覚した契機となったネイチャー誌の論文はメガコレクションが公表され、訂正公告上では過失とされた[3]。しかし、これは東大の調査で公式に不正行為の隠蔽と認定された。

東大の調査報告書によると

加藤茂明氏はネイチャー論文の「捏造・改ざんの疑いを把握していながら、当該論文の撤回を回避するためにその隠蔽を図り、関係者に画像や実験ノートの捏造・改ざんを指示し、事実と異なる内容を学術誌の編集者へ回答するなど、極めて不当な対応をとっていた。[27]」

この件は原著論文の図表などが明らかに大量のコピペ捏造であったのに、超一流誌と目されるネイチャー誌でさえ、著者の過失という弁明を鵜呑みにしてその旨を公表し、不正行為の隠蔽の片棒を担いだことが問題である[3]。

この事は日本分子細胞生物学会の研究倫理フォーラムでも問題視され議論された[29]。

COPEのガイドラインによれば、本来訂正とはわずかな部分が誤っている場合(特にそれがオネストエラーである場合)に行われるものであって、大部分を訂正するのは不適切である[32]。

しかし、加藤研に限らず、少なくない研究者が撤回回避や不正行為の隠蔽を目的とする非常に悪質な訂正を出す事があり、その片棒を担ぐ学術誌も存在する。

確かに学術誌の査読は不正を未然に防ぐような仕組みでないかもしれない。しかし、加藤研のネイチャー論文などは、あれだけたくさんの訂正が出た事から学術誌の方に捏造の指摘があったのかもしれない。少なくともネイチャー誌の方があれだけのコピペ捏造や加工に全く気が付かなかったのは不可解である。

ネイチャー誌は加藤研の捏造論文後も大量コピペ捏造の論文を掲載してしまって、全然反省していない事を示してしまった[30][31]。

学術誌も正しい研究成果を掲載する義務があり、論文著者の主張する事を鵜呑みにして実質的な審査なく掲載する事は改善の必要がある。

また訂正の基準もCOPEガイドラインを遵守すべきである[32]。少なくない学術誌が論文の結論や主旨が間違っていなければどのような訂正でもよいと扱っているようだが、実質的に論文を書き直すに近い訂正を公表するのは不適切であり、きちんと撤回、再投稿をすべきである。

論文の同一性を保たないのに訂正とするのが不自然というのもあるが、エビデンスを後から出して論文の結論を証明しようとする行為が査読のルール違反であったり、研究成果のプライオリティを不当にはやく獲得するという点でも不適切ではないか。

近年も岡川梓氏(国立環境研究所)、伴金美氏(大阪大学名誉教授)らが計画行政誌の論文でメガコレクションを公表した[33]。小室一成氏(東大医学系教授)らの論文でもメガコレクションが公表された[34]。小室一成氏らのメガコレクションは生データがなく、プロトコルさえ変更した[34]。岡川梓氏、伴金美氏の原著論文は7ページだが、メガコレクションは5ページ[33][35]。訂正公告では定量評価の最も基本的な量である二酸化炭素削減率に過失があり、全ての分析結果を訂正した。

岡川梓氏らの原著論文[35]は二酸化炭素削減政策である京都議定書の削減政策の定量評価が主旨であり、

「本稿では、日本で産業への負担軽減措置を実施する場合、どういった措置が産業の負担軽減に有効なのか、またその際、日本全体の削減費用はどれくらい増大するのかを、応用一般均衡モデルを用いて定量的に評価し、導入実現性の高い制度の設計へ貢献することを目的としている。」([35] 1.はじめに、p72)と言及されている。

さらに原著論文[35]でさえ、日本経済学会での発表(博士論文にその詳細掲載[36])において極めて基本的な情報である二酸化炭素削減率を不適切に扱った事を注意され修正したものであった[37]。

政策の定量評価が主旨だから二酸化炭素削減率を間違ってしまったら、全ての分析結果が誤りとなり、論文の主旨が破綻してしまう。従って二酸化炭素削減率は極めて基本的な情報だし、小学生レベルの簡単な計算で扱えるものでまず間違えない。にも関わらず、このような極めて基本的な情報について他の研究者から注意されて修正して出した論文さえ、さらにその情報を間違って発表したというのは通常では考えられない。

小保方晴子氏がSTAP論文において電気泳動写真を切り貼りしたのに境界線を明示せず、改ざんと判断された事の不服申し立て審査[38] p6~7、3(2) ウ(ア)で指摘された通り、小保方晴子氏はネイチャー誌に投稿する前にSTAP論文をサイエンス誌に投稿し、レフリーから切り貼りした場合は境界線を明示すべき事を注意されていた。しかし、小保方晴子氏はこれを無視して修正せずにネイチャー誌に投稿した。[38]p7、3(2) ウ(イ)で示されたとおり、調査委員会は小保方晴子氏のかかる行為を「悪意があったことは明らか」と断じた。

岡川梓氏、伴金美氏は小保方晴子氏より悪質で、他の研究者との意見交換で不十分さを認識していただけでなく、不十分さを修正した結果を得た後に、同様の不適切な内容を国際学会や計画行政誌に発表した[35][39]。

小保方晴子氏の行為が裁判で耐えられるほど「悪意があった事は明らか」と理研調査委員会が断じた事を考えれば、岡川梓氏、伴金美氏は尚更ではないか。

また、論文の主旨が破綻し、全ての分析結果を直す訂正は原著論文の分析結果の全てが誤っていたという意味で極めて珍しいものであるだけでなく、実質的に論文を新しく発表するのと同様であって、私の知る限り空前のメガコレクションである。

このようなメガコレクションは極めて不自然であって、必ず論文を撤回すべきである。

加藤研のネイチャー論文のメガコレクションは捏造の隠蔽も目的であったが、岡川梓氏、伴金美氏、小室一成氏らのメガコレクションはどうなのだろうか。

★研究倫理教育だけでは不十分

「現在は不正の多発で倫理教育が重要だと文科省や学術会議が述べたが、研究倫理を教える側でさえ悪質な研究不正を常態的かつ組織ぐるみで行っていた事実は倫理教育をしてもほとんど効果がないのではないかと思わせるのに有力な根拠となった。

加藤茂明だけでなく上で述べたネイチャー誌の不正論文の筆頭著者だった金美善も「いい研究をやるというのは、正しいルールでやったほうがカッコいいという。「魂を捨てたら、もう研究者は終わりよ」という話もしますが、そういうだめな魂は絶対つくってはいけないと思わないと、長い間、研究は楽しくやっていけないと思います。」と研究倫理のフォーラムで述べたのに、悪質な研究不正の関与者と公式認定された。

理研で義務付けられていた倫理研修で小保方晴子を含め半数以上が不参加だった事も研究者は倫理に関心はなく、倫理教育にほとんど効果がない事を示す要因となった。[13][40]」

★改善策について

PIの資質向上、監督は特に重要である。部下や院生は上に逆らいづらいし、いう事をそのまま実行してしまう事もある。そのため教授らが高い資質や倫理を持つ事は非常に重要であるし、その事を不断の努力で実現したり、教授などの監督も必要かもしれない。 

現在でも部下や院生が上からのハラスメントを避けるために、不正を強要されたり疑問に思った時に遠慮なく相談できる窓口が設けられているが、それをもっと充実させるべきである。

★参考文献

[1]黒木登志夫氏の言及、NHKスペシャル
 「追跡 東大研究不正 ~ゆらぐ科学立国ニッポン~」 2017.12.10
 https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20171210
[2] ハフィングトンポスト 2013年12月28日
 https://archive.fo/OaUGO
[3]ネイチャー480、132(2011年12月1日)
 https://www.nature.com/articles/nature10604
[4]ERATOのHP
 https://www.jst.go.jp/erato/research_area/completed/knc_PJ.html
[5] 日本分子生物学会 会報 No.89、2008.2
 https://www.mbsj.jp/archive/bulletin/kaihou-89.pdf
[6] https://blog.goo.ne.jp/bnsikato
[7] https://www.youtube.com/watch?v=FXaOqwanWnU&feature=youtu.be
[8] ScienceInsider 2012.1.25
 http://news.sciencemag.org/people-events/2012/01/whistleblower-uses-youtube-assert-claims-scientific-misconduct
[9] Cell Volume 149、第1号、P245、2012年3月30日
 https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(12)00337-6?_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867412003376%3Fshowall%3Dtrue
[10]朝日新聞 2012年4月5日頃
 https://web.archive.org/web/20170113145957/http://megalodon.jp/2012-0405-2107-13/www.asahi.com/national/update/0405/TKY201204040919.html
[11]日本分子細胞生物学会 2012年11月8日
 https://www.webcitation.org/6X4XPf6Rv
[12]日本分子細胞生物学会 2013年6月12日
 https://megalodon.jp/ref/2013-0612-2018-57/www.mbsj.jp/admins/statement/20130612_seimei.pdf
[13]世界変動展望 2015.3.17
 https://web.archive.org/web/20150511225628/https://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/e/43afeab32cfdddb550e6ccd8c5348e27
[14] 分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告(最終)
 https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400007786.pdf
[15] 学位授与取消しの措置の概要 、東京大学
 https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400029097.pdf
[16]懲戒処分(相当)の公表について、東京大学
 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_290303.html
[17]学位の取消しについて 徳島大学
 https://www.tokushima-u.ac.jp/docs/2014122600039/files/261226.pdf
[18]毎日新聞 2015.1.23
https://web.archive.org/web/20150911203050/http://mainichi.jp/edu/news/20150123ddlk10040053000c.html
[19] 周倩氏の学位取消し、東京大学
 https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400071644.pdf
[20] 周倩氏の北大研究者紹介 2019.8.3確認
 http://archive.is/u1p1q
[21]柳沢純研究室の研究不正の調査結果
 http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/051b1c863be2c942ffc5bfad6d7b84ce.pdf
http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/af444edae7f265802fb47e3e26143939.pdf
[22]柳澤純氏と村山明子氏の懲戒処分
 http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/p201407221600p.pdf
[23]えばらサンクリニック HP 2019.8.3閲覧
 http://ebara-sun-cl.net/greeting.html
[24]柳沢ファミリークリニック HP 2019.8.3閲覧
 https://yanagisawafc.com/wp/
[25]加藤茂明氏の研究者紹介 2019.8.3閲覧
 http://www.isu.ac.jp/department/staff/detail.html?kato_shigeaki
[26] BMJ Open. 2019 Jul 9;9(7)
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31289047
[27]東大調査報告書(一次)
 https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400007772.pdf
[28] ある大学で起きた研究不正についての実例 2013.12.7
 http://warbler.hatenablog.com/entry/20131207/1386394597
[29]日本分子生物学会での研究倫理議論
 https://www.mbsj.jp/admins/committee/ethics/doc/2013forum/session3_full_j.pdf
https://www.mbsj.jp/meetings/annual/2012/kinkyu_forum_record.pdf
[30] Nature  561, 331–337 (2018)
 https://www.nature.com/articles/s41586-018-0499-y
[31] Nature 561,331-337へのコピペ捏造指摘
 https://pubpeer.com/publications/D569C47E7BE09AD9D238BA526E06CA
[32]COPEガイドライン
 http://publicationethics.org/files/retraction%20guidelines_0.pdf
[33] 岡川梓、伴金美 修正告知 計画行政 40(2), 111-115, 2017-05
 https://ci.nii.ac.jp/naid/40021216088
[34] Nature 506, 254 (13 February 2014)
 https://www.nature.com/articles/nature13003
[35] 岡川梓、伴金美 計画行政 31(2), 72-78, 2008-06
 https://ci.nii.ac.jp/naid/40016119703
[36] 岡川梓 博士論文、p26、2006、大阪大学
[37] 岡川梓  2006年度研究実績報告書
 https://archive.is/SAaYC
[38] 理化学研究所 不服申立てに関する審査の結果の報告 2014年5月7日 https://web.archive.org/web/20160704011001/http://www3.riken.jp/stap/j/t10document12.pdf
[39] Azusa Okagawa, Kanemi Ban, “Evaluation of Carbon Abatement Policies with Assistance to Carbon Intensive Industries in Japan”
EcoMod Conference on Energy and Environmental Modeling  2007年9月13日
 https://web.archive.org/web/20160703145901/http://megalodon.jp/2015-0329-2250-16/ecomod.net/sites/default/files/document-conference/ecomod2007-energy/356.doc
[40] 2008年12月 日本分子生物学会 若手教育シンポジウム『今こそ示そう科学者の良心2008 -みんなで考える科学的不正問題-』
 http://megalodon.jp/2013-0822-2256-29/www.mbsj.jp/admins/ethics_and_edu/doc/081209_wakate_sympo_all_final.pdf
[41]J Immunol September 15, 2011, 187 (6) 3448
 https://www.jimmunol.org/content/187/6/3448
[42]名古屋市立大学の調査報告書
 https://web.archive.org/web/20160227095612/http://www.nagoya-cu.ac.jp/secure/7120/report_web.pdf
[43]中日新聞 2012年3月20日
 http://archive.is/xVfSL
[44]岡嶋研二氏、原田直明氏らの懲戒処分に関する資料
 https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_160331/data/2_2.pdf
[45]論文不正は止められるのか ~始まった防止への取り組み~ クローズアップ現代 NHK 2015.3.10
 http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3628/index.html

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