2021年11月9日掲載
ワンポイント:ボルチモア・シティ・コミュニティ大学(Baltimore City Community College)のエネルズ教授は、2013~2020年(37~44歳)の8年間、授業での課題をこなすためのアクセスコードを受講生に売ったり、成績を数万円で受講生に売った成績贈収賄(Pay-for-Grades)が発覚し、2020年(44歳)に逮捕された。2021年(45歳)、裁判で、1年間の刑務所刑、約600万円の賠償金が科された。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
エドワード・エネルズ(Edward Ennels 、Edward C. Ennels、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のボルチモア・シティ・コミュニティ大学(Baltimore City Community College)・教授で、専門は数学だった。
コミュニティ大学というと地元の小さな研修センターというイメージもあるが、ボルチモア・シティ・コミュニティ大学は教員が700人、学生が4,864人という中規模大学である。ちなみに、教員が175人、学生は2,075人のお茶の水女子大学と比べると、教員は4倍、学生数は2倍も多い。 → ①Baltimore City Community College – Wikipedia、②お茶の水女子大学 – Wikipedia、③教職員数 | お茶の水女子大学。
カネをもらって成績をつける成績贈収賄(Pay-for-Grades)は、研究論文でのデータねつ造・改ざんではない。しかし、教授が学生の成績をねつ造・改ざんしているので、研究者(教育者)のねつ造・改ざん行為である。
2020年(44歳)、発覚の経緯は不明だが、2013~2020年(37~44歳)の8年間、授業での課題をこなすためのアクセスコードを売ったり、成績を数万円で売ったりする成績贈収賄(Pay-for-Grades)したことが発覚し、エネルズ教授は逮捕され、捜査されていた。
2021年8月6日(45歳)、ボルチモア郡巡回裁判所は、エネルズ教授に 1年間の刑務所刑、約600万円の賠償金を科した。
ボルチモア・シティ・コミュニティ大学(Baltimore City Community College)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:?
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1976年1月1日生まれとする。2021年に45歳と報道されたので
- 現在の年齢:48 歳
- 分野:数学
- 不正論文発表:2013~2020年(37~44歳)の8年間
- 発覚年:2020年(44歳)
- 発覚時地位:ボルチモア・シティ・コミュニティ大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は詳細不明
- ステップ2(メディア):「New York Times」など多数の一般紙
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①裁判
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。逮捕され、裁判になったためと思われる。
- 大学の透明性:発表なし(✖)。逮捕され、裁判になったためと思われる。
- 不正:成績贈収賄(Pay-for-Grades)
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:1年間の刑務所刑。賠償金約600万円
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1976年1月1日生まれとする。2021年に45歳と報道されたので
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得:数学
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で研究博士号(PhD)を取得(推定):数学
- 2006年(30歳):ボルチモア・シティ・コミュニティ大学(Baltimore City Community College)・教授
- 2020年(44歳):不正が発覚。逮捕
- 2020年(44歳):大学・教授を辞職(解雇)
- 2021年8月(45歳):裁判で1年間の刑務所刑。賠償金約600万円
●3.【動画】
【動画1】
「エドワード・エネルズ」と紹介。
事件解説動画:「Baltimore Math Professor Who Sold Grades for Cash Gets One Year in Jail – YouTube」(英語)3分24秒。
News Leaderが2021/08/06に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★不正の内容
発覚の経緯は不明である。
エドワード・エネルズ教授は(Edward Ennels)は、15年間、ボルチモア・シティ・コミュニティ大学(Baltimore City Community College)・教授で数学を教えていた。しかも、この大学の「規範・大学公正委員会(Ethics and Institutional Integrity Committee)」の委員を務めていた。
エネルズ教授は、科目によって異なる値段だが、ある科目では、成績Cを150ドル(約1万5千円)、成績Bを250ドル(約2万5千円)、成績Aを500ドル(約5万円)などとして、成績を学生に売っていた。別の科目では、300ドル(約3万円)で成績Aを売る設定もあった。
2020年の7か月の間に、112人の学生に成績の購入を募り、9人の学生から総額2,815ドル(約28万円)を受け取っていた。
2013~2020年(37~44歳)、また、学生が課題を仕上げられるよう教材を閲覧できるオンラインのアクセスコードをに694 件作り、1件につき約90ドル(約9千円)で売っていた。
2021年8月6日(45歳)、ボルチモア郡巡回裁判所は、成績贈収賄(Pay-for-Grades)および職務上の違法行為でエネルズ教授(45歳)を有罪とした。
刑罰は懲役10年だが9年間は保留になり、結局、1年間の刑務所刑が科され、釈放後5年間は保護観察に付されることになった。また、60,000ドル(約600万円)の賠償金が科された。
エネルズ教授は、複数のエイリアス(aliase、偽名、別名、通称)を使って身元を隠し、精巧な犯罪計画をたてて、成績贈収賄(Pay-for-Grades)を実行していた。
エネルズ教授は、賄賂の額について学生としばしば口論になった。その結果、学生の要望を勘案し、希望するコースと学年に基づいて異なる価格を設定していた。
それでも、実際は、ほとんどの学生は賄賂の支払いを拒否していた。エネルズ教授は、賄賂の額を下げたりしたこともあり、成績贈収賄(Pay-for-Grades)に固執していた。
●【不正の具体例】
上記したので、省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
本事件は論文の問題ではないので、省略。
●7.【白楽の感想】
《1》解せない点
カネをもらって良い成績を付ける成績贈収賄(Pay-for-Grades)という事件は、米国を含め外国ではあまり聞かない。実際に珍しい行為なのか、頻繁にあるけど滅多に発覚しない事件なのか、白楽はわからない。
そして、日本でも成績贈収賄(Pay-for-Grades)は聞かない。
エドワード・エネルズ(Edward Ennels)事件では、エネルズ教授側がビジネス的にカネを要求した。
これはバレるし、マズイと思わなかったのだろうか?
実際は、2013~2020年の8年間も行なっていたというから、8年間もバレなかった。常態化していた。あまり悪いこととという認識はないのだろうか?
なお、エネルズ事件では、カネを払って成績を得た学生の方は何も処分されていない。
要するに、あまり悪いこととという認識が教授になかったけど、学生にも、大学にも社会にも、なかった(ない)のかもしれない。
白楽の感覚だと、カネを払って良い成績を得た学生は、試験でのカンニングするのと同程度の不正だと思う。学生を処分しないのは、片手落ちだ。
《2》逆バージョンはあるか?
エネルズ事件では、教授が学生に成績贈収賄(Pay-for-Grades)を持ち掛けた。
逆に学生の方がカネを払うから良い成績付けてと教授に提案したら、どうなるのだろう?
交渉した段階で停学が退学になるのか? このケースも珍しい行為なのか、頻繁にあるけど滅多に発覚しない事件なのか、白楽はわからない。
「カネと成績」でよく問題になるのは、自分の子供が良い成績を取れば、親が子供にご褒美として、カネをあげる行為である。海外では子供の教育上の影響として、賛否両論である。 → ①Does Paying Kids for Good Grades Pay Off? – Positive Parenting Solutions、②Is It OK to Reward Kids With Money or Toys for Their Good Grades? | Parents
日本では、良い成績を取ったことに対して親が子供にご褒美をあげるのは悪い、という意識はあまりないようだ。
大学合格祝いに自動車を一台プレゼントしてもらえる大学生もいるらしい。 → 2020年4月21日の「 Yahoo!知恵袋」記事:新大学1年生です。大学の合格祝い、高校卒業祝いを兼ねて祖父が車…
《3》視点を変えると
カネを払って良い成績を得る行為は、少し範囲と視点を変えると、実は、外国・日本に昔からゴマンとある。
最近の例を挙げよう。
米国の女優・ロリ・ロックリン(Lori Loughlin )がカネを不正に払って娘を大学に入学させた。
2019年3月12日、娘2人を南カリフォルニア大学に裏口入学させるため、同校ボート部でのスカウト入学を装って合計50万ドルを支払った疑いで訴追された。(ロリ・ロックリン – Wikipedia)
日本でも、合格ギリギリの受験生に多額の寄付金を納入させ、合格させることを、長年、行なっていた、と思われる。現在でもあるようだ。 → 2019年3月4日 記事:東京医大、寄付金で入試の個別調整「強く疑われる」 | m3.com、保存版
裏ガネ(高額な饗応・贈り物)で入試合格、科目の良い成績、資格試験合格は、発展途上国などでは、実際はかなり頻繁に起こっていると思う。論文ネカトより多いと、白楽は思う。
日本では、頻繁に起こっていないことを期待するが、闇の世界である。関係者は全員が得をする。それで、情報が漏れにくい。実際はかなり頻繁に起こっているのかもしれない。
《4》臨床試験の成績
成績贈収賄(Pay-for-Grades)は、米国で犯罪としてエネルズ教授は逮捕された。
話しは飛ぶが、研究者が製薬企業からカネをもらって研究すると、その製薬企業に都合の悪い論文発表をマズしない。ほとんどの論文は、製薬企業に都合の良い論文になる。
約28万円をもらって学業の成績をねつ造・改ざんしたエネルズ教授は、刑務所刑と賠償金。
一方、その100倍の2800万円をもらって臨床試験の成績をねつ造・改ざんしても、研究者はせいぜい解雇されるまでだ。
どうして、刑務所刑にならない? おかしくないか?
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2021年8月5日のアジ・ペイバラ(Azi Paybarah)記者の「New York Times」記事:Baltimore Math Professor Who Sold Grades for Cash Gets One Year in Jail – The New York Times
② ①と同じ記事。2021年8月5日のアジ・ペイバラ(Azi Paybarah)記者の「Seattle Times」記事:Baltimore math professor who sold grades for cash gets one year in jail | The Seattle Times
③ 2021年8月6日のスタッフの「university business」記事:Baltimore math professor who sold grades for cash gets one year in jail (subscription) |
④ 2021年8月6日のウィル・ヴィトカ(Will Vitka)記者の「WTOP」記事:Former Baltimore math professor took pay for grades in bribery scheme; gets 1 year in jail | WTOP
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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