2022年10月20日掲載
ワンポイント:イロは2016年(28歳)、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)・ポスドクの時、フォーブス誌の「教育界の30歳未満の30人」に選ばれるほど既に著名だった。2020年8月(32歳)、「2017年10月のJournal of Latinos and Education」論文を含め2本の論文が盗用で撤回された。同大学・助教授だったのに、カリフォルニア大学アーバイン校はネカト調査をしていない(推定)。2021年7月(33歳)、論文撤回から約1年後、アズーサ太平洋大学(Azusa Pacific University)・準教授に栄転した。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
【追記】
・2023年10月12日記事:Exclusive: Author threatened to sue publisher over retraction, then sued to block release of emails – Retraction Watch
・2023年10月12日記事:Our two-year fight for the release of public records – Retraction Watch
・2023年8月24日記事:California Public Records Requester Can File Anti-SLAPP Motion Objecting to Attempt to Block Request → 2023年8月24日:裁判記録:CERTIFIED FOR PUBLICATION
・2023年1月14日記事: Correspondence About UC Irvine Professor’s Alleged Plagiarism Is Public Record, Subject to Disclosure → 2023年1月13日、裁判記録:Iloh v. Regents.PDF
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
コンスタンス・イロ(Constance Iloh、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のカリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)・助教授で、専門は教育学(人類学、ビジュアルアーティスト)である。
2016年、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)・ポスドクの28歳の時、フォーブス誌の「教育界の30歳未満の30人」に選ばれるほど既に著名だった。 → 2016 30 Under 30: Education
ところが、2本の論文が盗用だと指摘された。盗用発覚の経緯は不明だが、被盗用者が学術誌に通報したのだと思う。
2020年8月10日(32歳)、盗用で「2017年10月のJournal of Latinos and Education」論文が撤回された。もう1本の「2017~2018年のJournal of Student Affairs」論文も同じ頃(推定)、撤回された。
2021年7月(33歳)、論文撤回から約1年後、コンスタンス・イロはアズーサ太平洋大学(Azusa Pacific University)・準教授に栄転した。
2022年10月19日(34歳)現在、同職に在職している:Constance Iloh, PhD – School of Behavioral and Applied Sciences – Azusa Pacific University
カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)はネカト調査をしなかった。それで、懲戒処分していない。
それとも、調査し、懲戒処分となった(なりそうだった)ため、アズーサ太平洋大学に移籍したのか? 実態は良くわからない。
事実として、コンスタンス・イロは研究者を続けている。アズーサ太平洋大学(Azusa Pacific University)の学生・教職員に嫌悪感がないのだろうか?
白楽ブログでは、多くの場合、ネカト行為に対処した事件を記事にしている。
しかし、明白なネカト行為なのに、米国の大学が対処しない、あるいは、大学の透明性が大きく欠けて事件内容が不明な場合は、かなり(2割~8割?)あると思う。コンスタンス・イロ事件はその一例である。
カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)。写真 by Poppashoppa22 at en.wikipedia, CC 表示-継承 3.0, 出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:南カリフォルニア大学
- 男女:女性
- 生年月日:生年月日:不明。仮に1988年1月1日生まれとする。2016年に28歳とあったので: 2016 30 Under 30: Education
- 現在の年齢:36歳
- 分野:教育学
- 不正論文発表:2017年(29歳)
- 発覚年:2020年(32歳)
- 発覚時地位:カリフォルニア大学アーバイン校・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②カリフォルニア大学アーバイン校はネカト調査していない(推定)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。ネカト調査していない(推定)
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 不正:盗用
- 不正論文数:2報撤回
- 盗用ページ率:?%
- 盗用文字率:約20%
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Constance Iloh, Ph.D. | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1988年1月1日生まれとする。2016年に28歳とあったので: 2016 30 Under 30: Education
- 2005~2009年(17~21歳):米国のメリーランド大学(University of Maryland)で学士号取得:心理学
- 2009~2010年(21~22歳):ウェイク・フォレスト大学ビジネス・スクール(ake Forest University School of Business)で修士号取得:経営学
- 2010~2015年(22~27歳):南カリフォルニア大学(University of Southern California)で研究博士号(PhD)を取得
- 2015年7月~2017年6月(27~29歳):カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine (UCI))・ポスドク
- 2016年(28歳):フォーブス誌の「教育界の30歳未満の30人」に選ばれた: 2016 30 Under 30: Education
- 2017年(29歳):「2017 African Diaspora Awards」を受賞した: Twitter
- 2017年7月~2021年6月(29~33歳):カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine (UCI))・助教授
- 2017年10月(29歳):3年後に撤回される「2017年10月のJournal of Latinos and Education」論文を出版
- 2020年8月10日(32歳):盗用で上記論文が撤回
- 2021年7月(33歳):アズーサ太平洋大学(Azusa Pacific University)・準教授
- 2022年10月19日(34歳)現在:同上に在職Constance Iloh, PhD – School of Behavioral and Applied Sciences – Azusa Pacific University
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
インタビュー動画:「#Scholarship2Practice Interview with Dr. Constance ILoh – YouTube」(英語)29分44秒。
University Innovation Alliance(チャンネル登録者数 554人) が2020/10/08に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★才能あるポスドク
コンスタンス・イロ(Constance Iloh)は2016年、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine (UCI))・ポスドクの28歳の時、フォーブス誌の「教育界の30歳未満の30人」に選ばれるほど既に著名だった。 → 2016 30 Under 30: Education
2017年(29歳)、「2017 African Diaspora Awards」を受賞した。
Honored to receive the Scholar of the Year Award @ the 2017 African Diaspora Awards! Left New York inspired by my fellow honorees and grateful to do work I love. Yes, the professor life can be lit 🙂 pic.twitter.com/vmu1kA9wrF
— constance iloh (@ConstanceIloh) December 15, 2017
丁度その頃執筆した論文が盗用だったのだ。
★盗用
コンスタンス・イロ(Constance Iloh)の盗用発覚の経緯は不明だが、被盗用者が学術誌に通報したのだと思う。
盗用論文は2本、指摘されている。
1本目。
2020年8月10日(32歳)、学術誌は、以下の「2017年10月のJournal of Latinos and Education」論文を撤回した。 → 2020年8月10日:撤回公告
- Paving effective community college pathways by recognizing the Latino post-traditional student.
Iloh, C.
Journal of Latinos and Education, 25 October 2017.
DOI: 10.1080/15348431.2017.1371603
盗用率は%で示されていない。「a substantial amount of text overlap」とあり、かなりの量ということだ。
2本目は「2017~2018年のJournal of Student Affairs」論文
- Not Non-traditional, the New Normal: Adult Learners and the Role of Student Affairs in Supporting Older College Students
Constance Iloh
Journal of Student Affairs Vol. XXVII, 2017-2018
盗用部分を後述するが、逐語盗用部分の盗用文字率は印象として20%程度である。
2018年8月頃(推定)、撤回された。コロラド州立大学(Colorado State University)が出版した学術誌の論文だが、論文を学術誌ごと削除してしまった。
★脅迫と大学の尻ぬぐい
盗用の件で、「撤回監視(Retraction Watch)」はコンスタンス・イロに問い合わせのメールをした。
コンスタンス・イロは何も返事をしなかったので、結局、「撤回監視(Retraction Watch)」のメールは数回に及んだ。
そして、コンスタンス・イロが上司のエリック・リンジー教授(Eric Lindsay、写真出典)に泣きついたのだろう。
リンジー教授は「撤回監視(Retraction Watch)」を脅迫する以下のメールを送った。
コンスタンス・イロに嫌がらせや疑念をほのめかすメールを送信していると知らされました。あなたのブログに彼女を記載しないことと、進行中の妨害行為、虐待、ストーカー行為に法的措置を取ることをお知らせするために手紙を書いています。
最後に、彼女にこれ以上メールを送信しないでください。送信すると当局に通報します。
メールはカリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine (UCI))のアドレスから送信されていたので、大学教授の職務として送付した形である。
ユタ大学のサイエンスライターであるリー・シーゲル(Lee Siegel、写真出典)は、この脅迫に憤り、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)当局に以下のように問題点を指摘した。[白楽注:ここでリー・シーゲルが登場した経緯がわからない]
この2人のとても恥ずべき行為は税金で支えられているんです。学術研究の公正基準に沿って活動すべきです。
そして、リー・シーゲルは、コンスタンス・イロとリンジー教授に対する「適切な行動」をカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)当局に要求した。
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)のカーステン・クアンベック機会均等担当副学長(Kirsten K. Quanbeck、写真出典)は、コンスタンス・イロとリンジー教授の対応はマズいと考えたようだ。
2020年9月3日、クアンベック副学長はリー・シーゲルにリンジー教授の対応とは真逆の弁解調の手紙を書いた。そこには、「リンジー教授のコメントは個人的なものであり、本学を代表してなされたものではありません」とあった。
その手紙は「撤回監視(Retraction Watch)」にアップされていた。
以下は2020年9月3日付けのクアンベック副学長の手紙を「 DeepL機械翻訳」で日本語訳し、「Readable」で元のPDF形式に整えた。英語の元文書の全文(1ページ)は → ココ。
200903 letter-1
手紙には「この件は、適切な管理者に照会され、対処されています」とある。
この「対処」の意味は、ネカト調査のことかどうか分からない。
●【盗用の具体例】
★「2017~2018年のJournal of Student Affairs」論文
「2017~2018年のJournal of Student Affairs」論文の書誌情報を以下に示す。2018年8月頃(推定)、撤回された。コロラド州立大学(Colorado State University)が出版した学術誌の論文だが、論文を学術誌ごと削除してしまった。
- Not Non-traditional, the New Normal: Adult Learners and the Role of Student Affairs in Supporting Older College Students
Constance Iloh
Journal of Student Affairs Vol. XXVII, 2017-2018
以下の盗用図(着色部分)の出典:https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/08/JSA-Iloh.pdf
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
教育学の論文を生命科学系の論文データベースで探ってみた。
2022年10月19日現在、パブメド(PubMed)で、コンスタンス・イロ(Constance Iloh)の論文を「Constance Iloh [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。
やはり、無理でした。
★撤回監視データベース
2022年10月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでコンスタンス・イロ(Constance Iloh)を「Constance Iloh」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のSci Rep」論文・ 2論文が訂正、0論文が懸念表明、1論文が撤回されていた。
「2017年10月のJournal of Latinos and Education」論文が2020年8月10日に、盗用で撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2022年10月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、コンスタンス・イロ(Constance Iloh)の論文のコメントを「Constance Iloh」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》盗用者の昇進
コンスタンス・イロ(Constance Iloh)はカリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)・ポスドクの時の論文の盗用が、同大学・助教授の時に発覚した。
それで、別の大学であるアズーサ太平洋大学(Azusa Pacific University)に移籍したが、準教授の昇進である。
「これはナイ!」
「あってはいけない!」
カリフォルニア大学アーバイン校はネカト教員を追い出せて、ババ抜きした気分だろう。しかし、ネカト者は当該大学の問題ではなく、学術界の問題という意識が薄すぎる。学術界から排除すべきである。
コンスタンス・イロは、いくつかの賞を受賞し才能がある人と受け取られている。しかし、盗用しているのだから、学術の才能はないということは明白だ。
カリフォルニア大学アーバイン校も、盗用者を準教授受け入れたアズーサ太平洋大学(Azusa Pacific University)も、オカシイ。
《2》不正への対処
リー・シーゲルに宛てたカーステン・クアンベック機会均等担当副学長(Kirsten K. Quanbeck)の2020年9月3日の手紙には「本学はすべての不正行為の申し立てを非常に真剣に受け止めています」とある。
しかし、カリフォルニア大学アーバイン校が、どのように「非常に真剣に受け止めている」のかは全く不明である。
白楽には「非常に真剣に受け止めている」という内容は、ネカト者の処分やネカト防止に対してではなく、自大学への悪い評価を「非常に真剣に」隠蔽するとことではないかと白楽は感じた。
「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査し厳罰を科すべきなのだ。
コンスタンス・イロの場合、20代後半のポスドク時代に既にフォーブス誌の「教育界の30歳未満の30人」に選ばれた。「2017 African Diaspora Awards」や「Face2FaceAfrica YACE Award」も受賞している。
メディア受けする才能はあるのだろう。
しかし、盗用である。
多分、2017年の盗用論文以前から盗用していた。となると、2015年の博士論文も盗用ではないだろうか?
才能が「ある」「なし」にかかわらず、不正者をチャンと処分しておけば、①改心して、以後、不正をしない。②あるいは、研究者を廃業する。のどちらかになって、その後の人生で、学術界を黒く塗らない公算が高い。
「研究上の不正行為」は、知識・スキル・経験が積まれると、なかなか発覚しにくくなるし、不正行為の影響が大きくなる。
コンスタンス・イロ(Constance Iloh)。写真:https://urbanintellectuals.com/meet-dr-constance-iloh-professor-making-headlines-history-higher-education/
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●9.【主要情報源】
① 2018年9月25日の記者名不記載の「UCI News」記事:Harvard Educational Review publishes UCI assistant professor’s college ‘choice’ model | UCI News | UCI
② 2020年8月27日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: High-profile education researcher has papers retracted and corrected, for plagiarism and misuse of references – Retraction Watch
③ 2020年9月4日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Professor’s legal threats “were personal and not made on behalf of the University,” says University of California, Irvine – Retraction Watch
④ 本人のウェブサイト:Constance Iloh
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