2020年10月15日掲載
ワンポイント:ベルギーの切手にのったスーパースター研究者・ヴァーフェイルは、ルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)・教授である。2019年12月1日(62歳)、1999~2018年(20年間)の約10報の論文にネカト画像があると、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が、パブピアとブログで指摘した。2020年7月16日(63歳)、ルーヴェン・カトリック大学のネカト調査委員会は、ネカトはなかったと結論した。白楽はこの調査がヘンだと思うが、公式にはシロなので、タイトルに「無罪?」と書いた。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
【追記】
・2024年7月2日記事:A Retracted Stem Cell Study Reveals Science’s Shortcomings | Scientific American
・2024年6月18日記事:4,500回も引用されたヴァーフェイルの「2002年のNature」論文を撤回:Nature retracts highly cited 2002 paper that claimed adult stem cells could become any type of cell – Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
キャサリン・ヴァーフェイル(Catherine Verfaillie、Catherine M Verfaillie、ORCID iD:?、写真出典)は、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)・教授・医師で、ベルギーのスーパースター研究者である。専門は幹細胞学。
白楽はこの事件をクロだと思うが、当局がシロと判定したので、タイトルに「無罪?」と入れた。
ヴァーフェイルがスーパースター研究者であることは、ベルギーの切手(写真出典)になっていることからも容易に推察できる。
ヴァーフェイルは米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・教授だった時、「2002年7月のNature」論文を出版した。
この論文は、2007年、ネカト疑惑を受け、ミネソタ大学が調査した。その結果、院生のモレイマ・レイエス(Morayma Reyes)が「2001年のBlood」論文(「2002年7月のNature」論文ではない)の複数の画像の重複使用とねつ造を行なったと結論した。この事件では、ヴァーフェイルはシロ、と結論された。
2019年12月1日(62歳)、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)・教授になっていたヴァーフェイル教授の1999~2018年(20年間)の約10報の論文にネカト画像があると、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が、パブピアと自分のブログで指摘した。
ルーヴェン・カトリック大学のネカト調査委員会(Commission on Research Integrity)がヴァーフェイル教授のネカト調査を開始した。
2020年7月16日(63歳)、ネカト調査委員会は、ネカトはなかったと結論した。
ルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)。出典https://nieuws.kuleuven.be/en/content/2017/ku-leuven-is-fifth-most-innovative-university-in-the-world
- 国:ベルギー
- 成長国:ベルギー
- 医師免許(MD)取得:ルーヴェン・カトリック大学
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:女性
- 生年月日:1957年4月22日
- 現在の年齢:67 歳
- 分野:幹細胞学
- 最初の不正論文発表:1999年(42歳)
- 不正論文発表:1999~2018年(42~61歳)の20年間の約10報の論文
- 発覚年:2019年(62歳)
- 発覚時地位:ルーヴェン・カトリック大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)で、パブピアで指摘し、自分のブログに書いた。レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がルーヴェン・カトリック大学に通報した
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「Scientist」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ルーヴェン・カトリック大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。無罪。KU Leuven completes research on possible breach of research integrity – News
- 大学の透明性:大学は実名でウェブで公表(〇):上記
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2論文撤回(内1論文が今回の事件、1論文は2007年の事件)。パブピアは18論文にコメント
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし。無罪なので
- 日本人の弟子・友人:沖将行(おき まさゆき)(東海大学・准教授)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典。①:Prof. Catherine Verfaillie – Stamcelinstituut Leuven (SCIL)、保存版
- 1957年4月22日:ベルギー(?)で生まれる
- 1982年(25歳):ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)で医師免許取得
- 1987-1989年(30-32歳):米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・ポスドク
- 1989年(32歳):同大学・講師、後に助教授、準教授
- 1998年(41歳):同大学・教授
- 2006年(49歳):ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)・教授
- 2007年(50歳):1回目のネカトが発覚(ミネソタ大学時代の論文)
- 2008年10月(51歳):ミネソタ大学・調査委員会は、院生のモレイマ・レイエス(Morayma Reyes)がクロ、教授のヴァーフェイルをシロと発表した
- 2019年12月(62歳):2回目のネカトが発覚(ルーヴェン・カトリック大学時代の論文)
- 2020年7月(63歳):ルーヴェン・カトリック大学・調査委員会はシロと結論
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
2009年11月23日の研究講演動画:「TEDxBrussels – Catherine Verfaillie – 11/23/09 – YouTube」(英語)11分1秒。
TEDx Talksが2009/12/18 に公開
【動画2】
研究講演動画:「灰色の細胞:クローニングについてキャサリン・ヴァーフェイルの講演(Grijze Cellen. Voordracht Catherine Verfaillie over klonen)- YouTube」(オランダ語)30分45秒。
Eos Wetenschapが2011/12/21に公開
●4.【日本語の解説】
★2007年3月23日:粥川準二「体性幹細胞研究をめぐる疑惑」
出典 → みずもり亭Blog @ journalism.jp
修正引用する。
2002年6月、ミネソタのキャサリン・ヴァーフェイルのチームは、身体の組織のほとんどへと分化しうるマウスの骨髄細胞由来の幹細胞について、『ネイチャー』(第418巻41頁)に論文を発表した。ヴァーフェイルのチームはこれらの細胞を「多能性成体前駆細胞」MAPCsと呼んだ。ほかの研究者らは、その後、その研究を再現することが難しい述べている。
こうした再現性の困難さを見て、『ニューサイエンティスト』は1年以上前に、この『ネイチャー』論文を綿密に調べることを決断した。私たちは、そのなかの画像の一部が、ほぼ同時に公表された第2の論文にも使用されていることを発見した。第2の論文では、それらは、異なる実験にかかわるものであるとみなされていた。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★レイエス事件:2007年
2007年、「●4.【日本語の解説】」で引用したように、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)のキャサリン・ヴァーフェイル(Catherine Verfaillie)研究室の「2002年7月のNature」論文にネカト疑惑が生じた。
- Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow.
Jiang Y, Jahagirdar BN, Reinhardt RL, Schwartz RE, Keene CD, Ortiz-Gonzalez XR, Reyes M, Lenvik T, Lund T, Blackstad M, Du J, Aldrich S, Lisberg A, Low WC, Largaespada DA, Verfaillie CM.
Nature. 2002 Jul 4;418(6893):41-9. Epub 2002 Jun 20.
Erratum in: Nature. 2007 Jun 14;447(7146):879-80.
PMID:12077603
以下は以前の記事の流用である。 → 「間違い」:モレイマ・レイエス(Morayma Reyes)(米) | 白楽の研究者倫理
2007年2月、科学雑誌 『ニューサイエンティスト』の記者・ピーター・アルドウス(Peter Aldhous)が、「2002年のNature」論文が脚光を浴びたのに、他の研究室が研究結果を再現できないことに異常を感じ、論文を精査し始めた。すると、画像の重複使用やねつ造が見つかった。内容を『ニューサイエンティスト』誌の記事に書くとともに、ミネソタ大学に公益通報した。
2007年(?)、ミネソタ大学は、研究担当副学長のティモシー・ムルカイ(Timothy Mulcahy)を委員長とした調査を開始した。
2008年10月、ミネソタ大学は、調査を終了し、院生だったモレイマ・レイエス(Morayma Reyes、写真出典)が「2001年のBlood」論文の複数の画像の重複使用とねつ造を行なったと結論した。しかし、プライバシー法のため、調査報告書を公表しなかった。
★ヴァーフェイルはスーパースター研究者
2006年(49歳)、ベルギー人のヴァーフェイル教授は、ミネソタ大学を離れ、出身大学であるベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KUL:Catholic University of Leuven)に移籍した。
ヴァーフェイルはミネソタ大学・教授時代にも雑誌の紙面を飾るほど有名だったが(写真出典)、ベルギーに移籍してからも、非常に高く評価されていた。
というわけで、EU委員会(EU Commission)とベルギーのフランダース・イノベーション・起業庁(Belgium’s Flanders Innovation and Entrepreneurship agency)から数百万ユーロ(数億円)の助成金を受け取った。
ヴァーフェイルがスーパースター研究者であることは、ベルギーの切手(写真出典)になっていることからも容易に推察できる。ヴァーフェイルは左の女性です。
ちなみに、日本でも科学者の切手を発行している(写真出典)。この人、どなたかわかります? 「ス」で始まる、あの有名な・・さんです。
★新たなネカト疑惑:2019年
2019年12月1日(62歳)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が、ヴァーフェイル教授がベルギーに移籍してからの1999~2018年の20年間の論文の画像が異常だと、パブピアで指摘した。
約10報の論文で、例えば、以下の「2008年3月のLiver Transpl」論文の図3である。
- Isolation and characterization of a novel population of progenitor cells from unmanipulated rat liver.
Sahin MB, Schwartz RE, Buckley SM, Heremans Y, Chase L, Hu WS, Verfaillie CM.
Liver Transpl. 2008 Mar;14(3):333-45. doi: 10.1002/lt.21380.
図3。赤枠で囲った部分が同じ。パブピアの出典:https://pubpeer.com/publications/7E499A5BCC90A022738B746C7A9277#1
2019年12月5日(62歳)、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、ヴァーフェイルの論文のネカト画像について、自分のブログにも書いた。 → 2019年12月5日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の記事:Concern about stem cell research from KU Leuven and the University of Minnesota – Science Integrity Digest
2019年12月5日(62歳)、ベルギーの新聞「De Tijd」がビックの指摘に敏感に反応し、ルーヴェン・カトリック大学(KUL:Catholic University of Leuven)のヴァーフェイル教授の多数の論文に改ざん疑惑画像が見つかったと報じた。 → 2019年12月5日の「De Tijd」記事:KU Leuven onderzoekt papers stamcelspecialisten op vervalsing | De Tijd
★ルーヴェン・カトリック大学のネカト調査委員会
以下の内容の主な出典 → 2020年7月16日のルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)ニュース:KU Leuven completes research on possible breach of research integrity – News
ルーヴェン・カトリック大学はヴァーフェイル教授のネカト告発を受け(レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が通報した)、ネカト調査委員会(Commission on Research Integrity)が調査を開始した。
ルーヴェン・カトリック大学の学長は、社会学者のリュック・セルス(Luc Sels – Wikipedia、写真出典)で、「論文が信頼できる情報源であるためには、研究への信頼が不可欠です。それが研究公正です」と述べた。
2020年7月16日(63歳)、ところが、驚いたことに、ルーヴェン・カトリック大学のネカト調査委員会は、調査対象の論文にネカトはなかったと結論した。ただ、一部の論文には不正確な画像が含まれていたとした。
→ 2020年7月16日のルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)ニュース:KU Leuven completes research on possible breach of research integrity – News
なお、ネカト調査委員会は調査委員の名前を公表していない。調査対象の論文は「4つの出版物」と述べているが、どの論文かを示していない。従って、問題画像のどの点がネカトと指摘され、どうしてそれがネカトではないのか、という具体的な説明はない。
以下に、ルーヴェン・カトリック大学側の説明を記す。
ネカト調査委員会(Commission on Research Integrity)は、他の人から指摘されたヴァーフェイル教授の最近の4つの出版物を調査した。
調査の結果、調査した出版物に研究公正の違反はなかった。いくつかの図は、高い水準から見ると、科学的な画像としては不正確な部分があった。それにもかかわらず、これらの画像は誠実に構成されており、研究公正を侵害していると疑う余地はない。
また、調査委員会はヴァーフェイル教授が研究結果の質を保証するシステムを実行していることも指摘しておきたい。このシステムのおかげで、調査委員会は関係する出版物のすべての生データにアクセスでき、実験を詳細にチェックできた。ヴァーフェイル教授は研究結果をねつ造・改ざんする意図はなかった、と委員会は結論した。
これらの調査結果に基づいて、調査委員会は、ヴァーフェイル教授が研究ネカトをしたと非難されることはないと結論した。
リュック・セルス学長は次のコメントをした。
過去数年間、私たちは研究公正を守り、研究公正文化をさらに発展させることに多大な努力を注いできました。ネカト調査委員会(Commission on Research Integrity)は、軽微なネカトから重大なネカトまで多様なネカトを調査し特定しています。これらの研究公正違反の調査は透明性を保って行ないます。
今回、ネカトの告発がプロセスの早い段階で公表されたことを残念に思います。我々のネカト調査委員会がその仕事をする前に公表されたのです。ネカト調査委員会は、当事者の先入観や影響を受けることなく、プライバシーとその保護を十分に尊重し、調査しなければなりません。
ネカトに関係すると指摘された研究者は大きな不安と動揺の月日を過ごしたことでしょう。ネカト調査のどの段階においても、魔女狩りで利益を得る人はいません。従って、調査を実施する前であっても、世間一般が見ることができるウェブを介した不当な記述や問題指摘から研究者を保護したいと考えています。
疑惑を表明することと、公然と名前を挙げて、恥をかかせることとの間には本質的な違いがあります。研究公正を促進・監視するためのサポートと取り組みが危険にさらされるリスクがあります。
ただし、すべてのネカトは、それが小さくても、少しであっても、望ましくないという事実は変わりません。私たちは、告発や問題指摘を真剣に受け止め、必要に応じて適切な措置を講じます。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2020年7月16日(63歳)、ルーヴェン・カトリック大学・ネカト調査委員会は、調査対象の論文にネカトはなかったが、一部の論文には不正確な画像が含まれていたと結論した。
ただ、どの論文のどの画像なのか示していない。
パブピアでオカシイと指摘されたネカト画像を見ていこう。
★「2018年10月のAlzheimers Dement」論文
「2018年10月のAlzheimers Dement」論文の書誌情報を以下に示す。2020年10月14日現在、撤回されていない。
- Generation of a human induced pluripotent stem cell-based model for tauopathies combining three microtubule-associated protein TAU mutations which displays several phenotypes linked to neurodegeneration.
García-León JA, Cabrera-Socorro A, Eggermont K, Swijsen A, Terryn J, Fazal R, Nami F, Ordovás L, Quiles A, Lluis F, Serneels L, Wierda K, Sierksma A, Kreir M, Pestana F, Van Damme P, De Strooper B, Thorrez L, Ebneth A, Verfaillie CM.
Alzheimers Dement. 2018 Oct;14(10):1261-1280. doi: 10.1016/j.jalz.2018.05.007. Epub 2018 Jul 20.
図2Kは同じ画像を回転させて使用していると、Lasallia Daliensisが指摘した。以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/D7855B12048766C81B425EB3BF68E1#1
★「2014年9月のStem Cell Res」論文
「2014年9月のStem Cell Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年10月14日現在、撤回されていない。
- FANCA knockout in human embryonic stem cells causes a severe growth disadvantage.
Vanuytsel K, Cai Q, Nair N, Khurana S, Shetty S, Vermeesch JR, Ordovas L, Verfaillie CM.
Stem Cell Res. 2014 Sep;13(2):240-50. doi: 10.1016/j.scr.2014.07.005. Epub 2014 Jul 27.
図2のCとEの赤枠で囲ったバンドは同一画像を使用していると、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が指摘した。以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/D6044172E7B6AE03B0721C5316F0B5#1
★「2013年5月のStem Cells Dev.」論文
「2013年5月のStem Cell Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年10月14日現在、撤回されていない。
- NKX2-1 activation by SMAD2 signaling after definitive endoderm differentiation in human embryonic stem cell.
Li Y, Eggermont K, Vanslembrouck V, Verfaillie CM.
Stem Cells Dev. 2013 May 1;22(9):1433-42. doi: 10.1089/scd.2012.0620. Epub 2013 Feb 19.
図3Bの色付枠で囲った2セットの画像は同一画像を使用していると、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が指摘した。以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/D484FF5099A2396C7864F36B416F80#1
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年10月14日現在、パブメド( PubMed ))で、キャサリン・ヴァーフェイル(Catherine Verfaillie)の論文を「Catherine Verfaillie [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1999~2020年の22年間の255論文がヒットした。
「Verfaillie CM」で検索すると、1985~2020年の36年間の281論文がヒットした。
2020年10月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。「2001年11月のBlood」論文が2009年3月に、「2009年のAm J Physiol Cell Physiol」論文が2009年12月に、撤回された。
★撤回監視データベース
2020年10月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでキャサリン・ヴァーフェイル(Catherine Verfaillie)を「Verfaillie, Catherine M」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、2論文が撤回されていた。
上記と同じで、「2001年11月のBlood」論文が2009年3月に、「2009年のAm J Physiol Cell Physiol」論文が2009年12月に、撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2020年10月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、キャサリン・ヴァーフェイル(Catherine Verfaillie)の論文のコメントを「Catherine Verfaillie」で検索すると、17論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》エリザベス・ビック
ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)のネカト画像を見つける能力は天才的である。
よくもこんな画像の類似部分を見つけたなあ、と驚嘆する。
《2》小さな細かな画像加工
パブピアの指摘を見ての白楽の感想を言えば、画像の複製使用は明白である。ただ、大きな複製使用をしていない。小さな細かな複製使用の発覚である。
小さな細かな画像加工だから、目くじら立てずに、大目に見ていいか?
そうは問屋が卸さない。
小さな細かな加工。
このことの意味は、画像の加工が巧妙ということだ。画像操作が意図的で、見つからないように、注意深く行なっているということだ。だから、小さな細かな画像加工しか見つからなかった。
注意深く画像を加工していることから、大きな画像の加工は発覚しないように行なったに違いない。となると、実際は、どれだけ多くの画像加工しているのか、わからない。というか、かなりたくさんしているのではないだろうか?
ネカト調査委員会が元データを入手してチェックしたとある。それでも、発覚しないように、元データの保存段階ですでに何らかの加工をしている可能性もある。
《3》リュック・セルス学長のコメント
リュック・セルス学長のコメントは、正論と思う面もあるが、実質、自分でネカトを見つけず、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の指摘、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の通報がでやっと気がついた。
それなのに、ビックやシュナイダーに感謝せずに、非難している。
自分の大学の研究公正を自分の大学で管理できない。それなのに、他人が指摘するなら、世間に知らせず、コッソリ教えろ、と怒ってる。
リュック・セルス学長は、透明性を保つといながら、調査結果は隠ぺいが多い。
保身が強すぎで、自分の在職期間だけは波風たてるな、と聞こえてくる。この人に、大学の改革は望めない。早めに退陣していただいた方がベルギーのためである。
ネカトハンターがなぜウェブでネカトを指摘するかと言えば、大学が事件を「もみ消す」からだ。
そういうことを数回も経験すれば、どうすればいいか、考えるわけだ。
《4》委員会の不正
ルーヴェン・カトリック大学・ネカト調査委員会は、ヴァーフェイル教授はネカトでシロと判定した。
白楽は、クロだと思った。
相撲で行司がミスると、審判委員が「物言いをつける」。テレビはスローモーションで取り組みを再生するので、テレビを見ている人は、どっちが勝ったか、負けたか、ハッキリわかる。
同じように、画像の「ねつ造・改ざん」は画像が示されているので、研究者は不正かどうか自分で判断できる。そのクロを、ルーヴェン・カトリック大学のネカト調査委員会がシロと判定している。つまり、ネカト調査委員会がクロだ。
誰が見てもクロと思えるクロを、無理やりシロとし、それが正されない仕組みは、相当マズイ。まあ、日本のネカト調査委員会も結構いい加減なことをしている。ベルギーを非難する前に、自分の国のことを何とかしなくてはならない。
Catherine #Verfaillie and @MicrobiomDigest in Belgian newspaper. pic.twitter.com/PE4LNZGTFn
— Leonid Schneider (visit my site for Covid19 cures) (@schneiderleonid) December 6, 2019
《5》「おかしい」との声なき声
上記で、「《4》委員会の不正」と不正を断定的に書いた。白楽はそう思ったからだ。
本文に書いたが、ネカト調査委員会は調査委員の名前を公表していない。調査対象の論文は「4つの出版物」と述べているが、どの出版物かを示していない。従って、問題画像のどの点がネカトと指摘され、どうしてそれがネカトではないのか、という具体的な説明はない。
要するに、事態をあいまいなままにして、ルーヴェン・カトリック大学のスーパースター科学者、イヤイヤ、ベルギーのスーパースター科学者であるヴァーフェイル教授の名声と権威を守った。
ところが、ネカトウオッチャーの誰一人、正面切っては、「おかしい」と声を挙げていない。
なんでなんだろう?
いやいや、よくよく見ると、「おかしい」と態度で示している人はいた。正義は死んでいない。
2020年7月16日、ルーヴェン・カトリック大学・ネカト調査委員会が、ヴァーフェイル教授はネカトでシロと判定した日、ベルギーの日刊紙「De Standaard」はほとんど説明を書かずに、以下の写真を掲載した。
画像出典:‘Voor Catherine Verfaillie zal de lat voor wetenschappelijk… – De Standaard https://www.standaard.be/cnt/dmf20200715_97626744
その同じ日、その写真を、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が、ツイートした。それを、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がリツイートした。
This seems to be the first site to report @destandaard @maxieeckert and Stijn Cools https://t.co/DskOJYXw6A
— Elisabeth Bik (@MicrobiomDigest) July 16, 2020
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(注:写真は本文とは関係ありません)。白楽がルーヴェン・カトリック大学の職員食堂で食べたランチ。これにスープが付いて、4.05ユーロ(約480円)。2006年。白楽撮影。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Catherine Verfaillie – Wikipedia
② 2008年10月7日のピーター・アルドウスとユージニー・サミュエル(Peter Aldhous and Eugenie Samuel)記者の「New Scientist」記事:Stem-cell researcher guilty of falsifying data | New Scientist
③ 2019年12月4日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログCatherine Verfaillie, the Zombie Scientist of KU Leuven – For Better Science
④ 2019年12月10日のキャサリン・オフフォード(Catherine Offord)記者の「Scientist」記事:KU Leuven Investigates Whether Stem Cell Scientist Falsified Data | The Scientist Magazine®
⑤ 2020年7月16日のルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)ニュース:KU Leuven completes research on possible breach of research integrity – News
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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