「間違い」:モレイマ・レイエス(Morayma Reyes)(米)

2016年9月3日掲載。

ワンポイント:院生時代の2001年の第1著者論文が、2009年にネカトで撤回されたが、大学の杜撰なネカト調査に救われ、「間違い」という主張が通り、現在、大学助教授として活躍している。撤回論文は、「被引用度の高い撤回論文」ランキングの第2位である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

reyes_moraymaモレイマ・レイエス(Morayma Reyes、写真出典)は、プエルトリコ出身で、米国・ミネソタ大学(University of Minnesota)大学院で2001年に研究博士号(PhD)を取得し、シアトルのワシントン大学(University of Washington)・助教授になった。専門は幹細胞学で医師である。

2007年(33歳?)、既にワシントン大学・助教授になっていたが、ミネソタ大学の院生時代に発表した「2001年のBlood」論文の図に、ねつ造・改ざんが見つかった。レイエスは、「間違い」だと主張した。

「2001年のBlood」論文は2009年に撤回されたが、2016年9月2日現在、「被引用度の高い撤回論文」ランキングの第2位である。

この事件の日本語解説は1つあった。「粥川準二」の文章を本文に引用した。

University_of_Minnesota_Medical_School_at_Twin_Cities_5648158ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:プエルトリコ
  • 研究博士号(PhD)取得:ミネソタ大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1974年1月1日生まれとする。1996年の大学卒業を22歳とした
  • 現在の年齢:43 歳?
  • 分野:幹細胞学
  • 最初の不正論文発表:2001年(27歳?)
  • 発覚年:2007年(33歳?)
  • 発覚時地位:ワシントン大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は科学雑誌 『ニューサイエンティスト』の記者・ピーター・アルドウス(Peter Aldhous)。ミネソタ大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):科学雑誌 『ニューサイエンティスト』
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミネソタ大学・調査委員会。②学術誌「Blood」編集局。学術誌「Nature」編集局
  • 不正:「間違い」
  • 不正論文数:撤回論文1報。訂正論文1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職なし

●2.【経歴と経過】

主な出典:①Morayma Reyes, MD, PhD – Faculty – UW Laboratory Medicine、②Morayma Reyes, University of Washington

  • 生年月日:不明。仮に1974年1月1日生まれとする。1996年の大学卒業を22歳とした
  • 1996年(22歳?):プエルトリコ自治連邦区のプエルトリコ大学(University of Puerto Rico)を卒業。専攻:生物学・化学
  • 1996年(22歳?):渡米。ミネソタ大学・大学院に入学した(推定)
  • 2001年(27歳?):米国・ミネソタ大学(University of Minnesota)・大学院で研究博士号(PhD)を取得した。専攻:微生物、免疫学、がん生物学。キャサリン・ヴァーフェイル教授
  • 2003年(29歳?):米国・ミネソタ大学(University of Minnesota)で医師免許取得
  • 2003-2006年(29-32歳?):シアトルのワシントン大学(University of Washington)で研修医(臨床病理学)
  • IMG_02062003-2006年(29-32歳?):シアトルのワシントン大学(University of Washington)でポスドク(神経生物学)。ジェフ・チェンバレン教授(Jeff Chamberlain、写真出典
  • 2006年(32歳?):シアトルのワシントン大学(University of Washington)・助教授
  • 2007年(33歳?):「2001年のBlood」論文の画像がねつ造・改ざんと指摘された
  • 2016年9月2日現在(42歳?):米国のワシントン大学・助教授

●3.【動画】

【動画1】
講演会:「Adult Stem Cells from Skeletal Muscle and Heart – Morayma Reyes, MD, PhD – YouTube」(英語)54分57秒。
UWTVが2014/07/15 に公開

●4.【日本語の解説】

事件の解説と日本語の特許情報があった。

★2007年3月23日:粥川準二「体性幹細胞研究をめぐる疑惑」

出典 → みずもり亭Blog @ journalism.jp

文章が長いのと読みにくいので修正引用する。

「体性幹細胞adult stem cell」は、ES細胞(胚性幹細胞、embryonic stem cell)とは異なり、胚を破壊することなく得られるので、英語圏では「倫理的な幹細胞ethical stem cell」と呼ばれる。

成人の身体のどこかから、ES細胞のようにさまざまな種類の細胞へと分化させられる幹細胞を得ることができれば、レシピアント自身をドナーにすることができ、「治療」と「免疫拒絶反応の軽減」を同時に達成することができる。

夢のような話だが、現実には、体性幹細胞の単離(樹立)は、かなり難しい。2002年にアメリカの研究者らが、マウスの骨髄から、ES細胞と同じぐらいの多能性を持つ「多能性成体前駆細胞(MAPCs)」を単離したと発表したが、これまで誰もその結果を再現できなかった。

最近、その研究に大きな問題があるということがわかってきた。イギリスの科学雑誌 『ニューサイエンティスト』による調査報道で明らかになってきた。

(1)2007年1月25日のピーター・アルドウスの「ニューサイエンティスト」記事:「体性幹細胞は少なくとも血液をつくる(Adult stem cells can at least make blood)」

 アメリカのミネソタ大学のキャサリン・ヴァーフェイルらは、2002年、「多能性のある」成体前駆細胞(MAPCs)を発見した。哺乳類の骨髄細胞から単離されたそれらは、間葉幹細胞mesenchymal stem cellsに属し、通常、筋肉や骨を形成する。しかしながら、MAPCsはさらにもっと多能性を持ち、身体のどんな組織をも形成することができる。

(2)2007年2月15日のピーター・アルドウス、ユージニー・サミュエル・ライクの「ニューサイエンティスト」記事:「欠陥のある幹細胞のデータ、撤回される(Flawed stem cell data withdrawn)」

ここ5年間で、最もよく知られている体性〔成体〕幹細胞の論文が、『ニューサイエンティスト』の調査で、データの一部に疑念が呈されている。

2002年、ミネアポリスにあるミネソタ大学のキャサリン・ヴァーフェイルのチームは、齧歯類の骨髄細胞から「多能性成体前駆細胞multipotent adult progenitor cells」、すなわちMAPCsを発見した(『ネイチャー』第418巻41頁)。その細胞は、身体のほとんどの組織に分化できると思われた。

それまでは、胚性幹細胞(ES細胞)だけがそのような多能性を示していた。ヴァーフェイルは、〔ES細胞と〕同様の多能性を持つ細胞を、ヒト胚を破壊することなく得ることができる、と主張した。

しかし、この論文の実験結果を繰り返すことは難しい。2003年の終わりから6カ月以上経っても、ヴァーフェイルのグループ自身ですらその細胞を単離することができなかった。

『ニューサイエンティスト』が実験結果に疑問を呈した後、専門委員会が論文のデータを再検討した。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KUL)に移籍したヴァーフェイルは、その後、2本の論文中のデータに問題があったと以下のように述べている。

「このデータには欠陥があり、MAPCマーカーの分析結果は信頼できないというのが〔専門家たちの〕コンセンサスであった」。

彼女が言及している欠陥以外人も、論文で画像の重複使用が見つかった。画像の重複使用は、画像の単なる取り違えだった、とヴァーフェイルは『ニューサイエンティスト』に語った。

彼女は、MAPCsは身体の組織のほとんどへと発生できるという主張に立っており、その後の論文が、それらを確認するための信頼できる方法を記述している、と主張する。彼女の最も最近の論文では、ヴァーフェイルと、カリフォルニアにあるスタンフォード大学の幹細胞生物学者アーヴィング・ウェイスマンが、血液中のすべての種類の細胞へ分化しうることを示した。しかし、MAPCsが、彼女が『ネイチャー』論文で主張したものと同じくらい多能性を持つのかどうかは、いまだに不明である。

しかし、多くの研究者は、MAPCsを単離することさえできない。「それらはとても不機嫌な細胞なのです」と、ハーヴァード大学のエイミー・ウェイジャーズは述べる。彼女はヴァーフェイルの研究室で、そのテクニックを学ぼうと試みて、無駄に1週間を過ごした。

(3)2007年3月21日のピーター・アルドウス、ユージニー・サミュエル・ライクの「ニューサイエンティスト」記事:「幹細胞の知見をめぐる新たな疑問(Fresh questions on stem cell findings)」

2002年6月、ミネソタのキャサリン・ヴァーフェイルのチームは、身体の組織のほとんどへと分化しうるマウスの骨髄細胞由来の幹細胞について、『ネイチャー』(第418巻41頁)に論文を発表した。ヴァーフェイルのチームはこれらの細胞を「多能性成体前駆細胞」MAPCsと呼んだ。ほかの研究者らは、その後、その研究を再現することが難しい述べている。

こうした再現性の困難さを見て、『ニューサイエンティスト』は1年以上前に、この『ネイチャー』論文を綿密に調べることを決断した。私たちは、そのなかの画像の一部が、ほぼ同時に公表された第2の論文にも使用されていることを発見した。第2の論文では、それらは、異なる実験にかかわるものであるとみなされていた。

そこで、『ニューサイエンティスト』は、MAPCsの単離と使用に関する、2006年のアメリカの特許(番号7015037)を調べた。この特許は、オハイオ州のクリーヴランドにあるアセルシスAthersysという会社に、独占的にライセンスが供与されている。同社は、心臓麻痺や卒中といった症状を治療するために、この細胞の臨床試験を始めたがっている。

この特許のなかには、ヴァーフェイルのグループの別の論文から複製されたと思われる、3つの画像がある。別の論文というのは、2001年に『血液』誌(第98巻2615〜2625頁)で公表されたものだ。これらの画像は、MAPCsが培養皿のなかで発生し、ほかの種類の細胞へと分化するようつくられた実験にかかわるものである。たとえば、骨や軟骨、脂肪、血管の内側で見つかる細胞のことである。これらの画像は、それぞれの種類の細胞に特異的なタンパク質の存在を立証するものである。

問題なのは、それぞれのケースにおいて、この重複使用された画像が、『血液』論文で説明されたものとは異なるタンパク質の生産を説明するために、特許文書で使われたことである。

なかでも最も衝撃的な例においては、この重複使用された画像の1つが、2つの異なる実験の結果を示すために、『血液』論文それ自体のなかで2回使われていたことである。

『血液』論文においては、ゲル上の3つの帯の列を示すこの画像は、まず、ある実験の対照群を示すために使われた。そこでは、骨で見つかる細胞へと分化するように、幹細胞の培養が行なわれた。同じ画像と思われるものが、その後、同じページで使われた。このとき、それは水平にひっくり返され、鏡像をつくり、そして、いくつかの小さな改変を含んでいる(左下の上2つの画像を参照)。ここでは、それは、軟骨で見つかる細胞へと変化するようつくられた幹細胞の培養におけるコラーゲンの生産を示すものだと記されている。

特許文書において、反転され、改変されたこの画像は、再使用された。今度は、骨の細胞へと分化するようつくられた幹細胞の培養において見つかる、骨に特異的なタンパク質を示すものとして再使用された。

『血液』論文で説明されたこの研究は、その第1著者モライマ・レイエスMorayma Reyesの博士号研究の一部を形成しており、反転され、改変されたヴァージョンを含む、この論文において重複使用された画像は、彼女の学位論文のなかにも現れる。

現在、シアトルのワシントン大学にいるレイエスは、発明者の1人として、その特許に名前を挙げられている。彼女の指導者であるヴァーフェイルや、ミネソタ大学の実験医学および病理学部門を率いるレオ・フルフトFulchtと並んで、である。現在、アメリカ実験生物学学会連盟の議長であるフルフトは、MCLという会社を設立した。同社は、ミネソタ大学とともにに、特許のライセンスを供与されている。

『ニューサイエンティスト』が接触した幹細胞生物学者たちは、上記のことを意味する3つの画像が重複使用であることを確信している。「それらは間違いなく同じものです」と、カリフォルニアのラホーヤにあるバーナム医学研究所のジェーン・ローリングは言う。「データの一部が、異なることを示すために複数回使われたようです」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の発生および幹細胞生物学プログラムを率いるアーノルド・クリーグスタインは同意する。

『血液』論文は、『ネイチャー』論文ほどは知られていないが、臨床試験が計画されているので、重要である。というのは、それは実験マウスではなく、ヒトのボランティアの骨髄から単離された細胞について記述しているからだ。

はっきりとした重複使用について『ニューサイエンティスト』が質問したが、現在はベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KUL)に移籍したヴァーフェイルとワシントン大学のレイエスは、対応できていない。アセルシスAthersysは、私たちが挙げた点を再検討することになるだろうと言い、ミネソタ大学は、コメントはないと述べた。

『ニューサイエンティスト』が接触した後、『血液』はいま、独自の調査を実施中である。「私たちは、このことに厳格な調査を行なうつもりです」と、同誌の編集主幹で、カリフォルニア大学サンディエゴ校の血液学者であるサンフォード・シャッティルは言う。

まねできない偉業

すべての者が、MAPCsとして知られるキャサリン・ヴァーフェイルの幹細胞について、1つのことに同意できている。すなわち、研究再現がきわめて難しいということだ。MAPCsの単離は注意深い実験室培養を必要とし、複雑なレシピにしたがわなければならない。そしてこのレシピにしたがおうと試みた何人かの研究者らは、いまだにMAPCsを得られていない。

その細胞の表面にある「マーカー」分子を説明する実験についてヴァーフェイルが認めた欠陥は、そうした困難の原因となっている。しかし、先月、『ネイチャー』に送った書簡のなかで、ヴァーフェイルは、そうではないと指摘し、彼女の研究グループによる後の論文は、『ネイチャー』で最初に公表されたマーカーの分析結果を確認している、と述べている。

にもかかわらず、ヴァーフェイルと彼女の同僚は、2003年の終わりから6カ月以上のあいだ、彼女ら自身もMAPCsを単離できなかった後、時間をかけて、その培養方法の詳細を変えてきた。彼女の最も最近の論文の記述もまた、いくつかの点で異なっている。たとえば、それらはいま、「c-kit」と呼ばれるマーカーを持っている、と言われている。『ネイチャー』論文では、持っていないとされていたものだ。

「後の研究が異なる細胞群を使ったのか、それとも異なる培養条件下でいくらか異なるように見える、同じ細胞を使ったのかは、不明瞭なままです」と、アナーバーにあるミシガン大学の幹細胞生物学者ショーン・モリスンは言う。

ヴァーフェイルは、複数のグループが自分の研究結果を繰り返せたと言うのだが、誰も、その『ネイチャー』論文における最も衝撃的な実験を再現できてはない。これは、その胚発生の初期に、ある1つのMAPCを注入されたマウスを通じて、ある側面を示した〔意味不明〕。そのマウスは、その細胞がほとんどの動物組織に寄与することを示すために、傷つけられたものである。これまでのところ、胚性幹細胞だけがそのテストをパスした。

マサチューセッツ州ケンブリッジにあるホワイトヘッド生物医学研究所のルドルフ・ヤーニッシュは、ヴァーフェイルのチームのメンバーであるYuehua Jiangが、『ネイチャー』論文が出る前に、MAPCsの培養のために彼の研究室を訪れ、その実験を試み、繰り返した、と言う。彼は成功しなかった、とヤーニッシュは言う。Jiangが去った後、ホワイトヘッドのチームは、その細胞を成長させられなかった。

Jiangにコメントを求めることはできなかった。ヤーニッシュは、MAPCsは、マウス胚で見つかる細胞よりもずっとゆっくりと分割するので、彼はつねに、それらが胚細胞と張り合え、『ネイチャー』で報告されたような衝撃的な結果をもたらしうることを疑っていた。

欠陥と重複

『ニューサイエンティスト』が、2005年12月、MAPCsとして知られる幹細胞をめぐるキャサリン・ヴァーフェイルの研究を調査し始めたとき、私たちはすぐに、彼女の『ネイチャー』論文における6つのプロットsix plotsと、2002年6月に公表された、オンラインの補則情報が、その年の8月、『実験血液学』(第30巻896頁)で公表された論文にも登場したことを発見した。その論文では、それらは、異なるマウスから得られた、異なる細胞にかかわるものだとみなされていた。

問題のプロットplotsは、その細胞の表面に付着している、独特な「マーカー」分子を説明するものである。私たちが2006年2月、ヴァーフェイルに接触したとき、彼女は私たちに、この図表は彼女の研究室のYuehua Jiangという研究者によってつくられたもので、ミネソタ大学の当局にこの問題を持ち込んだ、と話した。同じ月、彼女は『実験血液学』に訂正を送り、いくつかのプロットplotsは、『ネイチャー』論文からのものだと認めた。

2006年8月、同大学は、その重複使用を調査するために、3人の科学者からなる調査委員会を招集した。その翌月、同委員会は、それらは悪意のない間違いの結果であると認めた。

しかし同委員会は第2の問題を提起した。そのメンバーのうち2人は、マーカーを調べるために使われる技術の専門家なのだが、彼らは、これらの結果には「その質をめぐる深刻な懸念」が存在する、と言った。とりわけ、特定のマーカーが存在するかどうかを判断するための比較に使われる対照実験に問題があったのだ。

その科学者のどちらも幹細胞生物学者ではない。それゆえ、その次に、この分野の専門家が独立した科学的再検討を実施するよう要請された。幹細胞の専門家2人が自分たちのコメントを述べた後、ヴァーフェイルは先月、『実験血液学』と『ネイチャー』に書簡を送り、彼らに、論文中のプロットplotsは「MAPCのマーカー分析結果の正確な説明として信頼されるべきではない」と知らせた(『ニューサイエンティスト』2月17日号、12頁)。『実験血液学』は彼女の書簡を公表し、『ネイチャー』はどのように進めるかを決める前に専門家の助言を求めている。

★2008年x月x日:公開特許「多能性成体幹細胞およびそれを単離する方法」

出典 → 多能性成体幹細胞およびそれを単離する方法 – 特開2008-44965 | j-tokkyo (保存版)

【課題】成体における胚性幹細胞と同等な細胞を提供すること。

【構成】本明細書に記載されるような、哺乳動物における癌を治療するための方法。表面抗原CD44、CD45、ならびにHLAクラスIおよびII陰性であることを特徴とする単離多能性哺乳動物幹細胞。多能性成体幹細胞(MASC)を単離するための方法であって、(a)骨髄単核細胞からCD45+グリコフォリンA+細胞を枯渇させる工程と、(b)CD45-グリコフォリンA-細胞を回収する工程と、(c)回収したCD45-グリコフォリンA-細胞をマトリクスコーティング上に播種する工程と、(d)播種した細胞を生長因子を補った培地中で培養する工程とを含む方法。・・・以下略・・・

★2009年x月x日:特許公開公報「多能性成体幹細胞、その起源、それを得る方法および維持する方法、それを分化させる方法、その使用法、ならびにそれ由来の細胞」

出典 → 公開公報: レイエス,モレイマさんの公開公報一覧 – astamuse (保存版)

【課題】本発明は、哺乳類多能性成体幹細胞(MASC)に関し、より詳細には、MASCを入手し、維持し、そして分化させる方法を提供することを課題とする。疾患の治療におけるMASCの使用を提供することもまた、本発明の課題である。【解決手段】上記課題は、中胚葉性、外胚葉性および内胚葉性系統の各々に分化することができる細胞であって、また、これら細胞型の少なくとも1つに実際に分化…
公開日:2009/01/29
公開番号:2009-017891号

●5.【不正発覚の経緯と内容】

Catherine+Verfaillie
キャサリン・ヴァーフェイル教授(Catherine Verfaillie)

2001年(27歳?)、モレイマ・レイエス(Morayma Reyes)は、米国・ミネソタ大学(University of Minnesota)のキャサリン・ヴァーフェイル(Catherine Verfaillie、写真出典)教授の指導下で研究博士号(PhD)を取得した。

2001年、後で問題視され2009年に撤回する「2001年のBlood」論文(以下)を第一著者として発表した。

2002年、ヴァーフェイル教授は幹細胞の「2002年のNature」論文を発表した。この論文の共著者にレイエスが入っている。この論文はとても画期的な内容なので、大きな脚光を浴びた。
→ 2002年1月25日のニコラス・ウェイド(Nicholas Wade)とシェリル・ストルバーグ(Sheryl Gay Stolberg)の「ニュヨーク・タイムス」記事:Scientists Herald a Versatile Adult Cell – NYTimes.com

ところが、多くの研究者は「2002年のNature」論文の結果を再現できなかった。

2003年、レイエスはミネソタ大学を離れ、シアトルのワシントン大学(University of Washington)でポスドクと研修医になった。

2006年、ベルギー人のヴァーフェイル教授は、ミネソタ大学を離れ、出身大学であるベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KUL:Catholic University of Leuven)に移籍した。

2007年2月、科学雑誌 『ニューサイエンティスト』の記者・ピーター・アルドウス(Peter Aldhous)が、「2002年のNature」論文が脚光を浴びたのに、その後、他の研究室が再現できないことに異常を感じ、論文を精査し始めた。すると、画像の重複使用やねつ造が見つかった。内容を『ニューサイエンティスト』誌の記事に書くとともに、ミネソタ大学に公益通報した。

Mulcahy2007年(?)、ミネソタ大学は、研究担当副学長のティモシー・ムルカイ(Timothy Mulcahy、写真出典)を委員長とした調査を開始した。

2008年10月、ミネソタ大学は、調査を終了し、レイエスが「2001年のBlood」論文の複数の画像の重複使用とねつ造を行なったと結論した。しかし、プライバシー法のため調査報告書を公表しなかった。

白楽は、このプライバシー法を把握していない。

「匿名ケー・イー(K.E.)(米)」で解説した米国・教育省の「家族の教育上の権利及びプライバシー法」(FERPA)で、院生だから教育保護されたのだろう。(①Family Educational Rights and Privacy Act (FERPA)、②Family Educational Rights and Privacy Act – Wikipedia, the free encyclopedia

なお、この時、レイエスは既にワシントン大学・助教授で、ミネソタ大学にはいない。博士論文にネカトがなければ、「2001年のBlood」論文に問題があっても、ミネソタ大学としては処分のしようがない。

【主要情報源】①によると、問題の画像は特許、「Journal of Clinical Investigation」論文、「Nature」論文にも見つかったのだが、ミネソタ大学の調査委員会は十分なネカトの証拠をつかめなかった。

Unknown1しかも、レイエスは、ミネソタ大学の結論に反発した。「複数の画像の重複使用や異常と指摘された点については、意図的ではない誠実な間違い(honest unintentional errors)です。不正をするつもりは全くありませんでした」と主張した。

「間違いの原因は、ミネソタ大学のいい加減な教育とデジタル画像に関する明確なネカト基準がなかったためです。私は自分の間違いを深く反省しご迷惑をかけたことを陳謝しますが、ねつ造する意図は全くありませんでした」。

「間違ったのに実験データを操作したと記述し、元データをどう変えても変えれば改ざんだとのミネソタ大学の見解に、全く同意できません。この誤った記述は実験結果の解釈に関する別の意見です。そして、それは、ミネソタ大学の調査委員の幹細胞に関する専門知識の欠如の反映です」とも、レイエスは、批判している。

ミネソタ大学のムルカイ研究担当副学長は、「院生の教育と管理が不適切だ」とヴァーフェイル教授を非難した。

ここでも、ヴァーフェイル教授は、「院生の教育と管理が不適切だという大学の批判は全く同意できません」と反論している。

2008年10月8日のヴァーフェイル教授の新聞記者への手紙が公表されている。以下、前半を意訳した。 → Catherine Verfaillie’s response | Minnesota Public Radio News

ミネソタ大学は、「2001年のBlood」論文で、私の研究室員がウェスタンブロット画像を不適切に改変し、研究ネカトをしたと結論しました。

ミネソタ大学の調査委員会は、論文の結論が無効だとは結論しませんでしたが、「2001年のBlood」論文を撤回するように要求してきました。

私に対しては、ネカトそのものではなく、申し立てられたネカトに対する責任を問われました。

論文の責任著者として、画像の問題に気付かず、大変申し訳なく思っています。

しかし、大学の報告書では、私が十分に院生の指導と監督をしなかった述べていますが、大学のこの記述には同意できません。

私は科学を誠実に遂行してきました。私の研究室で行なっていた実験手技はその時も現在も科学界では普通の行為です。

以下略

★「2001年のBlood」論文の問題画像

「2001年のBlood」論文の撤回理由は、「ミネソタ大学と学術誌編集局の調査に基づき、複数の図に重複使用と異常が見つかった」とある。
→ Reyes M, Lund T, Lenvik T, Aguiar D, Koodie L, Verfaillie CM. Purification and ex vivo expansion of postnatal human marrow mesodermal progenitor cells. Blood. 2001;98:2615-2625. | Blood Journal

問題の画像を以下に示す(出典:【主要情報源】⑤)。
mg19325964_600-1_637上の画像を見ると、データねつ造だということがとてもわかりやすい。失礼しました。ねつ造ではなく、「意図的ではない誠実な間違い」でしたね。

最初のウェスタンブロット画像(1段目)を左右逆にして同じ「2001年のBlood」論文の別の図(2段目)に使用している。さらに、2段目と同じ画像を、特許文書では別の試料のウェスタンブロット画像として使用しているのだ。

●6.【論文数と撤回論文】

2016年9月2日現在、パブメド(PubMed)で、モレイマ・レイエス(Morayma Reyes)の論文を「Morayma Reyes [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の35論文がヒットした。

「Reyes M[Author]」で検索すると、1945~2016年の825論文がヒットした。この記事のモレイマ・レイエス以外の人の論文が多数を占めると思われる。

2016年9月2日現在、1論文が撤回されている。

本記事で問題視した「2002年のNature」論文は撤回されず、2007年に訂正されていた。

  • Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow.
    Jiang Y, Jahagirdar BN, Reinhardt RL, Schwartz RE, Keene CD, Ortiz-Gonzalez XR, Reyes M, Lenvik T, Lund T, Blackstad M, Du J, Aldrich S, Lisberg A, Low WC, Largaespada DA, Verfaillie CM.
    Nature. 2002 Jul 4;418(6893):41-9. Epub 2002 Jun 20.
    Erratum in: Nature. 2007 Jun 14;447(7146):879-80. 

    PMID:12077603

●7.【白楽の感想】

《1》研究公正局は?

07165a0「2001年のBlood」論文の画像の重複使用は、白楽から見ると、明らかにねつ造・改ざんだが、レイエス本人が「誠実な間違い」だと主張している。そして、それが通っている。

「間違いの原因は、ミネソタ大学のいい加減な教育とデジタル画像に関する明確なネカト基準がなかったためです」と、ねつ造・改ざん間違いの原因を大学になすりつけている。

これに対して、ミネソタ大学は弱腰である。ミネソタ大学の調査報告書は非公開なので読めないが、調査がズサンだった印象がある。

ただ、研究公正局にも届け出ているハズだ。研究公正局はミネソタ大学の調査結果を認めたのだろうか? 研究公正局は調査結果を発表していない。ということは、シロと判定したのだろうか? なんか、変だ。

「2001年のBlood」論文をベースにした有名な「2002年のNature」論文は撤回されず、訂正で済んでいる。「2002年のNature」論文は、レイエスが第1著者というわけではない。著者が16人いる中の7番目である。ほとんど責任はない位置である。

レイエスは、「間違い」だと言いとおし、事件を起こした大学と別の大学であるワシントン大学・助教授になっていたが、ワシントン大学を解雇されなかった。だが、この騒動で、いろいろ「シマッタ」と思ったに違いない。

こういう経験を通してレイエスは、その後はクリーンな研究人生を送っているのだろうか? それとも、ネカトは研究者の体質的問題で、現在も、ネカト研究生活をしているのだろうか? 性犯罪者の再犯率データと同じように、研究ネカト者の研究ネカト再犯率のデータが欲しいところです。

《2》うやむや?

M_Reyes_「間違い」だから、レイエスは学術界から排除されるようなペナルティを受けなかった。2016年9月2日現在、ワシントン大学・助教授として研究している。

ミネソタ大学での指導教授だったボスのヴァーフェイルは、2006年、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KUL)に移籍してしまった。

事件が発覚し、ミネソタ大学が調査しているとき、当時者であるレイエスもヴァーフェイル教授もミネソタ大学には既にいなかった。そんな状況だったので、ミネソタ大学はネカト調査をしたくなかっただろう。クロと出ても、他大学の教員を辞職させる権限はない。

こういう状況の調査、そして調査報告書の非開示、調査結果に対して当事者の2人の強い批判など、この事件は、調べていて、どうも、スッキリしません。

ただ、2016年9月2日現在、ワシントン大学のレイエスの研究室員は、レイエスの「間違い」事件を知っているのだろうか? 知らないとすると、知っていたらレイエス研究室を選ばなかっただろうか? 選んだ後に事件を知ったら、レイエスの指導を受ける気が無くなるだろうか? レイエス研究室には、9人の室員がいる(下の写真)。大半は、院生・ポスドクだろう。

photo%20of%20my%20lab%202009ワシントン大学のレイエス研究室員。右から5人目がレイエス助教授。写真出典

《3》ネカトGメン:調査委員の無能

事件記事を読むと、レイエスはハッキリと「ミネソタ大学の調査委員が無能」だと述べているし、ヴァーフェイル教授も調査委員の記述に反論している。無能な調査委員とは、ハッキリ言えば、研究担当副学長のティモシー・ムルカイ委員長である。

一般的に思うのだが、米国でも無能な調査委員はそれなりの割合を占めると思われる。日本ではもっと多いだろう。しかし、米国も日本も調査委員は審判という立場なので、めったに批判・非難されない。これってどうなんでしょう?

審判という立場の調査委員が公正な判断ができない場合、どうするのが適切だろう? その前に「公正な判断ができない」のを誰がどう判定するのだ?

研究倫理学者が、政府の委託を受けて、大学の調査を無作為抽出し、調査側(調査委員の人選、調査の内容、調査委員の言動、機密保持、利益相反など)を検討することも必要ですね。ネカトGメンが静かに働くというのはどうでしょう。

●8.【主要情報源】

① 2008年10月15日の「Nature」記事:‘Manipulated’ stem-cell paper faces retraction : Nature News
② 2008年10月8日のティム・ネルソン(Tim Nelson)の「MPR News」記事:U of M: Stem cell study used falsified data | Minnesota Public Radio News
③ 2007年1月25日のピーター・アルドウス(Peter Aldhous)の「New Scientist」記事:Adult stem cells can at least make blood | New Scientist
④ 後半有料記事。2007年2月14日のピーター・アルドウス(Peter Aldhous)とユージニー・ライヒ(Eugenie Samuel Reich)の「New Scientist」記事:Flawed stem cell data withdrawn | New Scientist
⑤ 後半有料記事。2007年3月21日のピーター・アルドウス(Peter Aldhous)とユージニー・ライヒ(Eugenie Samuel Reich)の「New Scientist」記事:Fresh questions on stem cell findings | New Scientist
⑥ 2008年10月9日のウィリアム・グリーソン(William Gleason)の記事 :The Periodic Table, Too: City Pages Reports U’s Response to Reyes
⑦ ウィキペディア英語版: Catherine Verfaillie – Wikipedia, the free encyclopedia
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