ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa、平澤みちる)(カナダ)

2015年6月16日掲載、2026年3月24日(火)更新

平澤みちるは、東京大学で研究博士号(獣医学)を取得後、カナダでのポスドクを経てニューファンドランド・メモリアル大学・教員になった。2012年7月(43歳?)、「2006年9月のJ Neurosci.」論文にデータねつ造・改ざんの疑念がもたれ、学術誌は、「論文結果を信頼できない(the results cannot be considered reliable)」という理由で、論文を撤回した。しかし、ニューファンドランド・メモリアル大学は、不適切なデータ(“substantial data misrepresentation”)はあったが「間違い」であって、研究不正ではないと結論し、平澤を処罰しなかった。大学の判定を問題視する意見もある。調査報告書は公表されていない。国民の損害額(推定)は5千万円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

hirasawa_m2ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa、平澤(佐野)みちる、写真出典)は、1996年3月、東京大学で研究博士号(獣医学)を取得後、同じ分野の研究者である夫の平澤健介(ひらさわ けんすけ)と共に、カナダのカルガリー大学のポスドクを経て、カナダのニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)の教員になった(以下、メモリアル大学と略すこともある)。夫は同じ大学で別の研究室を主宰している。専門は神経科学である。

2012年7月(43歳?)、「2006年9月のJ Neurosci.」論文にデータねつ造・改ざんの疑念がもたれ、メモリアル大学が調査した。

その結果を受け、学術誌は、「論文結果を信頼できない(the results cannot be considered reliable)」という理由で、論文を撤回した。

一方、メモリアル大学は、「不適切なデータ(“substantial data misrepresentation”)」は「間違い」であって、研究不正ではないと結論し、平澤を処罰しなかった。

学術誌と大学は対立したままである。

大学の判定を問題視する意見もある。調査報告書は公表されていない。

2026年3月23日現在、ヒラサワはメモリアル大学・教授に在職している。

写真:ニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)の医学部。赤色矢印は無視してください。出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:日本
  • 研究博士号(PhD)取得:東京大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に、1969年1月1日とする。1996年3月に博士号(課程)を取得した時を27歳とした。
  • 現在の年齢:57歳?
  • 分野:神経科学
  • 不正疑惑論文発表:2006年(37歳?)
  • 発表時地位:メモリアル大学・教員(準教授?)
  • 発覚年:2012年(43歳?)
  • 発覚時地位:メモリアル大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ニューファンドランド・メモリアル大学・調査委員会。②学術誌
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
  • 不正:「間違い」または「ねつ造・改ざん」
  • 「間違い」または「ねつ造・改ざん」論文数:1報で、論文撤回
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 対処問題:大学調査不正(白楽の推定)
  • 特徴:①日本人
  • 日本人の弟子・友人:

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5千万円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ミチル・ヒラサワ、平澤みちる(Dr. Michiru Hirasawa
  • 生年月日:不明。仮に、1969年1月1日とする。1996年3月に博士号(課程)を取得した時を27歳とした。日本生まれ(推定)
  • 1991年(22歳?)?:xx大学を卒業
  • 1996年3月(27歳?):東京大学農学部で研究博士号(PhD)取得。課程博士。実験動物学
  • xxxx年(xx歳):カナダのカルガリー大学(University of Calgary)でポスドク。夫の平澤健介と一緒
  • 2003年(34歳?):ニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)・教員。夫の平澤健介は同じ大学の教員だが、研究室は独立している
  • 2006年(37歳?):後に不正疑惑視された「2006年9月のJ Neurosci.」論文を発表
  • 2012年7月(43歳?):「2006年9月のJ Neurosci.」論文にねつ造・改ざん疑念があり、メモリアル大学が調査した結果、不適切なデータ(“substantial data misrepresentation”)があり、論文は撤回された。
  • 2021年(52歳?): ニューファンドランド・メモリアル大学・正教授
  • 2026年3月23日(57歳?)現在:同大学・教授に在職

Hirasawa_lab-web右から2人目が平澤みちるで、1人目は夫の平澤健介(Kensuke Hirasawa)である。写真出典(リンク切れ)

●5.【「間違い」(「研究不正」?)の発覚・調査の経緯】

★研究人生

hirasawa_m2ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa、平澤(佐野)みちる、写真出典)は、1996年3月、東京大学で研究博士号(獣医学)を取得した。

その後、同じ分野の研究者である夫の平澤健介(ひらさわ けんすけ)と共に、カナダのカルガリー大学のポスドクを経て、カナダのニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)の教員になった。

夫は同じ大学で別の研究室を主宰している。専門は神経科学である。

2012年7月(43歳?)、「2006年9月のJ Neurosci.」論文にデータねつ造・改ざんの疑念がもたれた。

「2006年9月のJ Neurosci.」論文は2つの主要なカナダ連邦政府機関CIHRとNSERC から研究助成金を得ていた。

267911_149379588473159_7960477_n平澤みちるの実験室(写真出典不明)

★獲得研究費

ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa)のカナダ・CIHR (カナダ保健研究機関)からの獲得研究費をしらべると、研究代表者として以下の研究費を得ていた。なお、「2006年9月のJ Neurosci.」論文を助成した研究費を、白楽は見つけられなかった。 → Funding Decisions Database – CIHR:Michiru Hirasawa

NSERC(カナダ自然科学・工学研究評議会)からミチル・ヒラサワが獲得した研究費を、白楽は見つけられなかった。 → NSERC’s Awards Database | Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada

★発覚と経緯

誰がいつ、平澤みちるの研究不正疑惑を見つけたのか、公表されていないので、不明である。

なお、2010年8月3日に開始した「撤回監視(Retraction Watch)」は、当時、稼働していて、この事件を記事に取り上げた。しかし、パブピア(PubPeer)はまだ稼働していなかった(開始は2012年10月)。

2012年6月27日、「Journal of Neuroscience」誌は、メモリアル大学の調査結果を受けて、平澤みちるの「2006年9月のJ Neurosci.」論文を撤回した。 → 撤回公告

「2006年9月のJ Neurosci.」論文:

第一著者が疑惑部分を担当したかどうか不明だが、第一著者のクリスチャン・アルベルト(Christian O Alberto、写真出典)は獣医師で、2026年現在もメモリアル大学に勤務している。

[白楽の推測:平澤は疑惑データの担当者を知っているはず。しかし、記事にはその人物の記載はない]

メモリアル大学は調査報告書を公開していないが、論文撤回の1週間後の調査結果を「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように伝えた。

2つの図に「間違い」(errors)があった。

1つは、電気生理学の図の「故意ではない重複使用」(unintentional duplication)だった。もう1つは、X軸のラベルのつけ間違いだった。

メモリアル大学は、調査の結果、これらの間違いは故意ではなく、また図に示した実験の結論及び論文全体の結論に影響しなかったと述べた。それで、著者を処分しなかった。

電気生理学の図を原著論文から探ると、いくつもあり、どの図が問題なのか、白楽にはわからなかった。

参考までに論文中の電気生理学の図である図1Aと図1Cを右に示しておく。

一方、「Journal of Neuroscience」誌の撤回公告には、「論文結果を信頼できない(the results cannot be considered reliable)」とある。

大学は「間違い」と主張し、学術誌は「論文結果を信頼できない」、つまり、「データ捏造・改ざん」と主張し、真っ向から対立した。

平澤みちると大学は、学術誌が納得できるデータの提示や説明をしなかった、と思われる。

「間違い」なら、ナゼ、「訂正」しなかったのか?

対立したまま、それぞれの方針に従って処置した。

2026年3月23日現在、それから14年も経過したが、対立したままである。

【研究不正の具体例】

上記したので、詳細は省略するというか、詳細は不明である。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2026年3月23日現在、パブメド(PubMed)で、ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa)の論文を「Michiru Hirasawa[Author]」で検索すると、2003年~2025年の23年間の33論文がヒットした。

「Retracted Publication」のフィルターは削除されたが、特殊な方法で、パブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2006年9月のJ Neurosci.」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2026年3月23日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa)を「Hirasawa, Michiru」で検索すると、「2006年9月のJ Neurosci.」論文・ 1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2026年3月23日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa)の論文のコメントを「”Michiru Hirasawa”」で検索すると、0論文にコメントがあった。 

●7.【白楽の感想】

ミチル・ヒラサワ(Michiru Hirasawa、平澤みちる)、https://www.mun.ca/medicine/faculty-and-staff-resources/faculty-a-z/hirasawa-michiru.php

★「間違い」と「データ捏造・改ざん」の線引き

「不適切なデータ」は、①論文の図表を見ればすぐにわかる場合、②優れたネカトハンターが図表を注意深く観察、または、解析ソフトで分析して初めてわかる場合、③生データを参照して初めてわかる場合、④本人以外はどうやってもわからない場合(本人が非協力・証拠隠滅)がある。

①と②は、論文中に図表が提示されているので、「不適切なデータ」があったこと自体は隠しようがない。

今回、学術誌が撤回理由とした「論文結果を信頼できない(the results cannot be considered reliable)」のは「データ捏造・改ざん」と判定したためと思われる。

では、一般的に、大学が結論した「不適切なデータ発表」は「データ捏造・改ざん」ではなく、「間違い」だと、どうやって証明、あるいは、判定できるのだろうか?

今回の事例で、白楽は、事件を探るうちに、その線引きの例を知ることができると思っていたが、期待は大きく裏切られた。事件の記事や記述からの情報では、その線引きはまったくわからなかった。

大学が主張する「故意ではない重複使用」(unintentional duplication)とはどういうことだろう。普通に考えて、本人以外、「故意」か「意図的」かを判別できない。

平澤みちる本人が、調査委員に「故意ではありません。ウッカリ間違えて重複使用しました」と弁明し、調査委員はそれを受け入れたのだろう。

疑惑者の言説をそのまま信用する調査委員は、実は、多い。しかし、そんな調査委員も調査もいらない。

白楽としては、どういう事実や証拠(状況証拠でも)で、「捏造・改ざん」ではなく「間違い」と結論したのかを知りたかった。

今回の事件では、「捏造・改ざん」か「間違い」かは、どうやら、まともな調査の後に出した結論ではないようだ。

つまり、大学上層部の指示があって、最初から「間違い」との結論で調査委員会の委員を選定した・・・、とは思いたくないのだが・・・多分、そうだろう。

そもそも調査のキッカケは、大学内の同僚あるいは研究室からの内部通報に基づいて、大学は調査したのだろう。だから、何らかの結果を公表しなければ、通報者が不満・不信に思い、新聞記者などに通報するかもしれない。

しかし、平澤みちるを処分すれば、夫の平澤健介(Kensuke Hirasawa)の研究活動にも影響すると、大学は予想した(推定)。

大学は2人を失いたくなかった。

ネカト実行者は平澤みちるではなく、室員の誰かだし、平澤みちるは初犯だから穏便に済ませ、通報者には大学が対処したことを伝えたかったのではないだろうか? と深読みした。

それにしても、大学はこの「間違い」は「論文全体の結論に影響しなかった」と述べている。それなら、論文の2か所を訂正をすればよいものを、なぜ、平澤みちるも大学も学術誌に「訂正」を要求しなかったのだろう?

学術誌は、「論文結果を信頼できない(the results cannot be considered reliable)」としている。

平澤みちるは、論文結果を信頼させるデータを持っていなかった、と思うことで白楽は納得した。

《2》不正の体質と改善策

ニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland) は、2001年に「ランジート・チャンドラ (Ranjit Chandra)」事件をおこしている。

チャンドラは著名教授だったので、大事件になった。チャンドラ事件も調査の結末が曖昧なままで終わっている。大学はチャンドラを処分していない。

ランジート・チャンドラ (Ranjit Chandra)(カナダ)改訂

一般的な疑問として、研究不正は同じ大学で発生しやすいのか(同じ研究文化だから)? それとも、発生しにくいのか(事件を起こした大学は対策をたてるので)?

この疑問は、もっと大きな単位の国にも当てはまる。そして、日本という国は残念ながら前者である。

「二度あることは三度ある」ので、ネカト事件を起こした組織は有効な改善策を実行しないと、同じ組織は高い頻度で再びネカト事件を起こすだろう。

《3》研究不正を防ぐ方法

平澤事件の「間違い」または「研究不正」を防ぐには、どうすればよかったか?

また、今後、同じような「間違い」または研究不正を起こさせないためにはどうすべきか?

公表されている事件の記載からは、誰がどのような状況でどうして行なったのか、全くわからない。何のヒントも得られない。

それで、わかりません。

●9.【主要情報源】

① 2012年7月3日、アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Retraction Watch — Journal of Neuroscience retracts federally funded Canadian study with “substantial data misrepresentation” – Retraction Watch
② 2012年7月4日、アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Canada’s Memorial U says “substantial data misrepresentation” described by retraction notice was unintentional – Retraction Watch at Retraction Watch

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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