ジーグオ・ワン、王志国(Zhiguo Wang)(カナダ)

2015年5月2日掲載、2025年6月25日更新

ワンポイント:ジーグオ・ワンは中国出身で、カナダのモントリオール心臓研究所・上級研究員(モントリオール大学・教授)になった。2011年(44歳?)、論文データのねつ造・改ざんが発覚し、論文を撤回、モントリオール心臓研究所を辞職。当時、中国のハルビン医科大学・薬学部・心臓血管薬物研究所の所長も兼任していて、著名な研究者だったため、カナダと中国のメディアは大きく報道した。ワンはインタビューで、研究室のテクニシャンがねつ造の実行犯だと述べたが、公的機関は実行犯のことを発表していない。2011年に中国に帰国し、2025年現在、中国で研究職に就いている(推定)。撤回論文は6報。国民の損害額(推定)は約5億円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

Zhiguo-Wangジーグオ・ワン(王志国、Zhiguo Wang、写真出典)は、中国で生まれ育ち、カナダのモントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute:MHI)・上級研究員(モントリオール大学・教授)になった。専門は心臓不整脈の生化学だった。医師ではない。

モントリオール心臓研究所はモントリオール大学(University of Montreal)の1つの研究所である。

ワンは、1999年以来、カナダ保健研究機構(CIHR:Canadian Institutes of Health Research)から研究助成金を受領しており、その総額は420万ドル(約4億2千万円)にのぼった。

中国政府が海外在住の優秀な中国人(あるいは外国人)を中国に帰国・定住させる「China’s Thousand People Plan」(2008年に開始)に選ばれるほど著名な科学者だった。

ところが、2011年(44歳?)、研究ジャーナル編集部の判断で2報の論文が撤回された。

2011年9月(44歳?)、ワンは、モントリオール心臓研究所を辞職した(解雇ではない)。

ワンはインタビューで、研究室のテクニシャンがネカト実行犯だと答えているが、公式な発表はない。

なお、「Times Higher Education」の大学ランキングでは、モントリオール大学は2015年当時、カナダ第5位、2025年現在は第6位の大学である(【魚拓】Best universities in Canada 2025 – Canadian University Rankings)。

モントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute:MHI)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのマギル大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:仮に、研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とし、1967年1月1日とした
  • 現在の年齢:57 歳?
  • 分野:生化学
  • 不正論文発表:2007~2008年(40~ 41歳?)
  • 不正論文時の地位:モントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute)・上級研究員(モントリオール大学・教授)、中国のハルビン医科大学・薬学部・心臓血管薬物研究所・所長
  • 発覚年:2011年(44歳?)
  • 発覚時地位:モントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute)・上級研究員(モントリオール大学・教授)、中国のハルビン医科大学・薬学部・心臓血管薬物研究所・所長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ研究室のテクニシャンであるシャオファン・ヤン(XiaoFan Yang)?
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Forbes」、「CBC」、「科学网」、「Hu Xians’ Blog」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「JBC」編集部。2011年春。②モントリオール心臓研究所・調査委員会。2011年6月末~2011年8月
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 研究所の透明性:ウェブ公表なし、隠蔽の意図あり(✖)。[機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)]
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文数は6報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:カナダの職を辞職(本人は解雇ではないと主張)、中国に帰国し研究職を続けた(◒)
  • 処分:なし
  • 特徴:①本人がインタビューに答え、ネカト事件の様子を述べた。②ネカト実行者は研究室のテクニシャンだと主張した
  • 日本人の弟子・友人:不明
  • 【国民の損害額】

国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。中国で生まれた(推定)。仮に、研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とし、1967年1月1日とした
  • 19xx年(xx歳):中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)・薬学科を卒業(推定)
  • 1994年(27歳?):カナダのマギル大学(McGill University)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1994年(27歳?):米国のベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)でポスドク、その後、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(Case Western Reserve University)でポスドク
  • 1999年(32歳?)[2002年?(35歳?)という記述もある]:カナダのモントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute:MHI)・研究員、その後、上級研究員。同時に、モントリオール大学(University of Montreal)・教授
  • 2005年(38歳?):中国のハルビン医科大学・薬学部・心臓血管薬物研究所・所長も兼任
  • 2007~2008年(40~ 41歳?):この2年間に出版した5論文が2011~2012年に撤回された
  • 2009年(42歳?):心臓血管疾患に関する「傑出した」研究業績が認められ、中国から長江学者寄附講座賞(Chang Jiang Scholar Endowed Chair Award)を受賞
  • 2010年(43歳?):中国の「千人計画(China’s Thousand People Plan)」の第4期生
  • 2011年5月(44歳?):論文データのねつ造・改ざんが発覚
  • 2011年9月(44歳?):モントリオール心臓研究所(モントリオール大学)を辞職(解雇?)
  • 2011年(44歳?):中国に帰国
  • 2013年(46歳?):2013年の論文での所属は、中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)
  • 2018年(51歳?):2018年の論文での所属は、中国の西安交通大学第一附属病院(First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University)
  • 2020年(53歳?):2020年の論文での所属は、中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)
  • 2022年(55歳?):2022年の論文での所属は、中国の西安交通大学第一附属病院(First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University)。
  • 2025年6月24日(58歳?)現在:中国の西安交通大学第一附属病院に在職していると思うが、確証はない

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

ジーグオ・ワン(王志国、Zhiguo Wang、写真出典)は、中国で生まれ育ち、カナダのモントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute:MHI)・上級研究員(モントリオール大学(University of Montreal)・教授)になった。

1999年(32歳?)以来、カナダ保健研究機構(CIHR:Canadian Institutes of Health Research)から研究助成金を受領し、その総額は420万ドル(約4億2千万円)にのぼった。

ワンはモントリオール心臓研究所での職に加え、2005年に中国のハルビン医科大学・心臓血管薬品研究所所長、2007年に黒龍江省の「龍江学者」主任教授を兼業していた。

2009年(42歳?)(2008年という記述もある)、心臓血管疾患に関する「傑出した」研究業績が認められ、中国から長江学者寄附講座賞(Chang Jiang Scholar Endowed Chair Award)を授与され、「長江学者」主任教授に採用された。

2010年(43歳?)、中国政府が海外在住の優秀な中国人(あるいは外国人)を中国に帰国・定住させる「千人計画(China’s Thousand People Plan)」(2008年に開始)の第4期生に選ばれた。

これらの複数の任務のため、中国に数か月間滞在する必要があった。中国の職にフルタイムで就いていなくても、各職務での「成果」を出す必要があったためである。

同時に、ワンは中国の人と協力して、中国で多くの資金を獲得する活動をしていた。これらにも「成果」を出す必要があり、中国に滞在した。

それで、中国の研究不正軽視の文化に影響されていたと思われる。

同時に、カナダの研究室の管理運営がおろそかになっていた。

2011年にネカト事件が起こったが、カナダのモントリオール大学心臓研究所の約60年の歴史の中で、ネカト事件で解雇(辞職?)になった研究者は初めてだった。

ネカト事件が起こった時、ジーグオ・ワンは上記したように中国のハルビン医科大学・薬学部・心臓血管薬物研究所・所長を始め、中国の複数の役職も兼任していた。

それで、カナダと中国の両国のメディアはワン事件を大きく取り上げ、ワン事件は大事件になった。

20119792616980出典:https://web.archive.org/web/20110927113609/https://news.sciencenet.cn/htmlnews/2011/9/252140.shtm

★単純なストーリー

2011年6月末(44歳?)、ワンの2論文、「2007年4月のJ Biol Chem.」論文と「2008年7月のJ Biol Chem.」論文中のウェスタンブロットの画像が異常とのことで、ワンが要請し、論文撤回が決まった。 → 2011 年 8 月 12 日号「J Biol Chem.」の撤回公告

撤回公告には、画像の異常を指摘した人の記載はなかった。

2011年6月末(44歳?)、モントリオール心臓研究所は、論文を撤回するというワンからの報告を受け、すぐに調査委員会を設け、大急ぎで調査した。

tardif_12011年9月2日(44歳?)、モントリオール心臓研究所長のジャン=クロード・ターディフ(Jean-Claude Tardif、写真出典同)は、記者会見を行ない、ワンの研究ネカトを公表した(Montreal Heart Institute | The Montreal Heart Institute withdraws the privileges of a fundamental research scientist)。

モントリオール心臓研究所は、調査の結果、ワンの論文は、研究所の研究規範に逸脱していたと結論した。但し、調査委員名及び調査報告書はマル秘扱いにし、公表しなかった。

「ワンは医師ではないので、患者の治療をしていない。研究所では基礎研究を担当し、患者の治療に用いる医薬品試験にも関与していない。それで、今回の不正行為が患者の被害に及ぶことはない」とも述べた。

該当する学術誌「J Biol Chem.」も調査委員会も、ワンの論文のどの個所が不正なのかを公表しなかった。

トロント大学・博士院生のチャールズ・トラン(Charles Tran)は、以下のウエスタンブロット像のバンド(囲った部分)が酷似しているので、不正部分はここであろうと述べている。つまり同じ画像の使いまわし(ねつ造)である。(Cracks in the Foundation | IMMpress Magazineduplicate-bands-1024x637 上記のウェスタンブロットは、2007年のJBC論文 (Xiao et al.)の図2C(左)と図3A(右)である。異なる試料なのに、同じ画像が使われていた。

wang6-170106_copy3ジーグオ・ワン、王志国(Zhiguo Wang)、出典:Chinese scientist Wang Zhiguo investigated for misconduct|WantChinaTimes.com(リンク切れ)

★実話(裏話)

前節の内容はワン事件の表の話である。

ワン事件には裏話があった。

ワン自身が、モントリオールを拠点とする中国系週刊誌「セブンデイズ(Seven Days)」のインタビュー(リンク切れだが、以下の記事が再掲している)で、事件の実態を説明していた。

以下の出典:① 2011年12月12日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Corrections in PLoS One, Nature Medicine for Zhiguo Wang, and details about Montreal Heart Institute investigation – Retraction Watch、②2011年9月8日のヒュー・シーアン(胡宪)記者の「Hu Xians’ Blog」記事(2011年9月6日の「Seven Days」記事の保存版):加拿大《七天》文化传媒访谈-王志国_加拿大胡宪_新浪博客

ーー発覚ーー

2011年5月末(44歳?)、中国に滞在中だった私(ワン)は、友人から「あなたの論文の画像が使い回しされている」という電話を受けた。

友人は、私(ワン)の2つの論文(「2007年4月のJ Biol Chem.」論文と「2008年7月のJ Biol Chem.」)で、同じウェスタンブロット画像が重複して使われていると言った。

私(ワン)は、すぐにカナダの研究室に連絡し、現在の作業を中断し、過去のデータを徹底的に調査することと、2つの論文で報告された実験を繰り返すよう全員に指示した。

2011年6月上旬(44歳?)、私(ワン)は、モントリオールに戻った。

2つの論文に関連する資料をすべて印刷し、画像をみたところ、衝撃の結果だった。

なんと、確かに、画像が重複して使われていた!

2011年 6月5日(44歳?)、2つの論文を掲載した学術誌「JBC」編集部から連絡があり、私たちの論文で画像が重複して使われていると、匿名の通報があったことを伝えられた。

私(ワン)は、この件を徹底的に調査することを決意した。

まず、学術誌「JBC」編集部に2つの論文の撤回を要請した。

多くの友人、メディア、モントリオール心臓研究所の職員は、論文を撤回するという私の決断に反対した。彼らは画像の重複使用は「研究不正」ではなく「間違い」だと、私(ワン)が説明すればよいと考えていたからである。

しかし、私(ワン)の方針は、科学者は最高の基準に従うべきだということだ。

もし最初に誤りを発見したのが私であれば、学術誌「JBC」に「間違い」だったと訂正を求める手紙を書いたかもしれない。

しかし、読者が先に発見したので、それは正しくないと思った。

私が自らに課した判断が、後になってこれほど厳しい結果を引き起こすとは、その時は思いもしなかった。

2011年6月中旬(44歳?)、私(ワン)はカナダから中国に戻った。

2011年 6月20日と21日(44歳?)、他の2つの学術誌・編集部から手紙が届き、私の論文で、画像が再利用されていると指摘され、説明を求められた。

学術誌、モントリオール心臓研究所、モントリオール大学、そして私の共同研究者や院生への悪影響を最小限に抑えるため、私は研究所に辞職願(resignation request)を出した。

また、私(ワン)は、この件の全責任を負い、研究所の調査に引き続き協力することを表明した。

私の辞職願に対して、モントリオール心臓研究所は否定的だった。「画像の重複使用は、その理由を説明すれば問題はない。辞職する必要はない」と言われた。

ーーネカト犯ーー

2011年7月11日(44歳?)は、私(ワン)にとって、生涯忘れられない日になった。

香港の友人が「匿名読者からの手紙」を転送してきた。

「匿名読者からの手紙」の匿名者の電子アドレスは特定できなかったが、メールには9つの添付ファイルがあり、すべてPowerPointのスライドだった。

その9つの添付ファイルを、学術誌「JBC」編集部から転送されてきた「匿名読者からの手紙」と比較したところ、全く同じだった。

そして、その友人が「匿名読者」の素性を突き止めた。

ナント、「匿名読者」は、モントリオール心臓研究所の私の研究室のテクニシャンだったのだ。

「匿名読者」は自宅のパソコンで「匿名読者からの手紙」を書いていたため、友人は「匿名読者」の素性を突き止めることができた。

これで、いくつかの謎がとけた。

重複画像を作って、私をだまし、論文に掲載したのは誰か、という謎がとけた。

私のテクニシャンだったのだ。

私たちは重複画像だと気が付かなかったのに、どうして、この「匿名読者」は気が付いたのか、という謎もとけた。

それは、「匿名読者」(私のテクニシャン)が自分で重複画像を作ったからだった。

「匿名読者」(私のテクニシャン)自身が、画像を180度反転させて、重複画像を作ったのだから、180度反転させれば同じ画像になることを知っていた。

私はすぐに、このテクニシャンが画像を不正操作した証拠を研究室のコンピューターで見つけた。

私はテクニシャンを過信し過ぎていた。

しかし、問題を早期に発見できなかったことは、私の職務上の落ち度である。

2011年8月6日(44歳?)、私は中国からモントリオールに戻った。

モントリオール心臓研究所は、独自の調査を行なったと私に伝えた。

ーーメディアーー

2011年8月9日(44歳?)の朝、私(ワン)は、突然、テレビ、新聞社、雑誌記者から4件の電話を受けた。明らかに、誰かがメディアを利用して騒ぎ立てようとしていた。

「撤回監視(Retraction Watch)」のコメント
誰かがメディアを利用して「騒ぎ立てた」という証拠はありません。実際に起こったのは、事件とは無関係の人物からの情報を受け、8月8日、私たち撤回監視は、この事件を「撤回監視(Retraction Watch)」で報道した。ポストメディアとCBCがそれを取り上げた。

2011年8月9日(44歳?)の午後、CBCの記者から電話があり、私(ワン)は、いくつか質問を受けた。

私はそれに答えたが、彼はさらにインタビューを受けて欲しいと述べた。ネカト調査はまだ進行中だったため、私は断った。

ところが、彼は電話で私との会話を無断で録音していた。

私との会話が終わると、彼はすぐにモントリオール心臓研究所に電話をかけ、インタビューを依頼した。

研究所もインタビューを断ったが、彼は録音していた私との電話の会話を使って、私が既にインタビューに応じたと伝えた。

モントリオール心臓研究所の職員は私に激怒した。

しかし、CBCの記者との会話では、私は不正行為をしておらず、データはすべて正しく、問題は画像が使い回されていただけだと述べていた。

ただ、それ以降、私はマスコミを避けるため、研究所の指示に従って自宅に留まり、電話に出ないようにするしかなかった。

ーー研究所ーー

2011年8月30日(44歳?)、モントリオール心臓研究所から、研究所はテクニシャンを解雇し、私物を持って直ちに立ち去るよう命じた、と電話で伝えられた。

2011年 9月2日の朝(44歳?)、モントリオール心臓研究所・人事部から電話があり、所長に会うように言われた。

良い知らせだと思って向かった。

しかし、所長室に入るとすぐに、非常に難しい決断を下したと所長に告げられた。

調査の結果、テクニシャンが画像を改ざんした証拠は、自宅のコンピューターで行なった2つの論文の画像でしか見つからなかった。残りの5つの論文での画像の改ざんは研究室のコンピューターで行なわれたため、証拠が残っていない、とのことだった。

つまり、残りの5つの論文での画像の改ざんをそのテクニシャンが行なったという証拠が見つからなかったのだ。

私(ワン)が受け取った研究所の8ページの調査報告書、さらには、研究所と私が署名した辞職合意書には、私が不正行為をしたという記述はどこにも書かれていない。さらに、私(ジーグオ・ワン)は不正行為をしたことはなく、研究室の他の人に不正行為を示唆したり指導したことは一度もないと述べられていた。

★中国に帰国した

2011年(44歳?)、ジーグオ・ワンは、事件の決着がつく前に、中国に帰国した。

中国に帰国後、出版論文から探ると、中国で研究者として過ごしていると思われる。

  • 2013年(46歳?):2013年の論文での所属は、中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)
  • 2018年(51歳?):2018年の論文での所属は、中国の西安交通大学第一附属病院(First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University)
  • 2020年(53歳?):2020年の論文での所属は、中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)
  • 2022年(55歳?):2022年の論文での所属は、中国の西安交通大学第一附属病院(First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University)。
  • 2025年6月24日(58歳?)現在:中国の西安交通大学第一附属病院に在職していると思うが、確証はない

【ねつ造・改ざんの具体例】

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2025年6月24日現在、パブメド(PubMed)で、ジーグオ・ワン(Zhiguo Wang)の論文を「Zhiguo Wang[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の741論文がヒットした。

本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。

2025年6月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、10論文が撤回されていた。

ーーモントリオール心臓研究所ーー

上の数値は、本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。

それで、所属をモントリオール心臓研究所とした「Zhiguo Wang[Author] AND Montreal Heart Institute[Affiliation]」で検索した。すると、2002~2013年の12年間の48論文がヒットした。

「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。

ーーMicroRNAーー

所属をモントリオール心臓研究所として検索すると、その研究所を解雇されたあとの軌跡を追えない。ジーグオ・ワン(王志国、Zhiguo Wang)が専門としている「MicroRNA」を加えた「Zhiguo Wang[Author] AND MicroRNA」で検索した。すると、2007~2022年の16年間の39論文がヒットした。

2013年の論文での所属は、中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)。2018年の論文での所属は、中国の西安交通大学第一附属病院(First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University)。
2020年の論文での所属は、中国のハルビン医科大学(Harbin Medical University)。2022年の論文での所属は、中国の西安交通大学第一附属病院(First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University)。

「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、6論文が撤回されていた。

中国に帰国後に出版した「2022年10月のEvid Based Complement Alternat Med.」論文も2023年8月9日に撤回された。

★撤回監視データベース

2025年6月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースで、ジーグオ・ワン(Zhiguo Wang)を「Zhiguo Wang」で検索すると、11論文が撤回されていた。

本記事で問題にしている研究者以外の論文が含まれていると思われる。本記事で問題にしているジーグオ・ワンの撤回論文数は6報だと思う。 →  2011年12月12日記事に6報撤回とある:Corrections in PLoS One, Nature Medicine for Zhiguo Wang, and details about Montreal Heart Institute investigation – Retraction Watch

2007~2008年の5論文が撤回された。6論文目がどれだかわからない。

★パブピア(PubPeer)

2025年6月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジーグオ・ワン(Zhiguo Wang)の論文のコメントを「”Zhiguo Wang”」で検索すると、13論文にコメントがあった。

本記事で問題にしている研究者以外の論文が含まれていると思われるが、その数を調べていない。

●7.【白楽の感想】

《1》詳細な記録の保持

白楽の2015年5月2日掲載の記事では、

事件の全貌がつかみにくい。

モントリオール心臓研究所は調査委員も調査報告書も公表していない。研究ジャーナル編集部(Journal of Biological Chemistry:JBC)も不正部分を公表していない。

ワンは中国に帰国し、中国での状況がつかみにくい。

科学メディアも大衆メディアも事件の詳細を報道していない。

と書いた。

今回の記事更新で、モントリオールを拠点とする中国系週刊誌「セブンデイズ(Seven Days)」のワンのインタビュー(リンク切れ)記事の保存版を見つけ、事件の実態がかなり分かった。

ジーグオ・ワン(王志国、Zhiguo Wang)の事件は、14年前の2011年のカナダの事件だが、14年経った2025年でも、そこそこ記録がウェブ上に残されていて、感動した。

日本のネカト事件も、記録を保存しないと、過去から学べなくなる。既にかなりの記録が消失している(と思う)。

ただ、記録の保存以前の問題だが、そもそも、ネカトの実態がわかるような詳細な事実の報道が日本は少ない(米国比で)。

これでは、ネカト行為の概要はつかめず、不正防止や社会改善につながらない。

ジーグオ・ワン、王志国(Zhiguo Wang)。写真出典:https://blog.sciencenet.cn/blog-51597-485115.html(リンク切れ)

《2》テクニシャン

ワンがネカト犯と断定したテクニシャンは誰だろう?

最初に問題視され、その後、撤回された「2007年4月のJ Biol Chem.」論文と「2008年7月のJ Biol Chem.」論文では、謝辞欄に1人のテクニシャンとしてシャオファン・ヤン(XiaoFan Yang)しか記載されていない。

ジーグオ・ワンがモントリオール心臓研究所から出版し、後に撤回された上記2論文を含めた5論文のすべてに、謝辞欄に1人のテクニシャンとしてシャオファン・ヤン(XiaoFan Yang)が記載されている。

従って、「匿名読者」、つまり、ワンがネカト犯と断定したテクニシャンはシャオファン・ヤン(XiaoFan Yang)だと思われる。

しかし、シャオファン・ヤンはなぜ、画像の改ざんしたのか? シャオファン・ヤンはどのような人物だったのか、全く記載がない。

そして、シャオファン・ヤンはなぜ、自分の行なった画像の改ざんを、匿名読者として学術誌に通報したのか?

ネカト行為の原因を突き止め、それを防ぐには、実行犯の分析は必須だと思うが、どうなっているのだろう?

シャオファン・ヤンのその後の人生も不明である。

《3》裏を読む人

ジーグオ・ワン(Zhiguo Wang)は、学術誌「JBC」編集部に2つの論文の撤回を要請したり、責任を取って辞職を申し出たり、倫理観の高い研究者に思える。

ただ、インタビューでは、研究室のテクニシャンがネカト実行犯だと答えた。その上、告発者もそのテクニシャンだと指摘している。

しかし、「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメントには、ワンがネカト実行者、又は、画像の改ざんをテクニシャンに指示したのではないかと、裏を読む人もいる。

そう言われてみると、テクニシャンがネカトを実行する「まとも」な動機は思いつかない。

上記したように実行者と言われたテクニシャンの情報は何も公表されていないし、メディアも追及していない。

モントリオール心臓研究所の調査報告書は公開されていない。

テクニシャンがネカト実行者という話は、ジーグオ・ワンの話だけなのだ。

しかも、そのテクニシャンがネカト告発もしている。

なんかヘンである。

一般的に、テクニシャンがネカト実行者なら、研究主宰者がそのように主張し、証拠を示せば、モントリオール心臓研究所の調査委員も納得すると思う。

ところがそうしなかった。

なんかヘンである。

中国で生まれ育ち、渡航先の欧米で不正をする研究者は多く、「中国は不正の王国」と、カナダ・米国の研究者が認識していても不思議はない。

その感覚だと思うが、やはりジーグオ・ワンがネカト実行者である、あるいは、ジーグオ・ワンがテクニシャンにネカトの指示をした、と憶測している人は多い?

インタビューでのワンの話は、ワンの作り話だとみなしているのだ。

しかし、真実はどうなんでしょう。14年前の事件で、真実は闇の中ですが・・・。

ネカト事件を読み解いていくと、ウソを見抜き、裏を読む必要がある。裏の裏、その裏、・・・人間が下品になりますネ。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① ◎2011年8月8日以降の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:zhiguo wang Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2011 年9月4日、ラリー・ハステン記者(Larry Husten)の「Forbes」記事:Montreal Heart Institute Researcher Fired After Investigation of Retracted Papers
③ 2011年8月10日のマーガレット・マンロ記者(Margaret Munro)の「Montreal Gazette」記事:Montreal heart research retracted for ‘possible scientific error’
④ 2011年8月10日のローレン・マッカラム記者(Lauren McCallum)の「CBC」記事:Montreal heart studies ‘withdrawn’ | CBC News
⑤ 2011年9月2日のアンディ・ブラッチフォード記者(Andy Blatchford)の「Globe and Mail」記事:Montreal hospital dismisses cardiac researcher over misconduct allegations – The Globe and Mail
⑦ ◎2011年9月8日のヒュー・シーアン(胡宪)記者の「Hu Xians’ Blog」記事(2011年9月6日の「Seven Days」記事の保存版):加拿大《七天》文化传媒访谈-王志国_加拿大胡宪_新浪博客
⑧ 2011年9月7日の「叶铁桥」記者の「科学网」記事:科学网—嵇少丞谈王志国事件:学术造假是学者自杀行为
⑨ 2011年9月5日の「嵇少丞」記者のブログ記事:科学网—为啥千人学者王志国被解雇? – 嵇少丞的博文
⑩  王志国论文事件-新闻专题-科学网
⑪ 2013年1月27日のチャールズ・トラン記者(Charles Tran)の「IMMpress Magazine」記事:Cracks in the Foundation | IMMpress Magazine

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