ワンポイント:10年間締め出し処分を受けたねつ造・改ざん事件
●【概略】
エヴァン・ドライヤー(Evan B. Dreyer、写真出典)は、米国・ハーバード大学関連病院のマサチューセッツ眼科耳科病院(Massachusetts Eye and Ear Infirmary)の準教授・医師で、専門は眼科(緑内障)だった。
1996年12月(39歳?)、同僚の公益通報によりねつ造・改ざんが発覚した。
2000年11月29日(43歳?)、研究公正局はデータねつ造・改ざんがあったと公表した。締め出し処分(debarment)を10年間とした。10年以上の締め出し処分を受けた研究者は、2015年12月10日現在まで、7人しかいない(研究者の事件ランキング)。
マサチューセッツ眼科耳科病院(Massachusetts Eye and Ear Infirmary)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1957年1月1日とする。オランダに生まれる。米国・ニューヨークで育つ
- 現在の年齢:67歳?
- 分野:眼科学
- 最初の不正報告:1995年(38歳?)
- 発覚年:1996年(39歳?)
- 発覚時地位:マサチューセッツ眼科耳科病院・準教授・医科長
- 発覚:同僚の通報
- 調査:①マサチューセッツ眼科耳科病院・調査委員会。~1997年11月17日。②研究公正局。~2000年11月29日
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:不明。撤回論文はゼロ
- 時期:研究キャリアの中期から
- 結末:辞職。臨床医として働いている
●【経歴と経過】
主な出典:Pittsburgh Dr Evan B Dreyer MD PhD Mt. Pleasant | Charleroi PA Glaucoma Specialist | Glaucoma Cataract Consultants
- 生年月日:不明。仮に1957年1月1日とする。オランダに生まれる。米国・ニューヨークで育つ
- 19xx年(xx歳):米国・コロンビア大学(Columbia College)を卒業
- 1984年(27歳?):米国・ハーバード大学医科大学院で医師免許取得
- 1985年(28歳?):米国・ハーバード大学関連病院のマサチューセッツ眼科耳科病院(Massachusetts Eye and Ear Infirmary)の研修医。後に準教授・緑内障医科長(Director of Glaucoma Services)
- 1996年12月(39歳?):不正研究が発覚する
- 1997年(40歳?):ペンシルヴァニア大学(University of Pennsylvania)・Scheie Eye Institute・眼科・準教授
- 2000年11月29日(43歳?):研究公正局が研究ネカトと発表した
- 2015年(58歳?):眼科医として米国で勤務
●【不正発覚の経緯と内容】
1995年、ドライヤーは、目に緑内障(眼の構造と緑内障:写真出典:岩間眼科-鈴鹿市の眼科-緑内障)を起こすグルタミン酸塩が、不治の聴覚障害の原因となるメニエール病を引き起こすという仮説をたてた。
メニエール病のモルモットの内耳の液体を分析することで仮説を証明しようとした。具体的には、メニエール病のモルモットの内耳にたくさんのグルタミン酸塩があり、正常なモルモットの内耳になければ、グルタミン酸塩が問題になると考えた。
NIHの研究費助成を獲得するには、それらの仮説がある程度「ありうる」という証拠が必要だった。
それで、ドライヤーは、12匹のモルモットの内耳から液体を採取し、検査した。その結果、メニエール病のモルモットが正常なモルモットよりグルタミン酸塩のレベルが高かったと報告した。
NIHはこの報告に基づいて研究費を助成した。
1996年12月、しかし、マサチューセッツ眼科耳科病院の外科医・マイケル・マッケナ(Michael McKenna)はデータが整然としすぎていておかしいと学科長に申し出た。学科長は、ドライヤーにデータが正しいことを裏付けるよう依頼した。
それで、ドライヤーは実験をやり直した。ところが、やり直した実験でも再びデータを改ざんした、と言われている。
1997年11月17日、マサチューセッツ眼科耳科病院とハーバード大学医科大学院は、調査の結果、ドライヤーが研究ネカトをしたと結論した。
2000年4月14日、研究公正局は、マサチューセッツ眼科耳科病院とハーバード大学医科大学院の調査に基づき、さらに、調査を重ね、ドライヤーにデータねつ造・改ざんがあったとした。
2000年11月29日、研究公正局は、ドライヤーの締め出し処分(debarment)を10年間とした。10年以上の締め出し処分を受けた研究者は、2015年12月10日現在まで、7人しかいない。
現在(2015年12月時点)、ドライヤー(写真出典)は、米国・ピッツバーグで眼科病院を経営し眼科医として働いている。
●【論文数と撤回論文】
2015年12月10日現在、パブメド(PubMed)で、エヴァン・ドライヤー(Evan B. Dreyer)の論文を「Dreyer EB[Author]」で検索すると、1986年~2014年の74論文がヒットした。
研究ネカトと告発したマイケル・マッケナ(Michael McKenna)との共著論文はない。
2015年12月10日現在、撤回論文はない。
グルタミン酸塩に毒性があるという1996年前後のドライヤーの論文として、以下がある。
- Chronic low-dose glutamate is toxic to retinal ganglion cells. Toxicity blocked by memantine.
Vorwerk CK, Lipton SA, Zurakowski D, Hyman BT, Sabel BA, Dreyer EB.
Invest Ophthalmol Vis Sci. 1996 Jul;37(8):1618-24.
●【白楽の感想】
《1》状況がつかみにくい
事件の状況がつかみにくく、事件から改善策を学びにくい。
研究費を獲得するためとされているが、どうして、データねつ造・改ざんをしたのか? 良くわからない。
研究体制、チーム、ボス、受けた教育、家庭の事情など、良くわからない。
締め出し処分(debarment)が10年間ととても厳しいが、その理由も良くわからない。研究ネカトは長期にわたっていない。撤回論文がないので、ねつ造・改ざんデータは論文として出版されていないと思われる。そうなると、眼科治療で多数の患者を失明させたということもない。どうして、厳しい処分が下ったのか?
●【主要情報源】
① 2000年11月29日、研究公正局の報告:NIH Guide: FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT
② 2000年10月3日の「Associated Press」記事:Doctor Appeals Accusation of Fraud
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