リチャード・マイナーツハーゲン(Richard Meinertzhagen)(英)

2021年4月19日掲載 

ワンポイント:マイナーツハーゲンは英国陸軍で大佐までなった軍人・諜報員で、趣味としてアジア・アフリカの数万点に及ぶ動物(特に鳥類)を収集・分類をした。1967年6月17日、89歳で死亡した。没26年後の1993年、マイナーツハーゲンの収集した標本には、盗んでラベルを改ざんした標本が多数あったことを英国のアラン・ノックス学芸員が見つけた。米国の鳥類学者であるパメラ・ラスムッセン(Pamela C. Rasmussen)も、マイナーツハーゲンの鳥類の標本は大規模な窃盗と収集記録の改ざんだと指摘した。国民の損害額(推定)は50億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

リチャード・マイナーツハーゲン(Richard Meinertzhagen、1878年3月3日 –1967年6月17日、写真出典)は、英国・陸軍の中佐・諜報員で鳥類学者だった。本記事では盗用・改ざん事件に絞って記述する。

日本の記事に、マイナーツハーゲンの盗用・改ざん事件は有名だと書かれている。しかし、事件全体像を解説した日本語ウェブ記事は見当たらず、ウィキペディア日本語版もない。

マイナーツハーゲンの著書はある。彼について書かれた書籍も数冊ある。例えば、『リチャード・マイナーツハーゲン:兵士、科学者、スパイ(Richard Meinertzhagen: Soldier, scientist, and spy)』(1989年)、『マイナーツハーゲンの謎:巨大な詐欺の生涯と伝説(The Meinertzhagen Mystery : The Life and Legend of a Colossal Fraud)』(2006年)などがある(本の表紙出典はアマゾン)。日本語に翻訳されていない。

1900~1920年(21~41歳)頃、マイナーツハーゲンは、趣味としてアジア・アフリカの数万点に及ぶ動物(特に鳥類)を収集し、その分類をした。

1967年6月17日、マイナーツハーゲンは89歳で死亡した。

1993年(没26年後)、英国のアラン・ノックス学芸員がマイナーツハーゲンの収集した鳥類の多数の標本は盗品で、ラベルを改ざんしていたことを見つけた。

米国の鳥類学者であるパメラ・ラスムッセン(Pamela C. Rasmussen)も、マイナーツハーゲンの鳥標本は大規模な窃盗と改ざんであると指摘した。

リチャード・マイナーツハーゲン(Richard Meinertzhagen)の若かりし頃(左)・老いた頃(右)。写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1878年3月3日。英国に生まれる
  • 死亡:1967年6月17日(89歳)
  • 分野:動物分類学
  • 最初の不正論文発表:1900年(21歳)頃?
  • 不正論文発表:1900~1920年(21~41歳)?
  • 発覚年:1993年(没26年後)
  • 発覚時地位:英国陸軍・元中佐(没26年後)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は英国のアラン・ノックス学芸員で、マイナーツハーゲンの収集した標本が盗用・ねつ造品だったことを論文に発表
  • ステップ2(メディア):各種メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①米国の鳥類学者であるパメラ・ラスムッセン(Pamela C. Rasmussen)、英国の鳥類学者であるプリス・ジョーンズ(Robert Prys-Jones)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:盗用、ねつ造・改ざん
  • 不正標本数:数万点(推定)
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:存命中にネカトは発覚していない。該当せず(ー)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は50億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1878年3月3日:英国に生まれる
  • 18xxx年(xx歳):英国のハーロー校(Harrow School)卒業
  • 1897年(19歳):英国陸軍に入隊
  • 1899年1月18日(20歳):少尉
  • 1900年2月8日(21歳):中尉
  • 1905年2月(26歳):大尉
  • 1915年9月(37歳):少佐
  • 1918年3月(40歳):中佐
  • 1918年8月(40歳):大佐
  • 1925年(47歳):陸軍を引退。この時は中佐
  • 1967年6月17日(89歳):没
  • 1993年(没26年後):収集した標本が盗用・ねつ造品だったことが発覚

●3.【動画】

【動画1】
マイナーツハーゲンの盗用・ねつ造標本
Richard Meinertzhagen fraudulent collection; Tring: Natural History… ストック動画・映像 – Getty Images

【動画2】
マイナーツハーゲンの盗用・ねつ造標本
Richard Meinertzhagen fraudulent collection; Drawers opened to show… ストック動画・映像 – Getty Images

以下は事件の動画ではない。

【動画3】
マイナーツハーゲンの諜報活動の映画:「The Lighthorsemen – Meinertzhagen’s Ploy – YouTube」(英語)9分54秒。
HenryvKeiperが2009/04/25に公開

●4.【日本語の解説】

★2019年12月15日:川田伸一郎(国立科学博物館動物研究部研究員):「標本がないっ!」

出典 → ココ、(保存版) 

大英自然史博物館の鳥類標本盗難事件では、20世紀の半ばに研究者として来館して標本を持ち帰り、さらに盗品であることがばれないように偽造まで行ったリチャード・マイナーツハーゲンが有名。

★20xx年xx月xx日:けものフレンズ 原作動物 Wiki:著者不記載:「モリコキンメフクロウ」

出典 → ココ、(保存版) 

アメリカの鳥類学者であるパメラ・ラスマッセン博士は、モリコキンメフクロウの羽について研究していた際、インドの学者が誤った写真に基づいて調査をしている事に気付いた。

(少し先の話となるが、1990年代、イギリスの兵士、諜報官、鳥類学者であったリチャード・マイナーツハーゲン大佐(1878.3.3 – 1967.6.17)の鳥類コレクションを精密に分析した結果、盗難と改ざんを含む大規模な詐欺が明らかとなった。モリコキンメフクロウの調査情報は、この人物のコレクションを参考にしていた)

正史に基づいた調査として、彼女たちはオディシャとチャッティースガルでの調査から始めたが、かつての森は耕作地へ変わり果てており、再発見には至らなかった。

その後、1997年11月、彼女らはマハラシュトラ州ナンドルバル地区の近くに調査の場所を移すと、そこで2羽のモリコキンメフクロウを見つけることができた。実に113年振りの再発見であった。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀な動物学者

リチャード・マイナーツハーゲン(Richard Meinertzhagen)は英国軍務の傍ら、アジア・アフリカの動物(とくに鳥類)を捕獲し、新種を発見した。

例えば、1903年(25歳)、マイナーツハーゲンは新種であるモリイノシシ (giant forest hog、写真出典 By michell zappa from São Paulo, Brazil – Uganda Wildlife Education Centre, CC BY-SA 2.0, )をケニヤで発見し、射止め、標本をロンドン自然史博物館に送付した。新種と認定され、マイナーツハーゲンの名前を付けたHylochoerus meinertzhageniと命名された。

この時代、鳥類学はエリートの趣味だった。マイナーツハーゲンは、インドで軍務についていた時、彼が見つけ、撃ち、保存した鳥のカタログを作成し始めた。そして、約25,000個体の鳥類はく製を収集するまでになった。

マイナーツハーゲンは、後に、英国鳥類学者クラブ(British Ornithologists’ Club)の会長になり、1951年にゴッドマン=サルビン・メダル(Godman-Salvin Medal)を受賞した。

★発覚の経緯

1993年(没26年後)、英国のウォルターロスチャイルド動物学博物館(Walter Rothschild Zoological Museum)のアラン・ノックス学芸員(Alan G Knox、写真出典)は、マイナーツハーゲンが収集した標本を分析し、盗品・改ざんだったことを発見し、論文として発表した。 → 白楽未読:Richard Meinertzhagen—a case of fraud examined

ノックスは、マイナーツハーゲンが1953年にフランスで撃ったと主張した2羽の鳥・ベニヒワ(Redpoll、紅鶸、写真 Jyrki Salmi from Finland – Common redpoll,  CC 表示-継承 2.0, リンク)の盗用・ねつ造を見つけた。

このベニヒワの標本は、実際は1884年に英国で採取された鳥で、リチャード・バウドラー・シャープ(Richard Bowdler Sharpe )のコレクションから盗まれたものだった。

盗まれたものだということは、ベニヒワの標本をX線撮影した科学者が証明した。マイナーツハーゲンは野生のベニヒワを採取したのではなく、博物館から採取し、鳥の脚のラベルを改ざんし、誤ったデータに置き換えていた。

マイナーツハーゲンが収集したとして主張した鳥の多くの標本はヒュー・ウィスラー(Hugh Whistler、写真出典)など他の人によって収集された標本だった。

★パメラ・ラスムッセン(Pamela C. Rasmussen)の功績

マイナーツハーゲンが収集した鳥標本の多くは、他人の収集した鳥標本を、博物館から盗んでラベルを変えたものだった。検証すると、鳥標本が行方不明になったと博物館が報告した鳥標本と一致したからである。

科学的な検証法の1つは、標本の中で使用された綿のDNAを分析する方法である。このDNAが、盗まれた収集者が他の標本で使用した綿のDNAと一致すれば、盗まれた標本だとほぼ証明できる。

フクロウの一種であるモリコキンメフクロウ(forest owlet、森小金目梟、写真出典、(c) mayuresh kulkarni, (CC BY-NC))の例をあげよう。

モリコキンメフクロウの標本も、マイナーツハーゲンが収集し寄贈した。

モリコキンメフクロウはインドで最も希少な鳥の1つと見なされいた。マイナーツハーゲンは1914年にインドのグジャラート州マンドヴィ(Mandvi, Gujarat)でモリコキンメフクロウを発見し射止めたと主張した。これはモリコキンメフクロウの最後の目撃記録であり、それ以前の記録はその30年前の1884年、ジェームズ・デビッドソン(James Davidson)がインドのマハラシュトラ(Maharashtra)で目撃した記録だった。

しかし、マイナーツハーゲンが発見したと主張したグジャラート州マンドヴィ(Mandvi, Gujarat)では2度とモリコキンメフクロウは見つからなかった。それで、長い間、モリコキンメフクロウは絶滅したと考えられていた。

米国の鳥類学者であるパメラ・ラスムッセン(Pamela C. Rasmussen、写真同)は、マイナーツハーゲンの鳥標本を丹念に調査し、マイナーツハーゲンの主要な主張のすべてを疑うようになった。

モリコキンメフクロウの鳥標本に詰めてあった綿のDNAをFBIに依頼して分析して貰ったところ、デビッドソンの鳥標本に詰めてあった綿のDNAと一致した。

ラスムッセンはマイナーツハーゲンが盗用・改ざんしたと考えた。

それで、モリコキンメフクロウの元の標本が収集されたと報告されたマハラシュトラ(Maharashtra)で調査を行ない、1997年、113年ぶりに、モリコキンメフクロウを再発見した。長年絶滅したと考えられていたが、絶滅してはいなかったのだ。

モリコキンメフクロウは、マイナーツハーゲンが発見場所を改ざんしたため、マイナーツハーゲンが発見したと主張した場所で探し、83年間も発見できなかったのである。

「盗むことは一つ罪ですが、彼は盗むだけでなく、実際に採取した場所とは異なる場所と時間を主張したのです。鳥標本のラベルを改ざんデータで書き直したことも、大きな罪です。これは、間違った情報を他人に提供し、学術体系をゆがめます」とラスムッセンは述べている。

★捜査を握りつぶす力

なお、標本窃盗とラベル改ざんはマイナーツハーゲンの存命中に全く発覚しなかったのかというと、そうでもなかったらしい。

マイナーツハーゲンは英国の博物館・鳥類館の常連だった。そして、博物館から鳥類標本を盗んだことが発覚して、1年間以上、出入り禁止処分が科されたりもしていた。

別の例では、博物館が所蔵していた鳥の寄生虫に関する珍しい貴重な日記がなくなったこともあった。この時、スコットランドヤードが捜査し、マイナーツハーゲンが盗んだことが明白になった。

ただ、彼は逮捕されなかった。

マイナーツハーゲンは英国陸軍の大佐までなった人で鳥類学の本を出版した有名人である。適切な部署に友達がいて、法的問題を適切(不適切?)に解決してくれたのだ。

従って、ノックスがマイナーツハーゲンの窃盗とねつ造を暴露した論文の後でさえ、マイナーツハーゲンの鳥類標本の詐欺行為がこんなに大規模であることは誰も予想しなかった。

★鳥類標本の大規模な詐欺

2003年(没36年後)、パメラ・ラスムッセン(Pamela C. Rasmussen)と英国の鳥類学者であるプリス・ジョーンズ(Robert Prys-Jones 、写真出典)がマイナーツハーゲンの大規模な窃盗を解明したことで、博物学者及び世間はマイナーツハーゲンの大規模な鳥類標本の詐欺を認識するようになったのである。

窃盗自体は犯罪だが、上述したように、マイナーツハーゲンはそれだけではなかった。フクロウの一種であるモリコキンメフクロウの標本などで、マイナーツハーゲンはデータを改ざんし、今までに見たことのない地域で目撃した動物種と報告した。

現在、マイナーツハーゲンの初期の鳥類標本のほとんどすべてが他人のコレクションから盗んだものであることがわかっている。アフガニスタン時代、インド時代の鳥類標本のほぼ半数が窃盗品である。

ただ、彼の鳥類標本は全部ダメかというとそうでもない。彼の鳥類標本のいくつか、特に晩年に収集した標本はマイナーツハーゲン自身が収集した標本で、重要なものだった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

時代が古いので、省略。

●7.【白楽の感想】

《1》闇の中 

マイナーツハーゲンの鳥類標本とその記録は、どれが正しく、どの部分がねつ造・改ざんされたのか、全体像をつかむのは難しい。時間を巻き戻せない。

永久に闇の中である。

学術的には、この場合、どうするのだろう? 闇の中でいいということか。悪いと言っても仕方ないけど。

《2》コレクターの心理

マイナーツハーゲンは英国陸軍の大佐まで昇進した人である。職業上の立身出世とは無関係なのに、マイナーツハーゲンがなぜそのような大規模な鳥類標本の詐欺を犯したのか不思議である。

コレクター心理、収集癖は犯罪を犯しでも収集したい欲望が強いのだろうか?

金持ちが絵画・彫刻・美術品、骨とう品、工芸品などを収集し、眺めて楽しむ。

ただ、マイナーツハーゲンの場合、収集品を自分の手元に置いておくのではなく、博物館に寄贈している。だから、たくさんの珍しい鳥を撃ったという手柄を誇示したいためだったと思われる。ただ、他人の標本を博物館から盗んでまでそうするのは、人間が壊れている。

白楽もネカト・クログレイ事件のコレクションをしている。すでに900人近い研究者の事件をコレクションした。でも、たくさんの事件をコレクションしたい気持ちはあまりない。結果的に、事件が多く、数が増えてきただけだ。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Richard Meinertzhagen – Wikipedia
② 2016年4月7日の「Homegrown」記事:How An Elite British Man’s Fraud Changed The History Of Indian Ornithology – Homegrown
③ 2003年:Rasmussen, P. C.; Prŷs-Jones, R. P. (2003). Collar, N. J.; Fisher, C. T.; Feare, C. J. (eds.). “ “. Bulletin of the British Ornithologists’ Club. 123A (Why Museums Matter: Avian Archives in an Age of Extinction): 66–94.
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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