2022年2月11日掲載
ワンポイント:カシアトは2013年にジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)で研究博士号(PhD)を取得し、シェル石油社(Royal Dutch Shell)に就職した。7年後の、2020年6月22日(34歳?)、理由は不明だが、院生時代に出版した論文はデータねつ造だったと、本人が自発的に学術誌に告白した。結局、2012~2013年(25~26歳?)に出版したカシアトの5論文が2020年7・8月に撤回された。ジョージア工科大学はネカト調査をしたが、調査報告書を公表しなかった。カシアトは無処分。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
マイケル・カシアト(Michael Casciato、Michael J. Casciato、 ORCID iD:?、写真出典)は、2013年に米国のジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)で研究博士号(PhD)を取得し、シェル石油社(Royal Dutch Shell)に就職、専門は化学だった。
2020年6月22日(34歳?)、理由は不明だが、ジョージア工科大学の院生時代に出版した論文はネカトだと、本人が自発的に、学術誌に電子メールで、ネカトを告白した。
2020年7・8月(34歳?)、2012~2013年(25~26歳?)に出版したカシアトの5論文が撤回された。
ジョージア工科大学はネカト調査をしたが、調査報告書を公表しなかった。
2022年2月10日現在、カシアトはシェル石油社(Royal Dutch Shell)に在職している(推定)。
ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ジョージア工科大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2005年に大学に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:37 歳?
- 分野:化学
- 不正論文発表:2012~2013年(25~26歳?)の2年間
- 発覚年:2020年(34歳?)
- 発覚時地位:シェル石油社・研究職
- ステップ1(発覚):本人が学術誌に通報
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ジョージア工科大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:発表なし(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:5論文が2020年7・8月に撤回された
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Michael Casciato | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2005年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 2005 – 2009年(18 – 22歳?):米国のマイアミ大学(University of Miami)で学士号取得:理学士
- 2009 – 2013年(22 – 26歳?):米国のジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)で研究博士号(PhD)を取得:化学
- 2012 – 2013年(25 – 26歳?):後に撤回する5論文を出版
- 2013年8月(26歳?):シェル石油社(Royal Dutch Shell)・研究職
- 2020年6月22日(34歳?):学術誌にネカトを告白
- 2020年7・8月(34歳?):カシアトの5論文が撤回
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★優秀な院生
マイケル・カシアト(Michael Casciato、Michael J. Casciato)は、米国のジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)のマーサ・グローバー教授(Martha Grover、写真出典)・研究室の優秀な院生だった。
優秀というのは、カシアトは院生の時、米国・科学庁(NSF)の奨学金とジョージア工科大学のゴイズエタ財団奨学金(Georgia Tech Goizueta Fellowship)を受給していたからだ。
科学庁(NSF)から年間3万ドル(約300万円)の奨学金、10,500ドル(約105万円)の教育費と授業料を3年間もらえ、1回だけだが1,000ドル(約10万円)の海外旅行手当をもらえた。ゴイズエタ財団奨学金は科学庁(NSF)奨学金を補足する賞だが、4,000ドル(約40万円)が給付された。
その受給記事がジョージア工科大学・大学誌に載っていることからも、優秀な院生だと、大学が表彰していたことになる。 → 2010年9・10月号の「Oct+Alumni+Magazine.pdf」の34頁目。
★経緯
2013年(27歳?)、マイケル・カシアト(Michael Casciato)は、米国のジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)で研究博士号(PhD)を取得し、シェル石油(Royal Dutch Shell)に就職した。
7年後の2020年6月22日(34歳?)、カシアトは、理由は不明だが、ジョージア工科大学の院生時代に出版した論文はネカトだと、本人が自発的に、学術誌に電子メールで通報した。
電子メールは大学院時代の指導教授で論文共著者のマーサ・グローバー教授(Martha Grover)にも同時に送った。
以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報開示請求で得た電子メールの冒頭部分(出典:同)。全文は8ページ → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2021/11/Mail-Virgil-Franchesca-Outlook_Redacted-1.pdf
カシアトは次のように述べている。
「ネカト告白は自分の意思で行ないました。他人から強要されたり、アドバイスされておりません。他の誰とも相談しておりません。論文の共著者や論文指導教官は誰もこのネカト告白を事前に気づいておりません。
私は今、自分が犯した過ちを直したいという思いから、記録を正すという自分の意志で前向きに行動しました。
私は、他人、当事者、調査員、研究者、研究室、大学、他の組織から、私の非倫理的な行動を開示するように強制されたことはありませんでした。 さらに、私が出版した論文に偽造、欠陥、問題を発見した人は誰もいませんでした。それで、私自身がネカトを開示すべきだと思うに至りました。
私がしたことについて心からお詫び申し上げます。また、どのように進めるべきかを教えてください」
ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)・教授で学術誌「Industrial & Engineering Chemistry」のフィリップ・サベージ編集長(Philip Savage、写真出典)は、次のように対応した。
論文がネカトだったと自発的にご通知下さったその勇気に感謝します。3報の論文は出版されていますので、データがねつ造なら、これらの論文を撤回することが適切だと思います。
共著者に相談し、一緒に、論文ごとに撤回依頼書を作成し提出してください。
各論文の撤回告知文では、撤回の理由(データの改ざんまたはねつ造)を示し、そのデータが論文の主な結論にどのように影響するかについてコメントする必要があります。撤回依頼書が提出されましたら、私のオフィスが文書を確認します。 2020年7月31日までに撤回依頼書を提出してください。
この2か月後2020年8月、カシアトの「Industrial & Engineering Chemistry」論文は全部(3報)撤回された。
2022年2月10日現在、2012~2013年出版されたカシアトの5論文が2020年7・8月に撤回されている。
「撤回監視(Retraction Watch)」によるネカト調査報告書の開示請求に対して、ジョージア工科大学は、米国「家族教育の権利とプライバシー法」(U.S. Family Educational Rights and Privacy Act)に基づいて、「カシアトが院生だった時の行為なので、学術的不正行為の調査に関する記録は開示請求から保護されている」と述べ、調査報告書の開示を拒否した。
「撤回監視(Retraction Watch)」はコメントを求めたが、マイケル・カシアト(Michael Casciato)もシェル石油社(Royal Dutch Shell)もコメントの要求に応じなかった。
2022年2月10日現在、カシアトはシェル石油社(Royal Dutch Shell)に在職していると思う。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
ジョージア工科大学は調査結果を隠蔽している。「パブピア(PubPeer)」でもネカト箇所の指摘はない。
ただ、2020年6月22日にカシアトが告白した電子メールにねつ造箇所が記載されている。
以下は公表したネカト3論文の1報について、そのデータねつ造箇所を示す・・・つもりだったが、論文閲覧は有料なので、図そのものはココに提示できない。
★「2012年8月のInd. Eng. Chem. Res.」論文
「2012年8月のInd. Eng. Chem. Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年8月7日、撤回された。
- Synthesis of Optically Active ZnS–Carbon Nanotube Nanocomposites in Supercritical Carbon Dioxide via a Single Source Diethyldithiocarbamate Precursor
Michael J. Casciato, Galit Levitin, Dennis W. Hess, and Martha A. Grover
Ind. Eng. Chem. Res. 2012, 51, 36, 11710–11716
カシアトが告白した電子メールには、以下に示すように、図3、図5~8、表2がねつ造だと述べている。
- 図1:データは正当。
- 図2:データは正当。
- 図3:MATLABで開発した(そして他の出版物で報告されたデータに使用した)画像処理アルゴリズムをこれらの画像で機能させることを試みましたが、成功しませんでした。私はこれらのデータをSEM写真に基づいて目で見て、このヒストグラムをねつ造しました。つまり、この図はねつ造したデータです。
- 図4:データは正当。
- 図5:実験装置で合成実験を行ない、これらのデータを収集しようとしました。しかし、UV / visマシンでUV / visデータを収集することに成功しませんでした。文献で報告されているデータと一致するようにデータをねつ造しました。つまり、文献データに基づいてねつ造したデータです(出版物の引用7)。
- 図6:図5で報告されたデータに基づいています。
- 図7:実験装置で合成実験を行い、これらのデータを収集しようとしました。しかし、フォトルミネッセンス実験装置でのフォトルミネッセンスデータの収集には成功しませんでした。文献で報告されているデータと一致するようにデータをねつ造しました。つまり、文献データに基づいてねつ造したデータです(出版物の引用17)。
- 図8:引用した参考文献に基づいて自分でこの図をねつ造しました。
- 表2:上記のように、図6および7に示されているデータに基づいて報告された値を計算しました。この表は、つまり、文献データに基づいてねつ造したデータです。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年2月10日現在、パブメド(PubMed)で、マイケル・カシアト(Michael Casciato)の論文を「Michael Casciato[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2012年の1論文がヒットした。
2022年2月10日現在、この論文はパブメドの論文撤回リストに入っていない。
化学の論文をパブメド(PubMed)で検索するのは無理があり過ぎた。
★撤回監視データベース
2022年2月10日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマイケル・カシアト(Michael Casciato、Michael J. Casciato)を「Casciato」で検索すると、5論文が撤回されていた。
2012~2013年出版された5論文が2020年7・8月に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年2月10日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マイケル・カシアト(Michael Casciato、Michael J. Casciato)の論文のコメントを「Casciato」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》状況
マイケル・カシアト(Michael Casciato)は、論文出版後7年も経ってから、自分で論文のネカトを学術誌に伝えた
どうして?
発覚した(しそうだった)のではない。誰からも指摘されないで、自分から通報したとある。
この勇気、誠実さは素晴らしい。
でも、どういう切っ掛け・心理的な動きでそうしたのか?
カシアトの性格・人生観はわからない。状況を推察するのは難しいが、切っ掛け・心理的な動きがつかめれば、ネカト防止に役立つポイントがありそうな気がする。
「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメント欄で、ミゲル・ロイグ(Miguel Roig)も「ネカト防止に役立つポイントがありそうな気がする」と指摘している。
《2》「家族教育の権利とプライバシー法」
米国「家族教育の権利とプライバシー法」(U.S. Family Educational Rights and Privacy Act)に基づいて、「カシアトが院生だった時の行為なので、学術的不正行為の調査に関する記録は開示請求から保護されている」と、ジョージア工科大学はネカト調査報告書の開示を拒否した。
白楽は米国「家族教育の権利とプライバシー法」(U.S. Family Educational Rights and Privacy Act)をチャンんと解読していない。
カシアトは米国・科学庁の奨学金(税金)を約1000万円も受領した院生だった。その院生が、卒業して7年後、データねつ造という犯罪に近い行為を犯していた。それなのに、「家族教育の権利とプライバシー法」に守られるのは、オカシイ、と白楽は思う。
この法律は中高大生が「軽はずみな」「若気の至り」行為を犯しても、更生しやすいように、少年少女・若い男女を保護する法律と理解している。
発達期の少年少女・若い男女は、社会との関係がつかめないで無謀な行動をする場合がある。大人になれば、後悔するような行為である。それを許容し発達期の少年少女・若い男女を保護する精神だと思う。
それが、博士号取得した院生を対象に適用するのは、ヘンだと白楽は思う。
《3》処罰なし?
自分でネカトを告白し、5論文が出版7年後に撤回された。
それで、処罰なし?
処罰なしなら、ネカトした方が利得になる。
ジョージア工科大学がネカト調査をしたが、博士号を取消していない。状況から考えて、博士論文もネカトと思える。博士号は取消すべきだろう。 → 博士論文:The design, synthesis, and optimization of nanomaterials fabricated in supercritical carbon dioxide
カシアトは科学庁の奨学金(税金)を約1000万円も受領した院生で、ネカトで研究費が無駄に使われ、業績・学位など、本来ないハズの高い評価がされて就職・生活してきた。処罰なしは社会的に不公平だ。
また、共著者たちは、自分が貢献した研究論文が撤回され、大被害である。この場合、ネカト被災者の手当ては何もないだろう。
カシアトは告白することで、自分の心理的な罪悪感は解消できても、周囲に多くの被害をもたらしている。
7年後の素晴らしい「勇気、誠実さ」と7年前の不正は次元が異なる。
7年後の「勇気、誠実さ」で、7年前の不正を帳消しにしていいのか?
あるいは、逆に、今さら、処罰する意味・意義はあるのか?
公正や正義ってなんだろう。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2021年11月29日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: Shell employee confesses to graduate student misdeeds – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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