リピン・ジャン(Liping Zhang)(米)

2025年4月15日掲載 

ワンポイント:2025年3月19日(56歳?)、発覚から7年後(推定。遅いですね)、研究公正局は、 ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・助教授だったリピン・ジャンの4件の研究費申請書(1件は採択、3件は取り下げ)、3本の投稿原稿、の画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。2025年1月7日(or 16日)から2年間の締め出し処分を科した。2年間の処分は少し軽い処分である。なお、リピン・ジャンは中国の浙江大学(せっこうだいがく)で研究博士号(PhD)を取得後、米国の数大学・ポスドクを経て、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・助教授になった。記事執筆時点では、撤回論文は1報。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

リピン・ジャン(Liping Zhang、ORCID iD:、写真出典)は、中国の浙江大学(せっこうだいがく)で研究博士号(PhD)を取得後、米国の数大学でのポスドクを経て、2005年6月12日(36歳?)、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・助教授になった。医師免許は持っていない。専門は腎不全の基礎医学である。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、2018年4月に投稿した原稿のネカトが指摘されているので、発覚時期は、2018年(49歳?)と推定される。

出版した論文のネカトは指摘されていないので、ネカトを見つけて告発した人は、同じ研究室の上司または同僚と思われるが、特定されていない。

2020年(推定)、ベイラー医科大学がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に報告したと思われる。

2020年10月3日(51歳?)、リピン・ジャンはベイラー医科大学を辞職した(させられた)。

2025年3月19日(56歳?)、発覚から7年後(推定。遅いですね)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、 ベイラー医科大学( Baylor College of Medicine)・助教授だったリピン・ジャンの4件の研究費申請書(1件は採択、3件は取り下げ)、3本の投稿原稿、の画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。

2025年1月7日(16日)(56歳?)から2年間の締め出し処分を科した。2年間の処分は少し軽い処分である。

ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:中国の浙江大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1996年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:56歳?
  • 分野:腎不全の基礎医学
  • 不正文書:2015~2018年(46~49歳?)の3年間
  • ネカト行為時の地位:ベイラー医科大学・助教授
  • 2018年(49歳?)
  • 発覚時地位:ベイラー医科大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):① ベイラー医科大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:研究公正局は4件の研究費申請書、3本の投稿原稿と発表した。2025年4月14日現在、撤回論文は1報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから2年間の締め出し処分
  • 対処問題:
  • 特徴:研究費申請書と投稿原稿のネカトなので、告発者は身近な人(推定)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Liping Zhang | Hilaris SRL

  • 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1996年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • xxxx年(xx歳):中国(?)のxx大学で学士号を取得
  • 1996年(27歳?):中国の浙江大学(せっこうだいがく、Zhejiang University)で研究博士号(PhD)を取得
  • xxxx~xxxx年(xx~xx歳?):ペンシルベニア州立大学、カンザス大学医療センター、テキサス大学ガルベストン校などで、ポスドク・研究員
  • 2005年6月12日~2020年10月3日(36~51歳?):ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・助教授
  • 2015~2018年(46~49歳?):この3年間にネカト文書作成
  • 2018年(49歳?):不正が発覚(推定)
  • 2025年3月19日(56歳?):研究公正局がネカトと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

リピン・ジャン(Liping Zhang)は中国の浙江大学(せっこうだいがく)で研究博士号(PhD)を取得後、米国の数大学でのポスドクを経て、2005年6月12日(36歳?)、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・助教授になった。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、2018年4月に投稿した原稿のネカトが指摘されているので、発覚時期は、2018年(49歳?)と推定される。

出版した論文のネカトは指摘されていないので、見つけて告発した人は、同じ研究室の上司または同僚と思われるが、特定できない。

★獲得研究費

リピン・ジャン(Liping Zhang)は、研究代表者としてNIHの研究費を得ていない。 → RePORT ⟩ Liping Zhang

ボスのウィリアム・ミッチ教授(William Mitch、写真出典)が研究代表者で得たNIHグラントでネカトをした。

★研究公正局

2025年3月19日(56歳?)、発覚から7年後(推定。遅いですね)、研究公正局はリピン・ジャンが4件の研究費申請書(1件は採択、3件は取り下げ、リピン・ジャンは研究代表者ではない)、3本の投稿原稿の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

2025年1月7日(or 16日)から2年間の締め出し処分を科した。2年間の処分は少し軽い処分である。

4件の研究費申請書(1件は採択、3件は取り下げ)は以下の通り(研究公正局の発表をそのまま貼り付けた)。2016~2017年の申請書である。

  1. R01 DK037175-32, “Protein nutrition in experimental uremia,” submitted to NIDDK, NIH, on March 3, 2017, awarded from May 2, 2018-March 31, 2022.
  2. R01 AR070845-01A1, “A new pathway to muscle atrophy in chronic kidney disease,” submitted to National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases (NIAMS), NIH, on November 3, 2016, administratively withdrawn by NIAMS on March 1, 2019.
  3. R01 AR069533-01A1, “Epigenetic control of skeletal muscle development and aging-related muscle regeneration,” submitted to NIAMS, NIH, on March 1, 2016, administratively withdrawn by NIAMS on November 1, 2018.
  4. R01 DK116886-01, “A demethylase-dependent mechanism regulates whitening of brown adipocytes and obesity,” submitted to NIDDK, NIH, on June 2, 2017, administratively withdrawn by NIAMS on November 2, 2019.

3本の投稿原稿は以下の通り(研究公正局の発表をそのまま貼り付けた)。2015年7月、2017年10月、2018年4月(2017年10月の改訂版)に投稿した原稿である。

  1. NO66, an endogenous mediator of muscle growth, suppresses myogenic genes by forming repressive complex with RBBP4 and HDAC2. Original manuscript submitted to Cell Reports in July 2015 (hereafter referred to as “Cell Rep. Submission”).
  2. Nucleolar protein 66 functions as a novel negative regulator of satellite cells. Original manuscript submitted to EMBO Reports in October 2017 (hereafter referred to as “EMBO Rep. First Submission”).
  3. Nucleolar protein 66 functions as a novel negative regulator of satellite cells. Second submission to EMBO Reports in April 2018 (hereafter referred to as “EMBO Rep. Second Submission”).

【ねつ造・改ざんの具体例】

2025年3月19日(56歳?)の研究公正局の発表では、リピン・ジャンの研究費申請書と投稿原稿のネカト部分をウェスタンブロット画像、蛍光顕微鏡画像だと述べている。

しかし、研究費申請書と投稿原稿は公開されていないので、白楽は内容を見ることができない。

参考に、リピン・ジャンの撤回論文である「2005年のCirc Res.」論文で、ネカト箇所を見ておこう。

★「2005年のCirc Res.」論文

「2005年のCirc Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2021年2月5日、撤回された。

2020年10月、パブピアでデータの問題が指摘された。以下の図出典:https://pubpeer.com/publications/5096CF77FA704BAEBB03BB40218039

―――その1
図2Aと図5Dで同じβアクチンのバンドを使用、と指摘された。

――――その2
図4Bのβアクチンのバンドは図5Dのβアクチンのバンドを180度回転させて使用、と指摘された。

――――その3
図5Cのβアクチンのバンドは図5Fのβアクチンのバンドを縦方向に縮めて使用、と指摘された。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年4月14日現在、パブメド(PubMed)で、リピン・ジャン(Liping Zhang)の論文を「Liping Zhang[Author]」で検索した。1998~2025年の28年間の1,779論文がヒットした。

本記事のリピン・ジャン(Liping Zhang)とは別人で、同姓同名の研究者の論文が多数含まれていると思われる。

2025年4月14日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、4論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2025年4月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースで、リピン・ジャン(Liping Zhang)を、Author(s)に「Zhang, Liping」で検索し、Affiliation(s)に「Baylor College of Medicine」と入力すると、「2005年のCirc Res.」論文・1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年4月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リピン・ジャン(Liping Zhang)の論文のコメントを「”Liping Zhang”」で検索すると、17論文にコメントがあった。

本記事のリピン・ジャン(Liping Zhang)とは別人で、同姓同名の研究者の論文が多数含まれていると思われる。

●7.【白楽の感想】

《1》発覚 

リピン・ジャン(Liping Zhang)のネカトは、公表された論文でのネカトではない。

研究費申請書と投稿原稿のネカトである。この場合、誰が見つけ告発したのだろうか?

最初に思いつくのは、共同研究者である。

でも、共同研究者だとすると、少しヘン。

というのは、共同研究者が見つけたなら、投稿する前の原稿を精査している段階で気が付くはずだ。そこで気が付けば、投稿させないだろう。

ところが、2015年7月、2017年10月、2018年4月に投稿「した」原稿でネカトが見つかっている。それも、後者の2本は同じ原稿で、改訂し2018年4月に再投稿したのだ。ひょっとして、単著だった、あるいは、共著者に無断で投稿したのだろうか?

2番目の可能性は、論文の査読者がネカトを見つけ、告発した。
そして、3番目の可能性は、研究費申請書の審査員がネカトを見つけ、告発した。

白楽は、査読の経験は普通にある。査読者が見つける2番目の可能性は低い。

白楽は、また、米国・NIHのプログラムディレクター室で5か月、NIH研究費配分の実態を学んだが、研究費申請書の審査員がネカトを見つける3番目の可能性はかなり低いと思う。 → Amazon.co.jp: アメリカの研究費とNIH: ロックビルのバイオ政治学講座 : 白楽 ロックビル

つまり、2番目・3番目は可能だが、白楽の印象・経験ではかなり「ない」。

では、だれが見つけたのだろう?

研究公正局の報告書に、誰がどのように見つけたのか、書いてくれると、いいんだけど。

《2》米国、どうなる 

リピン・ジャン(Liping Zhang)の事件が発表される4日前に以下を書いた。 → デボラ・ケリー(Deborah Kelly)(米) | 白楽の研究者倫理

ーー以下再掲ーー

研究公正局は、2024年10月8日にブレット・ラザフォード(Bret Rutherford)のネカト行為を発表して以来、2025年3月14日現在までの5か月間以上、新たなネカト犯を発表していない。

トランプ政権下で研究公正局の職員が減っている。どうなっていくのだろう?

ーー再掲、ここまでーー

「撤回監視(Retraction Watch)」もリピン・ジャン(Liping Zhang)の記事で白楽と同じようなことを書いている。

つまり、5か月11日ぶりのネカト発表なのである。毎年、10件程度発表しているのに、このペースだと、今年(2025年)は、あと2件?

米国の研究公正、今後、どうなるのでしょう?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2025年3月19日:Case Summary: Zhang, Liping | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2025年3月19日の連邦官報:Liping Zhang 2025-FRN 04489.pdf。(3)2025年3月19日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2025年x月xx日:NOT-OD-25-xxx: Findings of Research Misconduct
② 研究公正局の現在の処分者リスト:PHS Administrative Action Report
③ 2025年3月18日のケイト・トラヴィス(Kate Travis)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Kidney researcher debarred from federal U.S. funding for image manipulation – Retraction Watch