2022年5月25日掲載
ワンポイント:カイエン・ニは中国の厦門大学・学部を卒業後、シカゴ大学(University of Chicago)・院生を経て、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)のポスドクになった。2022年3月(29歳?)、シカゴ大学院生時代に出版した「2022年2月のNat Biomed Eng」論文に画像の重複があるとパブピアで指摘された。その後、上記論文を含め、2018~2022年(25~29歳?)の5年間の10論文にデータねつ造が指摘された。現在、ネカト調査中、ポスドク在任中、博士号ははく奪されていない、論文撤回は0報である。国民の損害額(推定)は今後、10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
カイエン・ニ(Kaiyuan Ni、ORCID iD:?、写真出典)は、中国の厦門大学(Xiamen University)で学士号を取得し、米国のシカゴ大学(University of Chicago)・化学科で研究博士号(PhD)を取得した。2020年9月(27歳?)、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)・ポスドクになった。専門は化学(がん細胞を殺す金属化合物合成)。
研究分野は化学で、研究内容はがん細胞を殺す金属化合物の合成だが、院生時代の指導教授がNIH・国立がん研究所からたくさんのグラントを得ている。いずれ、研究公正局の事件になると思われる。それで、生命科学の枠で扱った。なお、化学なので、一応、「自然科学・工学のネカト・クログレイ事件」の枠にもリストした。
シカゴ大学院生時代に出版した論文のネカト事件なので、シカゴ大学を中心に記述する。
2022年3月(29歳?)、出版したばかりの「2022年2月のNat Biomed Eng」論文に画像の重複使用があると、パブピアで指摘された。
その後も、類似の指摘がパブピアで多数あり、現在、10論文が問題視されている。
シカゴ大学はネカト調査を始めた。
2022年5月24日(29歳?)現在、撤回論文はない。
白楽が予想するに、いずれ、ポスドクを解雇され、博士号がはく奪され、10報ほどの論文撤回があるだろう。NIHグラントの支援を受けた研究なので、最終的には研究公正局が扱うと思われる。
シカゴ大学(University of Chicago)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:中国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:シカゴ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1993年1月1日生まれとする。2011年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:31 歳?
- 分野:化学
- 不正論文発表:2018~2022年(25~29歳?)の5年間の10論文
- 発覚年:2022年(29歳?)
- 発覚時地位:マサチューセッツ工科大学・ポスドク
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)がパブピアで指摘
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②シカゴ大学・調査委員会が調査中
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中
- 大学の透明性:調査中(ー)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2018~2022年(25~29歳?)の5年間の10論文
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を、今のところ続けている(〇)
- 処分:なし。今のところ
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1993年1月1日生まれとする。2011年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 2011~2015年(18~22歳?):中国の厦門大学(あもいだいがく、Xiamen University)で学士号取得:化学
- 2015~2020年8月(22~27歳?):米国のシカゴ大学(University of Chicago)で研究博士号(PhD)を取得:化学
- 2020年9月~現(27歳?~):米国のマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)・ポスドク
- 2022年3月(29歳?):不正研究が発覚
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★優秀な院生
カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)は、中国の厦門大学(あもいだいがく、Xiamen University)の学部を卒業後、渡米し、2015年にシカゴ大学・院生になった。院生になった翌年の2016年から論文を出版し、在籍5年間で、ボスのウェンビン・リン教授(Wenbin Lin)との共著論文を28報も出版した。とても優秀な院生だ。
2022年8月にシカゴで開催予定のアメリカ化学会・重合体科学技術部門(Polymeric Materials: Science and Engineering)で、優秀賞(2022 PMSE Future Faculty)の受賞が予定されている(3段目最右)(画像出典:https://twitter.com/acspmse/status/1500933841220952072/photo/1)。
なお、シカゴ大学(University of Chicago)のウェンビン・リン教授(Wenbin Lin)は、カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)が院生として在籍した2015~2020年の6年間にNIH・国立がん研究所から12件のグラントを受けた。化学科所属だが、化学材料を医薬品に開発する研究内容なので、生命科学の領域でもある。
以下は、12件の内の10件を示す(Grantome: Search)。本ブログの図表をクリックすると図表は2段階で大きくなる(多分)。
★経緯
2022年3月xx日、シカゴ大学(University of Chicago)のウェンビン・リン教授(Wenbin Lin、写真出典)の「2022年2月のNat Biomed Eng」論文に、出版直後、パブピアで画像の重複が指摘された。
以下の論文である。
- Synergistic checkpoint-blockade and radiotherapy-radiodynamic therapy via an immunomodulatory nanoscale metal-organic framework.
Ni K, Xu Z, Culbert A, Luo T, Guo N, Yang K, Pearson E, Preusser B, Wu T, La Riviere P, Weichselbaum RR, Spiotto MT, Lin W.
Nat Biomed Eng. 2022 Feb;6(2):144-156. doi: 10.1038/s41551-022-00846-w. Epub 2022 Feb 21.
1例を示すと、橙色枠の画像(補足図9)が重複していた(画像出典:https://pubpeer.com/publications/6E534327AAA4121FEB31E0A8160F2E)
ウェンビン・リン教授は、パブピアで1回目の返事をした。
最近出版した論文の補足資料での間違いを指摘してくれた読者に感謝します。間違いを訂正しますが、そのことで論文の結論は変わりません。学術誌に詳細な説明し、訂正を依頼しました。 この論文の間違いを、読者の皆様にお詫び申し上げます。
ウェンビン・リン教授は、パブピアで2回目の返事をした。省略。
3回目の返事で、「2022年2月のNat Biomed Eng」論文の撤回を学術誌に要請した。この3回目の返事で、ネカト者を特定したため、パブピアから削除されている。以下は、「撤回監視(Retraction Watch)」記事に残された文章である。
著者たちと数回、話し合いをした結果、問題の画像は第一著者1人の不正行為が原因だということが判明しました。昨日、この論文撤回を学術誌に依頼しました。第一著者の不正行為を捉えられなかったことをお詫び申し上げます。
論文を見れば、第一著者はカイエン・ニ(Kaiyuan Ni)ということが明白である。
ウェンビン・リン教授はシカゴ大学にネカト調査を依頼した。シカゴ大学は現在、ネカト調査中である。
カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)は現在、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)・ポスドクで、ボスはダレル・アーバイン教授(Darrell J. Irvine、写真出典)である。 → 2022年5月15日保存:Postdocs | Irvine Lab
白楽が予想するに、いずれ、ポスドクを解雇され、博士号ははく奪され、10報ほどの論文撤回があるだろう。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
シカゴ大学(University of Chicago)は調査中あので、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表はない。
「パブピア(PubPeer)」では、カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)の10論文にコメントがあった。
以下、最初に問題にされた「2022年2月のNat Biomed Eng」論文を見ていこう。
★「2022年2月のNat Biomed Eng」論文
「2022年2月のNat Biomed Eng」論文の書誌情報を以下に示す。2022年5月24日現在、撤回されていない。
- Synergistic checkpoint-blockade and radiotherapy-radiodynamic therapy via an immunomodulatory nanoscale metal-organic framework.
Ni K, Xu Z, Culbert A, Luo T, Guo N, Yang K, Pearson E, Preusser B, Wu T, La Riviere P, Weichselbaum RR, Spiotto MT, Lin W.
Nat Biomed Eng. 2022 Feb;6(2):144-156. doi: 10.1038/s41551-022-00846-w. Epub 2022 Feb 21.
補足図9は既に示したので、それ以外を以下に示す。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/6E534327AAA4121FEB31E0A8160F2E
――――――――――以下は補足図10
――――――――――以下は補足図17
――――――――――以下は補足図22
――――――――――他にも複数あるが、省略
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年5月24日現在、パブメド(PubMed)で、カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)の論文を「Kaiyuan Ni [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2013~2021年の9年間の40論文がヒットした。
ウェンビン・リン教授(Wenbin Lin)との共著論文は28報あった。
2022年5月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年5月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでカイエン・ニ(Kaiyuan Ni)を「Kaiyuan Ni」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年5月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)の論文のコメントを「Kaiyuan Ni」で検索すると、10論文にコメントがあった。
2018~2022年(25~29歳?)の5年間の10論文で、全部、カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)が第一著者で、ウェンビン・リン教授(Wenbin Lin)が最後著者である。
●7.【白楽の感想】
《1》ネカト常習者?
画像の重複使用(データねつ造)である。
「2022年2月のNat Biomed Eng」論文の1報だけでも、複数の重複使用がある。ビックのタイプⅢ重複使用である。「間違えた」レベルではありえない。 → 7-96 ビックの画像不正基準 | 白楽の研究者倫理
カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)は、2013~2021年の9年間に40論文も出版している。
その大部分にネカトがあるに違いない。
ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」
《2》誠実で無能
カイエン・ニ(Kaiyuan Ni)の院生時代に指導教授だったシカゴ大学(University of Chicago)のウェンビン・リン教授(Wenbin Lin)は、カイエン・ニのネカトが発覚してからの対応は、隠蔽せず、誠実で、迅速だった。
しかし、5年間も院生として育てて、院生・カイエン・ニの論文を28報も共著で出版し、他人が画像の重複使用を指摘できたのに、指導教授としててのネカトを見抜けないのは、無能である。責任を問われるかどうかわからないが、落ち度はあった。
「無能」という言葉は強いので、最初、「不注意」と書いたが、「注意が足りなかった」というレベルではない。
もちろん、他の共著、査読者も不注意、イヤイヤ、無能と批判されるレベルである。
http://lingroup.uchicago.edu/news.html https://archive.ph/wip/x2IaJ
https://www.researchgate.net/profile/Kaiyuan-Ni https://archive.ph/Zuo0d
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2022年3月11日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Authors request retraction of study in Nature journal and look into four more papers – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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