エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)(米)

2024年12月5日掲載 

ワンポイント:マスリアはNIH・国立老化研究所・部長でアルツハイマー病とパーキンソン病など神経変性疾患の大物研究者でかつ政策決定者でもある。2022年12月(63歳)、データ疑惑がもたれ、2024年9月26日(65歳)、NIHがクロと発表した。マスリア本人がネカト実行者とは思えないが、1997~2023年の27間の132論文に画像不正操作があり、米国のメディアは大騒ぎ。マスリアはNIH部長を辞任。パブピア(PubPeer)で130論文が疑惑視されているが、撤回論文数はまだ4報しかない。研究公正局は調査中。神経変性疾患関係の膨大な研究費が無駄になった。国民の損害額(推定)は1兆円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah、ORCID iD:?、写真出典)は、両親はイスラエル系で、本人はメキシコで育ち、メキシコで医師免許を取得した。米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校の教員を27年間勤め、2016年(57歳)、米国のNIH・国立老化研究所・神経科学部・部長になった。専門は神経科学(アルツハイマー病とパーキンソン病)である。

マスリアはNIH・国立老化研究所・神経科学部・部長でアルツハイマー病とパーキンソン病の大物研究者である。

米国のこの分野の多額の研究費を得ているだけでなく、政策決定者の1人なので、神経変性疾患の米国政府の研究費配分にも大きな影響力を持っていた。

2022年12月(63歳)、コロンビア大学のネカトハンターであるムー・ヤン(Mu Yang)がマスリア論文の画像不正を指摘した。

直ぐに、チェシャー(Cheshire)、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)も、マスリア論文の画像不正を指摘した。

2023年5月(64歳)、マスリアの論文にネカト疑惑があるとの告発を受けた研究公正局(ORI)は、NIHに通知した。

2024年9月15日(65歳)、NIHは本調査を終え、クロと認定し、研究公正局(ORI)に伝えた。

1997~2023年の27間に発表したマスリアの132論文に画像不正がある、と米国のメディアは大騒ぎした。

マスリアはNIH部長を辞任した。

神経変性疾患関係の膨大な研究費が無駄になる可能性が大きい。

2024年12月4日現在、パブピア(PubPeer)で130論文にコメントがあるが、撤回論文数はまだ4報である。

マスリア本人がネカト実行者とは思えないが、研究公正局は調査中である。

多数の日本人が共著者になっている。

NIH(Aerial view of the Clinical Center (Building 10), NIH Campus, Bethesda, MD)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:メキシコ
  • 医師免許(MD)取得:メキシコのメキシコ国立自治大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。2024年に65歳なので
  • 現在の年齢:65 歳?
  • 分野:神経科学
  • 不正論文発表:1997~2023年(38~64歳)の27年間
  • ネカト行為時の地位:カリフォルニア大学サンディエゴ校・教授、NIH・国立老化研究所・部長
  • 発覚年:2022年(63歳)
  • 発覚時地位:NIH・国立老化研究所・部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのムー・ヤン(Mu Yang)で、「パブピア(PubPeer)」で指摘
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「Science」、「GIGAZINE」、「For Better Science」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①NIH・調査委員会。②「Science」が依頼した調査班。③研究公正局
  • 大学/研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。NIHの簡単なプレスリリースあり
  • 大学/研究所の透明性:実名報道で機関もウェブ公表(含・研究公正局でクロ判定)(〇)[機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)]
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:パブピア(PubPeer)」で130論文が疑惑だが、撤回論文数はまだ4報
  • 時期:研究キャリアの中期・後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:調査中なので未定
  • 対処問題:調査中なので未定
  • 特徴:米国の医学研究政策に大きな影響力のある人の長期にわたる多数論文のネカト
  • 日本人の弟子・友人:多数の日本人と共著論文がある。岩坪 威(IWATSUBO Takeshi、東京大学・教授、共著論文:Eliezer Masliah [Author] AND Takeshi Iwatsubo [Author] – Search Results – PubMed

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1兆円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Eliezer Masliah Wikipedia, Biography, Age, Nationality, Education, Career, Research Misconduct, Wife, Family, Net Worth

  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。2024年に65歳なので。イスラエル系
  • 1982年(23歳):メキシコのメキシコ国立自治大学(National Autonomous University of Mexico (UNAM))で医師免許取得
  • 1982~1986年(23~27歳):メキシコの国立健康研究所(National Institutes of Health in Mexico City)で研修医:病理学。この時、メキシコ国立自治大学で医学生だった米国人女性と結婚し、研修終了後、米国のサンディエゴに引っ越した
  • 1986~1989年(27~30歳):米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)・ポスドク。ボスはRobert Terry https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad190518
  • 1990~2016年(31~57歳):同校・教員。助教授 → 準教授 → 正教授と思われる
  • 1997~2023年(38~64歳):この27年間の132論文がネカト疑惑
  • 2016年(57歳):米国のNIH・国立老化研究所(National Institute on Aging)・部長
  • 2022年12月(63歳):研究不正が発覚
  • 2023年5月(64歳):NIHがネカト調査開始
  • 2024年9月(65歳)以前:NIH部長ではない。降格、または、NIHを辞職(解雇?)?
  • 2024年9月26日(65歳):NIHがネカト調査終了し、研究不正ありと発表

●3.【動画】

【動画1】
◎エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)を含め、アルツハイマー病研究でのインチキ科学の説明動画:「SCIENTIFIC FRAUD SETS ALZHEIMER’S SCIENCE BACK YEARS」(英語)25分55秒。2024/11/1に公開

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以下は事件の動画ではない。

【動画2】
「マスリア」と紹介。
講演動画:「DC CFAR – Dr. Eliezer Masliah “My Path to Independence in HIV Research” Joint Seminar – YouTube」(英語)53分48秒。
DC CFAR(チャンネル登録者数 29人) が2024/09/17に公開

【動画3】
インタビュー動画:「Advancing Research on Neurodegenerative Disease with Eliezer Masliah – On Our Mind – YouTube」(英語)20分06秒。
University of California Television (UCTV)(チャンネル登録者数 133万人) が2016/03/11に公開

【動画4】
解説動画:「The First Survivors of Alzheimer’s – YouTube」(英語)4分25秒。
CBN News(チャンネル登録者数 212万人) が2024/06/13に公開

●4.【日本語の解説】

★2024年9月30日:著者名不記載(Gigazine):著名神経科学者でアメリカ国立老化研究所の部門長でもあるエリーザー・マスリアの論文に画像偽造の疑い、アルツハイマー病とパーキンソン病で世界中で引用されまくる論文に疑惑

出典 → ココ、(保存版) 

アメリカ国立衛生研究所(NIH)の27の研究センターのひとつであるアメリカ国立老化研究所(NIA)で部門長を務め、神経科学分野の権威として知られる著名学者のエリーザー・マスリア氏の数百本にもおよぶ論文で、画像が偽造された可能性があると科学誌のScienceが指摘しています。

続きは、原典をお読みください。

★2024年10月5日:榎木英介(フリーランス病理医・科学ジャーナリスト賞受賞者)(Note):大量論文撤回へ?神経科学権威エリーザー・マスリア疑惑

出典 → ココ、(保存版) 

今新たな「大量撤回」の予兆が出ている。

それが神経科学者エリーザー・マスリア氏に関する疑惑だ。サイエンスが大きく取り上げ、gigazineも記事にしている。

続きは、原典をお読みください。

★2024年10月6日:著者名不記載(crisp_bio):アルツハイマー病 (AD) とパーキンソン病 (PD)の大御所の研究不正がもたらす激震

出典 → ココ、(保存版) 

米国国立衛生研究所 (National Institutes of Health: NIH)は、Eliezer Masliah医学博士に対し、2つの研究論文において、異なる実験結果を表す図を構成するパネルにおいて、再使用 (re-use) およびラベルの貼り替え (relabel) を伴う改竄および/または捏造を行ったとして、研究不正行為を認定した。NIHは、然るべき処置がとられるように、2つの学術雑誌にこの調査結果を通知する。

続きは、原典をお読みください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

2016年、米国・議会がアルツハイマー病研究に新たな資金を投入した。「アルツハイマー病研究の黄金時代」が到来したのだ。 → Alzheimer’s News, 6/6/2016 | Alzheimer’s Association

NIH・国立老化研究所(National Institute on Aging)は、ベテランの脳研究者であるエリーザー・マスリア(Eliezer Masliah、写真出典)をこの取り組みの主要なリーダーとした。

図をクリックすると動画開始。出典:https://www.technologynetworks.com/neuroscience/videos/the-us-national-plan-to-address-alzheimers-with-eliezer-masliah-331367

マスリアは、NIH・国立老化研究所・神経科学部門の部長で、彼が大きな決定権を持つ米国の神経疾患の研究予算は巨額である。2023年は26億ドル(約2, 600億円)もあった。

マスリアは神経疾患の研究と治療に多大な影響力を持つようになった。

Dimensions Analyticsの分析によると、マスリアはアルツハイマー病とパーキンソン病に関連する主要なトピックの論文数と被引用数で世界の上位10以内に入っていた。しかも、「synuclein」と「synapse」という用語を使った論文を含め多くの場合、1位にランクインしていた。つまり、世界トップクラスの大物研究者だった。

★獲得研究費

エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)は、NIH部長の就任する前、カリフォルニア大学サンディエゴ校に在職していた。その時はNIHグラントを獲得していたが、NIH部長に在職してからは当然ながら、NIHグラントは獲得していない。

それで、使用研究費総額は不明である。

しかし、上記したように、2023年は26億ドル(約2,600億円)という巨額な研究費を差配していたので、使用していた研究費も巨額だと思われる。

一応、獲得したNIHグラントのサイトでは、1991~2023年の33年間で49件、16,236,785ドル(約16億円)を受給したとある。このグラントには、代表者ではないグラントも入っている。 → RePORT ⟩ Eliezer Masliah

★発覚の経緯

2022年12月(63歳)、コロンビア大学の神経生物学者ムー・ヤン(Mu Yang、パブピア名はDysdera arabisenen)は、マスリアの複数の論文に画像の重複使用があると指摘した。

以下3例示す。

―――「2021年5月のNeurobiol Aging」論文 ―――

以下の画像出典:https://pubpeer.com/publications/09355061E0D0EE4BA8B4D3710D12C0
赤枠内が複製画像。

――― 「2022年9月のMol Neurodegener」論文 ―――
以下の画像出典:https://pubpeer.com/publications/8C0194022EFF3652F36C2964A88C0B

――― 「2016年12月のBrain」論文 ―――
以下の画像出典:https://pubpeer.com/publications/42A577D665DB61D56F50D47C6E10E2

―――――

2023年1月(64歳)、ムー・ヤン(Mu Yang)が指摘してから1か月も経たないうちに、チェシャー(Cheshire)、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)もマスリアの論文の画像に異常があると指摘した。 → 2023年1月30日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:< The potential problems of Eliezer Masliah – For Better Science

チェシャー(Cheshire)が指摘した「2018年12月のSci Rep」論文の以下の画像複製は芸術的でもある。切り貼りしたパッチワークと枠の色が美しい。
以下の画像出典:https://pubpeer.com/publications/F8DE040568011AAAD204B7F4B3AE2C

★NIHが調査開始、「Science」誌も調査

ムー・ヤン(Mu Yang)、チェシャー(Cheshire)、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の誰か、あるいは3人とも、が告発したと思われるが、研究公正局(ORI) はマスリアの論文にネカト疑惑があるとの告発を受け取った。

2023年5月(64歳)、告発を受けた研究公正局(ORI)は、NIHに通知した。

2023年5月(64歳)、NIHは調査の検討を始めた。NIHのどの部署の誰が担当したのかはわからないが、研究公正局(ORI)とは別の部署が検討している。

2023年12月(64歳)、NIHは本調査を始めた。

2024年9月15日(65歳)、NIHは本調査を終え、クロと認定し、研究公正局(ORI)に伝えた。

2024年9月26日(65歳)、チャールズ・ピラー記者(Charles Piller)の「Science」記事は、「Science」誌が主導した調査で、マスリアのネカト疑惑を解説した。

「Science」誌が主導した調査では、コロンビア大学の神経生物学者ムー・ヤン(Mu Yang)、ヴァンダービルト大学の神経科学者マシュー・シュラグ(Matthew Schrag)、独立系のケビン・パトリック(Kevin Patrick、仮名はチェシャー“Cheshire”)など、ネカトハンティングのつわものを含め11人が無料で調査に協力した。

なお、その少し前、「Science」誌は別の神経科学者・ベリスラフ・ズロコビッチ(Berislav Zlokovic)のネカト調査を主導したので調査チームの基盤ができていた。 →  ベリスラフ・ズロコビッチ(Berislav Zlokovic)(米) | 白楽の研究者倫理

マスリア論文に対する調査文書は286ページの大部になり、1997~2023年の27間わたるマスリアの132論文に画像不正操作がある、と指摘した。

マスリアはこれらのすべての論文に著者になっている唯一の人物である。

ネカトの直接の行為者はマスリアではないかもしれないが、著者としての責任があり、統括者としての責任は大きい。

マスリアの下で長年働いてきたカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の神経科学者エドワード・ロッケンスタイン(Edward Rockenstein、写真右出典)は、疑問視された画像を含む91報の論文の共著者である。91報のうち11報は筆頭著者だった。なお、彼は2022年6月17日に57歳で亡くなった。

また、神経科学者のロバート・リスマン(Robert Rissman、写真左出典)は、疑問視された論文のうち16報の論文の共著者である。16報のうち7報は上級著者だった。

このような共同研究者が直接の不正行為者だと思われるが、調査結果が公表されないと、わからない。

★神経変性疾患

マスリアの疑惑論文はアルツハイマー病とパーキンソン病、特にαシヌクレインタンパク質(alpha-synuclein protein)の重要な研究に関係していた。

臨床試験に影響を与えた論文も疑惑視されている。

例えば、パーキンソン病の治療薬であるプラシネズマブ(prasinezumab)の基礎となる論文はマスリアの疑惑論文をベースにしている。アルツハイマー病の治療薬であるセレブロリジン(cerebrolysin)もマスリアの疑惑論文をベースにしている。

「2022年8月のN Engl J Med」論文は、パーキンソン病患者316人を対象とした臨床試験で、プラシネズマブはプラセボと比較して治療効果が認められないと報告した。 → Trial of Prasinezumab in Early-Stage Parkinson’s Disease | New England Journal of Medicine

なお、2024年9月時点で、マスリアはNIH・アメリカ国立老化研究所(National Institute on Aging)の神経科学部門の部長ではない。辞職した(解雇された?)と思われる。

今後、研究公正局(ORI)が追加調査をし、正式にクロと発表すると思われる。

【ねつ造・改ざんの具体例】

撤回論文は今のところ4報で、「パブピア(PubPeer)」での疑惑論文は130報ある。

2024年9月26日のNIHの発表では、2論文でデータねつ造・改ざんがあると報じた。しかし、その2論文の書誌情報を示していないので、どの論文なのか、わからない。

内容は論文の異なる実験結果を表す図が、ラベルを変えて再利用された。この操作は不注意な間違いや出版過程でのミスなどでは説明できない。

前節でいくつか問題画像を示したが、ここでも、2報の問題画像を、以下に示す。

★「2010年8月のNeuroscience」論文

「2010年8月のNeuroscience」論文の書誌情報を以下に示す。2024年12月4日現在現在、撤回されていない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/92BB00C9512EE556EB6153A32F4590

―――――以下は図4Gと4H―――――

赤枠内が複製画像。

★「2010年8月のNeuroscience」論文

「2005年6月のNeuron」論文の書誌情報を以下に示す。2024年12月4日現在現在、撤回されていない。6番目の著者「Hashimoto M」はハシモト・マコトである。日本の経歴は調べていない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/AEDCEA87FEA7DC7FB73C10171A4E17

―――――以下は図5C ―――――

同じ色枠内は複製画像。

―――――以下は図5D ―――――

同じ色枠内は複製画像。

―――――以下は図1G ―――――

同じ色枠内は複製画像。

―――――以下は図6 ―――――

PとRが同じ。
QはPの各染色なのに、図形は別もの。

―――――上記の図以外にも、この論文の他の画像に問題が指摘されている。白楽が省略した。 ―――――

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2024年12月4日現在、パブメド(PubMed)で、エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)の論文を「Eliezer Masliah [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2001~2024年の24年間の638論文がヒットした。

「Masliah E」で検索すると、1986~2024年の39年間の1,070論文がヒットした。

2024年12月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、4論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2024年12月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでエリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)を「Eliezer Masliah」で検索すると、0論文が撤回されていた。

2007~2011年出版された論文が2018年6月に2報、2020年1~3月に6報、撤回されていた。「2001年11月のBlood」論文が2009年3月に、.「2009年のAm J Physiol Cell Physiol」論文が2009年12月に、撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2024年12月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)の論文のコメントを「”Eliezer Masliah”」で検索すると、130論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》長年・多量のネカト 

エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah、写真出典)のネカトは、1997~2023年の27間わたる132論文の数百枚の画像に不正操作がある。

マスリアはNIH・国立老化研究所・部長でアルツハイマー病とパーキンソン病の大物研究者である。

誰がネカト実行者なのか、現時点では不明である。マスリア本人かもしれない。

単純な疑問だが、誰がネカト実行者であっても、どうしてこんなに長年、多量の論文の膨大な画像のネカトに、誰も気付かなかったのか?

推測だが、多分、気付いた人はいた。気付いていたと言う人もいる。

この場合、気付いても、マスリア研究室の室員や元室員は告発できない・しない・したくない状態だったということだろう。

《2》防ぐ方法

マスリア事件では、研究公正局の発表はないし、NIHの発表は事件経過を書いていないので、マスリアがどうして「研究上の不正行為」をしたのか、し続けたのか、不明である。

それで、白楽は、防ぐ方法を考えるのを保留する。

ただ、マスリアは、長年、多量の論文でネカトをしていた。

別の事件で書いたが、ネカトを初期段階で見つけて処分しておけば、①改心して、以後、不正をしない。②あるいは、不正者はあまり出世しないので不正行為の影響が少ない。のどちらかになった公算が高い。

「研究上の不正行為」は、知識・スキル・経験が積まれると、なかなか発覚しにくくなるし、不正行為の影響が大きくなる。

マスリア事件は、上記が当てはまる事件に思える。

病気と同じで早期発見・早期治療。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Eliezer Masliah – Wikipedia
② 2023年1月30日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:< The potential problems of Eliezer Masliah – For Better Science
③ 2024年9月26日の著者名不記載のNIH「News Releases」記事:Statement by NIH on Research Misconduct Findings | National Institutes of Health (NIH)
④ 2024年9月26日のチャールズ・ピラー記者(Charles Piller)の「Science」記事:Did a top NIH official manipulate Alzheimer’s and Parkinson’s studies for decades? | Science | AAAS
⑤ 2024年9月26日のダレン・インコルヴァイア記者(Darren Incorvaia)の「Fierce」記事:NIH leader’s research misconduct calls drugs into question
⑥ 2024年9月29日の著者名不記載の「TechVoyager」記事:Eliezer Masliah Wikipedia, Biography, Age, Nationality, Education, Career, Research Misconduct, Wife, Family, Net Worth
⑦ 2024年9月30日のミーガン・ブルックス記者(Megan Brooks)の「medscape」記事:Prominent Neuroscientist Fired Over Alleged Misconduct
⑧ 2024年9月30日の著者名不記載の「GIGAZINE」記事:日本語版から翻訳:Suspicion of image falsification in a paper by renowned neuroscientist and director of the National Institute on Aging, Eliezer Masria, raises doubts about a highly cited paper on Alzheimer’s and Parkinson’s disease – GIGAZINE
⑨ 2024年10月8日のムー・ヤン記者(Mu Yang)の「For Better Science」記事:Cerebrolysin: Sharmas, Masliah, and EVER Pharma – For Better Science
⑩ 2024年10月17日のサラ・リアドン記者(Sara Reardon)の「ALZFORUM」記事:Takeshi Iwatsubo のコメントあり:Data Fabrication Ousted NIA Neuroscience Director Eliezer Masliah | ALZFORUM
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。