化学:ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)、ブルース・イートン(Bruce Eaton)、リナ・ググリオッティ(Lina Gugliotti)(米)

2020年12月5日掲載 

ワンポイント:ノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)・化学科の院生のググリオッティが第一著者で、「2004年のScience」論文を出版した。論文出版後、同学科に赴任したステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)が研究プロジェクトに参加し、「2004年のScience」論文のデータねつ造・改ざんに気がつき、大学に通知した。2008年、共著者だったフェルドハイムとイートンの2人はコロラド大学ボルダー校に移籍した。それで、ノースカロライナ州立大学とコロラド大学ボルダー校がネカト調査し、また、科学庁(NSF)からグラントを得ていたので、科学庁(NSF)が管轄した。しかし、2016年1月、ジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者が記事にするまでの12年間、事件は公表されなかった。「2004年のScience」論文は2016年2月5日に撤回された。また、ノースカロライナ州立大学とコロラド大学ボルダー校の調査はひどくズサン、科学庁(NSF)の対処もヘンだった。なお、ネカト処理のズサンさをチェックするシステムは現在の米国にはない。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim、Daniel L. Feldheim、Dan Feldheim、ORCID iD:?、写真中央出典)は、米国のノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)・化学科(Department of Chemistry)・教授で、専門はナノ化学だった。

フェルドハイム事件は、「2004年のScience」論文のデータねつ造・改ざん事件である。科学庁(NSF)が事件を管轄した。フェルドハイムは、NIHからもグラントを受領しているので生命科学系の研究者でもあるが、「自然科学・工学のネカト・クログレイ事件」として扱った。

フェルドハイムが主犯とされたので、フェルドハイムを中心に記述するが、関係した2人は以下のようだ。

ブルース・イートン(Bruce Eaton)(上記写真左)は教授で、「2004年のScience」論文の責任著者。

リナ・ググリオッティ(Lina Gugliotti)(上記写真右)は、院生で、問題の「2004年のScience」論文の第一著者だった。博士論文もネカト論文と思われるが、博士号は剥奪されなかった。米国以外の国から米国に来たと思われる。

フェルドハイム事件の発覚と経過は以下のとおりである。

  • 2004年、論文出版後、赴任したステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)が同じフェルドハイムらの研究プロジェクトに参加した。
  • 2006年、研究プロジェクトに参加したフランゼン教授が、「2004年のScience」論文のデータねつ造・改ざんに気がつき、ノースカロライナ州立大学に通報した。
  • 2008年、ノースカロライナ州立大学はネカト調査をし、調査報告書をまとめた。
  • 2008年12月、フェルドハイムとイートンはコロラド大学ボルダー校に移籍した
  • 2013年9月24日、科学庁(NSF)・監査総監室は調査報告書をまとめた。
  • 2015年9月、科学庁(NSF)は、処分を含めた結論を下した。

この事件の大きな特徴は、フランゼン教授がネカト通報してから12年間、上記のことは世間に全く知られていなかった。つまり、秘匿されていたことだ。

2016年1月8日、ジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者が新聞記事に発表して、初めて世間が知ることとなったのだ。

ネフ記者が記事にしたので、「2004年のScience」論文は2016年2月5日にようやく撤回された。

もう1つの特徴は、調査・処分を担う「当局・オーソリティ」の調査や処理の目に余るいい加減さである。

ノースカロライナ州立大学は実験ノートを調査しなかった。また、コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)はノースカロライナ州立大学が「免罪」したと勝手に思い込むなど、両大学の調査は基本的な部分からズサンだった。

さらに科学庁(NSF)も、大きな批判を浴びる対応をした。

ノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)・化学科(Department of Chemistry)。写真出典

ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)、ブルース・イートン(Bruce Eaton)、リナ・ググリオッティ(Lina Gugliotti)の3人分をまとめて記述する。

  • 国:米国
  • 分野:ナノ化学
  • 不正論文発表:2004年
  • 発覚年:2004年
  • 発覚時地位:ノースカロライナ州立大学化学科の教授2人と院生1人
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はノースカロライナ州立大学・化学科のステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)で約12年間も追及した
  • ステップ2(メディア):「Raleigh News & Observer」新聞のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者の功績が大きい。「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ノースカロライナ州立大学・調査委員会。②コロラド大学ボルダー校・調査委員会。③科学庁(NSF)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。科学庁(NSF)・監査総監室の報告書あり → https://www.nsf.gov/oig/case-closeout/A06110054.pdf
  • 大学の透明性:実名報道だが大学のウェブ公表なし(△)[大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)](科学庁(NSF)はシロ判定)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:科学庁(NSF)の生涯締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)について記述した。
主な出典:(1):Daniel Feldheim – 1999 Young Investigator Award、(保存版)、(2):Dan Feldheim | Chemistry and Biochemistry | University of Colorado Boulder

  • 生年月日:不明。仮に1967年1月1日生まれとする。1989年に大学を卒業した時を22歳とした
  • 1989年(22歳?):サンノゼ州立大学(San Jose State University)で学士号取得:化学
  • 1995年(28歳?):コロラド州立大学(Colorado State University)で研究博士号(PhD)を取得:化学。指導教授:Prof. C. Michael Elliott
  • 1995-1997年(xx歳):ペンシルバニア州立大学(Pennsylvania State University)・ポスドク。ボス:Prof. Thomas Mallouk
  • 1997年(30歳?):ノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)・教員
  • 2004年(37歳?):後で問題視される「2004年のScience」論文を出版
  • 2006年(39歳?):不正研究が発覚する
  • 2006年12月(39歳?):ノースカロライナ州立大学・内部調査を開始
  • 2008年6月(41歳?):ノースカロライナ州立大学・内部調査でデータ改ざんだが研究不正ではないと結論
  • 2008年(41歳?):科学庁・監査総監室が調査を開始
  • 2008年12月(41歳?):コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)に移籍
  • 2013年9月(46歳?):科学庁・監査総監室が調査報告書を完成
  • 2015年9月(48歳?):科学庁(NSF)が生涯締め出す処分を科した
  • 2016年11月(49歳?):コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)・教授に在籍していた(Dan Feldheim | Chemistry and Biochemistry | University of Colorado Boulder
  • 2020年12月4日(53歳?):所属不明。コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)に在籍していない(Dan Feldheim | Chemistry and Biochemistry | University of Colorado Boulder

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★ブルース・イートン(Bruce Eaton):(1):Bruce Eaton – Colorado | about.me、(2):Bruce Eaton Phd | Longtime Pharmaceutical Executive Bruce Eaton

省略

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★リナ・ググリオッティ(Lina Gugliotti)

省略

●3.【動画】

【動画1】
ステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)の事件説明動画:「NCSU professor vindicated in claim that colleagues built big research project on false foundation」(英語)3分08秒。
以下の記事の動画をクリック
 → 2016年1月8日のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者の「Raleigh News & Observer」記事:Former NCSU scientists reprimanded, lose future funding over ‘misleading’ research | Raleigh News & Observer

以下は事件の動画ではない。

【動画2】
自分の研究紹介動画:「Dan Feldheim: Explorations Phase II – YouTube」(英語)2分11秒。
Grand Challengesが2013/02/07に公開

●4.【日本語の解説】

以下は事件の解説ではない。

★2003年11月26日:黒川 卓:「米North Carolina州立大の学際研究チーム,ボトムアップで新型トランジスタの設計を進める」

出典 → ココ、(保存版) 

米North Carolina州立大学化学科教授のChris Gorman氏らは,学際的な研究チームを結成し,分子を用いてナノスケールトランジスタを作る研究を進めている。ナノスケールトランジスタは非常に小さいため,走査トンネル顕微鏡などでしか観察することができない。特徴は,「ボトムアップ」技術を積極的に活用しようとしていることである。「我々は,分子を組み立てていくことをテーマとしており,きちんと機能するトランジスタをできるだけ少数の分子で作ることを目指している。」と同氏は話す。

学際的研究チームの主要メンバーは,Gorman氏,化学科准教授のDaniel L. Feldheim氏,化学工学科教授のGregory N. Parsons氏である。Gorman氏のボトムアップアプローチとParsons氏のトップダウンエンジニアリングを融合させてナノスケールトランジスタの開発を進める。Parsons氏は微小なくぼみを持った分子基板の作製を目指し,一方でGorman氏とFeldheim氏の研究チームは,Parsons氏が作製する分子基板に分子「プラグ」を差し込む。その結果得られる構造が,電子スイッチ,すなわちトランジスタとして機能すると期待しているのである。

続きは、原典をお読みください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究費を得る優秀な研究者

ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)は優秀な研究者で、1998~2019年に科学庁(NSF)のグラントを8件受領した(Grantome: Search: Daniel Feldheim )。なお、2005年のグラントでは、フェルドハイムのネカトを追求した同僚のステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)が共同研究者になっている(フランゼン教授を赤色で示した)。

後述するように、科学庁(NSF)と揉め事を起こした。その後、NIHから2011~2017年に5件のグラントを受領している。

★発覚の経緯

ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim、写真中央出典)、ブルース・イートン(Bruce Eaton、写真左)、リナ・ググリオッティ(Lina Gugliotti、写真右)は、ノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)に所属していた時、以下の「2004年のScience」論文を発表した。

この論文は、以下の図に示すように特定のRNAを触媒にするとパラジウムのナノ結晶を作れる、という革新的な論文だった(写真出典:Credit: Adapted from Science)。

作成されたパラジウムのナノ結晶(写真出典:Science/AAAS)

論文は、結局、2016年2月5日に撤回されたのだが、撤回に至る物語は、2016年1月8日のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者が以下の記事にするまで、秘匿され、世の中には知られていなかった。 → 2016年1月8日のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者の「Raleigh News & Observer」記事:Former NCSU scientists reprimanded, lose future funding over ‘misleading’ research | Raleigh News & Observer

【論文撤回に至る物語】

2004年、ステファン・フランゼン(Stefan Franzen、写真出典)は、「2004年のScience」論文が出版された後、ノースカロライナ州立大学・化学科の教授に就任し、100万ドル(約1億円)の研究費を携えて、フェルドハイムらの研究プロジェクトに参加した。

フランゼン教授が加わった研究計画で、フェルドハイムとイートンは科学庁(NSF)とエネルギー省から約70万ドル(約7000万円)の研究費を獲得した。

2006年、フェルドハイムらの研究プロジェクトに参加したので、フランゼン教授は自分なりに研究計画を立てていくのだが、直ぐに、「2004年のScience」論文のデータがおかしいと気がついた。それで、ノースカロライナ州立大学にねつ造・改ざんだと告発した。その後、この闘争は、ナント、10年にわたる闘争になった。

フランゼン教授は研究プロジェクトから離脱したいとノースカロライナ州立大学に訴えたが、大学は、巨大な研究資金を失うことを恐れ、離脱を認めなかった。

しかし、フランゼン教授は「2004年のScience」論文のデータねつ造・改ざんを訴え続けた。

★ノースカロライナ州立大学の調査と結論

2006年12月、ノースカロライナ州立大学はネカト調査を開始した。

2008年6月、18か月の調査の結果、ノースカロライナ州立大学は「2004年のScience」論文に改ざんデータがあると結論した。しかし、フェルドハイムはデータが改ざんされていることを不注意にも見逃しただけで、大学としては、研究不正行為と呼ぶレベルに達していない、と結論した。

★科学庁・監査総監室(NSF、OIG)の調査と結論とコロラド大学ボルダー校の調査

「2004年のScience」論文は科学庁(NSF)からの研究助成を受けていた研究だったので、科学庁・監査総監室(NSF、OIG:Office of Inspector General)がネカト調査の管轄だった。

2008年、ノースカロライナ州立大学の調査報告を受け、科学庁・監査総監室はネカト調査を開始した。

2008年12月、イートンとフェルドハイムはノースカロライナ州立大学からコロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)に移籍した。それで、2人は、ノースカロライナ州立大学時代に出版した「2004年のScience」論文のネカト問題は、調査が終了し、不正なしと結論され、免罪されたと解釈した。

2013年9月24日、調査開始の5年後、科学庁・監査総監室はようやくネカト調査報告書をまとめた。

以下は2013年9月24日の科学庁・監査総監室・報告書の2 頁目の冒頭部分(出典:同)。全文は44頁 → https://www.nsf.gov/oig/case-closeout/A06110054.pdf

科学庁・監査総監室は上記の2013年9月24日の報告書で「データ改ざんをした」と結論し(以下出典)、3年間の締め出す処分を科すと結論し、科学庁の上層部に勧告した。

なお、この2013年の報告書では、驚くようなことが記載されている。

ノースカロライナ州立大学でネカト調査が開始された後、ノースカロライナ州立大学・調査委員会、そして、フェルドハイムとイートンも、「2004年のScience」論文の実験記録が記載されているハズのググリオッティの実験ノートを全く調べていなかった。

フランゼン教授はノースカロライナ州立大学にググリオッティの実験ノートの閲覧を要求したが、ノースカロライナ州立大学は拒否した。それで、フランゼン教授は私費の1,000ドル(約10万円)で弁護士を雇い、法的に請求し、ググリオッティの実験ノートの閲覧に成功した。

フランゼン教授は、「RNAによって作られたパラジウム結晶と称する一連の画像が重要でした。実験ノートでは、結晶は室温で分解したと記載していました。ところが、科学的事実として、パラジウムの融点は華氏2,831度です。金やプラチナと同様に、室温でも分解・劣化しないことが知られています」と問題点を指摘した。

コロラド大学ボルダー校の調査にはさらに多くの問題があった。例えば、ノースカロライナ州立大学はフェルドハイムとイートンを「免罪」したと、コロラド大学ボルダー校は誤解していた。実際は、「免罪」していない。事実として、ノースカロライナ州立大学はフェルドハイムがデータ改ざんをしていたと述べていたのにである。

また、コロラド大学ボルダー校は主要なネカト目撃者に連絡し状況を把握することをしていなかった。さらに、フェルドハイムとイートンが論文を訂正するという約束を受け入れたと述べたが、彼らはそれを行なっていなかった。

なお、コロラド大学ボルダー校の調査はアラン・フランクリン物理学教授(Alan Franklin、写真出典)が主導した。

フランクリン教授は「正当な理由もなくネカトと告発し、イートンとフェルドハイムに大きな被害を与えた」と記者に答えている。(白楽注:フランクリン教授はまともな調査もしないで、フェルドハイムらをシロと決めつけ、とんでもない判断をしている)。

★科学庁(NSF)の結論

2015年9月、科学庁(NSF)は、自分の組織である科学庁・監査総監室が調査し結論した処分よりも大きく後退した判断を下した。つまり、データねつ造・改ざんではなかったとしたのだ。

具体的には、2008年のノースカロライナ州立大学の調査結果「フェルドハイムは不注意にも改ざんデータを見逃しただけで研究不正行為と呼ぶレベルに達していない」、に同意した。

科学庁(NSF)の決定は、科学庁(NSF)の最高執行責任者(chief operating officer)のリチャード・ブッキュース(Richard O. Buckius – Wikipedia、写真出典)が下した判断だ。

但し、「2004年のScience」論文にネカトがないという証明をしない限り、イートン、フェルドハイム、ググリオッティの3人を、科学庁(NSF)の研究費申請から生涯締め出す処分を科すと通知した。

★上記の顛末

上記の顛末は、前述したように、2016年1月8日、ジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者が新聞記事に発表するまで社会に知られていなかった。大学と科学庁(NSF)は隠蔽していた。

【ねつ造・改ざんの具体例】

2008年のノースカロライナ州立大学の調査報告書は公表されていない。

2013年9月24日の科学庁・監査総監室・報告書は公表されているが、黒塗りが多く、肝心のデータも図も黒塗りされていて、ねつ造・改ざんされた図を具体的に示せない。

つまり、何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表を見ることはできない。

また、「2004年のScience」論文は閲覧有料なので、白楽は見ていない。

パブピアでも問題図を提示していない。

仕方がないので、今回は、「なし」。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

フェルドハイムが主犯とされたので、フェルドハイムを中心に記述した。

★パブメド(PubMed)

2020年12月4日現在、パブメド( PubMed )で、ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)の論文を「Daniel Feldheim [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の32論文がヒットした。

「Feldheim DL [Author]」で検索すると、2001~2017年の17年間の32論文がヒットした。

2020年12月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2004年のScience」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2020年12月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)を「Feldheim」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、本記事で問題にした「2004年のScience」論文・ 1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年12月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ダニエル・フェルドハイム(Daniel Feldheim)の論文のコメントを「Daniel Feldheim」で検索すると、本記事で問題にした「2004年のScience」論文を含め4論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》科学庁(NSF)の不思議:その1 

科学庁はシッカリした報告書を作っているのに、情報開示を求められ、開示した報告書は、ほとんど黒塗りである。科学庁が公益を無視して、ネカト者をかばい奉仕し、事実を隠蔽している。米国・科学庁は国民側の官庁ではないのかい? まったくいただけません。

隠ぺいしたので、マスメディアは報道しないし、国民に伝わらない。おかしなことがまかり通ってしまった。

科学庁はネカト行為を本当に撲滅しようとしているとは思えない。ネカト者をかばうことは、結局、学術界を腐敗させていることになる。このことが、どうしてわからないのだろう。

もっとも、日本の官庁も似ている面が多々ある。日本のすべての国家公務員は「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し」(国家公務員法  第九十六条)とあるのを、今一度、肝に銘じよ。

《2》科学庁(NSF)の不思議:その2

米国・科学庁(NSF)の行政上の仕組みが、理解し難い。

自分の組織である科学庁・監査総監室が勧告した通りにではなく、「少し」あるいは「大きく」変えて科学庁(NSF)が最終的な結論をした。

以前もそうだったが、監査総監室の勧告が気に入らないなら、監査総監室の室員を交代させるべきだが、そうしない。あるいは、監査総監室の勧告に加わって議論し、科学庁(NSF)として統一的な見解を示すべきだが、そうしない。

今まで、科学庁(NSF)の誰がこの判断をしているのかわからなかったが、今回は、科学庁(NSF)の最高執行責任者(chief operating officer)のリチャード・ブッキュース(Richard O. Buckius – Wikipedia)が判断を下した。

この二重構造、おかしくないか?

《3》マスメディアの重要性

フェルドハイム事件は、「2004年のScience」論文のデータねつ造・改ざん事件である。以下経緯を再掲する。

  • 2004年、論文出版後、赴任したステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)が同じフェルドハイムらの研究プロジェクトに参加した。
  • 2006年、研究プロジェクトに参加したフランゼン教授が、「2004年のScience」論文のデータねつ造・改ざんに気がつき、ノースカロライナ州立大学に通報した。
  • 2008年、ノースカロライナ州立大学はネカト調査をし、調査報告書をまとめた。
  • 2008年12月、フェルドハイムとイートンはコロラド大学ボルダー校に移籍した
  • 2013年9月24日、科学庁(NSF)・監査総監室は調査報告書をまとめた。
  • 2015年9月、科学庁(NSF)は、処分を含めた結論を下した。

しかし、上記のことは発端から12年間、世間に知られていない状態だった。

2016年1月8日、ジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者が新聞記事に発表して、初めて世間が知ることとなったのだ。

この事件では、マスメディアがとても重要な役目を果たした。

しかし、同時に、大学と科学庁(NSF)の極度の隠蔽体質があることも再確認できた。

このような隠蔽ネカト事件が、実は、たくさんあるのではないか? 

早急に、なんらかの法的措置を取らないと、多くのネカト事件は隠蔽され続け、ネカト者がのうのうとはびこり、悪貨が良貨を駆逐し、研究公正は無力なお題目に化していく。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 2011年8月23日のステファン・フランゼン教授(Stefan Franzen)の「Nature News」記事:Acrimony over nanoconstruction : Nature News
② 2014年1月30日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Science hasn’t retracted paper that university, NSF investigators wanted withdrawn – Retraction Watch
③ 2016年1月8日のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者の「Raleigh News & Observer」記事:Former NCSU scientists reprimanded, lose future funding over ‘misleading’ research | Raleigh News & Observer
④ 2016年1月14日のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者の「Raleigh News & Observer」記事:Former NCSU professor says he’ll get by without funding from National Science Foundation | Raleigh News & Observer
⑤ 2016年1月8日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Science retracting paper by chemists cut off from NSF funding – Retraction Watch
⑥ 2016年1月11日のサラ・クタ(Sarah Kuta)記者の「Boulder Daily Camera」記事:National Science Foundation reprimands CU-Boulder prof over research practices – Boulder Daily Camera
⑦ 2016年1月8日のジョセフ・ネフ(Joseph Neff)記者の「Raleigh News & Observer」記事の付録:0108 Bad Chemistry ruling.eps
⑧ 2016年2月15日のシュツ・ボーマン(Stu Borman)記者の「Chemical & Engineering News」記事:Nanoparticle Synthesis Paper Retracted After 12 Years
⑨ 2016年2月27日のアンソニー・キング(Anthony King)記者の「Chemical & Engineering News」記事:Pressure on controversial nanoparticle paper builds | News | Chemistry World

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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