2023年2月19日掲載
白楽の意図:「偽造著者(forged authorship)」シリーズ。2022年、5人の有名な文学者(故人)の科学論文が英国の学術誌「British Journal of Research」に5報出版された。実際の執筆者は不明、動機も不明だが、査読者(いるなら)と編集者はグルまたはズサン過ぎる。解説したアダム・マーカス(Adam Marcus)の「2022年12月の撤回監視(Retraction Watch)」論文を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.マーカスの「2022年12月の撤回監視(Retraction Watch)」論文
9.白楽の感想
10.コメント
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。
記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。
研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。
●2.【マーカスの「2022年12月の撤回監視(Retraction Watch)」論文】
★書誌情報
2022年12月29日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Meet the publisher making the science of Brontë, Faulkner, and Whitman available for the first time – Retraction Watch
●【論文内容】
本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。
方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。
ーーー論文の本文は以下から開始
●《1》「同姓同名」論文
夏目漱石という姓名の人が著者で、「ポリチオフェンを利用した独特な殺虫剤の吸着光触媒作用」というタイトルの論文を2022年に学術誌に出版したら、あなたはどう思うだろう?
夏目家が生まれた息子に「漱石」と名付け、たまたま偶然、大きくなった「漱石」が科学者になり、この論文を発表した。
あり得る。
芥川家も息子に「龍之介」と名付け、大きくなった「龍之介」が科学者になり、「横長X線写真でのX線撮影ミスの再発を決めるための機器品質監査の実行」というタイトルの論文を発表した。
あり得る。
それで、たまたま、2人共同時に同じ学術誌に投稿し、論文が並んで掲載された。
あり得・・・ないと思うが、「絶対にない」とは言いきれない。
2022年、英国の学術誌「British Journal of Research」にそういう論文が現実に出版された。
「2022年のBritish Journal of Research」にシャーロット・ブロンテ(Charlotte Bronte)が単著の論文を出版した。
タイトルは「Adsorption-Photo Catalysis of Primarily Unmistakable Pesticides Utilizing Polythiophene」なので、日本語にすると「ポリチオフェンを利用した独特な殺虫剤の吸着光触媒作用」である。
別になにもヘンなところはない?
イヤイヤ、日本の研究者にはなじみが薄いだろうが、シャーロット・ブロンテ(Charlotte Bronte)は英国の有名な小説家のあのシャーロット・ブロンテ(1816年4月21日~1855年3月31日、写真出典)と同姓同名なのだ。
たまたま偶然、同姓同名なだけでしょ。なのか?
所属を見ると「Department of Basic Sciences, University of Aberdeen, United Kingdom」とあって、英国のスコットランドにあるアバディーン大学である。
そして、続く論文を見ると、ドイツのケルン大学のヘルマン・ヘッセ(Herman Hesse)が単著の論文「横長X線写真でのX線撮影ミスの再発を決めるための機器品質監査の実行(Execution of the Qa Instrument to Decide the Recurrence of Radiographic Mistakes on Sidelong Radiographs)」である。
ヘルマン・ヘッセと言えば同姓同名の小説家は、『車輪の下』(1906年)や『デミアン』(1919年)の小説を発表し、1946年にノーベル文学賞を受賞した(写真出典)。
そして、その後さらに、ライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)の論文など、有名な文学者(故人)の単著の「科学」論文が3報続いた。
以下の出典:British Journal of Research | Volume 9, Issue 9 | 2022、保存版
5論文が全部、有名な文学者(故人)と同姓同名の研究者の「科学」論文だったのは、たまたま偶然で「あり得る」・・・わけがない!
それに、最初のシャーロット・ブロンテアが所属しているというアバディーン大学には「基礎科学科(Department of Basic Sciences)」はない。
2番目のヘルマン・ヘッセの所属もケルン大学の「基礎科学科(Department of Basic Sciences)」とあるが、ケルン大学にも「基礎科学科(Department of Basic Sciences)」はない
2022年出版の学術論文なのに、どうなっているのだ。
誰かが、有名な文学者(故人)の姓名をかたって、論文を投稿したに違いない。犯人は1人または1グループだろう。
しかし、論文を投稿した人またはグループにどんな動機やメリットがあるのだろうか?
●《2》なんで?
★発覚
2022年12月29日、オックスフォード大学(University of Oxford)の発達神経心理学・教授であるドロシー・ビショップ(Dorothy Bishop 写真出典)が、気がついて、以下のツイートをした(保存版:https://archive.md/ZAdyO)。
Well, Prime Scholars is the gift that just keeps giving.
Here is author list for vol 9 issue 9 of British Journal of Research.https://t.co/GeZo8Y70AM
Seems someone was told to make sure the authors were famous. pic.twitter.com/etpMyhjs1z— Dorothy Bishop (@deevybee) December 29, 2022
★学術誌
こんな論文群、誰が見ても異常である。
この学術誌「British Journal of Research」は査読があるらしい。査読で不採択にすべき論文である。査読をパスしても、編集長が不採択にすべきだった。
それなのに、どうして掲載してしまったのか?
学術誌「British Journal of Research」の編集長は米国在住のオブムネケ・アマディ=オヌオハ(Obumneke Amadi-Onuoha、写真出典)で、撤回監視の問合わせに、まともな対応をしない。
アマディ=オヌオハは、教育、研究、臨床活動、擁護活動を通じて世界的な健康問題を解決しようとする非営利組織「ディスカバー・ヘルス・グローバル・イニシアチブ(Discover Health Global Initiative)」の創設者とある。大学教授ではない。
パブメドで論文を検索するとヒット論文は0報だった。まともな生命科学論文を出版していない。 → Obumneke Amadi-Onuoha – Search Results – PubMed
学術誌「British Journal of Research」はプライム・スカラーズ社(Prime Scholars)が出版しているのだが、編集長の選定や今回の論文への対応に、アチコチいい加減のようだ。
●9.【白楽の感想】
《1》取り締る
昔から、小説や絵画などでは他人の名前をかたる「悪ふざけ」、そして、時には、犯罪的な「詐欺」もあった。
金融や商取引などの領域では他人の名前をかたる「詐欺」は珍しくないだろう。
しかし、学術論文では皆無だった。
と言いたいが、白楽が知る限りでも10件ほどはある。1例を挙げれば → 前代未聞のねつ造論文 学会発表したデータを基に第三者が論文を発表 | Chem-Station (ケムステ)
今回の5論文は、単なる「悪ふざけ」だと思うが、悪ふざけを楽しめる気分にはならなかった。
学術出版もナメラレタもんだ、と、暗い気持ちになった。
今回の5論文は、2023年2月18日現在、指摘されて1か月半が経過したが、論文は削除も撤回もされていない。懸念表明もついていない。
論文の中身を精査していないが、今回の5論文に、データねつ造・改ざんや文章の盗用があるかも知れない。
まさか、まともに引用する人、論文内容を信用する人はいないだろうが、引用したり信用したりすると、学術体系はますます歪んでくる。
なお、日本人側から見ると、日本の有名作家名、例えば、夏目漱石のアルファベット名「Souseki Natsume」で欧米の学術誌に「科学」論文を投稿すると、採択されるかもしれない。
「Souseki Natsume」著の論文をChatGPTに頼んで書いて、 「悪ふざけ」で、「Nature」誌にでも投稿してみるか?
良い子のみんなはマネしないように。守らないと ↓↓↓
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少する。科学技術は衰退し、国・社会を動かす人間の質が劣化してしまった。回帰するには、科学技術と教育を基幹にし、堅実・健全で成熟した人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●10.【コメント】
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