2022年4月4日掲載
白楽の意図:性不正、アカハラ、その他の嫌がらせの申立てを受けた際、英国の大学の3分の1は、申立て者の口封じのために、申立て者に守秘義務契約を強要していた。英国政府はその契約を使用しない方向に舵を切ったミシェル・ドネラン高等教育大臣(Michelle Donelan)の「2022年1月のGOV.UK」論文を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。
研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読むべし。
●1.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:Universities pledge to end use of non-disclosure agreements
日本語訳:大学は守秘義務契約の使用終了を約束する - 著者:Department for Education and The Rt Hon Michelle Donelan MP
- 掲載誌・巻・ページ:GOV.UK
- 発行年月日:2022年1月18日
- 指定引用方法:
- DOI:
- ウェブ:https://www.gov.uk/government/news/universities-pledge-to-end-use-of-non-disclosure-agreements
★最後著者
- 最後著者:ミシェル・ドネラン(Michelle Donelan)
- 紹介:Michelle Donelan – Wikipedia
- 写真出典: By David Woolfall – https://members-api.parliament.uk/api/Members/4530/Portrait?cropType=ThreeFourGallery: https://members.parliament.uk/member/4530/portrait, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=86632986
- ORCID iD:
- 履歴:
- 国:英国
- 生年月日:英国。現在の年齢:40 歳
- 学歴:2006年に英国のヨーク大学(University of York)で学士号(歴史学と政治学)
- 分野:
- 論文出版時の所属・地位:2021年9月15日以降、英国政府の高等教育大臣(Minister for Higher and Further Education)
ボリス・ジョンソン首相(Boris Johnson)(左)とミシェル・ドネラン大臣(Michelle Donelan)(右)。写真 Gareth Milner [CC BY 2.0], via Flickr 出典
●2.【日本語の予備解説】
★守秘義務契約(Non-Disclosure Agreements (NDAs))
出典 → 秘密保持契約 – Wikipedia
以下、つまみ食い的に引用。
秘密保持契約(ひみつほじけいやく、(non-disclosure agreement、略称: NDA)とは、ある取引を行う際などに、人の間(法人や自然人)で締結する、営業秘密や個人情報など業務に関して知った秘密(すでに公開済みのものや独自にないし別ソースから入手されたものなどを除外することが多い。)を第三者(当該取引に関連する関連会社や弁護士、公認会計士などを除外することが多い。)に開示しない(行政庁や裁判所の要求する場合、その他法律上開示義務がある場合などが除外されることが多い。)とする契約。機密保持契約、守秘義務契約ともいう。
一般に、被雇用者には業務上知り得た情報について守秘義務が課されると解されているが、雇用契約の際に雇用契約書内に守秘義務規定を明記しておく、または別に守秘義務の履行を確約させる目的で誓約書を取り交わす場合もある。
法律で定められた守秘義務とは異なり、契約上の義務である。
●3.【論文内容】
本論文は学術論文ではなく英国政府の声明である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。
ーーー論文の本文は以下から開始
英国は、守秘義務契約(NDAs:Non-Disclosure Agreements)によって、大学のセクハラ申立て者が口封じさせられることを、今後廃止する。
本日、招待した6人の大学・学長は、被害者から、性不正、アカハラ、その他の嫌がらせの申立てを受けた際、その対処に守秘義務契約を使用しないと約束する誓約書に署名した。
英国政府のミシェル・ドネラン高等教育大臣(Michelle Donelan)は、英国の全大学がこの誓約書に署名するよう要請する。
従来、英国の多くの大学は、性不正、アカハラ、その他の嫌がらせの申立て者に守秘義務契約に署名するよう圧力をかけてきた。
守秘義務契約は、性不正、アカハラ、その他の嫌がらせを受けた学生や教職員の発言を大学が禁止し、大学が加害者を守ってきた悪い慣習である。
2020年のBBCニュースの調査によると、英国の3分の1近くの大学が、計300件を超える申立てで、申立て者に守秘義務契約を強いてきた。しかし、実際は300件よりもっと多いと予想される。
ミシェル・ドネラン高等教育大臣は次のように述べた。
- セクシャルハラスメントは恐ろしいものである。大学の評判を守るために、申立て者を懐柔したり、口封じしてはなりません。守秘義務契約を結ばせることで、他の犠牲者の申立てを抑圧し、加害者名を匿名化し隠蔽してはなりません。
- 被害者を沈黙させるために守秘義務契約を結ばせることは、守秘義務契約の本来の目的とかけ離れています。本来の目的は、例えば企業秘密の保護などです。私は、英国の大学からこの卑劣な慣習を撲滅する決意をしました。私の決意を明確にするために、昨年、私は英国の全学長に手紙を書き、この決意を伝えました。
- 何人かの学長は、学生や教職員に対して、守秘義務契約の使用を終了する契約書に署名しました。私は他の学長たちに、彼ら先導者に従い、正しいことをするよう呼びかけます。
カナダのジュリー・マクファーレン法学教授(Julie Macfarlane)とゼルダ・パーキンス(Zelda Perkins)は、共同で、守秘義務契約(NDA: Non-disclosure agreements)を禁止する「沈黙は買えない(Can’t Buy My Silence )」キャンペーンを創設していた。
2人は声明を歓迎し、大臣や大学・学長と一緒に誓約のバーチャル会議に出席した。
2人は、次のように述べた。
- 高等教育機関が守秘義務契約(NDA)を強要したことで受けたダメージをたくさん見てきました。つまり、大学に裏切られたと感じた申立人の受けたダメージ、不正者が守秘義務契約(NDA)で守られ平然と過ごしている高等教育機関への不信感というダメージです。
- ドネラン大臣が大学に対し、この慣行を非難し、守秘義務契約(NDA)しないよう求めていることを嬉しく思います。これにより、大学の説明責任と透明性(accountability and transparency)が劇的に変化し、学生、教職員への虐待サイクルが断ち切られ、生活が向上します。
2021年7月、ドネラン大臣は、英国の全学長に手紙を送り、キャンパスでの性不正、アカハラ、その他の嫌がらせに取り組むよう促した。すべての大学は守秘義務契約(NDA)をしないよう、申立てに対処する手順を再検討すべきだと伝えた。
政府は、ビジネス・エネルギー・産業・技能省(Department for Business, Energy, Industry and Skills)と協議の後、雇用者への守秘義務契約(NDA)の使用を取り締まる新しい法律を導入する計画をすでに発表している。
英国学生連盟(National Union of Students)の高等教育担当副会長のヒラリー・ゲビ=アバビオ(Hillary Gyebi-Ababio、写真出典)は次のように述べた。
- 英国学生連盟はキャンパス内での性的暴力を終わらせるために何年にもわたるキャンペーンを展開してきました。ドネラン高等教育大臣のタイムリーな発表を歓迎します。守秘義務契約は、被害者を脅迫し、加害者を保護し、長い間、性的暴力の継続を助長してきました。
- 私たちは、すべての教育機関がこの誓約書に署名し、性的暴力に関する申立てで必要な透明性をもたらし、学生と教職員に真に安全なキャンパス、学生と教職員の安全を支援するキャンパスを作ると約束することを強く求めます。
ドネラン大臣は、英国のすべての学長に誓約書に署名するよう促した。
署名した大学は「沈黙は買えない(Can’t Buy My Silence )」のウェブサイトに掲載される。
すでに多くの大学は、性不正事件で守秘義務契約の使用を終了すると表明している。
2019年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)は、性不正、アカハラ、その他の嫌がらせの申立てをした個人と守秘義務契約を結ぶ慣行を廃止した。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)のマイケル・スペンス学長(Michael Spence、写真出典)は次のように述べている。
- 大学でセクハラ、アカハラ、不正行為が頻繁にあることを私たちは皆知っています。これらが発生した場合、被害者は大学からサポートされていると感じ、自分の経験について話すことができることが重要です。
- 守秘義務契約はこれに対する障壁であり、そのため、性不正、アカハラ、その他の嫌がらせを訴えた個人との和解契約で、守秘義務契約を使用しないことを2019年に決定しました。
英国大学協会(Universities UK)のアリステア・ジャービス会長(Alistair Jarvis、写真出典)は、次のように述べている。
- 大学は学生と教職員を守る義務がある。キャンパスでの生活がすべての学生と教職員にとって充実した、安全で楽しい経験になるようにする責任を、非常に真剣に受け止めています。
- 圧倒的多数の大学構成員は善良です。悪いことをしません。しかし、悲しいことに、性不正、アカハラ、その他の嫌がらせは、少数ですが、発生します。その場合、被害者がサポートされ、自信を持って発言できるようにすることが重要です。
- 性不正、アカハラ、その他の嫌がらせで、大学は、和解契約の時、守秘義務契約を使用し、自由な発言を妨げる契約をしないでください。このような条項は、懸念事項の報告の障壁となり、非倫理的であり、受け入れられません。
●5.【白楽の感想】
《1》37歳の大臣
ミシェル・ドネラン高等教育大臣(Michelle Donelan)は1984年4月8日生まれで、37歳である(4日後に38歳)。若い!
守秘義務契約の使用廃止なんてスゴイ!
守秘義務契約は英国だけの和解契約ではなく、米国でもある。テキサス大学・アーリントン校(University of Texas at Arlington)の説明が充実している → NON-DISCLOSURE AGREEMENT FAQS
日本の大学にはないと思う。少なくとも、守秘義務契約「書」はない。
しかし、実際は、かん口令が布かれ、書類は無くても、契約はある。
日本は言葉では「説明責任と透明性(accountability and transparency)」は重要だと言いながら、現実の対応は真逆である。
大学の性不正事件では、悪事を働いた加害者を匿名にし、「被」害者よりも「加」害者を守る事に熱心である。
日本の大学に、学内から性不正、アカハラ、その他の嫌がらせを排除する本気度をまるで感じない。これらの悪事を本気で排除する施策・実行は全くない。被害を申立てられると、その都度、対処するだけである。加害教員は特定されないように匿名で保護され、処分は停職が多く、素知らぬ顔で復職できる。
ネカト排除の改善をしてこないので研究不正大国のままだが、同じように考えると、いずれ、性不正大国・アカハラ大国になるのではないかと心配している。ウン? もうなっている?
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●6.【コメント】
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