2023年11月23日掲載
白楽の意図:ロシアの国際出版社(International Publisher LLC)の著者在順販売を、ダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)が解説した「2022年4月のScience」論文を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.チャウラの「2022年4月のScience」論文
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。
記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。
研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。
●2.【チャウラの「2022年4月のScience」論文】
★読んだ論文
- 論文名:Russian site peddles paper authorship in reputable journals for up to $5000 a pop
日本語訳:ロシアのサイトは評判の高い学術誌の著者在順を1件あたり最大5000ドルで売る - 著者:Dalmeet Singh Chawla
- 掲載誌・巻・ページ:Science
- 発行年月日:2022年4月6日
- ウェブサイト:https://www.science.org/content/article/russian-website-peddles-authorships-linked-reputable-journals
- 著者の紹介:ダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla、写真本論文)。英国のロンドン在住の科学ジャーナリスト。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)で生化学の学士号を取得し、インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)でサイエンス・コミュニケーションの修士号を取得。経歴出典:Home Page | Dalmeet Singh Chawla
●【論文内容】
本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。
★ロシアの国際出版社(International Publisher LLC)
ロシアの国際出版社(International Publisher LLC、www.123mi.ru)は、間もなく出版される論文の著者在順(著「者」枠の権利)を1件あたり数百ドル~5000ドル(数万円~50万円)で、公然と販売している。
2019年以来、ベルリン自由大学の社会学者であるアンナ・アバルキナ(Anna Abalkina)は、ロシアの国際出版社が、著者在順を売ると宣伝していた1,000論文以上を分析し、その419論文(論文リスト、現在はもっと増えて460報)が、後に、学術誌の論文として出版されていたと、「2022年3月のarXiv」論文で発表した。 → Publication and collaboration anomalies in academic papers originating from a paper mill: evidence from a Russia-based paper mill
この419論文のうち 100論文以上は、エルゼビア社、オックスフォード大学出版局、シュプリンガー・ネイチャー社、テイラー&フランシス社、ウォルターズ・クルーワー社、ワイリー・ブラックウェル社などの著名な出版社が出版する 68学術誌に掲載されていた。
そして、国際出版社の国別契約数では、ロシア人が最多だった。
国際出版社はロシアのウクライナ侵攻中も相変わらず営業していた。
今回の記事で、「サイエンス」誌は、モスクワに本社を置き、ウクライナ、カザフスタン、イランに事務所を構えるロシアの国際出版社に電子メール、電話、WhatsAppで複数回コメントを求めたが、返答はなかった。
2016年5月以降、クセニア・バジウン(Ksenia Badziun、写真出典)が国際出版社の編集長である。
バジウンは、ウクライナのキーウ大学(Taras Shevchenko National University of Kyiv)で2015年に修士号(言語学)を取得した(Ksenia Badziun | LinkedIn)。
国際出版社が著者在順を売ることで、学術論文界にニセ論文・フェイク論文が横行し、学術論文体系の混乱、そして、研究者の腐敗をもたらしている。
その規模と厚かましさは異常である。
2012年、ロシアは出版論文数に基づいて研究者の昇進と金銭的報酬をする規則を導入した。
研究者への論文出版圧力を高めると、学術界にニセ論文・フェイク論文が横行する。
有名なネカトハンターであるエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、その例として、中国の論文工場を見つけて公表した。そして、ロシアは、もう1つの例だと、指摘した。 → 2020年2月27日の中国の論文工場記事:A single ‘paper mill’ appears to have churned out 400 papers, sleuths find | Science | AAAS
★販売スタイル
ロシアの国際出版社(www.123mi.ru)は、顧客の歓心を引くため、論文は既に受理されていると宣伝し、各論文について興味をそそるような他の情報も表示している。
論文のトピック、著者数、そして時には論文の要旨、また、掲載学術誌のレベル、スコーパス(Scopus)やWeb of Science データベースに索引付けされているかどうかなどの情報である。
著者在順の価格は、①共著者の何番目なのか、②学術誌のインパクトファクター、に依存している。安いので約15,000ルーブル(175ドル、約1万7500円)から、高いので410,000ルーブル(4800ドル、約48万円)まである。通常は筆頭著者が最も高価である。
これらの値段を基にアバルキナが試算すると、ロシアの国際出版社は、2019~2021 年の3年間に約 650 万ドル(約6億5千万円)を稼いでいる。
なお、国際出版社のウェブサイトは、著者在順の価格を示しているが、顧客が実際に支払った額は示していない。そして、取引を秘密にするため、契約には機密保持条項が含まれている。
著者在順のカタログでは、論文が掲載される学術誌名が伏せられている。購入者が料金を支払った後にのみ、学術誌名が知らされる仕組みである。
★学術出版社の取り組み
大手の学術誌出版社であるオックスフォード大学出版局、シュプリンガー・ネイチャー社、テイラー&フランシス社、ワイリー・ブラックウェル社は、アバルキナが売買された論文だと指摘した論文を調査している。
エルゼビア社には原稿投稿後に著者の変更を検出する手順があり、著者の変更には、編集者の承認が必要である。但し、アバルキナが特定した論文に関しては、「投稿後に著者名が変更された形跡はなかった」と述べている。
シュプリンガー・ネイチャー社の研究公正部長(director of research integrity)のクリス・グラフ(Chris Graf、写真出典)は、詳細について言及しなかったが、「論文工場は、学術界と学術出版界の両方に悪い影響を与えています。個々の論文を調らべ、問題の論文を撤回するだけでなく、学術出版側が論文の出版プロセスを見直し、システムの不正操作を検出する技術を開発するよう努力してきました」と述べた。
★連絡著者
「サイエンス」誌は事情を探るため、アバルキナが特定した論文の連絡著者20人にメールで問い合わせた。しかし、ほとんどの連絡著者は返事をしてこなかった。
これらの連絡著者は、自分の論文を、ロシアの国際出版社を通して販売している可能性が高い。または、国際出版社は論文工場も兼ね備えているので、連絡著者自身が論文を購入した人なのかもしれない。
匿名希望で返事をしてきた人もいた。その人は、国際出版社とその活動について何も知らないが、自分の論文の共著者は全員、論文に記載の研究成果に貢献した、と述べた。
実名で返事をしてきた人もいた。
ベトナムのトンデュックタン大学(Ton Duc Thang University)・講師で、統計学者であるキム・フン・ポー(Kim Hung Pho、写真出典)は、著者在順が販売されていた論文を2報も出版していた。
2報の論文は、オックスフォード大学出版局が運営する学術誌「Digital Scholarship in the Humanities」に出版されていた。以下に示す。
- A statistical view to study the aphorisms in Nahj al-Balaghah Get access Arrow
Yu Tian, Kim-Hung Pho
Digital Scholarship in the Humanities, Volume 35, Issue 4, December 2020, Pages 881–885, https://doi.org/10.1093/llc/fqz075
Published: 21 October 2019 - Retracted: Statistical approaches in literature: Comparing and clustering the alternatives of love in Divan of Hafiz Get access Arrow
Bui Anh Tuan, Galina Nikolaevna Pudikova, Mohammad Reza Mahmoudi, Kim-Hung Pho
Digital Scholarship in the Humanities, Volume 35, Issue 4, December 2020, Pages 886–892, https://doi.org/10.1093/llc/fqz069
Published: 21 October 2019
A retraction has been published: Digital Scholarship in the Humanities, Volume 38, Issue 2, June 2023, Page 919, https://doi.org/10.1093/llc/fqad002
しかし、キム・フン・ポー講師は、「私には研究を行なう資金がほとんどないので、論文(の著者在順)を買うお金はまったくありません。また、そうしなければならないというプレッシャーもありません」と、ロシアの国際出版社のことを知らないと述べている。
では、キム・フン・ポー講師の論文の著者在順は、なぜ販売されていたのか?
★対策
「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースによると、論文工場製の論文は、2021年に724論文が撤回されている。この撤回論文数は、過去最高の数だが、年間 400万報以上の学術論文が出版されている現状から考えると、微々たる数であることも確かだ。
誠実な論文出版を推進する世界的規模の2つの非営利団体、出版規範委員会(COPE:Committee on Publication Ethics)、と国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE:International Committee of Medical Journal Editors)は、著者在順の売買を阻止するために、学術誌編集者に対し、原稿を受理後に著者の追加を希望する著者に対し、妥当な説明と他の共著者全員からの署名入りの承認を求めるよう勧告している。
専門家の中には学術誌編集者がさらにもっと対処すべきだと批判する人もいる。
米国のウェイン州立大学(Wayne State University)のブライアン・ビクター助教授(Bryan Victor、写真出典)は、著者在順が売買された論文を発見した場合、学術誌編集者は、そのすべての論文に「懸念表明(expression of concern)」を付けるきだと主張している。
というのは、著者在順が売買された論文は、論文の公正性に疑問があるからだ。
しかし、出版前の論文を見て、編集者が不正な著者を特定できる簡単な方法はない。
とはいえ、何らかのヒント・兆候はある、と思いたい。
アンナ・アバルキナ(写真出典:本論文)は、出版前の論文にヒントはあると指摘する。
たとえば、著者のリストを見て、無関係な学問分野の複数の学部に所属する著者たちなら、彼らが共同研究した可能性は低い。また、著者たちの専門分野が論文のタイトルと一致しない場合も、不正な著者ではないかというヒントになる。
ただ、業者の方も、編集者の精査を避ける方策を立てている。
戦略として、国際出版社は同じ学術誌を何度も利用しない。そうなると、1つの学術誌当たりの異常が少いので、編集者は不正をほぼ検出できない。
●7.【白楽の感想】
《1》著者在順売買
著者在順を売る主な人は、誰なのだろう?
研究者個人なのか?
それとも、国際出版社が自前の論文工場で論文を作り、それを学術誌に投稿し、受理された論文を売っているのだろうか?
ベトナムのトンデュックタン大学(Ton Duc Thang University)・講師で、統計学者であるキム・フン・ポー(Kim Hung Pho)は、自分の論文が国際出版社で売られていたことを知らなかった。
ということは、他人の論文を盗んで売っているのか?
エルゼビア社は、アバルキナが特定した論文に関しては、「投稿後に著者名が変更された形跡はなかった」と述べている。この場合、売ってはいたけど、買った人がいなかった、ということ?
なんか、まだ、白楽は仕組みを理解できていない。
それに、日本に、論文を売る研究者、買う研究者、仲介業者、がどれだけいた(いる)のか? 白楽は、まだ、掴めていない。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●9.【コメント】
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