2021年12月7日掲載
白楽の意図:研究公正世界ランキングの記事を準備していたら、この論文に遭遇した。白楽のような凡才の考えることは、どこかの賢人が既に考えている。研究公正の新しい指標「学術公正認知度(Academic Integrity Awareness Index)」を提案したユホン(ヘレン)・ジャン(Yuehong(Helen) Zhangの「2021年9月のForensic Sciences Research」論文を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、理解しやすいように白楽が色々加え、さらに、白楽の色に染め直してあります。
研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読んだ方がいいと思う。
●1.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:The next steps in academic integrity — education, awareness, norms, duty and law
日本語訳:学術公正の次のステップ—教育、認知、規範、義務、法律 - 著者:Yuehong (Helen) Zhang, Hanfeng Lin, Xinxin Zhang & Qing Ye
- 掲載誌・巻・ページ:Forensic Sciences Research
- 発行年月日:2021年9月8日(Received 16 Aug 2021, Accepted 18 Aug 2021, Published online: 08 Sep 2021)
- 推薦引用方法:Yuehong (Helen) Zhang, Hanfeng Lin, Xinxin Zhang & Qing Ye (2021) The next steps in academic integrity — education, awareness, norms, duty and law, Forensic Sciences Research, DOI: 10.1080/20961790.2021.1970887
- ウェブ:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/20961790.2021.1970887
- DOI:https://doi.org/10.1080/20961790.2021.1970887
- PDF:https://www.tandfonline.com/doi/epub/10.1080/20961790.2021.1970887?needAccess=true
- 著作権:Creative Commons Attribution License (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/),
★著者
- 第一著者:ユホン(ヘレン)・ジャン(Yuehong(Helen) Zhang
- 紹介:Prof. Helen Yuehong Zhang – Wiley Editor Symposium
- 写真:http://wileyeditorsymposium.com/speakers/professor-helen-yuehong-zhang/
- ORCID iD:https://orcid.org/0000-0001-8702-909X
- 履歴:Helen Zhang (0000-0001-8702-909X)
- 国:中国
- 生年月日:中国。現在の年齢:64 歳?
- 学歴:1982年2月に中国の新疆工程学院(Xinjiang Engineering College of China)で学士号(地質学)
- 分野:学術誌
- 論文出版時の所属・地位:1999年2月から浙江大学出版社の学術誌部長(1999-02-01 to present | Journal Director (Zhejiang University Press))
●2.【日本語の予備解説】
省略。
●3.【論文内容】
●《1》序論
学問分野を問わず、世界レベルで学術公正の環境を良くしていくには、教育の強化、認知の向上、規範の確立、義務の強調、倫理関連法の制定、が特に必要だと確信している。
これらの方針に沿って、世界各国・地域の研究公正と研究倫理に関する認知レベルをインターネットで調査し分析した。
なお、本論文で示したデータの一部は、2019年の第6回世界研究公正会議(第6回WCRI)で発表したが、2021年8月4日の時点で、元の調査方法を使い、データを更新・補足した。
調査した項目を具体的に示すと、次の4点である。
(1)出版規範委員会(COPE)会員
(2)「研究公正」または「研究倫理」学術誌
(3)欧州の高等教育機関における研究公正の認知度
(4)アジアおよびアフリカのトップ大学における研究公正の認知度
調査の結果、人口密度が高い開発途上国・地域において、「研究公正」と「出版倫理」が非常に低い状態にあることがハッキリした。
私たち(ジャンら)は、本論文で、新しい研究公正指標として研究と出版を含む「学術公正認知度(Academic Integrity Awareness Index)」を提案する。
●《2》出版規範委員会(COPE)会員の分布
出版規範委員会(COPE:Committee of Publishing Ethics)は1997年の発足以来、編集者、出版社、学術出版倫理に携わる人々を支援する国際組織として、高く評価されるように成長した。
出版規範委員会(COPE)は、すべての学術分野の人々に研究公正の資料・情報・ノウハウを提供している。
最初に6大陸にわたる世界の人口の分布を調べ、次に出版規範委員会(COPE)の会員数分布を調べ、世界各国・地域の学術出版界における「研究公正」と「出版倫理」に対する認知レベルを分析した。
現在の国連人口データによると、世界の人口は78億人を超えている。
2021年6月29日の時点で、出版規範委員会(COPE)の登録会員総数は世界中(機関および個人)で13,065会員だった。[白楽注:機関・出版社・個人も会員になれるが、会員は学術誌が多い]。
分布を会員数/人口数で示すと、欧州で5,450会員/ 7億4800万人、北米で4,770/3億6900万、アジアで1,942/46億4100万、オセアニアで556/4,300万人、アフリカで179/13億4,100万人、南米で148/ 6億5,400万人(図1)となった。
図1:2021年(2021年6月29日更新)の6大陸における出版規範委員会(COPE)会員数の分布
欧州での出版規範委員会(COPE)会員の最大数は英国の2,826会員で、第2位がドイツの541会員、第3位がフランスの299会員だった。
北米での最大会員数は米国の4,406会員で、第2位がカナダの350会員、第3位がメキシコの11会員だった。
アジアでの最大会員数は中国の499会員(香港:58、台湾:49を含む)で、第2位がイランの306会員、第3位がインドの275会員の順だった。
日本? でてきませんね。
ちなみに、白楽が調べると、2021年12月6日現在で日本は228会員だった(Search results for ” | COPE 、右図)。
日本は多分、アジアで第4位だと思う(推定)。
図1で、明らかなように、出版規範委員会(COPE)会員数は人口数に比例していない。
出版規範委員会(COPE)会員数の最も多い地域は、欧州(5,450)と北米(4,770)で、それぞれ、第1位の国は英国(2,826会員)と米国(4,406会員)である。
人口密度の高い大陸であるアジアとアフリカを比較すると、アジアで最も多い中国の会員数は499会員で、アフリカ大陸で最も多い南アフリカの会員数は82会員である。
私たち(ジャンら)は、出版規範委員会(COPE)会員数は学術公正認知度度の指標として十分とは思えない。
●《3》「研究倫理」「研究公正」学術誌の分布
この論文で提案している学術公正認知度の指標の2番目は、世界各国・地域のこのトピックに関する学術誌数である。
2019年の第6回世界研究公正会議(https://wcrif.org)では、ScopusデータベースとJCRデータベースを使い、「研究倫理」と「研究公正」という2つのキーワードで検索し、114の学術誌を「研究公正」学術誌とした。
本論文では、「研究倫理」と「研究公正」に加えて、3番目のキーワード「道徳」を加え、世界最大のデータベースであるウルリッヒの定期刊行物データベース(http://ulrichsweb.serialssolutions.com)で、検索した。その結果、約162,794の中から237誌の学術誌がヒットした。
図2は、237の「研究公正」学術誌を示している。
そのほとんどは英語の学術誌で、米国(90)が最も多く、次に英国(48)、オランダ(20)、インド(10)、ドイツ(10)が続いた。
ちなみに、日本は「研究公正」学術誌を 2誌出版していて、世界第15位タイだった。
これらのデータは、出版規範委員会(COPE)会員の分布と相関していた。
図2. UlrichのPeriodicalsDirectory Database(http://ulrichsweb.serialssolutions.com、2021年8月4日に更新)の学術カテゴリを介した検索に基づく、タイトルに「研究倫理」、「研究公正」、「道徳」を含む学術誌の分布。一部の学術誌には2つの国際標準シリアル番号(ISSN)があり、1つは印刷版用、もう1つはオンライン版用で、異なる国で登録されているため、合計学術誌数は237ではなく241になった。
●《4》欧州の高等教育機関における学術公正の認知レベル
学術公正を研究環境に絡めて議論するとき、教育、認知、学術規範の間の関係を考慮しなければならない。
教育は学術公正に対する認知を高める。そして、教育は世界各国・地域で大きく不均衡である。
まず、欧州の高等教育機関で学術公正がどのように認知され、管理されているかを理解しよう。
ここでは、「欧州全土の高等教育における盗用規則の影響(“Impact of Policies for Plagiarism in Higher Education Across Europe”)」(IPPHEAE 2010–2013)というタイトルのプロジェクトに基づいた、欧州27か国の「学術公正成熟度モデル(AIMM:Academic Integrity Maturity Model)の展望」を参照した。 → Assessing maturity of institutional policies for underpinning academic integrity – Plagiarism.org
各国の比較は、AIMMと呼ばれる特別に設計されたツールを使って行なわれ、積み上げ棒グラフで示されている(図3)。
各国の研究公正の認知トピックに関連する9つのカテゴリのそれぞれの結果が、図3に示されている。
図3. 欧州全土の高等教育における盗用政策(IPPHEAE)プロジェクト。学術公正成熟度モデル(AIMM)27か国の比較(元論文には「2019年に許可を得てSpringerから複製」と付記)。
図3は、欧州 27か国が総じて、教育と他の9側面(研究、トレーニング、知識、コミュニケーション、予防、ソフトウェア、制裁、規則、透明性)に関して、研究公正に対する認知レベルが高いことを示している。
近年、欧州は研究公正の研究や規則・政策の改善で重要な進歩をしているが[5, 6 ]、依然として、論争中である[7 ]。そして、欧州 27か国間の研究公正の認知レベルでの不均衡はなくなっていない。
[5 ] → 7-82 研究不正行為の合意なき定義 | 白楽の研究者倫理
[6 ] de Vrieze J. Large survey finds questionable research practices are common. Science. 2021;373:265–265. [Crossref], [Web of Science ®], [Google Scholar] → 7-79 研究者の51%がクログレイ、8%がねつ造・改ざんしていた | 白楽の研究者倫理
[7 ] O’Grady C. What is research misconduct? European countries can’t agree. Science. 2021. Available from: https://doi.org/10.1126/science.abi4527 [Google Scholar] → 7-82 研究不正行為の合意なき定義 | 白楽の研究
●《5》アジアとアフリカのトップ大学における学術公正の認知レベル
次の関心は、人口密度が高く、多くの若者がいる2つの大陸であるアジアとアフリカのトップ大学が研究公正をどのように認知しているかを理解することだ。
これら地域のトップ大学の教育システムに透明性のある研究公正のガイドラインや規則があるかどうかを調査した。
方法として、アジアの調査では、次の2つのランキングリストからこれらのデータを収集した。
- 2019年の名目GDP(国際通貨基金世界経済見通し(2019年10月)によるアジア諸国のリストからの上位20の国と2つの地域(台湾と香港、中国)(http://statisticstimes.com/economy/asian-countries- by-gdp.php、2021年8月4日にアクセス)。
- 「アジアの大学ランキング2021」から各国/地域のトップ10大学を選択した。一部の国は大学数が10未満である(https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/2021/regional -ranking#!/ page / 0 / length / 25 / sort_by / rank / sort_order / asc / cols / stats、2021年8月4日にアクセス)。
上記のウェブサイトを閲覧し、大学の公式ウェブサイトで研究公正または研究倫理に関連する方針と規制をざっと確認した後、「研究公正」、「研究倫理」、「盗用」、「不正行為」の4つのキーワードで検索した。
なお、 「見つかりません」という結果の時、大学のウェブサイトに研究公正の情報がないという意味ではない。単に上記の4つの検索用語ではヒットしなかった、という意味である。
結果を要約すると、2019年の名目GDPで、アジアの上位20か国の上位大学の75%(108/144)に研究公正の文書が掲載されていた。アジアのほとんどの大学は、研究公正教育を非常に重視していると理解できる(表1)。
表1.アジアのトップ大学のウェブサイトに研究公正に関する文書の存否。
上表は、論文の表1の6位までを日本語化した表である。全リストを英語のママ示すと、下表。
本論文ではアジアの大学を調べたのと同じ方式でアフリカの大学も調べている。白楽は、そのデータ・表を省略した。
●《7》次のステップは?
次のステップは何か?
学術公正では、教育、認知、研究規範が非常に重要である。これらの重要な価値観に基づいて、学術公正を促進するための次のステップは何か?
この論文では、新しい指標である「学術公正認知度(Academic Integrity Awareness Index)」を提案した。
この指標は学術公正の育成に貢献するが、この指標だけでは不十分であると考えている。
17世紀に科学者が規範的な行動を求められて以来、学術公正は公益の重要なトピックになっている。
ところが、学術公正は今日でも道徳のレベルで議論され、法律が関与していないかのように議論されることもある。
研究公正の促進を考える時、「学術公正認知(Academic Integrity Awareness)」を、教育、認知、規範から義務と法律に至るように改善していくことが重要だ。
これは科学と法律を含め、多様な分野の学術機関と専門家の間で議論される複雑な研究トピックである。
●4.【関連情報】
《1》エミル・カーケガード(Emil_O._W._Kirkegaard)
デンマークのエミル・カーケガード(Emil_O._W._Kirkegaard、写真出典)も、学術公正の世界ランキングをブログに記載している。 → Scientific misconduct by ancestry/country – Clear Language, Clear Mind
ただ、「Emil O. W. Kirkegaard – RationalWiki」によると、カーケガードは、デンマークの極右優生学者で、児童ポルノの合法化活動をし、地球温暖化の否定、反フェミニスト、障害者差別、反ビーガン、同性愛嫌悪、イスラム恐怖症、トランスフォビア、白人至上主義を推進してきた悪名高い人物である。
査読付き学術誌から論文出版を拒否されている。
問題が多い人物なので、カーケガードの信頼度が低いと白楽は想定し、彼の「学術公正の世界ランキング」の論文をここで紹介しないことにした。
《2》タオ・タオ(Tao Tao)の「Scholarly Kitchen」論文
タオ・タオ(Tao Tao)の「Scholarly Kitchen」論文は、本記事で紹介した「2021年9月のForensic Sciences Research」論文の第一著者であるユホン(ヘレン)・ジャン教授(Yuehong(Helen) Zhang)にインタビューし、「質問・回答」形式で、「2021年9月のForensic Sciences Research」論文を掘り下げた論文である。
当初、タオ・タオ(Tao Tao)の「Scholarly Kitchen」論文も「論文を読んで」の別の記事にまとめようと思ったが、本記事で紹介したジャン教授の元論文・「2021年9月のForensic Sciences Research」論文の質的レベルが低いので、上塗りするのを止めた。
つまり、タオ・タオ(Tao Tao)の「Scholarly Kitchen」論文の書誌情報だけお知らせし、内容を紹介するのを止めた。
★書誌情報
- 論文名:Does the World Need an Academic Integrity Awareness Index? An Interview with Helen Zhang
日本語訳:世界は学術公正認知度指標を必要としているか? ヘレン・ジャンにインタビュー - 著者:Tao Tao
- 掲載誌・巻・ページ:Scholarly Kitchen
- 発行年月日:2021年11月2日
- 指定引用方法:
- ウェブ:https://scholarlykitchen.sspnet.org/2021/11/02/does-the-world-need-an-academic-integrity-awareness-index-an-interview-with-helen-zhang/
- PDF:
- 著作権:
★著者
- 単著者:タオ・タオ(Tao Tao)
- 紹介:Tao Tao, Author at The Scholarly Kitchen
- 写真出典:https://scholarlykitchen.sspnet.org/2021/11/02/does-the-world-need-an-academic-integrity-awareness-index-an-interview-with-helen-zhang/
- ORCID iD:
- 履歴:Tao Tao | LinkedIn
- 国:中国と米国
- 生年月日:中国。現在の年齢:53 歳?
- 学歴:1994年に中国の四川大学華西医学センター(West China Medical Center)で学士号(医学)
- 分野:科学ジャーナリズム
- 論文出版時の所属・地位:2021年1月から学術誌「JACC: Asia」の編集主幹(Managing Editor of JACC: Asia at American College of Cardiology.)
●5.【白楽の感想】
《1》粗い
研究公正世界ランキングの記事を準備しているので、この論文を読もうと思ったが、読んでみると、白楽が意図している世界ランキングとは少し異なっていた。
批判的な事を言うと、論文の内容が粗い。詰めが甘い、意識が低い。
例えば、「研究倫理」「研究公正」学術誌の出版数を学術公正認知度の1つにしているが、分野と無関係にオランダは学術出版誌が多い。だから、オランダが上位に来るのは当然で、学術誌の出版数と学術公正認知度との関連は低いと思う。
学術誌数ではなく、「研究公正」論文の著者数の国・地域別分布を探るべきだ。
他の点に関しても、いちいち挙げないが、質的レベルが低い論文だった。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●6.【コメント】
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大学の外に住む地域住民です。研究倫理について、大学人が大学の中で発生する事象についてのみ問題とする傾向に、不満を持っています。文系学者はフィールドワーク等と称して、大学の外に出てきます。例えば人類学の盗骨被害というものがあります。100年ぐらい前に、人類学者が大学の外に出かけて、お墓から人骨を盗んで、大学に持ち帰り研究資料としたという被害があります。日本では京都大学の人類学者が北海道や沖縄に行き、アイヌ・琉球遺骨問題として知られています。海外でも、イギリス人がポリネシアに行って、同じようなことをしていたようです。本も出ています。
『大学による盗骨』(松嶋康勝著、耕文社、2019) 人類学の盗骨被害について、このサイトには掲載されていますか?
追加で情報提供です。白楽さんは、『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』(眞嶋俊造他編著、慶應義塾大学出版会、2015)を読んでいなさそうです。
https://keio-up.co.jp/np/isbn/9784766422559
人類学の盗骨被害(アイヌ・琉球遺骨問題)以外に、民俗学の調査被害について書いてあります。大学の民俗学者が、学外に出て、村長とか庄屋とか古いおうちに行く。古文書を借用書なしで借り受けて、そのまま返さないそうです。
『調査されるという迷惑』(宮本常一・安渓遊地、みずのわ出版、2008)という本も出ていて、これもフィールドワーク被害について書いたものです。
コメント感謝です。
人類学の盗骨被害について、今まで、記事にしていません。
『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』、ハイ、読んでいません。
> 古文書を借用書なしで借り受けて、そのまま返さない
これはヒドイ。犯罪ですね。
英国の似たケースを記事にしたことがあります。 → 犯罪「窃盗」:古文書学:ダーク・オビンク(Dirk Obbink)(英) | 白楽の研究者倫理 https://haklak.com/page_dirk_obbink.html
研究材料の持ち帰りは、盗んだものであれ、(当時の)許可を得たものであれ、所有者不明のものであれ、「借用書なしで借り受けて、そのまま返さない」のであれ、「データねつ造・改ざん」には該当しない。イメージとしては「盗用」だが、研究不正での「盗用」には該当しない。その他の研究規則上の違反に該当しない。
それで、ほぼ、記事にしていませんでした。
人骨は所有権が明白だけど、自然界の植物の採集、昆虫の採集など、昔は所有権の意識は低かったと思う。『昆虫記』のファーブルはフランスで昆虫を採集し、牧野富太郎が日本全国の植物を採取して40万の標本を作ったとあるが、これらは思うに、「盗虫」「盗植」です。でも、誰もとがめない。
時代が変わった?
いわゆる「ヘリコプター研究」は著者在順違反だから、少し取り上げた(と思う。どの記事か、今思いだせない)。
「ヘリコプター研究」は、ご存知だと思いますが、欧米先進国の研究者が発展途上国の研究材料を使って研究成果を挙げた時、発展途上国の研究者の貢献を過小評価するという行為で、人種差別・国家優劣意識が背景にある尊大な振舞です。
‘Helicopter research’: who benefits from international studies in Indonesia? https://theconversation.com/helicopter-research-who-benefits-from-international-studies-in-indonesia-102165
ではまた。
白楽ロックビル