「白楽の感想」集:2019年3-4月

2019年8月22日掲載

研究者倫理の2019年3-4月記事の「白楽の感想」部分を集めた。

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《1》お粗末

このサマハ/アーメド事件での画像の重複使用はかなりハッキリしているので、論文の査読者が気が付くべきだとか、「Nature」誌編集部のチェック体制がズサンすぎるなどと非難されている。

アーメド準教授を含め、たくさんいる共著者が気が付くべきだとも非難されている。

白楽もそう思う。

ただ、サマハがネカト者でアーメドはネカト被災者と言えるかどうか?

サマハが著者に入っていないアーメドの8論文に「パブピア(PubPeer)」がコメントしている。内2論文は訂正している。アーメドではなく共著者がミスしたのを訂正したのかもしれないが、なんかヘンである。

ベイラー医科大学と研究公正局が調査しないとハッキリしないが、アーメドへの疑惑は消えない。

《2》非を認めない

「2018年のNature」論文は撤回された。他の共著者は撤回に同意したが、第一著者のヘバ・サマハ(Heba Samaha、写真出典)だけが撤回に同意しなかった。

これだけ明白なネカトなのに、どうしてサマハは同意しなかったのだろう?

なお、同意してもしなくても、ネカト者の損害は変らないと思う。そうなら、なるべく非を認めない方が、得な気がする。

《3》大澤文夫先生

「2018年のNature」論文はヘバ・サマハの4報目の論文である。第一著者としては「2015年のImmunotherapy」論文の次の論文である。

第一著者のヘバ・サマハ(Heba Samaha)がネカト主犯と思われる。以下の文はそう仮定した場合である。

ネカトの動機は「ズルしてでも得したい」だろうが、発覚すると思わなかったのだろうか?

論文に発表するとき、データをねつ造・改ざんしてよいと理解していたのだろうか?

サマハは修士号は取得しているが、研究博士号(PhD)を取得していない。研究者としての教育が不十分だったのか?

2019年3月3日に96歳で亡くなった白楽の師・大澤文夫先生に、白楽は院生の時、いろいろ生意気な質問をした。

その1つ、「博士号の資格は何ですか?」と尋ねた。

大澤文夫先生は「研究とはこういうことかと悟ったら博士号だ」とおっしゃった。

「じゃ、ボクが悟ったと言えば博士号授与してくれるんですか?」と、当時修士2年生の白楽が、明らかに「悟って」いない愚問を発した。大澤文夫先生は笑っていた。こんな禅問答の答えを聞いても、白楽は、どういうレベルだと博士号なのか、当時、把握できなかった。

その後、自分が博士号を取得する頃、大澤文夫先生の「研究を悟る」という答えが腑に落ちた。日本の標準である「論文を1報出版したら博士号」という基準はわかりやすいが情けない。「研究を悟れば」、ネカトをしてはいけないことは当然に思える。サマハは「研究を悟っていない」ように思える。

《1》捕食出版社を取り締る

捕食学術誌をどう除外するか、ビールが捕食学術誌リストのサイトを閉鎖してから、それ以上のリストがいまだに出てこない。

今回、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)推薦学術誌リストへの31%が捕食「的」学術誌である。

パブメド(PubMed)にも捕食学術誌に掲載された論文が1~2割含まれている。

真正学術誌とされていたスコーパス(Scopus)のリストにも捕食学術誌が入っている。 → 7-31.スコーパス(Scopus)中の捕食論文

どうすると良いのか?

泌尿器科学は57誌を「泌尿器学グリーンリスト(Urology green list)」を作製したように、各学会が、学会認定の学術誌を決め、そのリストを公表するのが良い。各学会が「○○学会グリーンリスト」を作り、論文掲載後のキューレーションも担当する。

プランSへの移行と合わせて、各学会が動くといい。

《1》詳細は不明

エドワード・フォックス(Edward J. Fox)。出典?

この事件の詳細は不明です。

非常に最近の事件なのに、状況がわかる情報がない。ネカト防止策は、この事件からは学べない。

ただ、締め出し処分が1年間で、事件後、スタンフォード大学・病理学の研究員に移籍している。ボスのトーマス・モンティーヌ教授(Thomas Montine)が許容すれば、研究者として生き延びるだろう。
→ Montine Lab | Who We Are

《1》根っからのネカト者

シャオシン・イエ(Xiaoxin Ye)は20代でネカトをし、15論文が撤回された。その上、ポスドク時代に学術誌「Journal of Biochips & Tissue chips」の編集員にもなっていた。この学術誌は捕食学術誌である。

シャオシン・イエは、推測するに、研究を始めた最初から、論文発表に関する研究規範を間違えて受け入れ育ってきたように思える。

こうなると、修正は難しい。

《2》大阪大学・接合科学研究所・近藤勝義

シャオシン・イエ(Xiaoxin Ye)は、中国で博士号を取得後、2015年9月1日-2017年2月28日の1年半、大阪大学・接合科学研究所でポスドクをしていた。引き受けた人は近藤勝義教授(写真出典)である。

この1年半に以下の11論文を出版した。内4報は第一著者である。ポスドクに来る直前の大学で多量のネカト論文が見つかり、15報が撤回された。近藤研究室滞在中に出版した11論文でもネカトをしていたと考えるのは至極普通だ。

そして、近藤勝義教授はシャオシン・イエ(Xiaoxin Ye)が博士号はく奪されたことも、ポスドクに来る直前の大学の10数論文が撤回されたことも知っているはずだ。

近藤勝義教授は調査をしないのだろうか? 知っているのに調査しないのは、公正が大きく欠ける。盗品と知りつつ物品を買う盗品故買商みたいな印象を受ける。近藤勝義教授本人でなくとも、あるいは、近藤勝義教授周辺の人が大阪大学に調査を依頼しないのだろうか? 大阪大学・本部の研究公正担当者が自発的に調査しないのだろうか?

大阪大学はネカト調査・処分・公表などネカト対処のレベルが低く、悪名が高い大学の1つと言われている。善処を望みたい。

白楽が通報しないと、大阪大学は動かない? 通報しても、動かない?

近藤勝義研究室の論文リストから、シャオシン・イエ(Xiaoxin Ye)の1年半のポスドク時代に出版した11論文を選んで、以下にリストした。出典:http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/~dpt6/Paper.pdf

      1. B. Chen, J. Shen, X. Ye, J. Umeda, K. Kondoh: Advanced mechanical properties of powder metallurgy commercially pure titanium with a high oxygen concentration, Journal of Material Research, 32 19 (2017) 3769-3776, DOI:10.1557/jmr.2017.338.
      2. B. Chen, J. Shen, X. Ye, L. Jia, S. Li, J. Umeda, M. Takahashi, K. Kondoh: Length effect of carbon nanotubes on the strengthening mechanisms in metal matrix composites, Acta Materialia, 140 (2017) 317-325, DOI:10.1016/j.actamat.2017.08.048.
      3. X.X. Ye, B. Chen, J.H. Shen, J. Umeda, K. Kondoh: Microstructure and strengthening mechanism of ultrastrong and ductile Ti-xSn alloy processed by powder metallurgy, Journal of Alloys and Compounds, 709 (2017) 381-393, DOI:10.1016/j.jallcom.2017.03.171.
      4. B. Chen, J. Shen, X. Ye, H. Imai, J. Umeda, M. Takahashi, K. Kondoh: Solid-state interfacial reaction and load transfer efficiency in carbon nanotubes (CNTs)-reinforced aluminum matrix composites, Carbon, 114 (2017) 198-208, DOI:10.1016/j.carbon.2016.12.013.
      5. X.X. Ye, H. Imai, J.H. Shen, B. Chen, G.Q. Han, J. Umeda, M. Takahashi, K. Kondoh: Dynamic recrystallization behavior and strengthening-toughening effects in a near-α Ti-xSi alloy processed by hot extrusion, Materials Science & Engineering A, 684 (2017) 165-177, DOI:10.1016/j.msea.2016.12.054.
      6. J. Shen, B. Chen, X. Ye, H. Imai, J. Umeda, K. Kondoh: The formation of bimodal multilayered grain structure and its effect on the mechanical properties of powder metallurgy pure titanium, Materials and Design, 116 (2017) 99-108, DOI:10.1016/j.matdes.2016.12.004.
      7. X.X. Ye, H. Imai, J.H. Shen, B. Chen, G.Q. Han, J. Umeda, K. Kondoh: Study of twinning behavior of powder metallurgy Ti-Si alloy by interrupted in-situ tensile tests, Materials Science & Engineering A, 679 (2017) 543-553, DOI:10.1016/j.msea.2016.10.070.
      8. X.X. Ye, H. Imai, J.H. Shen, B. Chen, G.Q. Han, J. Umeda, M. Takahashi, K. Kondoh: Strengthening-toughening mechanism study of powder metallurgy Ti-Si alloy by interrupted in-situ tensile tests, Journal of Alloys and Compounds 694 (2017) 82-92, DOI:10.1016/j.jallcom.2016.09.319.
      9. J. Shen, H. Imai, B. Chen, X. Ye, J. Umeda, K. KONDOH: Highly Thermally Stable Microstructure in Mg Fabricated Via Powder Rolling, JOM, 68 12 (2016) 1-6, DOI:10.1007/s11837-016-2209-2.
      10. G. Han, J. Shen, X. Ye, B. Chen, H. Imai, K. Kondoh, W. Du: The influence of CNTs on the microstructure and ductility of CNT/Mg composites, Materials Letters, 181 (2016) 300-304.
      11. J. Shen, H. Imai, B. Chen, X. Ye, J. Umeda, K. Kondoh: Deformation mechanisms of pure Mg materials fabricated by using pre-rolled powders, Materials Science & Engineering A, 658 (2016) 309-320.

《1》イイ感じだが・・・

ボードー・スターン(Bodo M. Stern)が提唱する「まず論文掲載、後からキュレート(publish first, curate second)」は論文の将来としてイイ感じがする。

論文掲載料が無料なら捕食論文は激減すると思われる。ただ、ネカト防止には特別の効果を期待できない。ネカト防止に関して、別途、一層の方策を練る必要がある。

もう1つ気になる点はお金の量と流れだ。学術論文の世界市場は現在1兆円である。大学図書館と各研究者が学術誌購読料や論文掲載料として1兆円を払い、学術出版社が1兆円を受け取っている。それらの原資は各国政府の研究予算である。

ボードー・スターンは原理として「まず論文掲載、後からキュレート(publish first, curate second)」を提唱したが、お金の量と流れがどうなるのか具体的に示していない。総コストはもちろん低くなるのだろうが、総コストを半額の5千億円としよう。それで、実行に移した時、誰が誰に対していくら払うのかが見えてこない。それで、スターン計画がうまくいくのか破綻するのかが見えてこない。実行しつつ補修していくのだろうが、金の量と流れが気になる。

《1》コミュニケーションが破綻

エレン・ラーセン(Ellen Larsen)http://bulliedacademics.blogspot.com/2007/07/professor-ellen-larsen.html

研究成果の盗用だとマイケル・ピシュノフ(Michael Pyshnov)が主張しているラーセン教授の盗用は、盗用したとするラーセン教授の学会要旨は完全論文として出版されていない。学会要旨のレベルで、盗用と騒ぐのは、どうなんだろう? 大げさすぎる気がする。

ラーセン教授の説明ではピシュノフと共著の学会要旨は内容に不備があり撤回した。そして、再び実験をしなおして、Aaron Zornと共著で学会要旨として出版した。実験をしなおしたので、タイトルも内容もよく似てしまった。

一般論を言えば、ラーセン教授はピシュノフに学会要旨の不備な点、別の院生と実験をし直すことを説明すべきだった。実は、説明したのかもしれないが記述にない。

ただ、白楽の経験では、教員と院生のコミュニケーションが破綻すると、院生はデータを持ってこないどころか、不登校になり、共同研究は破綻する。院生は反抗的になり、破滅的な行動をとることが多い。ラーセン教授とピシュノフの関係もそうなったに違いない。となると、学会要旨の締切日があるので、十分説明できずにAaron Zornとの共著の学会要旨をラーセン教授は提出したのだろう。

《2》解明

指導教員に研究成果が盗まれたと訴える院生の事件は珍しくない。

しかし、この時、盗用かどうかの解明は難しい。事実よりも、《1》で述べた人間関係が根本にあり、誠実な調査が難しい。

なお、32年前の1987年のラーセン事件のウェブ上の情報のほとんどは、マイケル・ピシュノフ(Michael Pyshnov)が書いたものに基づいている。当時の新聞記事は見つからず、大学の文書は公表されたのかどうか不明だが、2019年4月14日現在、ほとんど見当たらない。

事実を伝えるには、新聞記事や大学の文書をウェブ上にズット保存しておくことがとても重要に思える。

《1》監督責任

別の記事で、日本のネカト事件のデータを集計した。その記事で、ネカト事件で日本は監督責任で処分されるが、世界には監督責任という処分はない、と書いた。

2001年‐2018年の18年間の339件のネカト・クログレイ事件のうち、27件が監督責任で処分を受けている。日本以外の世界(欧米だけではなく世界)は、「不正行為に関与していない」教員を処分することはない。(1‐1‐1.ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編 | 研究倫理(ネカト、研究規範)

スタンリー・ラポポート(Stanley Rapoport)の事件を調べながら、研究室の複数の室員が別々にネカトを犯した時、研究室主宰者はどのような処分を受けるのか? 米国の例が学べると考えた。

ネカト事件発覚後、ラポポートは研究室を閉鎖した。事件を記事にしようと最初に思った時、これは、ヒョットしたら、監督責任で処分されたのかと思った。

しかし、事件を調べても、ラポポートが処分され、それで研究室を閉鎖したという記述はない。処分があったのかなかったのか、どうもはっきりしない。

2019年4月11日現在、NIHも研究公正局もスタンリー・ラポポート研究室の3人がネカトを行なったと公式には発表していない。ただ、各学術誌の論文撤回の説明で、NIHは、ラポポート ではなく、室員の3人がネカト犯だと出版社に伝えていた。スタンリー・ラポポート自身はネカトをしていない。

調査結果が公表されていないし、ラポポート自身がネカトをした記述はどこにもない。それなのに、ラポポート研究室が閉鎖された。これはネカトの監督責任で処分されたのだろうか?

しかし、調べてわかったのは、研究室を閉鎖した2017年、ラポポートは84歳(?)だ。2016年の写真でもラポポートはそこそこ高齢であることがわかる(写真の右から2人目)。

https://nihrecord.nih.gov/newsletters/2016/07_29_2016/story6.htm

ネカトの監督責任で処分されたのではなく、高齢で、自分で研究室を閉鎖したと考えた方が妥当だ、と納得した。

やはり、米国には、ルールとしてはもちろん、文化風土としても、監督責任の処分はないと思う。

《1》プランS

2020年1月1日というから、もう9か月後に迫った「プランS」だが、学術論文の覇権とカネとメンツの戦いは予断を許さない。

1兆円ビジネスの学術論文を牛耳ってきた5大出版社(SAGE、Elsevier、Springer Nature、Wiley-Blackwell、Taylor&Francis)が、土壇場でうっちゃるのか、理想論を掲げ研究助成機関と大学図書館を味方につけた欧州科学委員会(Science Europe)が押し出しで勝利するのか?

今回読んだシャーロット・ハウグ(Charlotte J. Haug)の「2019年のN Engl J Med」論文は説得力がある。文章もうまい。ハウグはNEJM誌の国際特派員だから、当然、プランSに批判的である。

白楽はハウグの指摘がかなり的を射ている印象がある。ただ、研究情報交換の手段は何が適切か? その費用は誰がいくら払うのか? 白楽は自分の意見を持つほど、事態を十分に把握できていない。ただ、動向にはとても興味がある。

シャーロット・ハウグ(Charlotte J. Haug)https://www.etikkom.no/Aktuelt/Fagbladet-Forskningsetikk/arkiv/2015/2015-2/flere-falske-fagfeller/

一方、日本の学術界・大学・研究者はこのプランSの議論に無関心と思えるほど無風状態である。単に無知なのか、理解できないのか、ルール作りは欧米に任せて日本は従うだけと考えているのか? 無風でなく、風があるとしても、馬の耳に東の風のようだ。

《2》ネカト防止

オープンアクセス出版(Open access publishing)の発達に伴い、悪貨である捕食論文がベッタリと張り付いて栄えてきた。「プランS」は捕食論文の排除を目的としてはいないが、排除の方向なのだろうか?

イエイエ、印象としては、捕食論文は益々増える方向に思える。そして、「プランS」はネカト防止には何の効果もない。

「プランS」移行後も、捕食論文抑制とネカト防止に関して、別途、一層の方策を練る必要があるだろう。

《3》日本版プランS

日本も日本版プランSを実施したらどうだろう。

「日本ファースト」「Make Nippon Great Again」

日本の国立大学の研究者が得た研究成果、および、日本政府の研究助成機関から研究助成された研究成果は、全て、閲覧無料のオープンアクセス方式で日本語で出版されなければならない。勿論、外国語でも出版してよい。

理由は、これらの研究成果は日本国民の税金で得られた研究成果である。その研究成果は日本国民に還元すべきだ。研究成果を外国語でしか発表しないのは出資者を裏切る行為である。守れない研究者には研究費の返還を要求し、次回以降は研究助成を行なわない。

日本の研究の発展にプラス、マイナス?

《1》規則

ジェイガー事件で、ジェイガーが行なったとするセクハラ行為はアウトだと思うが、ロチェスター大学はシロと判定した。

白楽は調査委員ではないので、具体的にどのような証拠・証言があり、どう判定したのかは、記事でしか知りようがない。教員のセクハラ行為のシロ・クロ判定には学内政治や教員間の愛憎・好き嫌いが作用するだろう。

もちろん、冤罪は避けなければならない。

ただ、ジェイガーに女性院生と性的関係はあったが、その行為はセクハラではないとした大学とホワイト委員会に大いに疑問を感じる。ホワイト委員会はロチェスター大学の2014年以前の規則では禁止していなかったとの理由を挙げている。

大学の規則がどうのこうのよりも、2014年、米国社会は既にセクハラを禁止してからかなりの年月が経っている。反社会的行為であることは明白だ。ロチェスター大学が怠慢で規則を修正していなかっただけである。

おかしい。

《2》判定

論文盗用では盗用文章と被盗用文章を比較して判定できるが、このような明確さは、セクハラ事件の場合、どう判定できるのだろうか?

相手の同意の証明、物理的接触、使ってならない言葉など、境界線を引くのは難しそうだ。
→ セクシャルハラスメント – Wikipedia

そして、セレステ・キッド(Celeste Kidd)と性的関係があった時、ジェイガーは独身だった可能性が高い。

そうだとすると、20代後半の4歳違いの独身の男女が性的関係を持ったとしても、多くの場合、恋愛だとみなされる公算が高い。問題は、大学教員と指導下の院生という上下関係だが、判断は難しい印象だ。

オーストラリアでは大学教員と学生の性的関係を一律禁止にしたが、これはこれで、法律違反にならないのだろうか?

《3》セクハラ病

大学教員のセクハラ行動は、その教員に恋人・妻・同居の異性がいることが何らかの影響を与えるだろうか?

つまり、ジェイガーがセクハラをしていた時、安定したセックスパートナーや妻・恋人がいたのか? もしいたなら、その女性はジェイガーのセクハラ行為を防止できなかったのか?

それとも、セックスパートナーや妻・恋人の存在とセクハラは無関係か? 性的欲求不満が強さとは無関係で、ジェイガーの女性観・権力観それと教授-院生の関係観に起因しているのだろうか?

セクハラする男性(女性でも)に共通の特徴は何なのだろう? 女性観・権力観それと教授-院生の関係観に起因しているならそれはいつどのように形成されるのだろう?

《1》FBI

田舎のオハイオ川の洪水を予報する50代後半の水文学の所員を、スパイで逮捕と聞いて、白楽は驚いた。シェリー・チェンは博士号を取得していない。失礼なことを言って申し訳ないが、研究成果は超一流ではない。重要な情報をもつ所員(研究員?)とは思えない。

米国の機密性の高い情報は、アクセスできる人が数段階で規制されている。同僚のパスワードで同僚と一緒にダムの情報をダウウンロードしても、その程度でアクセスできる情報は、米国のトップシークレットの国家機密とは思えない(白楽の推定)。

ただ、シェリー・チェンの大学のクラスメート・シャオ・ヨン(Jiao Yong)が中国の政府高官に出世し、中国の水資源省の副大臣になっていた。副大臣にダムの情報を伝えたことで、スパイとされた。

シェリー・チェンの経歴を見れば、スパイで逮捕するほどの重要なスパイ活動ができるとは思えない。

国家機密の漏洩ではないのに逮捕したのは、結局、非難されているように、人種偏見による逮捕だと思える。もう1つは、中国に対する警告とイヤガラセだろう。そういえば、昔、日本人研究者の遺伝子スパイ事件があった。この遺伝子スパイ事件で日本の経済界は米国の医薬品開発情報の入手に強く委縮した。
→ 2001年(?)、石塚泰年:日経バイオビジネス「遺伝子スパイ事件」http://www.ethics.bun.kyoto-u.ac.jp/fine/tr4/NLishizuka.pdf

中国人科学者のスパイ疑惑事件に、2018年12月1日に「自殺」したスタンフォード大学の張首晟・教授(55歳)事件がある。張首晟・教授もスパイだと噂されていた。このレベルだと、スパイ活動が「あったかも」と思う。

2018年12月1日、スタンフォード大学で開催されたパーティが撥ねて、サンフランシスコに戻った張首晟教授がビルから飛び降 りて「自殺」した。享年55歳。一種「怪死」である。
 張首晟教授は15歳で神童とされ、上海の名門「復丹大学」に入学し、その後、ドイツ自由大学、ニューヨーク州立大学へ 留学、30歳の若さでカリフォルニアの名門校スタンフォード大学教授(物理学)となった。
 同僚の多くが「ノーベル賞に一番近い天才肌の学者」と太鼓判を捺すほどの業績を挙げた。(宮崎正弘の国際ニュース・早読み <<張首晟スタンフォード大学教授が突然、飛び降り自殺した (2018年12月14日発行) | 宮崎正弘の国際ニュース・早読み – メルマ!

なお、FBIはアメリカ陸軍工兵隊のタレコミでシェリー・チェンをスパイ容疑で逮捕した。裁判の1週間前、政府は、理由をほとんど説明することなく、シェリー・チェンに対するすべての訴訟を取り下げた。

この過程と結果をみると、FBIの捜査がズサンすぎる。FBIはバカにされるよ。

また、今回のスパイ事件で、陸軍の知り合いに“何か”を頼むのは危険だとも思った。

そういえば、白楽は昔、米国NIH・国立がん研究所のポスドクだった。仲良しの女性テクニシャンの家に遊びに行った。旦那さんは海軍・情報局の技術者だった。当時は気にしないで一緒に遊んでもらったが、危険だったのかも。ただ、当時、日本政府の高官に知人はいなかった。

《1》国外逃亡

スイスの大学で事件を起こしたフランス国籍の教授が、逮捕される前に、自分の家があるフランスの小さな街・サンブレ(Saint-Bres)に移動した。フランスは自国民を他国に引き渡すことはない。EUになって欧州域内は自由に移動でき、就職できても、スイスはEU加盟国ではない。犯罪者は引き渡さない。という記述もあったが、結局、引き渡したようだ。

日本に在住の外国人研究者が事件を起こしたとき、海外に逃亡したらどうなるのだろうか?

あるいは逆に、外国に在住の日本人研究者が事件を起こしたとき、日本に逃亡したらどうなるのだろうか?

各国は他国からの要求があっても犯罪人を引き渡す義務を負うものではないが、犯罪人引渡し条約を2国間または多国間で結ぶことで犯罪人の引渡しの義務を相互に約する。2016年現在、日本は2か国、フランスは96か国、イギリスは115か国、アメリカは69か国、韓国は25か国と犯罪人引渡し条約を締結している。(犯罪人引渡し条約 – Wikipedia

犯罪は逃亡国によっては、引き渡されるかもしれない。しかし、ネカトは犯罪ではないので、国外逃亡可能である。

日本人研究者は外国で研究ネカト事件を起こしても、日本のメディアで報道されることはマレだから、日本で大学教授・研究者に在職している人がかなりいる。調査し対処する公的機関を設けるべきだろう。

《2》著者7人の論文の6番目著者

名門大学の臨床医学系の教授が55歳で小さな街の副市長(市会議員、評議員?)に就任した。

ふ~ん。欧州ではよくあることなのだろうか? 欧州や米国では大学教授から国会議員になった人はそこそこいるので、地方の首長も珍しくないのだろう。

日本でもいる。

上智大学・教授から衆議院議員の猪口邦子、古くは東京教育大学教授だった美濃部亮吉(みのべりょうきち)が都知事になった。

《3》著者7人の論文の6番目著者

撤回された「2014年のBr J Psychiatry」論文は、著者7人の論文で、アラン・マラフォスは6番目の著者である。生物医学論文の常識では、この論文が高く評価されれば、栄誉は第一著者または最終著者が得る。著者7人の論文の6番目著者は、論文への貢献度が最も低い研究者で、まあ、つけたしである。栄誉はいかない。

それなのにどうして、悪いことの責任だけをとらされるのか? 論文ねつ造の責任が第一著者か最終著者にいかないのは不思議だし、6番目の著者にいくのは「かなり」不思議である。語られていない事実があるように思えて仕方ない。

それに、撤回された「2014年のBr J Psychiatry」論文の大きなポイントは、「遺伝子NR3C1がメチル化(遺伝子の変化)され」たことだ。この部分がデータねつ造だと、論文撤回は当然だが、逆に、この部分のデータをアラン・マラフォスが提供したなら、著者7人の論文の6番目というのはヘンだ。

著者7人の所属を並べてみよう。全員、ジュネーブ大学医学部に所属し、番号4に同じ研究室の人が2人いるが、他は研究室が異なる。
1. Nader Perroud, MD, Department of Mental Health and Psychiatry, Service of Psychiatric Specialties, University Hospitals of Geneva, and Department of Psychiatry, University of Geneva;
2. Alexandre Dayer, MD, Department of Mental Health and Psychiatry, Service of Psychiatric Specialties, University Hospitals of Geneva, and Departments of Basic Neuroscience and of Psychiatry, University of Geneva;
3. Camille Piguet, MD, Department of Neuroscience, Faculty of Medicine, University of Geneva;
4. Audrey Nallet, MSc, Sophie Favre, PhD, Department of Psychiatry, University of Geneva;
5. Alain Malafosse, MD, PhD, Department of Psychiatry, University of Geneva, and Department of Genetic Medicine and Laboratories, Psychiatric Genetic Unit, University Hospitals of Geneva;
6. Jean-Michel Aubry, MD, Department of Mental Health and Psychiatry, Bipolar Programme, Service of Psychiatric Specialties, University Hospitals of Geneva, Switzerland.

アラン・マラフォスの研究室からアラン・マラフォス1人だけが著者である。アラン・マラフォスだけがMD, PhDである。

疑問は解けない。

《4》54歳の教授

撤回された「2014年のBr J Psychiatry」論文のねつ造部分はDNAのメチル化である。54歳の医学部・教授が、自分で実験作業をするだろうか? 日本では、通常、あり得ない。スイスではどうなっているのだろう?

では、

    1. 誰も実験しないで、アラン・マラフォスがデータをねつ造した
    2. テクニシャンが出したデータを、アラン・マラフォスが改ざんした
    3. テクニシャンがデータをねつ造したのを、アラン・マラフォスが責任をとった → これはないでしょう。

事実はどれなのでしょう?

そして、アラン・マラフォスはすでに、精神病遺伝学では世界的に著名である。そのような人が、54歳で初めてデータねつ造をするだろうか?

法則:「ネカト癖は研究キャリアの初期に形成されることが多い」。

多分、「2014年のBr J Psychiatry」論文以外にも多数の論文でネカトがあるのではないだろうか? 研究費不正の事件が大きいので、ネカト調査をいい加減に済ませたのではないだろうか?

そうでなければ、著者7人の論文の6番目の論文で、しかも名声が確立した医学部教授が、データをねつ造した動機がどうも理解できない。失うものが大きい一方、得るものがほとんどない行為を、どうして、54歳で初めてしたのだろう?

《1》担当部署

今回紹介した論文は2017年10月26日の記事で、「学術の質を維持するためには何らかの行動をとるのが急務だ」と警告している。

それから1年半経過した2019年3月27日現在、日本は、何らかの行動をとっているのか?

毎日新聞の鳥居記者が熱心に記事にしたおかげか、いくつかの大学(の図書館)は捕食「論文」についての警告を発している。一方、捕食「会議」については、どうだろう。

捕食「論文」は大学図書館のテリトリーだが、捕食「会議」は大学図書館のテリトリーではない。それで、図書館は動かない。大学の動きは鈍い印象である。

《2》共依存

捕食論文の記事で何度か書いたが、研究者・院生が捕食学術誌の餌食ではなく、共依存という説が大きい。

捕食学術誌と知っていて論文原稿を投稿する研究者・院生が、実は、かなり多い。

同じように、研究者・院生は捕食会議と知っていて、参加する。

捕食会議は世界の有名な観光地で開催される。研究者・院生は研究費から参加費と旅費を得る。だから、いい加減な会議で自分が15分程度発表し、あと、3日くらい遊んで帰国する。会議主催者はこれを承知でアリバイつくりに協力してくれる。実際、会場で参加者が発表している写真を撮ってくれ、ウェブに会議録と共にアップしてくれる。これが、研究発表した証拠になる。

つまり、かなり多くの研究者が研究費で遊んでいるのが実態のようだ。

もっとも、真正な国際会議でも、会議中に遊ぶプログラムが組まれ、懇親という名目でご馳走を食べる晩餐会・懇親会はある。

《3》データ

今回紹介したジャック・グローブ(Jack Grove)の「2017年のTimes Higher Education」記事は、営利企業による捕食会議(“Predatory” conferences)の開催数は、真正な学術団体の会議数を上回っていると述べている。

しかし、この事は事実かどうか疑わしい。記事中で証明していない。マクロスティー准教授の“印象”をそのまま使っただけだ。

白楽は、世界中で開催している学術会議(真正と捕食)の数、参加者数、参加費の統計的データを見たことがない。

データがどこかにあるのだろうか? どこかが把握しているのだろうか?

《1》人種・女性偏見

http://grandgesture.blogspot.com/2014/01/chicago-state-university-would-prefer.html

ネカト事件を追及すると、本来ネカトと関係ないのだが、ネカト者が人種差別で告発されたと主張することが多い。

今回のアンジェラ・ヘンダーソン(Angela Henderson)もアフリカ系アメリカ人の女性であることを盾に、「一般的な問題として、アフリカ系アメリカ人の女性が高等教育界で出世していくと、しばしば学内政治で不利になり、否定的で理不尽な攻撃にあうのです」と述べている。

米国社会は、人種差別・女性偏見を持ち出されると、正義が引っ込む。

《2》盗博?

ヘンダーソン事件はイリノイ大学の副学長と学部長が処理を間違えて、イリノイ大学が 7,000万円の損害賠償金を払うことになった。その和解の過程で、イリノイ大学は盗博ではないと結論した。白楽が推察するに、盗博ではないと結論することで、3,000万円くらい損害賠償金額を低くしてもらったのではないだろうか?

しかし、盗博かどうかについては、シカゴ・トリビューン紙がヘンダーソンの博士論文を3人の専門家に評価してもらった。3人の専門家は盗博だと結論している。白楽はこちらの方が正しいと思う。

文句があるなら、イリノイ大学、そして、ヘンダーソンは博士論文を公開したらどうだ、と言いたい。2014年にビオナズ教授が情報公開法で公開を請求しても、イリノイ大学は「家族の教育権およびプライバシー法(FERPA)」を盾に公開しなかった。

小中高生なら「家族の教育権およびプライバシー法(FERPA)」で保護するのは妥当だと思うが、いい大人に対して、特に、今回のようなケースはこの法律の適用外とすべきだろう。博士論文のネカト疑惑があるのに、この法律で博士論文を非公開にするのは、おかしい。院生以上はこの法律を適用しないとすべきだ。

《1》必見と厳罰

ギルバート・ウェルチ(Gilbert Welch)は、過剰な検診に反対する医療政策を提唱し、米国の医療政策に大きな影響力を持っている。

白楽が推察するに、ウェルチは、名声を得、大きな権力を持ち、自分を神と思うようになったのだろう。そして、軽い気持ちで仲間のアイデアと図表を盗用したのだろう。偉い人にありがちである。

「ズルしたい」「得したい」は人間の本能である。

このようなケースのネカトに教育や研修は役に立たない。必見と厳罰で対処するしかない。

《1》母数

読んでしまってから文句を言っても仕方ないのだが、というより、読まなければ文句の言いようがないが、この論文は、調査対象の捕食論文が31報と少ない。その上、インタビューした著者が6人とは、メッチャ、少なくて、論文として成り立たない、と白楽は思う。南デンマーク大学の研究者・院生の一般論としても勿論、「デンマークの研究者は・・・」などと一般化はできない。

論文の意図は優れているのだけれど、サンプル数が少なすぎで、論文は役に立たない。

《2》論文の意図

上記《1》のように、この論文は役に立たないと思っていながら、ナンカ、この論文に引っかかっていた。

そして、ある日、「はあー、なるほど」と腑に落ちた。

ほとんどの大学は所属の教員・院生に捕食学術誌に論文を出版しないよう警告している。しかし、さほど効果がない。

でも、所属大学の図書館長がその大学の教員・院生の誰々がいつ捕食論文を出版したかを知っている。そして、どういう意図でその捕食論文を出版したかを問い合わせてくる。となると、教員・院生は“軽い気持ち”で捕食論文を出版できない。

要するに、「私たちは監視していますよ。あなたが論文数を増やしたい意図でガラクタ論文を出版しているのを見ていますよ」と、学内の教員・院生に警告しているのだ。

この視点でみると、この論文はとても役に立つ。これが、この論文の真の意図だと理解した。深読みしすぎ?

《3》デンマークBFIリスト

デンマークBFIリスト(Danish Bibliometric Research Indicator)は有用そうである。2019年版「BFI list of series 2019 (excel)」で20,237学術誌が、「BFI list of publishers 2019 (excel)」で1,259出版社がリストされていた。

ビールの捕食誌リストがウェブから消滅しているので、デンマークBFIリストは、捕食誌を特定するリストの1つとして有効な気がする。

なお、デンマークBFIリストの1,259出版社に、「Japan」の単語がついてる出版社は「Japan Scientific Societies Press」の1社しかリストされていない。勿論、「Nihon」「Nippon」はゼロです。日本はこれでいいのでしょうか?

《1》弁解

ねつ造・改ざんが指摘された時の研究者の言い訳の定番の1つは、「論文の結論に影響しない」である。

ねつ造・改ざんは「論文の結論」を問題にしていない。ねつ造・改ざん行為そのものが「あったかどうか」である。

研究者は、本気で「論文の結論に影響しない」ならねつ造・改ざんしてもいいと、思っているわけではないと思うが、どうなんだろう? 「論文の結論に影響しない」ならねつ造・改ざんしてもいいと、本気で思っているのだろうか?

鋭利なナイフで何度も刺している殺人犯が「殺すつもりはなかった」と言うように、白楽は、単なる弁解と受け取っている。

《2》10年以上前のネカト処分

2001年-2007年に出版したロペス=オーチンの8論文を2019年に撤回した。18-12年前の論文の撤回である。

コストを考えると、こんなに古い論文の撤回の意味・メリットはあるのだろうか?

学問的には、18-12年前の論文結果を直接使って、医薬品開発や自分の研究を構築することはないだろう。だから、放置しておけという視点がある。しかし、昔のネカトが発覚した時、放置すれば、正義が滅び、ネカトが栄える。

ただ、単に論文撤回と現職の解雇では「ネカトやり得」である。

ネカトがあったなら、ロペス=オーチンを解雇し、18年前からネカトで築いた名誉・名声・財産などを没収する。没収額の計算は難しいだろうが、一律、現在の財産の8割没収、あるいは、今後の生活に困窮しない額を除き、残りの全財産を没収するでもよい。

そういう罰を科さないと「ネカトやり得」になる。

一方、別の視点に立つと、時効もありかも。

《1》優れた総説

捕食学術誌に関する基本的な知識と標準的な考え方をまとめた優れた総説だ、と感じた。

でも、この総説では、捕食誌問題は解決しない、と感じた。

《1》公正な評価

https://ecals.cals.wisc.edu/2013/06/10/34949/

砂漠で金塊を見つけたら、誰しも1人占めしたくなるだろう。

あそこらへんに金塊があるかもと知らせてくれた人の貢献に報いるべきか? その人の貢献をどの程度評価するのか? 公正と不正の間の線をどこに引くか、難しいだろう。

デルーカは、ビタミンD誘導体合成方法の特許で、4億2,650万ドル(約427億円)の特許使用料を得たのである。

デルーカ事件では、1987年6月、ワーフはマサチューセッツ州の医療化学研究所に少なくとも600万ドル(約6億円)を支払うことで和解した。さらに、2018年11月、被盗用者の所属するワシントン大学に3,160万ドル(約32億円)を支払うことになった。

示談で和解した金額が6億円とか32億円である。ハンパない額だ。

2件とも、研究者の論文原稿から研究アイデアを盗用し、自分の特許に組み込んだのだ。ウィスコンシン大学の最初の調査委員会は盗用と結論していたのだが、ウィスコンシン大学は自分に都合の悪い事実を隠蔽し(調査報告書まで隠蔽し)た。別の委員会を設け、シロと結論させた。その大学の調査を議会の調査部門は追認し無罪とした。NIHも欺き、裁判でもシロ、議会をダマしていた。

しかし、「イスマス(Isthmus)」新聞が問題を掘り起こし、結局、2件とも、最終的には、裁判所が盗用と判定した。

ウィスコンシン大学は最初の調査委員会を除いて、一貫して、事実の解明より利益の確保を優先した。大学の態度を一般論として論じにくいが、米国の一流大学でこのようなことが起こる、となると、研究ネカトの調査を大学任せにしている現状は、かなり危ない状況である。猫に魚の番をさせているようなものだ。

2重らせんでノーベル賞を受賞したワトソンもフランクリンの研究成果を不当に低く評価したと批判されている。

偉大な発見の多くの場合、周囲の研究者の研究成果の貢献を低く見ることで自分の成果を強調していると思われる。この事を調べた研究があったと思うが、ちと、思い出せない。

《2》死を賭した正義

NIHのウォルター・スチュワート(Walter Stewart)はデルーカ事件をウィスコンシン大学がもみ消したことに、毅然と抗議した。「20世紀最大の研究不正の1つ」という認識だった。

ところが、当時ウィスコンシン大学の学長だったドナ・シャララ(Donna Shalala)はビル・クリントン大統領によって健康福祉省・長官に任命された。NIHは健康福祉省の直系の組織である。長官任命の直後、スチュワート捜査官と彼の同僚のネッド・フェダー(Ned Feder)が所属していたNIHの詐欺防止室(fraud-fighting office)は閉鎖され、2人は配置転換させられた。

ドナ・シャララ長官が詐欺防止室の閉鎖とスチュワートらの配置転換を直接命じたとは思わない。日本では官僚に蔓延している「忖度」が、ここ米国でも起こったのだろう。ゴマスリ官僚が詐欺防止室の閉鎖とスチュワートらの配置転換をしたのだろう。

この時、48歳のスチュワート捜査官はハンガーストライキで抗議した。33日間で14kgも体重が減るという過酷なストライキだ。過去の例として、40日以上のハンガーストライキは死んでいる。以下に示すように30時間でアウトになった青島幸男と比べると、33日間は壮絶である。

青島幸男のハンガー・ストライキは、30時間以上が経過したところで脱水症状に陥ったために緊急入院せざるを得なくなり、中断を余儀なくされた。(ハンガー・ストライキ – Wikipedia

ネカト調査がおかしいと抗議して、決死の行動をとった人がいたという事実は、スゴイと思う。

日本では、これほどでなくても、今まで、ネカト調査の不正に強く戦った人はいない。現実は、自分の身をを安全圏に置き、不正を指摘する。そのような行動でも勇気がいる状況である。

死を賭して正義を主張する。エライというか壮絶である。

1988年4月11日、議会の公聴会「科学ネカト、不正行為、および連邦政府の対応(Scientific Fraud, Misconduct, & the Federal Response)」で証言するNIHのウォルター・スチュワート(Walter Stewart)。動画出典。動画の1時間15分44秒頃に登場する

《1》パブメド(PubMed)

スコーパス(Scopus)の採録論文の1%が捕食論文だとすると、捕食学術誌の排除基準にスコーパス(Scopus)を使えない。

今回のヴィト・マカセック(Vít Macháček)の論文は2015年までの論文を分析しているが、その後、2016年以降現在まで、どうなっているのか分析して欲しい。

また、他の信頼されているデータベース(パブメド(PubMed)など)への捕食論文の浸透度も、(誰か)調査して欲しい。

《2》捕食学術誌と認定

どの学術誌を捕食学術誌と認定するかは、難しい。ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が作った「捕食学術誌(と思われる)」リストは、そのまま使えないのに、代案がないのが現実である。

ジェフリー・ビールはオープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals)も否定的である。どうしたらいいんだろう。

《3》反論

マカセックの2017年の論文は、捕食出版社は研究者をダマし餌食するという従来の観念から抜け切れていない。だから、「捕食論文は、ほんの一握りの捕食学術誌に集中している。だから、研究者は、少し学べば比較的簡単に捕食学術誌を避けることができる。おそらく捕食論文の出版は止まるだろう」と述べている。

大ハズレである。

「New York Times」紙のジーナ・コラータ記者(Gina Kolata)が指摘しているように、本当の姿は「捕食」ではなく、捕食出版社と研究者は「グル」、つまり、共依存なのだ。多くの研究者は捕食学術誌と知っていて、というか、捕食学術誌だから審査が楽ですぐに出版してくれるから、捕食学術誌にすすんで論文を投稿し出版するのである。
→ 7-24.捕食業者と研究者はグル | 研究倫理(ネカト、研究規範)

また、チェコの研究者がスコーパス(Scopus)採録論文だけで毎年数百の捕食論文を掲載しているのに、マカセックはあまり心配していない。

白楽は、深刻な問題だと思う。

スコーパス(Scopus)の捕食学術誌に毎年数百論文なら、全部の捕食論文はもっと多い。そして、それらの10分の1が博士号授与、研究職採用・昇進などに寄与していたら、毎年、数十、数百の不正が起こっているということだ。

マカセックは経済学者なので経済学の視点からしか、事態をとらえていない印象を受けた。白楽は、チェコの学術界の深刻な問題だと思う。

《1》大学院・研究初期

ロバート・スタンバーグ(Robert Sternberg)は、25歳で、スタンフォード大学(Stanford University)の研究博士号(PhD)を取得し、直ぐに、イェール大学(Yale University)・助教授に就任した。若き俊才だったことは確かだ。

しかし、自己引用が異常に多い。それに、自己盗用も異常に多い。

どちらもネカトではないけど、クログレイである。

クログレイは公式には不正ではない。不正でないなら、ドンドン行なって何が悪いと言われると、悪くありませんと答えることになるが、それにしても、問題視されるほど、自己引用と自己盗用が多い。

2019年2月22日現在、2019年の出版論文が12報もあって、どれも単著である。2か月間に12報である。こんなに多作なら、この12報に自己盗用があるのかないのか不明だが、単著なので、自己盗用なしだとスゴイ執筆力である。

スタンバーグが多量の自己引用と自己盗用をいつから始めたのか誰も分析していないが、研究キャリアの初期からだと思われる。20代の初期の頃から多量の自己引用と自己盗用をしていたに違いない。

異常なほど多い自己引用と自己盗用で自分の論文を宣伝し、また論文を量産し、学術界で出世していったのだろう。学者として偉くなる1つの方法なのだろう。「ハイ、そうです。偉くなりたい皆さんは真似しょう」と勧めるわけにはいかないが・・・。

現在、自己盗用を排除する学術誌もあるが、研究公正局や文部科学省は不正としていない。そして、自己引用の頻度に関するルールはどこも定めていない。

《2》データ刺客(data thugs)

「撤回監視(Retraction Watch)」が第一発見者の院生・ブレンダン・オコナー(Brendan O’Connor)にインタビューした。

ブレンダン・オコナーは、ニック・ブラウン(Nick Brown)に相談し、ツイッターでスタンバーグの不正を「みんなで探そう」とクラウドソーシング(crowdsourcing on Twitter)を始めた。それで、ニック・ブラウン(Nick Brown)、ジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)など有力どころが参加した。

しかし、「撤回監視(Retraction Watch)」はこのような人たちを「データ刺客(data thugs)」と呼んで否定的である。

一方、ブレンダン・オコナー自身は勇気をもって不正を指摘する個人、つまり「データ刺客(data thugs)」がもっともっと必要だと主張している。

白楽自身はネカトハンタ―ではないが、日本でもネカトハンターがもっと必要だと強く思う。

論文査読者がネカトを見つけることはとても少ない。ましてや文部科学省や大学・研究所がネカトを見つけるのはゼロである。

ネカトを見つけるのは、ネカトハンター(ボランティア)とネカト者にたまたま巻き込まれた関係者(ネカト被災者)である。
→ 1‐1‐1.ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編 | 研究倫理(ネカト、研究規範)

ネカト被災者は「たまたま」なので育成しにくいが、ネカトハンターは育成しうる。ネカトハンターを育成すればネカト発覚・摘発が増え、ネカト監視体制が強化され、ネカト防止になる。

《1》またしてもインド出身

米国のネカト研究者に占めるインド出身者の比率はかなり高いと思われる。

しかし、インド出身者を対象にしたネカト防止策があるのだろうか? 特定の文化的背景を持つ研究者のネカト防止策ということだ。うーん、難しそうだ。