2019年3月1日掲載 。
ワンポイント:インドで生まれ育ち、インドで研究博士号(PhD)を取得し、2007年(58歳?)、米国のメリーランド大学バルティモア校(University of Maryland, Baltimore)・教授になった。2013年(64歳?)、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、ジェイスワル論文の画像がねつ造・改ざんだと指摘した。メリーランド大学バルティモア校は調査したハズだが、調査結果を公表していない。研究公正局も関知しているハズだが、クロと発表していない。2017年(68歳?)、ジェイスワルは、メリーランド大学バルティモア校を退職した。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。2019年2月28日現在、トータル22論文が撤回され、「撤回論文数」世界ランキング(保存版)の第26位(3人いる。27番目に記載)である(The Retraction Watch Leaderboard- Retraction Watch、(保存版))。
【追記】
・2020年8月14日、研究公正局はクロと発表:Case Summary: Jaiswal, Anil Kumar | ORI – The Office of Research Integrity
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】
アニル・ジェイスワル(Anil K. Jaiswal、写真出典)は、インドで生まれ育ち、インドのラクナウ大学(Lucknow University)で研究博士号(PhD)を取得後、米国に渡った。いくつかの研究機関を経て、2007年(58歳?)、米国のメリーランド大学バルティモア校(University of Maryland, Baltimore)・教授になった。医師ではない。専門は細胞生物学である。
2013年7月5日(64歳?)、有名なネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、ジェイスワル論文の画像にねつ造・改ざんがあると指摘した。
2017年(68歳?)、メリーランド大学バルティモア校を退職した。
メリーランド大学バルティモア校は調査したハズだが、調査結果を公表していない。研究公正局も関知しているハズだが、クロと発表していない。
ねつ造・改ざんが明確に指摘されていたのに、60代の教授は、調査を引き延ばし、退職してしまった。それで、退職してしまうと、ますます調査は進まない。研究公正局の締め出し処分というペナルティも威力がない。
2019年2月28日現在、トータル22論文が撤回され、「撤回論文数」世界ランキング(保存版)の第26位(3人いる。27番目に記載)である(The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch、(保存版))。
メリーランド大学バルティモア校(University of Maryland, Baltimore,)。写真By Acroterion – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
- 国:米国
- 成長国:インド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:インドのラクナウ大学(Lucknow University)
- 男女:男性
- 生年月日:不明。インドで生まれる。仮に1949年1月1日生まれとする。1976年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 現在の年齢:75 歳?
- 分野:細胞生物学
- 最初の不正論文発表:2002年(53歳?)
- 発覚年:2013年(64歳?)
- 発覚時地位:メリーランド大学バルティモア校・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)で、学術誌と大学に公益通報
- ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」、「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②メリーランド大学バルティモア校・調査委員会。③研究公正局?
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)。
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:トータル22論文の撤回
- 時期:研究キャリアの後期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。内訳 ↓
- ⑩損害額(大雑把)の場合:5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。インドで生まれる。仮に1949年1月1日生まれとする。1976年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 1976年(27歳?):インドのラクナウ大学(Lucknow University)で研究博士号(PhD)を取得:生化学
- 1983-1987年(34-38歳?):米国のNIH(National Institutes of Health)でポスドク
- 1987年(38歳?):ニューヨーク大学(NYU Medical Center)・助教授
- 19xx年(xx歳):フォックス・チェイス癌センター(Fox Chase Cancer Center)・助教授
- 1997年(48歳?):ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・準教授
- 2004年(55歳?):同・教授
- 2007年(58歳?):メリーランド大学バルティモア校(University of Maryland, Baltimore)・教授
- 2013年(64歳?):不正研究が発覚した
- 2017年(68歳?):メリーランド大学バルティモア校を退職した
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚
2013年7月5日(64歳?)、有名なネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、「2011年のCell Death Differ.」論文の図5aは別の論文で発表した図を重複使用していると、学術誌に指摘し、パブピアにも記載した。
- INrf2 (Keap1) targets Bcl-2 degradation and controls cellular apoptosis.
Niture SK, Jaiswal AK.
Cell Death Differ. 2011 Mar;18(3):439-51. doi: 10.1038/cdd.2010.114. Epub 2010 Sep 24.
Retraction in: Cell Death Differ. 2014 Mar;21(3):503.
★調査
メリーランド大学バルティモア校(University of Maryland, Baltimore)はジェイスワルのネカトを調査したが、調査結果を発表していない。
「撤回監視(Retraction Watch)」がアニル・ジェイスワル(Anil Jaiswal)に問い合わせても、ジェイスワル教授は答えない。
それで、実態がどうなっているのかわからないが、撤回論文数は増えて、2019年2月28日現在、トータル22論文が撤回され、「撤回論文数」世界ランキング(保存版)の第26位(3人いる。27番目に記載)である(The Retraction Watch Leaderboard- Retraction Watch、(保存版))。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
メリーランド大学バルティモア校は調査したハズだが、調査結果を公表していない。研究公正局も関知しているハズだが、クロと発表していない。
つまり、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。
仕方がないので、パブピアで探った。
1つは「★発覚」で記述した「2011年のCell Death Differ.」論文の図5aの重複使用である。
他に2つ、「2009年のClin Cancer Res.」論文と「2009年のJ Cell Sci」論文での指摘を以下に詳しく見てみよう。どれも電気泳動バンドの重複使用というねつ造・改ざん行為である。
★「2009年のClin Cancer Res.」論文
「2009年のClin Cancer Res.」論文の書誌情報を以下に示す。9年後の2018年11月に撤回された。
- NRH:quinone oxidoreductase 2-deficient mice are highly susceptible to radiation-induced B-cell lymphomas.
Iskander K, Barrios RJ, Jaiswal AK.
Clin Cancer Res. 2009 Mar 1;15(5):1534-42. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-08-1783. Epub 2009 Feb 17.
Retraction in: Clin Cancer Res. 2018 Nov 1;24(21):5489
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
この論文にはいくつかの図で電気泳動バンドの重複使用が指摘されている。以下に例を示すが、図4Aと図4Dの「actin」の電気泳動バンドが同一だと指摘された。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/DB0962CF1FE463AA7061AD720DC0AE#2
★「2009年のJ Cell Sci」論文
「2009年のJ Cell Sci」論文の書誌情報を以下に示す。8年後の2017年2月に撤回された。
- Antioxidant-induced modification of INrf2 cysteine 151 and PKC-delta-mediated phosphorylation of Nrf2 serine 40 are both required for stabilization and nuclear translocation of Nrf2 and increased drug resistance.
Niture SK, Jain AK, Jaiswal AK.
J Cell Sci. 2009 Dec 15;122(Pt 24):4452-64. doi: 10.1242/jcs.058537. Epub 2009 Nov 17.
Erratum in: J Cell Sci. 2010 Jun;123(Pt 11):1969.
Retraction in: J Cell Sci. 2017 Feb 15;130(4):816.
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
この論文にはいくつかの図で電気泳動バンドの重複使用が指摘されている。以下に例を示すが、図4Aの「NQO1」の電気泳動バンドが同一だと指摘された。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/B81F626D84D8D80FF5F1E0D7B54969#2
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年2月28日現在、パブメド(PubMed)で、アニル・ジェイスワル(Anil K. Jaiswal)の論文を「Anil K. Jaiswal[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2018年の17年間の110論文がヒットした。
「Jaiswal AK[Author]」で検索すると、1973~2018年の46年間の496論文がヒットした。
2019年2月28日現在、「Joussen AM AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、24論文がヒットした。2つは撤回公告なので、22論文が撤回されていた。
最も古い撤回論文は「2002年のCancer Res」論文で、2018年11月に撤回された。出版してから16年後に撤回とは撤回が遅過ぎである。
- Disruption of the NAD(P)H:quinone oxidoreductase 1 (NQO1) gene in mice causes myelogenous hyperplasia.
Long DJ 2nd, Gaikwad A, Multani A, Pathak S, Montgomery CA, Gonzalez FJ, Jaiswal AK.
Cancer Res. 2002 Jun 1;62(11):3030-6.
Retraction in: Cancer Res. 2018 Nov 15;78(22):6526.
★撤回論文データベース
2019年2月28日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでアニル・ジェイスワル(Anil K. Jaiswal)を検索すると、28論文がヒットし、22論文が撤回されていた。
→ Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。
★パブピア(PubPeer)
2019年2月28日現在、「パブピア(PubPeer)」はアニル・ジェイスワル(Anil K. Jaiswal)の33論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》またしてもインド出身
米国のネカト研究者に占めるインド出身者の比率はかなり高いと思われる。
しかし、インド出身者を対象にしたネカト防止策があるのだろうか? 特定の文化的背景を持つ研究者のネカト防止策ということだ。うーん、難しそうだ。
ーーーーーー
日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓
ーーーーーー
●8.【主要情報源】
① アニル・ジェイスワル(Anil Jaiswal)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:anil jaiswal – Retraction Watch
② 2017年2月13日のジュリア・ハイムリック(Julia Heimlich)記者の「Arc Publishing」記事:A UMB professor lost his research eligibility after multiple retractions – Arc Publishing
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント