国研:「間違い」:炭疽菌被爆、疾病予防管理センター(Anthrax Exposures, Centers for Disease Control and Prevention)(米)

ワンポイント:研究ネカトではない。2014年、所員約75人が猛毒の炭疽菌(たんそきん)にさらされた?

【概略】

Thomas Frieden
疾病予防管理センター所長・トーマス・フリーデン(Thomas R. Frieden)

米国の疾病予防管理センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)は、ジョージア州・アトランタにある連邦政府の国立研究所で、保健福祉省所管である。所員約15,000人を擁し、疾病予防・衛生管理・健康増進の政策決定に必要な情報提供と活動では、世界で最も信頼され、中心的存在である。2009年からトーマス・フリーデン(Thomas R. Frieden、1960生まれ、現・64歳、写真出典)が所長である。

2014年6月19日、疾病予防管理センター(CDC)は、約75~86人の所員が猛毒の炭疽菌(たんそきん)にさらされた可能性があると発表した。

ある研究者(匿名)が、滅菌したと思った炭疽菌の試料を別の研究室に持ち込んだ。そこで、生きているとは知らずに試料を開封した。試料調製中および開封時に被爆した可能性が生じた。

結論を先に言えば、結局、1人の感染者も死者もでなかった。しかし、疾病予防管理に関して、米国で(イヤ、世界で)最も信頼されている国立研究所が危険な微生物の取り扱いでヘマをした。大規模な健康被害につながりかねず、米国では大騒動になった。

なお、2001年 9月、炭疽菌で5人が死亡したバイオテロは、犯人のブルース・イビンズの所属が米国・陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)で、疾病予防管理センター(CDC)とは別機関である。

この事件は、「「The Scientist」誌の2014年の科学トップ・スキャンダル」の第3位になった(2014年ランキング | 研究倫理)。

米国ジョージア州・アトランタにある連邦機関の疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)。写真出典

  • 国:米国
  • 集団名:疾病予防管理センター
  • 集団名(英語):Centers for Disease Control and Prevention.
  • 事件行為者数:1人。行為者は匿名
  • 分野:生命科学
  • 不正年:2014年
  • 発覚年:2014年
  • 発覚:本人の申告
  • 調査:①疾病予防管理センター(CDC)、2014年。②下院・小委員会、2014年
  • 事件:間違い。実験操作の間違いで、猛毒の炭疽菌(たんそきん)に被爆された可能性が生じた
  • 間違い回数:1回
  • 被害(者):約75~86人
  • 結末:本人は不明。上司(実名報道)は配置かえ(左遷?)。

【動画】

【ニュース動画1】
「Anthrax Investigation: USDA Finds More CDC Lab Problems – YouTube」(英語)1分01秒。
wochit Newsが2014/07/16 に公開

【ニュース動画2】
「Scientists exposed to anthrax at US labs: CDC – YouTube」(英語)1分16秒。
ARIRANG NEWSが2014/06/20 に公開

【炭疽菌と炭疽】

★炭疽菌

第二次大戦後、各国は炭疽菌を利用した生物兵器を開発した。米国陸軍は、死亡率が高いエームス株を生物兵器として開発していた。

Bacillus_anthracis大きさは約 1 – 1.2 μm × 5 – 10 μm で、病原性細菌の中では最大の部類である。顕微鏡で観察すると、個々の桿菌は円柱状で、竹の節を直角に切り落としたように見え、これが直線上に配列した連鎖桿菌として観察される(写真出典)。

炭疽菌は芽胞形成菌で、生育環境が悪化すると菌体の中央付近に卵円形の芽胞を形成する。芽胞は熱や化学物質などに対して非常に高い耐久性を持つ構造体であり、このため炭疽菌が生息している環境から菌を除去することは極めて難しい。

第二次世界大戦後に連合軍が行った炭疽菌爆弾の実験では、少なくとも投下後40年以上にわたって、多数の炭疽菌が土壌に残存しつづけるということが判明した。

炭疽菌は土壌に生息、あるいは芽胞の形で存在し、またヒツジなどの動物の体毛にも土壌由来の菌や芽胞が付着して存在しており、世界中で分離される普遍的な自然環境の常在細菌である。

ただし、特に炭疽の発生が多い地帯は世界に2カ所存在しており、この地帯では炭疽菌の生息密度が特に高いと考えられている。

一つは、スペイン中部からギリシャ、地中海を挟んでトルコ、イラン、パキスタンに至る地帯であり、特にトルコからパキスタンにかけては炭疽ベルトと呼ばれることがある。

もう一つは、赤道アフリカ地帯である。また、ジンバブエでは1979年に記録的な炭疽の地域的流行が発生して以降、高度に炭疽菌汚染した地域になっていると言われている。(炭疽菌 – Wikipedia

★炭疽

炭疽(たんそ)とは、炭疽菌による感染症。ヒツジやヤギなどの家畜や野生動物の感染症であるが、ヒトに感染する人獣共通感染症である。ヒトへは、感染動物との接触やその毛皮や肉から感染する。ヒトからヒトへは感染しない皮膚からの感染が最も多いが、芽胞を吸いこんだり、汚染した肉を不十分な加熱で食べた場合にも感染する。自然発生は極めてまれ。

1200px-Anthrax_PHIL_2033炭疽とは「炭のかさぶた」の意味であり、英語名のAnthraxはギリシャ語で「炭」の意味である。この名称は皮膚炭疽の症状で黒いかさぶた(瘡蓋)ができることにちなむ。

肺炭疽症炭疽菌が空気とともに肺に吸入された場合、インフルエンザ様症状を示し高熱、咳、膿や血痰を出し呼吸困難となる。未治療での致死率は90%以上。

ワクチンは日本には無く、アメリカで1社が製造するのみ。しかも3 – 6回の摂取が必要で、副作用の可能性が高く、予防接種はあまり推奨されない。 除染法は、汚染場所にヨウ素・塩素などの殺胞子剤を撒く。緊急時には、塩素系漂白剤を10倍に薄めて霧吹きなどで噴霧する。殺菌用の紫外線放射機器を使用してもよい。

抗生物質により治療可能。ペニシリン・テトラサイクリンなど。他人には感染しないので、隔離の必要は無い。手遅れでなければ治癒する。

炭疽菌の特徴
ヒト・家畜を問わず、死亡率・感染力が高い。世界各地で見られる。潜伏期間は1 – 7日間と短いが、環境の変化などには芽胞の状態で何十年も生き続ける。 培養しやすく、増殖力が強い。(炭疽症 – Wikipedia

Skin_reaction_to_anthrax皮膚炭疽。写真出典

【事件解説の日本語文章】

日本語の解説を引用する。

★2014年6月20日の「AFPBB News」記事

出典:米疾病対策センターの75人、炭疽菌に接触か 不活性化が不適切 :AFPBB News、(保存版

【6月20日 AFP】米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)は19日、米ジョージア(Georgia)州アトランタ(Atlanta)にあるCDC施設で職員75人ほどが誤って炭疽(たんそ)菌にさらされた可能性があると発表した。職員らには抗生物質が投与され経過を観察中だが、感染の恐れは「極めて低い」という。

CDCによると、事故が起きたのは厳重な安全対策を施された研究室だったが、安全性確保の手順が正しく行われていなかったという。

この研究室では、環境試料から危険な病原菌を検知する新手法を開発するため、防護対策のより軽度な別の研究室で行う研究で使う炭疽菌のサンプルを準備していた。しかし「炭疽菌サンプルを不活性化する適切な手順が取られなかった」とCDCは説明している。

調査の結果、他のCDC職員やその家族、一般市民への危険はなく、これらの人々が対策を取る必要はないという。

炭疽菌は土壌に生息する細菌。米国では2001年に、炭疽菌が入った郵便物が複数のメディアや議員宛てに送付され、5人が死亡する事件が起きている。(c)AFP

anthrax20n-1-web炭疽菌の胞子。SMC Images/Getty Images。写真出典

【事件の時系列】

以下、【主要情報源】④を修正翻訳引用する。

2014年6月5日(木):

  • 疾病予防管理センター(CDC)のBRRAT研究室(バイオテロ迅速対応&高度テクノロジー研究室:Bioterrorism Rapid Response and Advanced Technology)の研究者(ここではA研究者と呼ぶ)が マススペクトロスコピー分析のためにB型炭疽菌(たんそきん)(エームズ株)の試料抽出を安全性レベル3の実験室で調製していた。試料抽出した後に、研究者はサンプルを10分間の滅菌処理し、その後、24時間、培養を続けた。

2014年6月6日(金):

  • 24時間後、培養したすべてのプレート(含・炭疽菌のが2枚)を、2人の研究者が炭疽菌の増殖がないことを確認した。
  • 抽出試料を、BRRAT研究室の安全性レベル3の実験室(BSL-3)から安全性レベル2の実験室(BSL-2)に持っていき、その部屋で、スチールMALDI-TOFプレートを調製した。 この調製中にエアゾールが発生し、炭疽菌に被爆した可能性がある。
    なお、MALDI-TOFは、MALDIはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization)の略で、TOF型(Time of Flight、飛行時間質量分析計)の分析部を組み合わせた装置である。
  • 乾燥したMALDI-TOFプレートを、蓋つきのプラスチックのMALDI-TOFプレートホルダーの中に置き、ジップロックでシールし、別の建物(BCFB)の安全性レベル2の生物工学コア施設に持っていき、そこでマススペクトロスコピー分析を行なった。
  • BCFB研究棟の研究者(ここではB研究者と呼ぶ)がMALDI-TOFプレートの小さい薄片に気づいた。それをその部屋の化学フード(安全キャビネット)に持って行き、窒素空気を吹き付けて吹き飛ばした。この処理でエアゾールが発生し、炭疽菌に被爆した可能性がある。
  • MALDI-TOFプレートを、プラスチックのコンテナに入れ蓋を閉めて、BCFB研究棟の中の実験台の上に室温で保存した。

2014年6月7-8日(土日): 放置

2014年6月9日(月): 放置

2014年6月10日(火): 放置

2014年6月11日(水):

  • A研究者は、ジップロックでシールされたバッグに8本のチューブを入れ、安全性レベル2のBRRAT研究室からBCFB研究棟の4℃の冷蔵庫に運んだ。各チューブには6マイクロリットルの抽出試料が入っていた。8本のうちの1本のチューブに2014年6月5日に調製したB型炭疽菌のフィルターを通していない抽出試料が入っていた。

2014年6月12日(木):

  • B研究者は、BCFB研究室近くのリニア機器室(LER:Linear Equipment Room)の冷蔵庫からサンプルを取りだし別の部屋に持って行き、MALDI-TOFマススペクトリーで測定するために、生物学フード(安全キャビネット)の中で試料調製した。
  • MALDI-TOFプレートは、マススペクトリーで測定するため、3番目の部屋に持って行った。 このとき、はげ落ちは全く観察されていなかった。
  • A研究者は、安全性レベル2(BSL-2)のBRRAT実験室のオープンな実験台の上で6月5日に調製した抽出試料(B型炭疽菌のフィルターを通していない抽出試料)を使ってMALDI-TOF試料の作製を繰り返した。
  • 試料作製では、抽出試料をボルテックスで攪拌する(vortexing)過程がある。このステップで試料をエアゾール状に拡散させた可能性がある。
    なお、ボルテックスは溶液を均一に混ぜるために液体を高速で回転攪拌する装置である。
  • 乾燥MALDI-TOFプレートは、蓋つきのプラスチックのMALDI-TOFプレートホルダーの中に置き、ジップロックでシールし、マススペクトリーで測定のため、細菌特別病原菌支所(Bacterial Special Pathogens Branch:BSPB)に送付した。

2014年6月13日(金):

  • 午後5時00分、A研究者は、培養器から滅菌プレートを取りだして観察すると、B型炭疽菌とラベルしてあるプレートに細菌の増殖が見られた。細菌の素性をリアルタイムPCRで調べ、研究所のネットワーク(LRN:Laboratory Response Network)で分析物を確認すると。それは、B型炭疽菌と一致した。(白楽:この時点で滅菌したハズのプレートに、生きたB型炭疽菌が増殖していて、それを扱っていたことが判明した)。一般的に、DNAを調製してからリアルタイムPCRは約2時間かかる。 DNA調製には45分~1時間かかる。
  • 午後5時15分、BRRAT研究室の事故対応規則(Incident Response Plan)に従って、B研究者は、事故対応官(RO:Select Agent Responsible Official)に連絡した。
  • 午後7時00分、BRRAT研究室の職員が他のラボに配布したすべての試料を回収し、安全性レベル3の実験室に封じ込めた。2人の研究者(A研究者、B研究者)を、エモリー大学付属病院の救急処置室に搬送し、抗生物質を打った。 BRRAT研究室とBCFB研究棟の実験室の作業場所のスワブ(綿棒の標本)を採り、実験室の作業場所を滅菌した。
  • 午後7時28分、事故対応官ROは、BRRAT研究室の監督官に連絡し、状況の書面提出を要求した。
  • 午後8時16分、BRRAT研究室の監督官は事件の第一次報告書を事故対応官ROに送付した。

(・・・以下、白楽が省略・・・)

以上は、【主要情報源】④の記録の内、炭疽菌を扱った詳細な時系列で、被爆の可能性が生じた過程である。

2014年6月19日(木)、疾病予防管理センター(CDC)は、必要な安全処置を確認したのち、マスメディアに公式発表した。米国社会とマスメディアは騒然となった。

2014年7月7日(月)、疾病予防管理センター(CDC)は、結局、41人が炭疽菌に被爆した可能性があると発表した。 研究所(CDC)外部の調査委員会も、同じ結論だった。

Anthrax%20for%20web滅菌してない炭疽菌がペトリ皿上で増殖している。写真は、疾病予防管理センター(CDC)のトッド・パーカー(Todd Parker)提供。写真出典

【事件のその後】

★議会:2014年7月15日(水

事件発表から約1か月後の2014年7月15日(水)、議会(下院の調査小委員会議)で、疾病予防管理センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長が出席のもと、審議が始まった。

議会の調査で、疾病予防管理センター(CDC)だけではなく、危険な微生物を扱う生物医学系の他の国立研究所も、安全プロトコルを何度も守らなかったことがわかってきた。

米国連邦議会のヒアリングの開会挨拶で、下院の調査小委員会議長のティム・マーフィー議員(Tim Murphy、共和党、ペンシルベニア州選出)は、「遅かれ早かれ、その幸運は尽きて、国民の誰かが深刻な炭素病になり、死ぬことになる」と、怒りをあらわにした。マーフィー議員は、疾病予防管理センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長に、研究者の管理能力があるのかと疑問をぶつけた。

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マーフィー議員は、ペトリ皿の入ったジップロックのビニール袋を持ち上げている(写真出典)。疾病予防管理センターはこの袋に炭疽菌サンプルを入れて、移送していたのである。

「これは、銃に弾がこめられていたとは知らなかったが、人を撃ってしまったと言うのに似ている。銃を扱うときは、いつでも、弾がこめられているかもしれないと思うべきでしょう。『いや、私は、炭疽菌が生きているとは思わなかった』では通らないでしょう」と、マーフィー議員はフリーデン所長に言った(2014年7月16日の「CBS」記事:Lawmakers blast CDC for unsafe handling of anthrax – CBS News)(保存版)。

★責任者の処分:2014年7月23日

JP-LAB2-master315疾病予防管理センター(CDC)のトーマス・フリーデン所長(Thomas R. Frieden、左)は、今回の事件で辞職・降格していない。

AAEAAQAAAAAAAAKwAAAAJGM2MzhjZThiLWY4OWUtNDA4Mi1hYWFmLTgyYTg5ZGZlYzRhYQ2014年7月23日、疾病予防管理センター(CDC)は、今回の事件に関して、BRRAT研究部長のマイケル・ファレル(Michael Farrell、写真出典)を配置換えしたと発表。左遷とは書いていないが、左遷だろう。

ファレルが問題を起こしたBRRAT研究室のA研究者なのか、A研究者の上司なのか明確ではない。多分、上司と思われる。

ファレルは2児の父で、研究博士号(PhD)を持ち(医師ではない)、この分野の研究で約20年の経験がある。電話や電子メールに対応せず、記者のインタビューに応じていない(①Exclusive: CDC reassigns director of lab behind anthrax blunder | Reuters、(保存版)、②CDC makes staff changes at lab after anthrax scare – CBS News、(保存版)、③Head of troubled CDC anthrax lab resigns)(保存版)。

ファレルは、2014年8月に疾病予防管理センター(CDC)を退職し、2014年9月にオメガ・バイオテック社(Omega Bio-tek)の営業副部長(Business Development Associate)になった。

【白楽の感想】

《1》操作の間違い

研究ネカト関連の「間違い」は、「ねつ造・改ざん」の指弾を受けたとき、指弾を受けた研究者が弁明として、意図的に「ねつ造・改ざん」したのではなく、論文記載・計算、データ読み取りなどで「間違え」たと発言することが多い。意図的な「ねつ造・改ざん」の証明は難しいので「間違い」で逃げる。

また、調査委員会が「ねつ造・改ざん」の確証が得られず、初犯で、不正が軽微な時、「処分なし」にする場合、「ねつ造・改ざん」ではなく「間違い」だったと判定する。

また、調査委員会が研究ネカト者に好意的な時も、「ねつ造・改ざん」ではなく、研究者の「間違い」だったと発表する。

今回の事件での「間違い」は操作の「間違い」で研究ネカトの「間違い」とは異質である。

ただ、今回のような危険物を取扱う操作での「間違い」は大きな健康被害につながる。この場合、何をどうすべきかは、研究ネカトとは別のルールや対策が必要だ。

《2》権威・信用と不祥事

疾病予防管理センター(CDC)は米国の政府機関で、疾病予防・衛生管理・健康増進の情報提供と活動では、米国の中枢であり、世界の中心的存在である。

今回、2014年炭疽菌被爆の事件を記事にしたが、それ以前も、その後も、いくつかの事件を起こしている。所員が15,000人もいれば、事件が起こっても不思議はないが、権威・信用は失墜しないものだろうか?

権威・信用の定量法を思いつかないが、権威・信用はそれなりに失墜しているだろう。

しかし、人間の行ないに完全はない。人間は間違える生き物である。現代では、時々、事件報道されるほうがむしろ、組織の透明性が高いという証明でもあり、改革のエネルギーにもなる。逆説的だが、全く事件が報道されない組織より、健全なのかもしれない。

《3》集団の事件

今回、2014年炭疽菌被爆の事件を記事にしたが、疾病予防管理センター(CDC)で実際に不始末をした人はBRRAT研究室の1人の研究者(A研究者)である。マイケル・ファレル(Michael Farrell)ではないと思う。

ファレルではないと想定すると、その当事者は匿名のままで、実名も顔写真もメディアに報道されていない。記者も疾病予防管理センター(CDC)もその当事者を公表する姿勢がない。

疾病予防管理センター(CDC)の構造的欠陥が招いた事件ということになっているが、事件発生のプロセスをみれば、構造的欠陥というよりA研究者の無能・不注意が招いた事件と思える。疾病予防管理センター(CDC)で初めて炭疽菌を使用したわけではなく、何十年も安全に扱ってきたのだから、取り扱い方法の不備とは思いにくい。

それなのに、当事者は匿名のままである。どのような経歴・研究実力だったのか、どのような精神・肉体条件下での実験作業だったのか、どんな処分が科されたのか、全く情報が洩れてこない。これでは、講じる改善策の検討もできない。事件から学べない。マズい。

米国は個人主義の国で日本は集団主義の国と対比される。ところが、個人名が出てこない。なんかヘンだ。中東出身のイスラム系の研究者なのだろうか? それとも、マイケル・ファレルがA研究者なの?

【主要情報源】
① 2014年6月19日の疾病予防管理センター(CDC)のプレスリリース:CDC Lab Determines Possible Anthrax Exposures: Staff Provided Antibiotics/Monitoring | CDC Online Newsroom | CDC、(保存版
② 2014年6月19日の「REUTERS」記事:75 U.S. government scientists possibly exposed to live anthrax at CDC lab – NY Daily News、(保存版
③ 2014年6月22日のボブ・グラント(Bob Grant)の「Scientist Magazine」記事:Dozens of Researchers Exposed to Anthrax | The Scientist Magazine®、(保存版
④ 2014年7月11日の疾病予防管理センター(CDC)の報告書「Report on the Potential Exposure to Anthrax」、(保存版
⑤ 2014年7月15日のジェン・クリステンセン(Jen Christensen)の「CNN.com」記事:CDC anthrax investigation: USDA finds more lab problems – CNN.com、(保存版
⑥ 2014年6月29日のデクラン・バトラー(Declan Butler)の「Nature」記事:Biosafety controls come under fire : Nature News & Comment、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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