2024年5月5日掲載
ワンポイント:2006年に終了したスターディ臨床試験(STAR*D Trial)は、米国最大の臨床試験の1つで、抗うつ薬の有効性を示していた。しかし、2023年、心理学者のエド・ピゴット(Ed Pigott)が、データねつ造・改ざんを見つけ、アービング・カーシュ教授(Irving Kirsch)が治療効果はプラセボ効果だったと指摘した。この研究不正をジャーナリストのロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)が追及しているが、国立精神衛生研究所(NIMH)、学術界は沈黙している。研究不正となれば、多数の製薬企業と国を巻き込んだ不正となり、被害者数は膨大で、被害額も膨大だろう。日本ではほとんど報道されていない。国民の損害額(推定)は1000億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】
★用語
動画「The STAR*D Trial: Scientifically Flawed or Scientific Fraud? – YouTube」の1分38秒ころ、「STAR*D」を「スターディ」と呼んでいる。
白楽ブログでは「STAR*D Trial」の日本語を「スターディ臨床試験」とした。なお、「*」は上付きです。また、「STAR D」と「*」がない記載もありました。
★ スターディ臨床試験(STAR*D Trial)
スターディ臨床試験の「STAR*D 」は英語の「Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression」の略である。「Sequenced Treatment Alternatives」を日本語訳すると「連続治療代替案」で、「Relieve Depression」は「うつ病を和らげる」である。続けると、「うつ病を和らげるための連続治療代替案」となる。
現実の世界では、うつ病患者に1つの抗うつ薬を投与していたが、治療効果がない場合、「代替案」として別の抗うつ薬を処方していた。それでも効果がない場合、さらに別の抗うつ薬を処方するという「連続治療」をしていた。
その場合、抗うつ薬「連続治療」は治療効果があるのか・ないのか、スターディ臨床試験は、その有効性を評価した臨床試験である。
スターディ臨床試験は、米国・連邦政府のNIHの国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health)が約35億円を供出・主導した精神疾患では最大規模の臨床試験て、2006年、4段階の治療で患者の約70%が寛解した(うつ病の症状がなくなった)」と報告した。
「約70%が寛解」は素晴らしいほど高い治療効果である。
しかし、当時からこの結果を疑問視する論文があった。
2023年、心理学者のエド・ピゴット(Ed Pigott)は、これまで公開されていなかったスターディ臨床試験の多くのデータにアクセスすることができた。
それで、データを詳細に分析した結果、スターディ臨床試験にはデータねつ造・改ざんがあると「2023年7月のBMJ Open」論文で指摘した。
またプロトコルに従えば、寛解率は約70%ではなく35%だったことも指摘した。
35%の寛解率は、プラセボ研究の専門家であるアービング・カーシュ教授(Irving Kirsch)によると、プラセボ(偽薬)による寛解率と同等で、スターディ臨床試験が示した抗うつ薬の治療効果はプラセボ効果だと指摘した。
そして、これらスターディ臨床試験の研究不正をジャーナリストのロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)が追及している。
ただ、国立精神衛生研究所も学術界も沈黙している。
研究不正となれば、多数の製薬企業と国を巻き込んだ不正となり、被害者数は膨大で、被害額も膨大だろう。
この事件は日本ではほとんど報道されていない。
- 国:米国
- 集団名:スターディ臨床試験
- 集団名(英語): STAR*D Trial
- ウェブサイト(英語):Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression (STAR*D) Study – National Institute of Mental Health (NIMH)
- 集団の概要:国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health)が約30億円投資して主導した抗うつ薬の臨床研究
- 事件の首謀者:ジョン・ラッシュ名誉教授(A John Rush)とマドゥカー・トリヴェディ教授(Madhukar H. Trivedi)
- 分野:臨床試験
- 不正年:2006年以前
- 発覚年:2023年
- ステップ1(発覚):第一次追及者は心理学者のエド・ピゴット(Ed Pigott)、アービング・カーシュ教授(Irving Kirsch)、ジャーナリストのロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)
- ステップ2(メディア): ロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)記者の「Mad In America」、「CounterPunch.org」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①なし
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:論文発表ではなく、国立精神衛生研究所のプレスリリース。撤回されていない
- 被害(者):米国人の5人に1人が精神疾患を抱えている。全員が抗うつ薬を摂取していると仮定すると約6千6百万人
- 国民の損害額:1000億円(大雑把)
- 結末:国立精神衛生研究所、アメリカ精神医学会(APA:American Psychiatric Association)は、ネカトだと認めていない
●2.【日本語の解説】
大事件なのに、日本語の無料解説は見つからなかった。
★2023年8月25日:西多昌規(早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医) :「うつ病治療研究STAR*Dへの疑義」
うつ病治療の講演では、ほぼ必ず「STAR*D研究」が紹介され、議論されることが多い。STAR*D(Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)研究とは、初期治療に反応しなかったうつ病患者に対し,どのような治療が有効であるかを検討した試験である。アメリカNIMHが主導し、2006年より4,000人の患者を対象に試験が行われている。
(有料記事、白楽未読。上記部分は無料):続き(有料)は、原典をお読みください。
●3.【事件の経過と内容】
★抗うつ薬の服用
2011年10月の米国の国立健康統計センター (National Center for Health Statistics) の数値によると以下のようだ。 → Antidepressant Use in Persons Aged 12 and Over: United States, 2005–2008
- 12歳以上の米国人の11%が抗うつ薬を服用している。
- 抗うつ薬を服用している米国人の60%以上が2年以上服用している。14%は10年以上服用している。
- 1つの抗うつ薬を服用している米国人の3分の1未満、複数の抗うつ薬を服用しているアメリカ人の半数未満が、過去1年間にメンタルヘルスの専門家の診察を受けている。
2024年3月14日の記事では、米国人の5人に1人が精神疾患を抱えている、とある。 → 2024年3月14日の記事:Mental Health Statistics in 2024 | The Zebra
うつ病患者が払う抗うつ薬の値段は?
1か月、抗うつ薬 の1つ「SSRIセレクサ(SSRI Celexa)」を平均的な量、摂取すると、最低でも$730.73(約7万3千円)かかる。 → 2022年10月3日記事:How Much Do Antidepressants Cost? With & Without Insurance – K Health
膨大な患者数と膨大な抗うつ薬摂取量なので、製薬企業は抗うつ薬で膨大な利益をあげている。
★うつ病の治療薬
うつ病の治療薬としてSSRI(Selective serotonin reuptake inhibitors、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)がある。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、「日経メディカル処方薬事典」によると以下のようだ。
- うつ病では脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きが不調となり、意欲の低下、不安などの症状があらわれる
- シナプス前終末から遊離(放出)された神経伝達物質は、自身の受容体へ作用(結合)することで情報が伝達されるが、遊離された神経伝達物質の一部はシナプス前終末へ回収(再取り込み)される
- 本剤は脳内でセロトニンの再取り込みを阻害しセロトニンの働きを増強することで抗うつ作用などをあらわす
「SSRI抗うつ薬」として最初に登場したのはイーライリリー社(Eli Lilly and Company)が開発したプロザック(Prozac)で、1987年に米国の食品医薬品局(FDA)の承認を受け、1988年に市場に参入した。なお、日本では未承認である。
1991年にファイザー社のゾロフト(Zoloft)が市場に参入した。ゾロフトは日本では、「セルトラリン」と呼ばれ、承認されている。
1992年にはパキシル(Paxil)が市場に参入した。
1990年代後半までに、これらの「SSRI抗うつ薬」は米国ではテレビで宣伝される程ポピュラーになった。
この背景には、化学物質の不均衡がうつ病の原因と解釈され、SSRI抗うつ薬は、その不均衡を是正するという「うつ病のセロトニン不均衡説」が受け入れられたことによる、と言われている。
しかし、「うつ病のセロトニン不均衡説」は間違っていた。
1990年代までに、研究界では「うつ病のセロトニン不均衡説」は間違っていることが定説になっていた。
しかし、この認識は世間に浸透しなかった。
2022年に主要メディアがこの「うつ病のセロトニン不均衡説」は間違いだと報じたことで、ようやく、間違いだったことが世間に浸透した。 → Depression is not caused by low levels of serotonin, new study suggests – YouTube
なお、精神医学者と大手製薬会社は、今まで、抗うつ薬の副作用に異議を唱えたことはなかった。実証されていないが、効果が副作用を上回ると主張し、副作用を問題を軽視してきたのである。
★スターディ臨床試験
前項までで、うつ病の治療薬の普及について述べてきた。
2006年に終了・発表したスターディ臨床試験(STAR*D Trial)はうつ病の治療薬の臨床試験だった。
以下、西多昌規の記事を引用した。
スターディ臨床試験(STAR*D Trial)は、初期治療に反応しなかったうつ病患者に対し,どのような治療が有効であるかを検討した試験.米国NIMHが主導し,2006年より全米41の施設で4,000人の患者を対象に行われた.詳細および結果はNIMHのホームページにて確認が可能である.(うつ病治療研究STAR*Dへの疑義(西多昌規) – エキスパート – Yahoo!ニュース)
そう、スターディ臨床試験は、米国・連邦政府のNIH・国立精神衛生研究所(NIMH、National Institute of Mental Health)が主導したうつ病の治療に関する共同研究だった。
スターディ臨床試験の「STAR*D 」は英語の「Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression」の略である。「Sequenced Treatment Alternatives」を日本語訳すると「連続治療代替案」で、「Relieve Depression」は「うつ病を和らげる」である。続けると、「うつ病を和らげるための連続治療代替案」となる。
現実の世界では、うつ病患者に1つの抗うつ薬を投与していたが、治療効果がない場合、「代替案」として別の抗うつ薬を処方していた。それでも効果がない場合、さらに別の抗うつ薬を処方するという「連続治療」をしていた。
その場合、抗うつ薬「連続治療」は治療効果があるのか・ないのか、スターディ臨床試験は、その有効性を評価した臨床試験である。
スターディ臨床試験では、4041人の被験者を4つの段階で治療した。各段階は3か月行なった。
第1段階では、すべてのうつ病患者にSSRIセレクサ(SSRI Celexa)を投与した。
セレクサ治療でうつ病症状が寛解しなかった場合、第2段階の3か月で、他の抗うつ薬で治療した。
2段階の治療でも寛解しなかったうつ病患者には、他の種類の抗うつ薬で第3段階の治療をした。
それでも、寛解しなかったうつ病患者には、他の抗うつ薬の第4段階の治療をした。
なお「寛解」は、うつ病の症状に改善が見られたというレベルではなく、英語の「symptom-free」で、うつ病の症状がなくなった、完全に治癒したという意味である。
スターディ臨床試験は第4段階の治療で終わるが、その結果、「全体の累積寛解率は67%だった」と報告された。
2006年、国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health)は、治療抵抗性うつ病に関する米国最大の臨床試験であるスターディ臨床試験の結果を発表した。 → Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression (STAR*D) Study – National Institute of Mental Health (NIMH)
2006年11月のプレスリリースでは、「結論として、スターディ臨床試験の患者の約半数は、2段階目の治療で寛解した(うつ病の症状がなくなった)。4段階の治療で患者の約70%が寛解した(うつ病の症状がなくなった)」と述べている。 → Questions and Answers about the NIMH Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression (STAR*D) Study — All Medication Levels – National Institute of Mental Health (NIMH)
★ネカトの指摘:エド・ピゴット(Ed Pigott)
しかし、この「70%近く」の寛解率はねつ造・改ざんだった。
心理学者のエド・ピゴット(Ed Pigott、エドモンド・ピゴット、H. Edmund Pigott、、写真出典)らは、「2010年のPsychother Psychosom」論文でスターディ臨床試験の異常を指摘した。
- Efficacy and effectiveness of antidepressants: current status of research.
Pigott HE, Leventhal AM, Alter GS, Boren JJ.
Psychother Psychosom. 2010;79(5):267-79. doi: 10.1159/000318293. Epub 2010 Jul 9.
この論文で、スターディ臨床試験では4段階の抗うつ薬治療試験の累積寛解率を67%としたが、プロトコールに従ってデータを分析すると、寛解率は35%だった、と指摘した。
それから13年が経過した。この間、何も大きな変化はなかった。
エド・ピゴットらは、その間、これまで公開されていなかった多くの研究データにアクセスし、データを再分析した。
すると、スターディ臨床試験では、治療効果を劇的によく見せるようにデータを改ざんをしていたことが見つかった。その事実を、以下の「2023年7月のBMJ Open」論文で指摘した。後述するアービング・カーシュ(Irving Kirsch)も共著者である。
- What are the treatment remission, response and extent of improvement rates after up to four trials of antidepressant therapies in real-world depressed patients? A reanalysis of the STAR*D study’s patient-level data with fidelity to the original research protocol.
Pigott HE, Kim T, Xu C, Kirsch I, Amsterdam J.
BMJ Open. 2023 Jul 25;13(7):e063095. doi: 10.1136/bmjopen-2022-063095.
これは、米国の医学史上最大のスキャンダルになるかもしれない。
なお、ピゴットらがスターディ臨床試験の欺瞞性を「2010年のPsychother Psychosom」論文で指摘しても、さらに、「2023年7月のBMJ Open」論文で指摘しても、国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health)の研究者らは一度も反論や抗議をしてこない。学術界も無視あるいは黙認している。つまり、彼らは沈黙している。
★ネカトの指摘:ロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)
ロバート・ウィタカー(ロバート・ウィテカー、Robert Whitaker、写真出典)は、『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』(2012年)(表紙出典アマゾン)を執筆していて、抗うつ薬について詳しいジャーナリストである。
2023年9月、ロバート・ウィタカーは、スターディ臨床試験の欺瞞性を強く批判した。スターディ臨床試験はプロトコルに従わない臨床試験をしたばかりか、データをねつ造・改ざんし、累積寛解率を67%としているが、それは詐欺レベルの研究不正だと批判した。 → The STAR*D Scandal: Scientific Misconduct on a Grand Scale – Mad In America
ねつ造・改ざん箇所は次のようだ。
スターディ臨床試験は、4041人の被験者のうち、うつ病の基準を満たさない患者として931人を最初の段階で除外した。つまり、最初の第1段階の治療で残り3110人を治療した。
しかし、その後、931人を「評価可能な」患者の数にこっそり戻し、寛解率を水増ししたのである。
スターディ臨床試験のネカトはこれだけではなかった。
臨床試験中に指標を切り替えて、寛解率を水増しした。
詳細を省くが、さらに、寛解率を膨らませるために別のねつ造・改ざんも行なっていた。
寛解率を67%としているが、臨床試験に参加した4041人の患者のうち、ロバート・ウィタカーがデータを分析すると、寛解し、その後、治験終了まで元気に過ごした患者はわずか3%しかいなかった。
★責任者出てこい
スターディ臨床試験の責任者は誰だったのか?
スターディ臨床試験の統括研究者はデューク大学医科大学院(Duke University School of Medicine)のジョン・ラッシュ名誉教授(A John Rush、写真左出典)とテキサス大学・サウスウェスタン・メディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center)のマドゥカー・トリヴェディ教授(Madhukar H. Trivedi、写真右)である。
研究者たちは、どうして、ねつ造・改ざんしてまで寛解率を上げたのか?
2006年のスターディ臨床試験報告書の最後に、抗うつ薬・セレクサ (Celexa)のフォレスト・ファーマシューティカルズ社(Forest Pharmaceuticals)、抗うつ薬・エフェクサー(Effexor)のワイエス・エアースト・ラボラトリーズ社(Wyeth-Ayerst Laboratories)など、スターディ臨床試験で使用した抗うつ薬のメーカーを含む複数の製薬企業と臨床試験研究者との間の金銭的関係が小さな字で掲載されている。
スターディ臨床試験の研究者が寛解率を水増しした動機は何だったのか?
皆さん、おわかりですよね。
そして、NIHはスターディ臨床試験に2001~2023年の間、38件、計$35,408,289(約35億円)を助成していた。 → RePORT ⟩ Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression
こうなると、スターディ臨床試験を主導したNIH・国立精神衛生研究所(NIMH、National Institute of Mental Health)も、おいそれと「ねつ造・改ざんでした」とは言えない。贈収賄が疑われるだろうし、管理不行き届きで非難が殺到するからだ。
2024年5月4日現在、アメリカ精神医学会(APA:American Psychiatric Association)は、スターディ臨床試験のデータをネカトだと認めていない。アメリカ精神医学会、米国の精神科医は、寛解率の水増しを報告した研究報告書を撤回するよう求めていない。スターディ臨床試験の研究者を非難してもいない。
これらの事実から導き出せる結論はただ1つ。「米国の精神医学界では、研究不正行為は悪いことではありません。許容される慣行なのです」と皮肉っている記事もある。 → Gross Misconduct – The Final Nail in the Coffin for Antidepressants
★抗うつ薬に治療効果はない
スターディ臨床試験(STAR*D Trial)は2006年に終了・発表したが、その前後、抗うつ薬の治療効果がないという論文が出版されていた。
「2002年4月のJAMA」論文では、「抗うつ薬セントジョーンズワート(St. John’s wort)」にはうつ病の治療効果としてプラセボ(偽薬)以上の効果がないと報告している。前項で挙げたドゥカー・トリヴェディ教授(Madhukar H. Trivedi)は著者の1人である。
- Effect of Hypericum perforatum (St John’s wort) in major depressive disorder: a randomized controlled trial.
Hypericum Depression Trial Study Group; Davidson JR, Gadde KM, Fairbank JA, Krishnan KRR, Califf RM, Binanay C, Parker CB, Pugh N, Hartwell TD, Vitiello B, Ritz L, Severe J, Cole JO, de Battista C, Doraiswamy PM, Feighner JP, Keck P, Kelsey J, Lin KM, Londborg PD, Nemeroff CB, Schatzberg AF, Sheehan DV, Srivastava RK, Taylor L, Trivedi MH, Weisler RH.
JAMA. 2002 Apr 10;287(14):1807-14. doi: 10.1001/jama.287.14.1807.
主要メディアはこの「2002年4月のJAMA」論文をほとんど取り上げなかった。
皮肉なことに、プラセボ(偽薬)は抗うつ薬と同等の治療効果があり、プラセボ(偽薬)自身がとても有効である。
プラセボ効果の第一人者で英国のハル大学(University of Hull)の心理学教授であるアービング・カーシュ(Irving Kirsch、写真出典)は、プラセボ(偽薬)はうつ病の治療効果として優れていることを以下の論文で述べている。
- National Depressive and Manic-Depressive Association consensus statement on the use of placebo in clinical trials of mood disorders.
Charney DS, Nemeroff CB, Lewis L, Laden SK, Gorman JM, Laska EM, Borenstein M, Bowden CL, Caplan A, Emslie GJ, Evans DL, Geller B, Grabowski LE, Herson J, Kalin NH, Keck PE Jr, Kirsch I, Krishnan KR, Kupfer DJ, Makuch RW, Miller FG, Pardes H, Post R, Reynolds MM, Roberts L, Rosenbaum JF, Rosenstein DL, Rubinow DR, Rush AJ, Ryan ND, Sachs GS, Schatzberg AF, Solomon S; Consensus Development Panel.
Arch Gen Psychiatry. 2002 Mar;59(3):262-70. doi: 10.1001/archpsyc.59.3.262.
アービング・カーシュはさらに、抗うつ薬に関する製薬会社の47件の研究を調べた。
これらの研究は、発表済みの臨床試験と未発表の臨床試験の両方だが、情報公開法を利用してアービング・カーシュはすべてのデータにアクセスした。
そして、「よく知られたSSRIを含むすべての抗うつ薬は、プラセボ(偽薬)よりも治療効果が高くなかった」と結論した。
2010年8月3日の記事「Why antidepressants are simply a confidence trick: A leading psychologist claims taking sugar pills would work just as well | Daily Mail Online」から、もう少し詳しくアービング・カーシュの指摘を読み込んでみよう。
- 英国では、抗うつ薬に年間2億5000万ポンド(約350億円)以上を費やしているが、これはまったくの無駄遣い。
- 抗うつ薬の効果は砂糖や小麦粉を錠剤にした効果とあまり変わらない。しかし、悪いことに、抗うつ薬は、性機能障害などの厄介な副作用があり、若者の自殺リスクを高める。
- 抗うつ薬を飲むと気分が良くなる主な理由は、プラセボ効果である。そして、これが唯一の理由である。プラセボ(偽薬)が痛み、狭心症、潰瘍、喘息などの症状に強力な効果をもたらすことはすでにわかっている。
- 製薬企業に抗うつ薬を承認するための臨床試験データをすべて、情報公開法を使って、米国食品医薬品局(FDA)に要求した。その半数以上の臨床試験では、抗うつ薬とプラセボの間に全く差が認められなかった。しかし、これらのネガティブなデータのほとんどは発表されなかった。まり、抗うつ薬の効果は私が思っていたよりもさらに小さいのに、製薬企業はそのデータを隠していた。
- ネガティブなデータを隠すのは悪いことだと、今では誰もが認めている。しかし、当時、米国食品医薬品局(FDA)は全く問題ないと考えていた。ネガティブなデータは、医師にとって「実際的な価値がない」上に、抗うつ薬の処方を躊躇させると主張した。
- 抗うつ薬の臨床試験データを調べていると、別の奇妙なことが分かってきた。どの抗うつ薬でも患者の回復率はほぼ同じだった。SSRI抗うつ薬は、神経伝達物質セロトニンの量を増やすことで機能すると考えられている(「うつ病のセロトニン不均衡説」)。しかし、他の抗うつ薬は、ノルエピネフリンやドーパミンなど、気分に関連するさまざまな神経伝達物質を高めることで機能する。セロトニンのレベルを上げるのではなく、下げる抗うつ薬もある。それなのに、これらの抗うつ薬はすべて同じ効果があった。つまり、セロトニンと無関係に約60%の患者が改善した。つまり、セロトニン説は間違っているということだ。そして、異なる化学物質を含む抗うつ薬に同じ効果があるということは、それはプラセボ効果で症状が改善されているということだ。
アービング・カーシュの指摘は的を得ている。
また、別の研究者の以下の「2006年5月のJ Nerv Ment Dis」論文もある。
この論文は、うつ病から回復し、その後再発したが再発後に抗うつ薬を服用しなかったうつ病患者を調べた。その結果、非投薬うつ病患者の回復率は、1年後には85%だった。うつ病患者の85%が1年以内に自然に回復していて、これ以上優れた効果を示す治療(つまり、非投薬治療)はないだろうと結論している。
- The naturalistic course of unipolar major depression in the absence of somatic therapy.
Posternak MA, Solomon DA, Leon AC, Mueller TI, Shea MT, Endicott J, Keller MB.
J Nerv Ment Dis. 2006 May;194(5):324-9. doi: 10.1097/01.nmd.0000217820.33841.53.
つまり、抗うつ薬を服用しないほうがベターということだ。
2022年11月8日、そして、ようやく米国の主要メディアであるニューヨーク・タイムズ紙が「抗うつ薬は多くの人が思っているようには効きません」と報じた。 → How Well Do Antidepressants Work and What Are Alternatives? – The New York Times
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したので省略。
●4.【白楽の感想】
《1》医療スキャンダル
スターディ臨床試験(STAR*D Trial)で、うつ病患者を抗うつ薬の薬漬けにしている。
プラセボ(偽薬)と同等の治療効果しかないのに、「4段目の抗うつ薬で70%近くの人が無症状になった」としている。
データをまともに解析すると寛解率は35%、あるいは3%なのに、データを改ざんし70%近くにしていた。
35%の寛解率はプラセボ(偽薬)と同等である。
どうやら、ひどい医療スキャンダルになりそうだ。
しかし、米国の主要メディアは依然として「ほぼ」沈黙している。
そりゃそうだ、製薬企業からの巨額な宣伝費を受け取っている手前、うかつに記事にできない。キャンペーンを張れない。製薬企業、そして、国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health)を敵にまわすことになる。
気骨ある記者とデスクが命がけで追及しないと、スキャンダルを暴露できない。
スターディ不正事件は闇に消えてしまうのか?
まもなく、いや、ウン年後、スキャンダルの嵐が吹き荒れるのか?
《2》ネカト者は誰?
スターディ臨床試験の責任者はジョン・ラッシュ名誉教授(A_John_Rush)とマドゥカー・トリヴェディ教授(Madhukar H. Trivedi)である。
しかし、この2人は、メディアの取材対象にあまりなっていない。
国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health)のスターディ臨床試験にサイト「Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression (STAR*D) Study – National Institute of Mental Health (NIMH)」でも、責任者が誰なのかが示されていない。
エド・ピゴット(Ed Pigott)やアービング・カーシュ(Irving Kirsch)は、データねつ造・改ざんと指摘したが、誰がねつ造・改ざんしたのか、追及していない。
スターディ事件、どうなっていくのだろう?
https://www.psychiatrictimes.com/view/star-d-dethroned
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●5.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:STAR*D – Wikipedia
② 2022年11月8日のダナ・スミス(Dana G. Smith)記者の「New York Times」記事:How Well Do Antidepressants Work and What Are Alternatives? – The New York Times
③ 2023年9月9日のロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)記者の「Mad In America」記事:The STAR*D Scandal: Scientific Misconduct on a Grand Scale – Mad In America
④ 2023年12月6日のロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)記者の「Mad In America」記事:After MIA Calls for Retraction of STAR*D Article, Study Authors Double Down on the Fraud – Mad In America
⑤ 2024年1月3日のロバート・ウィタカー(Robert Whitaker)記者の「Mad In America」記事:Winding Back the Clock: What If the STAR*D Investigators Had Told the Truth? – Mad In America
⑥ ◎2024年1月17日のブルース・レヴィン(Bruce Levine)記者の「CounterPunch.org」記事:Scientific Misconduct and Fraud: The Final Nail in Psychiatry’s Antidepressant Coffin – CounterPunch.org
⑦ 2024年1月30日のジョゼフ・マーコラ(Joseph Mercola)記者の「Mercola」記事:Gross Misconduct – The Final Nail in the Coffin for Antidepressants
⑧ 2024年1月22日の著者名不記載の「Better Outcomes Now.」記事:STAR*D Exposed: Jackie Was Right!
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