心理学:ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)(英)

2023年10月15日掲載 

ワンポイント:キンダーマンはリバプール大学(University of Liverpool)・教授で、2016~2017年に英国心理学会の会長だった。「2022年1月のJournal of Mental Health」論文で、他人に「なりすまし」、自分のブログを称賛し他人のブログを非難した。学術誌は「利益相反」で論文を撤回した。「なりすまし」は詐欺行為なので、研究界は「なりすまし」を不正と認定し、罰すべきである。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman、ORCID iD:?、写真出典 By Peter Kinderman – Own work, CC BY-SA 4.0)は、英国のリバプール大学(University of Liverpool)・教授で、公認臨床心理士(Chartered Clinical Psychologist)の資格を持っている。専門は臨床心理学である。

キンダーマンは2016~2017年に英国心理学会(British Psychological Society)の会長だった。

日本語に翻訳されていない著書『心理学の新しい法則(The New Laws of Psychology)』(2014年)、『メンタルヘルス宣言(A Manifesto for Mental Health)』(2019年)などがある(本の表紙出典はアマゾン)。

心理学の教授が査読論文である「2021年x月のJournal of Mental Health」論文の中で、自分のブログを賞賛し、他人のブログを非難した。

論文では、ブログの著者を匿名化しているので、自分で自分のブログを賞賛したことは他人にはわからない。別人に「なりすまし」して自分のブログを賞賛したことになる。

2022年10月11日頃(57歳)、学術誌は、この点を指摘されて、「利益相反(conflict of interest)」を理由に論文を撤回した。

リバプール大学は不正調査をしていない。従って、キンダーマンは無処分である。

白楽は、これは、利益相反ではなく、詐欺だと思う。

「なりすまし」は昔からある詐欺行為だが、インターネットの普及、社交メディアの発達で、現在、研究界にかなり蔓延している不正だと、白楽は思う。

研究界は「なりすまし」を不正と認定し、罰すべきである。「なりすまし」を不正とする基準を設け、摘発しないと、卑怯な・汚い研究者がますますはびこる。

リバプール大学(University of Liverpool)。写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:英国
  • 公認臨床心理士(Chartered Clinical Psychologist)取得:リバプール大学
  • 研究博士号(PhD)取得:リバプール大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1965年x月x日、英国のサセックスで生まれる。仮に1965年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:59歳
  • 分野:心理学
  • 不正論文発表:2021年(56歳)
  • ネカト行為時の地位:リバプール大学・教授
  • 発覚年:2022年(57歳)
  • 発覚時地位:リバプール大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はケンブリッジ大学の精神科医・ヒシャム・ジアディーン(Hisham Ziauddeen)で、社交メディアで指摘
  • ステップ2(メディア):「社交メディア」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②リバプール大学は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:なりすまし
  • 不正論文数:1報。撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:1965年x月x日、英国のサセックスで生まれる。仮に1965年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):キングス・カレッジ(ケンブリッジ大学)(King’s College, Cambridge)で学士号取得
  • 19xx年(xx歳):セントジェームズ大学病院(St James’ Hospital)に勤務
  • 19xx年(xx歳):リバプール大学(University of Liverpool)で研究博士号(PhD)を取得:
  • 1990年(25歳):公認臨床心理士(Chartered Clinical Psychologist)の資格を取得
  • 19xx年(xx歳):マンチェスター大学・教員?
  • 19xx年(xx歳):リバプール大学(University of Liverpool)・教員?
  • 2000年(35歳):英国心理学会(British Psychological Society)の臨床心理部門「メイ・デイビッドソン賞」を受賞
  • 2016~2017年(51~52歳):英国心理学会(British Psychological Society)の会長
  • 2021年(56歳):後で問題視される「2021年x月のJournal of Mental Health」論文を出版
  • 2022年9月14日(57歳):不正が発覚
  • 2022年10月11日頃(57歳):「2021年x月のJournal of Mental Health」論文が撤回
  • 2023年10月14日(58歳)現在:リバプール大学(University of Liverpool)・教授職を維持:Peter Kinderman – Institute of Population Health – University of Liverpool

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
講演動画:「Psychology4Graduates 2016 – Professor Peter Kinderman – YouTube」(英語)17分48秒。
The British Psychological Society(チャンネル登録者数 1.88万人)が2017/02/14 に公開

【動画2】
早口で聞きにくい。
講演動画:「Why we need a whole new approach to mental health and wellbeing – Professor Peter Kinderman – YouTube」(英語)47分55秒。
The British Psychological Society(チャンネル登録者数 1.88万人)が2016/01/26 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★「2021年x月のJournal of Mental Health」論文

2021年x月xx日、ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)は、「2021年x月のJournal of Mental Health」論文を出版した。

  • The ‘rhetorical concession’: a linguistic analysis of debates and arguments in mental health
    Garner, B., Kinderman, P., & Davis, P.
    Journal of Mental Health 2021

論文タイトルを日本語にすると、「“修辞的許容”:メンタルヘルスにおける論争と議論の言語学的分析」である。

この論文はいくつかのブログを分析しているのだが、どのブログなのか、特定できないように、ABDEFなどと匿名にしていた。その中で「ブログF」を高く評価し、他のブログを低く評価した。

「ブログF」を高く評価した例は、

  • 相手側に対して礼儀正しく合理的な譲歩というレトリックに忠実であること
  • 「ブログF」では、患者の個人的な資質と感情が人間の観点から評価されている

対照的に、他のブログを鋭く批判した例は、

  • 「ブログA」は時折、攻撃的な言葉をあからさまに使用している
  • 「ブログB」は、「孤独」という診断ラベルによって苦しんでいる人に「前に出て」と呼びかけている

★なりすましで自画自賛

2022年9月12日(57歳)、臨床心理学者で英国のイースト・ロンドン大学(University of East London)のジョン・リード教授(John Read、写真出典)がこの論文について肯定的な紹介をツイートした。

それで、この論文への注目が急激に高まった。

論文はブログを匿名化していたのだが、ブログに書かれている文章をインターネットで比べることで、ネカトハンターが、ブログの著者を特定した。

2022年9月14日(57歳)、注目を浴びた2日後、ケンブリッジ大学の精神科医・ヒシャム・ジアディーン(Hisham Ziauddeen、写真出典以下のX)が、なんと、ブログ「F」の著者はキンダーマンだと社交メディアで指摘した。

つまり、キンダーマンは、別人になりすまして、自分のブログ(Peter Kinderman’s blog)を高く評価し、他人のブログを低く評価し、それを査読論文で発表したのだ。

英国国民保健サービス(UK’s National Health Service)の顧問精神科医アーメド・サメイ・フダ(Ahmed Samei Huda)は、キングス・カレッジ・ロンドンの雑誌編集者デイム・ティル・ワイクス(Dame Til Wykes)に、キンダーマンが「ブログF」の著者だと警告した。

2022年10月11日頃(57歳)、当該学術誌は「2021年x月のJournal of Mental Health」論文を撤回すると報じた。 → 撤回公告

撤回の理由として以下の説明がなされた。

論文で分析対象にしたブログ「F」は著者のブログだったとことが出版後に特定され、利益相反(conflict of interest)であることがわかった。この利益相反は論文の投稿時に開示されていなかった。それで、査読の信頼性および論文の結果の信頼性が損なわれるので、論文を撤回する。

キンダーマンは「撤回監視(Retraction Watch)」との電子メール交信の中で、「間違い(“mistake”)」を認め、次のように書いてきた。[白楽注:オイオイ、キンダーマンよ。「間違い」じゃないだろう。意図的な不正でしょう]

振り返ってみると、撤回は正当だったと思います。撤回につながった私たちの行動を遺憾に思っています。撤回については何の不満もありません。

2023年8月23日時点では、撤回論文はウェブから削除されていた。 → Page not found

【不正の具体例】

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド(PubMed)

2023年年10月14日現在、パブメド(PubMed)で、ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)の論文を「Peter Kinderman[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の63論文がヒットした。

2023年年10月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年年10月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)を「Kinderman」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年年10月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)の論文のコメントを「Peter Kinderman」で検索すると、本記事で問題にした、「2021年x月のJournal of Mental Health」論文・3論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》なりすまし 

ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)は、別人になりすまして、自分を高評価、他人を低評価した。

撤回公告と「撤回監視(Retraction Watch)」はこの行為を利益相反としている。

白楽は、これは、利益相反ではなく、詐欺だと思う。

それも、心理学の専門家が、ブログ評価に関する読者の心理を間違った方向にコントロールする悪行なので、まともな研究不正である。

ピーター・キンダーマン(Peter Kinderman)は論文撤回処分だけ済んで、大学を解雇されていないが、解雇相当だと思う。

「なりすまし」は昔からある詐欺行為だが、インターネットの普及、社交メディアの発達で、現在、研究界にかなり蔓延している不正だと、白楽は思う。

研究界は「なりすまし」を不正と認定し、罰すべきである。「なりすまし」を不正とする基準を設け、摘発しないと、卑怯な・汚い研究者がますますはびこる。

卑怯な・汚い手段を使うことで一般社会もそうだが、研究界で出世できるので、既に、卑怯な・汚い研究者が、現代の研究界の中で高い地位に就いている、と思う。

だから、摘発はますます、困難になっている。

《2》常習犯

ネカトの法則:「ネカトはその人の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」。

キンダーマン事件はネカト事件ギリギリだが、今回初めて「なりすまし」したと思える根拠はない。

多分、今まで何度も「なりすまし」をしてきた「なりすまし」常習犯だと思う。その方法で、他人を蹴落とし、偉くなった人だろう。

少なくとも、今までの論文に類似の「なりすまし」行為があると思う。リバプール大学はそのつもりで調査すべきだ。心理学者の誰かがそのつもりで調査してくれるといいのだが。

http://peterkinderman.blogspot.com/2016/04/transcript-of-bbc-interview.html

《3》第三者委員会

「なりすまし」で思うのだが、似たような行為に日本の第三者委員会がある。

日本で何か事件があると、第三者委員会に調査を依頼することで、公正性が保たれ、調査は徹底的に行なわれ、調査結果は正しい、みたいな受け止め方をされる。

これはおかしい。

例えば、国立循環器病研究センターがセンター理事長(大津欣也)のネカトを調査するために2023年8月4日、第三者調査委員会を設置した。 → 2023年8月4日:第三者調査委員会の設置について|トピックス|国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センターが委員を選んでいるので、委員は雇い主の利益に沿うような結論をする。というか、そういう御用委員で委員会は構成される。

それを、どうして「第三者」委員会と呼ぶのか? 

おかしなことが白昼堂々とまかり通る日本になってしまった。

第三者委員会の委員に、その組織と無関係を装った弁護士が、しばしばなる。わかりやすいのでこの弁護士を例に、御用委員を説明しよう。

弁護士は、お金をもらって、依頼人の利益を最大にする請け負い業者である。

弁護士は、依頼者の立場にたって「法的に守られるべき利益は何か」を模索し、依頼者の正当な利益を実現して紛争を解決するために活動します。(日本弁護士連合会:弁護士の使命と役割

つまり、依頼人の利益を最優先にする。

もちろん、公正を建前にしているが、依頼人の利益に反するなら、ある程度、依頼人の都合の良い方に事実を曲げる・隠蔽する(と思う)。そうでなければ、裁判官が判断すればいいだけで、弁護士はいらない。つまり、そうでなければ弁護士という商売が成り立たない。

もちろん、雇い主の意向を無視して、自分の中の公正に忠実な人もいる。

しかし、そういう人は、委員に、①委嘱されない、②途中で辞任する、③次に依頼されない。

白楽は、大学・研究所からネカト調査委員を数回打診されたことがある。

委員長と喧嘩して「②途中で辞任する」のが濃厚だったので、体調を理由に断わったことがある。また、自分の調査方針を伝えたら、相手がビビって、「①委嘱されなかった」こともある。ということで白楽は「③次に依頼されない」。

白楽以外に第三者委員会がヘンという人は多数いる。それなのに日本は依然としてヘンなままである。 → 八田進二(大原大学院大学・会計研究科教授)の「「第三者委員会」の実態と課題」(2020年6月29日以降の文章)。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Peter Kinderman – Wikipedia
② 2022年10月20日のマーカス・バンクス(Marcus Banks)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:What happened when a psychology professor used a peer-reviewed paper to praise his own blog – and slam others’ – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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