2022年4月9日掲載
ワンポイント:ウォーカーはカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)・教授で睡眠科学のスーパースター。2019年(46歳)の「2019年8月のNeuron」論文が自己盗用、翌年撤回。自己盗用なので、大学のネカト調査なし、処罰なし。国民の損害額(推定)は1千万円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
マシュー・ウォーカー(Matthew Walker、Matthew P Walker、Matthew Paul Walker、ORCID iD:?、写真出典)は、英国生まれ育ちの、米国のカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)・教授で医師免許はない。専門は神経科学・心理学である。
ウォーカーは著書も講演も大絶賛されている有名な睡眠科学者である。著書は日本語訳され、日本人のファンも多い。
2019年(46歳)に発表した「2019年8月のNeuron」論文が、出版数か月後に自己盗用だと指摘された。
2020年7月22日(47歳)、ウォーカーの要請で「2019年8月のNeuron」論文は撤回された。
自己盗用なので、カリフォルニア大学バークレー校はネカト調査をしていない。当然、ウォーカーを処罰していない。
2022年(49歳)現在、ウォーカーは教授職を維持している。
カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)。写真 by Kent Kanouse、(CC BY-NC 2.0)出典。
- 国:米国
- 成長国:英国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:英国のニューカッスル大学
- 男女:男性
- 生年月日:1972/1973年。仮に1973年1月1日生まれとする。英国のリバプールで生まれた
- 現在の年齢:51 歳?
- 分野:神経科学・心理学
- 不正論文発表:2019年(46歳)
- 発覚年:2019年(46歳)
- 発覚時地位:カリフォルニア大学バークレー校・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はアレクセイ・グゼイ科学記者(Alexey Guzey)。自分のブログで指摘
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:調査該当せず(ー)。
- 不正:自己盗用
- 不正論文数:1報撤回。著書1冊
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1千万円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1972/1973年。仮に1973年1月1日生まれとする。英国のリバプールで生まれた
- 1996年(23歳):英国のノッティンガム大学(Kanpur)で学士号取得:神経科学
- 1999年(26歳):英国のニューカッスル大学(Newcastle University)で研究博士号(PhD)を取得:神経生理学
- 2004年6月(31歳):米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・助教授
- 2007年7月(34歳):米国のカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)・教授
- 2017年10月(44歳):著書・『Why We Sleep』出版
- 2019年(46歳):後で問題視される「2019年8月のNeuron」論文を出版した
- 2019年11月(46歳):「2019年8月のNeuron」論文の自己盗用が発覚
- 2020年7月22日(47歳):著者の要請で「2019年8月のNeuron」論文は撤回
- 2022年(49歳)現在:教授職を維持
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。動画はたくさんある
【動画1】
睡眠についての講演動画:「[英語ニュース] 睡眠が記憶に与える影響|マシュー・ウォーカー| Matthew Walker |日本語字幕 | 英語字幕 – YouTube」(英語)5分23秒。
Gariben TV チャンネル登録者数 17.4万人が2021/10/01 に公開
【動画2】
以下をクリック
マット・ウォーカー: 睡眠というスーパーパワー | TED Talk
●4.【日本語の解説】
★2017年10月06日:GIGAZINE:著者不記載:「睡眠時間が7時間未満だと早死にしやすい」と断言する睡眠研究の権威による「いかに眠るべきか」のアドバイス –
神経学と心理学を教えるマシュー・ウォーカー教授は、睡眠に関する研究でも著名な研究者です。「Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams」の著者として知られ、Human Sleep Scienceセンターを設立した睡眠学の第一人者のウォーカー博士によると、睡眠時間が7時間未満であれば脳卒中や心臓発作、免疫障害などを起こしやすく早死にのリスクが高まるとのこと。そんなウォーカー博士が、睡眠の妨げになることや眠りを最大限に活用する方法について、Q&A形式で答えています。
続きは、原典をお読みください。
★2018年4月27日:植田かもめ:「寝なくて平気は自覚がないだけ – Why We Sleep by Matthew Walker」
神経科学者で心理学者のマシュー・ウォーカーによる本書”Why We Sleep”は、睡眠の重要性を詳述する。睡眠不足は認知能力の低下を招くだけでなく、肥満や高血圧から免疫不全や癌まで健康上のリスクを増大させる。
重要なポイントとして、睡眠不足の悪影響は、単なる統計的な相関関係ではなく、具体的な因果関係で語れるようになってきている。これはMRIをはじめとする脳活動の測定技術がもたらした進歩だ。「n時間未満しか寝てない人はこの病気にかかる人が多い」ではなく、「n時間未満しか寝てない人は、脳のこの働きが抑制され、それがこの病気の原因と考えられる物質を脳に蓄積させる」といった因果関係に迫りつつある。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★著名な眠りの研究者
マシュー・ウォーカー(Matthew Walker)は著書も講演も大絶賛されている有名な睡眠科学者である。著書は日本語訳され、日本人のファンも多い。
2017年(44歳)に出版した著書・『Why We Sleep』が大きな反響を呼んだ。邦訳は『睡眠こそ最強の解決策である』である。 → 英語版の表紙出典:Why We Sleep – Wikipedia。日本語版の表紙出典:アマゾン
2017年の著書・『Why We Sleep』は、コロンビア大学の統計学者であるアンドリュー・ゲルマン教授(Andrew Gelman – Wikipedia、写真出典同)がデータ改ざんレベルと批判している。 → 2019年12月27日のアンドリュー・ゲルマン(Andrew Gelman)記者のブログ記事:“Why we sleep” data manipulation: A smoking gun? | Statistical Modeling, Causal Inference, and Social Science
★発覚の経緯
2019年(46歳)、マシュー・ウォーカー(Matthew Walker)は単著で「2019年8月のNeuron」論文を出版した。
2019年11月15日(46歳)、ロシア人のアレクセイ・グゼイ科学記者(Alexey Guzey、写真出典)が、この論文は、ウォーカーが単著で1年前に発表した「2018年6月のLancet」論文とかなり重複していると指摘した。 → 2019年11月15日(2022年1月23日更新)のアレクセイ・グゼイ(Alexey Guzey)記者のブログ記事:Matthew Walker’s “Why We Sleep” Is Riddled with Scientific and Factual Errors – Alexey Guzey
つまり、自己盗用である。
盗用論文
A Societal Sleep Prescription.
Walker MP.
Neuron. 2019 Aug 21;103(4):559-562. doi: 10.1016/j.neuron.2019.06.015.
被盗用論文
- A sleep prescription for medicine
Walker MP.
Lancet VOLUME 391, ISSUE 10140, P2598-2599, JUNE 30, 2018
DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31316-3
2020年7月22日(47歳)、著者の要請で「2019年8月のNeuron」論文は撤回された。
→ 撤回公告:Retraction Notice to: A Societal Sleep Prescription
●【自己盗用の具体例】
盗用論文
A Societal Sleep Prescription.
Walker MP.
Neuron. 2019 Aug 21;103(4):559-562. doi: 10.1016/j.neuron.2019.06.015.
被盗用論文
- A sleep prescription for medicine
Walker MP.
Lancet VOLUME 391, ISSUE 10140, P2598-2599, JUNE 30, 2018
DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31316-3
ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)が盗用比較図を作って、パブピアにアップしてくれた。
以下のパブピアの盗用比較図の出典:https://pubpeer.com/publications/AC7544319BFAE096735189E7D37EEE
左が被盗用論文で、右側が盗用論文。色付きの部分が逐語盗用を示している。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年4月8日現在、パブメド(PubMed)で、マシュー・ウォーカー(Matthew Walker、Matthew P Walker、Matthew Paul Walker)の論文を「Matthew Walker[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の533論文がヒットした。
「Matthew P Walker[Author]」で検索すると、2002~2022年の21年間の100論文がヒットした。
2022年4月8日現在、529論文の方の検索に「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
「2019年8月のNeuron」論文、「2017年7月のBrain」論文である。但し、「2017年7月のBrain」論文の著者は「Matthew C Walker」で別人である。
つまり、撤回論文は「2019年8月のNeuron」論文だけである。
★撤回監視データベース
2022年4月8日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマシュー・ウォーカー(Matthew Walker、Matthew P Walker、Matthew Paul Walker)を「Matthew P Walker」で検索すると、本記事で問題にした「2019年8月のNeuron」論文・1論文が2020年7月22日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年4月8日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マシュー・ウォーカー(Matthew Walker)の論文のコメントを「Matthew P. Walker」で検索すると、20論文に、「Matthew Walker」で検索すると、42論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》盗用比較図作成ソフト
マシュー・ウォーカー(Matthew Walker)の盗用事件で、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が盗用比較図を作りパブピアにアップしている。
その盗用比較図は、無料の盗用比較図作成ソフトを使って作った。 → https://people.f4.htw-berlin.de/~weberwu/simtexter/app.html
白楽も試してみたが、日本語の文章も解析できる。同じ語句を同じ色で示してくれる。ファイル指定もできる。PDFで打ち出すこともできる。
逐語盗用の盗用比較図を作るのに便利である。
《2》自己盗用
論文は撤回されたが、自己盗用なので、マシュー・ウォーカー(Matthew Walker)は大学からは処分されていない。
マー、妥当である。
自己盗用について、学会はもっと明確な基準を設けるべきだと思う。
しかし、ビックが作った盗用比較図をみると、マシュー・ウォーカーは大幅に自己盗用している。これはマズイ。
一般論として、出版界は、盗用されると元論文の価値が下がるので、著作権法をたてに、不正だと叫ぶが、研究者の立場に立てば、主張は同じなので、結局、似たような表現になる。自己盗用はある程度、認めていいと思う。
そうしないと、自分の主張をあちこちの記事に書くのが難しい。
でも、どうしたら、マシュー・ウォーカーの自己盗用を防げただろうかと、考えた。
防ぐ方法はある、やはり、処罰だろう。
今回、大学が処罰しなかったが、メディアが盗用を取り上げ、批判し、論文は撤回された。この批判と撤回という処罰で、マシュー・ウォーカーは注意するだろう。
これで、2度としない・・・か?
というと、今回が初犯ではなかった。2度はした。となると、まだまだ、する?出典:https://news.berkeley.edu/2017/10/17/whywesleep/
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Matthew Walker (scientist) – Wikipedia
② 2020年7月28日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:High-profile sleep researcher loses paper for duplication – Retraction Watch
③ 2020年3月24日のイングヴィ・ホイセス(Yngve Hoiseth)記者のブログ記事:Why We Sleep: a tale of institutional failure – Articles – Yngve Hoiseth
④ 2019年11月15日(2022年1月23日更新)のアレクセイ・グゼイ(Alexey Guzey)記者のブログ記事:Matthew Walker’s “Why We Sleep” Is Riddled with Scientific and Factual Errors – Alexey Guzey
⑤ 2019年12月27日のアンドリュー・ゲルマン(Andrew Gelman)記者のブログ記事:“Why we sleep” data manipulation: A smoking gun? | Statistical Modeling, Causal Inference, and Social Science
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