2021年7月6日掲載
ワンポイント:査読偽装事件。2016年の初め(40歳?)、ヴロツワフ工科大学(Wrocław University of Science and Technology)・助教授のクシアゼックの査読偽装が学術誌「Engineering Failure Analysis」・編集者にバレた。結局、クシアゼックの2012~2015年の7論文が撤回された。ヴロツワフ工科大学はネカト調査したらしい。クシアゼックは辞職した(解雇された?)らしい。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
マリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek、ORCID iD:?、写真出典)は、ポーランドのヴロツワフ工科大学(Wrocław University of Science and Technology)・助教授で、専門は材料工学である。
クシアゼックは50報以上の論文を発表し、2冊の本を出版している。
2016年の初め(40歳?)、学術誌「Engineering Failure Analysis」・編集者は、クシアゼックが査読偽装していると疑い、学術誌「Engineering Failure Analysis」の元締めであるエルゼビア社の規範チームに報告した。
エルゼビア社の規範チームは調査し、査読偽装と結論した。クシアゼックが2012~2015年に出版した7論文を2014~2018年に撤回した。全部、クシアゼックの単著論文だった。
なお、クシアゼックは査読偽装を認めていない。撤回にも同意していない。
ヴロツワフ工科大学はネカト調査したらしいが、調査結果を公表していない。
2021年7月5日(45歳?)現在、クシアゼックは大学のウェブサイトでヒットしない。辞職した(解雇された?)と思われる。 → Search the site – Wrocław University of Science and Technology、2021年6月4日保存版
ヴロツワフ工科大学(Wrocław University of Science and Technology)。写真出典
- 国:ポーランド
- 成長国:ポーランド
- 研究博士号(PhD)取得:ヴロツワフ工科大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1976年1月1日生まれとする。1998年に学士号を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:48 歳?
- 分野:材料工学
- 不正論文発表:2012~2015年(36~39歳?)
- 発覚年:2016年(40歳?)
- 発覚時地位:ヴロツワフ工科大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は学術誌「Engineering Failure Analysis」・編集部の誰か(詳細不明)
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ヴロツワフ工科大学・調査委員会?
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:査読偽装
- 不正論文数:7報撤回
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:辞職(解雇?)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典: Książek, Mariusz: 9783659598746: Amazon.com: Books、保存版
- 生年月日:不明。仮に1976年1月1日生まれとする。1998年に学士号を取得した時を22歳とした
- 1998年(22歳?):ポーランドのヴロツワフ工科大学(Wrocław University of Science and Technology)で学士号取得
- 2002年(26歳?):同大学で修士号取得:材料工学
- 2004年(28歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:材料工学
- 2006年(30歳?):同大学・助教授
- 2012~2015年(36~39歳?):不正論文発表
- 2016年(40歳?):不正行為が発覚
- 20xx年(xx歳):大学を辞職(解雇?)
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経緯
2016年の初め(40歳?)、学術誌「Engineering Failure Analysis」(表紙出典)・編集者(誰だかは不明)は、マリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek)が論文投稿時に推薦した査読者に疑念を抱いた。
クシアゼックが推薦した査読者からの査読報告書は1つだけでなく、複数奇妙なのだ。
学術誌・編集者は、学術誌「Engineering Failure Analysis」の元締めであるエルゼビア社の規範チームに報告した。規範チームは、クシアゼックがエルゼビア社傘下の学術誌にそれまで投稿したすべての論文を調査した。その結果、査読偽装だと判定した。この結果を関連する学術誌・編集者に伝えた。
出版規範委員会(COPE)・ガイドラインに従って、著者であるクシアゼックに説明の機会を与えたが、シアゼックから満足のいく説明は得られなかった。
2016年10月(40歳?)、それで、編集者は2報あった「2014年のEngineering Failure Analysis」論文を撤回した。
クシアゼックはエルゼビア社が自分の説明を不当に扱ったと、次のように不満げに述べた。
論文撤回には根拠がありません。これは間違いです! 私は虚偽のアドレスを電子メールで送信したことはありません。 撤回に同意しません。 私は誰も騙していません。私は無実です。 私は何も悪いことはしません。 私は誰も騙していません。
エルゼビア社は更に調査し、結局、クシアゼックが2012~2015年に出版した7論文を2014~2018年に撤回した。全部、クシアゼックの単著論文だった。
エルゼビア社の広報担当者は、「新たに撤回された論文のほとんどは2013年に査読された論文で、学術論文出版業界が査読偽装があるという問題を十分に認識する以前に査読された論文でした。それ以降、私どもは、査読偽装を回避する措置を講じております」と述べた。
なお、ORCID ID や大学のメール アドレスでも、偽造される可能性はあると、エルゼビア社は指摘している。
クシアゼックの所属するヴロツワフ工科大学の広報官は、大学はこの査読偽装事件を把握している。現在調査中なので、結論がでるまで、クシアゼックは在職しているが、結論によっては、学長は法的措置を講じるだろうと述べた。
2021年7月5日(45歳?)現在、上記騒動の5年後だが、ヴロツワフ工科大学のクシアゼックへのネカト調査結果を、白楽は見つけることはできなかった。
ヴロツワフ工科大学は調査しなかったのか、調査したけど公表しなかったのか、公表したけど白楽が見つけられなかったのか、不明である。
なお、2021年7月5日(45歳?)現在、クシアゼックは大学のウェブサイトでヒットしない。辞職した(解雇された?)と思われる。 → Search the site – Wrocław University of Science and Technology、2021年6月4日保存版
●【不正行為の具体例】
査読偽装である。具体的な詳細は不明である。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年7月5日現在、パブメド(PubMed)で、マリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek)の論文を「Karin Dahlman-Wright [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2015~2019年の5年間の8論文がヒットした。
8論文は病理学の論文で、本記事で問題にしている研究者とは別人と思われる。
一般的に、材料工学の分野の論文は、研究内容が生命科学と関係なければ、パブメド(PubMed)では検出できない。
★撤回監視データベース
2021年7月5日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek)を「Mariusz Książek」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、 7論文が撤回されていた。
2012~2015年出版された7論文が2014~2018年に撤回されていた。全部、マリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek)の単著論文である。
★パブピア(PubPeer)
2021年7月5日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek)の論文のコメントを「Mariusz Książek」で検索すると、0論文にコメントがあった。
査読偽装は、出版された論文を読んで発見するのはほぼ不可能である。それで「パブピア(PubPeer)」での指摘がないのだろう。
●7.【白楽の感想】
《1》不正の手口
査読偽装事件が明確に認識されたのが2012年に発覚したヒュンイン・ムン事件である。 → ヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)(韓国) | 白楽の研究者倫理
マリウシュ・クシアゼック(Mariusz Książek)は2013年に査読偽装をしているので、ヒュンイン・ムン事件を知って、査読偽装を始めたと思われる。
ネカト事件の報道はネカトの抑止・警戒を伝える意義はあるが、同時に、不正の手口を研究者に教えることにもなる。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2016年11月10日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Researcher denies faking reviews for 5 newly retracted papers – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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