2022年5月10日掲載
ワンポイント:2014年11月20日(41歳?)、研究公正局は、発覚から7年後(遅いですね)、ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・ポスドクだったジューラが、3件の研究費申請書、7報の発表論文で、69個の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。2014年10月29日から3年間の締め出し処分を科した。なお、ジューラはウクライナに育ち、キーウ(キエフ)大学(National University of Kiev)で修士号を取得後、米国のヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)で博士号を取得し、同大学・ポスドクになった。記事執筆時点では、撤回論文は7論文。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
イゴー・ジューラ(Igor Dzhura、ORCID iD:、写真出典不明)は、ウクライナに育ち、キーウ(キエフ)大学(National University of Kiev)で修士号を取得後、米国のヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)で博士号を取得し、その後、ポスドクになった。専門は生物医工学である。
ネカト発覚の年は不明だが、2007年と思われる。見つけた人も不明だが、研究室の上司マーク・アンダーソン教授(Mark Anderson)と推定される。
ヴァンダービルト大学がネカト調査を終え、クロと判定した頃の2008年(35歳?)、ジューラはヴァンダービルト大学を辞職した(させられた)。
2014年11月20日(41歳?)、発覚から7年後(遅いですね)、研究公正局は、ジューラが、3件の研究費申請書、7報の発表論文で、69個の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2014年10月29日(41歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は通常の処分である。
ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:ウクライナ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ヴァンダービルト大学(推定)
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1995年に学士号を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:51 歳?
- 分野:生物医工学
- 不正論文発表:2000~2007年(27~34歳?)の8年間
- 発覚年:2007年(34歳?)
- 発覚時地位:ヴァンダービルト大学・ポスドク
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。研究室の上司マーク・アンダーソン教授(Mark Anderson)と推定される
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ヴァンダービルト大学・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:研究公正局は3件の研究費申請書、7報の発表論文で、69個の画像をねつ造・改ざんと発表
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:NIHから 3年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:(1):Igor Dzhura | LinkedInはリンク切れ、(2):Igor Dzhura is Educated from National Kiev University – Igor Dzhura、(3):Igor Dzhura: Igor Dzhura has worked for Vanderbilt University Medical Center、(4):Igor Dzhura has Extensive Knowledge of Diverse Medical Fields | by Igor Dzhura | Medium
- 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1995年に学士号を取得した時を22歳とした
- 1995年(22歳?):ウクライナのキーウ(キエフ)大学(National University of Kiev)で学士号を取得:生物/化学
- 1998年(25歳?):同大学で修士号を取得:生物物理学
- 2000~2008年(27~35歳?):米国のヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)で研究博士号(PhD)を取得し、その後、ポスドク(Senior Research Associate)、マーク・アンダーソン教授(Mark Anderson)
- 2007年(34歳?):不正研究が発覚(推定)
- 2009~2010年(36~37歳?):ニューヨーク州立大学アップステート医科大学(SUNY Upstate Medical University)・ポスドク、ボスはジョージ・ホルツ教授( George Holz)
- 2010~2014年(37~41歳?):ノバルティス生物医学研究所(Novartis Institutes for BioMedical Research)・研究員
- 2014年11月20日(41歳?):研究公正局がネカトと発表
- 2014年11月2x日(41歳?):ノバルティス生物医学研究所(Novartis Institutes for BioMedical Research)・研究員を解雇:Novartis Dismisses Employee who Fabricated Data in Research Papers – WSJ
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★イゴー・ジューラ(Igor Dzhura)
イゴー・ジューラ(Igor Dzhura)はウクライナに育ち、キーウ(キエフ)大学(National University of Kiev)で修士号を取得後、米国のヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)で博士号を取得し、その後、同大学・ポスドクになった。
ネカト発覚の年は不明であるが、撤回された最新の論文は「2007年5月のAm J Physiol Heart Circ Physiol.」なので、それ以降である。また、2008年にヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)を去っているので、ネカト発覚はそれ以前である。それで、本記事では2007年(34歳?)の発覚とした。
ネカトを見つけて通報した人もわからないが、ボスのマーク・アンダーソン(Mark Anderson、写真の立っている男性、座っているのはジューラ、写真出典不明)が見つけてことにしておく。
★研究公正局
2014年11月20日(41歳?)、発覚から7年後(遅いですね)、研究公正局はジューラが3件の研究費申請書、7報の発表論文で、69個の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2014年10月29日から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は通常の処分である。
受領していたNIH の研究費は以下の通り。
- National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI), National Institutes of Health (NIH), grants R01 HL070250, R01 HL062494, P01 HL046681, and K08 HL03727
- National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases (NIAMS), NIH, grant R01 AR044864
- National Institute of Mental Health (NIMH), NIH, grant R01 MH063232,
- National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), NIH, grant U01 AI06223,
- National Cancer Institute (NCI), NIH, grant U54 CA113007.
撤回すべき7報の発表論文は以下の通り。2000~2006年(26~32歳?)の7年間の7論文である。
- Nature Cell Biology 2:173-177, 2000
- J. Physiol. 535(3):679-687, 2001
- Circulation 106:1288-1293, 2002
- J. Physiol. 545(2):399-406, 2002
- J. Physiol. 550(3):731-738, 2003
- FASEB J. 19:1573-1585, 2005
- Molecular Cell 23:641-650, 2006
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2014年11月20日(41歳?)の研究公正局の発表に、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。
しかし、言葉で説明されてもわかりにくい。仕方がないので、2論文を適当に選んで研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見よう。
★「2000年3月のNature Cell Biology」論文
「2000年3月のNature Cell Biology」論文の書誌情報を以下に示す。2015年3月27日撤回された。
- Calmodulin kinase determines calcium-dependent facilitation of L-type calcium channels.
Dzhura I, Wu Y, Colbran RJ, Balser JR, Anderson ME.
Nat Cell Biol. 2000 Mar;2(3):173-7. doi: 10.1038/35004052.
極長鎖酸性デヒドロゲナーゼ欠損(VLCAD)マウスと野生型マウスのナトリウムカルシウム交換(NCX)活性データをねつ造し図6Cとして発表した。
活動電位特性の実験データの記録として約20細胞しかないのに、ジューラは、150細胞で測定したと主張した。
「言葉で説明されてもわかりにくい」と書いたが、スミマセン。論文は閲覧有料なので、問題の図をココに示せない。
★「2007年5月のAm J Physiol Heart Circ Physiol.」
「2007年5月のAm J Physiol Heart Circ Physiol.」論文の書誌情報を以下に示す。2015年4月15日撤回された。
- Polymorphic ventricular tachycardia and abnormal Ca2+ handling in very-long-chain acyl-CoA dehydrogenase null mice.
Werdich AA, Baudenbacher F, Dzhura I, Jeyakumar LH, Kannankeril PJ, Fleischer S, LeGrone A, Milatovic D, Aschner M, Strauss AW, Anderson ME, Exil VJ.
Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2007 May;292(5):H2202-11. doi: 10.1152/ajpheart.00382.2006. Epub 2007 Jan 5.
以下に示す図6のパッチクランプデータをねつ造・改ざんした(図の出典は原著論文)。ただ、どの部分がどのようにねつ造・改ざんされたのか、白楽はわかりませんでした。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年5月9日現在、パブメド(PubMed)で、イゴー・ジューラ(Igor Dzhura)の論文を「Igor Dzhura [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2011年の10年間の16論文がヒットした。
2022年5月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年5月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでイゴー・ジューラ(Igor Dzhura)を「Igor Dzhura」で検索すると、1論文が懸念表明、7論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年5月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、イゴー・ジューラ(Igor Dzhura)の論文のコメントを「Igor Dzhura」で検索すると、2論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》情報が消えている
イゴー・ジューラ(Igor Dzhura)のネカト事件は2014年11月20日に研究公正局が発表した。その7年前の2007年に、不正研究が発覚したと思える。
つまり、約8~15年前の事件である。これだけの年月が経つと、ウェブ上の情報がかなり消えている(推定。消える前の情報を、白楽は、少ししか保存していなかった)。白楽が数年前に集めたウェブ上の情報も消えていた。削除された情報に基づく写真は出典不明とした。
一般的に、ネカト事件記録がどのように残されているかの研究はない。感覚的だが、事件ごとに大きく異なる印象がある。ジューラの情報消滅は中程度の印象だ。
記録がウェブから消えると、推定が多くなり、事実が曖昧になる。事件から学びにくくなる。
現在、ジューラは研究界から排除されたようだが、どこで、どのような職・生活を送っているのか不明である。
イゴー・ジューラ(Igor Dzhura) https://medium.com/@igordzhura/igor-dzhura-has-extensive-knowledge-of-diverse-medical-fields-a690bca0015、保存版
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(2)2014年11月25日の連邦官報:Findings of Research Misconduct – PMC。(3)2014年11月25日の連邦官報:2014-27813.pdf。(4)2014年12月5日:NOT-OD-15-031: Findings of Research Misconduct
② 2014年11月20日のキャット・ファーガソン(Cat Ferguson)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Updated: Former Vanderbilt scientist faked nearly 70 images, will retract 6 papers: ORI – Retraction Watch
③ 2014年12月1日のマーク・テリー(Mark Terry)記者の「BioSpace」記事:Novartis AG Fires Scientist Who Falsified Data In 6 Research Papers | BioSpace
④ 2014年12月2日のフランキー4フィンガーズ(FRANKIE4FINGERS)記者の「PFP14F」記事:Dr. Igor Dzhura, Research Misconduct | getlearned
⑤ 2015年3月3日のキャット・ファーガソン(Cat Ferguson)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Heart journal issues expression of concern after fraud report – Retraction Watch
⑥ 2015年5月14日のアラ・カツネルソン(Alla Katsnelson)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“[W]e can learn from these bad actors:” Trail of retractions follows former Vanderbilt researcher’s fraud – Retraction Watch
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