ホルブルック・「ブルック」・コート(Holbrook “Brook” Kohrt)(米)

2023年4月5日掲載 

ワンポイント:コートはスタンフォード大学・医科大学院・助教授で、がん研究のスーパースターだった。2016年、38歳の若さで病死した。没後、データねつ造が発覚し、2019年(没3年後)、3論文が撤回された。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt、Holbrook Edwin Kohrt、ブルック・コート、Brook Kohrt、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のスタンフォード大学・医科大学院(Stanford University School of Medicine)・助教授・医師で、専門はがん免疫学だった。

2016年、38歳の若さで病死したが、生前はスーパースターで、非常に優秀な研究者として認められていた。

没3年後の2019年、2011~2014年(33~36歳)の4年間に出版した3論文がデータねつ造で撤回された。

1200px-Stanford_School_of_Medicine_Li_Ka_Shing_Centerスタンフォード大学・医科大学院(Stanford University School of Medicine)。”Stanford School of Medicine Li Ka Shing Center” by LPS.1 – Own work. Licensed under CC0 via Commons – 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:スタンフォード大学・医科大学院
  • 研究博士号(PhD)取得:スタンフォード大学・医科大学院
  • 男女:男性
  • 生年月日:1977年12月14日
  • 没年月日:2016年2月24日(38歳)。血友病で死亡
  • 現在の没後年数:8年
  • 分野:がん免疫学
  • 不正論文発表:2011~2014年(33~36歳)の4年間
  • 発覚年:2017年(没1年後)(推定)
  • 発覚時地位:スタンフォード大学・医科大学院・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。スタンフォード大学・医科大学院への公益通報
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①スタンフォード大学・医科大学院・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:3報撤回
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:没後に発覚なので、該当せず(ー)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人: 米澤 淳(ヨネザワ アツシ、京都大学・薬学研究科・准教授

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Holbrook Kohrt: In Memoriam (1977–2016) | American Association for Cancer Research

  • 1977年12月14日:米国のペンシルベニア州で生まれる
  • 2000年(22歳):ミューレンバーグ大学 (Muhlenberg College)で学士号取得:分子生物学
  • 2000~2005年(22~27歳):スタンフォード大学・医科大学院(Stanford University School of Medicine):医師免許取得
  • 2005~2007年(27~29歳):同大学・内科研修医
  • 2007~2011年(29~33歳):同大学・フェロー。研究博士号(PhD)を取得
  • 2011~2014年(33~36歳):後に撤回される3論文を出版
  • 2012年(34歳):同大学・助教授。研究室主宰
  • 2013年12月24日(36歳):「New York Times」紙にインタビュー記事が掲載
  • 2016年2月24日(38歳):血友病で死亡
  • 2017年(没後1年)(推定):不正研究が発覚
  • 2018年(没後2年)(推定):スタンフォード大学・医科大学院のネカト調査委員会がクロと結論
  • 2019年(没後3年):3論文が撤回

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
講演動画:「Immunologic Strategies for Leukemia and Lymphoma, with Holbrook Kohrt – YouTube」(英語)44分37秒。
Cancer Research Institute(チャンネル登録者数 2.41万人)が2014/02/28に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★スーパースター研究者

ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt、Holbrook Edwin Kohrt、ブルック・コート、Brook Kohrt)は2016年、38歳の若さで亡くなるが、生前は、非常に優秀な研究者として認められていたスーパースターだった。

2013年12月24日の36歳の時、「New York Times」紙にインタビュー記事が掲載され、ますます有名になった。 → 2013年12月24日のクラウディア・ドレイフス(Claudia Dreifus)記者の「New York Times」記事:A Doctor’s Intimate View of Hemophilia – The New York Times

死亡した時、スタンフォード大学・医科大学院・助教授だったが、死を悼む文章が多数寄せられた。以下、数点示す。

死因は血友病である。

コートは生後3か月で重度の血友病と診断された。

コートの病気は、彼の性格、人間関係、キャリアの選択、生活に大きく影響した。

例えば、致命的な頭部外傷を防ぐために、7歳になるまでヘルメットを着用していた。そして、関節に慢性的な痛みがあり、非常に頻繁に第VIII 因子を注射していた。

そして、誰もが、コートの生活が「普通」ではないことを知っていた。

★ネカト事件の経緯

何時、誰が、どのような経緯でホルブルック・コート(Holbrook Kohrt)のネカトを見つけ、告発したのかは不明である。

「撤回監視(Retraction Watch)」記事には、パブピアでの疑念視が発端かのように記載されている。

しかし、パブピアの最古の指摘は2019年7月で、論文撤回後である。なんかヘン。

スタンフォード大学・医科大学院がホルブルック・コート(Holbrook Kohrt)のネカトを調査した。

発表した論文中の画像の元データがコートの実験記録に見つからなかったので、データねつ造と結論し、論文を撤回するよう学術誌に要請した。なお、スタンフォード大学・医科大学院のネカト調査報告書は未公開である。

2019年6~7月、ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt)の没3年後、2011~2014年出版されたコートの3論文が2019年に撤回された。

撤回理由はデータねつ造である。

以上のように、ネカト行為の経緯、告発・対処の具体的内容は表面的なことしかわからない。

本ブログ記事では、暫定的に、没1年後の2017年に発覚、没2年後の2018年にスタンフォード大学・医科大学院がクロと結論とした、とした。

なお、コートはNIHや科学庁(NSF)から研究費を受給していなかった。 → Grantome: Search:Holbrook Kohrt

それで、研究公正局や科学庁のネカト案件にはならなかった。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2012年3月のJ Clin Invest.」論文

「2012年3月のJ Clin Invest.」論文の書誌情報を以下に示す。2019年7月3日、撤回された。

撤回公告には、図4Aと4Cの元データが見つからないとスタンフォード大学から連絡があったとある。 → JCI -撤回公告

以下に図4Aと4Cを示す。数値をグラフにした図である。以下の図の出典(原著論文):https://www.jci.org/articles/view/61226/figure/4

★「2014年6月のJ Clin Invest.」論文

「2014年6月のJ Clin Invest.」論文の書誌情報を以下に示す。2019年7月3日、撤回された。

  • Targeting CD137 enhances the efficacy of cetuximab.
    Kohrt HE, Colevas AD, Houot R, Weiskopf K, Goldstein MJ, Lund P, Mueller A, Sagiv-Barfi I, Marabelle A, Lira R, Troutner E, Richards L, Rajapaska A, Hebb J, Chester C, Waller E, Ostashko A, Weng WK, Chen L, Czerwinski D, Fu YX, Sunwoo J, Levy R.
    J Clin Invest. 2014 Jun;124(6):2668-82. doi: 10.1172/JCI73014. Epub 2014 May 16.

撤回公告には、図4B、4C、5B、5D、5F、6Bの元データが見つからないとスタンフォード大学から連絡があったとある。 → JCI -撤回公告

以下に図4Bと4Cを示す。数値をグラフにした図である。図5B、5D、5F、6Bも数値をグラフにした同じような図なので、省略した。以下の図の出典(原著論文):https://www.jci.org/articles/view/61226/figure/4

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年4月4日現在、パブメド(PubMed)で、ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt、Holbrook Edwin Kohrt)の論文を「Holbrook Kohrt[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004~2020年の17年間の110論文がヒットした。

2023年4月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年4月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでホルブルック・コート(Holbrook Kohrt、Holbrook Edwin Kohrt)を「Holbrook E Kohrt」で検索すると、 3論文が撤回されていた。

2011~2014年(33~36歳)に出版された3論文が2019年6~7月に撤回されていた。撤回理由は画像のねつ造・改ざんである。

★パブピア(PubPeer)

2023年4月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt、Holbrook Edwin Kohrt)の論文のコメントを「Holbrook Kohrt」で検索すると、4論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》死も乗り越えて 

ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt、Holbrook Edwin Kohrt)は、38歳の若さで病死したスター研究者である。コートの没後、論文にネカトが見つかり、死亡の3年後に3論文が撤回された。

死亡時の地位は助教授だったのに、「New York Times」、「ランセット誌」、米国癌学会などが、追悼記事を掲載した。それほど将来を嘱望されたスーパースター研究者だったのだ。人間的にも優れていたのだと思う。

そのスーパースターに論文不正があった。

なんだか、やりきれない。

しかし、ネカトはネカトである。

死も名誉も乗り越えて、事実を検証し、糾弾し、研究公正の改善・維持をすべきなのだ。

《2》「美し過ぎる」データ

白楽は思うに、研究者がなくなってから2年ほど後に元データが見つからないだけでデータねつ造と判定するのは無理があると思った。

ただ、論文のデータ(マウスの生存率)は「美し過ぎる」データだそうだ。

普通の研究者ならデータねつ造が疑われ、査読ではねられるほど「美し過ぎる」データだそうだ。

「美し過ぎる」データにもかかわらず、スーパースターだから、コートは実験が上手で「魔法」のようだと受け止められたらしい。

白楽が思うに、スーパースター科学者はネカト傾向が強いと思う。

チヤホヤされる、批判されない、自分が特殊、などの条件がそろえば、人間は不正を働く。

《3》博士論文

撤回された3論文は2011~2014年(33~36歳)の出版である。

ホルブルック・コート(Holbrook Kohrt)は、2011年(33歳)に研究博士号(PhD)を取得している。

この時間的関係から、コートの博士論文にはねつ造データが含まれていると思う。

スタンフォード大学・医科大学院はネカト調査報告書を公表していないので、コートの博士論文を調査したのかどうかわからない。

しかし、大いに怪しい。

ホルブルック・「ブルック」・コート(Holbrook “Brook” Kohrt)。https://patch.com/california/paloalto/38-year-old-stanford-oncologist-dies-hemophilia-complications

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●9.【主要情報源】

① 2013年12月24日のクラウディア・ドレイフス(Claudia Dreifus)記者の「New York Times」記事:A Doctor’s Intimate View of Hemophilia – The New York Times
② 2019年7月9日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Stanford calling for retractions of work by deceased star cancer researcher – Retraction Watch
③ 2019年7月15日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Blood pulls deceased star oncologist’s paper after Stanford inquiry – Retraction Watch
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