7-113 オーストラリア南極基地も性的暴行・セクハラまみれ

2022年10月13日掲載 

白楽の意図:オーストラリア南極観測局(AAD、連邦政府機関)の上級顧問であるメレディス・ナッシュ準教授(Meredith Nash)が、米国と同様に、オーストラリアの南極基地でも性的暴行・セクハラまみれだと報告した「2022年9月29日公表の要約版ナッシュ報告書」を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.「2022年9月29日公表の要約版ナッシュ報告書」
9.白楽の感想
10.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★2022年10月12日掲載:7-112 迫害された南極の性的暴行・セクハラ抗議者 | 白楽の研究者倫理

白楽の意図:2022年8月25日、米国・科学庁(NSF)は274ページの「南極の性不正レポート」を公表した。その関係で、ジェフリー・マービス(Jeffrey Mervis)は「2022年9月のScience」論文で南極では性的暴行・セクハラへの抗議(者)が無視され迫害されていた実態を記事にした。

★2022年10月11日掲載:7-111 南極研究は性的暴行・セクハラ地獄 | 白楽の研究者倫理

白楽の意図:2022年6月の米国・科学庁(NSF)の「南極の性不正レポート」は274ページという大部である。それを読み解くのは容易ではない。「南極の性不正レポート」を解説したケイティ・ランギン(Katie Langin)の「2022年9月のScience」論文を紹介する。

★2022年10月10日掲載:「セクハラ」:氷河地質学:デイヴィッド・マーチャント(David Marchant)(米) | 白楽の研究者倫理

ワンポイント:マーチャントはボストン大学(Department of Government Boston University)のスター教授(男性)で、南極に自分の名前を冠したマーチャント氷河があるほど著名だった。ところが、1997~2001年(36~40歳)の4年間に少なくとも3人の女性院生に南極探検中にセクハラ行為(娼婦(whore)など侮蔑的に呼ぶ、排尿中に石を投げるなど)を繰り返していた。2016年10月(55歳)、被害者の1人・ジェーン・ウィレンブリング(Jane K. Willenbring)が17年前のセクハラ被害をボストン大学に告発した。2017年10月以降、「Science」誌がこのセクハラ事件を何度も報道し、大問題となった。2017年10月26日(56歳)、米国議会も調査に乗り出した。2017年11月(56歳)、ボストン大学は、マーチャントをセクハラ有罪とし、2019年4月12日(57歳)、解雇した。国民の損害額(推定)は20億円(大雑把)

★2022年10月1日:ハフポスト日本版編集部(ハフポスト):「性行為を要求される」南極基地で性的ハラスメントが蔓延、豪報告書が指摘

出典 → ココ、(保存版) 

南極のオーストラリア観測基地に勤務する女性たちが、基地内でさまざまな性的ハラスメントの被害を受けている実態が、同国の南極局(AAD)の上級顧問による調査で明らかになった。

調査は被害の告発を受けて実施され、タスマニア大学の研究者メレディス・ナッシュ氏らが担った。

続きは、原典をお読みください。

●2.【2022年9月29日公表の要約版ナッシュ報告書】

本記事では複数の新聞記事を参考に、メレディス・ナッシュ準教授(Meredith Nash)の「2022年9月29日公表の要約版ナッシュ報告書」を中心にまとめた。

2022年10月1日のハフポストの日本語記事が詳しく解説しているので、幾分多めにそこから引用した。

●【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

★「要約版ナッシュ報告書」

オーストラリア政府の「気候変動・エネルギー・環境・水省(DCCEEW:Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water – Wikipedia)」(2022年7月1日に編成替えした新組織なので、本記事では旧名称も使用する)の下部組織であるオーストラリア南極観測局(AAD:Australian Antarctic Division – Wikipedia)は、「小さな町」のような常設の南極研究基地を4つ持っている。

タスマニア大学(University of Tasmania)のメレディス・ナッシュ準教授(Meredith Nash、写真出典)はオーストラリア南極観測局(AAD)の上級顧問である。

2022年初旬(1月?)、ナッシュ準教授はオーストラリア南極観測局(AAD)の職員22人と共に、「オーストラリア南極プログラム(Australian Antarctic Program:AAP)における多様性、公平性、包摂性に関する報告書(Nash review of diversity, equity, and inclusion in the Australian Antarctic program)」をまとめた。本記事ではこれを「ナッシュ報告書」と呼ぶ。

「ナッシュ報告書」は、オーストラリアの南極基地では性的暴行・セクハ・性差別が蔓延していると報告している。ただ、「ナッシュ報告書」には個人情報が多く含まれているので、全文は公表されなかった。

2022年9月29日、要約版を公表した:「Summary of Nash review of diversity, equity, and inclusion in the Australian Antarctic program」(7ページ)。 → Secretary’s statement in response to research study into diversity, equity and inclusion – DCCEEW

本記事ではこれを「要約版ナッシュ報告書」と呼ぶ。

以下は「要約版ナッシュ報告書」の冒頭部分(出典:同)。全文(7ページ)は → https://www.dcceew.gov.au/sites/default/files/documents/summary-nash-review.pdf

「要約版ナッシュ報告書」には、オーストラリアの南極基地では、望まないのにセックス強要、認めてないのに身体的接触、ポルノ画像の表示、性差別的ジョーク、不適切な飲酒文化、同性愛嫌悪の文化、が蔓延していると報告していた。

オーストラリア初の南極観測所のモーソン基地(Mawson station)。写真 by Doug McVeigh 出典

オーストラリア初の南極観測所のモーソン基地(Mawson station)。最右は女性です。写真 出典

★連邦政府のタニア・プリバセク大臣の対応決意

オーストラリア南極観測局(AAD)を管轄するのは環境省(=気候変動・エネルギー・環境・水省(DCCEEW))で、タニア・プリバセク(Tanya Plibersek)が大臣である。

オーストラリアのタニア・プリバセク環境相は、報告書の結果に「うんざりしている」「ショックを受け、失望した」と述べた。現地メディアの取材に「大臣として、私が責任を負うあらゆる職場において、セクハラを徹底的に排除する」と強調した。(出典:2022年10月1日のハフポストの日本語記事)

タニア・プリバセク環境相(Tanya Plibersek)。写真出典

★調査結果

報告書では、女性の隊員らが同意なく体を触られたり、性行為を要求されたりする被害のほか、壁にポルノの掲示物を貼られる、性差別的なジョークを言われるーーといったハラスメントが確認されたとしている。(出典:2022年10月1日のハフポストの日本語記事)

また、

報告書では、観測基地が男性優位な環境となっていること、同性愛嫌悪の文化が根付いていることも指摘。このほか、プライバシーや十分な衛生環境なしに生理用品の交換を余儀なくされるなど、女性の隊員らが月経に関するさまざまな困難を抱えて現地に滞在していることも明らかになった。(出典:2022年10月1日のハフポストの日本語記事)

★42項目の改善点

「要約版ナッシュ報告書」は、調査結果を生かすため、4アクション・42項目の改善点を提言した。

4アクション・42項目の改善点を全部示すのは量が多いので、4アクションに分類された項目の内、最初の3項目ずつ選んだ。つまり、以下に計12項目、どんな提言なのか、見ていこう

アクション1: 意識する文化と改善する文化を作る

  1. 包摂、多様性、公平性を推進する上で、組織のリーダーとマネージャーが果たす強力で重要な役割を認識させる。
  2. セクシャル・ハラスメントのリスクを軽減するため、特に、性差別のない文化を重視させる。
  3. 従業員の福利厚生、生産性、業績を向上するために、チームとして活動することに重点を置かせる。 オンライン研修に頼るだけでは不十分である。

アクション2: 採用と選考プロセスを改善する

  1. 南極での仕事をより幅広い人々に魅力的なものにするために、応募者を多様化する。
  2. 南極探検隊は勇敢だというステレオタイプを払拭し、多様な人材を募集するイメージにする。
  3. 遠征隊の多様性を高め、進捗状況を測定/公表する。

アクション3: インクルーシブな職場環境/インフラストラクチャの促進

  1. 基地本部のすべてのトイレに女性用の月経用品を無料で提供する。
  2. 幅広いサイズのフィールド・ギアを提供する(例:ブーツ、グローブ、ジャケット)。
  3. 泌尿器器具の使用に関するトレーニングを提供し、多様なジェンダーの(ノンバイナリー、トランスジェンダーなど)遠征隊がこれらの器具に簡単にアクセスできるようにする。文書の「女性用尿装置」に関する用語を削除し、性別に中立な用語(尿装置など)を使用する。

アクション4: セクシャル・ハラスメントの防止/敵対的な環境の改善

  1. オーストラリア南極観測局(AAD)はセクシャル・ハラスメントを防止する合理的な措置をすべて講じ、リーダーシップの説明責任を高める予防的アプローチに投資すること。
  2. セクシャル・ハラスメントに対処する大規模なアウトリーチ活動(現在および過去の基地隊員の調査とフォーカス・グループ)を開始し、「オーストラリア南極プログラム(AAP)での性的暴行・セクハラの防止・対応に生かす。
  3. オーストラリア南極観測局(AAD)高官は、従業員が被害を受けたセクシャル・ハラスメントや不適切な言動の経験、それらの従業員への影響、過去の対応の欠如を認める声明を発表すべきである。 声明には、オーストラリア南極観測局(AAD)が現状を改善する計画と説明責任を果たす計画を含める。 このステップは、オーストラリア南極観測局(AAD)が多様性に焦点を当てた新しい採用戦略に着手する際に、既存の労働力との信頼を再構築し、将来の労働力への信頼を築くために不可欠である。

★出典および参考論文

① 2021年xx月xx日、メレディス・ナッシュ準教授(Meredith Nash)の論文: Antarctic Science (2021):National Antarctic Program responses to fieldwork sexual harassment
② 2022年10月1日:ハフポスト日本版編集部(ハフポスト):「性行為を要求される」南極基地で性的ハラスメントが蔓延、豪報告書が指摘 → ココ、(保存版
③ ◎2022年9月29日、ヘンリー・ベロット(Henry Belot)の「ABC」記事:Antarctic expeditioners complain of ‘predatory’, widespread sexual harassment as minister, division urge change – ABC News
④ 2022年9月30日、タイウォ・ボラゲード(Taiwo Gbolagade)の「TDPel Media」記事:Sexual harassment, porn use, and homophobia were detected on Australian Antarctic installations
⑤ 2022年9月30日、ジョシュ・バトラー(Josh Butler)の「Guardian」記事:Measures to stamp out sexual harassment on Australia’s Antarctic stations after damning report | Antarctica | The Guardian
⑥ 2022年10月1日、マルティン・ゴイランドーとタラ・サブラマニアム(Martin Goillandeau and Tara Subramaniam)の「CNN」記事:‘Predatory,’ widespread sexual harassment on Australia’s Antarctic research bases, report finds | CNN
⑦ 2022年10月1日、アリシャ・ラハマン・サーカー(Alisha Rahaman Sarkar)の「Independent」記事:Women working at Australia’s Antarctica camps were sexual harassed, report finds | The Independent
⑧ Sexual harassment, Australian Antarctic – Google Search https://archive.ph/CWVul

●9.【白楽の感想】

《1》42項目の改善点  

メレディス・ナッシュの前向きな報告書にケチつけて悪いけど、「42項目の改善点」はインパクトに欠ける。

そもそも、42項目は多すぎる。まあ、今まで南極基地の性不正言動が酷かったので多いのかもしれないが、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。

南極研究者は、多すぎて、対処するのにウンザリしてしまう。ウンザリすると、人は対処しない。また、数項目対応して、「対応しました」となる。

一度で100%良くなることはないので、最重要な点を3項目程度に絞り、3項目全部を完全に達成させる。対応しない部署・人に罰則を科す、というシステムの方が有効だし現実的だと思った。

例えば、既に規則が変わっている飲酒の問題だが、オーストラリア南極基地では、以前はいつでもアルコールを飲めた。このルールは既に変更され、自由に飲める期間(曜日と時刻?)を設定し、それ以外は飲酒を禁止した。

このような具体的なルールだとわかりやすい。

また、12項目の内容を書いたが、読んでいてい、改善すべき言動の具体性に欠ける。また、達成度を測定しにくい。

具体的で達成度を測定できる言動にすべきである。

オーストラリア南極観測隊員(写真に女性はいない)。写真出典 Copyright – Australian Antarctic Program

《2》無関心な日本  

日本では、政府・学術界・高等教育界・メディアなど、主要なところは、研究界の性的暴行・セクハラの改善策に対してほとんど動かなかったし、現在も動かない。

ネカトに関心を示す研究者でも、どういうわけか、性不正に関しては口をつぐんで、黙っている。

南極基地、外国遺跡発掘調査、海洋調査船、海外で動植物生態の研究、文化人類学の調査旅行など、フィールド研究で、日本は問題がないのだろうか?

イヤイヤ、フィールド研究以前に、都会の大学の研究室内で多数の性不正事件が起こっている。これに対しても、どういうわけか、大多数の研究者は口をつぐんで、黙っている。

アンタッチャブル?

オーストラリア南極観測基地には飛行機が離着陸できる? 写真出典 Copyright – Australian Antarctic Program

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●10.【コメント】

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