2021年7月9日掲載
白楽の意図:論文の著者在順はどうあるべきなのか? 学部生の時に研究に貢献したのに著者にして貰えなかった大学院生のエミリー・フォガティ(Emily Fogarty)が、研究に貢献した学部生や実験助手も著者に加えるべきだと提案した「2020年11月のScience」論文を読んだので、紹介しよう。
【追加】
・2021年9月9日の「Science」記事:Don’t make early career researchers ‘ghost authors.’ Give us the credit we deserve | Science | AAAS
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。
●1.【論文概要】
論文に概要がないので、省略。
●2.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:Don’t erase undergrad researchers and technicians from author lists
日本語訳:学部生や実験助手を著者リストから消すな - 著者:Emily Fogarty
- 掲載誌・巻・ページ:Science
- 発行年月日:2020年11月26日
- 指定引用方法:
- DOI: 10.1126/science.caredit.abf8865
- ウェブ:https://www.sciencemag.org/careers/2020/11/don-t-erase-undergrad-researchers-and-technicians-author-lists
- 保存版:http://web.archive.org/web/20210120111402/https://www.sciencemag.org/careers/2020/11/don-t-erase-undergrad-researchers-and-technicians-author-lists
- 著作権:
★著者
- 単著・著者:エミリー・フォガティ(Emily Fogarty)
- 紹介:
- 写真: https://merenlab.org/people/
- ORCID iD: https://orcid.org/0000-0002-8957-9922
- twitter: https://twitter.com/emily_fogarty11
- 履歴:
- 国:米国
- 生年月日:米国。現在の年齢:29 歳?
- 学歴:米国のシカゴ大学の博士院生
- 分野:微生物学
- 論文出版時の所属・地位:シカゴ大学の博士院生(Ph.D. student at the University of Chicago)
エミリー・フォガティ(Emily Fogarty)(下段中央)。写真出典
●3.【日本語の予備解説】
★2015年x月xx日:エルゼビア社(著者不記載):「オーサーシップ」
科学論文に著者名を明記することにより、適切な個人が著者として認められ、研究の責任を負うことになります。科学者と論文の関係を意図的に偽ることは、論文の内容そのものの信用を傷つける不正行為と見なされます1。
オーサーシップの普遍的な定義はありませんが1、一般に「著者」とは、研究に多大な知的貢献をした個人と考えられます2。
国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)が定めたオーサーシップに関するガイドラインには、「著者と指定された者はすべて著者としての資格を有し、著者としての資格を有する者はすべて列記すべきである」と記載されています2
個人が著者として認められるには、以下の3つの基準を全て満たす必要があります2。
■ 研究の着想と企画、データの取得、分析、解釈に実質的な貢献をしている。
■ 論文の知的内容を執筆または改訂している。
■ 最終版を承認している。
以下に一般的なガイドラインを紹介します。(研究分野によって異なる場合があります。)
■ 著者の順序は「共著者の共同決定」とする2。
■ 研究に関与したが、ジャーナルの著者基準を満たさない者は、「Contributors(貢献者)」または「Acknowledged Individuals(定評のある人々)」として列記する。これには、助言によって研究を助けた人、研究場所を提供した 人、学部の監督者、経済的支援を獲得した人などが含まれる2,3。
■ 複数の拠点にわたる大規模な治験の場合は、一般に医師とセンターのリストを公開し、各貢献についての説明を添える。グループによっては、著者をアルファベット順に列記し、すべての著者が研究と発表に均等に貢献したという説明を添える場合もある1,2
1. 出版倫理委員会(COPE). オーサーシップに関する問題の取り扱いについて:新しい研究者のためのガイド. 2003年,
ダウンロード: http://publicationethics.org/files/2003pdf12.pdf. アクセス日:2012年9月12日
2. 国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE). 生物医学系ジャーナルに提出する原稿に対する一律の要件:研究の実施と報告における倫理的注意事項:著者と貢献者
ウェブサイト:http://www.icmje.org/ethical_1authoer.html アクセス日:2102年9月12日
★2020年11月30日:著者不記載:「「著者」の意味とは?類語の「筆者」「作者」との違いと使い方も」
「著者」とは書物を書いた人
「著者(ちょしゃ)」の意味は、書物を書いた人のことです。「著」という文字には、「書きあらわす」「書き記す」という意味があり、特定の人のことを指す「物」とあわさって「著者」という熟語になっています。
文章を書き表したものであっても、書籍化されていない新聞・雑誌の記事を書いた人に対して「著者」は使われず、これらの記事が書籍化されたときに「著者」と呼ばれるようになるのです。
★2019年11月8日:あぽ(@apocryphally1):「「著者」だけじゃない「author」の意味」
authorは「著者」という意味が一般的に知られているとおもいます。何か文章を書く人、という意味ではwriterでもよいのでは?と考えてしまいますが、その違い、知っていますか?
下にも書いていますが「author=何かを作り出す人」つまりオリジナルのアイディアなどを文章に書く人というイメージが強い単語です。一方、writerは「記録する人」というイメージが強い単語です。
- author=新しい物語を生み出す人、自身の考えや主張を文章で書く人
- writer=(個人のアイディアや創造力は無視して)文字で記録する人
日本語では「著者」と同じ意味になりますが、それぞれちょっとしたニュアンスの違いがあります。
●4.【論文内容】
本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。
方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。
「technician」は日本語でテクニシャン、技術者、実験助手などと訳されるが、本記事では実験助手と訳した。
ーーー論文の本文は以下から開始
★学部生で研究成果を出した
「彼女は研究に大きく貢献したけど、実験助手以上の貢献をしたと明示するのは難しい」 。これは、私が学部生の時、私が行なった研究について、元同僚が送ってきた腹立たしい電子メールである。
私はインターンシップで7か月間、研究を行なった。研究室の同僚は、「君の研究成果を論文にした時、君を著者に入れる」、と私に言っていた。
ところが、今から数か月前、私が解明した研究結果の論文がすでに出版受理されていて、私の名前は謝辞のセクションに追いやられていることを知らされ、かなりのショックを受けた。
この事件を契機に、著者在順について自分で発言しようと思うに至った。
学部生や実験助手が研究に貢献しているのに、その貢献を過小評価する学術界の不公正な慣習に、ここで、異議を唱えたい。
私は学部生として、発見することにワクワクし科学研究に携わった。割り当てられた研究作業をこなし、細胞培養システムの最適化条件を探し、多くの研究データをだした。
一方、当時の私は、科学研究の最終的な評価である論文出版には無関心だった。
ただ、研究室の主宰者やポスドクは、論文を発表する時、私が第一著者または第二著者になると言っていた。但し、この約束をチャンと詰めていたわけではなかった。
★研究室を去った後
私は、インターンシップを終えて、研究室を去った。
その後、当時のポスドクや研究テーマを引き継いだ院生とのやり取りで、彼らは私の論文の共著者になりたがっていることを伝えてきた。
ところが、その後、私はいくつかの悪い知らせを聞いた。その1つは、私が扱っていた細胞株は汚染されていたというものだ。
しかし、引き継いだ院生は、私が書いたプロトコル、私が彼に教えた方法、そして私が出した研究結果、私の解釈、を利用して私の実験を繰り返し、私が発見した事実を再現した。彼は、私の貢献を考えれば、私が論文の第3著者になると、私に保証した。
そして、そうこうしているうちに、私は自分自身がシカゴ大学・大学院に入学し院生になった。
私はシカゴ大学の院生になったが、学部生時代に自分が行なった研究プロジェクトなので、当時のポスドクと引き継いだ院生に、私も論文原稿を書く手伝いをしたいと申し出た。
引き継いだ院生は、個人的な理由で論文投稿を先送りしていると私に言ってきた。それで、彼が論文をまとめ投稿するつもりになれば、原稿執筆を手伝って欲しいと連絡してくるだろうと思って、それ以上、問い合わせなかった。
そして、1年以上彼らは論文原稿について何も言ってこなかった。
それで、ついに、私は電子メールした。
そのとき、論文はすでに書かれ、投稿され、出版受理されていたことを私は知った。
そして私は著者リストから除外されていた。代わりに、「予備的研究と技術的専門知識の貢献」で、謝辞欄に名前が書かれていた。
私は非常に憤慨した。私は研究に大きく貢献した。私を著者に入れるべきだと抗議した。
すると、元同僚たちは、私は「たんなる」実験助手だったと言い放った。
「彼女は研究に大きく貢献したけど、実験助手以上の貢献をしたと明示するのは難しい」 という腹立たしい電子メールを送ってきたのである。
★貢献した人にクレジットを
ほとんどの学術誌の規則では、著者の資格を、研究の構想やデザイン、またはデータの取得、分析、解釈に大きく貢献した人と、述べている。
著者は原稿の執筆に関与する必要があるかもしれないが、国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のガイドラインには、原稿の執筆に関与しなかった人を著者から除外する意図はないと述べている。
そして、私の研究成果が投稿された学術誌は国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のガイドラインを順守しているとある。
つまり、国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のガイドラインに基づいて、私は著者になるべきだった。
ところが、研究成果に大きく貢献したにもかかわらず、身分として、学部生が実験助手として行なったために、私の研究成果への貢献が過小評価された。このことに私は大きく傷ついた。
今回、自分の経験を踏まえた学術界の問題点を指摘した。私は、学部生の時に過ごした研究室・研究分野とは別の研究室・研究分野で研究している。それで、自分の経験をお伝えしても、自分の将来の研究キャリアを損なわないと思う。
振り返ってみると、研究プロジェクトのすべてのメンバーと、最初から著者在順について、明確な合意を得ておく必要があった。
また、ラボを離れる前に、最終的な論文にすぐに使える形で結果と方法を書いておくべきだった。
今回、自分の経験を踏まえて提言するが、従来あまり問題視されていないが、学部生と実験助手を著者リストから除外するという慣習の不公正さ学術界にある。学術界はこの著者在順の問題解決に取り組んで欲しい。
多くの場合、若手研究者の貢献は研究プロジェクトの成功に不可欠である。
そして、貢献したすべての人が貢献にふさわしいクレジット(評価)を確実に取得するシステムを構築すべきだと、私は思う。そうでなければ、学術界の健全な発展は望めない。
●5.【関連情報】
省略。
●6.【白楽の感想】
《1》著者在順
白楽が思うに、学術論文では公式な著者の基準(国際医学雑誌編集者委員会など)に違反している例がゴマンとある。
例えば、本記事の「3.【日本語の予備解説】」で引用したように、著者は「■ 論文の知的内容を執筆または改訂している」必要がある。
しかし、同じグループの著者が3人以上いれば、「執筆または改訂」する人はせいぜい2人までだろう。3人目以上はほぼ著者であることを認めるだけで「執筆または改訂」をしないだろう。執筆者が多ければ多いほど、他の人に任せる状況は大きくなる。
現実に、上記の基準違反者は多いと思うが、野放しである。ネカトのような研究不正という認識はないので、監視の対象になっていない。違反を取り締まる仕組みもない。学術界、出版界、高等教育界は基準違反と知りつつ黙認している。
規則が現状に合わないからだ。
だから、現状の「著者になる・ならない」の規則を変えるべきなのだ。
日本語の「著者」は「書いた人」だし、英語の「author」は、「「何かを作り出す人」つまりオリジナルのアイディアなどを文章に書く人というイメージが強い単語」である(出典:「著者」だけじゃない「author」の意味)。
いっそのこと、論文のタイトルの下に書く姓名は、「著者」ではなく「貢献者」とすべきなのだ。それに伴って、「論文のタイトルの下に書く姓名」の基準を明確にすべきなのだ。
このことはいろいろな人が以前から提案しているが、学術界、出版界、高等教育界は何も改革しようとしない。
→ 4‐1-3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 白楽の研究者倫理
《2》エミリー・フォガティ(Emily Fogarty)
エミリー・フォガティ(Emily Fogarty、写真出典)はシカゴ大学の博士院生である。その博士院生が学術界の著者在順について「Science」の記事を書いた。
ウ~ン、日本であり得ない?
イヤ、日本にもいますね。
現在活躍されている医師の榎木英介さんは、院生の頃から科学政策問題に敏感で、発信していました。他にもいるでしょう。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●8.【コメント】
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