シモーネ・フルダ(Simone Fulda)、クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)(ドイツ)

2025年1月20日掲載 

ワンポイント:フルダはキール大学(Christian-Albrechts-Universität zu Kiel)・学長で、デバティンはフルダの師でウルム大学の小児・思春期科病院(Universitätsklinik für Kinder- und Jugendmedizin Ulm)・院長だった。2人はドイツの科学界の大物で多数の重要な役職についている。2024年、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がフルダのネカトを告発し、記事を掲載した。ドイツは大騒ぎし、フルダは学長を辞任した。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第2位」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

シモーネ・フルダ(Simone Fulda、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-0459-6417、写真左出典)は、ドイツのキール大学(Christian-Albrechts-Universität zu Kiel)・学長で医師免許所持者である。専門は小児がん学である。

クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin、写真右)は、フルダの師でフルダとの共著論文が 114論文もある。ウルム大学の小児・思春期科病院(Universitätsklinik für Kinder- und Jugendmedizin Ulm)・院長だったが、2024年に退職した。

白楽記事では、フルダを中心に描き、デバティンをそれなりに登場させた。

フルダとデバティンは両方とも小児科医であり、デバティンはウルム大学に移籍する前はハイデルベルクのドイツがんセンター(DKFZ)で小児腫瘍科の責任者を務めていた。最初は副院長、次に学部長を務めた。

フルダは彼を追ってドイツがんセンター(DKFZ)に在職し、小児腫瘍学の教授になり、その後、フランクフルトのゲーテ大学に移り、そして、キール大学に移り、昇進し、学長になった。

2024年、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がフルダのネカトを告発し、彼のブログに記事を掲載した。

ドイツの主要メディアは大騒ぎをし、フルダはキール大学・学長を辞任した。キール大学の教授としては在籍している。

デバティンはフルダと共著の8論文が疑惑視されているが、2024年に71歳(72歳?)でウルム大学を退職した。今回の事件で処罰され退職したわけではないようだ。

この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第2位」になった。レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は、2024年のドイツ最大の研究不正スキャンダルだと述べている。

2025年1月19日現在、パブピアにフルダの1999~2022年(31~54歳)の24年間の21論文にコメントがあるが、撤回論文はない。

2025年1月10日、ゲーテ大学は、シロと判定しネカト調査を終了した。

2025年1月19日現在、ゲーテ大学以外は、論文出版時のウルム大学、被告発時のキール大学、研究助成機関のDFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)が、フルダのネカト疑惑を調査中である。

キール大学(Christian-Albrechts-Universität zu Kiel)。写真出典

ウルム大学の小児・思春期科病院(Universitätsklinik für Kinder- und Jugendmedizin Ulm)。写真出典

★シモーネ・フルダ(Simone Fulda)として

  • 国:ドイツ
  • 成長国:ドイツ
  • 医師免許(MD)取得:ケルン大学(多分)
  • 研究博士号(PhD)取得:ケルン大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1968年3月15日
  • 現在の年齢:56歳
  • 分野:小児がん学
  • 不正疑惑論文発表:1999~2022年(31~54歳)の24年間
  • ネカト疑惑行為時の地位:ウルム大学・DFG研究教授職(W3)、ゲーテ大学・副学長、キール大学・学長
  • 発覚年:2024年(55歳)
  • 発覚時地位:キール大学・学長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「より良い科学のために」、「kn-online」とドイツの主要メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ウルム大学、ゲーテ大学、キール大学、DFG-ドイツ研究振興協会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中
  • 大学の透明性:調査中(ー)
  • 不正:画像重複(ねつ造)
  • 不正疑惑論文数:「パブピア(PubPeer)」で21論文が疑惑視されているが、撤回論文はない
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に大きく降格(▽)。研究職を続けた
  • 処分:学長辞任。調査中なので、今のところ、処分なし
  • 対処問題:
  • 特徴:2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第2位」
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★シモーネ・フルダ(Simone Fulda)

主な出典: Curriculum Vitae Prof. Dr. Simone Fulda Simone Fulda – Wikipedia

  • 1968年3月15日:ドイツのケルンで生まれる
  • 1988~1995年(20~27歳):ドイツのケルン大学、米国のハーバード大学医科大学院、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)、アリゾナ大学フェニックス(米国)、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(アイルランド)で学ぶ
  • 1995年(27歳):ドイツのケルン大学(Universität zu Köln)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1995~2001年(27~33歳):ハイデルベルクとウルムの大学小児病院の研修医、その後、フランスのギュスターヴ・ルシー研究所のポスドク、他
  • 1999~2022年(31~54歳):この24年間の21論文にパブピアのコメントがある
  • 2002年(34歳):ウルム大学で小児研究のDFG研究教授職(W3)
  • 2018~2020年9月(50~52歳):ゲーテ大学(Goethe-Universität)・副学長
  • 2020~2024年(52~55歳):キール大学(Christian-Albrechts-Universität zu Kiel)・学長
  • 2024年1月22日(55歳):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)にネカトを告発された
  • 2024年2月10日(55歳):キール大学・学長を辞任。教授として在職
  • 2025年1月19日(56歳)現在:キール大学・教授として在職

★クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)

主な出典:Microsoft Word – CV_Debatin Klaus-Michael_D.docKlaus-Michael Debatin – Wikipedia

  • 1952年12月6日:ドイツのカールスルーエで生まれる
  • 1971~1978年(18~25歳):ドイツのウルム大学、フライブルク大学、ハイデルベルク大学で医学を学び、医師免許取得
  • 1979年(26歳):ハイデルベルク大学で研究博士号(PhD)を取得
  • 1996年(43歳):ウルム大学の小児科部長
  • 1997~2024年(44~71歳):ウルム大学の小児・思春期科病院(Universitätsklinik für Kinder- und Jugendmedizin Ulm)・院長
  • 1998~2018年(45~65歳):この21年間の16論文にパブピアのコメントがある
  • 2010~2014年(57~61歳):ウルム大学・副学長
  • 2015~2021年(62~68歳):ウルム大学・副学長
  • 2024年1月22日(71歳):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)にネカトを告発された

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
インタビュー動画:「Im Interview: Prof. Dr. med. Simone Fulda, Präsidentin der Uni Kiel – YouTube」(ドイツ語)4分36秒。
Christian-Albrechts-Universität zu Kiel(チャンネル登録者数 4500人) が2020/11/13 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★概要

この事件は、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が、2024年のドイツ最大のネカト・スキャンダルと述べている事件で、主役はキール大学・学長だったシモーネ・フルダ(Simone Fulda、写真出典)である。

フルダの師であるクラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)はウルム大学の小児・思春期科病院(Universitätsklinik für Kinder- und Jugendmedizin Ulm)・院長だった。

デバティンとフルダは両方とも小児科医であり、デバティンはウルム大学に移籍する前はハイデルベルクのドイツがんセンター(DKFZ)で小児腫瘍科の責任者を務めていた。最初は副院長、次に学部長を務めた。

フルダは彼を追ってドイツがんセンター(DKFZ)に在職し、小児腫瘍学の教授になり、その後、フランクフルトのゲーテ大学に移り、そして、キール大学に移り、昇進し、学長になった。

事件が発覚した頃、2人ともドイツ科学アカデミー(German Academy of Sciences)、国立科学アカデミー・レオポルディーナ (Leopoldina)のフェローで、ドイツ国内外の重要な学術機関や慈善団体の理事を務めていた。2人ともドイツ研究評議会(German Research Council)の議員で、ドイツがん支援団体(German Cancer Aid)(ドイツ・クレブシルフェ:Deutsche Krebshilfe)の慈善団体で上級職を務めていた。

フルダはまた、パウル・エールリッヒ研究所(Paul Ehrlich Institute)に助言し、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団のフェローシップについて決定し、ルール・メルカトル研究センターの地域研究投資とDFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)の・・・、要するに、ドイツ科学組織の多数の重要ポストについていた。

2人の承認がなければ、ドイツで科学研究は続けられないというレベルの政治力を持っていた。

そのフルダが2024年に研究不正で転落の人生を迎えたのである。

★獲得研究費

総額は不明だが、ドイツ国家がデバティンとフルダに投資した資金は巨額である。

2010年、DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)から440万ユーロ(約5億円)が助成された。 → 2010年3月5日プレスリリース:4,4 Millionen Euro für die Krebsforschung – Deutsche Forschungsgemeinschaft fördert Klinische Forschergruppe aus Ulm

★発覚と告発

チェシャ―(Cheshire)とクレア・フランシス(Clare Francis)の2人のネカトハンターがパブピア(PubPeer)で研究不正疑惑を指摘していた。

2024年1月22日(49歳?)、その情報をもとに2人の協力を得て、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が、キール大学のシモーネ・フルダ学長のネカトを告発し、彼のブログ「より良い科学のために」の記事にまとめた。

研究不正のほとんどは、同じ画像を異なる実験のデータとして発表していた。重複画像が多いこと、そして、画像の引き延ばしサイズを変えた再使用など、意図的な不正操作は明白だった。

―――――【例1】・・・「2012年のOncogene」論文」―――――

ウルム大学(Universität Ulm)時代のフルダの論文。デバティンが最後から2番目の著者である。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/1020F9EC78F43452C72D19B9D7C9F2

以下は図3。
画像を意図的に不正操作して別のデータとして発表した。

―――――【例2】・・・「1999年のOncogene」論文」―――――

ウルム大学(Universität Ulm)時代のフルダの論文。デバティンが最後著者である。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/716543EA2EA63ECBDFAFAA2A26B93F

以下は図2a。
画像を意図的に不正操作して別のデータとして発表した。

以下は図4。
画像を意図的に不正操作して別のデータとして発表した。

以下は図3b。
画像を意図的に不正操作して別のデータとして発表した。

―――――他にもあるが、止めておく―――――

他大学の教授2人にNDR新聞社が独自に依頼し、フルダの論文中の画像が不正操作されたかどうかを検査してもらった。

2人(匿名を希望)は、画像は不正操作された可能性があると結論した。

★学長辞任

2024年2月8日、キール大学の数人の教授がフルダ学長の辞任を公式に要求した(ただし、自分たちの名前は公開しなかった)。 → Unruhe an CAU Kiel: Mediziner drängen Uni-Präsidentin Simone Fulda zum Rücktritt

2024年2月10日(土)、フルダは、メディアの報道と学内からの抗議を受けてキール大学の学長を辞任した。フルダには選択の余地がなかった。 → 2024年2月10日記事:President of Kiel University resigns from office

ドイツのほとんどの主要メディアは、フルダの辞任を報道した。

なお、フルダはキール大学の教授職を持っていないため、キール大学を辞めなければならなかったが、学長を辞任した後、2024年2月、キール大学・医学部の教授職を取得し、2025年1月19日現在、正教授に在職している。

★調査

NDR新聞の取材に対し、フルダはデータ操作の告発を強く拒否した。

ほとんどの疑惑論文はキール大学着任前の論文であるが、キール大学はネカト告発に応じ、適切に調査すると発表した。調査は現在進行中で、調査終了前はノーコメントとのことだ。

また、ウルム大学とゲーテ大学で勤務していた時期の論文に疑惑があるので、研究不正の調査は、言及された大学のオンブズ委員会かDFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)のオンブズマン事務所次第となる。

2024年2月7日、DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)は予備調査を開始した。この時点では、本調査を開始するかどうかについてはまだ決定が下されていない。

2024年10月10日の記事では、ウルム大学、ゲーテ大学、キール大学、DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)が現在、調査中で、中間発表はない。

2025年1月10日、ゲーテ大学は、画像には意図しない混同があったが、画像や論文全体の変更につながるのではなく、論文は直ちに訂正されている。調査を続ける重要性が低いという理由でネカト調査を終了した。早い話、シロと判定。 → 2025年1月10日のゲーテ大学・プレスリリース:„Vorwürfe der angeblichen Datenmanipulation unbegründet“ | Aktuelles aus der Goethe-Universität Frankfurt

フルダがゲーテ大学から出版した論文でのネカトは軽微だったことと、ゲーテ大学は、ネカトに甘い過去があるので、レオニッド・シュナイダーは、この結論を予想していたと述べている。

なお、ゲーテ大学が発表したその日、シュピーゲル紙のシルケ・フォッケン記者(Silke Fokken)とアルミン・ヒンメルラート記者(Armin Himmelrath)はフルダを擁護する記事を掲載した。→ 2025年1月10日記事:Plagiatsvorwürfe: Uni Frankfurt entlastet Ex-Vizepräsidentin Simone Fulda – war es eine Kampagne? – DER SPIEGEL 

レオニッド・シュナイダーは、フルダの弁護士から依頼された提灯記事だと批判している。

2025年1月19日現在、論文出版時のウルム大学、被告発時のキール大学、研究助成機関のDFG-ドイツ研究振興協会(German Research Society)が、フルダのネカト疑惑を調査中である。

【ねつ造・改ざんの具体例】

上述したので省略するが、研究不正の内容は、異なる実験なのに同じ画像を研究データとして発表していた。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年1月19日現在、パブメド(PubMed)で、シモーネ・フルダ(Simone Fulda)の論文を「Simone Fulda[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2024年の23年間の285論文がヒットした。

285論文のうち61論文は、クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)と共著だった。

「Fulda S」で検索すると、1995~2024年の30年間の473論文がヒットした。

473論文のうち114論文は、クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)と共著だった。

2025年1月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

訂正(Correction)は3論文、懸念表明(Expression of Concern)が2論文あった。

★撤回監視データベース

2025年1月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシモーネ・フルダ(Simone Fulda)を「Fulda」で検索すると、0論文が撤回されていた。

クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)を「Debatin」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年1月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シモーネ・フルダ(Simone Fulda)の論文のコメントを「Simone Fulda」で検索すると、1999~2022年の21論文にコメントがあった。その内の10論文はクラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)と共著だった。

クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)の論文のコメントを「Klaus-Michael Debatin」で検索すると、1998~2018年の18論文にコメントがあった。その内の7論文はシモーネ・フルダ(Simone Fulda)と共著だった。

●7.【白楽の感想】

《1》適切に摘発 

パブピアでは、シモーネ・フルダ(Simone Fulda、写真出典)の1999~2022年(31~54歳)の24年間の18論文にコメントがあるが、撤回論文はない。

24年間は長い。この間、どうして、追及されなかったのだろう。

一般論として、ネカト行為をすれば、研究成果は華々しく、論文も多く出版できる。それが発覚しなければ、本来得られない地位と研究費を得てしまう。

ネカト論文が発覚した頃、フルダは、ドイツ科学アカデミー(German Academy of Sciences)、国立科学アカデミー・レオポルディーナ (Leopoldina)のフェローで、ドイツ国内外の重要な学術機関や慈善団体の理事を務めていた。ドイツ研究評議会(German Research Council)の議員で、ドイツがん支援団体(German Cancer Aid)(ドイツ・クレブシルフェ:Deutsche Krebshilfe)の慈善団体で上級職を務めていた。

そして、キール大学の学長までに昇進していた。

ネカトが追及されなかったため、権力・影響力がドイツ学術界に大きな根を張ってしまった。

ネカトを適切に摘発しないと、社会も学術界も歪む。

《2》ドイツの法律は隠蔽を擁護

白楽は、少なくともネカト事件に関して、ドイツは研究者を過剰に保護し、ネカトを隠蔽する国だと思っている。

隠蔽に関して、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は、以下のように説明している。

ドイツの名誉毀損法(German defamation law)は、プライバシーと評判の保護を中心としている。裁判所は大学教員や研究者を公人と認めていない。

それで、事実であっても、大学教員や研究者のネカトを公表することは法的にかなり難しい。というわけで、ドイツのメディアは研究不正者の名前を公表しない・できない。場合によると、研究不正者の所属機関さえ公表しない。

名前を挙げることができるのは政治家と著名人だけである。

だが、政治家と著名人に対しても、裁判所は彼らの側の判決を下すことが多いと、シュナイダーは述べている。

では、日本はどうなんだろう?

日本の政治家は「日本は欧米先進国と価値観を共有している」というけど、研究不正に関しては、異なる部分がかなりある。

どなたか、「日米欧の研究不正に関する価値観の比較」を研究して、論文に発表してくれるといいんだけど。

《3》ドイツの教授定年

レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は、ドイツの教授が正式な退職年齢に達した後、教授として在任できる最長年齢は72歳だと述べている。

クラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin、写真出典)は、ウルム大学の小児・思春期科病院(Universitätsklinik für Kinder- und Jugendmedizin Ulm)・院長だったが、2024年に退職した。この時、72歳(71歳?)だった。

デバティンは今回の事件で解雇されたのではないらしい。

《4》結果論

2015年9月30日、ドイツ研究振興協会(DFG)/日本学術振興会/科学技術振興機構/日本医療研究開発機構が主催したシンポジウム「研究公正を高める取組について~日独の取組の実践例~」を東京で開催した。

ドイツ側の2人の講演者のうちの1人は、今回問題にしたクラウス=ミヒャエル・デバティン(Klaus-Michael Debatin)だった。

1論文だが、デバティンの不正疑惑は講演会前の2013年11月に指摘されている。https://pubpeer.com/publications/B706192373941822A5198D1129101E

ドイツ側の講演者の人選をドイツ研究振興協会(DFG)に依存したのだと思う。講演者になったデバティンは、現在、研究不正疑惑の渦中にある。結果的に不適切な人選になったが、予測はできない。仕方ないだろう。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア・ドイツ語版:Simone Fulda – WikipediaKlaus-Michael Debatin – Wikipedia
② 2024年1月22日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事:Fulda & Debatin: Reproducibility of Results in Medical and Biomedical Research – For Better Science
③ 2024年2月7日の記者名不記載の「NDR」記事:Manipulationsvorwürfe gegen Präsidentin der Uni Kiel | NDR.de – Nachrichten – Schleswig-Holstein
④ 2024年2月13日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事:Simone Fulda: Open4Work! – For Better Science
⑤ 2024年8月20日のステフェン・ミュラー(Steffen Müller)記者の「kn-online」記事:Vorwürfe gegen Ex-CAU-Präsidentin Fulda in Kiel: Ermittlungen dauern an
⑥ 2024年10月10日のガンダ・マイヤー(Gunda Meyer)記者の「kn-online」記事:Nach Fulda-Rücktritt: Bewerbungsfrist für Uni-Präsidentschaft in Kiel abgelaufen
⑦ 2025年1月17日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事:Schneider Shorts 17.01.2025 – The source of these allegations has a dubious reputation – For Better Science