【追記】
2018年2月15日にパブメド・コモンズ(PubMed Commons)は廃止。
- 2018年2月1日の「PubMed Commons」公告:PubMed Commons to be Discontinued | NCBI Insights
- 2018年2月2日の「撤回監視」記事:PubMed shuts down its comments feature, PubMed Commons – Retraction Watch at Retraction Watch
●【パブメド・コモンズ(PubMed Commons)の要点】
- サイト名:パブメド・コモンズ(PubMed Commons)
- 言語:英語
- 運営者:米国・政府機関。国立生物工学情報センター(NCBI:National Center for Biotechnology Information)
- 連絡先:
- サイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedcommons/
- ツイッタ―サイト:https://twitter.com/pubmedcommons/
- ブログ:パブメド・コモンズ・チーム(PubMed Commons team)http://pubmedcommonsblog.ncbi.nlm.nih.gov/
- 開始:2013年10月
- 対象:生命科学系の論文データベースであるパブメド(PubMed)の各論文
- スタイル:パブメド(PubMed)という生命科学系の巨大な論文データベース(2,300万論文)が既に何十年も稼働している。その各論文の内容に「出版後コメント(Post-publication commentary)」として、研究者がコメントできる。コメントは、パブメド(PubMed)論文の最後に付随する。コメントできるのは研究者だけだが、閲覧は誰でも無料でできる。不正研究の告発は扱わない。
- 特徴:政府機関が出版後査読(post publication peer-review)活動を採用し、パブメド(PubMed)は単なる論文データベースから大きく飛躍した
- 対象論文数:2,300万論文。世界に主要な英文・生命科学論文のほぼすべてをカバーしている
- コメント方針:実名で登録したメンバーがコメントする。コメントはすぐに反映される。不適切なコメントはモデレーターにチェックされ、掲載されない。
- コメント付き論文数:1300(2014年6月27日閲覧)。平均6コメント/日
- 作業期間2013年10月~現(2014年6月26日)。活動はまだ8か月、継続中
●【コメントを読む方法】
登録した方が便利だが、登録しないで誰でも無料で閲覧できる。
まず、パブメド(PubMed)のトップページを開く。
コメント論文を全部見るには、最上段に以下を入れる。
has_user_comments [filter]
特定のテーマ(例えば「stem cell」)のコメント論文を全部見るには、最上段に以下を入れる。
has_user_comments[sb] stem cell
stem cell AND has_user_comments[filter]
特定の論文(例。pmidなら「7018158 [pmid]」、著者なら「Obokata」や「Obokata H」、国なら「Japan」など)のコメント論文を全部見るには、最上段に以下を入れる。
7018158 [pmid] AND has_user_comments [filter]
Obokata H AND has_user_comments [filter]
Japan AND has_user_comments [filter]
RSS 機能を使ってコメントをフォローすることもできる。
出典(①Comment search and alert: A PubMed Commons guide | PubMed Commons Blog、②Using of PubMed Commons for discussing papers – Stem Cell Assays)。
●【コメントする】
★ コメント要件
- パブメド(PubMed)登録された論文の著者で、実名での登録が必要。仮名や匿名は許可されない
- 利益相反を開示する
- コメントは研究内容に関係したことのみ
★ 発言禁止事項
- 差別的、人種差別主義的、攻撃的、扇動的、非合法的な発言
- 政治的発言
- 盗作された内容
- 許可のない他人の未発表文章・内容
- 著者、評者、編集者、出版社への不正の主張
- 著者、評者、編集者、出版社の動機の推測
研究者以外にコメントを許すと、論争の対象になりそうな「進化」「ワクチン」「気候変動」などの論文は非難のコメントが殺到する恐れがある。
★ コメントの扱い
- コメントの字数は8,000字以内だが、外部サイトにリンクできる
- コメントはすぐに反映されるが、不適切なコメントはモデレーターにチェックされ、掲載されない
- コメントは一度掲載されると、修正・削除できない。
- 掲載されたコメントはラインセンス・フリーを承認したものとみなされる。
- コメントはパーマリンクがあり、文献として引用できる
出典:
1.PubMed Commons – Frequently Asked Questions
2.Joining PubMed Commons: A Step-by-step Guide | NCBI Insights
●【他人の感想】
★サラ・リアドン(Sara Reardon)はネイチャーのサイエンスライターである。彼女のネイチャーの記事(「PubMed opens for comment 」、 Nature News & Comment、2013年10月24日)をかいつまんで以下に引用する。「パブメド・コモンズ(PubMed Commons)」の発展に懐疑的だ。
ワシントン大学微生物学者のFerric Fangは、「匿名でなければ(若い研究者は特に)、コメントしないだろう」と述べた。
2000年にVitek Traczがロンドンで創設した「ファカルティ1000(Faculty of 1000)」という優れた生命科学論文を掲示するサービスがある。そのディレクターであるIain Hrynaszkiewiczは、「ファカルティ1000(Faculty of 1000)」では5千人余りの科学者が出版後論文をレビューしていると自慢するが、コメントは集まらない。つまり、コメントを集めるのは難しい。
2006年から稼働しているオンライン学術誌「プロス・ワン(PLOS ONE)」(Public Library Of Science http://www.plos.org/) はすでに論文へのコメント欄がある。しかし、「プロス・ワン(PLOS ONE)」9万報の論文自体は2億3千万回もダウンロードされているのに、「プロス・ワン(PLOS ONE)」9万報の論文の10%しかコメントはつかない。
「プロス・ワン(PLOS ONE)」は、2006年からPublic Library of Science社より刊行されているオープンアクセスの査読つきの科学雑誌である。科学と医学の一次調査の研究を扱っている。プレ出版において内部および外部の査読を通過した原稿は科学分野での重要性・関連性が低くても除外されない。概ね方法論が間違っていなければ掲載され、採択率は70%程度とされている。掲載に際して著者は1350米ドルを支払う。PLOS ONE オンラインプラットフォームでは刊行後に利用者が議論や評価を行うことができる。(出典:PLOS ONE – Wikipedia)
アーカイヴ(arXiv)論文の創設者・Paul Ginsparg(コーネル大学物理学・教授)は、arXivは、コメントを採択しないとしている。運営に労力がかかりすぎるし、著者は、否定的なコメントがつけば自分の論文が読者に否定的に受け取られるのが怖いだろう。
arXiv(アーカイヴ、archiveと同じ発音)は、主に物理学、他に数学、計算機科学、量的生物学などの、プレプリントを含む様々な論文が保存・公開されているウェブサイト」。(出典:arXiv – Wikipedia)
●【白楽の感想】
《1》 発展か停滞か?
政府機関である国立生物工学情報センター(NCBI)の運営なので、予算・人員・継続性は、私的サイトよりはるかに強固である。ただし、匿名コメントは認めないし、不正研究告発を扱わないので、発足8か月しか経っていない現在、他のサイトをどれだけ凌駕していくのか、わからない。同類のサイトは打撃を受け、閉鎖に追い込まれるのか、別の方向に差別化をはかれるのかわからない。
少なくとも、利用者にとって、論文のコメントは一か所で全部閲覧できるほうがズット望ましい。しかし、8か月経過でコメント数が1300(2014年6月27日閲覧)となると、低調すぎる印象だ。
政府機関なので、当然ながら、運営姿勢が受身的である。公務員は一般的に「活動が低調でもクビにならなないが、失敗すればクビになる。大発展しても、大した見返りがない」からだ。挑戦的な改革をドンドン取り込まないと、「低調なまま一定の役割は果たす」レベルになるだろう。
ただ、肯定的に見れば、米国の政府機関が学術論文の改革に踏み出したことはスバラシイ。スタッフが有能な上に、スタッフの実力・組織支援体制が裏付けされている。
残念ながら、日本の公的機関は真逆である。フットワークは重く、スタッフの実力が貧弱だ。しかも、部署の新設となると、府省間の縄張り、府省「内」の縄張り、天下り先、予算行政、すり寄る御用学者などで、発足時点で、当初抱いた夢は落ち、「なんだかなあ」という組織になってしまう。
《2》 研究業績になる?
「パブメド・コモンズ(PubMed Commons)」では、研究者は、実名でコメントする。となると気楽なコメントというより、真面目なコメントになり、責任が伴う。文章も練るだろう。コメントする時間・気力・余裕がよくあるなあというのが白楽の感想だ。
コメントを論文と同じように引用できるが、研究業績になるのだろうか? 研究業績にならないなら、他人の研究をとやかく言うより、自分の研究を一歩でも進めようと思うだろう。
《3》 学会講演や科研費の終了後議論
日本の学会講演・発表では質疑の時間が少なすぎて、発表はいい加減で、議論も低調である。日本の学会講演・発表のサイトにこういう議論サイトを付加するのはどうだろう。議論するヒマのある研究者は少なく低調になるだろうか。
科研費(研究費)のウェブ報告書の末尾にコメント欄を設けると、アウトリーチ活動として優れているかもかもしれない。この場合、税金を払っている国民に発言権がある。数千万~数億円の研究費を使った研究成果が開示されると、研究成果はこれだけかと、国民からの批判であふれてしまうかも。それはそれで、まあ事実なのだから、良いだろう。
《4》 再現不能も加えたら
1980年、白楽がポスドクとして米国の国立がん研究所・分子生物学部に研究留学した時、事情通から、「米国の論文の半分は追試できない」と言われた。そして、米国の日本人先輩から、「研究室を去ったポスドクの論文を土台にキミの研究プランが組まれているので、最初、追試実験をさせられるでしょう。追試ができないと、新しいポスドクは無能だと判定される。気をつけなさい。」とアドバイスを受けた。
2013年7月31日のMeredith Wadmanの以下の記事によると、有力論文の再現性は1~3割しかない。不正研究であるかどうかよりも、ある意味、大半の論文が再現不能であることの方が問題である。科学論文としては非常にマズイ。「再現不能」の論文を、不正研究とみなすなど、何らかの管理や厳罰化が必要だ。
Meredith Wadman(2013年7月31日):「NIH mulls rules for validating key results」 : Nature News & Comment、Nature 500, 14–16 (01 August 2013) doi:10.1038/500014a
再現性は、出版後査読(post publication peer-review)の重要な要素である。パブメド・コモンズ(PubMed Commons)に、「再現できた」「再現できなかった」という情報を投稿してもらうシステムを作ったらどうだろう。