2021年2月12日掲載
ワンポイント:【長文注意】。タバコ業界がタバコの危険性を低めに低めに操作した「事実の改ざん」行為は人類史上最大の改ざん事件の1つだと思う。タバコによる死亡者数は世界で年間600万人、米国で44万人である。累計死者数は将来を含めると数億人だろう。国民の損害額は2015年の1年間に日本で2兆500億円、全世界の累計ではウン京円(?)のレベルだろう。ただ、これらの死亡者数・被害額の内、タバコの危険性を低めに改ざんした寄与分は不明である。タバコ業界の「事実の改ざん」事件は資料が膨大で、関係者も多い。その上、たばこ業界が巨大で、かつ、長年、「事実の改ざん」を必死・巧妙・全力で隠ぺいし、文化の味付けをしてきたし、現在もそうしている。全貌を掴みにくい。なお、問題は米国と限らないが、代表的なので米国とし、日本の状況も少し加えた。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
《1》タバコ業界の大発展
《2》タバコ業界の策略
《3》禁煙の確立化:2001年以降の動向
《4》タバコ業界の「事実の改ざん」
《5》タバコ業界側の米国の科学者
《6》タバコ業界側の日本の科学者
《7》タバコ問題を指摘した動画
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】
タバコによる死亡者数は世界で年間600万人、米国で44万人である。累計死者数は将来を含めると数億人だろう。死に至らないまでも、健康被害を受けた人は、その数十倍はいるだろう。
国民の損害額は2015年の1年間に日本で2兆500億円と報告されている。全世界の累計ではウン京円(?)のレベルだろう。
タバコ業界がタバコの危険性を低めに低めに操作した「事実の改ざん」行為は人類史上最大の「改ざん」事件の1つだと、白楽は思う。
タバコが消費され始めた250年前、そして、社会に普及し始めた100年前から、タバコが人体に安全だというまともな科学的データは一度も報告されていない。
それでも、20世紀初頭、米国で喫煙が普及し、その後、世界中に広がり、そして、20世紀後半、米国で禁煙運動が始まり、その後、喫煙禁止が普及した。
喫煙の普及とその後の禁止は、数年~数十年遅れて先進国に広がった。
しかし、2021年の現在でも、タバコが人体に有害という知識・意識・施策・法律は、大きな進展はあったものの、日本を含め、世界の「隅々まで」は浸透していない。インドネシアなど発展途上国は喫煙文化の真っただ中である(インドネシアは世界でも喫煙率の高い国のひとつだ)。
米国の喫煙の栄華衰退、そして禁煙へと変化した中で研究者は大きな貢献をした。
ところが、タバコが人体に有害だという研究成果が有力になることを察し、タバコ業界は、タバコが有害という研究結果を、その兆候の段階から、抑え込む、薄める、注意をそらす、隠蔽する、操作する(suppression, dilution, distraction, concealment, and manipulation)という方法で科学を歪めてきた(Tobacco Industry Influence on Science and Scientists in Germany)。
研究者自身が研究結果と学問上の信念に基づいて、タバコ無害説を主張したのであれば、研究者の「錯誤」であって「改ざん」ではない。結果的に「改ざん」に協力したことになっても、不正な研究者・研究論文と糾弾される筋合いではない。
タバコの人体への影響を研究した論文で、観測値(測定値)の「5」を「4」に変えるというデータの改ざんを行なって、タバコ無害説を主張したまともな研究者・研究論文はない。
タバコ業界の「改ざん」は、観測値の「5」を「4」に変えるというデータ改ざんではない。タバコが健康に有害と知りつつ、その事実を伝えなかった「事実の改ざん」、タバコは健康に無害と思わせた「事実の改ざん」、喫煙がカッコいいというイメージを植え付けてタバコの危険性を低めに低めに操作した「事実の改ざん」などの巧妙な「改ざん」である。
本記事では、喫煙・禁煙の歴史を理解し、その中で「事実の改ざん」に協力した研究者・研究論文に焦点を合わせて、実態を探る。
「喫煙 – Wikipedia」に次の文章がある。
たばこの煙には有害物質が大量に含まれ、健康に著しい悪影響を与える。たばこの喫煙、また受動的喫煙環境はIARC発がん性でグループ1(発がん性あり)に分類される。世界保健機関 (WHO) によると、世界で喫煙による死亡者は年間600万人、全世界で、今日喫煙をしている人々の半数である6億5千万人は、喫煙が最終的に原因で死亡するとし、受動喫煙ががんなどの深刻な健康被害を引き起こすことに疑問の余地はないと主張している。 また世界医師会は、非喫煙者は受動喫煙によって、毎年数十万人が死亡しており、職場の受動喫煙によって死亡する労働者は毎年およそ20万人いるとの声明を発表し、「喫煙をはじめとしたたばこ使用は、すべての臓器を侵し、ガン・心臓病・脳卒中・慢性閉塞性肺疾患・胎児への傷害などの主要な原因となっている。」とし、また「4000種以上の化学物質、50種以上の発ガン物質などの有害物質を含むたばこ煙にさらされる非喫煙者は、肺ガンや心臓病などの病気で命を脅かされている。」と主張した(喫煙 – Wikipedia)。
実のところ、「事実の改ざん」の主役はタバコ会社の経営陣である。彼らは、営業上の戦略として、タバコ安全説の宣伝をした。仕事としてタバコの宣伝に加わった映画俳優も多い。彼らは研究者ではないので、本ブログの主役ではないが、理解のために少し登場していただいた。
というわけで、本記事では、タバコの健康への危険性を知りつつ、その事実を伝えなかった「事実の改ざん」、タバコは健康に無害と思わせた「事実の改ざん」、喫煙がカッコいいというイメージを植え付けてタバコの危険性を低めに低めに操作した「事実の改ざん」に焦点を合わせ、研究者・研究論文に焦点を絞って、話を進める。
なお、白楽ブログの基本姿勢は日本の事件を解説しない。しかし、日本のタバコ会社「Japan Tobacco(日本たばこ産業 – Wikipedia)」の売り上げは世界第3~4位である。
今回、日本の事情も少し触れる。
タバコは健康に有害であることは数十年も前に科学的に証明され、多くの啓蒙がされている。それなのに、日本では、2021年現在でも、有名な科学者や文化人が依然として喫煙を称賛している。金のためなんだろうが、異常である。
写真出典https://i.pinimg.com/originals/e2/e9/0a/e2e90ae6b5b4e33445183172be26fc18.jpg
- 国:世界企業だが、米国とした
- 集団名:タバコ業界。多数のタバコ企業の集団として
- 集団名(英語):Tobacco Industry
- ウェブサイト(英語):Tobacco industry – Wikipedia
- 世界の主要なタバコ会社:
- Altria and Philip Morris International(フィリップモリス – Wikipedia):米国。世界最大のタバコ・メーカー。世界第1位
- British American Tobacco(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ – Wikipedia)。英国。世界第2位
- Japan Tobacco(日本たばこ産業 – Wikipedia)日本。世界第3位
- Imperial Tobacco(インペリアル・ブランズ – Wikipedia)。英国。世界第4位
- タバコ側の科学者:C・C・リトル(C. C. Little)、ジェームス・エンストローム (James E. Enström)など
- 分野:タバコ
- ステップ1(発覚):第一次追及者は多数
- ステップ2(メディア):多数。主要メディアはほぼ全部
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①裁判所。②国立がん研究所(NCI)。③食品医薬品局
- 不正:改ざん
- 不正論文数:たくさん
- 被害(者):死亡者数は世界で年間600万人、米国で44万人である。累計死者数は将来を含めると数億人だろう
- 国民の損害額:国民の損害額は2015年の1年間に日本で2兆500億円、全世界の累計ではウン京円(?)のレベルだろう。ただ、これらの死亡者数・被害額の内、タバコの危険性を低めに改ざんした寄与分は不明である
●2.【日本語の解説】
タバコ業界のたばこ(Tobacco)に関する「事実の改ざん」事件は、欧米だけでなく、日本でも起こった。「日本語の解説」は日本の事件も含んでいる。
★2003年2月26日:大阪地方裁判所:「平成 14 年(ワ)第 3929 号 禁煙措置等請求事件 第4準備書面」
出典 → ココ
これらの論文を日本たばこ産業が提供するには根拠がある。それは、日本たばこ産業が、1981 年以降公式に認められた受動喫煙の有害性をなんとか否定し、たばこ対策の推進による販売量の減少を食い止めて、自己の利益を確保しようとする強い動機があるからにほかならない。
果たして、日本たばこ産業が提供した論文は、実は国内外のたばこ産業が研究者に資金を供与して、間接喫煙の有害性に関する研究を否定するために作成させたものであることが最近明らかとなった。
本件で被告が提出する論文の類はそのような経過で作成されたものであって、中立性を欠いた偏頗な立場で作成されたものばかりである。
★2003年5月31日:切明義孝(公衆衛生学・医師):「医学部、研究所、研究者は、タバコ産業からの研究助成金を受け取らないで下さい!」
出典 → ココ、切明義孝のタバコ対策資料室
近年、アメリカをはじめとする諸外国では、訴訟の立証過程において、あるいは内部告発により、「タバコ産業から資金提供を受けた研究者が、研究結果を歪曲し、あるいはタバコの害の真実を隠蔽している」 との事実が数多く明らかになってきました。
この流れを受け、世界の医学界では、「タバコの害を研究する研究者は、タバコ産業から資金提供を受けてはならない」とのルールが定着しつつあります。 なかでも、世界中の良心的な医師を代表する世界医師連盟は、1998年の『タバコ関連勧告』のなかで、「医学部、研究所、研究者は、たばこ産業からの助成金を受けてはならない」と明言しています。
一方、わが国においては、タバコの害を意図的に過小評価する「研究」をマスコミが好んで取り上げる状況が続いています。
さらに、タバコ病訴訟をはじめとする各種の裁判においては、タバコ産業から直接、間接に資金をもらっている研究者が証言台に立って医学界の常識とはかけ離れた「学説」を展開し、裁判の進行を著しく妨げる例が散見されています。
日本たばこ産業は、これら研究者に間接的に資金を提供するために「喫煙科学研究財団」なる団体を設立し、毎年多額の資金を多くの「研究者」に提供しています。
また、日本国内にとどまらず、受動喫煙研究の金字塔ともいうべき平山博士の研究を貶めるために、多国籍タバコ企業の捏造「研究」に荷担する日本人研究者もいるようです。(”British Medical Journal”Vol.325, 14 December 2002 )
一般人の常識に照らせば、「お金をくれる人の不利になるようなことはしない」というのは当然のことであり、タバコ産業から資金をもらって行われる研究の客観性には疑問をもたざるをえません。
これを裏付けるように、「タバコ産業から研究資金をもらった研究者は、受動喫煙の害を否定する論文を書く傾向が著しい」との論文がアメリカの権威ある医学雑誌に掲載されています。(”The Journal of the American Medical Association”Vol.279 No.19, May 20, 1998)
私たちは、以上の事実を踏まえ、世界禁煙デーの今日、このアピールを発表します。
1999年から米国政府は、2800億ドルという史上最大額の詐欺の件で、フィリップ・モリス等の9つの大手たばこ会社に対する訴訟を行っていた。その公判の中で、著者のエンストロームのたばこ会社とのやりとりの内容が明らかにされた。
2006年8月、グラディス・ケスラー連邦地方裁判官は、約1700頁の判決文の中で、「たばこが無害であるとの主張に合うよう、たばこ会社は科学を操作した」と認定。その判決文によると、たばこ会社は味方になる「科学者」を見つけ、タバコ会社関連団体から資金を提供し、巨額の報酬を払い、その科学者とたばこ会社の関係を隠蔽していたという。
ここでカリフォルニア大学のエンストロームは、その「科学者」の一人とされた。特に判決では、受動喫煙の健康への影響に関する科学研究を不正に変える、たばこ会社の4つの計画に言及した。そして、エンストロームの研究論文とたばこ会社との通信文が、大衆を欺く目的でたばこ会社が科学に操作を加えた証拠である、とした。
翌9月初めに米国がん協会(エンストロームはこの協会のデータを研究に利用した)は、カリフォルニア大学理事に対し、エンストロームを科学的根拠を不正に発表したことで非難する、との書信を送っている。 カリフォルニア大学のブラム理事長は、「フィリップ・モリスが売上げを伸ばすため、わが大学の名前とエンストロームの名前を利用した」と述べている。
エンストロームは、カリフォルニア大の研究者としてはとどまれたものの、教授の地位を失った。給料も大学から支給されなくなっている。
★2017年6月30日:矢野栄二(帝京大学・公衆衛生学・教授):「タバコ関連疾患のベクターとしてのタバコ業界についての研究」。
[なお、矢野栄二はタバコ業界からカネをもらっている御用学者だと指摘されていた(”British Medical Journal”Vol.325, 14 December 2002 )]
出典 → ココ
●3.【事件の経過と内容】
《1》タバコ業界の大発展
以下の内容はリチャード・ハート教授(Richard D. Hurt、医師、写真出典)の「2014年のChest」論文の内容を中心に記述した。 → Hurt RD, Murphy JG, Dunn WF. Did We Finally Slay the Evil Dragon of Cigarette Smoking in the Late 20th Century?
Chest. 2014 Dec;146(6):1438-1443. doi: 10.1378/chest.13-2804. PMID: 25451345.
今日、タバコ業界が新しい製品として紙巻タバコを開発しても、米国政府が承認する可能性は低い。
紙巻タバコは、毒性(発がん、アテローム発生、催奇形性)が証明されていて、人間の病気との因果関係が確立されているからである。
紙巻タバコは、人間の健康を害し、長期消費者の60%以上を早期に死亡させてきた。それにもかかわらず、大量に消費された点で、独特な商品である。
★1913年以降:紙巻タバコの大発展
紙巻タバコ発展の歴史を軽く振り返ってみよう。
1890年、バック・デューク(Buck Duke、James Buchanan Duke – Wikipedia、写真出典)がアメリカン・タバコ・カンパニー – Wikipedia (American Tobacco Company)を創設し、現代タバコ産業のスタイルを確立した。
1906年、米国議会は、食品医薬品局の前身である化学局に食品医薬品の安全性を規制することを義務付けた「純正食品医薬品法(Pure Food and Drug Act)」を可決したが、タバコを除外した。
「純正食品医薬品法(Pure Food and Drug Act)」の制定の話が進む中で、バック・デュークはタバコ業界を守るために、政治的なロビー活動を積極的に行なったのである。
その戦略は見事に成功し、その後100年以上、タバコ製品が合法であるという地位をタバコ業界は獲得し続け、政府のタバコ規制を最小限に抑えることに成功した。
1913年、「R.J.レイノルズ・タバコ・カンパニー – Wikipedia(R. J. Reynolds Tobacco Company)」が最初のモダンなタバコ「キャメル(Camel、写真出典 )」を発表し、タバコ製品の販売状況は大きく変った。
キャメルは、それまでに見たことのないような斬新で積極的な広告キャンペーンを打った。キャメルの成功は、ラッキーストライクやチェスターフィールドなどの競合ブランドでも、大きな売上につながった。
米国人は1905年に年間50億本のタバコを吸っていたが、「キャメル(Camel)」発売のわずか12年後の1917年には、3倍以上である年間160億本を超えた。そして、1980年には100倍以上の年間6,000億本を超えた。
《2》タバコ業界の策略
★1950年代初頭:紙巻タバコは健康に有害
1950年代初頭までに、紙巻タバコが人間の病気(がん)を引き起こすことを示す決定的な研究結果が報告されていた。例えば、以下の論文である。
- Tobacco smoking as a possible etiologic factor in bronchiogenic carcinoma; a study of 684 proved cases.
WYNDER EL, GRAHAM EA.
J Am Med Assoc. 1950 May 27;143(4):329-36. doi: 10.1001/jama.1950.02910390001001. - Smoking and carcinoma of the lung; preliminary report.
DOLL R, HILL AB.
Br Med J. 1950 Sep 30;2(4682):739-48. doi: 10.1136/bmj.2.4682.739. - SMOKING and health; joint report of the Study Group on Smoking and Health
1957 Jun 7;125(3258):1129-33.
しかし、連邦裁判所が紙巻タバコ製造業者に有罪判決を下したのは、半世紀以上経った2006年だった。
というのは、紙巻タバコ業界の巧みな戦略が功を奏したからである。
★1954年:タバコ業界の陰謀「フランク声明」
1953年12月15日、紙巻タバコ業界のボスたちがニューヨークのプラザホテル(Plaza hotel)に集まった。ボスたちはタバコが健康に有害なことを、この時、知っていたと思われる。
ボスたちは、タバコ産業を守るために、タバコが健康に有害だという世間の流れをどう変えるか、激論を戦わした。 → 2004年9月26日の「Guardian」記事:Big Tobacco’s last battle
【動画】
1954年のフランク声明のドキュメンタリー動画:「タバコの陰謀:致命的な業界の密室取引-YouTube (Tobacco Conspiracy: The Backroom Deals of a Deadly Industry – YouTube)」(英語)51分34秒。
Best Documentaryが2016/07/19 に公開
1954年1月4日、紙巻タバコ業界のボスたちがプラザホテルで議論した2週間後、議論の結果に基づき、画期的な宣伝(フランク声明の発表)に打って出た。
全米の400を超える主要新聞にフランク声明(A Frank Statement – Wikipedia)の全面広告をしたのだ。
フランク声明は、ある意味、皮肉な戦略である。背景には、タバコが人体に有害だという科学的知見がハッキリしてきた状況がある。それを、正面から否定せず、なんとか、事実から注意をそらそうとしたのだ。
それで、タバコ会社は、アメリカ国民に対して「タバコは安全で、タバコ業界は皆様の健康を最優先で尊重しています」という誓約を表明したのである。以下は、フランク声明の要点。
- 私たちは、人間の健康への懸念を重視し、責任をもって対応します。私たちの企業活動において、最も重要事項だと考えています。
- 私たちの製品は健康に無害です。
- 私たちは、公衆衛生を守る人々に常に協力しています。
しかし、実は、フランク声明には、発表前の秘密草案があった。秘密草案ではもっと具体的に記述していた。それを、発表した最終版ではかなりソフトに変えていたのだ。以下に変更前の記述を示す。
- 私たちは、深刻な人間の病気の原因であることが示されている製品を、決して製造および販売いたしません。
- 私たちは、医学研究が直面している最も厄介な問題の1つである肺がんの原因を突き止めるための研究への援助と支援を約束します。
- 委員会(新たに設立されたタバコ業界研究委員会Tobacco Industry Research Committee)は、たばこの喫煙と健康およびその他の関連事項に関連して発生する可能性のある事実を一般の人々に知らせ続けることを約束します。
なお、タバコ業界は発表版「フランク声明」でさえ、誓約内容に従わなかった。
1998年、画期的なミネソタ・タバコ裁判(Minnesota Tobacco Trial)で、それまで秘密だった3千万ページを超えるタバコ業界の社内文書が公開された。 → Smoked: The Inside Story of the Minnesota Tobacco Trial
その社内文書の公開で、喫煙と病気を結びつける科学的証拠を疑問視することで、喫煙の健康リスクをわからなくする巧妙な広報キャンペーンをしていたことが明らかになった。 → Hurt RD, Ebbert JO, Muggli ME, Lockhart NJ, Robertson CR,; Mayo Clin Proc. 2009; 84: 446-456 Open Doorway to Truth: Legacy of the Minnesota Tobacco Trial
タバコ業界内部の秘密文書には、「タバコは優れたニコチン送達装置で喫煙者のニコチン中毒を促進する、と業界は認識していた」とあった。つまり、業界は喫煙の健康リスクを認識していたことを示していた。
★1960年代:タバコ業界も有害だと知っていた
以下は論文の冒頭部分(出典:同)。全文は3頁 → http://tobaccopolicycenter.org/wp-content/uploads/2017/11/161.pdf
この書類には以下の記述がある。たくさんあるが、以下はその3例である。
1963年7月17日のブラウン&ウィリアムソン社の法務顧問兼副社長、アディソン・イェーマン(Addison Yeaman)の報告書
「ニコチンは中毒性があります。 私たちは中毒性のある薬物でストレス解消に効果的なニコチンを販売するビジネスをしています」
1969年2月19日のフィリップモリス社のメモ
ウィリアム・ダン(William L. Dunn)からヘルムート・ウェイクハム博士(Helmut Wakeham)へ
「人々はさまざまな理由でタバコを吸います。しかし、主な理由はニコチンを身体に吸引することです。
ニコチンと同様な化学物質として、キニーネ、コカイン、アトロピン、モルヒネがあります。」
1969年フィリップモリス社のトーマス・オスデン(Thomas Osdene)のメモ
「私たちの最初の前提として、喫煙の主な動機は、ニコチンの薬理効果を得ることです」
★1960~1980年代:イメージ作戦
タバコが人体に有害だという科学的知見を、正面から否定せず、タバコの販路を広げる方法として、「喫煙はカッコいい!」と思わせる作戦をタバコ業界は展開した。人体に有害という事実から注意をそらすためである。
テレビ、雑誌、ポスター写真などあらゆる広告メディアを使った。
【動画】 Tobacco Industry’s Campaign to Hide the Hazards of Smoking
【動画】 1950s TOBACCO INDUSTRY PROMOTIONAL FILM TOBACCOLAND ON PARADE 78734 以下、リンク切れのように見えますが、生きています。クリックしてください。
【動画】 EARLY 1960’S CIGARETTE ADS
タバコ宣伝手法の、その1つが、人気のテレビ番組でスターに宣伝してもらうことだ。
1951年~1957年に放映の「アイ・ラブ・ルーシー」で人気を得、「存命中アメリカで最も人気があり影響力のある人物の1人」(ルシル・ボール – Wikipedia)のルシル・ボール (Lucille Ball)がタバコの宣伝をしている(アイ・ラブ・ルーシー – Wikipedia)。
つまり、とても人気のある俳優やカッコいい映画スターにテレビや映画で喫煙シーンを演じてもらうことだった。 → 1994年5月19日のミーロン・レビン(Myron Levin)記者の「Los Angeles Times」記事:Tobacco Firm Paid $950,000 to Place Cigarettes in Films : Movies: Company paid actors in cash, cars or jewelry in early ’80s, memos say. Industry says it has halted practice.
アクションスターのシルベスター・スタローン(Sylvester Stallone)もタバコ宣伝を請け負っていた。
ブラウン・アンド・ウィリアムソン社(Brown&Williamson Tobacco Corp.)(現在のブリティッシュ・アメリカン・タバコの前身)は、20本以上の映画で自社のタバコを喫煙することで、 4年間でスタローンに95万ドル(約9500万円)以上を支払った。
以下は、1983年4月28日付けの契約書である。スタローンは50万ドル(約5千万円)で喫煙シーンを請け負っている(出典)。
もちろん、シルベスター・スタローンは映画の中で喫煙しているが、映画以外でも喫煙している写真がたくさんある。カッコいい喫煙シーンのイメージをファンに植え付けたので、そのスタイルを踏襲したのだろう。
【日本のタバコ宣伝動画】
もちろん、日本でもテレビでタバコの宣伝が行なわれていた。その動画のいくつかを以下に示す。
【動画】 1977-1984 日本専売公社CM集
【動画】 1985~1994 日本たばこJTCM集
《3》禁煙の確立化:2001年以降の動向
最初に、タバコの人体への有害性を示した日本語の動画で示す(eoishasanが2012/03/14にアップ)。説明しているのは名古屋大学・循環器内科学の室原豊明・教授である。
【動画】タバコの害について 室原豊明先生
★2001年:国立がん研究所(NCI)の総説
米国のNIH・国立がん研究所(National Cancer Institute (NCI))が、世界で最も実績と権威のある「がん研究所」である。白楽も昔、2年間ポスドクで滞在した。
2001年、そのNIH・国立がん研究所(NCI)が251ページの総説論文(モノグラフ)を出版し、タバコの有害性を次のように結論付けた。
- タバコ製品のデザイン変更による健康被害の軽減は、過去50年間、疫学的およびその他の科学的証拠で認められなかった。
- タバコ業界がタバコ製品に「ライト(light)」、「タールが少ない(low-tar)」と形容して、喫煙者の健康リスクを軽減するとした紙巻きタバコのマーケティングは詐欺的である。
→ 以下は総説論文の冒頭部分(出典:同)。全文(251ページ)は →
https://cancercontrol.cancer.gov/sites/default/files/2020-08/m13_complete.pdf
★2006年:ケスラー裁判官の歴史的判決
がん研究で世界で最も実績と権威がある米国のNIH・国立がん研究所(National Cancer Institute (NCI))が、タバコの有害性を訴えても、社会制度としての強制力はない。
2006年、裁判所が決定的な役目を果たした。
2006年8月17日、米国地方裁判所(U.S. District Judge)のグラディス・ケスラー裁判官(Gladys Kessler – Wikipedia、写真出典)がタバコを規制する画期的な判決をくだした。
ケスラー裁判官は、「タバコ業界は業界の利益を守るために、詐欺的に、低タール/軽量タバコ(low-tar/light cigarettes)は害が少ないと宣伝・販売していた。今後、そのような形容詞を使って害が少ないという印象を与える宣伝・販売を禁止する」との判決を下した。
→ United States v. Philip Morris – Wikipedia
→ United States v. Philip Morris USA Inc., et al. | Tobacco Control Laws
被告となったタバコ業界の2企業は2007年にケスラー裁判官の評決に対して上訴したが、2009年、米国控訴裁判所で敗訴した。
2010年、米国は、法律「Family Smoking Prevention and Tobacco Control Act – Wikipedia」を制定し、たばこ製品で、「害が少ない、または病気のリスクが低い」、「安全な」、「毒性が少ない」、など表現・主張・マーケティング・広告・販促、を禁止した。
★2019年:食品医薬品局(FDA)の表明
米国では、食品医薬品局(FDA)が食品や医薬品の問題で最高の許認可権限を持っている。その食品医薬品局(FDA)もタバコに関する規制を公表している。
2021年現在、米国の食品医薬品局(FDA)は以下の見解をウェブサイトに表明している。
以下の出典 (意訳は白楽) → 2019年10月24日、食品医薬品局の記事(著者不記載): Tobacco-Related Health Fraud | FDA
すべてのたばこ製品は、健康に害を及ぼす。たばこ製品の使用で、「害が少ない、または病気のリスクが低い」と主張すると、消費者はこれらのたばこ製品を安全だと誤解する恐れがある。それで、食品医薬品局(FDA)は、科学的根拠のないこの種の文書・表現・主張・マーケティング・広告・販促を医療詐欺(health fraud)(改ざん)と見なす。
例えば、「安全な喫煙フィルター(Safe Smoke Filter)」、「毒性が少ない(Less Toxic)」、たばこ製品を「軽い(Light)」、「低い(Low,)」、「マイルド(Mild)」と形容する表示、またはその他の行動。
★喫煙の現状
2021年現在、喫煙は依然として米国の主要な問題だが、徐々に問題の重要性は低下している。しかし、発展途上国では、たばこの使用量が大幅に増えていて、今後、多数の健康被害につながり、いずれ、大きな社会問題になると思われる → インドネシアは世界でも喫煙率の高い国のひとつだ。
データの示すところ、喫煙で、毎年45万人のアメリカ人喫煙者と、間接喫煙で5万人の非喫煙者が早期に死亡している。世界中では、毎年550万人の喫煙者と60万人の非喫煙者が早期に死亡している。犠牲者は2030年には毎年800万人に増加すると予測されている。
大雑把に計算して、20世紀の100年間で世界の1億人が喫煙で死んだ。これはすべての戦争による死者とほぼ同数である。そして、21世紀には、主に発展途上国で10億人が喫煙で死亡すると予測されている。
★日本社会
本記事は基本的に米国の事情・事件を記載する趣旨だが、日本の事情も少し記載する。
わずか40~50年前、日本では男性がタバコを吸うのはごく普通で、バスや電車内で普通にタバコを吸っていたし、大学でも会議室に入るとタバコの煙がもうもうとしていた。
米国で喫煙の害が叫ばれ、禁煙運動が盛んになった1980年代、米国で売れなくなったタバコを日本でたくさん売るようになった。
そして、いつの頃からか、日本でもタバコは健康に有害だとされ、禁煙運動が盛んになり、タバコが社会から締め出された。
2021年現在、日本も世界もタバコが健康に有害であると認識している。
しかし、日本にも、タバコ業界(Tobacco Industry)にカネ・地位・サービスの提供を受け、あからさまに喫煙を奨励しないまでも、タバコの害を意図的に低く報告・主張・発表する御用学者がたくさんいた。
そして、2021年現在も、タバコ業界シンパの御用学者・文化人はソコソコいる。
★日本の厚生労働省
たばこは、肺がんをはじめとして喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、膵がんなど多くのがんや、虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、歯周疾患など多くの疾患、低出生体重児や流・早産など妊娠に関連した異常の危険因子である。
1999年の喫煙と健康問題に関する実態調査では、全体の84.5%の人が「喫煙で肺がんにかかりやすくなる」と思っている一方で、「心臓病」は40.5%、「脳卒中」では35.1%と、低率になっているなど、疾患によってはたばこの健康影響に関する認識が低い。出典:たばこ|厚生労働省
喫煙による超過死亡数(日本)は2005年で男性16万3千人、女性3万3千人である。出典:最新たばこ情報|たばこのリスク|WHO推計値(日本)
《4》タバコ業界の「事実の改ざん」
本記事はタバコが人体に有害である「事実を改ざん」し、人々にタバコは安全と思わせてきた点に焦点を絞って、話を進めていきたい。
科学者の誰が、いつ、どのような状況で、どのように、を明確にしていきたい。そして、今後同じようなことが起こらないようにするために何をどうすればよいのかの防止策に役立てたい。
ただ、その前に、1994年の時点でも米国のタバコ業界のトップは「タバコは安全」と証言し、「事実の改ざん」を続けていたことから入ろう。
★1994年と1998年:議会証言
1994年、米国の主要な紙巻タバコ会社の7社の社長は、ニコチンに中毒性はなく、タバコ製品は人間に害を及ぼさなかったと米国議会で証言した。
なお、この翌年の1995年、WHOなどの試算によると、タバコが原因でに全世界で312万人が死亡していたのである。 → 最新たばこ情報|たばこのリスク|WHO推計値(全世界)
以下は、1998年1月28日の記事から → Tobacco Under Oath – Round II: New Evidence…New Lies? – Campaign for Tobacco-Free Kids (en)
1994年4月14日、米国の7社のタバコ会社の社長が、米国下院通商委員会の健康環境小委員会に呼ばれた。
彼ら全員が、ニコチンは中毒性がないと証言した。そして、子供たちにタバコ製品を販売したことはないと証言した人もいた。
1998年1月29日、上記の4年後、大手5社のタバコ会社の社長は、下院エネルギー委員会に再び呼ばれた。4年前の社長とは別人である。
ワイデン議員(Rep. Wyden):ニコチンが中毒性があるかどうかについて質問を始めます。最初に、ニコチンは中毒性がないとあなた方一人一人が信じているかどうか、順番にお尋ねしますので、「はい」または「いいえ」で、お答えください。
ニコチンは中毒性がないと思いますか?
キャンベル氏:ニコチンは中毒性がないと思います、はい。
ワイデン議員:ジョンストンさん?
J.ジョンストン氏:タバコ、ニコチンは明らかに中毒の古典的な定義を満たしておりません。中毒性はありません。
ワイデン議員:お答えは「ない」と見なします。繰り返しになりますが、時間は短いのです。私はあなた方全員が「ニコチンは中毒性がない」と信じていると思いますが、記録に残すためにこの質問をしております。
タデオ氏:ニコチンや当社の製品に中毒性があるとは思いません。
ホリガン氏:ニコチンは中毒性がないと思います。
ティッシュ氏:ニコチンは中毒性がないと思います。
サンデフル氏:ニコチンは中毒性がないと思います。
D.ジョンストン氏:そして私も、ニコチンは中毒性がないと信じています。
ーーー
なお、前述したように、1960年代には、タバコは有害でニコチンは中毒性があるとタバコ業界は認識していた。以下に再掲する
1963年7月17日のブラウン&ウィリアムソン社の法務顧問兼副社長、アディソン・イェーマン(Addison Yeaman)の報告書
「ニコチンは中毒性があります。 私たちは中毒性のある薬物でストレス解消に効果的なニコチンを販売するビジネスをしています」
1969年2月19日のフィリップモリス社のメモ
ウィリアム・ダン(William L. Dunn)からヘルムート・ウェイクハム博士(Helmut Wakeham)へ
「人々はさまざまな理由でタバコを吸います。しかし、主な理由はニコチンを身体に吸引することです。
ニコチンと同様な化学物質として、キニーネ、コカイン、アトロピン、モルヒネがあります。」
1969年フィリップモリス社のトーマス・オスデン(Thomas Osdene)のメモ
「私たちの最初の前提として、喫煙の主な動機は、ニコチンの薬理効果を得ることです」
★タバコ業界の戦略:ベロ教授の「2005年のPublic Health Rep. 」論文
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)・臨床薬理のリサ・ベロ教授(Lisa Bero – Wikipedia、写真出典)が、「2005年のPublic Health Rep. 」論文で、タバコ業界の戦略を解読している。
ベロ教授は、世界保健機関 (WHO) の必須医薬品委員会(Essential Medicines Committee)に2005年に委員に就任し、その後、委員長になった。生命科学研究を政策やメディアに反映させる研究では著名な人である。
論文は以下。
- Tobacco industry manipulation of research.
Bero LA.
Public Health Rep. 2005 Mar-Apr;120(2):200-8. doi: 10.1177/003335490512000215.
論文では、タバコ業界の戦略は、政策立案と訴訟に影響を与えるすべてをターゲットに、タバコ業界の利益を最大限に広げた。その戦略は、実際には、タバコが人体に有害だという「事実を改ざん」することが焦点となった。
戦略を以下の6項目に分類した。
手法は1950年代・60年代に確立し、1990年代まで実施した。2005年の論文なので、「1990年代まで実施」とあるが、2021年現在でも履行されている戦略である。
- タバコ業界の立場をサポートする研究に資金を提供する
- タバコ業界の立場を支持する調査結果を公開する
- タバコ業界の立場を支持しない研究を抑制する
- タバコ業界の立場を支持しない研究を批判する
- 一般の報道機関にタバコ業界寄りのリスク・データまたはリスク解釈を広める
- タバコ業界寄りのリスク・データまたはリスク解釈を政策立案者に直接普及する
最初の「1.タバコ業界の立場をサポートする研究に資金を提供する」の内容を見て行こう。
【1.タバコ業界の立場をサポートする研究に資金を提供する】
タバコ業界は、1958年に「タバコ研究所(Tobacco Institute – Wikipedia)」を設立し研究助成を行なった。なお、タバコ研究所は、1998年の「タバコ基本和解合意(Tobacco Master Settlement Agreement – Wikipedia)」で解散させられるまで、研究助成を行なった。
「タバコ研究所」はタバコ業界内の研究機関であり、タバコ業界外では、研究者に研究費を配布した研究助成機関だった。
本来、科学研究プロジェクトの選定には、同じ分野の実力のある研究者が研究プロジェクトの採択課題を選定する。
しかし、「タバコ研究所」の研究プロジェクトの選定では、科学研究の評価に異例な人たちである弁護士が大きく関与していたのである。「タバコ業界の立場をサポートする研究」視点で選定したのである。
著名な法律事務所であるコヴィントン&バーリング法律事務所(Covington & Burling – Wikipedia)やジェイコブ&メディンガー法律事務所(Jacob and Medinger)が「タバコ研究所」に入っていた。
そして、肺疾患が遺伝的要因、ストレス、低タンパク食が原因であるというような研究を支援したのだった。つまり、そのような研究でタバコ有害説が薄められる。
タバコ業界はまた、1954年にタバコ業界研究委員会(Tobacco Industry Research Committee:TIRC、1964年にタバコ研究協議会(Council for Tobacco Research:CTR)と改名)を設立した。後述するC・C・リトル(C. C. Little)がタバコ業界研究委員会の科学顧問を務めた。
タバコ研究協議会 は、1972年~1991年の20年間で、少なくとも1460万ドル(約14億6千万円)も研究助成した。
その中には、訴訟または立法の際にタバコ業界に協力的な科学者と医師を見つけるための特別プロジェクトの助成もあった。
さらに、1988年、フィリップモリス 社(Philip Morris)などタバコ会社3社は、「室内空気研究センター(Center for Indoor Air Research – Wikipedia:CIAR)」を設立し、室内空気の汚染に関する研究に資金を提供し始めた。
この研究は、1981年、日本の国立がん研究センター研究所・疫学部長・平山雄(ひらやま たけし)が受動喫煙で肺がんになる可能性が高いことを世界で初めて指摘し、室内の副流煙が問題視されるようになったことに対抗するためである。
「室内空気研究センター(CIAR)」は1989~1993年の5年間に審査付き研究プロジェクトに1121万ドル(約11億円)を、特別研究プロジェクトに402万ドル(約4億円)も研究助成した。
もちろん、主な研究テーマは、受動喫煙が病気を引き起こさないことを証明する研究だった。
これらタバコ業界に協力的で研究助成を受けた研究者は誰で、その研究論文にデータ「ねつ造・改ざん」はなかったのか?
白楽はそれを知りたいのだが、具体的に研究者を特定するのが難しい。
ベロ教授の「2005年のPublic Health Rep. 」論文では、1つの例だけが示されていた。
議会小委員会が研究データの「ねつ造・改ざん」を指摘したというくだりである。論文を探ると、以下の論文のようだ。
- The measurement of environmental tobacco smoke in 585 office environments – ScienceDirect
Simon Turner, Louis Cyr, Alan J. Gross
Environment International; Volume 18, Issue 1, 1992, Pages 19-28
論文を調べると、第一著者のサイモン・ターナー(Simon Turner、写真出典)の所属は大学ではなく「Healthy Buildings International」という会社だった。
ターナーはその会社の社長で、研究博士号はなく、医師でもない。
論文内容は、585箇所のオフィスの空気汚染の研究で、呼吸可能な浮遊粒子(RSP:respirable suspended particles)、ニコチン、一酸化炭素、二酸化炭素のデータを調べ、軽く喫煙した部屋の空気と禁煙室の空気に有意な差がないと結論した。つまり、軽く喫煙しても空気は汚れないという、たタバコ業界に都合の良い結果である。
このデータは、屋内喫煙の支持する証言として政策の場で使用された。
どこが研究データの「ねつ造・改ざん」かというと、選んだ585箇所のオフィスが、実は、「タバコ研究所」が選んだオフィスだったのだ。
つまり、数値を「ねつ造・改ざん」するという直接的な「ねつ造・改ざん」ではなく、研究計画そのものに強いバイアスをかけることでデータを捻じ曲げる「事実の改ざん」だった。
以上は、ベロ教授の「2005年のPublic Health Rep. 」論文が明らかにした6項目の戦略の第1項目である。他に、2~6項目もあるが、量が多くなるので、省略する。興味ある方は原著をお読みください。
《5》タバコ業界側の米国の科学者
★1990年代まで非難の対象ではなかった
上述したように、タバコ研究協議会 は、1972年~1991年の20年間で、少なくとも1460万ドル(約14億6千万円)も研究助成した。「室内空気研究センター(CIAR)」は1989~1993年の5年間に審査付き研究プロジェクトに1121万ドル(約11億円)を、特別研究プロジェクトに402万ドル(約4億円)も研究助成した。
この莫大な助成金の恩恵を受けた研究者・科学者・医師がたくさんいたハズだ。
つまり、研究者・科学者・医師はタバコ業界から多額の研究費をもらっていた。
そして、1990年代前半まで、その事が非難される状況ではなかった。
しかし、タバコ業界が喫煙のリスクに関するデータを隠し、科学者・科学論文を利用して自分たちの利益を図っていたことが暴露された。
それ以降、研究者・科学者・医師がタバコ業界から研究費をもらうのはタブーになった。
2021年現在、欧米の多くの大学はタバコ業界からの資金受領を禁止している。一部の学術誌はタバコ資金で助成された研究論文を掲載しない。ウェルカムトラスト(Wellcome Trust)やブルームバーグ・フィランソロピー(Bloomberg Philanthropy)などの主要な資金提供機関は、助成金受領者がタバコ業界から資金提供を受けることを禁止している。
上記したサイモン・ターナーの御用論文は1992年出版だが、ターナーは研究博士号を所持しておらず、医師でもない。しかし、ターナー論文には2人の共著者がいて、大学教授だった。その2人を含め多数の研究者・科学者・医師が、1990年代前半まで、大なり小なり、タバコの健康被害を過少に報告する研究論文を発表していたと思われる。
ただ、データを改ざんし、タバコは安全だと「強く」主張した研究者・科学者・医師を特定できない。
多数の研究者・科学者・医師が、タバコ業界からカネ(研究費・講演料・執筆料など)・サービス(職・地位・接待など)を受け、タバコの危険性を低めに低めに操作する「事実の改ざん」を「軽く」していたと思われる。
このような研究者・科学者・医師が何人いたのか、白楽は掴めなかった。数百人~数千人はいたと思うが、ハッキリとはつかめなかった。
しかし、「軽く」ても「多数」の研究者が「事実の改ざん」をすれば、現実社会では大きな影響力を持つ。
以下に、「軽く」ではなく「そこそこ」「事実の改ざん」に加担したと思われるタバコ業界側の代表的な研究者・科学者を数人をあげる。
★C・C・リトル(C. C. Little):1954–1969年
C・C・リトル(C. C. Little、Clarence Cook Little、写真出典)は、タバコ無害説の有力な提唱者の1人で、社会的地位・名声の高い米国の科学者である。医師免許は持っていない。
専門は動物遺伝学だが、33歳でメイン大学(University of Maine)・学長になり、その後、ミシガン大学(University of Michigan)・学長を務めるなど大学運営を若い時に行なっている。
30代で既に、公然と優生学、避妊、安楽死に賛成の立場を表明している。この思想・感覚は何処に由来しているのか、白楽は把握していない。
1929年(40歳)、ミシガン大学・学長を辞め、ジャクソン研究所(Jackson Laboratory – Wikipedia)を設立し、所長として、マウスの遺伝学確立と遺伝的に明確な実験用マウスの提供を行なった。
後年の1954–1969年(65–80歳)の15年間、タバコの健康有害に否定的な言動に強く関与した。
立場は、タバコ業界研究委員会(Tobacco Industry Research Committee、1964年にタバコ研究協議会(Council for Tobacco Research)と改名)の科学顧問を務めた時の言動である。
C・C・リトルは科学者としてタバコ業界を代表する発言をし、かつ、タバコ業界からの年間100万ドル(約10億円)の研究予算を管理した。何百人もの研究者に助成金を与えることで、研究者がタバコの健康有害説を主張するのを捻じ曲げた。
【経歴と経過】
- 1888年10月6日:米国で生まれる
- 1910年(21歳):ハーバード大学(Harvard University)で学士号取得:動物学
- 1914年(25歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:動物学
- 1922年(33歳):メイン大学(University of Maine)・学長
- 1925–1929年(36–40歳):ミシガン大学(University of Michigan)・学長
- 1929年(40歳):ジャクソン研究所(Jackson Laboratory – Wikipedia)・設立。その後、所長として発展に大きく貢献
- 1954–1969年(65–80歳):タバコ業界研究委員会(Tobacco Industry Research Committee、1964年にタバコ研究協議会(Council for Tobacco Research)と改名)の科学顧問
- 1971年12月22日(83歳):死亡
【改ざんの具体例】
C・C・リトルは、喫煙は癌の主な原因はではなく、癌の原因は遺伝だと信じていた。自分の研究結果と学問上の信念に基づいて、タバコ無害説を主張したのである。本ブログでの分類は研究者の「錯誤」である。ただ、結果的に「事実の改ざん」に協力したことになるので、「改ざん」と扱う。
1959年(70歳)、C・C・リトルは、喫煙は肺がんを引き起こさず、せいぜいマイナーな要因だと述べた。
1969年(80歳)、C・C・リトルは、10年後、喫煙と病気との因果関係が実証された例はない、と述べた。
→ Newsletter of the Beer, .W, ne, Main Office: 115 W. Sunrise Highway
白楽は、C・C・リトルがタバコ無害説を主張している「学術論文」を探した。題名から判断して、以下の「学術論文」が該当しそうである。
- Smoking and lung cancer.
LITTLE CC.
Cancer Res. 1956 Mar;16(3):183-4.
https://cancerres.aacrjournals.org/content/16/3/183.long - The public and smoking: fear or calm deliberation.
LITTLE CC.
CA Cancer J Clin. 1958 Mar-Apr;8(2):49-52. doi: 10.3322/canjclin.8.2.49.
https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.3322/canjclin.8.2.49
しかし、上記論文は、タバコ有害説の論文の問題点を指摘してはいるが、タバコ無害説を主張してはいない。
ただ、以下の動画で見るように、「タバコは肺がんの原因か?」と問われて、即座に「ノー」と答えている。
【動画】
インタビュー動画:「インタビュー:たばこ研究評議会のクラレンス・クック・リトル-YouTube (Interview: Clarence Cook Little from Council for Tobacco Research – YouTube)」(英語)4分33秒。
julepeaが2010/01/05に公開
★ジェームス・エンストローム (James E. Enström)
ジェームス・エンストローム(James Enstrom 、James E. Enström、写真出典)は、米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)・教授で、医師免許は持っていない。専門はがん疫学である。
【経歴と経過】
- 生年月日:1943年。仮に1943年1月1日生まれとする
- 1961-1965年(18-22歳):ハーベイ・マッド・カレッジ(Harvey Mudd College)で学士号取得:物理学
- 1965-1970年(22-27歳):スタンフォード大学(Stanford University)で研究博士号(PhD)を取得:物理学
- 1974-1976年(31-33歳):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)・ポスドク:がん疫学
- 1978-2012年(35-69歳):同大学・疫学研究員・研究教授(Research Epidemiologist/Research Professor)
- 2012年(69歳):退職したが活動を続けている
以下、【日本語の解説】に引用したが、重要なので、再度、引用する。
論文の書誌情報は以下である。
- Environmental tobacco smoke and tobacco related mortality in a prospective study of Californians, 1960-98.
Enstrom JE, Kabat GC.BMJ. 2003 May 17;326(7398):1057. doi: 10.1136/bmj.326.7398.1057.
以下の文章の出典 → エンストローム論文 – Wikipedia
エンストローム論文(エンストロームろんぶん)とは、2003年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) の研究者ジェームス・エンストローム (James E. Enström) とニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の准教授ジェフリー・カバット (Geoffrey C. Kabat) により、英医学誌BMJの5月17日号に発表され、「環境たばこ煙曝露による冠動脈心疾患・肺がんとの関連性は一般に考えられているより小さいかもしれない」と結論づけた論文である[1]。
発表当初から多くの専門家や公的機関によって、著者がたばこ会社の関連組織から研究資金を受けており中立性に問題があることや、研究自体に曝露群の誤分類などの統計上の瑕疵があり、科学的妥当性に問題があることなどが指摘された[2]。そのため、受動喫煙の影響を評価する最新の諸論文についての総説からも削除されるなど、学界からの評価は低い。しかし時に喫煙規制に反対する非専門家などによって「科学的根拠」として言及される。
・・・中略・・・
1999年から米国政府は、2800億ドルという史上最大額の詐欺の件で、フィリップ・モリス等の9つの大手たばこ会社に対する訴訟を行っていた[9]。その公判の中で、著者のエンストロームのたばこ会社とのやりとりの内容が明らかにされた。
2006年8月、グラディス・ケスラー連邦地方裁判官は、約1700頁の判決文の中で、「たばこが無害であるとの主張に合うよう、たばこ会社は科学を操作した」と認定。その判決文によると、たばこ会社は味方になる「科学者」を見つけ、タバコ会社関連団体から資金を提供し、巨額の報酬を払い、その科学者とたばこ会社の関係を隠蔽していたという。[10]
ここでカリフォルニア大学のエンストロームは、その「科学者」の一人とされた。特に判決では、受動喫煙の健康への影響に関する科学研究を不正に変える、たばこ会社の4つの計画に言及した。そして、エンストロームの研究論文とたばこ会社との通信文が、大衆を欺く目的でたばこ会社が科学に操作を加えた証拠である、とした。
翌9月初めに米国がん協会(エンストロームはこの協会のデータを研究に利用した)は、カリフォルニア大学理事に対し、エンストロームを科学的根拠を不正に発表したことで非難する、との書信を送っている。 カリフォルニア大学のブラム理事長は、「フィリップ・モリスが売上げを伸ばすため、わが大学の名前とエンストロームの名前を利用した」と述べている。
エンストロームは、カリフォルニア大の研究者としてはとどまれたものの、教授の地位を失った。給料も大学から支給されなくなっている。(参考文献[11][12])
★カルロ・クローチェ(Carlo Croce)
「1990年代前半まで、研究者・科学者・医師がタバコ業界から研究費をもらっていた。そして、その事が非難される状況ではなかった」と書いたが、ハイオ州立大学のカルロ・クローチェ教授(Carlo M. Croce、写真出典)は非難される時代にタバコ業界に関与した研究者である。
カルロ・クローチェ(Carlo Croce)はネカト事件を起こしている。
イタリアで生まれ、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学で医師免許を取得した男性。1970年(25歳)に米国に渡り、ウィスター研究所・研究員、テンプル大学医科大学院・教授などを経て、2004年(59歳)にオハイオ州立大学・教授になった。米国で、総額8600万ドル(約86億円)以上の研究費を得、米国・科学アカデミー(医学部門)会員に選ばれ、各種の賞を受賞したスター研究者になった。一方、過去に何度も金銭的不正疑惑、ネカト疑惑が生じ、その都度、切り抜けてきた。ところが、2017年4月2日現在(72歳)、改ざんと盗用で、オハイオ州立大学が調査中である。(カルロ・クローチェ(Carlo Croce)(米) | 白楽の研究者倫理)
クローチェはタバコの有害性に関する論文でネカトを働いたわけではないが、タバコ業界側の科学者なのである。
以下の出典 → 2017年3月8日の「New York Times」記事:Years of Ethics Charges, but Star Cancer Researcher Gets a Pass – The New York Times
1994年、クローチェは「喫煙は癌を引き起こすと信じている」と述べる一方、言葉とは裏腹に、たばこ研究評議会(Council for Tobacco Research)の顧問になった。
クローチェは、たばこ研究評議会の顧問になったとき、既に科学的には常識となっているタバコ有害説に反対する意欲を示した。
クローチェは、1998年にタバコ業界が原告と1,000億ドルを超える和解をし、たばこ研究評議会が解散するまで、顧問の職を辞任しなかった。
★デレック・ヤチ(Derek Yach)
デレック・ヤチ(Derek Yach – Wikipedia、写真出典)は、世界保健機構(World Health Organization: WHO)の高級官僚で「 たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約 」に貢献してきた人である。その人が、2017年9月、寝返って、フィリップモリス社が資金提供している「Smoke-Free World」の会長に就任した。
【経歴と経過】
- 1955年11月21日:南アで生まれた
- 1979年(23歳):南アのケープ・タウン大学(University of Cape Town)で学士号(MBChB )取得:医学
- 1985年(29歳):米国のジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院(Johns Hopkins School of Public Health)で公衆衛生学修士(MPH)を取得
- 19xx年(xx歳):世界保健機構(World Health Organization: WHO)の高級官僚
- 2017年9月(61歳):「Smoke-Free World」の会長
★オランダ:2017年にタバコ業界のカネをもらうバーバエレ教授
米国ではなく、オランダの話である。
「1990年代前半まで、研究者・科学者・医師がタバコ業界から研究費をもらっていた。そして、その事が非難される状況ではなかった」と書いたが、バーバエレ教授は、今から4年前の2017年にタバコ業界からの研究助成金を受領した研究者である。
下記の出典 → 2018年2月8日の「Science」記事:Big tobacco’s offer: $1 billion for research. Should scientists take it? | Science | AAAS、保存版
2017年9月、オランダのユトレヒト大学(Utrecht University)・法学のジョン・バーバエレ教授(John Vervaele、写真出典)は、フィリップモリス・インターナショナル社(PMI)から36万ユーロ(約4300万円)の研究助成金を受け取った。
呼吸器専門医と腫瘍専門医の学会、オランダ癌協会などが「毎年700万人を殺すタバコ業界のカネを受け取るな!」と、激しく非難した。
結局、ユトレヒト大学は助成金の契約を破棄した。
だが、白楽が思うに、このバーバエレ教授は、どういう判断で研究費をもらったのか、あきれてしまった。
ただ、フィリップモリス・インターナショナル社(PMI)は1億ドル(約100億円)の資金を用意していて、研究者にもっと研究助成することを計画している。
事実、2017年9月にニューヨークに設立した「たばこの煙のない世界のための基金(Foundation for a Smoke-Free World)」にフィリップモリス・インターナショナル(PMI)は今後12年間で約10億ドル(約1,000億円)を寄付すると約束した。
「たばこの煙のない世界のための基金(Foundation for a Smoke-Free World)は、この世代中に喫煙を全廃することにより世界の健康状態を改善することを目標に掲げる、独立非営利機関です」(出典:ココ)、とあるが、表面的な言葉だけを信じない方が安全である。
「たばこの煙のない世界のための基金(Foundation for a Smoke-Free World)」は危険性の低いタバコの代替品を促進しタバコ業界の利益を守るためのカモフラージ基金だ、と専門家は警告している。
また、スイスの世界保健機関(WHO)は、この基金の設立を非常に憂慮すると述べている。
《6》タバコ業界側の日本の科学者
本記事は基本的に米国の事情・事件を記載するが、タバコ業界側の日本の科学者も記載した。
★香川順(東京女子医科大学・公衆衛生学教室・教授)と矢野栄二(帝京大学・公衆衛生学・教授)
「受動喫煙研究の歴史」の39~50ページに説明があり、2人がタバコ業界からカネをもらい、国立がん研究センター研究所・疫学部長・平山雄(ひらやま たけし)の受動喫煙研究の結果を捻じ曲げたと指摘している。
以下は47ページ目の文章で、矢野栄二、香川順、Lee PN の1992年7月8日の報告書の結論部分。
★奥村 康(順天堂大学医学部教授)
タバコ業界側の日本の文化人・科学者 → 愛煙家通信 Web版 – 喫煙文化研究会
たばこは、確かに咽頭ガンとは因果関係があって、たばこを吸う人は四十倍、咽頭ガンになりやすい。ただ、咽頭ガンで死ぬ人は年間五千人程度。一方、肺ガンは年間六万五千人以上が死んでいて、その発ガン物質として最も大きいのは自動車の排気ガスです。排気ガスを一〇〇とすれば、たばこは〇・一以下でしょう。その〇・一を狂ったように攻撃していますけれど、本当に肺ガンを減らしたいなら、自動車を止めるしかありません。出典:現代を生きる「不良」長寿のすすめ 実践編 | 愛煙家通信 Web版 – 喫煙文化研究会1、(保存版)
★養老孟司(東京大学医学部名誉教授)
タバコ業界側の日本の文化人・科学者 → 愛煙家通信 Web版 – 喫煙文化研究会
副流煙の問題だというかもしれないが、世界で初めて副流煙の害を唱えたのは元国立がんセンター疫学部長の平山雄氏で、彼の疫学調査には多くの疑問が寄せられ、特に副流煙の害については問題外とされている。
たばこは健康に悪いかもしれないが、肺がんの主因であるかどうかについては疑問がある。現実に、日本人の喫煙率は下がり続けているのにもかかわらず、肺がんの発症率は上昇する一方である。日本人の寿命が延びたことも理由だが、発がんのメカニズムは複雑で、原因となるものも食生活から大気汚染、ストレスまで無数にある。たまたま肺にがんができたのを肺がんと呼んでいるだけで、でなければ非喫煙者で肺がんになる人が山のようにいることを説明できない。出典:禁煙運動という危うい社会実験 養老孟司 | 愛煙家通信 Web版 – 喫煙文化研究会1、(保存版)
武田邦彦が、『早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいい』(竹書房新書)を2014年8月27日に出版している(表紙出典)。
なお、著者の武田邦彦はタバコを吸わない人である。
この人は研究者というよりテレビタレントというべきかもしれない。
★喫煙科学研究財団
米国のタバコ業界がタバコ研究協議会(Council for Tobacco Research:CTR)を設立し、医学研究者に研究費をあげて、タバコ業界に都合の良い研究をしてもらい、タバコ業界の味方になってもらう戦略を、「日本たばこ産業株式会社」もまねをした。
「日本たばこ産業株式会社」は喫煙科学研究財団を設立し、医学研究者に研究費をあげている。
公益財団法人喫煙科学研究財団(きつえんかがくけんきゅうざいだん)は、東京都港区にある内閣府管轄の公益財団法人である。設立は1986年。
役員・評議員には日本たばこ産業(JT)や関連企業・団体、財務省からの出身者や大学教授などが連なる。喫煙にかかる問題について学者・研究者に研究助成をおこなっている。日本たばこ産業株式会社より、1986年の設立時に基本財産の大半を占める20億円程度の出捐が行われており、その後も同社から毎年3億5,000万円の寄附金を受けて運営されている(喫煙科学研究財団 – Wikipedia)
以下は、飯⽥⾹穂⾥、 ロバート N.プロクターの2018年の論文の日本語版:「たばこ業界は陰に隠れて:⽇本たばこによる喫煙科学研究財団を介したたばこ政策と科学への⼲渉」
結果:たばこ規制に対する JT の対策は、1980 年代半ば、JT ⺠営化に伴って強化された。⼤蔵省の保護下にとどまったものの、半⺠営化された会社には、(これまでと同等の)「政治家とのパイプ “access to politicos”」はなくなり、海外たばこメーカーとの連携の必要性が出てきた。その解決策の⼀つが、アメリカの会社と密かに情報交換をしながら進めた、第三者機関としての財団の設⽴だった。この財団には⽇本の科学的・医学的権威を取り込むことが期待されていた。政府や学界の影響⼒のある⼈物に守られ、財団は、国内外のたばこ規制政策に影響を及ぼすという⽬標とともにスタートした。財団から助成を受けた研究者は、国際学会、国内の諮問委員会、たばこ訴訟等に参加し、たばこの販売継続を可能にする環境づくりに貢献した。
結論:財財団は独⽴や中⽴を意図したものではないことが内部⽂書から明らかであり、JTの主張とは異なる。財団の設⽴は、1953 年にアメリカでスタートした業界による “たばこの害否定論キャンペーン” が、海外たばこメーカーの積極的な協⼒により、アジアに⼊ったタイミングを⽰すものと⾔えるだろう。
⽇本の科学的・医学的権威として、太田邦夫(日本医学会会長)、森亘、大島正光(医療情報システム開発センター理事長)、加藤正明(東京医科大学名誉教授)などが、「研究審議会」には、井村裕夫(京都大学教授)、(国立がんセンター研究所所長)などの名前がリストされている。ということは、タバコ業界に協力した研究者は彼らであった。
上記のような⽇本の科学的・医学的権威がタバコ業界に協力してきた状況に、白楽は、「とても」驚いた。
なお、2021年現在も「公益財団法人 喫煙科学研究財団」は活動を続けている。
財団の記録によれば、2020年には、214課題に総額3億7,600万円(単純平均で176万円/課題)を助成した。 → 第10期(令和2年度)事業計画
助成を受ける研究者は、タバコ業界からのカネであることが分かっているハズだ。そして、タバコ業界から研究費をもらってはならない、と言われていることも分かっているハズだ。
世界中の良心的な医師を代表する世界医師連盟は、1998年の『タバコ関連勧告』のなかで、「医学部、研究所、研究者は、たばこ産業からの助成金を受けてはならない」と明言しています。(出典:2003年 世界禁煙デー 緊急共同アピール)
それなのに、助成を受ける研究者がいることに、白楽は、再び、「とても」驚いてしまった。
★JT生命誌研究館
喫煙科学研究財団とは別の切り口で、巧妙なタバコ業界擁護者を育成しているのが「JT生命誌研究館」である。
タバコ有害説にあからさまな反対をしないが、日本で尊敬されている生命科学者を巻き込み、タバコ業界に反旗を掲げないような巧妙でマイルドな宣伝活動をしているのが、1993年、大阪の高槻市に設立したJT生命誌研究館である。
イヤイヤ、もちろん、「タバコ業界に反旗を掲げないような巧妙でマイルドな宣伝活動をしている」なんてアカラサマなことは言っていない。
しかし、「JT生命誌研究館」の「J T」は「Japan Tobacco」つまり「日本たばこ産業株式会社」である。日本たばこ産業株式会社の子会社の1つである「株式会社生命誌研究館」が運営している。 → 株式会社生命誌研究館 第27期決算公告 | 官報決算データベース
タバコ会社が意味もなくカネを出すことはないのは、本記事での米国の戦術を見ればわかるだろう。そんなこと、本記事を読まなくてもわかります。ハイ。そうでした。
JT生命誌研究館はトリップアドバイザーの載る「科学博物館」「観光地」になっている。一般の人々にもタバコ文化をコッソリ浸透させているのだ。 → 見どころをチェック – トリップアドバイザー
そして、「J T」と明確に書いてあるのに、日本の理学部系の生命科学者が続々と協力している。館長以外にも協力者はいるが、
館長は1993年から2001年度まで岡田節人(後に顧問)。2002年度からは生物学者の中村桂子(後に名誉館長)が、2020年度からは細胞生物学者で歌人の永田和宏が務める。(出典:生命誌研究館 – Wikipedia)
館長を務めてきた岡田節人、中村桂子、そして、現在、務めている永田和宏らは、タバコ業界の裏事情を理解しているハズだ。良識的と思われていた(いる)生命科学者の、この見識の狭さに、何度も驚いて悪いが、白楽は、「とても」驚いてしまった。
さらに、以下のように院生も巻き込んでいる。
「大阪大学と連携し、大学院生も在籍している。(出典:生命誌研究館 – Wikipedia)」
なお、初代館長の岡田節人(1927-2017年)は次のように書いている。下線部分は白楽が引いた。
科学技術の人間社会に占める役割が、とてつもなく巨大なものになっている今日ですが、おかしなことに科学の評判は一般的にはあまり高くはないように思われます。つまり、科学は人間からロマンと心を奪う方向のものととられることが多いのです。人間にも直接に訴えるような、心ある科学はあるはずですし、それなしには科学技術の進歩を私たちは安心して享受できないでしょう。(出典:岡田節人先生と生命誌研究館 | JT生命誌研究館、保存版)
揚げ足を取って悪いけど、タバコ業界に協力する人が「心ある科学」を訴えても、人々の心には響かない。
それに、人間に有害なタバコを作り売る業界に科学者が協力するから「科学の評判は一般的にはあまり高くはない」のだと、白楽は思ってしまう。
《7》タバコ問題を指摘した動画
タバコ問題を描く動画がたくさんある。以下に10点しめす。絵だけでも見て下さい。
【動画1】
スタンフォード大学・歴史学のロバート・プロクター教授(Robert N. Proctor – Wikipedia)の解説動画:「タバコ大企業がどのように大衆を「洗脳」したか(How Big Tobacco “Brainwashed” The Public – YouTube)」(英語)3分31秒。
Brut Indiaが2019/12/26 に公開
【動画2】
WHOの警告動画:「秘密は暴かれた:タバコ産業は弱い人々を標的にしている(The secret is out: The tobacco industry targets the vulnerable – YouTube)」(英語)1分37秒。
World Health Organization (WHO)が2020/05/25に公開
【動画3】
警告動画:「タバコの継続的な欺瞞-フィルターの詐欺(Tobacco’s Continued Deception — The Fraud of Filters – YouTube)」(英語)2分32秒。
Searcy Law Videoが2014/07/02に公開
【動画4】
「The Tobacco Conspiracy」(英語)51分34秒。
以下をクリック
The Tobacco Conspiracy – Top Documentary Films
【動画5】
警告動画:「最大の消費者キラー?:喫煙の誘惑| Ep 1 | 科学ドキュメンタリー| リール真実科学- (BIGGEST Consumer KILLER?: The Seduction of SMOKING | Ep 1 | Science Documentary | Reel Truth Science – YouTube)」(英語)53分18秒。
Reel Truth Science Documentariesが2020/04/17に公開
【動画6】
警告動画:「あなたは電子タバコ?:喫煙の誘惑| Ep 2 | 科学ドキュメンタリー| リール真実科学(Do YOU VAPE?: The Seduction of SMOKING | Ep 2 | Science Documentary | Reel Truth Science – YouTube)」(英語)51分59秒。
Reel Truth Science Documentariesが2020/04/21に公開
【動画7】
警告動画:「インドネシアのたばこ子供たち| 報告されていない世界 (Indonesia’s Tobacco Children | Unreported World – YouTube)」(英語)23分31秒。
Unreported Worldが2019/08/11に公開
【動画8】
警告動画:「たばこ戦争-エピソード1 ライトアップ (Tobacco Wars – Episode One – Lighting Up – YouTube)」(英語)47分00秒。エピソード2,エピソード3もある
Andy Berndtが2009/02/05に公開
【動画9】 We’re quitting smoking, so why is big tobacco booming?
【動画10】 Tobacco Science
★日本の動画
●4.【白楽の感想】
《1》巧妙な戦略
本記事は、タバコ業界の「改ざん」事件として扱った。
この「改ざん」は、タバコの人体への影響を研究した論文で、観測値(測定値)の「5」を「4」に変えるというデータの改ざんを行なって、タバコ無害説を主張したのではない。
ここでの「改ざん」は、タバコが健康に有害と知りつつ、その事実を伝えなかった「事実の改ざん」、タバコは健康に無害と思わせた「事実の改ざん」、喫煙がカッコいいというイメージを植え付けてタバコの危険性を低めに低めに操作した「事実の改ざん」などの巧妙な「改ざん」である。
タバコ業界は、タバコが有害という研究結果を、その兆候の段階から、抑え込む、薄める、注意をそらす、隠蔽する、操作する(suppression, dilution, distraction, concealment, and manipulation)という方法で科学を歪めてきたのである(Tobacco Industry Influence on Science and Scientists in Germany)。
こういう巧妙な「事実の改ざん」、つまり、間違ったイメージを植え付ける行為、はタバコ業界以外にもみられる。「みられる」というよりも、社会にはそういう行為が「あふれる」ほどある。
「ダマす奴が悪いのか、ダマされる方が悪いのか?」
線引きは難しい。糾弾し防止するのはもっと難しい。
《2》日本に違和感
タバコを社会に普及させ大企業になったタバコ業界と、そのタバコの有害性に気付いてタバコ禁止の運動を展開した米国の国民・研究者・政府の大規模な攻防戦が、米国では繰り広げられた。
その闘争は、20世紀の初頭から21世紀の初頭までのまるまる100年間の攻防戦である。
調べていて、不思議に思うのは、この攻防戦に関する英語の記事やウィキペディアはとても多いのに、日本語の記事がとても少ないことだ。
違和感が強い。
日本では、2021年の現在でも、タバコ業界の戦術が巧みで、抑制力は強力なのだろう。
そのタバコ業界の日本の代表である「JT」は、従業員数(連結)が61,975人、売上高(連結)は2兆1756億円と巨大な組織である。
日本たばこ産業株式会社(JAPAN TOBACCO INC.、略称: JT)は、日本たばこ産業株式会社法(JT法)に基づき設置された、たばこ並びに医薬品、食品・飲料を製造・販売する日本の特殊会社。
財務省所管。1985年(昭和60年)4月1日に設立され、日本専売公社のたばこ事業を引き継いだ。日経平均株価及びTOPIX Core30の構成銘柄の一つ。
M&Aなどにより、たばこ事業を世界展開しており、企業別の世界シェアは2018年時点で第4位(8.4%)である。
医療器具や医科向け医薬品、加工食品、調味料などの製造も手がける。売上高の87%が煙草である。
出典:日本たばこ産業 – Wikipedia
《3》人類史上最大の改ざん事件
タバコによる死亡者数は世界で年間600万人、米国で44万人である。累計死者数は将来を含めると数億人だろう。
タバコ業界がタバコの危険性を低めに低めに操作した「事実の改ざん」行為は人類史上最大の改ざん事件(の1つ)だと思う。
人類史上最大とまで大きくなくても、似たような別の問題が、現在も起こっている。
圧倒的多数の人々の健康を長年損なってきた(損なっている)ものに、麻薬、酒、砂糖、肥満がある。
麻薬 – Wikipedia
酒 – Wikipedia
砂糖 – Wikipedia
肥満 – Wikipedia
被害者数は膨大ではなく、概ね過去の事象だが、次のことも、人々の健康を長年損なってきた(損なっている)。
お歯黒 – Wikipedia
瀉血 – Wikipedia
女性器切除 – Wikipedia
纏足 – Wikipedia
人間社会、良くなってもらいたい。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●5.【主要情報源】
① ウィキペディア日本語版:たばこ – Wikipedia、ライトたばこ – Wikipedia、紙巻きたばこ – Wikipedia、喫煙 – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:United States v. Philip Morris – Wikipedia、Tobacco industry – Wikipedia
③ 1998年の論文「Erin Myers, The Manipulation of Public Opinion by the Tobacco Industry: Past, Present, and Future, 2 J. Health Care L. & Pol’y 79 (1998).」:Available at: http://digitalcommons.law.umaryland.edu/jhclp/vol2/iss1/7 : THE MANIPULATION OF PUBLIC OPINION BY THE TOBACCO INDUSTRY: PAST, PRESENT, AND FUTURE
④ 1999年9月23日のマーク・レイシー(Marc Lacey)記者の「New York Times」記事:TOBACCO INDUSTRY ACCUSED OF FRAUD IN LAWSUIT BY U.S. – The New York Times、(保存版(1)、保存版(2))
⑤ 1999年7月17日のFred Charatanの「BMJ. 1999 Jul 17; 319(7203): 143.」論文:Florida jury finds tobacco companies guilty of fraud
⑥ 2004年9月8日のニール・バックリー(Neil Buckley)記者の「Financial Times」記事:‘50 years of fraud’ | Financial Times
⑦ 2006年8月18日のミーロン・レビン(Myron Levin)記者の「Los Angeles Times」記事:Big Tobacco Is Guilty of Conspiracy – Los Angeles Times
⑧ 2010年4月xx日の記事:History of the “light” and “low-tar” fraud in the United States
⑨ 2019年10月24日、食品医薬品局の記事(著者不記載): Tobacco-Related Health Fraud | FDA
⑩ New research uncovers ‘one of the tobacco industry’s greatest scams’
⑪ 2019年8月15日のシーラ・カプラン(Sheila Kaplan)記者の「New York Times」記事:The F.D.A.’s New Cigarette Warnings Are Disturbing. See for Yourself. – The New York Times
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