2020年8月31日掲載
ワンポイント:ノルウェーの原子炉がデータねつ造していたことが2019年に発覚した。安全性は大丈夫なのかと背筋が寒くなった。日本原子力研究開発機構はこのねつ造データを受け取り、日本の原子力の安全性を設計している。ネカト疑惑がノルウェーで報道されてから1年以上たつのに、日本のメディアが報道しないので記事にした。国民の損害額(推定)はxx億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】
ハルデン原子炉(Halden reactor)は、ノルウェーのハルデンにある研究専用の原子炉で、エネルギー技術研究所(IFE:Institute for Energy Technology)によって運営されている。 2018年、恒久的に閉鎖された。
2019年8月5日、内部告発を受け、ハルデン原子炉のプロジェクトのネカト疑惑を調査中と、エネルギー技術研究所(IFE)が発表した。
2020年5月、エネルギー技術研究所(IFE)は、「1990年から2005年の間にハルデン原子炉で行なった核燃料試験の結果がねつ造された」という調査結果を発表した。
「ハルデンの住民への健康、環境、安全性に危険はありません」と述べているが、不安である。
このデータねつ造・改ざんによる死者数、健康被害者数、金銭被害額は不明である。
ねつ造データが送られた顧客を明らかにしていないが、ノルウェー放送(NRK)は、米国、日本、フランス、カナダが含まれると報道した。
日本原子力研究開発機構は次のように述べている。
ハルデン計画からの研究情報は、わが国における軽水型発電炉の計装と燃料の信頼性および安全性に関する研究、安全審査時の判断基準に必要なデータベースの構築等に資され、国・民間を問わずハルデン計画の成果がわが国の原子力安全性研究に大いに活用されている。(出典:ハルデン計画(OECD Halden Reactor Project) (06-01-01-17) – ATOMICA –)
つまり、日本原子力研究開発機構はこのねつ造データを受け取り、日本の原子力の安全性を設計している。
なお、「ノルウェーのエネルギー技術研究所(IFE)」は次のような組織だ。
IFEは1948年にノルウェー政府によって設立され、現在は独立した財団法人である。IFE は、シェラーとハルデンにある。この研究所には、ノルウェー国内外からの顧客がおり、年間売上高は約10 億ノルウェークローネ(白楽注 約120億円)である。
IFEは、38の国籍の約600人の従業員を擁するノルウェー最大の研究機関の1つであり、研究所には、再生可能エネルギー、デジタルシステム、原子力技術、健康、産業開発などの分野における先端研究グループがある。
IFEは現在、次世代バッテリー技術の開発における世界的リーダーであり、太陽光、風力、水素エネルギーのより良い、より効率的なソリューションに貢献している。IFE は、ノルウェーの石油およびガス部門のより効率的な資源管理と持続可能性を提供している。(出典:2019年8月21日:原子力規制庁:原子力施設等におけるトピックス(令和元年7月29日~8月18日):「エネルギー技術研究所はハルデン炉で行われたプロジェクトでの科学的不正行為の疑いを調査する」)
ハルデン原子炉(Halden reactor)は赤印にある。ノルウェーの南端:地図出典
ハルデン原子炉(Halden Reactor)。写真出典
ハルデン原子炉(Halden Reactor)。写真出典
- 国:ノルウェー
- 集団名:ハルデン原子炉だが監督するのはエネルギー技術研究所
- 集団名(英語):Halden Reactor、Institute for Energy Technology
- 集団名(ノルウェー語):Haldenreaktoren、Institutt for energiteknikk
- ウェブサイト(英語):https://ife.no/en/
- 集団の概要:ハルデン原子炉(Halden reactor)は、ノルウェーのハルデンにある研究専用の原子炉でエネルギー技術研究所によって運営されている。エネルギー技術研究所の従業員は約600人。
- 事件の首謀者:ネカト者は特定されていない、と発表された。意図的に氏名を伏せたと思われる
- 分野:原子力
- 不正年:1990-2005年の15年間
- 発覚年:2019年
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)による内部告発
- ステップ2(メディア): ノルウェーのメディア・「Bellona」など、少数のメディアしか報道していない
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①エネルギー技術研究所が外部調査を委託
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:論文の不正はない(と思う)
- 被害(者):死者数、健康被害者数は不明
- 国民の損害額:不明
- 結末:結末に至ってない
●2.【日本語の解説】
最初の記事は事件に関する記事である。その後の記事はハルデン原子炉の解説記事である。
★2019年8月21日:原子力規制庁:原子力施設等におけるトピックス(令和元年7月29日~8月18日):「エネルギー技術研究所はハルデン炉で行われたプロジェクトでの科学的不正行為の疑いを調査する」
ノルウェーエネルギー技術研究所(IFE)は、ハルデン炉(20 MW 研究炉、重水減速、20180627 に恒久停止を決定)で行われたいくつかのプロジェクトにおける科学的不正行為に関する情報を受け取った。研究所はこの情報を真摯に受け止め、外部主導の調査を開始した。
IFE 所長の Nils Morten Huseby は、「受け取った情報は、数年前にハルデン炉で行われたいくつかのプロジェクトでの研究結果の改ざんの可能性に関するものである。我々はこの情報を真摯に受け止め、外部主導の調査を開始し、現在も、調査が進められている。」と語った。
問題となるプロジェクトは全て数年前に完了しており、ハルデンにおける公衆衛生、環境、また、安全性にいかなる影響もなかった。ハルデン炉は 2018 年に閉鎖され、廃炉措置の準備の中で、不正に関する情報が浮上した。
IFE は、影響を受ける可能性のある関係者や顧客に報告するとともに、当局やステークホルダーに情報を提供し続ける。調査が完了するまでは、IFE は最終的な結論を導き出すことはできないと考えている。
★2004年2月更新:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構:ハルデン計画(OECD Halden Reactor Project) (06-01-01-17)
OECD/NEA(本部パリ)下に、「ハルデン原子炉プロジェクト(OECD Halden Reactor Project)」、通称「ハルデン計画」が1958年に設立され、ノルウェー国ハルデンに作られたハルデン炉(Halden Boiling Water Reactor、通称HBWR)を使用した原子炉計装と燃料に関する国際協力が開始された。
わが国では日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)を国の窓口として1967年に同計画に加盟、以後今日まで37年に亘って国際協力が継続されている。
ハルデン計画からの研究情報は、わが国における軽水型発電炉の計装と燃料の信頼性および安全性に関する研究、安全審査時の判断基準に必要なデータベースの構築等に資され、国・民間を問わずハルデン計画の成果がわが国の原子力安全性研究に大いに活用されている。
ハルデンにはノルウェーに二箇所ある原子炉のうちの一箇所、ハルデン沸騰水炉が前述の製紙工場に隣接して立地する。原子炉はハルデンの最大手企業で経済協力開発機構(OECD)ハルデン原子力研究事業の最も大きな実験施設であるInstitutt for energiteknikk(IFE)が運営している。
2004年3月にはノルウェー皇太子によりIFEの主要機関であるIFEマンテクノロジー組織研究室が開設された。近年新たに建てられた実験棟には、ハルデン・マンマシン研究室(HAMMLAB)とハルデン・ビジュアル・リアリティー・センター(HVRC)VR研究室が入居した。
1958年に設立されたOECDハルデン原子力事業研究は国際共同研究事業でも最も古い部類に入り、2005年現在で20カ国が参加している。
●3.【事件の経過と内容】
★ネカト疑惑を調査:2019年8月5日
2018年、ハルデン原子炉は恒久的に閉鎖された。
2019年8月5日、ハルデン原子炉(Halden Reactor – Wikipedia)を監督するノルウェーのエネルギー技術研究所(IFE:Institute for Energy Technology – Wikipedia、従業員は約600人)は、ハルデン原子炉のプロジェクトのネカト疑惑を調査していると発表した。 → 2019年8月5日の「IFE」の発表:IFE investigates alleged scientific misconduct in projects at the Halden Reactor – IFE
数年前の特定のプロジェクトで研究データのねつ造・改ざんがあったとの内部告発があった。その内部告発を真剣に受け止め、外部の調査委員会に調査を依頼した。
エネルギー技術研究所(IFE)のニルス・モーテン・ハズビー所長(Nils Morten Huseby、写真出典)は、「関連するすべてのプロジェクトは何年も前に完了していて、ハルデンの住民への健康、環境、安全性に危険はありません」と発表している。
しかし、一般に、ネカトをしたヒト・組織は信用を失う。だから、「健康、環境、安全性に危険はありません」と言われても、信じる人がどれだけいるのか?
エネルギー技術研究所(IFE)は、この問題で影響を受ける可能性のあるヒト・組織と顧客に情報を提供し続けると述べている。
調査にかなりの人材・資金を投入し、国際的な専門知識も導入し、すべての事実を確実に開示する方針だそうだ。
調査には時間がかかり、まだ初期段階である。そして、調査が完了するまで、最終的な結論はわからない。
★調査結果の中間報告:2020年5月
2020年5月、最初のネカト疑惑を公表した9か月後、調査結果を公表した(白楽は中間報告と受け取った)。
外部調査は、オスロを本拠とする汚職防止研究グループであるクヴァンメ・アソシエイツ社(Kvamme Associates AS)が行なった。
2020年5月上旬、クヴァンメ・アソシエイツ社は調査結果をエネルギー技術研究所(IFE)に提出した。
2020年5月、エネルギー技術研究所(Institute of Energy Technology:IFE)は、調査結果を発表した。
→ 2020年5月12日、エネルギー技術研究所(IFE)の報告:IFE investigation has revealed misconduct in projects at the Halden Reactor – IFE
エネルギー技術研究所(IFE)は、「1990年から2005年の間にハルデン原子炉で行なわれた核燃料試験の結果がねつ造されていた。データねつ造は計画的で十分に秘匿した方法で行なわれた」、「深刻な問題が明らかになり、安全性と経済的影響が生じる可能性がある」と発表した。
ねつ造データが送られた顧客を明らかにしていないが、外国の7顧客(原子力事業者)で、3つの異なる大陸(1つはカナダを含む)の原子力産業が被害を受けた、と報じた。
外部調査は、ネカト者が1人か複数か特定しておらず、ハルデン原子炉が直接雇用した人か、外部の請負業者かも特定していない。
事件はノルウェーの国家経済犯罪部(オコクリム:ØKOKRIM)と警察に伝えられた。今後、そちらの組織が捜査する。
メディアや政治団体グリーンパーティーと社会主義左派党は、被害を受けた外国の7顧客(原子力事業者)を公表するように要求したが、エネルギー技術研究所は拒否している。
ハルデン原子炉の以前の顧客の多くは、外国政府と原子力事業者で、ハルデン原子炉のデータに基づいて原子炉への燃料供給方法を独自に決定していた。
ハルデン原子炉の目的は、さまざまな核燃料がさまざまな状況下でどのように動作するかをシミュレートすることで、そのことで原子炉の運用時の安全性高めることができる。
従って、被害を受けた外国の7顧客(原子力事業者)がだれなのかは重要である。
ねつ造データが送られた顧客を明らかにしていないが、ノルウェー放送(NRK)は、米国、日本、フランス、カナダが含まれると報道した。
日本原子力研究開発機構は次のように述べている。
ハルデン計画からの研究情報は、わが国における軽水型発電炉の計装と燃料の信頼性および安全性に関する研究、安全審査時の判断基準に必要なデータベースの構築等に資され、国・民間を問わずハルデン計画の成果がわが国の原子力安全性研究に大いに活用されている。(出典:ハルデン計画(OECD Halden Reactor Project) (06-01-01-17) – ATOMICA –)
つまり、日本原子力研究開発機構はこのねつ造データを受け取り、日本の原子力の安全性を設計している。
ということは、日本の原子力の安全性に問題が生じる・・・かも。
★他のネカト、など
ハルデン原子炉で実施された他の3つのプロジェクトでもデータねつ造が疑われている。2020年5月の報告(中間報告?)では、現在調査中とされた。
ハルデン原子炉は2018年に閉鎖されたのだが、それまで、原子炉はノルウェーの国民にとってコストが高すぎると批判されていた。
その上、このデータねつ造・改ざんスキャンダルが起こったので、エネルギー技術研究所(IFE)は打撃だろう。
ハルデン原子炉はノルウェーの4番目の研究用原子炉で、最初の3つはオスロ近くのケラー(Kjeller)で1951年に運転を開始し、2018年に使用期限がきて、閉鎖した。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
エネルギー技術研究所は、「1990年から2005年の間にハルデン原子炉で行なった核燃料試験の結果がねつ造された」と発表しただけで、何がどうねつ造されたのかを具体的には発表していない。
白楽には、ねつ造の内容がわかりません。
ただ、エネルギー技術研究所は、「安全性と経済的影響が生じる可能性がある」とも発表した。つまり、データねつ造された結果、危険があるということだ。
原発反対活動家がハルデン原子炉で捕まる(1990年)。Credit: bellona 。写真出典:https://bellona.org/news/nuclear-issues/2020-06-bellona-wants-answers-about-data-fabrication-scandal-at-norwegian-research-reactor
●4.【白楽の感想】
《1》怖い
ノルウェーの研究用原子炉であるハルデン原子炉(Halden Reactor)のデータねつ造事件である。
本文に書いたが、「ハルデンの住民への健康、環境、安全性に危険はありません」と発表している。
一般に、ネカトをしたヒト・組織はネカト自体だけでなく、そのヒト・組織への信用を失う。だから、「健康、環境、安全性に危険はありません」と言われても、信じる人がどれだけいるのか?
医薬品のデータねつ造も健康被害があり、怖いが、その医薬品を使わない人にはまったく無害である。
一方、原子炉のデータねつ造は、万一、爆発でもしたら、電気を使う使わないに関係なく、地理的に近い人は全員被害者になり、その被害は甚大である。
《2》不信感の増大
2020年5月、エネルギー技術研究所(IFE)は、「1990年から2005年の間にハルデン原子炉で行なった核燃料試験の結果がねつ造された」という調査結果を発表した。
2019年に内部告発があって、調査の結果、1990年から2005年の間のデータがねつ造されたと発表した。
30~15年前のデータねつ造である。データねつ造はあったけど、「30~15年前のことにして、済ませてしまおう」、ではないのか?
100歩譲って、「30~15年前」が事実なら、どうして今頃、問題視しているのだ。
さらに、1000歩譲って、ハルデン原子炉(Halden Reactor)でのネカトは、ネカト行為が行われていたその15年間のもあいだ、どうして、ネカトが告発されなかったのだ。異常である。
ヒョットして、ネカトは告発されていたが、ハルデン原子炉が隠蔽していたのだろうか?
この場合、2019年や2020年にもネカトが起こっていた(いる)のだが、ハルデン原子炉が内部で隠蔽し、表に出ないようにしている、ということはないのか?
《3》不都合な真実
日立金属、ユニチカ、川金ホールディングス、日産自動車などなど、日本も相当数の企業が検査データを改ざんしていた。どの場合も社内調査(あるいは相当)なので、ネカトの実態は解明されないし公表されていない。
当然、ネカト者も公表されない。コッソリと解雇され、コッソリとどこかに再雇用されているに違いない。
ハルデン原子炉も企業である。
ネカトの実態は解明されないし公表されない。当然、ネカト者も公表されない。
公表されるのは、「大丈夫です。ご安心ください」である。
しかも、「私たちは公明正大にネカト調査をし、その結果をすべて明らかしています」という態度をする。
そういう態度を表明していながら、メディアや政治団体グリーンパーティーと社会主義左派党が、被害を受けた外国の7顧客(原子力事業者)を公表するように要求したのに対し、エネルギー技術研究所は拒否している。
不都合な真実はいつも秘匿される。
ただ、日本を含め、被害を受けた外国の7顧客(原子力事業者)は損害賠償金を求めるだろう。そのために、不利になる事実を隠蔽しているのかもしれない。
ノルウェーの国家経済犯罪部(オコクリム:ØKOKRIM)と警察はどこまで解明できるのか?
こういうことがあることも含め、日本はハナから警察がネカトを捜査しましょう。ネカト特捜部を設置し、小さなネカト事件で訓練を積んでおきましょうよ。
https://www.world-nuclear-news.org/Articles/Halden-Reactor-to-be-decommissioned
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●5.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Halden Reactor – Wikipedia
② 2019年8月5日、エネルギー技術研究所(IFE)の報告:IFE investigates alleged scientific misconduct in projects at the Halden Reactor – IFE
③ 2019年8月12日の「Nuclear Engineering International」記事:Norway investigates possible past misconduct in reactor projects – Nuclear Engineering International
④ 2020年5月12日、エネルギー技術研究所(IFE)の報告:IFE investigation has revealed misconduct in projects at the Halden Reactor – IFE
⑤ 2020年6月3日のチャールズ・ディッグス(Charles Digges)記者の「Bellona」記事:Bellona wants answers about data fabrication scandal at Norwegian research reactor – Bellona.org
⑥ 2020年6月xx日の「Norwegian Standard」記事:Nuclear industry research fraud at Halden reactor described as “shocking” | The Norwegian Standard
⑦ 2008年10月23日の皆川洋治(OECD Halden Reactor Project)のハルデン50周年記念講演
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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原子力規制委員会の公開資料に、本件が出ていますね。
信じるかどうかはともかく、これを読む限りでは、ほとんど誤差範囲のように見えますが・・・。
https://www.da.nsr.go.jp/file/NR000206113/000367591.pdf