ギリジャ・ダスマハパトラ(Girija Dasmahapatra)(米)

2016年10月21日掲載。

ワンポイント:2015年、研究公正局がねつ造・改ざんで3年間の締め出し処分をした米国・バージニアコモンウェルス大学の講師(インド出身)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

Lost_or_Unknown_svgギリジャ・ダスマハパトラ(Girija Dasmahapatra、顔写真未発見、男性)は、インドのジャダプール大学(Jadavpur University)で研究博士号(PhD)を取得し、米国・バージニアコモンウェルス大学(Virginia Commonwealth University)・内科学・講師になった。専門はがん細胞の生化学である。医師ではない。

2015年12月9日(50歳?)、研究公正局がダスマハパトラのねつ造・改ざんを発表し、3年間の締め出し処分を科した。不正論文は2005年から2014年までの10年間に及ぶ11論文である。

vcu_medical_science_building_2_by_jeff_auth米国・バージニアコモンウェルス大学(Virginia Commonwealth University、Molecular Medicine Research Building (MMRB), MCV campus)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:インドのジャダプール大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1989年の修士号取得時を24歳と仮定した
  • 分野:がん細胞
  • 最初の不正論文発表:2005年(40歳?)
  • 発覚年:2014年12月(49歳?)
  • 発覚時地位:バージニアコモンウェルス大学(Virginia Commonwealth University)・講師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(匿名で素性は不明)が電子メールでバージニアコモンウェルス大学に公益通報した
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①バージニアコモンウェルス大学・調査委員会、②米国・研究公正局
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:11論文。パブメドの論文リストでは撤回論文なしだが、いずれ、撤回または訂正されるだろう
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 結末:辞職(解雇?)。

%e3%82%b0%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%88米国・バージニアコモンウェルス大学のスティーヴィン・グラント(Steven Grant)研究室。前列右が研究室主宰者のグラント教授。写真の中にギリジャ・ダスマハパトラ(Girija Dasmahapatra)もいると思うが特定できません(左から2人目?)。写真出典

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1989年の修士号取得時を24歳と仮定した
  • 1989年(24歳?):インドのユトカル大学(Utkal University)で修士号取得。専攻:化学
  • 1996年(31歳?):インドのジャダプール大学(Jadavpur University)で修士号取得。専攻:環境科学
  • 1999年(34歳?):インドのジャダプール大学(Jadavpur University)で研究博士号(PhD)取得。専攻:化学
  • 2000年12月(35歳?):米国・NIH・NCI・ポスドク。研究室主宰者はクリシュネンドウ・ロイ(Krishnendu K. Roy)。
  • 2004年?(39歳?):米国・バージニアコモンウェルス大学(Virginia Commonwealth University)・講師
  • 2014年12月(49歳?):研究ネカトが発覚した
  • 2015年7月(50歳?):バージニアコモンウェルス大学を辞職または解雇
  • 2015年夏(50歳?):レイノルズ短期大学(J. Sargeant Reynolds Community College)・講師
  • 2015年12月9日(50歳?)、米国・研究公正局がダスマハパトラの研究ネカトを発表した。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

1999年(34歳?)、ダスマハパトラは、インドのジャダプール大学(Jadavpur University)で研究博士号(PhD)取得した。専攻は化学だった。

photo752004年?(39歳?)、米国・バージニアコモンウェルス大学(Virginia Commonwealth University)・内科の講師になった。ボスはスティーヴィン・グラント(Steven Grant, M.D.、写真出典)だった。

2014年12月(49歳?)、グラント研究室の論文がデータねつ造・改ざんだとの匿名の公益通報者を受け、バージニアコモンウェルス大学は調査委員会を発足させた。

バージニアコモンウェルス大学・調査委員会はデータねつ造・改ざんを見つけ、ダスマハパトラ単独の不正行為と判定した。研究公正局は、バージニアコモンウェルス大学の調査結果の報告を受け、研究公正局としても調査をした。

2015年12月9日(35歳?)、研究公正局は、ダスマハパトラの11出版論文(以下)にデータ改ざんがあったと発表した(【主要情報源】①)。2005年から2014年までの10年間に及ぶ11論文である。

  1. Blood 107:232-40, 2006 Jan (hereafter referred to as “Blood 2006”)
  2. Blood 115:4478-87, 2010 Jun 3 (hereafter referred to as “Blood 2010”)
  3. British Journal of Haematology 161:43-56, 2013 Apr (hereafter referred to as “BJH 2013”)
  4. Cancer Biology & Therapy 8:808-19, 2009 May (hereafter referred to as “CBT 2009”)
  5. Clinical Cancer Research 13:4280-90, 2007 Jul (hereafter referred to as “CCR 2007”)
  6. Leukemia 19:1579-89, 2005 Sep (hereafter referred to as “Leuk 2005”)
  7. Leukemia Research 30:1263-1272, 2006 (hereafter referred to as “LR 2006”)
  8. Molecular Cancer Therapeutics 10:1686-97, 2011 Sep (hereafter referred to as “MCT 2011”)
  9. Molecular Cancer Therapeutics 11:1122-32, 2012 May (hereafter referred to as “MCT 2012”)
  10. Molecular Cancer Therapeutics 13:2886-97, 2014 Dec (hereafter referred to as “MCT 2014”)
  11. Molecular Pharmacology 69:288-98, 2006 Jan (hereafter referred to as “MP 2006”)

研究公正局は以下の点を不正とした。

複数のヒストン・デアセチラーゼ(histone deacetylase)とプロテアソーム抑制剤(proteasome inhibitors)の相互作用を検討した癌モデルの実験で不正を行なった。不正の内容は、ウェスタン・ブロット画像とマウス画像の重複使用と同じ画像に異なるラベルを貼るねつ造・改ざんである。

以下の論文の図で不正があった。英語のママですみません。

  1. Blood 2006, Figures 2A and 2B (Tubulin), 2C (c-Jun & Tubulin), and 3E and 3F (Tubulin)
  2. Blood 2010, Figures 4A and 4C (JNK & Tubulin)
  3. BJH 2013, Figures 2A and 6B (Tubulin)
  4. CBT 2009, Figure 4B (Actin)
  5. CCR 2007, Figures 3B (PARP) and 6A (Tubulin)
  6. Leuk 2005, Figures 3B (PARP CF) and 4A, 4B, and 4C (Tubulin)
  7. LR 2006, Figure 3D (Actin–BaF/3-WT)
  8. MCT 2011, Figures 2B and 3D (Tubulin) and 6B (0 d–CFZ-2.0mg/Kg & 12 d–CFZ + VOR)
  9. MCT 2012, Figures 3A (JNK & Tubulin, 3B (Tubulin–scram), 3D (Tubulin–pUSE-AKT cl.3), and 6B (CFZ + obato)
  10. MCT 2014, Figures 3A (JNK 1 & Tubulin), 3B (JNK & Tubulin), and 3C (Tubulin)
  11. MP 2006, Figures 1D and 1E (Caspase 3, CF Caspase 3, PARP & Tubulin), 2C (PARP), 3B, 4A, and 4B (Tubulin), 6A (Tubulin–U937-pSFFv 12 hr treatment & U937-Bcl-2-[Delta]N 24 hr treatment), and 9A (Cox-IV)

★「Blood 2006」論文

研究ネカトと指摘された11出版論文のうちの1つ「Blood 2006」論文を閲覧してみよう。

図2A、2B (Tubulin), 2C (c-Jun & Tubulin) と図3E、3F (Tubulin)がねつ造・改ざんとされた。

図2を以下に示す。A 、B (Tubulin)、C (c-Jun & Tubulin)がねつ造・改ざんである。

しかし、画像を見ても、白楽には、どこがどのように不正なのかわからない。元データを参照しないと、不正を見抜けないのかもしれない。
zh80010688950002

 

図3を以下に示す。E とF (Tubulin) がねつ造・改ざんとされた。

しかし、画像を見ても、白楽には、どこがどのように不正なのかわからない。元データを参照しないと、不正を見抜けないのかもしれない。
zh80010688950003

●6.【論文数と撤回論文】

2016年10月20日現在、パブメド(PubMed)で、ギリジャ・ダスマハパトラ(Girija Dasmahapatra)の論文を「Girija Dasmahapatra [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2014年の12年間の14論文がヒットした。

2006年以降の12論文は、すべて、グラントが最後著者である。

2016年10月21日現在、本記事で問題にした11論文のうち、撤回論文は以下の1論文しかない。2016年10月に撤回された。

本記事で問題にした他の10論文はいずれ撤回(または訂正)されるだろう。

●7.【白楽の感想】

《1》ボスも同罪

撤回監視サイトでは、ボスのスティーヴィン・グラント教授を同罪にすべきという意見が多い。その理由の1つは、ダスマハパトラが共著になっていない論文にも疑念がもたれていることもある。

白楽も、同意する。ただし、自分で実証作業をしていないので、表層的な意見である。

《2》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

ダスマハパトラは、どうしてねつ造・改ざんをしたのか? ダスマハパトラの姿かたちは? 個人生活は? グラント教授との関係はどうだったのか? 匿名者はどんな内容の公益通報をしたのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

この事件は地方紙「Daily Progress」が新聞記事として掲載している。しかし、事件を何も掘り下げていない。研究公正局の発表を繰り返しているだけである。それで、研究ネカト問題の改善に役立つ知見はほとんど得られない。

また、ダスマハパトラ自身が、ウェブ上の自分の痕跡を積極的に削除した(ように思える)。それで、ますます、情報が得にくい。

●8.【主要情報源】

① 2015年12月9日、研究公正局の報告:NOT-OD-16-040: Findings of Research Misconduct
② 2015年12月9日のシャノン・パウス(Shannon Palus)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cancer researcher contributed “false data” to 11 studies – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2015年12月11日のタミー・スミス(Tammie Smith)の「Daily Progress」記事:Former VCU cancer researcher engaged in misconduct, federal officials say | Health | dailyprogress.com
④ 2016年10月20日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Researcher pegged for misconduct in 11 papers earns 2nd retraction – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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