1‐4‐7.日本の私的告発サイト

海外の状況を書いて、日本のことを書かないのは片手落ちなので、今回取り上げる。

★特徴
日本の私的告発サイトの特徴を外国(英語国・独・露)に比べると以下のようだ

  • 主催者:人物を特定できないことが多い
  • 不正:基準が不明瞭なことが多い

日本の私的告発サイトに関して、多くの日本人は、自分で判断できるだろうから、個々に白楽評価を示さない。事実だけを書いていく。感想は最後にまとめて書く。

【不正研究に特化したサイト】

★世界変動展望

  • 現況:とっても活発(2016年1月19日現在)
  • サイト名:世界変動展望
  • 主催者:匿名。ブロガー。個人(推定)。人物は特定できない。ハンドルネーム「世界変動展望 著者」。
  • 連絡先:
  • サイト:社会 – 世界変動展望 http://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/c/eb8f703697437c3c7e0baa33a914cfdb
  • ツイッタ―サイト:https://twitter.com/lemonstoism
  • 言語:日本語
  • 開始:2011年4月に登録
  • 対象:研究に絡む不正のすべて
  • スタイル:
  • 記事数:
  • 不正の定義:

★論文捏造&研究不正 (JuuichiJigen)

  • 現況:2015年5月15日以降、休止状態(2016年1月19日現在)
  • サイト名:論文捏造&研究不正
  • 主催者:私人。匿名。個人。人物は特定できない。ハンドルネーム「11jigen (Juuichi Jigen)」。民間企業の生命科学研究者(Whistleblower Uses YouTube to Assert Claims of Scientific Misconduct | Science/AAAS | News
  • 連絡先:
  • サイト:https://twitter.com/JuuichiJigen
  • 言語:日本語、英語(一部)
  • 開始:2012年1月(推定)
  • 対象:サイト名は「論文捏造&研究不正」である。「Japanese FFP investigator (Falsification, Fabrication, and Plagiarism) 」とあり、「ねつ造」「改ざん」「盗用」だけかと思わせるが、「利益相反」「動物実験倫理」なども扱っている
  • スタイル:①自分で調査・検討し、疑義の論文は、所属大学・府省に通知・告発。②多くの日本人(含・専門家)がツイッタ―サイトに書き込んでいるので、最新の動向がよくわかる。③特定の事件は解析結果を個別にまとめている。ツイッタ―サイトにリンク先が示されている。
  • 記事数:
  • 不正の定義:記載なし

《動画》音声言語なし。音楽のみ 「東京大学 分生研 不正論文疑惑(コピペ画像掲載の論文捏造疑惑) – YouTube」
2012/01/24にJuuichiJigenがアップロード(2014年6月12日閲覧)

★論文捏造

  • 現況:2014年4月30日以降、休止状態(2016年1月19日現在)
  • サイト名:論文捏造
  • 主催者:匿名
  • サイト:http://blog.goo.ne.jp/netsuzou?fm=rss
  • 言語:日本語
  • 対象:論文捏造・二重投稿・盗用の研究不正疑惑を追及。論文撤回・訂正の監視
  • 不正の定義:記載なし

【不正研究に特化していないサイト】

★warblerの日記

  • 現況:活発(2016年1月19日現在)
  • サイト名:warblerの日記
  • 主催者:片瀬久美子。女性。1964年生まれ。サイエンスライター、理学博士(細胞分子生物学)
  • 連絡先:katasekumiko@yahoo.co.jp
  • サイト:http://d.hatena.ne.jp/warbler/
  • ツイッタ―サイト:片瀬久美子
  • 言語:日本語
  • 開始:2012年11月8日
  • 対象:捏造論文、研究不正
  • スタイル:日本の事件報道を土台に、自分の分析と感想を述べる
  • 記事数:
  • 不正の定義:記載なし

★四畳半電波塔: 論文
http://yojyouhan.blogspot.jp/search/label/%E8%AB%96%E6%96%87

★2ちゃんねる
説明省略。サンプル省略。書いた人は匿名で、特定できない。

★ウィキペディア
告発ではなく解説だが、執筆者は匿名で、実在の人物を特定できないケースが多い。研究規範の知識・考え方を社会で共有でき、引き継ぐことが可能である。以下は網羅的ではない。(あいう順)

【単発サイト】

★井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)

  • 現況:活発(2016年1月19日現在)
  • サイト名:井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)
  • 主催者:代表 日野 秀逸 (前東北大学大学院経済学研究科長・教育研究評議会評議員)、世話人・大村 泉 (東北大学名誉教授)
  • 連絡先:i_mario0901@i.softbank.jp
  • サイト:https://sites.google.com/site/httpwwwforumtohoku/
  • 言語:日本語、英語
  • 期間:2009年3月17日~2013年9月3日
  • 対象:東北大学・井上総長の研究不正疑惑
  • スタイル:調査・告発、裁判の記録
  • 記事数:
  • 不正の定義:記載なし

《動画》日本語 「研究不正告発に対する東北大学回答の根本問題」HD版– YouTube
2011/09/13にAkira Takahashiがアップロード(2014年6月12日閲覧)

《動画》日本語 「生データの解析から明らかになった論文データの改ざんとねつ造 – YouTube」
2012/03/22にaobataro0311 さんのチャンネルがアップロード(2014年6月12日閲覧)

この事件は、不正研究に対する日本の司法の判断がわかり、興味深い。以下長いが、「2013年8月30日19時14分 読売新聞」記事を引用する。青字は白楽が色付けした。

「東北大前学長の名誉毀損、名誉教授らに賠償命令」(2013年8月30日19時14分 読売新聞)

東北大の大村泉名誉教授らが開設したホームページ(HP)に、論文に不正があるとする告発文を掲載され、名誉を傷つけられたとして、同大の井上明久前学長が大村名誉教授ら4人に損害賠償を求める訴えを起こし、4人が反訴した訴訟の判決が29日、仙台地裁であった。
市川多美子裁判長は「(閲覧した人に)捏造(ねつぞう)、改ざんがあるとの印象を与え、名誉が毀損(きそん)された結果、前学長の社会的評価を低下させた」として、大村名誉教授らに慰謝料110万円の支払いを命じた。大村名誉教授らの反訴は棄却された。
大村名誉教授らは、井上前学長が1996年と2007年に執筆した金属ガラスに関する論文2本に掲載したデータや写真に不正の疑いがあったと主張したが、「論文に捏造、改ざんがあるとは言えない」と退けた。
また、双方の対立は見解の違いにとどまり、不正確な写真を載せたことは否定できず、市川裁判長は論文の質の問題だと指摘。「学術論争で決着が図られるべきものだ」と一蹴した。
一方、井上前学長は、HP上の告発文の削除や謝罪文の掲載も求めていたが、その必要はないとした。
判決後、井上前学長の代理人である大室俊三弁護士は記者会見を開き、「捏造、改ざんのレッテルをはる行為が、違法だと認めてもらえた。基本的な部分では、当方の主張が通ったと思っている」と判決を評価した。
論文の真偽については、「学術的に正しいかどうかは、学術論争でやってもらうべき。裁判所に認定してもらおうとは元々、思っていない」との見解を示した。
一方、HPの告発文の削除や謝罪文の掲載などが認められなかったことから、大室弁護士は「控訴するかどうかは、井上前学長とこれから話し合って決める」と述べた。
大村名誉教授らも判決後、記者会見し、「実験に関する全てのデータを持っている井上前学長ではなく、不正を指摘する側に全ての立証責任を負わせた判決であり、全く納得できない」と、控訴する意向を示した。
大村名誉教授側の松井恵弁護士は「論文投稿について、写真の体裁や説明に関する規定がないから、合成写真を載せても問題ないという井上前学長の主張をそのまま認めている」と批判。
一方、東北大で行っている井上前学長の論文の調査について、大村名誉教授は「判決が影響するかもしれないが、調査はきっちりとやってほしい」と述べた。

【白楽の感想】

以下は、2016年1月19日現在、要訂正。
最も活発なサイトだった「論文捏造&研究不正」は既に休止状態です。現在、活発なのは「世界変動展望」です。

(1).日本の私的告発サイトは、主催者が匿名でかつ実在の人物を特定できない場合が多い。例えば、「論文捏造&研究不正」の運営者「11jigen (JuuichiJigen)」は実在の人物として特定できない。この場合、告発している事件に「11jigen (JuuichiJigen)」が金銭・愛憎・その他の利害関係があるのかないのか、告発内容の理解度・判断力を読者は判断できない。別人が「11jigen (JuuichiJigen)」のハンドル名をかたった時、真偽の検証はどうするのだろう。

米国の「データベース:デジャヴュ(Deja vu)」、ドイツの「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」、ロシアの「ディザーネット(Dissernet)」は主催者が顕名で活動している。

米国の「サイエンス・フラウド(Science Fraud)」は匿名で活動していたが、主催者が特定され、名誉棄損で訴えると脅され、活動を中止した。

違反者・疑念者を、「匿名」で告発している行為とその方法に対して、賛否両論がある。前回引用した新聞記事を再引用する。

山中伸弥教授会見 論文検証サイトの功罪」(2014.4.28 MSN産経ニュース)(記事のリンクが切れたら → ココ

日本語による匿名の不正疑惑告発ブログ。論文の画像を中心に著名な大学の疑惑を取り上げ、降圧剤「ディオバン」の臨床研究データ改竄(かいざん)事件も追及してきた。ネットでは有名なサイトだ。
こうしたサイトは不正摘発に貢献してきた面がある一方で、指摘内容の妥当性や根拠が不十分だったり、匿名での運用に伴う問題点などが指摘されている。
ネットに詳しい神戸大の森井昌克教授(情報通信工学)は「重箱の隅をつつくような間違い探しは意味がない。山中氏以外の他の著名な研究者も、ありもしない疑義をかけられるかもしれない。本質以外で騒がれることは科学界にとってマイナスだ」と指摘する。
広島大の難波紘二名誉教授(血液病理学)は「ネットでの疑惑検証には功罪がある。情報の信用度を確かめる手段がなく、破壊的な方向に議論が進む恐れがある。山中氏が早期に会見したのは妥当だ」と話す。

「論文捏造&研究不正」は、今のままでは、消滅するか、破たんが生じるだろう。その時、ヘンな騒動が起こらなければ良いのだが・・・・・・。また、活動の知識・考え方・スキルの財産は、引き継げない可能性が高くなる。

(2).日本の私的告発サイトは、不正研究を調査・告発する公的な権限はないのに、実在の研究者をウェブ上で公開告発している。水木楊の提唱した「報道刑」を思いだす。私的告発サイトは、告発を間違えたら、どう、責任を取るのだろう? というか、責任を取らないために匿名なのだろう。このシステムはマズイと感じる。ただ、日本の現状では、仕方ないとも感じる。

水木楊 (作家 元日本経済新聞論説主幹)の「報道刑」

小説の中で登場させた刑が「報道刑」という刑罰です。法律上の刑は、裁判で罪が確定した段階で執行されますが、このジールス国という社会では、その前に報道刑というのがある。
疑惑を持たれた段階でマスコミはあれこれ書き立てる。検察は捜査の進行ぶりをどんどん公開して報道を加速させる。法律に関係なく、大衆が投票によって「有罪」と認定すると、被疑者は透明のガラスに覆われた車に乗せられ、さらし者にされて、銀座通りを運ばれていく。
その両側に並んだ大衆は、怒声や嘲笑を浴びせかけ、トマトとか卵をぶつけて報道刑を執行する――とまあ、こんな具合です。
ここまで書けば、もうお分かりと思いますが、ここ数年の事件を振り返って見ても、疑惑の報道――いっせいに取材開始――、検察からの情報漏れ――報道の加速――、苦境に追い込まれる当事者――犯罪事実の有無にかかわりなく大衆による断罪――、といったパターンが成立しつつあるように見受けられます。「報道刑」のいやな感じ 法治国家ではなく「報治国家」になってしまう – 来栖宥子★午後のアダージォ