2018年9月19日掲載
ワンポイント:【長文注意】。研究ネカトの損得をすべて金銭に換算してみよう。ウン? 善悪はカネで評価できない? イヤイヤ、乱暴でも、破天荒でも、無理を承知でカネに換算してみよう。地獄のネカトもカネ次第。
さて、クイズです。皆さん、以下の■を人物名と数字で埋めてください。日本は国民の税金を毎年■億円使ってネカト対策をし、国民の毎年の損害■兆円分を防いでいる。それでも、毎年■兆円の損害が発生している。2018年、政府はネカト対策に日本国民の税金■億円を使ったが、■さんが■円、■さんが■円、・・・、もらった(ている)。今後、新たに、■さんに■千万円、■さんに■千万円、・・・、を助成すると、国民の毎年の損害は助成額の■倍以上減る。そして、「日本は研究ネカト大国」と世界で評価されたことによる日本国民の損害額は■円です。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
1a.得する人・損する人
2.ネカト調査コスト
3.ネカト対策コスト
4.無駄になった研究費
5.政府助成金の減額
6.賠償金・罰金・示談金
7.私人による代理訴訟(qui tam action)
8.健康被害
9.政治・経済の被害
10.論文出版コストと論文代行コスト
11.日本の場合:コスト
12.日本の場合:得する人たち
13.日本の場合:損する人たち
14.本ブログの損害額改訂
15.白楽の感想
16.コメント
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●1.【概略】
研究ネカト行為の結果、損する人、得する人が出てくる。
勿論、ネカトをする人は得をする。得するためにネカトをするのである。発覚し処分を受ける人は少数なので、平均すれば、ネカト行為は得である。[白楽は勧めているわけではありません。事実を書いているだけです]
経費として、ネカト防止の教育や研修のコストがかかる。ネカト調査の経費もかかる。論文出版経費が無駄になる。だまされて助成した研究費も膨大だろう。それで、研究制度を改善するが、そのコストもかかる。
健康被害を受ける人もいる。場合によると死亡する。研究結果が再現できず、製品が製造できない損害も生じる。
大学と研究者の評判(信頼・尊敬)が地に落ち、国民は大学教授・研究者に失望する。評判の下落や失望など金銭に換算するのが難しいコストもある。
これら、ネカトに絡むもろもろの金銭のデータを探ってみよう。あるいはムリを承知で、強引に金銭に換算してみよう。
なお、いろいろな人がネカトの損害を金銭に換算している。数値は統一的ではないが、本記事ではそのまま記載した。
金銭の損得は、組織や団体と言えども、結局、個々の人間の損得である。例えば、大学がネカト調査費用に1,200万円使用したとあっても、1,200万円の出所は元々は個人である(授業料や国民の税金など)。また、1,200万円を受け取る側も、形は組織だろうが、つまるところ、個人である。金銭は、人間が払い、人間が受け取る、という方針で分析していきたい。
米ドル、豪ドル、カナダドルは1ドル=約100円。1ユーロ=約120円。1英ポンド=約140円で換算した。
●1a.【得する人・損する人】
まず、研究ネカトで得する人、損する人をリストしよう。
★得する人たち
研究ネカト者は得しようと意図的に不正行為をする人(した人)だ。勿論、研究ネカト者は金銭的に得をする。
それ以外の人も、他人の起こした研究ネカト事件で、結果的に職を得たり、収入を得たりと金銭的な得をする。
【ネカトが発覚しない場合】
- 研究ネカト者(発覚しても処分がなければ得):
ネカトというズルイ行為で、個人的収入(含・奨学金)・称号(博士号、ドイツの教授資格)・研究費・職(就職・昇進・地位・権力)・受賞・結婚相手・快楽(名声・名誉・称賛・供応)など研究に関連することから私生活まで、不当に得をする。金銭で換算すると数千万円-数十億円の得になる。
【ネカトが発覚した場合】
- ネカト者:例えば、小保方晴子の手記「あの日」の印税収入は約3640万円
- メディア:事件を報道する新聞・テレビ社とその記者。
- 出版:事件に関する書籍・雑誌を出版する企業の社員。
- ネカト対処者:米国・研究公正局の職員。ネカト調査委員会の委員。
- ネカト研究者:講演・執筆。
- ネカト教育者:授業。研修会で講師
- ネカト関連品製造販売者:盗用検出ソフト会社(Turnitin, LLC)など
- ネカト分析者
- 裁判:ネカトの裁判に関係する裁判官、弁護士
★損する人たち
【ネカトが発覚しない場合】
- 研究助成機関:研究助成したお金が無駄になる
- 他の研究者:ねつ造・改ざんでは、論文結果を再現できず、ヒト・カネ・モノ・時間が無駄になる。
- 産業界:ねつ造・改ざんでは、論文結果を再現できず、ヒト・カネ・モノ・時間が無駄になる
- 国民:税金が無駄になる
【ネカトが発覚した場合】
- 研究ネカト者(発覚し処分された場合):
研究者としての評判・評価が地に落ちる。名誉失墜である。世間に公知となることが多く、人間としての信用を失い、家族・友人関係が崩壊する可能性がある。
処分は、米国では解雇がほとんどで、研究職をやめざるを得ない。受賞の取り消しも多い。ネカト論文は撤回される。博士論文のネカトでは博士号がはく奪されることが多い。米国の研究公正局でクロと判定されると、数年間はNIHに研究費申請ができないこともあり、研究職を廃業せざるを得ない人が多い。
また、少数だが逮捕・投獄、賠償金支払いも科される。 - 日本では、ネカトで解雇されることは少なく(1-2割?)、数日-数か月の停職期間後に復職する。つまり、金銭で換算すると数万円-数百万円の損害になる。また、逮捕・投獄はない。
以下は、研究ネカト者以外の人・組織。
- 政府:ネカト対策の不備が指摘され、叱責される。
- 研究助成機関:研究助成したお金が無駄になる。ネカト者に助成したことで評判が落ちる
- 大学・研究所:所属研究者がネカトをしたことで、評判が落ち、寄付金の減少や入学者が減少する。ネカト調査に1件1,200万円の経費が掛かる。日本では政府からの助成金が減額される。
- 学術誌編集局:ネカト論文の掲載で評判が落ちる。ネカト調査をせざるを得ず、クロなら撤回措置をする。1件100万円の経費が掛かる。
- 学術界:学術の信頼を失う。評判が落ちる
- 産業界:論文結果を再現できず、ヒト・カネ・モノ・時間が無駄になる
- 国民:税金が無駄になる
●2.【ネカト調査コスト】
エリザベス・ギャモン(Elizabeth Gammon、写真出典)は、米国のネカト・コストを計算した。白楽は、その額を参考に日本の制度・金額に合わせ、本記事に多用した。論文(「ギャモンの2013年論文」)の書誌情報は以下の通りで、本ブログで紹介した。
→ 7-17.研究ネカトのコスト | 研究倫理(ネカト)
- Research misconduct oversight: defining case costs.
Gammon E, Franzini L.
J Health Care Finance. 2013 Winter;40(2):75-99.
最後の方の14章・「14.本ブログの損害額改訂」で説明するが、「ギャモンの2013年論文」から、いくつかのコストを試算した。
例えば、大学教授1人の年間経費(給与・学内研究費・施設費など)を4500万円とした。大学のネカト調査費用を1件1,200万円とした。学術誌編集局のネカト調査費用を論文撤回1件あたり100万円とした。この経費は、調査後、撤回しなかった論文のコストも含んでいる。
●【調査機関のコスト】
★【8億6千万円/毎年、米国・研究公正局:運営費、負担者:米国民、金銭収受者:研究公正局員】
→ 1‐4‐3.米国・研究公正局(ORI、Office of Research Integrity) | 研究倫理(ネカト)
米国・研究公正局の年間予算は860万ドル(約8億6千万円)である。調査機関のコストは、人件費、調査費(パソコン、旅費など)、教育・研修費、法的対応費、施設賃貸料(あるいは維持費)である。
→ 2016年8月24日の「Science」記事:New leader of NIH’s research watchdog faces staff revolt | Science | AAAS
→ 2005年7月19日の記事:「深刻化する、科学研究の捏造・改竄・盗用(上)」記事では700万ドル(約7億円)の年間予算で職員28人:ココ、(保存版)
研究公正局の職員(研究ネカト対処者)は総勢24人である。8億6千万円の予算の内人件費が8割とすると、職員は1人平均2,900万円のお金を得ることになる。
研究公正局ほど大きくはないが、米国の他の省庁では監査総監室がネカト調査をしている。そのネカト経費の総額はいくらなのだろうか? 他の省庁のネカト調査コストの総額を研究公正局と同じとすると、米国政府は、ネカト対策に毎年17億2千万円使用していることになる。
では、世界各国政府のネカト経費の総額はいくらなのだろうか? 米国の10倍とすると、毎年172億万円使用していることになる。
★【59億円/毎年、227万円/人、米国・全大学:研究公正官の費用、負担者:米国民、金銭収受者:研究公正官】
米国の各大学・研究機関に1人の研究公正官(Research Integrity Officer)がいる。研究公正官がいないと、各大学・研究機関はNIHのグラント・奨学金を申請できない。
研究公正官は、通常、その大学の教授が兼務する。研究公正官は、約2600校ある各大学につき1人の研究公正官がいるので約2600人いると試算した。
「ギャモンの2013年論文」によると、基礎科学系教授の年収は給与以外のサービスやお金(benefits)を含めると、226,875ドル(約2269万円)になる。四捨五入して2270万円としよう。
「ギャモンの2013年論文」によると、研究公正官は、ネカト調査中は業務時間の5割を研究公正の業務に使っている。しかし、常時ネカト調査している研究公正官は少ない。全部ならして、業務時間の1割をネカト業務に充てるとしよう。つまり、1人の研究公正官当たり年間227万円の経費がかかっている。
全米の研究公正官のネカト・コストは、2600人x227万円=59億円。
●【調査のコスト】
ネカト調査にかかわる人は以下の人たちだ。
- 自分の研究室の上司・仲間・部下、自分の関連分野の論文にネカト疑惑が生じれば、研究者は自発的に調査する。
- 世界のネカトを監視し、見つけ、告発するネカトハンター(ボランティア)もいる。
- 大学が設けたネカト調査委員会の委員でネカト調査をする大学教授・弁護士がいる。
- 掲載論文のネカト疑惑が指摘された学術誌は編集委員がネカト調査をする。
上記いずれの人も、ネカト調査で多額のお金を手にすることはない。学外委員にしても僅かな謝礼と交通宿泊費程度しか支払われない。調査費用は少額である。弁護士は仕事として行なうので通常の収入を得る。
この章で、ネカト調査する人の経費を計算・試算しよう。
★【3億7500万円/毎年、米国・研究公正局:調査、負担者:米国民、金銭収受者:研究公正局員】:2006年
「ギャモンの2013年論文」によると、研究公正局の調査監査部門の2006年の予算は、350~400万ドル(3億5000万円~4億円)とのことだった。ここでは平均値の375ドル(3億7500万円)を採用した。
3億7500万円を受け取る人は、研究公正局の職員と関連業者である。
研究公正局ほど大きくはないが、米国の他省庁では監査総監室がネカト調査機関である。また、世界各国政府にネカト対処をする公務員がいる。
★【5,250万円(直接経費)/1件、米国・大学:調査、負担者:米国民、金銭収受者:ネカト調査教授】:2010年
【1億3千万円/1件、米国・大学:調査・研究費・後始末、負担者:米国民、金銭収受者:ネカト対処者と調査教授】:2010年
【110億円/毎年の研究公正局の全案件、米国・大学:調査、負担者:米国民、金銭収受者:ネカト調査教授】:2010年
→ 日本語紹介:2010年08月18日:米国:研究不正の調査費は多大(論文) | 科学技術情報プラットフォーム
→ 論文:2010年8月17日:The Costs and Underappreciated Consequences of Research Misconduct: A Case Study
Arthur M. Michalek , Alan D. Hutson, Camille P. Wicher, Donald L. Trump
PLOS:Published: August 17, 2010
この論文はネカトのコストを正面から試算している。なお、論文の最後著者のドランルド・トランプ(Donald L. Trump、写真出典 )は、勿論、トランプ大統領自身ではない。弟でも親族でもない。米国のロズウェルパーク癌研究所 (Roswell Park Cancer Institute)の所長でがん研究者である。
ネカト疑惑が大学に通報されると、大学は予備調査を行ない、疑惑があれば、本調査に入る。
論文では以下のように試算した。
調査委員会は8人の委員で構成された。10回の調査委員会で、研究室の疑わしいすべて図、実験記録簿の主要なデータ、電子データと画像、電子メールを分析した。委員会はまた、被疑者、申立人、および問題の研究室の他のメンバーにインタビューした。
調査委員の調査は会議で100時間以上(約78,000ドル)、会議外で約700時間(約430,000ドル)を費やした。その他の関連費用には、コピー作成、ファイル作成、スケジュール調整、連絡などの事務経費(約2,500ドル)がかかった。さらに、調査委員会はクロの証拠が得られたとして、研究費申請書、投稿準備中の論文原稿をチェックするのに約50時間が費やされた(約4,000ドル)。
結局、調査の直接経費は総計で、約525,000ドル(約5,250万円)になった。内訳は、調査委員とインタビュー者の給与が約512,000ドル、事務経費が約2,500ドル、その他の人件費(セキュリティ、情報技術、研究契約のチェック)が10,000ドルである。
上記の数値に含まれていない重要な間接費は、上級行政教員(学長、科学研究担当副学長)のコスト(?ドル)、現在のグラントの停止・返還(283,000ドル)、2件のグラントの取消(約 615,000ドル)と1件のグラントの更新不可(約363,000ドル)などである。さらに、現在のポスドクが他の研究室を見つけるまでのサポート費用(約40,000ドル)、調査完了後にすべての記録を少なくとも6年間維持・保存する費用(?ドル)がある。合算すると、1,301,000ドル(約1億3千万円)になる。
米国・研究公正局は2009年に217件のネカト疑惑を受け取ったが、その調査に全国の大学は1.1億ドル(110億円)支出した。
★【1,200万円/1件、米国・大学:調査、負担者:米国民、金銭収受者:研究公正官とネカト調査教授】:2000年-2005年
「ギャモンの2013年論文」によると、大学がネカト調査した時にかかった費用は1件につき、研究公正官(RIO)が基礎科学系教授の場合、102,115ドル(約1,021万1500円)となり、臨床医学系教授の場合、141,090ドル(約1,410万9000円)となった。平均値は1,216万250円なので、四捨五入して1,200万円としよう。
金銭収受者は、研究公正官、調査員だが、業務は大学教授が兼務している。ネカト調査があっても収入が上乗せされるわけでもない。ネカト調査がなければ、本務をするだけで、無職になるわけでもない。
★【190万円/1件、米国・研究公正局:調査、負担者:米国民、金銭収受者:研究公正局員】:2000年-2005年
「ギャモンの2013年論文」によると、2000–2005年の間、ネカト申し立て1件当たりの研究公正局の調査費用は14,045-24,495ドル(約140万4500円-約244万9500円)だった。平均値は192万7000円なので、四捨五入して190万円としよう。
★【4,760万円/1件、個人:自発的調査、負担者:米国民、金銭収受者:?】:2011年のポティ事件
【259億円/年間、米国:個人:自発的調査、負担者:米国民、金銭収受者:?】:推定
【2,590億円/年間、世界:個人:自発的調査、金銭収受者:?】:推定
NIH・国立がん研究所(NCI) の生物統計学者・リサ・マクシェイン(Lisa McShane)はポティ事件で300~400時間費やしたと述べている。MDアンダーソン癌センターの生物統計学者・キース・バッガリーとケビン・クームズは、2,000時間も費やしたとある。
→ 出典:アニル・ポティ (Anil Potti) (米) | 研究倫理
キース・バッガリーとケビン・クームズは、調査に4年間もかけていた。その間、本業の研究は大丈夫だったのだろうか。
→ Research: Uncovering misconduct : Naturejobs
「ギャモンの2013年論文」によると、時給は、基礎科学系教授で119ドル(約1万1900円)、臨床医学系教授で169. ドル(約1万6900円)になる。
リサ・マクシェインは基礎科学系教授なので、1万1900円 x 300~400時間=357~476万円 である。平均値は416万5000円なので、四捨五入して420万円となる。
キース・バッガリーとケビン・クームズは、2人x1万1900円x 2,000時間=4,760万円 である。
つまり、アニル・ポティのデータに疑問を持ち、自発的にねつ造・改ざんと突き止めた研究者のコストは420万円+4,760万円=5,180万円ということだ。
各ネカト事件には必ずネカト追及者がいる。上記「2010年のPLOS」論文で、米国・研究公正局は2009年に217件のネカト疑惑を調査したとある。研究公正局の2倍強のネカト疑惑がボランティア的に調査されたとすると、米国では毎年、500件の調査になる。となると、コストは毎年259億円になる。
世界では米国の10倍として、毎年、5,000回程度の自発的調査が行なわれているだろう(当てずっぽう)。となると、コストは毎年2,590億円になる。
これらのお金を誰が受け取っているのだろう?
★【1億3000万円/毎年、米国・撤回監視(Retraction Watch):調査、負担者:米国民、金銭収受者:撤回監視の6人】:2010年-2018年現在
米国の「撤回監視(Retraction Watch)」は、2010年8月に開始した民間の組織で、論文撤回を通して研究ネカト・クログレイを論じ、記事をサイトに無料でアップし、世界中に無料配布している。
→ 1‐4‐8.撤回監視(リトラクション・ウオッチ:Retraction Watch) | 研究倫理(ネカト)
2018年9月24日現在のスタッフは6人で、創始者は2人である。記者2人はマッカーサー基金(MacArthur Foundation)の40万ドル(約4000万円)のグラント、別の記者2人はローラ・アンド・ジョン・アーノルド基金( Laura and John Arnold Foundation)の30万ドル(約3000万円)のグラントで雇われている。
「撤回監視(Retraction Watch)」自身は読者から寄付を募っている。白楽は利用しているので、寄付をした。寄付の総収入額がいくらなのか公表されていない。
「撤回監視(Retraction Watch)」は、全経費を公表していないが、創始者2人分の年収を5,000万円とし、サイトの運営費を1,000万円とすると、毎年の経費は1億3000万円になる。
負担者を米国民とした。
★【1億円/毎年、米国・パブピア(PubPeer):調査、負担者:?、金銭収受者:パブピアの5人】:2012年-2018年現在
米国の「パブピア(PubPeer)」としたが、代表者はフランス人で、2012年10月に開始した民間の組織である。当初は匿名サイトだったが、財政・法律上の問題で、フランス人代表者が顕名になり、米国・カリフォルニア州のパブピア財団(PubPeer Foundation)が運営する組織とした。
→ 1‐4‐9.パブピア(PubPeer) | 研究倫理(ネカト)
活動は、学術雑誌に掲載された論文の内容を匿名(含・研究ネカトの指摘)で議論する研究者のためのソーシャルメディアである。閲覧は無料で、ネカトを指摘する世界最強のサイトである。
2016年7月8日に上記記事を改訂した時、スタッフは5人だった。「パブピア(PubPeer)」自身は読者から寄付を募っている。
ネカト者からの攻撃を避けるためか、「パブピア(PubPeer)」は透明性に欠け、収入・経費・寄付など金銭的な事実を公表していない。「撤回監視(Retraction Watch)」より少し少ないと推定し、毎年の経費を1億円とした。
負担者は誰でしょう?
★【6千万円/毎年、ドイツのヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki):調査、負担者:ドイツ国民、金銭収受者:ヴロニプラーク・ウィキの運営者・貢献者】:2011年3月-2018年現在
2011年3月に開始した民間の組織である。活動は、ドイツの大学の博士論文や教授資格論文の盗用を指摘するサイトである。閲覧は無料である。2018年9月現在、200人以上の盗博(博士論文の盗用)を暴き、内、ドイツ政府の閣僚や大学教授の博士号のはく奪、辞任をもたらした。
→ 1‐4‐10.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki) | 研究倫理(ネカト)
ネカト者からの攻撃を避けるためか、盗博指摘者は匿名が多いが、盗博の調査は微に入り細に入り、とても詳しく、客観的事実を示し、徹底している。
組織の収入・経費・寄付など金銭的な事実は公表していない。「撤回監視(Retraction Watch)」の約半分として、毎年の経費を6千万円とした。
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その他、民間の組織ではロシアのディザーネット(Dissernet)が有名である。毎年の経費を6千万円としよう。
→ 1‐4‐12.露 ディザーネット(Dissernet) | 研究倫理(ネカト)
個人でネカトブログを立ち上げている有名人は、ドイツのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)である。「For Better Science」サイトで主に欧州の研究者のネカトを糾弾している。裁判で訴えられその経費もかかる。毎年の経費を3千万円としよう。
→ Leonid Schneider – For Better Science
●3.【ネカト対策コスト】
★【5,000万円/年間、ミネソタ大学医科大学院:防止教育、負担者:米国民、金銭収受者:ネカト教育担当教授】:2000年
【1300億円/年間、米国の全大学:防止教育、負担者:米国民、金銭収受者:ネカト教育担当教授】:2000年
【1兆3000億円/年間、世界の全大学:防止教育、負担者:世界の国民、金銭収受者:ネカト教育担当教授】:2000年
マーシャル(Marshall)の「2000年のScience」論文は、ミネソタ大学医科大学院(University Minnesota medical school)のネカト防止教育に年間50万ドル(約5,000万円)がかかると報告した[Marshall, E, “Scientifi c Misconduct. How Prevalent is Fraud? That’s a Million-Dollar Question,”Science, 290:1662–1663 (Dec. 2000)]。
類似費用を推定しよう。
全米に約2600校ある各大学が同じようなネカト防止教育をし、各大学は年間50万ドル(約5,000万円)かかったとすると、2600大学×5,000万円=1,300億円となる。世界では米国の10倍として、コストは毎年1兆3000億円になる。
★【3500万円/年間、米国:NIH:ネカト研究、負担者:米国民、金銭収受者:ネカト研究者】:2017年
米国・NIHは「研究公正の研究」に研究助成をしている。2017年に35万ドル(約3500万円)を公募した。調べていないが、毎年この程度の額の研究助成が行なわれているのだろう。
→ 2017年1月7日公募:$350,000 Funding Available for Research Integrity
★【1億円/年間、英国:学術出版規範委員会(COPE):出版規範対策、負担者:世界の国民、金銭収受者:学術出版規範委員会の運営者】:1997-2018年現在
1997年、英国の少数の医学系学術誌が出版規範の問題を検討する学術出版規範委員会「COPE」(Committee on Publication Ethics)を立ち上げた。
大発展し、全学術分野の世界中の9,000以上の学術誌が会員になり、学術出版規範の議論を深めている。この団体は慈善団体だが、委員の旅費や活動費は支払われている。
組織の収入・経費・寄付など金銭的な事実は公表していない。経費の見当がつかないが毎年の経費を1億円とした。
●4.【無駄になった研究費】
★【6,595万円/1人、米国・NIH:研究費、負担者:米国民、金銭収受者:研究支援業者】:2000年〜2005年
「ギャモンの2013年論文」によると、NIH研究費を受給していた場合、ネカトで無駄にした研究費は1人平均約6,595万円である。
誰がこのお金を収受しているのか? 普通に考えると、研究遂行に必要なモノ・サービスを提供する研究支援業者(機器・試薬・学術誌など、学会旅費など)だろう。
★【58億円/21年間、2億7600万円/年、米国・NIH:研究費、負担者:米国民、金銭収受者:研究支援業者】:1992年-2012年
→ 2014年8月:Andrew M Stern, Arturo Casadevall, R Grant Steen, and Ferric C Fang: Financial costs and personal consequences of research misconduct resulting in retracted publications
1992年-2012年の21年間の研究ネカト論文にNIHが研究助成した金額は5,800万ドル(約58億円)だった。この金額はNIHが研究助成金の1%に相当した。
21年間の5,800万ドル(約58億円)を年平均に換算すると、276万ドル(約2億7600万円)となる。
【白楽の感想】
「2.【ネカト調査コスト】」で書いたが、NIHが研究助成した研究者のネカトは研究公正局が調査・処分する。といっても、その調査は基本的には研究者の所属する大学がする。それなのに、研究公正局は毎年8億6千万円も使っている。
8億6千万円も使って、2億7600万円分の研究費のネカトを調査したことになる。
オイオイ、コストパフォーマンス悪すぎでない? 金銭の損得を考えると、研究公正局いらないんじゃない。勿論、存在していることで、ネカトを予防・抑止しているとは思う。
★【2兆8千億円/年、米国:生命科学系の再現不可論文:研究費、負担者:米国民、金銭収受者:研究支援業者】: 2015年
→ 2015年6月9日論文:Freedman LP, Cockburn IM, Simcoe TS (2015) The Economics of Reproducibility in Preclinical Research. PLoS Biol 13(6):e1002165.https://doi.org/10.1371/journal.pbio.1002165:
生命科学系論文の再現不可の原因は、「間違い」もあるがデータねつ造・改ざんも大きな比率を占める。過去の研究を分析すると、前臨床研究の再現不可論文に費やされた研究費は米国だけで約280億ドル(約2兆8千億円)/年である。 毎年、約2兆8千億円の研究費が無駄になっているということだ。
米国では、ネカト対策(含・研究公正局)で防げないネカトによる研究費の損失は、少なくとも毎年2兆8千億円あるということになる。
★【108億円/7年間に渡る1事件、15億円/年、米国・米国地質調査所:研究費、負担者:米国民、金銭収受者:研究支援業者】
→ ①2016年6月17日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:More than $100M worth of research may be tainted by govt lab misconduct – Retraction Watch、②2016年6月16日の内務省記事:Inspection of Scientific Integrity Incident at USGS Energy Geochemistry Laboratory | DOI OIG
内務省・米国地質調査所(USGS:U.S. Geological Survey)のコロラドにある無機研究グループの化学者(ネカト者は多分1人)が2008-2014年の7年間で24件の論文と評価プロジェクトを発表した。ところが、これら24件の論文と評価プロジェクトのデータがねつ造・改ざんだった。
データがねつ造・改ざんだったので、研究成果は信用できない。この研究に助成した約1億800万ドル(約108億円)が無駄になった。7年間に渡る1つの事件で108億円なので、年平均にすると15億円/年の研究費が無駄になったことになる。
★【3億3677万円/2年間の21件、1604万円/1件、オーストラリア・豪州研究会議:研究費、負担者:オーストラリア国民、金銭収受者:研究支援業者】:2017年
→ ①2017年4月25日のティムナ・ジャック(Timna Jacks)記者の「Sydney Morning Herald」記事:Fake science: Taxpayers shell out more than $3 million for unreliable research
豪州研究会議(ARC: Australian Research Council)はオーストラリア政府の研究助成機関である。
豪州研究会議は、2017年に過去2年間で、政府の研究助成を受けた21件にネカトを見つけたと発表した。但し、ネカト者を公表しなかった。
ねつ造・改ざんデータのために研究結果は信頼できず、21件に助成した総額・3,367,700豪ドル(約3億3677万円)は無駄になった。1件当たりの平均額は1,604万円となる。
★【研究費】:個々の研究者
額を問わなければ、ネカト研究者の8割以上(推定)が研究費を無駄にしている。以下は本ブログで記事にしたその一部の事件例である。
- ステファノ・フィオルッチ Fiorucci, Stefano 男 #ねつ造、約2億円の研究費、イタリア
- アラン・マラフォス Malafosse, Alain 男 #ねつ造+、約1億9千万円の研究費詐欺 、スイス
- ミレーナ・ペンコーワ Penkowa, Milena 女 #ねつ造、 多額の政府研究費、 デンマーク
- エリザベス・グッドウィン Goodwin, Elizabeth 女 #改ざん、 NIHから3億4222万円の研究費、米国
- ダリン・キニオン Kinion, Darin 男 #ねつ造、 IARPAのグラント(約3億3千万円)、米国
- エリック・ポールマン Poehlman, Eric 男 #ねつ造 、NIHと農務省の約2.9億円の研究費、米国
- ハイファン・ウェン Wen, Haifang 男 #ねつ造、 科学庁、運輸省、エネルギー省、農務省の約8億円の研究費、米国
- クリストファー・ウィルソン Willson, Christopher D. 男 #ねつ造、 運輸省の約4億3千万円の研究費、米国
- パーシヴァル・ジャン、张以恒 Zhang, Yiheng Percival 男 #ねつ造+、 科学庁とエネルギー省から1億円の研究費、米国
●5.【政府助成金の減額】
★【178億円/1件、台湾・政府:助成金、負担者:?、金銭収受者:?】:2017年
→ ①:2017年3月31日の「Taipei Times」記事:Ministries punish academics over falsified papers – Taipei Times
台湾の科学省と教育省は、国立台湾大学のミンライアン・クオ教授(Min-liang Kuo、郭明良)のネカト事件で、国立台湾大学への助成金を5,400万新台湾ドル(1億7800万ドル、約178億円)削減した。
→ シーティン・チャ、查詩婷(Shih-ting Cha)(台湾) | 研究倫理(ネカト)
この場合、台湾の国民は損したのか得したのか、よくわかりません。178億円のお金は結局誰が受け取ったのか? 国立台湾大学以外の台湾の国立大学なのだろうか?
●6.【賠償金・罰金・示談金】
●【裁判:損害賠償】
★【約50万円/1人、米国:ネカト者:損害賠償、負担者:ネカト者、金銭収受者:?】:1994年
1994年8月29日(46歳)、米国連邦地裁(U.S. District Court)の民事訴訟で、プリンス・アロラ(Prince K. Arora)は、他の研究者の研究を妨害したとして、約5千ドル(約50万円)の損害賠償が命じられた。
→ 「妨害」:プリンス・アロラ(Prince K. Arora)(米) | 研究倫理(ネカト)
米国のネカト者が約50万円を負担した。そのお金は誰が受け取ったのか? 米国連邦政府が受け取り、その後、国家予算として使われ、米国民が受け取ったということか?
★【約2,000万円/1人、米国:ネカト者:罰金、負担者:ネカト者、金銭収受者:?】:2006年
2006年(50歳)、バーモント地方裁判所は、17件の研究費申請書と10報の論文のデータねつ造・改ざんを犯した罪でエリック・ポールマン(Eric T. Poehlman)に罰金20万ドル(約2,000万円)を科した。
→ エリック・ポールマン(Eric T. Poehlman)(米)改訂 | 研究倫理(ネカト)
★【10億円要求/1疑惑、米国:ネカト疑惑:損害賠償、負担者:なし、金銭収受者:なし】:2017年
スタンフォード大学の気象学者・マーク・ジェーコブソン教授(Mark Z. Jacobson)は「2015年のPNAS」論文を発表した。
コロラド大学のクリストファー・クラック(Christopher T. M. Clack)らが「2017年のPNAS」論文で、ジェーコブソン教授の「2015年のPNAS」論文のデータがおかしいと、指摘した。
すると、ジェーコブソン教授はその指摘で金銭的なダメージを受けたと、クリストファー・クラック及び学術誌「PNAS」の発行母体の科学アカデミーを被告に、1千万ドル(約10億円)の損害賠償をもとめる訴訟を起こした。つまり、ネカト疑惑の損害を10億円と見積もったということだ。
→ 2017年11月1日記事:Climate scientist seeks $10 million from a critic of his work
従来というか一般的というか、原則として、学問上の意見の違いは、論文や学会で議論し、研究者が審判になる。
しかし、ジェーコブソン教授は今回、学問上の正否・公正を裁判官にゆだねるという異常な手段を取った。
研究者社会はジェーコブソン教授の提訴を大きく批判した。その大きな批判を受けて、2018年2月、ジェーコブソン教授は訴訟を取り下げた。
従って、10億円という額は裁判所の審理を受けていない。それにしても、米国のネカト疑惑1件の損害額として10億円と見積もったということだ。
★【約50億円/1件、韓国:東国(とんぐく)大学:損害、負担者:東国(とんぐく)大学、金銭収受者:?】: 2008年
2008年3月27日、ジョンア・シン事件に絡み、韓国の東国大学は、米国・イェール大学が経歴詐称の問い合わせに対して、間違った対応をしたと米国の裁判所に訴えた。東国大学の評判(信頼・尊敬)が「大きく失墜した」として、損害賠償の訴訟をイェール大学に対しておこした。
→ 美術史:「経歴詐称」:ジョンア・シン、신정아、申貞娥(Jeong-ah Shin)(韓国) | 研究倫理
損害賠償の要求額は、少なくとも5千万USドル(約50億円)だった。
各損害額の内訳はわからないが、項目は以下のとおりである。
- 東国大学の評判
- 犯罪調査経費
- 大学職員の対応経費
- 寄付金の減少
- 政府助成金の減少
- 入学受験者数の低下
結局、訴訟を取り下げたが、損害額50億円は東国(とんぐく)大学が負担したということになる。その原資は、学生(授業料)、寄付者、韓国政府の助成金(韓国民の税金)だろう。で、50億円は収受者は誰なんだろう? ネカト調査者と韓国の他大学の教職員ということか?
★【10億円/1件、米国・ブリガム・アンド・ウィメンズ病院:示談金、負担者:ブリガム・アンド・ウィメンズ病院、金銭収受者:?】:2017年
ハーバード大学医科大学院の関連病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)とその親組織は、アンバーサ事件で連邦政府の研究費を不正に受給した。
一般的に、所属研究者がネカトで研究費を受給すると、所属機関はそのネカトで不正に研究費を受給したことになる。
結局、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院は問題の解決に、米国政府に1,000万ドル(約10億円)を支払う示談に合意した。
→ ピエロ・アンバーサ(Piero Anversa)(米) | 研究倫理(ネカト)
→ ①:2017年4月27日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Harvard teaching hospital to pay $10 million to settle research misconduct allegations – Retraction Watch、②:2017年4月27日の「司法省」記事:Partners Healthcare and Brigham and Women’s Hospital Agree to Pay $10 Million to Resolve Research Fraud Allegations | USAO-MA | Department of Justice
ブリガム・アンド・ウィメンズ病院が示談金として米国政府に10億円払ったが、もともとは、政府から受け取った研究費である。
この場合、実質上、誰が10億円損して、誰が10億円得したのか?
★【9億5千万円/1件、米国・コロンビア大学:示談金、負担者:コロンビア大学、金銭収受者:?】
研究者のネカトではなく、大学の経理担当者が書類をねつ造・改ざんをして、NIHからの間接経費を多額に得た事件。
→ ①:2016年9月14日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Columbia has settled a fraud case for $9.5M. Here’s why that’s important. – Retraction Watch、②:司法省の記事:Manhattan U.S. Attorney Announces $9.5 Million Settlement With Columbia University For Improperly Seeking Excessive Cost Recoveries In Connection With Federal Research Grants | USAO-SDNY | Department of Justice
2003年から2015年の間、コロンビア大学(Columbia University)は、マンハッタンのコロンビア大学キャンパスの近くのニューヨーク市所有のニューヨーク州精神医学研究所(NYSPI)と他の公的研究施設でかなりの量の精神医学研究を実施した。
ところが、キャンパス外の施設で研究を行なったにもかかわらず、コロンビア大学はキャンパス内で行なったと、NIHに伝えていた。
キャンパス内の研究の間接経費は61%と高い。この間の423件のグラントがコロンビア大学の精神医学研究に給付され、巨額の間接経費を不当に得ていたことになる。
結局、コロンビア大学は、米国政府に950万ドル(約9億5千万円)を支払う示談に合意した。
★【945億円/1医薬品、米国:ファイザー社:罰金・示談金、負担者:ファイザー社、金銭収受者:デビッド・フランクリン(David Franklin)が24億6千万円、他は?】:2004年、2014年
2004年、米国の製薬企業・ファイザー社(Pfizer)は抗てんかん薬・ガバペンチン(Gabapentin)を片頭痛や双極性障害、疼痛治療などに使用するよう積極的に営業していたことをファイザー社は認め、2億4千万ドル(約240億円)を罰金として司法省に、1億5400万ドル(約154億円)を州・連邦ヘルスケアに、3800万ドル(約38億円)を州に、計4億3千万ドル(約430億円)を支払うことに同意した。
→ 企業:抗てんかん薬・ガバペンチン(Gabapentin):ファイザー社(Pfizer)(米) | 研究倫理(ネカト)
ファイザー社がガバペンチンの示談で払った総額は9億4500万ドル(約945億円)だとある。
→ 2014 年6月2日記事:Pfizer adds another $325M to Neurontin settlement tally. Total? $945M | FiercePharma
945億円の負担者を米国の製薬企業・ファイザー社(Pfizer)としたが、結局、米国民が負担したのだろう。
なお、ガバペンチン事件でデビッド・フランクリン(David Franklin)は、虚偽請求取締法(False Claims Act)に基づく「私人による代理訴訟(qui tam action)」(次章で扱う)で勝訴し、約24億6千万円を得た。
残りの罰金・示談金である920億円は結局誰が受け取ったのだろう。
●7.【私人による代理訴訟(qui tam action)】
米国では、虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730) 違反で、「私人による代理訴訟(qui tam action)」が行なわれる。
虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730)は、連邦政府に対する不正請求等を知った者が、当該情報を元に連邦政府のために、不正請求等を行っている者に対して、民事訴訟(キイタム訴訟)を提起し、これにより政府が得た収益の最大 30%を報償金として得ることができるとするものである(31 U.S.C§3730(d)(2))。また、訴訟を提起された被用者等が労働者等に対し不利益取扱いをすることを禁止し、不利益取扱いを受けた者は、同等の地位での復職や遡及賃金の倍額の請求等が可能である(31 U.S.C§3730(h))(出典:立法後の米国及び欧州における公益通報者保護制度の状況)。
以下の4件の内、原告側は2件勝訴、2件敗訴している。ポッツ=カント事件の裁判は米国のネカト史では大事件である。
英語のママでスミマセンが、以下に4件を貼り付けた。また、次項で事件を取り上げた。
なお、政府や州立大学(州政府の一部)を訴えて勝訴するのは容易ではない。
→ 2017年7月7日記事:Failed whistleblower suit is a reminder that public universities are hard to sue – Retraction Watch
★【2億6千万円/1件、米国:コーネル大学:改ざん:私人による代理訴訟、負担者:コーネル大学、金銭収受者:原告のタリン・レズニック(Taryn Resnick)】:2009年
前項の表の2009年の事件は、コーネル大学のロレーン・グダス教授(Lorraine J. Gudas)のデータ改ざん事件である。グダス教授はNIHから研究費1400万ドル(約14億円)を不正に受給した。タリン・レズニック(Taryn Resnick)は「私人による代理訴訟」で裁判を起こし、レズニックは勝訴し、260万ドル(約2億6千万円)を得た。
→ 2009年3月24日記事:C.U. Will Pay $2.6M in Fraud Case | The Cornell Daily Sun
ーーー
前項の表の2012年の事件は、ネカト事件ではなく、研究費不正流用事件である。それで、項目を設けないが、以下に、少し情報を記載する。
コーネル大学のウィルフレッド・ヴァン・ゴープ(Wilfred van Gorp)がNIHから研究訓練費を不正に流用した。ダニエル・フェルドマン(Daniel Feldman)が私人による代理訴訟で訴え、フェルドマンは勝訴し、887,714ドル(約8877万円)を得た。
→ 2012年9月5日決定の記事:UNITED STATES FELDMAN v. VAN GORP | FindLaw
★【600億円/1件、米国:デューク大学:ねつ造・改ざん:私人による代理訴訟、負担者:デューク大学、金銭収受者:原告のジョセフ・トーマス(Joseph Thomas)】: 2015年
2013年、米国のデューク大学のテクニシャンであるエリン・ポッツ=カント(Erin N. Potts-Kant)のねつ造・改ざんが発覚した。
→ エリン・ポッツ=カント(Erin N. Potts-Kant)(米) | 研究倫理(ネカト)
2015年11月、生物学者・ジョセフ・トーマス(Joseph Thomas)は、デューク大学がポッツ=カントのネカトを秘匿していたと、デューク大学、ポッツ=カント、マイケル・フォスター教授の3者を被告に、虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730) に基づく「私人による代理訴訟(qui tam action)」を起こした。
もし原告者のジョセフ・トーマスが勝訴すれば、デューク大学は政府から不正に受給した研究費の3倍を政府に返還しなければならなくなる。そして、原告者のジョセフ・トーマスは返還額の最大30%、多分、数百万ドル(数億円)を報奨としてもらえる。
ポッツ=カント事件でデューク大学が敗訴すれば、支払い総額は2億ドル(約200億円)の3倍の6億ドル(約600億円)になるかもしれない。
→ 2016年9月1日記事:Whistleblower sues Duke, claims doctored data helped win $200 million in grants | Science | AAAS
→ 2016年9月2日記事:Lawsuit says Duke research fraud cost U.S. Government | News & Observer
その後の顛末? スミマセン、白楽、調査できていません。
●8.【健康被害】
★【80兆円/80万人、欧州:心臓病患者:死亡、負担者:?、金銭収受者:?】
ドン・ポルダーマンス(Don Poldermans)(オランダ)は心臓手術合併症の予防と管理では世界的に著名な研究者だった。ポルダーマンスは欧州心臓学会・臨床ガイドライン委員だったので、彼のネカト・データを基に欧州心臓学会・臨床ガイドラインが作られた。そのガイドラインに従って治療を受けた欧州人が死亡した。ポルダーマンスのネカトは80万人の欧州人の死亡を引き起こしたと言われている。1人1億円とすると、80兆円である。
→ ドン・ポルダーマンス(Don Poldermans)(オランダ) 改訂 | 研究倫理(ネカト)
→ Medicine Or Mass Murder? Guideline Based on Discredited Research May Have Caused 800,000 Deaths In Europe Over The Last 5 Years
→ Quickest withdrawal ever? Journal yanks paper alleging 800K deaths from Poldermans affair – Retraction Watch
健康被害の場合、被害者は患者だが、金銭でみると、誰がそのお金を負担したのだろう? 患者のお金を受け取った人は医師ということか?
★【796億9千万円/79,690人、ネカト論文での治療:健康被害、負担者:?、金銭収受者:健康被害者のハズ】:2000-2010年
2000-2010年の788報の撤回論文(英語)を分析すると、ネカト論文180報が患者治療に関係していた。その180論文に28,000人以上が被験者として登録され、9,189人の患者が治療された。その180撤回論文を引用した851報の論文では、400,000人以上の被験者が登録され、70,501人の患者が治療された。
つまり、9,189人+70,501人=79,690人の患者がネカトに基ずく危険な治療を受けたことになる。
→ 2011年5月「Journal of Medical Ethics」論文:閲覧有料(白楽は無料概要を閲覧):. Retractions in the medical literature: how many patients are put at risk by flawed research? | Journal of Medical Ethics
健康被害の度合いは不明だが、被害なし~死亡、という範囲と思われる。被害学を1人100万円として無理やり金銭に換算すると、被害額の総額は、796億9千万円になった。
●9.【政治・経済の被害】
★【1億円(推定)/1件、米国:安全保障、負担者:?、金銭収受者:?】
外交政策者の経歴詐称事件では、不適切な人物が当該ポジションを担当することになる。実際はネカトが発覚し当該ポジションを担当しなかったが、発覚せずに担当したとし、損害額を推定で1億円とした。
→ 外交政策学:「経歴詐称」:エリザベス・オバギー(Elizabeth O’Bagy)(米)
★【1兆円(推定)/1件、英国:国家経済:盛衰、負担者:英国民、金銭収受者:?】
2010年、2人の米国の著名な経済学者であるカーメン・ラインハート(Carmen Reinhardt)とケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)は、共著で国家経済に大きく影響する「2010年のラインハート&ロゴフ」論文を出版した。
2013年、経済学専攻の院生らが上記論文の「間違い・改ざん(?)」を指摘した。
→ 経済学:「間違い」:カーメン・ラインハート(Carmen Reinhardt)、ケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)(米) | 研究倫理(ネカト)
「2010年のラインハート&ロゴフ」論文は、国家経済のかじ取りに影響したので、「間違い・改ざん(?)」は大問題となった。英国経済の危機を招いたとも指摘されている。
損害額を推定で1兆円とした。負担者は英国民として、誰が金銭収受者なのだろう?
●10.【論文出版コストと論文代行コスト】
ネカトによる損害額を試算するとき、論文出版にいくらのコストがかかっているか? ネカトのコスト計算に必要な情報だ。
●【論文出版コスト】
★【38万円または350万円/1論文、欧米:英語:論文出版】:【1000円/1論文、arXiv:英語:論文出版】:2013年
→ 2013 年3月27日「Nature」記事:Open access: The true cost of science publishing : Nature News & Comment
カリフォルニア州バーリンゲームのコンサルティング会社アウトセル(Outsell)のデータによると、科学出版業界は、2011年に英語論文で180万報を出版し、94億ドル(約9,400億円)の売り上げになった。論文あたりの平均売上高は約5,000ドル(約50万円)となる。業界の利益率を20〜30%と見積もると、論文出版の平均的なコストは3,500〜4,000ドル(約35〜40万円≒38万円)になる。
学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」執行編集員のダイアン・スレンベルガー(Diane Sullenberger)は、オープンアクセスになった場合、論文1報あたり約3,700ドル(37万円)を請求する必要があると述べている。
学術誌「Nature」のフィリップ・キャンベル編集長(Philip Campbell)は、論文1報あたりの実費を3万〜4万ドル(300~400万円≒350万円)と見積もっている。 多くの出版社は、論文出版が他の活動と絡み合っているため、論文のコストを切り離して見積りすることはできないと言う。
【1000円/1論文、arXiv:英語:論文出版】
数学、高エネルギー物理学、コンピューターサイエンスなどの分野の多くの研究者は「arXiv」のようなサーバ上に査読前論文・査読後論文をアップしている。「arXiv」サーバの運営費は年間80万ドルかかるが、論文あたり約10ドル(約1000円)しかかからない。
【50万円/1論文:Cell Reports、13万5000円/1論文:PLoS ONE 、3万円/1論文:PeerJ:著者の経費:論文出版】
今までは出版社の経費だが、著者の論文当たり支払う額もいろいろである。
著者の経費として、学術誌「Cell Reports」に論文出版すると、5,000ドル(50万円)。学術誌「PLoS ONE」に論文出版すると、1,350ドル(13万5000円)。学術誌「PeerJ」に論文出版すると、299ドル(3万円)。
★【51万円/1論文、英国:生命科学系:論文出版】
→ 2016 年8月11日記事:What it costs to publish | Inside eLife | eLife
論文出版コストは?
2012年創刊の生命科学系の学術誌「eLife」の論文当たりのコストは、論文数が増えれば低下するが、2015年は3,630ポンド(約508,200円≒51万円)かかった。
その論文をネカトで撤回すると、撤回コストもかかるし、出版費用の51万円が無駄になるしで、やりきれません。
前項の経費と合わせ、一般論として、論文1報の出版経費を50万円とする。
●【捕食出版コスト】
捕食出版社からの論文は信頼性の点で問題が多い。この出版コストをどう見積もると良いのだろうか?
→ 7-1.ねつ造医学論文を出版する捕食出版社:クロエ・コスタ(Chloe Costa)、2015年5月15日 | 研究倫理(ネカト)
●【論文代行コスト】
★【2億5200万円/毎年、累積で30億7020万円、英国・論文代行業者】:2015年
論文執筆を請負う業者がある。英国の論文代行業者の経営者であるトーマス・ネメト(Thomas Nemet)の顧客は、英国、ドイツ、スイス、オーストラリア、オーストリア、米国にいる。
→ 2015年4月13日記事:£1,700 for a dissertation, but what’s the real cost of plagiarism? – Telegraph
論文1つは大体1万7千ポンド(約238万円)である。
トーマス・ネメトは、「2005年の売上高は約20万ポンド(約2,800万円)で、2013年には100万ポンド(約1億4000万円)を超え、2014年には180万ポンド(約2億5200万円)でした」と述べている。
トーマス・ネメトは今まで、英国や欧州の1,290人に学位論文や博士論文の執筆を請負ってきた。1,290人x238万円=30億7020万円
論文代行は盗用・ねつ造と同等の不正である。大学に提出するレポートで発覚すれば、カンニングと同等の処分が下されるだろう。
論文代行業の損得・金銭、十分、調べる必要がある。.
→ 2015年4月13日記事:£1,700 for a dissertation, but what’s the real cost of plagiarism? – Telegraph
→ 7-14.博士論文の代行します53~630万円 | 研究倫理(ネカト)
●11.【日本の場合:コスト】
★【1億3800万円/年、文部科学省:対策:倫理教育】:2018年概算要求
文部科学省の「研究活動の不正行為への対応」の2018年度科学技術関係概算要求額は1億3800万円だった。
活動内容は以下の通りである。
「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)を踏まえ、資金配分機関(日本学術振興会、科学技術振興機構、日本医療研究開発機構)との連携により、研究倫理教育に関する標準的な教材等の作成や研究倫理教育の高度化等を推進する研究公正推進事業の実施等により、公正な研究活動を推進する。
→ 16ページ目:http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/08/30/1394956_1.pdf
上記予算の一部が、2014年では、研究不正及び研究倫理教育に関する調査研究に使用されたとおもわれる。経費は500万円だった。
→ http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/021/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/01/31/1343731_04.pdf
2015年4月、文部科学省はネカト対策組織として科学技術・学術政策局・人材政策課に研究公正推進室を設置した。この研究公正推進室の人件費・活動費・施設費などもろもろを合算した経費を1億円としよう。このような組織は他省庁にはない。他省庁では関連部署が業務の一部としてネカト対策活動をしている。
文部科学省の「研究活動の不正行為への対応」で1億3800万円/年、研究公正推進室の経費1億円、そして、厚生労働省など他省庁のネカト経費を合算すると、日本政府のネカト経費は3億円程度だろう。一応、日本政府の毎年のネカト経費を3億円としておこう。
★【2億5千万円/5年間、文部科学省:対策:倫理教育】:2012~2017年
文部科学省は、2012年から2017年までの5年間、「大学間連携共同教育推進事業」の1つとして「研究者育成の為の行動規範教育の標準化と教育システムの全国展開(CITI Japan プロジェクト)」を助成した。目的は、大学院生の研究倫理教育をシステムとして確立するためである。
→ 大学間連携ポータル 研究者育成の為の行動規範教育の標準化と教育システムの全国展開(保存版)
CITI Japan プロジェクトの予算は2013年に5,600万円、2014年に5,500万円で、2017年3月末まで毎年少し減額され(推定)、助成される。5年間の総額を2億5千万円と試算した。
→ 研究不正の防止に向けた取組
★【162万円/1件、岡山大学:調査:画像解析】:2016年
→ 2016年7月25日記事:岡山大学が不正調査で画像解析業者に支払った金額 – warbler’s diary
岡山大学が、医学部から出された論文に対する不正疑義の調査において、論文掲載画像の加工痕跡検証(5画像)と、対となる画像の同一性検証(4組)を依頼した業者に支払った金額が開示されました。(文書20、21)
画像調査及び報告書作成費用として、株式会社イェンドレッド社に支払った金額は、162万円(税込み)であったことが判明しました。
★【300万円/毎年、名古屋大学:対策:盗用検出ソフト】:2013年以降
盗用検出ソフト・アイセンティケイトの導入で、名古屋大学は、11月末から翌年3月末の4か月で100万円の支出だった。単純な計算で年間300万円。
名古屋大は27日、研究論文の無断引用対策として、世界最大の学術論文データベースを活用したチェックシステムを導入すると発表した。他人の文章などを複写して別の場所に貼り付けるコピー・アンド・ペースト(コピペ)の多用が問題化する中、不正論文の未然防止に乗りだす。
データベースには、過去8年間にインターネット上に公開された320億以上のウェブページと、「ネイチャー」や「サイエンス」などの科学誌や出版物に掲載された1億2500万本以上の論文が登録されている。このデータベースは、論文を受け付けると、1時間足らずで類似点を検出。チェックした結果をオンラインで送り返す仕組みになっている。費用は3月末までで約100万円。来年度以降も契約を更新する。大学院生を指導する教員にアクセス権限を与え、公表前に無断引用の有無をチェックする。
(「名大 論文盗用「見抜く」 世界最大データベースと提携」、中日新聞朝刊1面、2013年11月28日)
●12.【日本の場合:得する人たち】
★研究ネカト者(発覚・処分なし)
【試算1】
27歳で盗博(盗用博士論文)で博士号取得した。すぐに助教に採用され、その後、大学教授になり、65歳で定年になった。この人が博士号取得できなかった場合に比べ、どれほど、金銭的に得をしたか?
年収(副収入・退職金・年金なども含めた)は、博士号取得できなかった場合に比べ、年平均300万円増加したとする。300万円×勤務年数38年=1億800万円。
博士号取得できなかった場合に比べ、増加した人生満足度・幸福度を1億円、社会的信用・評判・結婚有利による得を1億円とし、小計2億円の得。
つまり、盗博者(発覚・処分なし)は生涯に3億円の得をする。
【試算2】
発覚しクロと判定された日本の研究ネカト者は2017年に40人だった。
→ 日本のネカト・クログレイ事件一覧 | 研究倫理(ネカト)
米国に比べ、日本のネカト発覚率は低いと思われるが、米国の推定発覚率を10%とすると、発覚・処分にかかわらず、日本でネカト行為をした院生・研究者は毎年400人になる。
各人、それぞれのキャリアで得になる金額は異なる。
発覚したネカト者40人を引くと、発覚・処分なしのネカト者は 毎年360人いる。この360人が3億円得をすると、総額は、3億円×360人=1,080億円になる。
日本国民は発覚・処分なしの研究ネカト者によって、少なくとも、毎年1,080億円の損害が発生している。
試算1と試算2は、ネカト者の個人生活上の得を試算しただけである。ネカトでは、調査コスト、対策コスト、無駄になった研究費など国民の損害は他にもある。
【試算3】
出版社も得をしている。次項に記載した。
★メディア
研究ネカト報道で、テレビ・新聞が得た金銭をどう算出できるだろうか?
小保方晴子事件のような大きな事件だと、1つの事件で報道各社の総額は数百億円(?)の得でしょう。
雑誌・書籍は研究ネカト事件を一般人向けに書いた雑誌や本から、専門家向けの論文・専門書まで発行する。金銭を試算すると、出版社は、年間ウン億円(?)の得。後で試算します。
結果的に、記者も得をする。例えば、
- 粥川準二(ライター・編集者・翻訳者)
- 須田桃子(毎日新聞・科学環境部・記者)
損する人は誰? 一応、国民全体ですかね。
【試算1】:小保方晴子事件
2018年8月30日、Amazon.co.jpを「小保方晴子」で検索すると、71冊の著書がヒットした。Amazon.co.jp: 小保方晴子
小保方晴子著『あの日』(税込み1,512円)が25万部売れたとして売上高は3億7800万円だと推定される。出版社の講談社の得は50%として、1億8900万円である。
→ 小保方晴子『あの日』で印税3500万円超? 濡れ手に粟の大儲けは許されるのか | デイリー新潮
関連書籍として須田桃子著『捏造の科学者 STAP細胞事件』(文藝春秋)もたくさん売れたと思う。
出版社は1冊平均1,000万円の得として、71冊だから、7億1千万円の得と試算した。
【試算2】:研究不正
2018年8月30日、Amazon.co.jpを「研究不正」で検索すると、584冊の著書がヒットした。Amazon.co.jp: 研究不正
584冊にはネカト以外の書籍も多数含まれるが、そのまま計算する。
出版社は1冊平均1,000万円の得として、584冊だから、58億4千万円の得と試算した。
★ネカト対処者
ネカト対処を仕事にしている人は、ある意味、ネカトで得をする。
- 日本の文部科学省
- 学術出版局
- 大学・研究機関で研究ネカトに対処する人
- ネカト調査委員会の委員や事務担当者
★ネカト研究者
ネカトを研究にしている人は、ある意味、ネカトで得をする。
【専業者】
- 札野 順(東京工業大学・教授):年収1千万円以上はあるでしょう
- 山崎茂明(愛知淑徳大学人間情報学部・教授) :年収1千万円以上はあるでしょう
- 「平成28年度「研究公正高度化モデル開発支援事業」の採択課題について | 公募情報 | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構」の採択者たち9人。ネカト研究の実績があるかどうかは別にして、公式にはネカト研究で「得している」ネカト研究者である。
【兼業者】あいうえお順
- 榎木英介(近畿大学医学部・講師)
- 黒木登志夫(日本学術振興会・学術システム研究センター・顧問)
- 田中智之(京都薬科大学・教授)
なお自分のことも書いておく。.
- 白楽ロックビル:退職者なので給料はない。講義(非常勤)・講演・執筆活動で年間数~十数万円。ネカトで「得する人」とはおこがましい。お呼びでない?
★ネカト教育者(上記研究者を除く)
ネカト教育をしている人は、ある意味、ネカトで得をする。
- 学部や大学院で研究ネカトを教育する大学教授。
- ネカト研修会の講師
★ネカト関連品製造販売者
- 盗用検出ソフト会社(Turnitin, LLCなど)など。盗用検出ソフトの市場は数百億円?
★ネカト分析者
★裁判所(裁判官、弁護士)
●13.【日本の場合:損する人たち】
★文部科学省は研究ネカト大学に補助金を減額する
2017年9月15日、文部科学省「研究費の不正使用、研究活動における不正行為の防止について」の40頁に以下の文章がある。
【組織としての管理責任に対する大学等の研究機関への措置】
1 組織としての責任体制の確保
●研究活動における不正行為への対応体制の整備等に不備があることが確認された場合、文部科学省が「管理条件」を付与
●管理条件の履行が認められない場合、機関に対する「間接経費」を削減等の措置
2 迅速な調査の確保
●正当な理由なく特定不正行為に係る調査が遅れた場合、「間接経費」の削減措置
日刊工業新聞の2017年05月15日の「ニュースイッチ」に次の記事もある。
文部科学省は不正対策の徹底を大学や研究機関に求めるために罰則を設けて実行性を確保した。組織体制に不備が見つかり、文科省からの改善指示を守れない場合は間接経費を最大で15%削減。不正が見つかって調査が遅れると最大10%を減らす。間接経費は大学運営を支える重要な資金源だ。この削減は地方大学など余裕のない組織にとっては致命的となりかねない。研究不正の内部告発、“噂の深層”にどこまで労力をかける?
★【数百万円~数千万円/1件、大学:調査、負担者:日本国民、金銭収受者:ネカト調査員】
→ 2017年05月15日の「日刊工業新聞」記事:研究不正の内部告発、“噂の深層”にどこまで労力をかける?
研究不正の告発を受け、調査委員会を立ち上げると数百万円単位のコストが発生する。組織的な不正などの大型事案では調査期間が長引き、数千万円がかかるとされる。
文科省の研究不正対策の新ガイドラインでは、調査委の半数以上を外部有識者で構成することが求められている。このため、弁護士などを雇えば費用がさらにかさむ。
★【121億円/1件、理化学研究所:政府助成金、負担者:?、金銭収受者:?】2014年
2014年8月29日の読売新聞記事によると、2014年の小保方事件で、理化学研究所は、国からの補助金を121億円減額された。
文部科学省は29日に公表した2015年度の概算要求で、理化学研究所の要求額を、前年度の要求額より121億円少ない528億円にとどめた。
・・・中略・・・
前年度に認められた予算額を下回る予算要求は極めて異例。文科省は「STAPスタップ細胞の論文不正問題に伴う組織改革を最優先し、新規事業をできる限り抑えたため」と説明している。
(「理研の予算要求、2割減額528億円に…文科省」、2014年8月29日 Yomiuri Shimbun)
121億円は税金が原資である。この場合、誰が負担者で、誰が金銭収受者なのだろう? 他の研究所が121億円を受け取ったのだろうか?
●14.【本ブログの損害額改訂】
★損害額:今回改訂
本ブログの途中から、損害額を記入ししていたが、今回改訂した(2018年8月x日以降の記事で、「国民の損害額」とした)。
世界は金銭レート・制度はさまざまだが、「ギャモンの2013年論文」が米国のネカト・コストをある程度計算している。その額を参考に日本の制度・金額に合わせた。
→ 7-17.研究ネカトのコスト | 研究倫理(ネカト)
- Research misconduct oversight: defining case costs.
Gammon E, Franzini L.
J Health Care Finance. 2013 Winter;40(2):75-99.
損害額は国民が損する金額という立場を明確にし、「国民の損害額」とした。政府や大学が負担した金額は、結局、国民の税金が主たる財源である。また、裁判で健康被害者に支払うよう判定された賠償金も、国民がその金額の健康被害を受けたことなので、加えた。
【国民の損害額:改訂後】
国民の損害額:総額(推定)はxx億xx万円。内訳 ↓
- ①研究者になるまで5千万円。研究者を辞めていなければ損害額は0円。
- ②大学・研究機関が研究者にかかる経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。在職年収x4500万円=国民の損害額。研究者を辞めていなければ損害額は0円。
- ③外部研究費。外部研究費の助成を受けた研究でネカトをした場合、その研究費が無駄になる。実際に受給していても、判明しないときは0円または推定額とする。
- ④調査経費。第一次追及の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円、研究公正局など公的機関は1件200万円、学術出版局は1件の学術誌あたり100万円とした。小計で1,600万円
- ⑤裁判経費は2千万円。裁判がなければ損害額は0円。
- ⑥論文撤回は共著者がいれば1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。
- ⑦アカハラ・セクハラは、被害者1人当たり1,000万円。
- ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
- ⑨健康被害:裁判でxx億円の賠償額と示されれば、損害額をxx億円とした。死亡者がいる場合で損害額が不明な場合、1人1億円とした。不明の場合は損害額を0円とする。
- ⑩損害額(大雑把)の場合:盗博をした政治家・学長は、その国と政界・大学の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界を腐敗させた。普通の国の現職大統領・首相は1000億円、閣僚または学長は100億円、知事または議員は10億円(大雑把)。
【改訂前と改訂の根拠】
- ①研究者になるまで5千万円(変更なし)。
大学・学部卒業後、研究博士号(PhD)を取得するまで大学院5年間、政府が負担した金額(含・教育研究費、院生給与、大学設備費、教授給与など)。院生本人が支払った授業料などは含まない。研究者を辞めても研究博士号(PhD)ははく奪されないが、5千万円の投資は無駄になる。また、研究博士号(PhD)を取得せず、医師免許(MD)で研究者になる人もいるが、研究者を辞めれば5千万円相当額が無駄になるとした。 - ②大学・研究機関が1人の研究者にかかる経費(給与・学内研究費・施設費など)を年間2000万円とした( 4500万円に変更)。
「ギャモンの2013年論文」によると、公立医科大学(public medical schools)の基礎科学(研究博士号(PhD)所持者)の正教授で平均年収は187,500ドル(約1875万円)となり、給与以外のサービスやお金(benefits)が21%なので、その分を足すと、2,269万円となる。また、大学は研究者に年俸を払うだけでなく、研究費・研究室・実験室・コンピュータ・図書館・駐車場など共用部分のスペース・備品・維持費を負担している。それを年俸と同額と考え、1人の研究者にかかる経費は2,269万円の2倍=4518万円≒4500万円とした。
勿論、この額は臨床医学ではもっと高いが、文系ではもっと低い。また、助教授・準教授はもっと低い。しかし、区別せず一律に適用した。
なお、日本との整合性は名古屋大学を例に試算した。2016年度の外部研究費を除く収入は766億円(運営交付金317万円+学生納付金87億円+病院収入362億円)である(http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/upload_images/financial-report_2017.pdf)。教員数は教授665・准教授504・常勤講師161・助教396=1726人である(https://passnavi.evidus.com/search_univ/0490/campus.html)。766億円÷1726人=4,438万円。4500万円は日本でも同等の額だ。 - ③院生の損害が1人1000万円とした(変更:項目を削除)。
院生の損害は算出しにくいので、項目を削除した - ④外部研究費は(変更なし)。
外部研究費の助成を受けた研究でネカトをした場合、その研究費が無駄になる。しかし、ほとんどの場合、外部研究費の額を特定することは困難である。従来のように判明した時のみ記入する。 - ⑤調査経費(大学と研究公正局と学術誌出版局)が5千万円(変更)。
「ギャモンの2013年論文」を参考に、大学・研究機関の調査費用は1件1200万円、研究公正局は1件200万円とした。学術出版局は1件の学術誌あたり100万円とした。ネカトに対処する人を雇用している「J. Biol. Chem」は珍しい。
また、すべてのネカト事件には第一次追及者がいる。ネカトハンターの場合もあるが、たまたま部下・上司、仲間のネカトを見つける場合もある。この第一次追及の調査を100万円とした。 - ⑥裁判経費が2千万円(変更なし)。算出方法がわからないのでそのまま。
- ⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円(変更)。
「ギャモンの2013年論文」は、研究公正官(RIO)の費用として撤回作業1報につき237ドル(約2万3700円)としているが、その他の損害もある。共著者になっていた研究者に非はないのだが、論文業績が減ってしまい、共著者を支えた公的資金が無駄になる。また、大学の依頼なしに、学術誌側の調査で撤回することもあり、学術誌側の損害もある。
それで、共著者がいれば、人数によらず、論文撤回1報当たり1000万円、共著者がいなければ1報当たり100万円とした - ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円(変更)。
1件のネカト事件でネカト行為者が特定されるまで、周囲の研究者も調査される。その損害がある。また、ネカト事件に巻き込まれた共同研究者の損害、研究者が研究に対する不信感を抱くなど、金銭に換算しにくい。さらに、研究者だけでなく、国民の学術界への不信感の増大も大きい。算出方法がわからないので、1億円とした。 - ⑨損害額(当てずっぽう)の場合:盗博をした政治家は、その国と政界の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界を腐敗させた。普通の国の現職大統領は1000億円、閣僚は100億円、知事は10億円(当てずっぽう)。
- ⑩健康被害:ファイザー社の医薬品・ガバペンチン(Gabapentin)の臨床試験データ改ざんによる健康被害者数は不明だが裁判所はファイザー社に支払うよう命じた額は約945億円である。健康被害は、裁判で賠償額が示されればその額を記載する。賠償額が示されていないが、死亡者数が判明していれば、損害額を1人1億円とするとする。死亡ではない場合、適宜算出する。
- ⑪(新設)、新版の⑦:アカハラ・セクハラは、本来、それなりの研究キャリアを積んでいけたハズで、研究者育成に公的資金(国民の税金)が投入されている。その無駄が起こるので、被害者1人当たり損害額を1,000万円とした。
●15.【白楽の感想】
《1》日本のネカト・バランスシート:下線は訂正後。
日本政府の毎年のネカト経費は3億円+4億円(池上様のコメント:AMED研究公正法務部の年間予算は4億円弱あります) 。大学のネカト研究者の経費が1億円。大学の倫理教育費が全国で1億円。大学はネカト調査に1件1,000万円を使い、全国で毎年80件調査しているとして8億円。総計、日本は国民の税金を17億円使っている。
冒頭の「ワンポイント」の人物名と数字を埋めました。■を残したまま、続けて人物名と数字を赤字で記入した。
日本は国民の税金を毎年■17億円使ってネカト対策し、国民の毎年の損害■兆円分を防いでいる。それでも、毎年■0.108兆円の損害が発生している。分析してみると、日本国民の税金で2018年の政府ネカト対策費■7億円を使ったが、■塚本圭二(文部科学省・研究公正推進室長)さんが■円、■さんが■円、・・・、もらった(ている)。今後、新たに、■さんに■千万円、■さんに■千万円、・・・、を助成すると、国民の毎年の損害は助成額の■倍以上減る。
ゴメン、ほとんど埋まりません。
皆さん、埋められました?
そして、「日本は研究ネカト大国」と世界で評価されたことによる日本国民の損害額は■1兆円です。
白楽は、1兆円、と見積もりましたが、根拠? 聞かないでください。
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「聞かないでください」と書いたが、この際、少し言おう。
「日本は研究ネカト大国」で、日本の科学技術はますます衰退する。
日本は観光に力を入れてるが、観光が主力では国は衰退する。ギリシャになってしまう。
台風で関西国際空港のほぼ全域が冠水した。地震で北海道全域が停電。豪雨で西日本は山崩れ。日本に台風、地震、豪雨は毎年くる。それなのに、防御できないオソマツな科学技術力。数十人が死んでも、国土交通大臣の首が飛ばない。
国土保全や治水工事は国の責任でしょう。江戸幕府も明治政府も国土保全や治水対策に熱心だった。3年前の2015年に鬼怒川の越水や堤防決壊し、数十人が死んでも、日本は教訓を学ばない。雨が降れば、相変わらず、堤防決壊で床下浸水。国土交通大臣の首が飛ばない。日本って、なんか、おかしくないか?
一方、膨大なカネをかけてオリンピック。はたまた、カジノ。その上、役に立たない米国の対空ミサイル購入。
観光や娯楽(スポーツ)という短期の享楽的なことにうつつを抜かし、カネを投入する。米国への追従にカネを投入する。偉い人は誰も異議を唱えない。100年の計の教育、基盤の科学技術にカネを投入しない。
「日本は研究ネカト大国」で、日本の科学技術はますます衰退する。で、1兆円。
《2》カネ・かね・金
今回は研究ネカトを金の視点で論じたが、基本的には違和感がある。
規範問題で、カネを論じるのは、本質的に違う気がする。カネではなく、研究者としてのあり方・生きざま・矜持・美学がもっと優先すべきだと思う。
しかし、現代はどう狂ってしまったのか、「世の中カネ・カネ・カネ」と、カネに最大の価値をおいている。研究者も同じでカネ・カネ・カネ。「教育は国家100年の計、科学技術は国の基盤」なのに、国も大学もカネ・カネ・カネである。
《3》得する人も多い
研究ネカト事件では、一般的に社会と研究者はネカト者の「悪」を強調するが、損得やカネで見ると、儲かる人たちがしっかりいる。
もちろん、その人たちは、自分が儲けるために研究ネカトを奨励しているわけではない。しかし、大きなネカト事件が起これば明らかに収入は増える。金銭的にはウレシイに違いない。世の中、両面があって、複雑である。
白楽もネカト研究者で、考えてみれば、現役時代は「研究ネカトでメシを食ってきた」。「他人の不幸でメシを食ってきた」ことになる。本ブログの執筆では収入はないので、現在は、金銭的な利益とは無縁だが、「人の役に立っている」という勝手な自己満足の利益を得ている。
もっとも、「他人の不幸でメシを食う」こと自体は、問題ないと考えている。さらなる不幸を回避するために人は医者や弁護士にカネを払う。医者や弁護士も「他人の不幸でメシを食っている」。
《4》文部科学省は大学を絞めつける
文部科学省はネカトで問題を起こした大学への間接経費を2017年度(?)から削減している。
→ 2017年05月15日記事:研究不正の内部告発、“噂の深層”にどこまで労力をかける?
このペナルティは如何にも「お上の発想」である。このような安易な対処は、ネカト問題の解決をゆがめてしまうだろう。おかしいと指摘する人もいる(以下)。
→ 2017年11月22日記事:「研究不正があったこと」を理由に低評価を与える国立大評価委の姿勢は間違いである – 井戸端会議・瓦版
《5》備考
① 旧版:2014年8月30日記事を2015年8月15日保存:1‐1‐4‐8.研究規範のビジネス化 | 白楽ロックビルのバイオ政治学
② 未読。閲覧有料:Pediatric Research (2015) 78, 482 doi:10.1038/pr.2015.150 「The Cost of Scientific Misconduct : Pediatric Research 」
③ 2012年、Turnitin社:True Costs of Research Misconduct、2012 iThenticate Report(PDF9ページ)
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
白楽先生
AMED研究公正法務部の年間予算は4億円弱ありますので、日本の公的機関の研究公正全体予算はもっとあると思います。