企業:血液検査(Blood tests):セラノス社(Theranos)(米)

2018年1月19日掲載。

ワンポイント:19歳の女性・エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)がベンチャー企業のセラノス社を2003年に設立し、「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」安価な検査を売りにした。ホームズはスティーブ・ジョブズの再来と絶賛され、12年後、従業員は約850人、企業評価額が約9000億円になった。しかし、2015年10月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)が診断法はねつ造だと指摘し、セラノス社は凋落した。こんな怪しげな検査法に人々はどうして巨額の投資をしたのか? 損害額の総額(推定)は約700億円。

【追記】
・2021年12月10日記事: Elizabeth Holmes Trial: Whatever Its Verdict, Jury Deserves Respect – Bloomberg
・2021年11月25日記事:セラノス創業者のエリザベス・ホームズは、裁判で「責任回避」の発言に終始した | WIRED.jp
・2021年9月16日記事:詐欺会社セラノスの「火の車」の実態、週に2億円以上の損失 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
・2021年9月9日記事:米セラノスの詐欺事件で初公判、血液検査で「うそをつき不正をした」と検察 – BBCニュース
・2021年9月8日記事:The next Theranos should be shortable
・2021年2月26日出版:『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』ジョン・キャリールー (著)、関 美和 (翻訳)、櫻井 祐子 (翻訳)。集英社
・2018年9月5日記事:血液ベンチャーのセラノス、正式に解散へ=WSJ | ロイター
・2018年5月14日記事:A biotech company’s blood test proves too good to be true | Books, Et Al.

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

血液検査ベンチャー企業である米国のセラノス社(Theranos)が起こした研究データねつ造・改ざん(と思われる)事件である。

19歳の女性・エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)が2003年、カリフォルニア州のパロアルト (Palo Alto)にセラノス社を設立した。

セールスポイントは、自社で開発したエジソンという小型診断器を使い、「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」安価な検査法を開発したとのことである。この宣伝で、巨額(7億ドル、約700億円)の資金調達に成功した。

ホームズはスティーブ・ジョブズの再来と絶賛され、セラノス社は、2015年に、従業員が約850人、企業評価額が90億ドル(約9000億円)という驚くほどの急成長をした。

エジソン。http://www.dailymail.co.uk/news/article-3776888/Award-winning-scientist-struggling-make-Theranos-blood-test-machines-work-committed-suicide-amid-fears-Silicon-Valley-firm-s-32-year-old-CEO-fire-claims-wife.html

2015年10月16日、ところが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)が「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」はねつ造だと、セラノス社の急所を記事で暴露した。

ホームズ社長は反論したが、「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」に懐疑的な事実が次々と報道され、多くのメディアが報道した。まるで小保方晴子事件のようである。

そして、セラノス社は急速に凋落した。

しかし、2018年1月13日現在、倒産していない。

方針を血液検査からジカ熱感染を探知する装置の製造に切り替えた。ホームズとセラノス社は不死鳥のようによみがえるかもしれない。

この事件の日本語解説記事はたくさんある。白楽が新たに記事としてまとめる必要がないほどある。

セラノス社(Theranos)。写真出典

  • 国:米国
  • 集団名:セラノス社
  • 集団名(英語):Theranos
  • ウェブサイト(英語):https://www.theranos.com/
  • 集団の概要:スタンフォード大学1年生で化学工学を中退した19歳の女性・エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)が2003年、カリフォルニア州のパロアルト (Palo Alto)に設立した血液検査企業。「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」という売りで、最盛期には、従業員が約850人、企業評価額が90億ドル(約9000億円)になった。
  • 事件の首謀者:エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)社長
  • 分野:血液検査
  • 不正年:2003年。発足の最初から
  • 発覚年:2015年10月
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は社員のタイラー・シュルツ(Tyler Shultz)で、シュルツの内部告発にウォール・ストリート・ジャーナル紙のジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)が対応し、たくさんの記事を掲載した
  • ステップ2(メディア): 「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)、その他大勢のニュースメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①米国・食品医薬品局。②連邦機関のメディケア&メディケイド・サービスセンター(CMS)。③FBI。④裁判所
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:論文でのねつ造はない。投資話での技術データのねつ造である
  • 被害(者):多くの投資家がだまされた。健康被害者や死者はいない
  • 損害額:総額(推定)は約700億円。調達した約700億円の資金が全部無に帰したとして
  • 結末:会社は倒産していないが、凋落した。刑事事件になるでしょう(推定)

●2.【日本語の解説】

日本語の解説は多数ある。それらを「修正」引用する。写真は記事中の写真。

【動画】
「第2のスティーブ・ジョブズ」と言われる女性起業家エリザベス・ホームズ(日本語文字のみ)2分38秒
エンタメ&トレンディ News が2015/08/07 に公開

https://www.youtube.com/watch?v=3jSXJcxh7Ao

★2016年9月23日:渡辺千賀(わたなべ・ちか)の読売新聞記事、「「大成功」ある米ベンチャーの大嘘と破綻」

出典 → ココ(保存版)

2003年にスタンフォード大学を1年でドロップアウトしたエリザベス・ホームズが19歳で起業。「1滴の血液でどんな血液検査をも可能にする」とうたって、これまでに7億ドル、約700億円近くを調達してきた(1ドル100円で換算)

調査報道でピュリツァー賞を2度受賞したウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者が、半年にわたる綿密な取材を経てセラノスの告発記事を昨年10月に同紙に載せたことで、事態は一変した。

記事の内容は、セラノスが自社のエジソンを利用しているのはごく一部の血液検査だけで、それ以外は競合他社が市販する診断器を使っており、しかも指先で採取した少量の血を薄めて検査しているため結果の信頼性が低い、という衝撃的なものだった。

その後、政府各種機関の調査が行われ、検査の不正が確認されたため、セラノスの検査センターは検査施設の許認可が取り消され、全て閉鎖。ホームズは2年間医療検査会社で働いてはならないという禁止命令まで出された(セラノスはこの勤務禁止命令処分に対し、現在反対提訴中であるが)。

その後の調べで「セラノスは、投資家に全く技術の中身を開示しないまま投資を受けていた」という驚くべき事実も判明した。これもまた極めて異例なことである。しかも、投資家への説明はおろか、学会誌への発表すらセラノスは全くしていない。医療では、たとえベンチャーであっても医学会からの信用が重要であり、そのために研究者・専門家によるピアレビュー(査読)を受けて論文を発表するのが一般的だ。しかしセラノスに限っては、肝心要の情報がブラックボックスのまま何百億円も出す投資家が登場したのである。

★2016年10月12日:コニー・ロイゾス(Connie Loizos)(翻訳:滑川海彦)の記事、「ヘッジファンドが医療スタートアップのTheranosを訴える―「虚偽、重大な説明の誤り」と主張」

出典 → ココ(保存版)

サンフランシスコに本拠を置くヘッジファンドのPartner Fund Management (PFM)は、 2014年に9600万ドルを血液検査スタートアップのTheranosに出資したと報じられているが、昨日(米国時間9/10)、同社はTheranosとそのファウンダー、エリザベス・ホームズを訴えたことが明らかになった。

PFMは「ホームズと他の経営幹部はPFMに対して『Theranosが独自に所有権を有し、有効に稼働するテクノロジーを開発した』という明白極まる虚偽を告げた」としている。

★2016年12月6日:ニック・ビルトン(Nick Bilton)(翻訳:Taizo Horikomi)、「ジョブズになり損ねた女:DNA検査の寵児、エリザベス・ホームズの墜落」

出典 → ココ(保存版)

当時のホームズを知る人物によると、セラノスのアイデア(指先から採取した1滴の血液で大量のデータを取得する)の前身となる考えにたどり着いた彼女は、スタンフォード大の複数の教授にアプローチしている。しかし彼らの多くは、化学工学を専攻する彼女に対し、有効な結果を出すことは事実上不可能であると答えた。

スタンフォード大医学部教授のフィリス・ガードナーは、筆者の取材に応じ、彼女の独創的な売り文句に対し「君のアイデアはうまく行かないと思う」と答えたと話してくれた。ガードナーが指摘するように、セラノスが正確に実施できると主張していた多くの検査において、「指先」だけで正確な結果を得ることは不可能だ。指に針を刺すと細胞が壊れ、破片などが間質液に流れ込む。この方法でも病原菌検査は可能だが、より繊細な結果を得るには、ピンを刺すだけでは信頼性が低すぎる。さらに、そんなに少量の血液からは信頼できるデータは得られない。

同社の血液検査に疑念を抱いたのは、グーグル・ヴェンチャーズだけではない。ホームズがチャニング・ロバートソンの紹介で採用した初期メンバー、イアン・ギボンズも疑問を抱く1人だった。ギボンズはケンブリッジ大学で多数の学位を取得した優秀な英国人科学者で、診断・治療のための製品開発において30年間のキャリアをもっていた。背が高くてハンサムで、赤茶色のストレートヘアと青い瞳をしたギボンズはジーンズを穿いたことすらなく、くだけた言葉と上流階級の言葉を組み合わせたような英国訛りで話した。ホームズは2005年、ギボンズをチーフサイエンティストに任命した。

ギボンズ(セラノス入社直後に癌と診断された)は、セラノスの“科学”に大量の問題があることを知る。そのなかでも何よりも明白なもののひとつが「検査結果が間違っている」というシンプルなものだった。ギボンズはすぐに、ホームズの発明はほとんど”アイデア”にすぎないと気がついたのだ。

危機管理にも余念がなかった。例えば、2012年には国防総省に対して、アフガニスタンの戦場でセラノスのテクノロジーを使うことを提案している。しかし、国防総省の専門家はすぐに、テクノロジーがまったく正確でないこと、さらに食品医薬品局(FDA)の検査を受けていないことに気づいた。。『Washington Post』によると、同省がFDAに欠陥を通知した際に、ホームズは試験プログラムに着手していた海兵隊大将のジェームズ・マティスにコンタクトしている。マティスは海兵隊を引退後、セラノスの取締役として登用された。

『WSJ』の報道によると、社員が自社の血液検査テクノロジーの精度に疑問を抱こうものなら、バルワニからメールで(あるいは直接)「すぐにやめろ」と厳しく非難されたそうだ。バルワニは、セラノスに勤務する科学者やエンジニアに、担当業務を語ることを禁じた。面接に来た就職希望者は、実際に採用されるまで仕事内容を知ることはできなかった。公の場で会社について話せば、法的措置で脅される。

パルアルトにあったセラノスのラボ。2014年撮影。PHOTOGRAPH BY DREW KELLY

セラノスが自社の品質管理チェックの結果が不安定であることを6カ月にわたって無視し、81人の患者に疑わしい試験結果を提供していたと考えられることが判明した

★2016年12月26日:藤田満美子の「日本経済新聞」記事、「米セラノス、暗雲漂う 血液検査精度に疑いの声」

出典 → ココ(保存版)

【シリコンバレー=藤田満美子】一時は企業としての評価額が1兆円を超えた血液検査ベンチャー、米セラノスの混迷が深まっている。提携関係にあったドラッグストア大手から契約違反で提訴されたほか、投資家からも複数訴訟を起こされている。売り物だった検査技術に精度の点などで問題が指摘され、信用が急低下。リストラも余儀なくされている。

セラノスを訴えたのは米ドラッグストア大手のウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス。米メディアによると、ウォルグリーンズは先月、デラウェア州の裁判所に約1億4000万ドル(約160億円)の賠償を求めて訴えを起こした。

両社提携の際、セラノスが自社の技術について虚偽の情報を提示したと主張しているという。具体的にどんな技術が問題になったかは明らかになっていない。ウォルグリーンズは2013年にセラノスと血液検査委託で提携、今年6月に提携関係を解消していた。

ほかにもセラノスは投資を集めるために同社の技術に関して虚偽の報告をしたとして、セラノスに投資したパートナー・ファンド・マネジメント(PFM)など複数の投資家からも損害賠償を求めて提訴されている。

同社は指先から血液を1滴採るだけで多様な検査ができる低価格の検査手法を開発したとして巨額の資金調達に成功。企業評価額は一時、90億ドルを超えた。

だが米規制当局は7月、検査の技術的な問題があったとしてセラノスに対し実験施設の運営停止、エリザベス・ホームズ最高経営責任者(CEO)には最低2年間医療検査事業に関与しないよう命じた。

セラノスは10月にすべての血液検査施設の閉鎖と従業員約4割の削減を発表。新たな血液検査機器開発に経営資源を集中する方針を明らかにしたが、相次ぐ訴訟で経営転換の先行きには暗雲が漂う。

●3.【事件の経過と内容】

★華々しいデビュー

19歳の女性・エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)がスタンフォード大学1年生で化学工学を中退し、2003年、カリフォルニア州のパロアルト (Palo Alto)に血液検査会社のセラノス社を設立した。

https://www.nytimes.com/2015/10/30/business/the-narrative-frays-for-theranos-and-elizabeth-holmes.html

セールスポイントは、自社で開発したエジソンという小型診断器を使い、「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」安価な検査法を開発したとのことである。

この血液検査のスタートアップ・ビジネスに将来の大発展を夢みた投資家を引き付けた。

ホームズはスティーブ・ジョブズの再来と絶賛され、巨額(7億ドル、約700億円)の資金調達に成功した。12年後の2015年、従業員が約850人、企業評価額が90億ドル(約9000億円)と大躍進した。

【動画】
「エリザベス・ホームズがセラノス社で血液検査の革命を起こした(Elizabeth Holmes revolutionizes blood testing at Theranos)」(英語)2分20秒
USA TODAYが2014/07/09 に公開

https://www.youtube.com/watch?v=2OZVxGatNFI

セラノス社従業員。https://www.glassdoor.com/Photos/Theranos-Office-Photos-IMG933121.htm

★検査法のねつ造・改ざん

タイラー・シュルツ(Tyler Shultz)は、セラノス社取締役のジョージ・シュルツ(政治家。ニクソン政権の労働長官、財務長官、レーガン政権の国務長官)の孫である。2013年、スターフォード大学の生物学科を卒業し、ホームズ社長に惹かれてセラノス社の社員になった。

タイラー・シュルツ(Tyler Shultz)、写真出典

セラノス社に入社してみると、しかし、「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」安価な検査法は完成しておらず、セラノス社の研究員が組織的に研究データのねつ造・改ざんをしていることに気が付いた。

2014年4月11日、タイラー・シュルツは、社内の研究データのねつ造・改ざんをエリザベス・ホームズ社長に内部告発した。

しかし、タイラー・シュルツは逆に、セラノス社ナンバー2のサニー・バルワニから攻撃され、辞職の道を選ぶしかない状況に追いやられた。

2015年始め、タイラー・シュルツは自分の身分を隠したまま、ウォールストリート・ジャーナルのジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)にセラノス社の内情をバラした。

ジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)。The Wall Street Journal
https://medium.com/this-week-in-startups-notes/notes-for-twist-ep-616-35013cde0649

2015年10月16日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)は綿密な取材と調査を重ね、セラノス社の「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」方法はねつ造だとの記事を掲載した。この日の記事が、最初の記事である。

カレイロウ記者は、その後、続けて何度も関連記事を、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載した。そして、多くのメディアが追従してセラノス社の記事を掲載した。

つまり、セラノス社の「1滴の血液で200種類の病気の診断ができる」安価な検査法がねつ造・改ざんだということがバレ、セラノス社は凋落していった。

2016年7月、連邦政府・医療保険当局がセラノス社の臨床検査の免許を取り消した。

2016年10月5日、セラノス社は3カ所の検査施設を閉鎖し、従業員の約40%に当たる340人を解雇した。
→ 2016年10月7日の「Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)」記事:「疑惑」のセラノス、検査施設を閉鎖へ 従業員4割を解雇 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

★再建を目指して

2017年、セラノス社は検査ラボを運営するのではなく、小型検査機器「ミニラボ」を医師や病院に売るという方向に転換した。
→ 2017年5月13日の瀧口範子記者の「日経ビジネス」記事:失墜したセラノスが見せる驚きのしぶとさ:日経ビジネスオンライン

小型検査機器「ミニラボ」。http://www.philly.com/philly/health/20160802_Vilified_startup_Theranos_seeks_second_chance_at_Philly_conference.html

2017年12月25日、セラノス社は、血液検査からジカ熱感染を探知する装置の製造に切り替え、100億円の資金調達に成功したと報じられた。エリザベス・ホームズは技術開発は鈍才だが、金集めは天才のようだ。

バイオのスタートアップ、Theranosが1億ドルの資金を借り入れることに成功した。画期的新方式の血液検査を提供するという触れ込みで登場したものの、検査結果に深刻な疑問が突きつけられて苦闘している会社に投資者が現れた。

一滴の血液だけで200種もの疾病を検査できると主張して登場したTheranosは一時、シリコンバレーの寵児となり、会社評価額90億ドルを記録した。しかし肝心の検査結果が疑わしいことが報じられて一気に転落し、いくつもの訴訟を起こされ、連邦機関による調査の対象にもなった。共同ファウンダー、CEOのエリザベス・ホームズは自社のラボに関与することを禁じられた。ラボは閉鎖され、会社はいわばピボットを余儀なくされた。Theranosは主力業務を血液検査サービスの提供からジカ熱感染を探知する装置の製造に切り替えた。

同社はこのトラブルのせいで2015年以降資金調達ができないままだった。昨夜(米国時間12/23)、ホームズは投資家に対し、「2018を通して運営を可能にする資金を確保した」と説明したという。(出典:2017年12月25日の記事: 血液検査バイオのTheranos、1億ドルの資金を借り入れ――投資会社はSoftBank傘下 | TechCrunch Japan、(保存版)、原文は2017年12月23日の「サラ・ブール(Sarah Buhr)」記者の記事、翻訳:滑川海彦

●4.【白楽の感想】

《1》なんでダマされる?

白楽は現役の時、血液中のたんぱく質を研究していた。それで、1滴の血液の数分の1の量で特殊な血液型を測定する方法を開発し、その特許を取ったことがある(全く収入はありませんでした)。

だから、1滴の血液でいろいろな病気の診断ができる安価な検査法を開発するのは、ありえる。しかし、200種類でしかも安価となると、眉唾だと思う。

いずれにせよ、画期的な検査法は、科学論文として発表されるか特許申請されるハズだ。科学論文と特許は誰でも閲覧できるし、専門家はその閲覧法を知っている。

論文や特許にする前なら、検査法の説明と実際の技術を見せてくれなければ、少なくとも白楽は信用しない。

つまり、巨額の投資をする前に、投資家はその検査法が成功した(成功する見込みが高い)裏付けや証明が必要なハズだ。ところが、この事件を追うと、多くの投資家はその検査法の真偽を確かめていなかった。なぜ確かめないのだろうか?

グーグル・ヴェンチャーズなどの賢い投資家はセラノス社の秘密主義に疑念を感じて投資しなかったとのことだ。正解である。

https://i.pinimg.com/originals/96/3b/14/963b142e7745d0cca10f8878b9898449.jpg

《2》日本の診断法開発、ホンマかいな?

日本の血液検査でもホンマかいな? という記事がある。

血液検査をするだけで、胃がんや乳がんといった患者数の多いがんはもちろん、希少ながんも含めた13種類ものがん(大腸がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、食道がん、肝臓がん、胆道がん、すい臓がん、卵巣がん、ぼうこうがん、肉腫、神経膠腫)を、ごく初期の段階で診断できるという、夢のような検査手法が実現しようとしています。最新報告によれば、がんを正しく判定できる精度は95%以上という結果が出ています。(2017年9月30日の「NHK健康ch」記事:がん検診に大革命!血液一滴で13種のがんを早期発見)、(保存版) 

2015年6月30日(火)放送「NHK クローズアップ現代+」:あなたのがん 見つけます ~超早期治療への挑戦~ – NHK クローズアップ現代+、(保存版

2015年4月10日のオムロン社の記事:少量の血液で「がん」「アルツハイマー病」を診断できる最新の技術 | はじめよう!ヘルシーライフ | オムロン ヘルスケア、(保存版

これらの記述は国民をあざむいていませんよね?

2015年6月30日(火)放送「NHK クローズアップ現代+」では、「4年後までに」とあるから、2018年1月13日現在、あと1年半で完成するってことですね。

2015年4月10日のオムロン社の記事では、記事から3年弱経過してますが、「アルツハイマー病」を診断できていませんが・・・。

本ブログの読者は、医学研究者が国民をだましてきたことをさんざん見てきた。だから、国民をだます日本の医学研究者がゴロゴロいるのは、残念ですが、現実だと認識しているでしょう。

さて、ここで、2018年1月4日に膵臓がんで70歳で亡くなったプロ野球選手・監督の星野仙一の膵臓がんを取り上げてみよう。

膵臓がんの5年生存率は9.2%です。つまり、膵臓がんと宣告された人の9割強は5年生存できない。→ 国立がん研究センター https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/treatment.html、(保存版

なぜ、これほど死亡率が高いかというと、その理由は膵臓がんを早期発見できないからです。

そして、それを裏付けるように、日本消化器病学会は、血液検査は「早期膵がんの検出にはあまり役立ちません」とある。
 膵がんを疑えば,[血液中の]腫瘍マーカーを測定します.膵がん検出のための腫瘍マーカーには,CA19-9,Span-1,Dupan-2,SLXなどがあります.膵がんでのこれらの腫瘍マーカーの陽性率は進行がんを除けば一般的に低く,2cm以下の膵がんにおけるCA19-9の陽性率は50%程度に過ぎず,早期の膵がんでは異常値を示さないことが多いので,早期膵がんの検出にはあまり役立ちません.出典:一般のみなさまへ | 日本消化器病学会、(保存版

ところが、2017年9月30日の「NHK健康ch」記事の一部分を再掲すると、「すい臓がんをごく初期の段階で診断でき、精度は95%以上」と書いてある。

NHKが医学研究者のお先棒をかついで、国民に間違った期待を抱かせていないでしょうね!

NHKが放映してくれれば、医学研究者にガバ~ッと研究費が入る。

NHKディレクターは、医学研究者に騙されていないか? 国民をだましていないか? 十分な知識と慎重な分析に基づいた科学的判断ができているのか?

セラノス社の血液検査に騙されたベンチャー投資家は、自分のお金を損するだけだから、大多数の国民は被害者にならない。投資家の自己責任である。

しかし、NHKだと、大多数の国民が被害者になる。わかってますよね、NHK。

クリントン元大統領とエリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)。http://www.breitbart.com/california/2016/04/19/theranos-feds-launch-criminal-investigation/

シンガポールの初代首相・リー・クアンユー(Lee Kuan Yew)(右)とエリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)。https://www.quora.com/Who-invested-in-Theranos

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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Theranos – Wikipedia
② ウィキペディア日本語版:Theranos – Wikipedia
③ 2016年10月12日のコニー・ロイゾス(Connie Loizos)(翻訳:滑川海彦)の「TechCrunch」記事:ヘッジファンドが医療スタートアップのTheranosを訴える―「虚偽、重大な説明の誤り」と主張 | TechCrunch Japan。、(保存版)。原文2016年10月10日:A hedge fund is now suing Theranos, citing “lies, material misstatements, and omissions” | TechCrunch、(保存版)
④ 2016年10月12日、渡辺千賀の「On Off and Beyond」記事:Theranosのその後、(保存版)
⑤ 2016年12月6日、ニック・ビルトン(Nick Bilton)(翻訳:Taizo Horikomi)の「WIRED.jp」記事:ジョブズになり損ねた女:DNA検査の寵児、エリザベス・ホームズの墜落 | WIRED.jp、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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happa3
happa3
2023年2月23日 2:58 PM

カナダ人の研究職の女性から、「Bad Blood」の本を紹介されました。びっくりすることばかりが書かれているのですが、今回、この記事の存在を知りました。それにしても、日本でこのことがあまり話題にならなかったのはなぜでしょうか?

Jiji
Jiji
2022年11月19日 9:14 AM