2014年10月1日掲載、2015年12月4日改訂、2018年2月3日改訂
ワンポイント:米国・バーモント大学医科大学院(University of Vermont College of Medicine)・教授で、内分泌学では著名な研究者だった。2000年(44歳)、研究室のテクニシャンであるウォルター・デニーノ(Walter DeNino)の大学への通報でデータねつ造・改ざんが発覚した。2002年(46歳)、バーモント大学医科大学院・調査委員会はポールマンをクロと判定した。2005年(49歳)、研究公正局もクロと判定し、初めて生涯の締め出し処分を科した。2006年(50歳)、バーモント地方裁判所は、17件の研究費申請書と10報の論文のデータねつ造・改ざんを犯した罪で刑期1年1日の刑務所刑と罰金20万ドル(約2000万円)を科した。損害額の総額(推定)は8億4200万円。研究ネカトで刑務所刑が科された世界で最初の大学教員。
この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:研究ネカトで刑務所刑の最初の人、情報量の豊富さ、透明性の高さ、第一次追及者の活躍。
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】
エリック・ポールマン(Eric T. Poehlman、写真出典)は、米国・バーモント大学医科大学院(University of Vermont College of Medicine)・教授だった。医師免許は持っていない。専門は内分泌学(ヒトの肥満と老化の内分泌学)で、200報以上の論文を発表し、著名な研究者だった。
2000年(44歳)、研究室のテクニシャンの通報によりデータねつ造・改ざんが発覚した。
2002年4月18日(46歳)、バーモント大学医科大学院・調査委員会はポールマンをクロと判定した。
2005年(49歳)、研究公正局もポールマンのクロと判定し、締め出し年数(debarment)を生涯とした。生涯の締め出し処分を受けた研究者は、2018年2月3日現在、3人しかいない。
→ 「研究公正局の締め出し年数」ランキング | 研究倫理(ネカト)
2006年(50歳)、バーモント地方裁判所は、17件の研究費申請書と10報の論文のデータねつ造・改ざんを犯した罪で刑期1年1日の刑務所刑と罰金20万ドル(約2000万円)を科した。研究ネカトで刑務所刑が科された世界で最初(もちろん米国でも最初)の大学教員となった。
スライド出典
- 国:米国
- 成長国:カナダ?
- 研究博士号(PhD)取得:カナダのラヴァル大学?
- 男女:男性
- 生年月日:1956年。誕生月日は不明。仮に1月1日とする
- 現在の年齢:70 歳
- 分野:内分泌学
- 最初の不正論文発表:1992年(36歳)
- 発覚年:2000年(44歳)
- 発覚時地位:米国・バーモント大学医科大学院・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は研究室のテクニシャンであるウォルター・デニーノ(Walter DeNino)。デニーノはバーモント大学医科大学院に公益通報した
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ:①米国・バーモント大学医科大学院・調査委員会。②米国の裁判所。~2006年。③米国・研究公正局。~2008年
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。39ページ
- 大学の透明性:実名報道で調査報告書(委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)。
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:10報。撤回論文数6報
- 時期:研究キャリアの初期から
- 損害額:総額(推定)は8億4200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が18年間=3億8千万円。③院生の損害が1人1000万円だが、損害額は②に含めた。④ネカト関連の外部研究費としてNIHと農務省から290万ドル(約2億9千万円)の研究費を受領。⑤調査経費(大学と研究公正局と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。6報撤回=1200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 職:事件後に研究職をやめた・続けられなかった(Ⅹ)。
- 処分:刑務所刑(刑期:1年間1日)。罰金20万ドル(約2000万円)。 研究公正局から生涯の締め出し処分
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1956年。誕生月日は不明。仮に1月1日とする
- 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
- 1985年(29歳):最初の論文出版。所属はカナダのラヴァル大学(Laval University)
- 1987年(31歳):米国・バーモント大学医科大学院(University of Vermont)・助教授(最初はポスドク?)
- 1993年(37歳):米国・メリーランド大学・準教授
- 1996年(40歳):バーモント大学医科大学院・教授
- 2000年(44歳):データねつ造・改ざんが発覚する
- 2001年8月1日(45歳):カナダ・モントリオール大学(University of Montreal)・教授・研究講座長(research chair)に移籍
- 2001年9月(45歳):バーモント大学医科大学院・教授を辞職
- 2002年4月18日(46歳):バーモント大学医科大学院・調査委員会はポールマンをクロと判定した
- 2004年5月(48歳):カナダ・モントリオール大学(University of Montreal)から教授職・研究講座長(research chair)をはく奪される
- 2005年1月22日(49歳):カナダ・モントリオール大学(University of Montreal)と契約が切れ辞職
- 2005年(49歳):研究公正局がクロという調査結果を公表した
- 2006年(50歳):バーモント地方裁判所により、17件の研究費申請書と10報の論文のデータねつ造・改ざんを犯した罪で刑期1年1日の刑務所刑が科された
- 2018年2月2日現在(62歳):カナダ・ケベックにあるチャンプレイン大学セント=ランバート校(Champlain College-St Lambert)のRAC programの教育アドバイザー(Pedagogical Advisor)
●3.【動画】
★【動画】
2015年12月4日時点ではアップされていたが、2018年2月2日現在、以下の動画は削除されていた。
2005年6月21日、「CBS News」記事に動画がある「Menopause Doc Fudged Data – CBS News」。ウォルター・デニーノ(Walter DeNino)がインタビューに応じている。(英語)2分28秒。
Menopause Doc Fudged Data – CBS News
●4.【日本語の解説】
★2005年07月19日:WIRED.jp.:「深刻化する、科学研究の捏造・改竄・盗用(上)」
今月18日に、かつて栄養学の研究者として名をはせたエリック・ポールマン被告(49歳)が、バーモント州の連邦裁判所で判決を言い渡されることになっている。ポールマン被告はバーモント大学医学部の教授を務めていた当時、連邦政府の助成金54万2000ドルを獲得するために研究データを捏造した。同被告は5年以下の禁固刑に処せられる可能性がある。
ポールマン被告は1992年から2000年までに、更年期障害、老化、ホルモン補助などに関する研究でデータを捏造し、連邦政府から数百万ドルの助成金を受け取った。連邦政府の研究助成金の受給資格を永久に剥奪されたのは同被告が初めてだ。
ポールマン被告は2001年にバーモント大学を退職し、捜査の最中だったにもかかわらず、モントリオール大学で年俸100万ドルの栄養学と代謝学の教授の職に就いた。モントリオール大学の職員は、ポールマン被告が起こした問題を把握していなかったと述べている。同被告は今年1月、モントリオール大学との契約が切れ、職を辞した。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経歴
1985年(29歳)、エリック・ポールマン(Eric T. Poehlman)はカナダ・ケベックにあるラヴァル大学(Laval University)に所属し、その大学のクロード・ブシャール教授(Claude Bouchard、写真出典)と共著で最初の論文を出版している。
- Influence of caffeine on the resting metabolic rate of exercise-trained and inactive subjects.
Poehlman ET, Després JP, Bessette H, Fontaine E, Tremblay A, Bouchard C.
Med Sci Sports Exerc. 1985 Dec;17(6):689-94.
1985年2月(29歳)、ポールマンはすでに研究博士号(PhD)を取得していた。推定するに、クロード・ブシャール教授が大学院の指導教授と思われる。ブシャール教授の研究室で研究博士号(PhD)を取得したに違いない。ポールマンはもともと、カナダ生まれ・育ちかもしれない。
1987年(31歳)、ポールマンは、バーモント大学医科大学院(UVM)・助教授(最初はポスドク?)に採用された。
1993年(37歳)、ボルティモアのメリーランド大学・準教授に転籍した。
1996年(40歳)、バーモント大学医科大学院・教授に転籍した。
★研究内容
ポールマンは、2000年(44歳)の事件発覚まで、約16年間にわたる研究で200報を超える論文を書き、老化に伴う物質代謝、特に閉経に伴う物質代謝とホルモンの関係について優れた研究業績を上げ、この分野の権威という評判を得た。彼の論文は、肥満の遺伝学、運動の重要性にも及んだ。
女性ホルモン。出典
一般に、ヒトは、エネルギー調節に関して、蓄積するエネルギーと消費するエネルギーの間にインバランスがある。彼の仮説は、このインバランスは加齢と共に大きくなり、特に、女性の閉経で大きくなる。
インバランスが大きくなると、筋肉量が減り、体脂肪が増える。それで、老人は肥満になりやすく、心疾患を患いやすくなる。だから物質代謝を促進するホルモンを投与すれば、インバランスが小さくなり、肥満が減少し。心疾患も減少する。この仮説は広く受け入れられ、多くの人が認めているホルモン補充療法に1つの基盤を与えた。
★不正の発覚
ニューヨーク・タイムス紙の記事(【主要情報源】③)を中心に、他の文献の内容を加味すると、以下のようだ。
ポールマンは、患者の加齢とともに、脂質の1種である低比重リポタンパク(LDL)が血液中に増加すると予想した。低比重リポタンパク(LDL)は動脈にコレステロールを沈着させる作用がある。また、加齢とともに、今度は逆に、血液中の高比重リポタンパク(HDL)が減少すると予想した。高比重リポタンパク(HDL)は肝臓にコレステロールを運び、コレステロールは肝臓で分解される。
それまでの数十年間の情況証拠は、加齢とともに脂質レベルが悪化することを支持していたので、ポールマンの仮説は学術界にすんなり受け入れられた。ポールマンは、患者の血液中の脂質を測定することで、この仮説を実証しようと考えた。
1996年(40歳)、バーモント大学医科大学院・教授に転籍し新しく研究室を主宰した。
その新しい研究室で、バーモント大学栄養学科に在学中の若い学部生・ウォルター・デニーノ(Walter F. DeNino、写真は2005年、出典)がポールマンの指導下で学部研究をまとめることになった。
ポールマンは毎日ランニングするアスリートだった。デニーノも運動好きだったので、デニーノは人生の目標とし、ポールマンを尊敬していた。
1997年秋(41歳)、デニーノは、将来、医科大学院に進学し、医師になる気持ちがあったので、4年生の時からポールマンの研究室で研究助手として働いた。そして、ポールマンに、バーモント大学を卒業後、ポールマン研究室の有給テクニシャンとして働かないかと誘われ、働くことにした。
2000年10月(44歳)、決定的なことが起こった。
デニーノ(24歳)は、患者の血液中の脂質データを論文にするよう、ポールマンに指示された。デニーノは早速、脂質データの統計分析をしたが、データはポールマンの仮説と合わなかった。ポールマンにデータを見せると、ポールマンは「患者の元データは自宅にあるから自宅に帰ってから検討するよ」と、データの電子ファイル(マイクロソフト・エクセル)を自宅に持ち帰った。
翌週、デニーノは、ポールマンから電子ファイルを返してもらった。その時、「いくつかの間違いがあったので、それを修正しておいたから、もう一度、統計分析をしてくれ」とポールマンに依頼された。
それで、デニーノは、電子ファイルを開けて、データの統計分析をし直した。すると、先週まではバラバラだったデータが、今度は全く整然としていて、仮説通りに、加齢と伴にHDL値は減少し、LDL値は増加していた。
デニーノは不思議に思い、元データの一覧表とポールマンが彼に返してくれたデータの一覧表を比較した。
1回目の血液検査と2回目の血液検査を比較すると、元データの一覧表では、多くの患者のHDL値は特定の傾向を示していなかった。しかし、ポールマンが改訂したデータ一覧表では、患者のHDL値はどれも減少していた。
デニーノは、患者の元データと比較したいので見せてほしいとポールマンに頼んだ。ポールマンの返事は、元データは見せられないということだった。この時、デニーノは、患者の元データはポールマンの自宅にはなく、なにかおかしなことをしているのではないかと疑った。
それで、再度、データ一覧表をよく調べた。すると、ポールマンに変更された数値は、ポールマンの仮説に合わなかった数値だけで、変更されなかった数値は、ポールマンの仮説に合った数値だけだった。デニーノは驚いて、何度も、データ一覧表を見直した。
2000年末(44歳)、デニーノは、バーモント大学医科大学院にポールマンのデータねつ造・改ざんを告発し、退職した。
なお、デニーノは、その後、バーモント大学医科大学院に入学し、医師免許を取得し、現在は、外科医として成功している(写真出典)。
★大学の調査
2000年12月28日(44歳)、バーモント大学医科大学院はデニーノの告発を正式に受理した。バーモント大学医科大学院はすぐに調査委員会を設置し、調査を開始した(委員長はノーマン・アルパート教授:Norman R. Alpert、写真出典)。
2001年9月(45歳)、ポールマンはバーモント大学医科大学院を退職し、事件のことを知らないカナダ・モントリオール大学(University of Montreal)・教授・研究講座長(research chair)に移籍した。
モントリオール大学広報官のマーク・チュリン(Mark Tulin)は、後に、採用時にどうしてバーモント大学医科大学院に問い合わせなかったのかとか問われ、「言えることは、私たちは、2001年8月1日にポールマンを採用し、事件を知ったのは2003年10月だったのです」と答えている(Université de Montréal in the dark about fraud)。
2002年4月18日(46歳)、バーモント大学医科大学院・調査委員会の最終調査報告書(2002年4月18日)が公表された(PDF)(下に貼り付けた)。最終調査報告書は、「ポールマンの研究ネカトは明白である」と結論した。不正は、1999年5月から2000年にかけてされていた。
なお、カナダ・モントリオール大学の対応はポールマンのネカトを知らないで2001年9月に教授・研究講座長に採用した無能さばかりでなく、教授職・研究講座長(research chair)をはく奪したのは、2003年10月に事件を知った7か月後の2004年5月である。バーモント大学医科大学院の最終調査報告書(2002年4月18日付け)の丸2年後である。そして、その上、2005年1月22日に雇用契約が切れるまでポールマンを雇用していた(契約があるので、解雇は法的に不可能、あるいは賠償金が多額だったためかもしれない)。
uvm_report
★研究公正局
2005年3月17日(49歳)、研究公正局に対し、ポールマンは、1992年から2000年の9年間、NIHの17件の研究費申請書と10報の論文に、データねつ造・改ざんがあったことを認めた。
研究公正局はポールマンの調査結果をクロと公表し、締め出し年数(debarment)を生涯とした。生涯の締め出し処分を科した最初の研究者だが、2018年2月3日現在まで、3人しかいない。
→ 「研究公正局の締め出し年数」ランキング | 研究倫理(ネカト)
★不正の内容
ポールマンはねつ造・改ざんデータを記載した研究費申請書を1992年から2000年に17件、研究費額で1,160万ドル(約11億6千万円)も申請した。全部採択されたわけではないが、NIHと農務省から290万ドル(約2億9千万円)も採択されている。また、1985~2002年の18年間の10論文でデータねつ造・改ざんをしたとされた。
どの論文のデータねつ造・改ざんなのか不明だが、データねつ造・改ざんの具体例を以下に2点示す。
→ 出典:研究公正局の所員「William C Trenkle」:Office of Research Integrity – ppt download
上記の表は総エネルギー消費量のデータ表である。測定値がないのに数値を記入した単純ねつ造が多数見られた(青色)。また、比較する数値を逆転させた逆転データ改ざんをした(赤色)。ポールマンは、結局、被験者の数を大幅に増やし、正味の効果を逆転させた(黄色)。
測定値がないのに数値を記入した単純ねつ造(青色)。比較する数値を逆転させた逆転データ改ざん(赤色)。ポールマンは、T1とT2のグルコース値をほぼ完全に逆転させる改ざんをし、実際のデータは逆なのに、グルコースレベルは年齢と共に上昇すると主張した(黄色)。
研究項目別に記載すると不正点は以下のようだ。
●老化に関する研究:
ウォルター・デニーノが告発したねつ造・改ざんデータ(上記)。1999年5月と2000年2月のNIHへの研究費申請書にねつ造・改ざんデータを使用した。
●持続的運動の代謝に対する効果の研究:
持続的運動の代謝量への影響に関する1992年の論文「Metabolism 41(9):941-948, September 1992」の表2と図4、と1994年の論文「J. Appl. Physiol. 76(6):2281-2287, June 1994」の表2で交感神経活動の指標としてのノルエピネフリンのデータを偽造した。
●閉経の長期研究:
1995年11月発表の論文「Annals of Internal Medicine 123(9):673-675, November 1, 1995」で、35人の女性の存在しない測定値をねつ造した。
●肥満に関する研究:
肥満遺伝子の研究で3件のねつ造をはじめ計16件の不正をした。
●アルツハイマー病の研究:
1992年、1994年、1995年のNIHへの研究費申請書で架空のデータをねつ造し対照実験として使用した。
●筋肉組織検査(バイオプシー):
2000年2月のNIHへの研究費申請書で検査していない筋肉組織検査のデータをねつ造した。
★裁判
2004年5月28日(48歳)、デニーノは、バーモント地方裁判所にポールマンを虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730) 違反で、「私人による代理訴訟(qui tam action)」を起こした。
2006年6月28日(50歳)、バーモント地方裁判所は、ポールマンに、NIH(つまり米国政府)研究費申請書のデータねつ造に対して、刑期1年1日の連邦政府刑務所への収監の刑罰を課した。研究ネカトで刑務所刑が科された世界で最初の大学研究者である。
政府側検察官とともに作成した有罪答弁取引では、ポールマンは1999年の54万2千ドル(約5,420万円)の研究費詐欺を認め、バーモント大学医科大学院の民事訴訟費用に対して18万ドル(約1,800万円)、デニーノに弁護士費用として1万6千ドル(約160万円)を支払うことを認めた。
政府側検察官のデビッド・カービー(David V. Kirby、写真出典)は、ポールマンはNIHだけでなく、アメリカ合衆国農務省(USDA)や国防総省からも研究費を得ていたので、政府から総額290万ドル(約2億9千万円)の研究費をだまし取ったと述べている。
「これは、政府の研究費に余裕があれば研究して欲しかった他の科学研究に、本来は配分できたお金です。研究費予算から数百万ドルが不正に吸い上げられたことになります。有罪が証明するように、このような行為は許されません」と、カービーはポールマンを批判した。
バーモント地方裁判所・裁判長・ウィリアム・セッションズ3世(William Sessions III、写真出典)は、判決文を読み上げる前に、「私は、普通、人間には犯罪をしないという抑止力があり、それが生きていく上で、重要だと思っています。この事件では特にそうだったと思います。科学界には自律的な監視システムが働いていると期待したいと思います」と述べた。
また、セッションズ裁判長は、「ポールマンは、国民の科学への信頼を裏切ったんです」とポールマンの不品行を叱責した。
ポールマンは、刑期に加えて、今後、連邦政府の研究費を取得することを永久に禁じられた。また、裁判官は、掲載編集局に論文を撤回する手紙を書くことをポールマンに命じた。
poehlman_settlement_agreement_final
★その後の人生
2007年7月(51歳)、ポールマンは1年1日の刑期を終え出所したはずである。
その後、紆余曲折があっただろうが、2014年10月1日(58歳)時点では、カナダ・ケベックにあるチャンプレイン大学セント=ランバート校(Champlain College-St Lambert)のRAC programの教育アドバイザー(Pedagogical Advisor)になっていた。生命科学の研究はしていない。
RAC programのRACはRecognition of Acquired Competenciesの略らしいけど、具体的には、ウ~ン、よくわかりません。
チャンプレイン大学セント=ランバート校(Champlain College-St Lambert)のエリック・ポールマン(右から2人目)。写真出典
2018年2月2日現在(62歳)、チャンプレイン大学セント=ランバート校(Champlain College-St Lambert)のサイトに、エリック・ポールマンが載っている(右の写真も、Eric Poehlman | Meet our Team | Champlain RAC)。
2014/04/19 に公開の【動画】・「From Recognition to Mentoring – YouTube」では、エリック・ポールマン(Eric T. Poehlman)が司会をしている。(英語)4時間9分8秒。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年2月2日現在、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、エリック・ポールマン(Eric T. Poehlman)の論文を「Eric T. Poehlman [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1996年~2005年の30論文がヒットした。
「Poehlman ET[Author]」1990~2005年の213論文がヒットした。
2018年2月2日現在、「Poehlman ET[Author] AND retracted 」で検索すると、1985~2002年の6論文が撤回されている。6論文のうち5論文は、ポールマンが第一著者である。
- Menopause, energy expenditure, and body composition.
Poehlman ET.
Acta Obstet Gynecol Scand. 2002 Jul;81(7):603-11. Review.
Retraction in: Poehlman ET. Acta Obstet Gynecol Scand. 2005 Nov;84(11):1131. - Body fat distribution, the menopause transition, and hormone replacement therapy.
Tchernof A, Poehlman ET, Després JP.
Diabetes Metab. 2000 Feb;26(1):12-20. Review.
Retraction in: Halimi S, Guillausseau PJ. Diabetes Metab. 2006 Jun;32(3):285. - Menopause-associated changes in plasma lipids, insulin-like growth factor I and blood pressure: a longitudinal study.
Poehlman ET, Toth MJ, Ades PA, Rosen CJ.
Eur J Clin Invest. 1997 Apr;27(4):322-6.
Retraction in: Poehlman ET. Eur J Clin Invest. 2005 May;35(5):350. - Changes in energy balance and body composition at menopause: a controlled longitudinal study.
Poehlman ET, Toth MJ, Gardner AW.
Ann Intern Med. 1995 Nov 1;123(9):673-5.
Retraction in: Sox HC. Ann Intern Med. 2003 Oct 21;139(8):702. - Effects of endurance training on total fat oxidation in elderly persons.
Poehlman ET, Gardner AW, Arciero PJ, Goran MI, Calles-Escandon J.
J Appl Physiol (1985). 1994 Jun;76(6):2281-7.
Retraction in: J Appl Physiol (1985). 2005 Aug;99(2):783. Poehlman ET. J Appl Physiol (1985). 2005 Aug;99(2):779. - Influence of endurance training on energy intake, norepinephrine kinetics, and metabolic rate in older individuals.
Poehlman ET, Gardner AW, Goran MI.
Metabolism. 1992 Sep;41(9):941-8.
Retraction in: Poehlman ET. Metabolism. 2005 Sep;54(9):1267. Metabolism. 2005 Sep;54(9):1268.
●7.【白楽の感想】
《1》研究ネカト者を研究職から排除し刑事処分
研究ネカトで収監された世界で最初の大学教員だが、刑期1年1日も収監されるほど突出して悪いだろうか?
本ブログで扱っている事件は、全部、研究者の事件だが、その大半(約98%)は、刑事事件化していない。
同程度の研究ネカトを犯している人がそこそこいるように思えるが、期間の長さ、研究申請額・受領額の多さ、研究成果の社会への影響度、カナダへの逃亡、捜査への非協力、証拠隠滅などで悪質度が高いとされ、研究公正局の締め出し年数(debarment)を生涯とされた。さらに、刑事事件化した。
なお、米国の研究ネカト者の大半(約99%)は、大学・研究所を辞職し(解雇ではない)、その後、教授職・研究職に就けていない。米国は研究ネカト者を研究界から排除する方針だからだ。
一方、日本では、大学・研究所を辞職・解雇されることもあるが、研究ネカト者のかなりの割合の人が、休職などの軽微な処分が科され、処分期間が終われば、教授職・研究職に復職している。なんか変だ。
日本には研究ネカト者を研究界から排除する方針がないからだ。ネカトは研究界の不正の中でも、研究の根本にかかわる不正である。研究ネカト者は、研究界の研究職に就けないようにすべきだろう。
標語:「ネカト者は学術界から追放!」
また、今後、研究ネカトを刑事処分すべきだろう。
標語:「ネカト者に刑事罰と罰金を!」
とはいえ、大学教授まで務めた人には知識・スキル・才能があり、国・社会もそこまで育てるのに巨額の投資をしている。研究界から排除するにしても、持っている知識・スキル・才能を国・社会に還元していただきたい。
ポールマンは、医師免許がないが、科学や大学教育には優れた才能があり、知識・スキル・経験も豊富である。刑務所から出所後、大学教育にたずわさっている。研究ネカト者の1つの生きる道だろう。
《2》調査不十分?
ポールマンは、1985~~2005年に200報以上の論文を発表し、1985~2002年の10論文が研究ネカト(6論文が撤回)されている。200報以上のうち10論文だけが研究ネカトとは、とても考えにくい。
調査が不十分ではないのか?
ただ、数値のねつ造・改ざんは画像の重複使用や改ざんとは異なり、生データと突き合わせないとネカトを証明できない。古い生データの保存の義務はない。もし、保存してあっても、生データ自身がねつ造・改ざんされていたら、お手上げである。
ネカト疑念があっても証明できないのが現実だろう。
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓
ーーーーーー
●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Eric Poehlman – Wikipedia, the free encyclopedia
② 研究公正局の2005年の報告:(1)Case Summary: Poehlman, Eric T. | ORI – The Office of Research Integrity、(2)Case Summary – Eric T. Poehlman | ORI – The Office of Research Integrity
③ 2006年10月22日のジェニーン・インターランディ(Jeneen Interlandi)の「New York Times」記事(事件の詳細を書いた新聞記事):An Unwelcome Discovery – New York Times
④ 2002年4月18日、バーモント大学医科大学院の最終調査報告書:The University of Vermont College of Medicine, Office of the Dean “In the Matter of Eric T. Poehlman, Ph.D. Investigation Report”. http://ori.hhs.gov/sites/default/files/uvm_report.pdf
⑤ 2005年3月17日。 バーモント地方裁判所判決プレスリリース:“Press Release – Dr. Eric T. Poehlman”. U.S. Department of Justice, United States Attorney, District of Vermont
⑥ 2005年3月21日バーモント地方裁判所の和解契約書:“Settlement Agreement and Stipulation for Entry of Judgment”. U.S. District Court for District of Vermont
⑦ 有料サイト:Rex Dalton (2005年3月24日). “Obesity expert owns up to million-dollar crime”. Nature 434 (7032): 424. doi:10.1038/434424a. PMID 15791215.
⑧ Eli Kintisch (2006年6月28日). “Poehlman Sentenced to 1 Year of Prison”. Science.
⑨Orac (2006年10月23日). “Jail for scientific misconduct? Respectful Insolence”. ScienceBlogs。 事件のブログ
⑩ 有料サイト:John E. Dahlberg and Christian C. Mahler (2006). “The Poehlman case: running away from the truth”. Science and Engineering Ethics 12 (1): 157-173. PMID 16501657. 事件の詳細を分析した学術論文
⑪ Chris B. Pascal. “Major misconduct case:Eric Poehlman Poehlman, Ph.D., University of Vermont”。 事件の要点を研究公正局の所長がまとめた発表用スライドのPDF。
⑫ 事件の要点を研究公正局の所員「William C Trenkle」がまとめた発表用スライド:Office of Research Integrity – ppt download
⑬ 旧版:2014年10月1日、2015年12月4日改訂
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント