2017年3月25日掲載。
ワンポイント:2016年?(46歳?)、論文データのねつ造・改ざんが発覚したエアランゲン大学の病理学・教授(女性)。論文が4報撤回されたが、事件内容が公表されず、ネカトの状況はほとんどわからない。
【追記】
・ 2021年1月30日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記事:Springer and the Double Dip – Science Integrity Digest
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
レギーネ・シュナイダー=シュトック(Regine Schneider-Stock、写真出典)は、ドイツのエアランゲン大学(フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク、Friedrich Alexander-University Erlangen-Nuremberg)・教授で、医師ではない。専門は病理学(実験がん病理:酸化的ストレスでの細胞とDNAのダメージ)だった。
2016年?(46歳?)、論文データのねつ造・改ざんが発覚した。
エアランゲン大学は、シュナイダー=シュトックにねつ造・改ざんがあったと発表したが、調査内容を公表していない。シュナイダー=シュトックの論文は4報撤回されたが、事件の状況はほとんどわからない。
エアランゲン大学・医学部。写真出典
- 国:ドイツ
- 成長国:
- 医師免許(MD)取得:
- 研究博士号(PhD)取得:ドイツのマクデブルク大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。最初の論文を発表した1995年を25歳とした。
- 現在の年齢:54 歳?
- 分野:病理学
- 最初の不正論文発表:2003年(33歳?)
- 発覚年:2016年?(46歳?)
- 発覚時地位:エアランゲン大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)の大学への公益通報(推定)
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①エアランゲン大学・調査委員会。②マクデブルク大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:4報撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 研究費:
- 結末:辞職してない?
●2.【経歴と経過】
経歴はほとんど不明
- 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。最初の論文を発表した1995年を25歳とした。
- 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
- 19xx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得した
- xxxx年(xx歳):ドイツのマクデブルク大学(University of Magdeburg)・教員(?)
- 2009年3月1日(39歳?):ドイツのエアランゲン大学(Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg)・教授
- 2016年?(46歳?):ネカトが発覚した
●5.【不正発覚の経緯と内容】
この事件は、状況がほとんどつかめない。ネカト発覚の経緯はわからないが、パブメドの指摘かもしれない。
大学はネカトを見つけたと「撤回監視」に述べているが、調査内容を公表していない。 新聞は記事に取りあげていない。その上、インターネット上の情報が積極的に削除された印象がある。
それで、ここのブログ記事は貧弱になる。次の数行だけである。
2016年(推定)、エアランゲン大学・調査委員会(The Commission for the Investigation of Scientific Malpractice)は、シュナイダー=シュトックの「2009年のAm J Pathol.」と「2013年のAm J Pathol.」の2論文にネカトがあったので、2論文を撤回するよう要請した。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
エアランゲン大学・調査委員会は調査の結果、「2009年のAm J Pathol.」と「2013年のAm J Pathol.」の2論文にネカトがあったとしているが、調査内容を公表していない。
つまり、上記論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。
仕方がないので、パブピアでの指摘を以下に詳しく見てみよう。
★「2009年のAm J Pathol.」論文
「2009年のAm J Pathol.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年3月24日現在、撤回されている。
- Identification of phosphorylated p38 as a novel DAPK-interacting partner during TNFalpha-induced apoptosis in colorectal tumor cells.
Bajbouj K, Poehlmann A, Kuester D, Drewes T, Haase K, Hartig R, Teller A, Kliche S, Walluscheck D, Ivanovska J, Chakilam S, Ulitzsch A, Bommhardt U, Leverkus M, Roessner A, Schneider-Stock R.
Am J Pathol. 2009 Aug;175(2):557-70. doi: 10.2353/ajpath.2009.080853.
PMID:19628771
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
2014年7月15日に、図1Cの電気泳動バンドがおかしいと、指摘された「Unregistered Submission: ( July 15th, 2014 11:25am UTC )」。おかしい点は、「6hの左と右の背景が異なる」ことだ。
「Peer 1: ( October 15th, 2014 12:42pm UTC )」が、2014年10月15日に具体的に示している。その図を以下に貼り付ける。写真ではかなり見ずらいが指摘の通りだ。つまり、細工は巧妙ということだ。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/84502AA84C69A0BAAD6812CE807ED9#fb15586
★「2013年のAm J Pathol.」論文
「2013年のAm J Pathol.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年3月24日現在、撤回されている。
- Death-associated protein kinase controls STAT3 activity in intestinal epithelial cells.
Chakilam S, Gandesiri M, Rau TT, Agaimy A, Vijayalakshmi M, Ivanovska J, Wirtz RM, Schulze-Luehrmann J, Benderska N, Wittkopf N, Chellappan A, Ruemmele P, Vieth M, Rave-Fränk M, Christiansen H, Hartmann A, Neufert C, Atreya R, Becker C, Steinberg P, Schneider-Stock R.
Am J Pathol. 2013 Mar;182(3):1005-20. doi: 10.1016/j.ajpath.2012.11.026.
PMID:23438478
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
2014年10月17日に、図8の電気泳動バンドがおかしいと、指摘された「Peer 1: ( October 17th, 2014 7:29pm UTC )」。写真ではかなり見ずらい。B図の2段目の中央に青矢印がある。この青矢印の左右は別々の実験で得たデータなのに、図では同時に行なったかのように示してある。しかし、細工は巧妙です。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E12B8D214061611B2FFA4BF4A66496#fb15665
★「Aus.J.Pharmacol.& Exp. Ther. 312, 525-36」論文(パブメドで不検出)
ネカト・ハンターのレオニッド・シュナイダーが2015年5月にドイツ語で書いた文章に、ねつ造したと思われる細胞像が掲載されていた。
「Aus.J.Pharmacol.& Exp. Ther. 312, 525-36」論文(パブメドで不検出)の図2である(上記、写真は以下のサイトから引用)。全く同じ画像が同じ画面に並んでいて、ねつ造した印象を受ける。シュナイダー=シュトックがねつ造・改ざんしたらしい。ドイツ語解読がメンドウで、白楽は正確な記述を把握していない。
→ http://www.laborjournal-archiv.de/epaper/LJ_15_05/index.html#14
ただ、これらねつ造・改ざんの主犯は、シュナイダー=シュトック自身なのか共著者なのか、情報が少なくてわからない。
●6.【論文数と撤回論文】
2017年3月24日現在、パブメド(PubMed)で、レギーネ・シュナイダー=シュトック(Regine Schneider-Stock)の論文を「Regine Schneider-Stock [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の135論文がヒットした。
135論文の内、59論文はマクデブルク大学・病理のアルバート・レスナー教授(Albert Roessner、写真出典)と共著である。
「Schneider-Stock R[Author] 」で検索すると、1995~2017年の28年間の206論文がヒットした。
2017年3月24日現在、パブメドの論文リストでは1論文が撤回されている。
- HSP90 is a key for telomerase activation and malignant transition in pheochromocytoma.
Boltze C, Lehnert H, Schneider-Stock R, Peters B, Hoang-Vu C, Roessner A.
Endocrine. 2003 Dec;22(3):193-201.
Retraction in: Boltze C, Lehnert H, Schneider-Stock R, Peters B, Hoang Vu C, Roessner A. Endocrine. 2004 Mar-Apr;23(2-3):229.
PMID:14709792
2016年12月29日の撤回監視記事(【主要情報源】②)によると、以下の3論文も撤回されている。
- Death-associated protein kinase controls STAT3 activity in intestinal epithelial cells.
Chakilam S, Gandesiri M, Rau TT, Agaimy A, Vijayalakshmi M, Ivanovska J, Wirtz RM, Schulze-Luehrmann J, Benderska N, Wittkopf N, Chellappan A, Ruemmele P, Vieth M, Rave-Fränk M, Christiansen H, Hartmann A, Neufert C, Atreya R, Becker C, Steinberg P, Schneider-Stock R.
Am J Pathol. 2013 Mar;182(3):1005-20. doi: 10.1016/j.ajpath.2012.11.026.
PMID:23438478 - Identification of phosphorylated p38 as a novel DAPK-interacting partner during TNFalpha-induced apoptosis in colorectal tumor cells.
Bajbouj K, Poehlmann A, Kuester D, Drewes T, Haase K, Hartig R, Teller A, Kliche S, Walluscheck D, Ivanovska J, Chakilam S, Ulitzsch A, Bommhardt U, Leverkus M, Roessner A, Schneider-Stock R.
Am J Pathol. 2009 Aug;175(2):557-70. doi: 10.2353/ajpath.2009.080853.
PMID:19628771 - 5-Aza-cytidine is a potent inhibitor of DNA methyltransferase 3a and induces apoptosis in HCT-116 colon cancer cells via Gadd45- and p53-dependent mechanisms.
Schneider-Stock R, Diab-Assef M, Rohrbeck A, Foltzer-Jourdainne C, Boltze C, Hartig R, Schönfeld P, Roessner A, Gali-Muhtasib H.
J Pharmacol Exp Ther. 2005 Feb;312(2):525-36.
Erratum in: J Pharmacol Exp Ther. 2015 Jun;353(3):561-2. PMID:15547111
★パブピア(PubPeer)
2017年3月24日現在、「パブピア(PubPeer)」ではレギーネ・シュナイダー=シュトック(Regine Schneider-Stock)の11論文にコメントされている:PubPeer – Results for Regine Schneider-Stock
●7.【白楽の感想】
《1》わからないこと多し
シュナイダー=シュトック事件は、エアランゲン大学が調査し、シュナイダー=シュトックにねつ造・改ざんがあったと発表したが、調査内容を公表していない。しかし、論文は4報撤回された。
パブピアの指摘によると、電気泳動バンドを切り貼りしたようだ。この切り貼りは、昔は、ねつ造・改ざんとされなかったが、現代では、データの信頼性を低下させ、ねつ造・改ざん扱いになっている。しかし、間違った結論を誘導する可能性が低いケースもある。
エアランゲン大学はシュナイダー=シュトックの論文にネカトがあったとしているが、2017年3月24日現在、シュナイダー=シュトックを解雇(辞職)していない。
マクデブルク大学・病理のアルバート・レスナー教授(Albert Roessner)が、シュナイダー=シュトックの大学院時代の指導教授のようで、共著論文が多いが(3撤回論文が共著)、レスナー教授の責任もハッキリしない。
わからないことが多く、「ネカトを防ぐ方法」はわかりません。調査が公正だったのかどうかもわかりません。
写真出典
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●8.【主要情報源】
① 研究室のサイト(保存済):Pathologie
② 2016年12月29日のヴィクトリア・スターン(Victoria Stern)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cancer researcher in Germany loses multiple papers after misconduct finding – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 「パブピア(PubPeer)」ではレギーネ・シュナイダー=シュトック(Regine Schneider-Stock)の11論文にコメントされている:PubPeer – Results for Regine Schneider-Stock
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント