ネサー・チェギニ(Nasser Chegini)(米)

2016年8月7日掲載。

ワンポイント:大学も研究公正局も、退職教授のデータねつ造・改ざん調査に意欲がわかないだろう。

【追記】
2017年8月1日、研究公正局がクロと発表した。Case Summary: Chegini, Nasser | ORI – The Office of Research Integrity
2018年7月6日、調査報告書:https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2017/08/Final-Investigation-Report_Chegini-v2.pdf
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.研究内容
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

ネサー・チェギニ(Nasser Chegini、写真出典)は、イランで生まれ育ち、英国で研究博士号(PhD)を取chegini_nasser得した。31歳の時にポスドクとして渡米し、その後、フロリダ大学医科大学院(University Florida College Medicine)・準教授になった。医師ではない。専門は細胞生物学だった。

2012年10月29日(63歳)、「撤回監視(Retraction Watch)」が、フロリダ大学医科大学院と研究公正局がチェギニの研究ネカト(改ざん)の調査をしていると報じた。ただし、この半年前の2012年4月(62歳)、チェギニはフロリダ大学医科大学院を退職していた。

2016年8月6日現在(66歳)、9論文が撤回されているが、フロリダ大学医科大学院及び研究公正局からの調査結果は発表されていない。

com-aboutフロリダ大学医科大学院(University Florida College Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:イラン
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のサウサンプトン大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1949年9月11日
  • 現在の年齢:75 歳
  • 分野:細胞生物学
  • 最初の不正論文発表:2003年(53歳)
  • 発覚年:2010年?(60歳)
  • 発覚時地位:フロリダ大学医科大学院・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。どこに通報したかも不明
  • ステップ2(メディア):撤回監視(Retraction Watch)
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌編集局。②フロリダ大学医科大学院・調査委員会、未発表。③研究公正局、未発表
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:9報撤回
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 結末:退職のため処分なし。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Nasser Chegini (born September 11, 1949), Iranian educator, reproductive endocrinologist, cell biology educator | Prabook

  • 1949年9月11日:イランのマラーイエル(Malayer)で生まれる
  • 1973年(23歳):イランのイラン国立大学(National University Iran)を卒業。学士号:細胞生物学
  • 1980年(30歳):英国のサウサンプトン大学(University Southampton)で研究博士号(PhD)取得:分子細胞生物学
  • 1980-1981年(30-31歳):英国のサウサンプトン大学でポスドク
  • 1981年12月30日(32歳):Cherry Ruth Middletonと結婚
  • 1981-1987年(31-37歳):米国のルイビル大学医科大学院(University Louisville School Medicine)・生殖内分泌研究室でポスドク
  • 1987-1988年(37-38歳):同、講師
  • 1988-1989年(38-39歳):同、助教授
  • 1989-1993年(39-43歳):米国のフロリダ大学医科大学院(University Florida College Medicine)・助教授
  • 1993年(43歳):米国のフロリダ大学医科大学院(University Florida College Medicine)・準教授
  • 2010年?(60歳):研究ネカト発覚
  • 2012年4月(62歳):フロリダ大学医科大学院を退職

Nasser Chegini2

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究公正局が調査?

不正発覚の経緯は不明である。

2012年10月29日、「撤回監視(Retraction Watch)」が、フロリダ大学医科大学院と研究公正局がチェギニの研究ネカトの調査をしていると報じた。同時に、「2010年のMol Hum Reprod.」論文が撤回されたとも報じた。

なお、チェギニは政府から約400万ドル(約4億円)の研究費を受給していた。ただ、半年前(2012年4月)にフロリダ大学医科大学院を退職している。

2014年8月29日、「撤回監視(Retraction Watch)」は、研究公正局が数年間(several years)も調査していると書いていた。

2016年8月6日現在(66歳)、研究公正局が調査しているという情報から、約4年経つが、研究公正局は何も発表していない。フロリダ大学医科大学院も何も発表していない。それで、詳細がわからない。

★「2010年のMol Hum Reprod.」論文

以下の「2010年のMol Hum Reprod.」論文が最初に撤回された論文である。

撤回理由は、図1、3、4が改ざんされたとのことだ。

以下に図1、3、4を順に示した(出典:microRNA 21: response to hormonal therapies and regulatory function in leiomyoma, transformed leiomyoma and leiomyosarcoma cells)。

gap09301
図1
gap09303
図3
gap09304
図4

図1と4は棒グラフなので、棒の高さを改ざんするのは容易だ。ただし、図を見てもどこが改ざんされたのかわからない。

2番目に示した図3はウェスタンブロット像である。図を見ていても、やはり、どこが改ざんされたのかわからない。

●6.【論文数と撤回論文】

2016年8月6日現在、パブメド(PubMed)で、ネサー・チェギニ(Nasser Chegini)の論文を「Nasser Chegini [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2012年の11年間の53論文がヒットした。

「Chegini N[Author] 」で検索すると、1979~2012年の34年間の181論文がヒットした。

2016年8月6日現在、9論文が撤回されている。

最新の「2010年のMol Hum Reprod」論文が2012年に撤回。

最古の「2003年のJ Clin Endocrinol Metab」論文が2015年に撤回。

●7.【白楽の感想】

《1》研究公正局と大学と学術誌

研究公正局(政府組織)は、調査し、改ざんと判定し、数年間の締め出し処分を科したところで、チェギニ本人は既にリタイアしているので、どのみち、研究費の申請はない。学術界から排除する処分を科しても、すでにリタイアしてので、学術界にすでにいない。

大学は、すでに退職している教授の論文を調査し、改ざんと判定しても、解雇して新たな教授を雇えるわけでもない。名誉も回復するわけではない。ヒト・カネ・時間の無駄と感じるだろう。

研究公正局と大学は、退職教授(つまりチェギニ)のデータねつ造・改ざん調査に意欲がわかないだろう。

ただ、学術誌(民間組織)は、改ざんデータの論文を自分の学術誌に掲載しておくわけにはいかない。不良品を売り続けることになるからだ。

それで、「撤回」マークをつけるためにも、論文が研究ネカトかどうか、シロクロをつけなくてはならない。学術誌は無報酬でこのややこしい作業をこなさなければならない。

なんか、ヘンだなあ。

《2》院生等はどうした?

Nasser Chegini9論文が撤回されているが、すべてチェギニが最後著者である。院生等(含・ポスドク・研究員)が実験データを出し、チェギニが論文を執筆したのだろう。その執筆時に、チェギニがデータを改ざんしたのだろう。

この場合、実験データを出した院生等が論文のデータと自分のデータが異なることに、どうして気が付かなかったのだろうか? 院生等は、自分が著者になった論文が出版されたら、うれしくて、穴のあくほどしっかり読む。それで、気が付かない?

イヤ、気が付いたハズだ。

気が付いたけど、多くの院生等は、研究ネカトだと申し立てなかった。申し立てれば、正義は通るけど、自分の論文が撤回されるので、大損になる。

多くの院生等は申し立てなかったけど、ごく少数が申し立てて、発覚したのだろう。

改ざんの例で示した棒グラフは、部外者には改ざんとはわからない。生データと参照する必要がある。

学術誌編集部は、申し立てを受け、チェギニに生データの提出を求めたのだろう。それを、チェギニが拒否し、学術誌編集部は、改ざんがあったと判定し、論文撤回したのだろう(推定)。

多くの院生等が申し立てるシステムや文化を構築するのが研究ネカト改善の一策だと思える。しかし、どうやって? ウ~ン。

●8.【主要情報源】

① 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Nasser Chegini – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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