2022年2月26日掲載
ワンポイント:エモリー大学(Emory University)・準教授のベリュオーが2000年に出版した著書・『武装するアメリカ(Arming America)』が大きな反響を呼び、バンクロフト賞を受賞した。2002年(49歳?)、しかし、エモリー大学(Emory University)のネカト調査委員会は、書籍中にデータねつ造・改ざん、そして盗用があったと結論した。2002年(49歳?)、バンクロフト賞受賞の剥奪、大学辞職。なお、ベリュオーは再起し、2010年以降、書籍を出版している。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
マイケル・べリュオー(Michael Bellesiles、マイケル・ブリュオー、マイケル・ベルシレス、マイケル・ベレサイルス、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のエモリー大学(Emory University)・準教授で、専門は歴史学(米国近代史)だった。なお、姓の「Bellesiles」は「buh-LEELS」または「buh-LAYELS」と発音するとある。
著書は日本語に翻訳されていないが、『武装するアメリカ(Arming America)』(2000年)など16冊もある(本の表紙出典はアマゾン)。
『武装するアメリカ(Arming America)』は出版の翌2001年、アメリカの歴史に関する本としては最高の栄誉であるバンクロフト賞を受賞した。
ところが、内容に疑念が噴出し、エモリー大学(Emory University)は学外委員3人のネカト調査委員会を設置した。
2002年10月25日(金)(49歳?)、エモリー大学は、40頁のネカト調査報告書(2002年7月10日付け)を公表し、べリュオー準教授をネカトで有罪と結論した。
2002年(49歳?)、バンクロフト賞の受賞は剥奪された。
2002年12月31日(49歳?)、べリュオーはエモリー大学・準教授を辞職した。
エモリー大学(Emory University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:カリフォルニア大学アーバイン校
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1953年1月1日生まれとする。1975年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
- 現在の年齢:71 歳?
- 分野:歴史学
- 不正論文発表:2000年(47歳?)
- 発覚年:2000年(47歳?)
- 発覚時地位:エモリー大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。多数の歴史学者が追及
- ステップ2(メディア):「New York Times」、「Inside Higher Ed」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①エモリー大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://www.emory.edu/news/Releases//Final_Report.pdf
- 大学の透明性:実名報道で調査報告書(委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)
- 不正:ねつ造・改ざん、盗用
- 不正論文数:著書1冊
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)。8年後再起
- 処分:バンクロフト賞・受賞の剥奪
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1953年1月1日生まれとする。1975年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
- 1975年(22歳?):カリフォルニア大学サンタクルーズ校(University of California–Santa Cruz)で学士号取得
- 1986年(33歳?):カリフォルニア大学アーバイン校(University of California at Irvine)で研究博士号(PhD)を取得
- xxxx年(xx歳):エモリー大学(Emory University)・準教授
- 2000年(47歳?):後で問題視される著書・『武装するアメリカ(Arming America)』出版
- 2001年(48歳?):『武装するアメリカ(Arming America)』がバンクロフト賞を受賞:Bancroft Prize – Wikipedia
- 2002年(49歳?):著書・『武装するアメリカ(Arming America)』が問題視される
- 2002年(49歳?):バンクロフト賞・受賞が剥奪
- 2002年12月31日(49歳?):エモリー大学(Emory University)・準教授を辞職
- xxxx年(xx歳):トリニティ大学(Trinity College)・客員教授
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
12分55秒頃、「マイケル・ブリュオー」と紹介。
インタビュー動画:「Inventing Equality: Reconstructing the Constitution in the Aftermath of the Civil War – YouTube」(英語)36分30秒。
US National Archivesチャンネル登録者数 32.2万人が2021/01/22 にライブ配信
【動画2】
「マイケル・べリュオー」と紹介。
声だけ。動かない動画:「IEpisode 200: Michael Bellesiles – YouTube」(英語)1時間26分21秒。
Colin Woodward チャンネル登録者数 322人が2021/04/17 に公開
【動画3】
23分15秒頃に登場。「マイケル・べリュオー」と紹介。
バンクロフト賞受賞式の動画:「Bancroft Prize in American History and Diplomacy」(英語)50分06秒。以下をクリック
https://www.c-span.org/video/?163963-1/bancroft-prize-american-history-diplomacy
【動画4】
「マイケル・ベレサイルス」と紹介。
著書の紹介動画:「”Arming America: The Origins of a National Gun Culture” – Banned Books Week 2021 – YouTube」(英語)2分51秒。
J. Willard Marriott Library チャンネル登録者数 1060人が2021/09/23に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経緯
2000年(47歳?)、べリュオーは日本語に翻訳されていないが、『武装するアメリカ(Arming America)』(2000年)を出版した(本の表紙出典はアマゾン)。
べリュオーの著書『武装するアメリカ(Arming America)』(2000年)は、初期のアメリカ人は銃器を大量には所有・使用していなかったと記述し、注目を集めた。
銃器は希少で高価なので、米国のほとんどの家庭は持っていなかった。狩猟は、射撃ではなく、主に罠を使用していた。
べリュオーは、すべての主張の根拠としてたくさんの情報源を引用したが、インタビューで言及した部分や歴史家が強調した部分などの最も重要な個所と統計的証拠が、彼の主張の主な根拠だった。
2001年(48歳?)、『武装するアメリカ(Arming America)』はアメリカの歴史に関する本としては最高の栄誉であるバンクロフト賞を受賞した。 → Bancroft Prize – Wikipedia
バンクロフト賞:外交、もしくは南北アメリカの歴史をテーマとした書籍で、その前年に初版が刊行されたものが対象で、毎年2名に対して授与される。同賞は、当該分野を対象としたものとしては最も権威ある賞とされている。(バンクロフト賞 – Wikipedia)
2002年2月(49歳?)、ところが、数人の歴史学者たちは、べリュオーは重大な誤りを犯していると指摘し、エモリー大学にネカト調査委員会を立ち上げるよう促した。
エモリー大学は、ハーバード大学、プリンストン大学、シカゴ大学の3人の教授を委員に任命し、独立したネカト調査委員会を立ち上げた。
調査委員会に元データの提出求められたべリュオーは、記録のほとんどが洪水で水に浸り、文字が読めなくなったため、元データを提出できないと主張した。
しかし、文字が読めた部分の記録に、多くの「間違い」が見つかった。べリュオーは、その「間違い」に基づいて自説を主張していた。
[白楽注:「間違い」と書いたが、べリュオーは「正しい」として自説を主張したので、「ねつ造・改ざん」と思われる]。
2002年7月10日(49歳?)、ネカト調査委員会は、調査の結果、データのねつ造・改ざん、そして盗用が見つかった、と結論した。
2002年10月25日(金)(49歳?)、エモリー大学は、ネカト調査委員会 の40頁のネカト調査報告書(2002年7月10日付け)を公表し、べリュオー準教授をネカトで有罪と結論した。
以下は調査報告書(2002年7月10日付け)の冒頭部分(出典:同)。全文は40頁 → https://www.emory.edu/news/Releases//Final_Report.pdf
べリュオーは、「私はいかなる種類の証拠をねつ造したことはありません。学者としての私の責任を故意に回避したこともありません」と不正を否定した。
2002年10月25日(49歳?)、べリュオーはそれにもかかわらず、社会からの激しい攻撃を受け、評判がボロボロになったため、年末までにエモリー大学の準教授職を辞職すると発表した。
2002年(49歳?)、バンクロフト賞・受賞が剥奪された。
2002年12月31日(49歳?)、べリュオーはエモリー大学の準教授を辞職した。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
調査報告書(2002年7月10日付け)からポイントを探ろう → https://www.emory.edu/news/Releases//Final_Report.pdf
★『武装するアメリカ(Arming America)』
マイケル・べリュオー(Michael Bellesiles)の著書・『武装するアメリカ(Arming America)』(2000年)が問題視された。
ネカト調査委員会は質問を5つに絞り、それに答える形で調査し。結論を述べている。
質問1:べリュオー教授は、バーモント州ラトランド郡の検認記録に関して、「研究データの意図的なねつ造・改ざん」をしたか?
質問2:べリュオー教授は、ロードアイランド州プロビデンスの検認記録に関して、「研究データの意図的なねつ造・改ざん」をしたか?
回答:質問1と2について一緒に回答する。ねつ造・改ざんは生命科学分野などでは研究不正に該当する。しかし、歴史学分野での望ましくない研究行為とは異なる。研究データが資料と異なっていても、意図的なねつ造・改ざんだったかどうかは判断できない。べリュオー教授の事例では、調査委員が自由に使えた証拠だけでは、「研究データを意図的にねつ造・改ざんした」とは結論できなかった。しかし、べリュオー教授は学術的に非常に望ましくない行為をしたと結論する。
質問3:べリュオー教授は、サンフランシスコベイエリアの検認記録に関して、「研究データの意図的なねつ造・改ざん」をしたか?
回答:私たちの結論は、べリュオー教授がカリフォルニアでの研究を単に作りあげた(invented)とは証明できませんでした。ただし、コントラコスタ(Contra Costa)のデータを偶然発見したようだが、彼が見つけたいと思った時にこれらの文書を発見したという主張は信用できない。
質問4:べリュオー教授は、彼の著書『Arming America』の表1の数字を裏付ける検認記録に関して、「研究データの意図的なねつ造・改ざん」をしたか?
回答:白楽が省略
質問5:べリュオー教授は、検認記録または民兵国勢調査記録に関して、歴史学の研究基準・慣行から「質問1~4以外の重大な逸脱(a~c)」をしたか。
(a)彼の調査結果を注意深く文書化していない。
(b)他の人が彼の情報源、証拠、データを利用できるようにしていない。
(c)証拠または証拠の出所を偽って伝えた。」
回答:白楽が省略
――ー
回答をまとめると、
質問1と2では、記録の収集と提示、定量分析に重大な失敗と不注意はあったが、それが、意図的なねつ造・改ざんだったかどうかは判断できなかった。
質問3では、べリュオー教授が説明した時の緊張した様子から、サンフランシスコ郡の検認記録を調べたという彼の主張は信用できなかった。
質問4では、重要な表1の作成に改ざんの証拠があった。
質問5で、歴史学の研究基準・慣行に関して、べリュオー教授は3つすべての点で不十分だった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》状況
べリュオー事件はマイケル・べリュオー(Michael Bellesiles、画像出典)の『武装するアメリカ(Arming America)』(2000年)の盗用とデータねつ造・改ざん事件である。
エモリー大学が調査委員会を立ち上げ、調査結果を発表した。
22年前の事件だが、その調査報告書はウェブ上の資料になっている。紙の資料だと入手が難しい場合が多いが、ウェブ上にアップされていると、事件の状況がつかめる。
しかし、べリュオーはどうして盗用、データねつ造・改ざんをしたのだろうか?
学術論文ではなく、一般向けの著書なので、あまり厳密ではないと考えていた気がする。
この境界線を、誰がどう決め、どこに書かれているのか、白楽は、把握できていない。
《2》学術論文以外での「ねつ造・改ざん」
小説や映像は「事実」に基づいていても、「ねつ造・改ざん」だらけの「フィクション」の世界である。
「フィクション」は創作なのでストーリ―も何もかも「事実ではない」。イヤイヤ、多くの人は、「フィクション」にも「事実」を求めている。「事実ではない」としても、何らかの「事実的なこと」を求めている。
では、「ノンフィクション」はすべて、「事実」だろうか?
「ノンフィクション – Wikipedia」には次のように書いてある。
ノンフィクション(英語: non-fiction) とは、史実や記録に基づいた文章や映像などの作品。また、その形態。ドキュメンタリーやインタビューなど多肢にわたる。
「ノンフィクション」とはいえ、現実には、特定のシーンを切り取るのである種の「改ざん」である。
また、「事実」に基づいた部分の上に架空の人物・物語を加えたり、基づいたハズの「事実」を改変したりした文章・映像・作品は多い。この場合、「フィクション」に分類されるのだろうが、「フィクション」と「ノンフィクション」は定義が明確でも、現実の厳密な線引きは、ほぼ無理だと、白楽は思う。
学術界・高等教育界以外では、新聞・テレビのニュースや論評・コメント、官僚・政治家の発言などは、「事実」に拘泥する。建前上、「フィクション」なしである。
そして、『武装するアメリカ(Arming America)』は学術論文ではなく、一般向けの歴史書だと白楽は理解していた。
この場合、創造性はOKだし、むしろ、文章の読みやすさ、説得力、ストーリー展開、迫力など、知的で面白いかどうかがポイントだと思っていた。
だからこれほど、「事実」を問題視する姿勢に驚いた。
ただ、「事実」ではないのを、「事実」であるかのように書いていた。ここが問題視されたのだと思う。しかし、微妙な気がする。
日本でも、学術書ではない書籍のデータねつ造・改ざんが時々問題視されるが、どこにルールがあるのだろう、と白楽は不思議に思う。
テレビ番組も、ねつ造・改ざんがあると大騒ぎする。白楽は不思議に思う。番組を制作する行為そのものがある種の「ねつ造」で、特定のシーンを編集するのはある種の「改ざん」である。もちろん、「事実」ではないのを、「事実」であるかのようにするのはマズイが。
《3》陰謀説
べリュオー事件の記事のどこかに、『武装するアメリカ(Arming America)』(2000年)の主張が全米ライフル協会の怒りを買った、という記述があった。
ただ、そのことに言及する記事は他に見かけない。
全米ライフル協会が裏で画策してべリュオーを叩いたということはないのだろうか? そういう事実があっても、なかなか表にでないだろう。
著書の画像出典:https://www.rarebookcellar.com/pages/books/107243/michael-a-bellesiles/arming-america-the-origins-of-a-national-gun-culture
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●9.【主要情報源】
① Encyclopedia.com:Bellesiles, Michael A. | Encyclopedia.com
② ウィキペディア英語版:Arming America – Wikipedia
③ 2002年10月27日の「New York Times」記事:Author of Gun History Quits After Panel Faults Research – The New York Times
④ 2002年11月22日:Responses to the Emory Report on Michael Bellesiles | History News Network
⑤ 2010年5月19日のスコット・マクルミー(Scott McLemee)記者の「Inside Higher Ed」記事:Amazing Disgrace 、保存版
⑥ 2017年のクレイトン・クレイマー(Clayton E. Cramer)の論文:BELLESILES’S ARMING AMERICA REDUX:DOES THE GUNNING OF AMERICA REWRITE AMERICAN HISTORY TO SUIT MODERN SENSIBILITIES?
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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